神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
122回目。
「貴様が黒龍スーニャか。少しワタシの話を聞いてほしい。構わないか?」
「え? ……え、何?」
「航行ルートを変えて欲しくて──」
「あ、食べちゃった。……ごめん、今吐き出すね。なにー?」
「……」
「え……あれ? ……うわ、汚い。焼いちゃえー」
290回目。
「貴様が黒龍スーニャか。少しワタシの話を聞いてほしい。構わないか?」
「いいよー! 人間に話しかけられたの久しぶり!」
「そうか、良かった。そのだな、頼みごとがあるんだ」
「頼みごと? スーニャにできること?」
「むしろ貴様にしか」
「えい。……あれ、半分無くなっちゃった?」
312回目。
「貴様が黒龍スーニャか。少しワタシの話を聞いてほしい。構わないか?」
「えー。スーニャ今、お昼寝中だから、あとでー」
「頼む! 大事な話なんだ!」
「ダメー。……それ以上近寄ってきたら、食べちゃうから」
「構わない!」
「やったーご飯ー」
はい次──。
「……なんちゃって。今はご飯の気分じゃないから、食べないよ。それよりこっち来て」
「ぬ、おお……おおおお!?」
「静かにしてー。一緒に寝るのー」
「う……催眠……これは、脳に直接働きかけ……ぐ」
……。
ふむ。
ようやくかな?
「あーん」
「──ギ」
あ、ダメだった。
完全な拮抗状態にあると言えた。
生死の神ディモニアナタ。その眷属ルーン。そして増援に現れたもう一体の眷属。
これらの波状攻撃に対し、ヨヴゥティズルシフィは単身で対抗している。正直言って人間組の攻撃など塵にもなっていない。神に対抗し得る攻撃。仮に感情結晶のそれであっても、権能に敵うものではない。
「逃げる準備はできたかな」
「……ああ。だが、アンタは」
「己は神だよ。君達が心配しているようなことにはならない。だから後ろなんて振り向かずに、まっすぐに突き進むと良い」
アルフの出した信号。それを受けた全員の救援。
そこで見た、神々の戦い。
長身、痩せぎす。真っ黒い異装に身を包んだヨヴゥティズルシフィは、遠くから見たら黒い線が直立しているようにも見えるだろう。
手はまっすぐに上へ。
そして彼に向かう死は、すべてが返される。魔力の動きなど見えたものではなく、当然のように詠唱は無い。
「ヨヴゥティズルシフィ。一つ聞いても良いかな」
「何かな、魔王の転生体」
「君は、僕達の味方となってくれる。そう考えてもいいんだよね」
「そうだね。今回はそうだろう」
「……なら、聞かなければならない。──どうやって僕達を見つけたのかな」
落ち着いてきて、その疑念が湧いたのだろう。
ディモニアナタがアルフとレクイエムを見つけた理由はわかる。自身の領域内にぽっかりと空いた無。認識できないから認識できた、という理屈は理解できる。
だけど、ヨヴゥティズルシフィが二人を見つけ、守った──守るために認識できた理由がわからない。
「君のおかげだよ。君は死に行く
「理由になっていない。……それともやはりこの装飾品は、神の司る権能には無力なのかい?」
「ふむ。特に緊迫した状況でもないから、教えてあげても良いけれど……『聖霊の小路』は維持に魔力がかかる。どこか、余程安全な場所に繋がっているのでもない限り、早めに帰って安全を確保した方がいいだろうね」
「そ……それなら大丈夫。余程安全な場所に繋がってるから」
「そうなのかい、己の信徒。……ふむ、嘘は無いね。ならいいよ、教えてあげる」
上空からは凄まじい攻撃が降り注いでいる。
その一切を気にすることなく、ヨヴゥティズルシフィは話を始める。
「君達を防護している装飾品。神の視線を逸らすという効果を持っている。ただ、己は直線の神。己から発されるもの、己が受け取るものは、決して曲がることが無い。"逸らす"という効果においてのみ、己はこの世の法則の一部に至る装飾品で在ろうとも超えられる」
「つまり、これはしっかり機能しているけれど、ヨヴゥティズルシフィにだけは効かない、ということでいいんだね」
「そうなるね」
「……なら、安心だ。ただ、他にも効かない可能性のある神がいるのかを知りたい」
「そうだな。推測にしかならないけれど、それでもいいかい?」
構わない、と頷くレクイエム。
「まず、契約の神トゥルーファルス。かの御仁は真実を見通す力がある。ゆえに"身を隠す"効果を持つ装飾品は効果を成さないだろう。同じ理由で裁判の神エレキニカにも通じない」
「……成程。ということは、メイズタグからも逃れられない?」
「メイズタグは深理の権能を持っているけれど、秘されたものをすべて解き明かせるわけじゃない。逆に、秘匿の神ヒシカはそれを見抜けるだろう」
「確認をするけれど、ディモニアナタ、トゥナハーデン、マイダグンには無理、ということでいいんだよね。今回のような場合を除いて」
「その認識で良いだろうね。……ただ、抜錨の神と巡環の神だけは不明瞭だ。あの二つの権能はほとんど知られていない」
「抜錨と巡環……」
「質問は以上かな、魔王の転生体」
「……うん、ありがとう。それじゃ、気を付けて」
去る。
レクイエムは、まだ聞きたいことがある、という顔をしていたけれど……今ではない、と首を振って。
アルフ、レクイエムを含む全員がその場を離脱することに成功した。
「さて、もういいかな、ディモニアナタ姉さん、トゥナハーデン姉さん、フォルーン」
「ん~? 僕も兄だよねぇ。それに、君の頼みを聞いてあげたばっかりの」
「己は、敬意を払うに値する相手にしか敬称をつける気はないよ」
死の雨が止んで、三柱が降りて来る。
ディモニアナタ、トゥナハーデン、フォルーン。
ディモニアナタ以外の二柱は「眷属」なるものに扮していたけれど、神に眷属など存在しない。神の権能を真似、焦がれ、そちらへ進化した魔物は存在するが、別に神々とは関係が無い。
使徒についても同じだ。そう名乗る人間はいたが、神の力を持っているわけではない。どちらも勝手に名乗り、勝手に勘違いされただけの何か達。
今回はそれを利用したわけだが。
「はぁ、疲れた。権能勝負でヨヴに勝てるわけないって途中で気付いてからは色々考えて、でもやっぱり駄目だった」
「え、途中で気付いたんですかディモ姉。初めから無理だってわかってなかったんですか」
「ヨヴゥティズルシフィに真っ向勝負を挑むのは君くらいだよ、ディモニアナタ」
普段はそこまで仲がいいわけではないのに、ディモニアナタを弄る時だけ結託する二つを若干疎ましく思いながら、ディモニアナタは改めてヨヴゥティズルシフィを見た。
そして。
「本当に久しぶりね、引きこもり」
「いきなりのご挨拶は流石だね、異常者」
火花が散る。
敬意は払う。ただしそれはそれとして、だ。
「見ての通り、今回の戦争、己はこちら側に付かせてもらうよ」
「ママと同じ陣営じゃないってだけで負け戦じゃない。そんなことも忘れちゃったの?」
「母は人間の相手で忙しいだろう。己たちにまで目を向けることはない」
「そういうことじゃないけど、まぁいいや。……それより、ヨヴゥティズルシフィ。他の神々は来てないの? なんか今回参加率低くない?」
「己の知る所ではないけれど、確かに表立って陣営表明をする神が少ないように思う。現状、己、フォルーン、ゴルドーナ、ギギミミタタママが勇者と魔王の陣営、であっているかな」
「あってるよ。ただまぁゴルドーナはあくまで中立よりだけど」
「そして、ディモニアナタ姉さんの方が、トゥナハーデン姉さんと、マイダグン兄」
「ええ、そうです」
「……。少ないね、確かに」
神は二十五柱いる。
その内で、意思表明をしているのがたったの七柱だけ。他はトゥルーファルスやリルレルなどは関わらない宣言までしている始末。
「どうしてでしょうか。今回は特別何か条件が悪い……ということでもないように思うのですが」
「いつも通り、が出来なそう、という点では身を引く理由にはなるんじゃないかな」
「というと?」
「というとも何も、異世界の勇者だよ。ギギミミタタママが連れてきた」
「あー」
異世界の勇者。
この世界が始まって以来、一度も引き入れた事の無い存在。
勇者と魔王のシステムが敷かれてから
だから、様子見をしている……というのが正しいのだろう。
本質的に神々が損をするということはない。陣営が負けようが勝とうが損も無ければ得も無い。神々にダメージが入ることもないし、死もあり得ない。
ただ「満足できるかできないか」という、ただそれだけの話。
ゆえにディモニアナタは毎回参加する。面白いから。様子見をしていて機を逃せば、参加できずに歯噛みする、なんてことになりかねない。
フォルーンもだ。絶対に参加する。否、今までは大半の神々がそうだった。むしろヨヴゥティズルシフィは出てこない方だった。
「そんなに怖いのかな、異世界の勇者は」
「何が怖いのかは全く理解できないけどね」
「ううん、私達の権能に無い知覚でなにかを感じ取っているのでしょうか」
四柱がうんうんと唸って考える……けれど、当然答えは出ない。
「とにかく。ディモニアナタ姉さん。あなたはやりすぎにだけは注意してほしい」
「……今回のは別に、あの二人を狙ったわけじゃないし。勝手に入って来ただけだしー」
「それでも、だよ。此度も己が出てきていなかったら、あの二人は死んでいた。トゥナハーデン姉さん。あなたもだ。ディモニアナタ姉さんと同じ陣営にいること自体が珍しいのだから、ストッパーとしての役割をきちんと」
「やめてくださいディモ姉と私をセットみたいに扱うの。……まぁ、あなたの言いたいこともわかります。……本当のところ、私はディモ姉の暴走を止めるために来たので……その、一緒になって攻撃する予定ではなくて」
「フォルーン」
「僕は無理だよ。ディモニアナタの眷属として来ているんだから。これで僕が風の魔力なんか扱ってみなよ。計画総崩れだよ?」
彼らの「母」に巻き込まれる形で行っている「ロールプレイ」。
実を言えば、そう簡単に時間を戻したり対象を改変したり世界の記録を読み漁ったりができるわけではない神々からしてみれば、結構緊張するものだ。
間違えた場合の取り返しがつかない。一つの対応ミスがすべての頑張りを無に帰す。
薄氷を踏むような「ロールプレイ」は、とてもではないが楽しめるものではない。
勿論トゥナハーデンのように日常のロールプレイならば話は違うのだろう。
だけど、フォルーンは戦場でロールプレイをさせられ続けている。自分のことだけでも精一杯なのに、ディモニアナタの面倒までみなくてはいけない、というのは。
「早急にディモニアナタ姉さんを制御できる神を参加させなければなりませんね」
「そうは言うけどさ、ディモニアナタを制御できるのってノットロットとかクインテスサンセスとかでしょ」
「いえあの、アレは制御できているのではなく話が通じないからディモ姉ですら大人しく引き下がるしかないというだけで……」
「ねえ、三人とも。当人がこの場にいること忘れてない?」
答えは、やっぱり出ない。
「……とりあえずお開きでいいかな。己は……また己の領域に帰るとしよう。母には遭いたくないからね」
「ヨヴゥティズルシフィは母さんのことを災厄であるかのように言うよね」
「事実であろう?」
ヨヴゥティズルシフィは臆病者だ。臆病者で引きこもり。
だけど、その言動は大胆不敵である。
彼は「母」に
「改めて言っておこう。アレは敵だよ。己達を生み出し、人間を生み出し、否、この世とこの世全てのものを生み出して、それで砂遊びをする無邪気で邪悪な存在」
「ママを悪く言わないで、ヨヴゥティズルシフィ。ママがいなかったら私達は生まれていないんだから」
「
「ヨヴゥティズルシフィ。……今度は私とやりますか」
「そう怒らないでくれ、トゥナハーデン。己はあなたの気持ちを代弁する気はないし、神々の代表者となる気もない。ただ、アレは敵だ。泥を人形とし、その造形を好きに変える幼子に、泥人形の意思など伝わらないし、飽きれば捨て去られるだけ。気に入らなければ壊されるだけ。……そして、己達は、飽きられて捨てられ、気に入られず壊される段階の、一歩手前にまで来ている」
それは。
「それは、初耳だね。ヨヴゥティズルシフィ……その情報はどこで手に入れたのかな。母さんの性格を推測しただけだというのなら」
「己はねじ曲がった言葉は言わないよ、フォルーン。──
地面から枯れ木が突き出る。骨のような枯れ木。育つはずの無い樹。
鋭く尖ったソレは、ヨヴゥティズルシフィに突き刺さる……寸前で、止まる。
「正しい。等しく"終わり"が訪れるというのであれば、信じていた方が心が和らぐ。己はそうではないというだけだ。──気分を害してすまなかったね、トゥナハーデン姉さん」
それだけを言い残し、ヨヴゥティズルシフィは消える。
己の領域に帰ったのだろう。二次元空間という、虚構の神ライエルくらいしか干渉し得ぬその空間に引きこもられてしまっては、追いかけられる者はいない。
禍根。
傷。
「……トゥナハーデン」
「なに、ディモ姉」
「あんまり考えこまなくていいと思う。ママのやることなすこと……どうせ私達には止められないんだし。あの引きこもりの言葉に惑わされてたら、何にもできなくなっちゃう」
「ディモニアナタのは極論だけど、僕も気にしないで良いと思う派かな。ヨヴゥティズルシフィの言ったリスク、あるいは破滅の未来なんてものは、常に付きまとっていたものだ。僕からすれば、何を今更、って感じだし」
「別に、気にしてません。……ただ、ヨヴゥティズルシフィは……どこまで知っているのでしょうか、と思っただけです」
「どこまで?」
「いえ。……気にしないでください。今のは失言です」
どこまで。
そう言うのならば、トゥナハーデンこそどこまで知っているのか。
疑念は解消されない。
解消されないまま、お開きになった。
神々は──確実に、少しずつ。
「──己にできる抵抗は、これくらいかな。……あとは他の神々が、少しずつ」
少しずつ、だ。
「貴様が黒龍スーニャか。少しワタシの話を聞いてほしい。構わないか?」
「えー。スーニャこれからお昼寝するのにー」
「一瞬だけだ! 頼む!」
「んー。……まー……いいよー」
「ありがたい! 黒龍スーニャ、もうすぐ換期があるだろう? その際の航行ルートを、もう少しあちら側の方へ寄せて欲しいんだ」
「あっちー? ……わかったー」
「頼む……って、え?」
「眠いからもういいでしょー。あっちねー。はーい」
六桁で済んだのはまぁ僥倖か。
流石ルクミィ。良い運命を持っている。
「良かったね。成功だ」
「あ、ああ。……本当にスーニャは航行ルートを変えてくれるのだろうか」
「あの子忘れっぽいから、飛び立つ時にちゃんと見に行った方がいいと思う」
「そうなのか。……しかし、驚いたな。オーリに聞いていた"スーニャの意味不明な行動"、全くなかったじゃないか。ワタシを怖がらせようとしていただけか?」
「一応相手は天龍だからね」
「む……そうか。覚悟がしっかりとできていなかったのはワタシの方か。礼を言うよ、オーリ」
私にしては手厚いサポートをしている方だと思う。
成功するまで時間を戻し続ける──。スーニャ及びルクミィに対して"改変"を行わなかったのは、彼女の可能性を信じたから。
あと、ルクミィに手を加えてしまうのは「勿体ない」と思ったからだ。
もうしばらくは、この天然ものの動きを見ていたい。
「それで、どうするの? スーニャがあっさりと行けた以上、エントペーン? それともイーゥクレイムとオーティアルパ?」
「……灰龍オーティアルパだろうな」
「理由は?」
「近い」
「成程」
単純明快。良い答えだ。
ではヤーダギリ共和国に向かってまた走ろうか、としていた時だった。
「……待て。一つ聞きたい」
「なに?」
「天龍についてのほぼすべてを知っている。そう取っても構わない……という話だったな」
「うん」
「ならば教えて欲しい。
ああ。
とても良い。
「というと?」
「だから……つまり。天龍による換期。それらはこの大陸のみで行われる事象だ。そしてワタシの推測が正しいのであれば、運命の捏和はこの大陸でのみ行われていることになる。──それは、この大陸の外に広がる大洋……数個の島々を除き、その外側には
「まず、ルクミィがどう思いたいのかを聞かせて欲しい」
「それは答えのようなものだぞ、貴様。……まぁいい。……ワタシがどう思いたいのか、か。……ワタシは、世界をまっすぐに歩いて行けば、いつかは全く同じ場所に辿り着くと信じたい。世界は球体であり、端など存在しないと」
「そっか。でも、違うよ」
「……無い、のか」
そうだ。
この世界は水晶玉。そしてこの地は、「落とされ星」のような球状の場ではない。
巨大な岩石。それに乗った水と岩。生み出された植物。
朝陽の神ボーダークが太陽と月を上げて、闇夜の神アストラオフェロンがその二つを沈める。
涯からは常に海が零れ落ち、滝を形成。失われた水は魔力として再分解され、また世界へと戻る。
天龍が換期を行えるのは、ルクミィの言う通りこの世界が球体ではなく平面だからだ。
でなければたった九体の天龍に全てを任せるなんてことはしない。
「過去の歴史書を読んだことがある。幾人もの冒険者……いや、あれらは冒険家と称すべきかな。そういった者達がまだ視ぬ大地を求めて涯へと向かい、しかし激しい潮流によって押し返された、とか。あるいは……帰ってくることはなかった、とか」
「そうだね。全て真実だよ」
「……そうか」
ルクミィは、少しだけ悲しそうな顔をする。
落胆したか、世界に。
「ん、急いでいるのはワタシだというのに、ワタシが足を止めてしまっては元も子もないな。では行こう」
「よいしょ」
ルクミィの足を払って倒れさせ、横抱きにする。
その頭上を通り抜けていく矢。リコ君の時もそうだったけど、魔剣士といい狩人といい、なんでそんな時代錯誤名もの使ってるんだろ。
「わ……う、いつの間に……貴様ほどではないが、アスクメイドトリアラーも足が速いな」
「アスクメイドトリアラーじゃないよ」
白黒の羽織もの。赤い面。
こうしてちゃんと相対するのは初めてかな。毎回不意打ち気味だったし。
「偽・魔色の燕。ルクミィの因縁の相手」
「Deeps.」
でも、見間違えるのも無理はない。
やり口も詰め方も、あまりに酷似しているから。
今しがた突っ込んできた上で蹴り上げをモロに食らってぶっ飛んだ奴とか、遠くで針を構えている奴とか。
私が監獄を襲撃した時、アスクメイドトリアラーは魔色の燕を敵視していた。だから繋がっている可能性はないと思っていた……んだけど、どうにもアスクメイドトリアラーも一枚岩じゃないっぽい。
それはイルーナさん襲撃事件の時に見た世界の記録で理解している。
「魔色の燕が何用?」
「我らは依頼を受けて動く者。前期第三王女の身柄を奪還せよと言われている」
「そう。……ルクミィ、少し予定を変更してもいい?」
「構わない。やりたいことをしてくれ」
であれば、行き先変更だ。
勿論天龍の場所へも行くけれど──ここらで区切りをつけておきたい。
騎士ニギンに顎で使われてやろう。
いざ、シスタバハルア丘陵へ、ってね。
さて、偽・魔色の燕を躱しながらシスタバハルア丘陵に向かっている……のだけど。
「オーリ? 不満そうだな」
「魔色の燕を名乗るクセに、魔纏奏者がほとんどいない」
「そりゃ魔纏奏者は、技の取得難度に対して火力になるものがあまりないからだろう。精密な魔力操作が必要となるし、属性適性も大事だ」
「わかってるよ。でも」
魔纏奏者じゃないなら、尚更なんで魔色の燕を名乗っているのか。
ティアとドロシーを含め、
「加えて練度があまりにもお粗末。さっきから私、身体強化すらしてない」
「まぁ、ワタシでも倒せそうだな、とは思っていた。……魔色の燕というと、もっとえげつないイメージがあるんだがな」
「質の低下が激しい、か」
蹴り飛ばす。
騎士シルディアに示された廃墟群。その近くに在る墓地。
確かにそこへ近づくにつれて偽・魔色の燕の数が増えてきたけれど、烏合の衆も良い所だ。
指揮者がいないとこんなものなのか、まったく連係の取れていない攻撃をしてくるものだから、各個撃破が容易だった。
「今更だが、ティダニア伝統派の跡地なんかに何の用なんだ?」
「ここにティダニア王国で暗躍する魔色の燕の基地があるらしい。あるいはここを潰せば、王家への干渉も減るかも」
「……それは無理だろうな」
「どうして?」
「もう義兄さんたちは中毒の域にまで来ている。それが途中で摂取できなくなったら……国庫を動かしてでもクスリを作らせるだろう」
「そっか」
正常な判断ができなくなる段階。
騎士ニギンらがやっているクーデターが同じ理由で行われようとしているのなら、あるいは自浄作用ということになるのかな。
どこまでの洗脳を……とか考えたけど、日々の食事に薬物を混ぜ込めるくらいだから、もうほとんどなんだろう。
「あった、地下への扉」
「……ワタシは聞いたことが無いぞ。伝統派の墓地、その地下に空間がある、など」
「そう。でも、進む」
王家専用の逃走用通路、とかでもないのか。
ならここは何の目的で作られた場所なのか。そしてなんで騎士ニギンがその鍵を有していたのか。
「今だ、放て!」
「
しかしそれは阻まれた。……あ、矢ね。
背後から放たれた矢が、ルクミィの発動した風の結界に阻まれたのだ。
「いいの? あくまでルクミィは攫われてる設定じゃないと」
「アスクメイドトリアラー相手ならワタシもそうしていたが、相手が魔色の燕となれば話は別だ」
「……ま、恨みがあるもんね」
「といってもワタシはあまり攻撃系の魔法に適性が無いのだがな」
そんなあなたに魔纏奏者。
魔纏奏者の魔法は攻撃系とか防御系とかありません。攻防一体です。
まぁ扱いを間違えると攻撃も防御もできない奴になるけど。
「よーし、張り切っていくか! 偽・魔色の燕の拠点潰し!」
「敵討ちだね」
「……いやまだ義兄さんたちは死んでないぞ?」
死んだようなものでしょ、操り人形なんて。