神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「かなりできてる!」

 "魔色の燕"というのは、数千年前に私が所属していたパーティの名前である。元々私がそう呼ばれていて、パーティの名前にもなった、というのが正しいか。

 まだ戦闘職を楽しめていた時代。とりあえず前衛はダメ、後衛もダメと一通りやってみて理解して、だったら遊撃……それもシーフという職であればいけるかもしれないと思い至った頃の話。なぜいけるかもしれないと思ったかといえば、あれらは一撃必殺が基本である。つまり手加減が必要ないのだ。その上で身軽でなければいけない……回避が絶対で、「どれほど傷ついたら人が死ぬのか」のサンプルがそこまで必要じゃない。

 その時は本当に天職だと思っていた。身体能力も上げすぎなければそれなりにやっても「まぁシーフならさもありなん」という目で見られていたし、それまでの戦闘職ライフの中でもかなり長く続いたロールプレイだったように思う。

 ……問題となったのは、そのパーティが最終的に魔王討伐に組まれてしまったこと。

 パーティリーダーの正義感の強さゆえか、同時に押しに弱い部分があったがゆえか。

 とにかく私達"魔色の燕"は精鋭パーティの合同である勇者パーティに押し込まれ──全滅した。

 

 私を除いて。

 

「魔色の燕、ですか? ……うーん、聞いたことがないですね。そんな生物がいるなら見てみたいと思う一方、魔色って何色でしょうか。属性によって変わりません?」

「私も……力になれそうにないですねー。あ、でも良いインスピレーションかも。ちょっと作ってみたくなりました、魔色の燕。全属性、各色を混ぜたカラーの燕でどうでしょうか」

「……配分を間違えると油のような色味になりそうだな」

 

 やはり一般には伝わっていない。そもそも私が生き残りを知らなかったんだ、秘されていて当然というか。

 

 先日軽く世界の記録を漁ったところ、どうやらパーティリーダーと僧侶……既にあのパーティの時点でデキていた二人が生き残っていたらしく、そこから細々とパーティを続けていた、らしいのだ。いや読もうと思えば確定情報まで読めるんだけど、こう、楽しみの部分が。

 実際に会ってみて、あの二人の面影があったりするのかなー、とか。かつての私達の衣装やら陣形やらを真似ているのかなー、とか。

 そういう楽しみを先に知ってしまうのは良くない。

 

「イルーナ」

「ええ。……オーリさん」

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 二人は笑顔で。

 

「今日は私とリコティッシュさんでお店のことやっておきますから、調べ物や……あるいは会いたい人ですか? それらをご存分に見て来てください」

「いやいや、いつもの閉店時間からでも」

「僕は常に思っていました。僕やイルーナの出勤時間を気にする割に……オーリさん、一日も店を休んでいませんよね」

「それは、私の店ですし」

「だとしても休日は必要です。いいですか、オーリさん。僕もイルーナもこの店が大好きなんです。けど、オーリさんの体調不良やなんらかの懸念事項が理由で店をたたむ、なんてことになったら僕達は路頭に迷います。仮に他からお声がけがあっても進んで迷います。……ですから、今日くらいは……今日明日くらいは僕らに店を任せてみませんか?」

「加えて言うと、オーリさんが必要になるほどの依頼というのは一日納期であることは少ないですし……ね?」

 

 表情は一切変えていないし、眼球も動かしていなかった。思考も対応も普段通りを努めていた。

 それでもまま、こうして()()()()ことがある。人間の第六感という奴なのか、あるいは被創造物としてのリンクか。

 いいことだと、嬉しいことだと思うことにしている。

 

「わかりました。ではお言葉に甘えて、今日は休日とさせていただきます。店の施錠、開錠の仕方は覚えています、よね?」

「はい。一番に習ったっきり一度も使っていませんが、しっかりと」

 

 この店はその場で鍵を造って開ける、という仕組みを取っている。

 セキュリティ問題もあまり堅固にしすぎると疑われるので、これくらいの塩梅が丁度いいのだ。

 

「では行ってきます。……何か問題があった場合は、二人だけで解決しようと思わず、私の帰還を待ってくださいね」

「もう、オーリさん、私達はそこまで子供じゃないですよ」

「……そうでしたね。では行ってきます」

 

 私から見れば君達は赤子にも満たないのだけど。

 むしろ思念量を考えたら赤子の方が話通じるから……とかは余計な思考か。

 

 もう一度行ってきます、と呟き。

 コートを一着羽織って、店を出た。

 

 

 

 

 オーリ装飾品店を開いてから数年、リコ君の言う通り私は毎日出勤していたわけだから、この時間帯に街に出てくるのも久々である。

 休息を取らな過ぎるのは「逸脱」というのは学んでいたから、午後三時に閉まる代わりに毎日オープン、の形を取っていたわけだけど、それでも休まな過ぎだったか。難しい。

 

 ……さて、魔色の燕に会いに行く……にしても、どこにいるのかを探る必要がある。

 また記録を読み漁るのも勿論良いんだけど、折角知っている人がいるのならそちらに聞いた方がいいだろう。

 

 ということで。

 

「おはようございます、コトラさん」

「……オーリちゃん。まさか普通に訪ねて来るとは思っちゃいなかったよ」

「背後を取った方がよろしかったでしょうか?」

「そういう話じゃあない。……で? なんだい、今度は何の用だい? 稀代のネクロマンサーさんがさ」

「別にあれくらいのことは私でなくとも可能ですよ。全員ができるわけではありませんが」

「そうかい。……まだるっこしい話は無しにしよう。アンタが聞きたいのは『魔色の燕』についてだろう?」

「シルディアさんがお話しましたか」

「ああ。並々ならぬ感情を抱いているようだった、とね」

 

 ……まぁ、興味の点では確かに。

 生きているとは本当に思っていなかったわけだし。

 

「『魔色の燕』に関する情報は確かにアタシが握ってる。けど、ともすれば国家を揺るがしかねない重大情報だ。そういう情報は交換するのが筋ってもんだろ? ──たとえば、オーリちゃんの所属組織とかでさ」

「では、今から話す真実を受けて、あなたが情報を出し渋ったと確信した場合──私は勇者レインの"装飾"を解除いたしましょう」

「構わないよ。アタシゃ死んだ奴はしっかり楽園でぐうたら過ごしてりゃいいと思ってる派だからね」

 

 そんな楽園など存在しないが。

 ……では、プランBの真髄だ。つまり。

 

「私の所属組織こそが『魔色の燕』です。ですから、どうか教えてください。あなた方に名乗った、あるいは掴んだ『魔色の燕』なる組織は……どこの誰が舵取りをしているものですか?」

 

 架空の、現時点で私一人しかいない"組織"の影を最大限に使う──!

 嘘は言っていない。私が魔色の燕であって、あの名前の無かったパーティは二つ名持ちの私に肖ってパーティ名をそれにしただけなのだから。

 私が本家です。ええ。本当に。

 

「……驚いた。そして同時に……納得もしたよ。そうか、それなら最近の『魔色の燕』の素行にも理解が及ぶ」

「情報を出し渋るおつもりで?」

「いやいや、今のはただの独り言さ。……孫のためじゃあないけどね。いいよ、そういう理由ならこっちも()()()があるってもんだ」

 

 コトラさんはカウンターから身をずいと乗り出して、不敵に笑う。

 

「『魔色の燕』はね、今じゃ各国に煙たがられてるワイルドカードなのさ。大金を積めば傭兵に使うこともできるが、いつ裏切るかはわからない──なりふり構わなくなった国が最後の最後に頼るような傭兵集団。だから当然悪いこともする。魔王にも勝るとも劣らない悪逆非道をね」

「……本拠地はわかりますか? 潰してきます」

「それは騎士団(アタシたち)も血眼になって探してるよ。アタシたちだけじゃない、各国のそういう組織が全部動いてくまなく探して、けれど見つからない」

 

 あまり好ましい話ではない。

 つまり私の威光を使って悪逆非道を働いていると。別に悪逆非道を働いていることには何の憤りもないけれど、私の名前を使っているのがダメだ。

 独り立ちしてほしい。人間なんだから。

 

 私を笠に着るなら、神としての時だけでお願いしたい。

 

「……しかし、そうなってくると気になることができるね」

「気になること、ですか?」

「そりゃそうだろう。どうして『本物の魔色の燕』がこの国に潜入しているのか。気にならないなんてウソさ」

「あなた達にとっての『魔色の燕』がどういう集団であるかは知りませんが、本来の私達はそこまで血気盛んな組織ではありませんよ」

「はぐらかしは必要ないよ、オーリちゃん。お上だろう? 最近随分とコソコソやってるこの国の上層部……騎士団も探っちゃいるけどね、何のボロも出さない。そこで、だ」

 

 爛と輝くコトラさんの瞳。

 それは欲望の目だ。野望の目でもある。

 

「手を組まないか。本物の『魔色の燕』と騎士団が手を組めば、国家の転覆くらいワケないだろう?」

「前にも言いましたが、敵ではありませんが味方をするつもりもありません。無論、あなた達騎士団が私の手となり足となる、というのなら考えますが」

「対等どころか、傘下に加われって?」

「私達は誰を相手にしても対等だと思ったことはありませんよ」

 

 店員であるときは下手にも出よう。

 だけどこういう場での私は自由だ。今回は邪神気味と決めているから、なおさらに。

 

「……どの道アタシに騎士団の意向を決めることなんてできないからね。この話は無かったことにしようじゃないか」

「それがよろしいかと」

 

 話は終わりだ。私もコトラさんも知りたいことを知れた。

 それで充分。

 

 しかし、場所がわからないとなると……普通に漁るかぁ。

 

「最後に聞かせな、オーリちゃん」

「はい?」

「初代『魔色の燕』。つまり魔王と対等に渡り合ったと言われている『魔色の燕』の初期メンバー……。その中にいた『オーリ・ヴィーエ』ってのは、アンタかい?」

「いや何年前のことだと思ってるんですか。本人じゃないですよ。──ただまぁ、襲名している、とは言っておきましょうか」

「はン、なるほどね。ったく、こりゃ龍の尾を踏んだのはこっちだったねぇ」

 

 オーリという名にこだわりがあるわけじゃないけど、流石に何万年も人間ロールプレイしてたら名前被りくらいある。

 が、今回はいい方向に働いた。他のオーリの名も絡めて伏線扱いしていこうと思う。

 

「それでは、私はこのあたりで。……お孫さんのこと、あまり嫌わないであげてください。あなたが思っているほど、彼の心は強くなかった。それだけでしょう?」

「アンタが言うかいアンタが。わかってるよ。まだ時期じゃないってだけだ」

「そうですか。では、今度こそ失礼します」

 

 コトラ魔法薬店を出る。

 監視の目は……騎士団か。撒くのはありだけど、消えるのは無し。痕跡が残る形で且つ人間を逸脱しない感じで……。

 

 ……。

 

「騎士団の方、ですよね」

「ッ!?」

 

 良い練度だ。初めの音が聞こえた瞬間に抜剣していた。判断力まる。

 

「シルディアさんに取り次ぎ願えますか? できないのであれば自分で行きますが」

 

 さて、では落ち着いただろう今代勇者ちゃんとも対面と行こうかな。

 

 

 

 

 騎士団の詰め所、その中でも応接間……なのかどうかはわからないけど、恐らく一番豪華なのだろう部屋に通されること少し。

 毒でも薬でもないハーブティーが出されたのでそれをちまちま飲んでいると、ようやく二人が来た。

 

「ディーン殿」

「ああ、シルディアさん。ごめんなさい、突然呼び出してしまって」

「いや、構わない」

 

 テーブルの対面。

 そこに二人が座る。……身長差は結構あるけど、うん、こうしてみると絵になる二人だ。

 

「レイン・レイリーバースさん。改めまして、私はオーリ・ディーン。この都市で装飾品店を営んでいる者です」

「ええ……会いたかったわ、私の神様」

「……えっと」

「すまない、ディーン殿。レインは……彼女はあなたに蘇生されてから、ずっとこの調子で」

 

 何度も言うけれど、あなたの神様ではないです。神様ではあります。

 

 レイン・レイリーバースはうっとりとした目で私を見つめている。愛恋のそれではないことは経験則でわかるけれど、ううん、これは……変に信仰されているな。信仰心だけは伝わってくるのでありがたく頂いておくけれど。

 私の名前が伝わっていない以上、「あの広場で祈った誰か」を除けば私の信者第一号になるのかもしれない。まぁリコティッシュ君とか隠しているけどイルーナさんも似た目線を向けてきているけれど。

 

「まぁ、呼び名は何でも構いません。早速本題に移りますが、構いませんか?」

「ああ。この身、手として足として、好きに使ってくれ」

「私のことも!」

 

 ああうん。わかったから、ね。今はね。

 結局この二人の関係性とかなんでレインさんが死んだのかとかはよくわかっていないけれど、この二人の寿命が来た時にでも世界の記録を漁ればいい話だろう。他人の痴話喧嘩を掘り起こす趣味はない。読み物としてなら歓迎するけど。

 

「では、シルディアさん。コトラさんからは何か共有を受けていますか?」

「いや、昨日の朝からは何も」

「そうですか。では改めて。私は『魔色の燕』という組織に所属しています。ただし、シルディアさんの知るような『魔色の燕』とは完全に別組織です。真実は、私達『魔色の燕』の名を騙る傭兵組織が存在する、ということですね」

「……なるほど、そういう事情だったか」

「そして私はこの偽『魔色の燕』に接触したいと考えています。ただし、あなた達のように潰してしまいたいわけではありません。現時点では」

 

 魔色の燕から名前を変えてくれるのなら、何をしたってかまわない。

 基本人間の営みは全肯定だ。悲しくは思うけど、たとえ目の前でリコ君やイルーナさんが殺されたってそれは同じ。反対に二人が私を裏切って今金品を盗んでいるとか、誰かを苦しめている、とかでも変わらない。

 ただ名前をゆがめられるのはあまり好ましくない。だからコトラさんの前では「潰してきます」なんて物騒なことを言ったけれど、第一歩は「名前変えてくれませんか?」から始めるつもりだ。

 

「ですから、私達『魔色の燕』は騎士団と手を結ぶことはありません」

「ただし、ディーン殿の手足である私であれば、ということだな」

「はい。騎士団に働きかけろとか、私を中枢に食い込ませろ、というような要求をするつもりはありません。ただもし騎士団の組織力で魔色の燕の動向が掴めた場合、私に情報を流してください」

「……承知した」

 

 裏切れと言っているのとほぼ同じだ。

 だから既のことで裏切れなくなったって構いやしない。先述した通り、その辺は全肯定だ。

 

「……あの、私の神様」

「オーリ、あるいはディーンと呼んでくれませんか。反応し辛いので」

「で、ではオーリ様と」

 

 呼び名を変えても信仰心は揺るがない。しかもかなり上質な信仰心だ。久しく感情を食べるという行為をしてこなかったけど、なるほど、トゥナハーデンが信仰心グルメを気取るのもわかる。

 

「それで、何用でしょうか」

「……オーリ様は、魔王を討滅することが、勇者の務めだと思いますか?」

「レイン?」

 

 ほう。

 狂信で前が見えなくなっている、というわけではないのか。

 むしろ。

 

「……私が経験してきた死の世界。思い出すだけで嗚咽が出るような……恐ろしい場所でした。この世にある災禍宿業の全てを煮詰めたかのような場所。……私はもう、自らの手で誰かをあそこに送り込むような真似はしたくありません。たとえ魔王が転生という術を以てこの世に舞い戻ることができるのだとしても、この手が吊るし糸を断ち切るようなことは……望めない」

 

 だってよ、ディモニアナタ。

 

「勇者が魔王を討滅する。それは自然のサイクルです。そして、仮にそれが為されなかった場合、何が起きるのか」

「……より多くの人間が、その安寧ではない死の園へと送られる」

「本当にそう、でしょうか。……シルディア。私達は生まれた頃から"善行を積めば死後楽園へと導かれる"と教え込まれて来た。けれど……そうじゃなかった。ねえ、シルディア。私はあの時に至るまで、悪行を積み重ねて来たように思う?」

「そんなことはない。……そんなことは、絶対にない」

 

 おっとこれは。

 この流れは……久しぶりだな。

 

「つまりレインさんは、神こそが、すべての黒幕であると?」

「……! ディーン殿。レイン。その話は……危険だ。誰かに聞かれでもしていたら」

 

 騎士団の権力。その次に強いのが聖堂だ。次とは言うけれど、拮抗しているくらいかもしれない。

 実力行使の騎士団と、外堀を埋めて爪弾き者にする聖堂。やり口が違う。

 

「『音吸いのシエルタ』。周囲一定範囲から逃げようとする音を吸い取る装飾品です」

 

 耳飾りを見せる。実際これは私が魔色の燕としてシーフをやっていた頃に使っていたものだ。自分から漏れる音を全て吸い取る優れもので、且つ私が作ったものじゃない。当時の装飾品店で買ったもの。

 人間は時として私の想像を超える。まさか「微弱ながら音にも魔力が乗っている」なんて事実をあんなに早い段階で気付かれるとは思っていなかった。

 

「対策済み、か。……ならば、私からも意見を言おう。私も……レインの話を聞いて、神に疑いを持った。全ての神にではない。奇跡の神ゴルドーナ様や流離の神フォルーン様などの教義には死後の安寧など語られていないのだから。だが、それを大々的に謳うトゥナハーデン様とディモニアナタ様の教義は……」

「薬毒の神マイダグンも死後の安寧を謳っていますね」

 

 フォルーンが他の神々も今回の戦争に参加すると言っていたし、ガンガン巻き込んで行こう。

 しかし、ディモニアナタの性格がトゥナハーデンをも悪者にさせるのは……毎度のことながら本当に可哀想。姉妹で妹の方が割を食うのは人でも神でも同じなのか。

 

「レインさん。私は魔王が悪でも神が悪でも構いません。ですが、魔王を放っておけば必ず悲劇が訪れる、ということはわかります」

「……それは私も、わかっています」

「ですが……幸か不幸か、今代の魔王、いえ、魔王の転生体には、面白い存在がひっついているようで」

「面白い存在、ですか?」

 

 騎士シルディアが少し苦い顔をする。

 仕留め切れなかった相手だ。そういう顔にもなろう。

 

「彼の名はユート・ツガー。私達の調べによりますと──異世界から召喚された勇者である、とか」

「……異世界、ですか?」

「はい。そこがどんな場所かはわかりませんが、信用できる情報であるということだけはお伝えしておきましょう。そして間違いなく彼の存在も勇者である、ということも」

 

 同じ時代に勇者は一人。

 二人現れることはない。恐らく私の娘はレイン・レイリーバースが死んだことを受けて彼をこの世界に呼び込んだのだろうけど、そこを私が覆してしまったわけだ。

 となると、起きることは……果たして。

 

 魔王と勇者のサイクルは別に私が作ったものじゃないから、今頃巡環の神クロウルクルウフがあたふたしていることだろう。頑張れ末っ子。

 

「……一応、見た目は子供である魔王の転生体を庇う姿勢を見せていた。加え、綺麗ごとばかりではあったが……言動を察するに、善性の人間であると思われる。レイン、活路はあるかもしれない。お前が先日語った夢の活路」

「魔王と手を取り合って、神を倒す……ですね」

 

 おー。

 大きく出たものだ。いやどの時代でも神を目の敵にする人間はその言葉を吐くんだけど。

 

 して、ディモニアナタとトゥナハーデンを倒すというのなら、敵に回るものが多すぎると思うけれど……勝算はあるのかな。

 

「オーリ様」

「『魔色の燕』に協力を仰ぎたい、ということであれば、拒否を返します。私達にとって神は何でもない存在。たとえ死後が災禍にまみれ、教え伝わる教義が嘘偽りであっても、そんなことはとうの昔に過ぎた話。むしろ適当に祈りを捧げておけば適当な時に見返りをくれるのですから、利用するだけ利用しておけばいいと、そう考えています」

「まぁ、ディーン殿はそうか。レインをその災禍より連れ出してくれたのだものな」

「ええ。加えて言うなら、私自身はどの神にも信仰を捧げていませんので」

 

 初代『魔色の燕』もそういうメンバーだった。「神に祈るくらいなら自分の経験に縋りつくよ」とはリーダーの言葉だ。それでいいと思うし、そういう人間だったから私は彼をリーダーに据えた。

 ……そう考えると、やはり残念ではあるかな。リーダーと僧侶の子孫がそんな各国に煙たがられる存在になっているなんて。

 もう少しクリーンな運営はできなかったのか。

 

「とにかく、魔色の燕に関する情報があれば私に。魔王と勇者の話は……私に関係あることには思えませんので、そちらで解決してください」

「……はい。申し訳ありません、無理を言って」

 

 しゅんとするレイン・レイリーバース。

 ふむ。

 

 信者第一号だ。恩恵とか与えるべきだろうか。

 まずい、人の営みに混じって数万年、戦士の死に際のサンプル集めばっかりしていたせいで、こういう信徒との接し方がわからない。今トゥナハーデンに繋いでやり方を聞くべきだろうか。

 

 いや、子離れできない親ほど見苦しいものはない。

 私はそれを知っている。

 

「レインさん」

「はい……」

「一つ、教えておくことがあります」

「……?」

 

 物を与えるのはやりすぎ。

 だけど言葉くらいなら。

 

「"魔王がなぜ悪逆非道を成すのか"。……もう少しヒントを与えるのなら、なぜ為さねばならないのか。そこを考えてみると、彼の存在と手を取り合う糸筋と、そして倒すべき敵が誰なのか判明すると思いますよ」

「……魔王がなぜ、そうするのか……」

「ではシルディアさん、私はこれで。魔色の燕については情報が入ってきたら、でいいですからね。無理をせずとも構いません」

「ああ。……それと、出来得るのなら次は、騎士を脅しての訪問ではないとありがたい。門番にはディーン殿の容姿を伝えておく」

「了解しました。ではあなたも、騎士の手綱はしっかりと握るように。コトラさんにいつまでも勝てないようでは話になりませんからね」

 

 失礼します、と言って、未だ何かを考えこんでいるレイン・レイリーバースと二の句が継げないでいる騎士シルディアの前から去る。

 

 さて、帰ってお仕事再開しますか、なんて考えていた矢先。

 

「む?」

 

 なんか面倒くさそうなのに出会った。

 

 

 

 

 その女性の容姿を簡単に説明するのなら──男装の麗人。ただしなぜか付け髭。

 性別は丸わかりなんだけど、一応変装している……つもり……なんだろうか。わからない。人間の営みはこれだからわからない。

 

「キミは、騎士ではないね。応接間から出て来たということはお客人と見た。だが、見送りの者が誰もいないとは何事かな」

「不要ですので。では私はここで」

「待ちたまえ、麗しのレディ。手の空いている者がいないというのなら、ここの責任者である私の落ち度だ。任せたまえよ、レディのエスコートは得意なんだ」

 

 ここの責任者。

 つまりこの都市の騎士団のトップか。随分と位高い相手に目をつけられたな。

 

「はぁ。ではお願いいたします」

「よろしい。時にレディ、お名前を伺っても?」

「オーリと申します」

「……確か六区の二番通りにオーリ装飾品店という店があったな。君はそこの関係者かい?」

「ええ、そうですが……驚きました。都市にあるすべての店を覚えておられるのですか?」

「物事を覚えることは特技の一つでね。うんうん、そうかそうか。君の店は貴族様方からもひどく評判が良い。これからも精進してくれたまえ」

 

 この都市は決して小さくない。

 すべてを覚える、というのが如何に大変か。私のように決して忘れない性質を持っているのならともかく……。

 

「時に、レディ」

「はい」

「──君、強いね? 私と手合わせしないかい?」

 

 うわ。

 やっぱり面倒くさい人だった。

 

 面倒くさくて……ちゃんと強い人だ。

 さーて。

 どこまでやっていいのかな、魔色の燕って。

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