神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「リカバリは上手い」

 ここ最近で一番「装飾品店」をしている気がする。

 風雨の故里(オルド・ホルン)においては勇者・魔王陣営の、この秘密基地では人間たちの。

 現在の状況下、前者において"そう"であるのは、あのメンバーに両国への強い想いを持った人間がいないから。ティダニア王国出身、ヤーダギリ共和国出身かどうかは関係なしに、あの二つの国の戦争をどうにかしたいと思える者が誰一人としていない。

 心は痛める。痛めはする。けれど、介入する余地もないし、それをするくらいなら神への対抗策を練る。そんな感じ。

 だから彼らが風雨の故里から離れることもなく、そして騎士組……シルディアとレインも帰ってきていないので、完全な修行タイム。装備を整える段階。

 

 そしてこっち、この秘密基地ではさらに、だ。

 イルーナさんがアスクメイドトリアラーであることはもう明かされている。彼女はそれを申し訳なさそうに謝って来たけれど、"改変"後の彼女の役割は私の監視兼護衛。謝る必要は何もないので、彼女もそれを聞いて幾らか楽になったらしかった。

 そんなわけで、フレディさん、イルーナさん、あとデビットさんと、他にもいたらしいアスクメイドトリアラーの面々が主に狩り……情報収集と野生動物などを狩猟する担当を果たし、都市の人々は基地内を快適にしたり、外に行く面々をサポートする形を取っている。ホウラ一家なら鍛冶を、シャナナさんなら料理を、リコ君とトゥーナなら農地を、ルクミィなら魔法薬を、という具合に。

 となれば当然私は装飾品しかやることがない。怪我の関係上他を任せてこないというのも大きいけれど、私以外が他にできることがある以上、私がここを担当するのが最も効率的であると判断されたのだ。

 

 

 半月。

 戦争が三日四日で終わるはずがない。ティダニア王国が用意した文字通りの死兵は当然なんの訓練も受けていない者達ばかりで、ただただ数はいて。

 対してヤーダギリ共和国の兵士たちもそこまで練度が高いかと言われたら微妙で。

 

 泥沼化した戦争は、半月もの時間を要し──。

 

「みんな、聞いてくれ。……騎士からのコンタクトがあった」

 

 痺れを切らしたか。

 あるいは──準備が整ったのか。

 

 この基地の実質的なリーダーになっているフレディのもとへ、騎士ニギンからコンタクトがあったようなのである。

 

 

 

 

 大砂漠を行く。

 見慣れ過ぎてもはやなんとも思わないこの大砂漠には、何の生物も住んではいない。

 当然だ。ここには運命が無い。運命エネルギーは砂漠中央のトゥバシバル国にのみ溜まっていて、他の場所には何もない。

 

 そんな砂漠を越えて超えて、越えて越えて超えて行けば──世界の端に辿り着く。

 世界の端。大陸の端。

 どこまでも広がる大洋などというものは「裏面」にしかなく、旧海以外に安定した水源を持たない「こちら」の人々にとって、世界の端はもう一つの水源であると言えた。

 

 ──下から上へ、逆流していく塩水。

 つまり、あちらからすれば──世界の端から零れ落ちていく「海」。

 

「……やはり、減っているな」

「お前もそう思うか、クールビー」

 

 ここにいるのは二人。

 国王クールビーと、彼の親友であるラハマドットという男。

 

 減っている。

 遡る雨……そのまま遡雨と呼ばれているこの「海」からは、何万年もの時間をかけて塩分濃度が損なわれている。

 数十年の寿命しか持たない人間が感じ取るにはあまりに微々たるもの。だけど、確実に。

 

「どう考える? 裏面の海に何が起きているのか……俺は見当もつかん」

「私があちらにいたのはほんの数日でしかない。その上で考えられるのは、生態系に大ダメージを与える何かがあったか、陸地の塩分濃度が下がったか。つまり……陸地そのものへも何か変化が入ったか。だとして、こうも何万年もかけて減っていくのはおかしいけれど」

「例の黒キ雨、って奴の仕業でもないんだよな?」

 

 それは少し前の話。

 砂漠の一部から、突如立ち上がった黒い柱。遡雨の存在を知っている人々は、それを黒い遡雨と称した。

 

「あれは神の権能。最近になってから出現し始めた現象だから、あまり関係は無いかな。水循環に多少の影響は与えただろうけど……数万年をかけた塩分減少とは別口だろう」

「……だとすると、占い師のバーさんたちが言ってた世界の終わりって方に話が向いちまうが」

「遡雨の塩分濃度減少を世界の終わりに繋げるのはどうかしていると思うけれど、他に繋げる先が無いのも事実だね」

 

 世界の終わり。

 それはまことしやかに囁かれて来た終末論。

 トゥバシバル国にいる民たちは、「あちら」があることを知っている。けれど同時に、「あちら」で起きたことはほとんど「こちら」に関わらないということも知っている。

 唯一気にしなければならないのが換期で、けれどそれも歴代の王が結界によって被害を失くしているのを知っている。

 

 平和なのだ、「こちら」は。

 だからこそだろう、そんな物騒な終末論が国全体に広がっているのは。

 

「クールビー。俺はそこまで長く生きねえから、子供世代を思って問うがよ。大丈夫なんだろうな、お前の手ってのは」

「さてね。私も万能ではないし、何よりキーパーソンになるのはシャーリーだ。あの子の機嫌、あるいは力の発露の具合次第で……こちらが全滅することもあり得るだろう」

「シャーリーねぇ。……お前が十何年か前にガキ拾ってきた時は誘拐だ誘拐だと国が荒れたモンだが」

「事実誘拐だからね、堂々と嘘を吐かせてもらったよ。──世界の稚児。この砂だらけの世界を変えるためのピース。天からの授かりものだと」

「ほんっとお前は……」

 

 それは十数年前のこと。

 クールビーが「あちら」側にいたほんの数日で見つけた、「生まれたての奇蹟」。

 神々の目に留まる前に「こちら」へ帰る──その際に連れてきた、紛う方なき誘拐の証拠。

 

「ラハマドット。あちらには少なくとも三人の敵がいる」

「……アレだろ。お前の"予知"の中で、お前が見ていることを察した二人と……よくわからんバケモノ」

「そう。一人はニギン・イアクリーズ・ヴァーハマット。先読みの天才で、あらゆる局面に対処できるよう下準備をしている。さらに……彼女の出生にも恐ろしい秘密があってね」

「ああいいよいいよ。俺はどうせあっちにゃいけねえんだ、聞いたって仕方ねえ」

 

 ラハマドットの言葉に、クールビーは残念そうな顔をする。

 この国王は「語りたがり」。時には国民ですら眼前で「そろそろウザいよクールビー王」とまで言ってしまうほど。

 

 それでいて本当に大事な部分は口が裂けても語らない秘密主義者でもある。

 

「もう一人はトム・ウォルソン。魔色の燕……つまり私がほんの数日所属していた組織を運営する裏の顔。ゼルフとアリアというトップ、実力面でのヴィーエ。それらを裏で操るトム。彼もまた」

「だから良いって言ってるだろ。……それよか、バケモノの話の方が知りてえな。会えもしねえどっかの誰かより、死んだら会う可能性のある奴の方が気になるさ」

「……彼女か。彼女は、一言で言えば"本物"。シャーリーが"綺麗"と称したように……彼女は全知全能であり万能の存在だ」

「全知全能がこんな不完全な世界を創るかね」

「この世界は一番目ではないからね。何度も何度も作って、劣化させたり進化させたり、あるいは舞台を用意するだけ用意して放置したりして……その人形劇を眺めている」

「何の目的があって、だよ」

「それは勿論、人形が劇を、というか舞台を破壊するのを楽しみにしているのさ。劇を壊す人形が自ら組み上がり、自ら踊り出すことをね」

 

 踵を返す。

 調べたいことは調べ終わったからだ。

 

「本当にそんなバケモノを敵に回すのか? こっちにゃ切れるカードが何枚かあるんだ、存続を願ったって」

「凡俗をこそ彼女は嫌うよ。もう見飽きている」

 

 指笛を吹くクールビー。倣い、ラハマドットも指笛を吹く。

 その呼び音に、轟と……巨大で巨大で、巨大な生物が飛んできた。

 

「ココネ、帰りも安全飛行で頼むよ」

「……肉呑鳥に名前をつけるのもまぁまぁアレだが、何よりオスにその名前はどうなんだ。もしかして全部見分けて全部名付けてんのか」

「当然さ。君が今掴まっているのはリュキ。私達を送ってくれたのはシュクラとサスト」

「覚えられねえから良い。おう、もう飛び上がっていいぞ」

 

 巨大な足をがっちりと掴んで、ラハマドットは言う。

 

「……片腕だけで全体重を支えるのもどうかと思うけれどね、私は。しかもこの超遠距離を」

 

 肉呑鳥の背に乗ってから、クールビーはそんな言葉を親友に送った。

 

 

 

 

 曰く。

 

「ヤーダギリ共和国で無差別殺人が起きている。無差別といってもなぜかスラムは避けられていて、殺されているのは憲兵や兵士だけ。つまり、ティダニア王国が勝つように誰かが動いている」

「相手の都合に乗るわけではないけれど、私達はこれを好機と見た。ヤーダギリ共和国を潰さんと力んだ王家。その背後を取る」

「勿論、協力してくれるよね? 洗脳されていないアスクメイドトリアラー諸君」

 

 が、騎士ニギンからのコンタクト。その内容。

 

「というわけで、俺たちは数日ここを空ける必要がある。これはほぼ脅しだ。外のアンデッド共がどうなるかは定かではないが、もしここで騎士の手伝いをしなかった場合、俺たちまで逆賊認定を受ける可能性がある。洗脳された王家は転覆し……騎士が国を握ることになるだろうからな」

 

 まぁ、妥当。 

 食料もそこそこあるし、本当に「数日」なら特に問題は無い。

 

 ただ。

 

「──もう面倒になって来たから、繕わずに言うが……待て、貴様」

「……なんですか、ルクミィさん」

「繕わずに、と言った。ああ、ならばこの姿を変えている装飾品も一旦切ろう」

 

 発動が終了する。

 途端、露わになるは、本来の顔。

 ラスカットルクミィアーノレティカ・ティダニア。

 

 何も知らない人々から動揺が上がる。

 

「我々を制止する理由をお聞かせください、ラスカット様」

「貴様らに必要なのは旗印だろう。ワタシがなってやる。だから、騎士に傅くのはよせ」

「……お言葉ですが」

「御言葉だ。それともなんだ、ワタシにはその権限が無いか?」

 

 効果は覿面だった。

 アスクメイドトリアラー。この基地にいた全員が、ルクミィに跪く。

 

「それでいい。……で、貴様。オーリ」

「なんですか?」

「奴を呼んでくれ。少し、視たい光景ができた」

 

 奴。

 ……まぁ、そういうことにしたの私だしな。

 しかし……また面白い流れではあるような、焼き増しのような。

 

 一応ポーズをする。魔術師協会地下にあった、アスクメイドトリアラーの通信クリスタル。あれを模して作り上げた装飾品を響かせ──。

 

「……まさか呼ばれるとは思ってなかった。何、ルクミィ。それに、ディーンも」

「ルクミィが用だって。私は関係ない」

「来たな、オーリ!」

 

 都合、一人芝居である。

 いやね、「人間ロールプレイ」って言ったって私同士でやる意味はなくって……。

 

「っ……フレディ隊長! そいつです、ラスカット様の誘拐犯! そして、オーリさんを……焼いた奴!」

「なに?」

 

 デビットさんがいち早く反応する。

 まぁ彼はちゃんとその目で見ているからなぁ。さもありなん。

 

「うるさいぞ。誰が喋っていいと言った?」

「……ですが」

「時期だ、オーリ。……世話になったな、ディーン」

 

 そういう設定にした。

 あんまりルクミィに"改変"や記憶処理は行いたくなかったんだけど、もうオーティアルパの時にやっちゃってるし、いいかなって。

 ライエルの短剣の件をルクミィの記憶から消して、「オーリ・ディーン」と「オーリ」は面識があることにしたのだ。つまるところ、魔法特化型の私と身体能力特化型の私、その二人がいることに。

 その上で詰めた設定をルクミィの記憶に上書きして。

 

 だから今、「オーリ」を名乗る者は三人……偽・魔色の燕を含めると四人いることになる。

 ややこしい。そろそろ一人削るべき。

 

「はい。まぁ、短い間でしたが、楽しかったですよ」

「それと、これを」

 

 コレ。

 そう言って渡されたのは……白い液体の入った小瓶。

 これは。

 

「エリキシャラアルを液化させたものだ。ワタシの研究成果の全てが詰まった一品だが……まぁ、貴様に使うのなら惜しくもない。飲め」

「はあ」

 

 飲む。

 飲めば……たちどころに、全身の火傷が「修復」させる。

 

 だろうね。いやすごいよ、普通に。

 前にも述べたけれど、エリキシャラアルは別名『万能塑材』。一定の魔力を流し込むことで、あらゆるものと結合し、あらゆる硬度になる。なる、けれど。

 やわらかくなることと、液化することは全くの別。

 

 しかもこのエリキシャラアルは液化しているだけじゃなく、人体と結合できるよう配列が組み替えられているし、しかも体内で他の臓器に結合することもない……転移病にもならない性質を有している。

 外傷を治癒することにおいては最高級の一品。魔法薬のくくりで見ても、恐らく国宝級に数えられるものだ。

 

 ほらね。

 私がエリキシャラアルを加工できたって、それは「人間ロールプレイ」の「逸脱」にはならないんだよ。

 やっぱりできる人はいるわけだ。流石ルクミィではあるけれど。

 

「……治してもらっておいてなんですが、良かったのですか? ご家族に使った方が」

「もう手遅れなのは理解している。相手は死者を思うように操れるんだ、傀儡にしたい王家をただの洗脳に留めておく理由がない」

 

 それはまぁ、そう。

 視ていないけれど、流石にもう殺されているだろう。

 

 笑顔で言うことじゃないけどね。その笑顔は人の心に傷を負わせるよ。

 

「ラスカット様。一つだけ」

「なんだ、イルーナ」

「……私はオーリさんに大恩があります。だから、オーリさんを焼いたその人が……好きになれません」

「だろうな」

「……ここにはオーリさんを好いている人がたくさんいます。そのオーリさんにけがをさせた張本人を、変装も無しにここへ呼び込んだ理由。納得のいくものをお聞かせください」

「変装云々は此奴の勝手だ。別にワタシはオーリを制御できているわけじゃない。そして、ここにオーリを呼んだのは他でもない──仲直りをさせるためだ。納得なぞ勝手にしろ」

 

 ん。

 

 ……ん?

 

「仲直り……ですか?」

「ああ。オーリがワタシを連れ去った時、オーリとディーンは"方向性の違い"を理由に決裂した。どちらも感情を表に出さんから分かりづらいが、今も仲違いをしている」

「そんなことはありませんよ。私はもう割り切っています」

「謝ればいい? ごめんね」

「ほらな!」

 

 ん……んー。

 こう……どうにかこの時間を終わらせられないものか。

 

 自分同士で喧嘩するはずがないし、その自分同士で仲直りをしなければいけない苦行。

 ルクミィってば、本当の意味で私へダメージを与えた初の人間なんじゃないだろうか。精神的苦痛だけど。

 

「……すまん、事態は火急を要する。仲違いなるものがくだらない理由であるのなら、早めにして欲しい。お前達の間にあった決裂がなんであるにせよ、騎士は関係なしに王家を襲う」

「ですから、別に喧嘩などしていません。私が焼かれたことも、こうして……皆さんの信用を失ってしまう結果になったのも、すべて織り込み済みです」

「どうでもいい。ルクミィ、納得した? したなら行こう。騎士を抑えつけて、王家と王家に巣食ってる魔色の燕を潰して、終わり。戦争の勝敗は気にしない。そういうことでいいんだよね?」

「ダメだ。互いに頭を下げて、ハグしろ。そこまでしなければワタシは認めん!」

 

 ルクミィルクミィ。

 やっぱり記憶処理したのがダメだったかな。あなたのあの天才的なひらめきはどこへ行ってしまったの。

 

 ……というか、そうか。

 ルクミィは「憶測」と「自信」の天才。仮に間違っていても間違っているかもしれないと疑わない天才。

 

 私が施した記憶処理が「まるで仲違いをしたかのよう」であれば、そこから「憶測」を立てて私達の心情を慮ることもできる。

 謂わば「人間ロールプレイ」の……「この時、この登場人物たち(私のロールプレイ)が何を考えていたのか答えなさい」に正答できるというわけだ。

 

 身から出た錆が過ぎる。この茶番を早く終わらせるには、一つしかない。

 

「ごめん」

「こちらこそ、ムキになりました。申し訳ありませんでした」

 

 謝って、ハグをする。

 ……うーん。「人間ロールプレイ」……というか、もはやお人形遊び……いや今までがそうじゃなかったってわけじゃないんだけど。

 

「よし!」

「……イルーナ。気持ちはわからないでもない。だが、ここは呑み込め」

「はい、わかっています。……怒ることは、他の皆さんがやってくれると思うので~」

 

 さぁて。

 残される「オーリ・ディーン」は説明が大変だし、彼らと共に行く「オーリ」は人間関係が大変、と。

 

 まぁいいじゃないか、これも「人間ロールプレイ」の一環だ。そういう意味では面白い采配をしてくれたよ、ルクミィは。

 

「まずは騎士団に"アイサツ"をしに行く。その上で騎士に行動を決めさせ、騎士がどう動くかは関係なしにファーマリウスへ行く」

「いいよ、まだ従ってあげる」

「まだ?」

「いちいち突っかかるな、フレディ。ワタシとオーリの関係は、オーリが気分で手を貸してくれているだけ、というものだ、オーリがその気でなくなれば解消される。そしてそうならないようにするためには、貴様らも魅せ続けるしかないことを理解しろ」

 

 そうだね。

 もしあなた達が何か魅せてくれるのであれば、「オーリ」を動かす時間を増やしてもいいと思えるかもしれない。

 

 的確だよ、ルクミィ。

 

 

 さて。

 

「──来たね、ラスカットルクミィアーノレティカ・ティダニア様。そう来ると思って、こっちは準備をしていたよ」

「だろうな。貴様、わかっていてあの言葉をフレディに吐いたのだろう? ワタシの正体に気付かない貴様であるわけもなし、"今後は騎士が統治をする"などと宣言すれば、今までの騎士の所業を知っているワタシは名乗りを上げざるを得ない。貴様も欲しかったのだろう、旗印。ファーマリウスに残っている反乱分子……それを取り込むための大義名分が」

「おやおや、恐れ多いね。そんな沢山のことを考えていたわけではないよ。ただ、いつも通っている装飾品店に新しい従業員が増えれば、その身元を調べるくらいはするのが騎士というもの。少し突然過ぎたね、君という誰かが現れるにしては」

 

 先読みと憶測。

 本質は違えど性質の似ている二人は──。

 

「一時休戦だ、騎士。ワタシは王家として自らが相応しいとは思っていない。だから、この戦争、そしてこの陰謀を終わらせたのち、実権を握るのが貴様らであっても構わない。だが、それまでは手を貸せ」

「もちろんだとも。──私達騎士は、王家が振るう剣そのもの。だが、もはや貴女以外の王家は敵の手に落ちた。とあれば、この剣の全てをあなたに捧げるしかない。──存分に行こうか、ラスカットルクミィアーノレティカ・ティダニア様」

「……イアクリーズ。俺たちの王族への忠誠が切れたわけじゃない。ラスカット様の背を刺そうとするのならば、俺たちが立ち塞がると思えよ」

「おやおや、ラスカット様の自由を阻んでいたのはほかならぬ君達だというのに、随分な言い草だね」

 

 仲悪いんだなぁ、って。

 まぁそりゃそうか。騎士とアスクメイドトリアラーなんて、同じくらいの立場でありながら、表裏で王家を支える礎。その内の表側が初めから裏切っていたわけだから……好きになる理由がない。

 

「それで、そちらの女性は?」

「うむ。ややこしいだろうが、彼女もオーリだ」

「……その名が襲名制なのは知っているけれど、まさか他にもたくさんいたりするのかな? レディ」

「私を含めて四人」

「……」

 

 額を揉む騎士ニギン。

 やめてほしい。内一人は私じゃないから。私の幻影みたいなものだから。

 

 あと別にオーリは襲名制の名前じゃない……けど最初に襲名したって言ったの私かぁ……。

 

「いつも私が会っている彼女と……もしや、魔色の燕の長である彼女は別人だったりするのかな。だとしてもあと一人は……」

「考えるのは後だ。すぐにでも出発するぞ」

「ああ……まぁ、そうだね。既に馬車は用意してある。……一応聞いておくけれど、君達は自衛手段を残してきた、と見ていいんだね?」

「ディーンがいれば問題ない」

「成程彼女が残ったのか。なら大丈夫かな。……では、出発しようか」

 

 する。

 大勢の騎士と、少数のアスクメイドトリアラーと、ルクミィと私。

 それを乗せた馬車が出る。

 

 程なくして、馬車を渡って来たのだろう、私達のいる幌に二人が来た。

 

「む……なんだ、どうかしたのか?」

「いえ、ラスカット様。私たちはオーリさんと知り合いで……色々と聞きたくて」

「黒鉄の騎士、シルディア・エス・ヴァイオレットと申します。こっちは今代勇者レイン・レイリーバース」

「ほぉー……黒鉄位に勇者。なんだ貴様、案外人付き合いあるじゃないか」

「私の知り合いじゃない。ディーンの知り合い」

 

 さて……どう説明するか。

 二人は「オーリ・ディーン」=魔色の燕の長であることを知っている。

 だけど、この落ち着き具合を見るに、「オーリ装飾品店の店主」と「風雨の故里で装飾品を作っている長」が同時に存在することには気付いている。

 

 記憶処理が妥当かなー。

 

「事情は聞かない」

「あ、うん」

「だから、頼む。ラスカット様の守護に、全力を賭してほしい。私達はお前達オーリを信用している」

「私の神様の、縁者……でいいのかしら。私も込み入った事情を聞くつもりはないけれど、お願いは一緒。……おかしな話だけど、ニギンの下にいる騎士は、どちらかというと攻めに長けた騎士が多いの。私達を含めてね。……昔は守りに特化した騎士もいたのだけど……罪を犯して、投獄されてしまったから、いない。だから」

「私も攻撃特化なんだけど。……ま、あなた達よりは強いし、ルクミィを守るのは片手間でできるし、いいよ」

 

 なんだかなぁ、という思いはありつつ。

 記憶処理もせず……二人に頷く。

 

「ふふっ……ああ、ごめんなさい。顔も体格も口調も、何もかも違うのに……雰囲気が、オーリさんそっくりで」

「君も感じたか、レイン。なんというか……あの店主を純化させたらお前のようになるのだろうな」

「……褒めてる?」

「まぁ、馬鹿にはされてないだろうな」

 

 純化させたら、って。

 いやその通りだよ。「オーリ・ディーン」より本質に最も近いのが私だし。

 

 ……やっぱりこの戦いが終わったら「オーリ」は消すべきかな。

 問題は「オーリ」を殺し得る存在がいないことだけど……またアンネ・ダルシアの時みたいに子供達を使う……のは発破をかけた後だからちょっとやりづらいような。

 

 ……何とかなると思う。多分。

 

「全隊に告ぐ! 前方にアンデッドの集団と思しき影を発見! 同じくアンデッドだろう猟獣を連れている模様! 馬に怪我をさせられる前に奴らを全滅させろ!」

「出番、ね。行ってくるわ」

「ああ、私も部下に指示を出したらすぐに行く」

 

 そう、幌から出ていく二人。

 

 んんー?

 

「ルクミィ」

「気付かれたと見るには、少し弱すぎる。ディーンを襲ったという手練れ……あれの一人や二人くらい配置していてもおかしくはない。騎士に対し、アンデッドの群れだけを敷く意味がわからん」

「だよね」

「だが、こんなところに丁度良くアンデッドの群れがいるはずもない。……となると……アンデッドの条件……」

 

 長考モードに入ったルクミィ。

 程なくすれば正答を導き出せるのだろうけど、その答えは自分からやってきてくれた。

 

 思いっきり、殴る。

 

「ッ──んだと!?」

 

 今しがた入ってこようとしていたソレは、こちらの拳をガードし、吹き飛ばされて行った。

 

「戦力を前方に集中させて、後方から強大な戦力を投入、か」

「みたいね。私がいることには気付いてなかったみたいだけど」

 

 強大な、といっても私では無さそう。

 また普通に一般英雄の誰かかな。

 

「最短で、どれくらいだ、オーリ」

「瞬き」

「なら、頼む。ワタシは馬の守護をする」

「了解」

 

 ──では。

 衆目の多いここで、「オーリ」のお披露目と行こう。

 目があればあるほど良い。散った時、死んだことがわかりやすくなるから。

 

「流石にここじゃまだ、死なないけどね」

 

 鏖殺である。

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