神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

42 / 100
総評:「今日ばかりは私が書きますが……全然できてないですね! 私より! 始めたての私より全然!!」

 かつて、表裏には交流があった。

 もう覚えている人間は少ないけれど、覚えている人間は口々に言う。

 勿体の無いことをした。

 続けていれば、何かがあった。

 続けなくて良かった。

 

 なぜ?

 

 ──今こちらが表側でいられるのは、ただの偶然に過ぎないからだ。

 だから、断ち切ってよかった、と。

 

 

 

 

 ドロシーたちは復興に忙しく、処刑になど何の興味も示していないようだったので、先に処刑場へと向かう。

 話はその後でも良いだろうから。

 

 さて、処刑場。

 人々の手によって再建されたもののなかで、もっとも手早く作り直されたそこに、六人。

 現王、その妃。現王の弟、その妃。そして両組の子。

 

 磔にされて、沈黙している。磔に使われているのはデミディナイトか。攻撃する意思を削ぐ鉱石。沈黙は、あるいは本意ではないのかもしれない。

 

 処刑の時間だ。

 憎悪渦巻く処刑場にて──その時が来る。

 

「君が見に来るとは思っていなかったよ、レディ」

「用事のついでに、です。……しかし、面白いものですね。処刑を見守る人々の中には、喜色を持つ者もいます」

「誰だって自分の憎悪が解消される瞬間は快楽を浮かべてしまうものさ。あまり非難しないでやってほしいものだね」

「ご安心ください。どうとも思っていませんから。──しかし、王家を殺して、民は何が得られるのでしょうね。復讐を意味無きものだと言うほど私は人間の心に理解が無いわけではありませんが……あなた達騎士の統治が、現状より良いものになると、本気で信じているのでしょうか」

「さてねぇ。ラスカット様が己の運命を使い果たしてまで救った命が、これほどまでに他者を慮れない連中だと知った騎士団長様がどう出るか、だ」

「ああ、そういえばあなたは騎士団長ではないのでしたか」

 

 騎士ニギン。そうだった、あの都市の騎士団長なだけで、騎士団全体の団長ではない。

 会ったこと無い……な、うん。

 

「考える力を奪われ、思想する脳を操られ、反省する機会さえも奪われ……彼らに何が残っているのか」

「当然、すべてに復讐するチャンスだ」

 

 声。

 それは、背後から。

 

「まさか……まさかまさか。君がそうしてのこのことファーマリウスに出向くとはね。トム・ウォルソン」

「あの恐ろしい勘を持つ勇者様は我が子が心配で帰ったようだからな、こうして出歩くことができる」

「それより、すべてに復讐するチャンス、とは?」

「言葉通りの意味だ。わからない君じゃないだろう。……まだ残っている。まだ運命は残っている。使い尽くされたのはラスカットルクミィアーノレティカの運命であって、他の王族にはまだ運命が残っている。であれば、運命は、世界は、"そうであるもの"をみすみす殺させるほど甘くはない」

 

 果たして、その言葉は。

 

 処刑場が、王家の磔にされた円形の土台が、劫火に包まれることで証明される。

 

「これは……」

「『紅怖結晶』。いつか見た憧憬(アヴィダ・アヴィルサグ)がファロン・ウィリアムズの炎。冒険者の正義感を舐め過ぎたな、イアクリーズ。彼らは真実を知った時点で行動しないという選択肢を取れない。そうであるから冒険者などというけったいな職業に就いたのだし、そうでなければ名を馳せることはできない。一部の快楽殺人者は除くが」

 

 立ち昇る炎の中で、動く影。

 ここへ辿り着く前の雑談で上がった六人が、王家を逃がさんとしている。ただ、彼らであってもデミディナイトへの対抗手段は。

 さらにここには、騎士がいる。炎熱耐性の施された鎧持ち程度いくらでもいるだろう。

 

 そういうのが中に入っていって……ぶっ飛ばされる。

 

「失望したぞ、バカヤロウ共。いつからこの国は弱者の死に様を楽しんで見るような極悪な国になっちまったんだ」

「デミディナイト、破壊は難しい。下の土台ごと持ち上げる」

「──観客の皆様は、どうか、どうか──余計な手出しをしないでください。情報に踊らされた無辜の民までを手にかけるのは憚られます」

 

 どこかで安堵の息が漏れるのが聞こえた。

 どこかで奥歯を噛み締める音が聞こえた。

 どこかでか細く「やめてくれよ」と呟く声が聞こえた。

 

「彼らに情報を渡したのは君かな、トム・ウォルソン」

「僕ではないが、僕の組織の人間だ。当然だろう、あの戦争を生き抜いた者達には褒美が必要だ。真実という名の褒美が」

「君達がひた隠しにしてきた真実であっても?」

「秘匿の神ヒシカは、それらに貴賎をつけない」

「ウォッンカルヴァを冒涜した薬を使っておいて、よくそんな言葉を吐けますね」

「ああ、マスキーのことか。由来を知った時は馬鹿なことをした人間がいたものだと笑ったよ。そして安心してくれていい。僕達はアレをカルヴァという名で使ってはいない」

 

 ガコン、という音と共に、磔が土台から引き抜かれたのがわかる。

 その土台部分を持って、一人、また一人と離脱していく影たち。

 

「さて──この事態、どうする騎士団。処刑を冒険者に邪魔され、その冒険者を止められなかったとあっては、騎士団の信用もまた失墜するだろうが」

「何か問題があるかね? 騎士団の信用が失墜し、冒険者への信頼も崩落し。後に残るのは、ラスカット様ただ一人。──騎士団が国を運営していると思われるより、よっぽど健康的じゃないか」

「であればお二方。あれも計画の内ですか?」

 

 あれ。

 それは、炎の中に割って入った闖入者。

 高い身の丈と、その身の丈を越える中空長刀を持つ男性。

 

「カカ。カカカカ。カカカカ! ──風情の無い連中よな。憎悪の対象が死したる様こそ民の望む姿。王家は民に望まるるものなれば、それを叶えんとしているだけだというのに」

「──……アザガネ。なんだ、死んだのではなかったのか」

「拙僧は孜々としていたまでよ。一度負けたのでな、研鑽を積んでいた」

「そうか。だが、邪魔をするな。邪魔をするのであれば、相手を努めよう」

 

 アザガネと……それに対峙する大男は。

 あれが、ウェイン、か。

 

「ほう、お前が相手をするか。カカ、それはなんとも魅力的だが──拙僧の役割は既に終わった。退去させてもらおう」

「何?」

 

 アザガネは入って来ただけ。 

 そう見えたことだろう。だけど、違う。

 

 言葉を伝えるという大業を為した。

 

 だから、未だ連れ出されていなかった一人。

 現王は──言葉を吐きだす猶予が与えられた。

 

「……王命である。我々を救わんとする気概、見事。だが無用だ。我々には責務があり、それを果たせなかった時点でこうなる未来は見えていた。無辜の民を想うのであれば、この戦争でついた傷を癒してやってくれ。我々は……私は、私の死でその傷が塞がることを」

「黙れ」

 

 薬毒の匂い。

 鎮静、あるいは睡眠薬。

 

「カカ! 今まさに助けんとしている王家に対し、その物言いはどうだ、ティニ・ディジー」

「王家を助けようとしているわけじゃない。この場から彼らを逃がすことの方が儲けになる。それだけ」

「ナルホドナルホド、冒険者を動かすのはいつとて金か」

 

 トム・ウォルソン。そして騎士ニギンに目を向ける。

 二人は肩を竦めた。仲良しだな。

 

「──宣言する。僕達はもうティダニア王国には関わらない。僕達がこの地でやるべきことは終わった。アスクメイドトリアラーの中にいる僕らも、他に潜む僕らも、全員を退かせることを約束する」

「そして、亡命した王族と冒険者を手厚く迎え入れる国へ、かね?」

「自分たちが何を失ったのかを理解した人間が、次、何に縋りつくのか。彼方より見守らせてもらう」

 

 トム・ウォルソンが──泥となって崩れ落ちる。

 へえ、遠隔操作のゴーレムに自分を被せていたのか。耐久に振る魔力を全て言葉を伝える方へ回して……なるほど。

 合人演舞(ドレアム)といい、オエンガフスといい、偽・魔色の燕はゴーレムの操作技術に長けているな。あるいは私よりも。

 

「さて、私もそろそろお暇させてもらうよ。──ああ、ラスカット様から()()があるのだが」

「……」

「"まだ死ぬつもりはないぞ"だそうだ。うん、良い顔だね、レディ。それだけで十分な報酬だ。それじゃ」

 

 伝言。

 運命を使い果たした者が、私に伝言。

 

 無理だ。ならば──ならば。

 

 まだ。

 

 

 

 

 処刑は大混乱の内に収束した。冒険者たちは王族ごと姿を消し、アザガネもまた隠形を。

 国民たちの不満は晴れないままに──そしてそのヘイトは、処刑に我関せずだった、復興を行っていただけの冒険者へと向く。

 

 自分たちが何を排斥しているのか。自分たちが誰に何をぶつけているのか。

 誰も理解できない。なぜって、彼らはただの被害者だから。何の悪い所もない被害者。王家、あるいは偽・魔色の燕によって良い様に操られた無辜の民。

 けれど、選択は為された。

 

 ……ティダニア歴も、そろそろ終わりかな。

 

「それで、話とは?」

「長自らご足労」

「そういうの良いので、用件を」

「は、はい」

 

 ドロシーの話したいこと。これをメインに来たのだ。

 失敗に終わった処刑も、復讐の種火も、どうだっていい。

 

「……魔色の燕について、聞きたいことと、言いたいことがあります」

「どうぞ」

「まず、聞きたいことですが……。……。……」

 

 ドロシーは口をぱくぱくさせたあと、一度それを飲み込み、頭を振って、もう一度口を開ける。

 

「私とティア以外の人間はいない、というのは、本当ですか」

「はい。というより、気付いていなかったのですね。どう見ても魔力の集中箇所が心臓や頭ではなく腹部でしょうに」

「ヴィナージュさんに魔力の扱いについてを指南してもらってから、そういうものの見分けがつくようになりました。魔色の燕として自己の魔力は手足のように扱えても、他人のものまで見る余裕はなかったので」

「そうですか。で、言いたいことというのは?」

 

 別にバレたってどうでもいい。

 マリオネッタの弱さはわかったし、なんなら解体してもいいくらいだ。

 

 魔色の燕、ではなく、風雨の故里のメイドとガヴァネス。ただそれだけの役割に戻す。それだけ。

 

「前に……長は、逃げてもいいと言っていました」

「そうですね。構いません」

「あれの真意をずっと考えていたのですが……。……、……私達は、象徴に過ぎない、という認識なのですね」

「それ以外の用途があなた達にありますか?」

「っ、……そうですね。だからこそ、言います」

 

 象徴。

 魔色の燕、というステータス。勇者・魔王陣営に魔色の燕をつかせるための肩書。

 

「私達は、私達で……魔色の燕を終わらせたいと考えています」

「お好きにどうぞ」

「……はい」

 

 なんだ、そんなことか。

 どうぞどうぞ、好きにして欲しい。

 

 魔色の燕は咄嗟に作った組織だし、そう呼ばれていた「オーリ・ヴィーエ」は既に死し、現オーリ・ヴィーエは今も活動中。

 偽だの真だのと煩わしくなってきたところだったんだ。終わらせる力があるのなら、勝手にどうぞ。

 

 ……どうやらそれだけらしい。

 何がしたかったのか。何が言いたかったのか。

 

 そんなこと、口に出す必要ないのに。

 

 

 帰路。

 居心地の悪くなったファーマリウスから冒険者がぞろぞろと出ていく人波の中に、一人の少年を見つけた。

 

「……」

「……何、姉ちゃん」

 

 アツァ。「マイク」が助けた少年リクの弟。

 その目は酷い。復讐心に染まっている。向いているのは王家ではなくハウスト・クライシスか。

 

「それ、お墓ですか?」

「……そうだよ。兄ちゃんの墓。友達のも」

「生き返らなかったのですね」

「生き返った方がおかしいんだよ。散々人を殺して、建物を壊して……兄ちゃんを殺しておいて、自分たちは何も悪くない、みたいな顔をして……」

 

 燻ぶっている。

 洗脳された王家なんかより、この子の方が復讐鬼としての素質がある。

 

「誰かが、憎いですか?」

「……みんな憎い。馬鹿みたいに……今日のショケーとかいうのも、自分たちが殺されかけてたっていうのに、殺すのを楽しんでて……同じ人間じゃないみたいだ」

「殺してきてあげましょうか?」

 

 なんでもないかのように。

 いつも通りのトーンで。

 

「っ……姉ちゃん、何言って」

「あなたが憎い憎い彼らを殺せるようになるまで、あと数年はかかるでしょう。その時になってまで彼らが生きているとは限りませんし、手の届くところにいるとも限りません。でしたら、今のうちに」

「──やるなら自分でやる。何年かかってでも。だから、勝手に奪わないでよ」

「そうですか」

 

 代替品にはならず、か。

 それもまた、かな。

 

 ……立ち去る。

 願わくは、あの少年の道行が、血にまみれていることを。

 

 

 数日後、国が興った。

 名をクロックノック。国土で言えば小国も小国なそこは、しかし精鋭揃い、粒ぞろいな国。

 国民のほとんどが高ランク冒険者で構成され、そうでない者も何かしらのプロフェッショナル。

 

 そして同時に、彼らは宣言する。

 自分たちこそが魔色の燕であり──ブレイティダニア歴、ティダニア歴という「偽りの歴史」の裏に隠された真実を明かすと。

 

 そのためならば、なんでもすると。

 ティダニア王国、ヤーダギリ共和国は疲弊していて反論ができず、他国は関係が無いので口を挟めない。

 国の興りを妨害する動きは何も見えず。

 

 クロックノックは、この世界に生誕した。

 

 時を同じくして、流離の神フォルーン、美芸の神ノットロット、埋没の神イントリアグラル、闇夜の神アストラオフェロン、慮縁の神フィロソニカ、朝陽の神ボーダーク、純真の神クインテスサンセスがそれぞれの神殿に表明……神託を流す。

 それは「クロックノックにつく」というもの。

 当然各地の神殿は混乱を極めたし、聖堂関係者はクロックノックへと聖堂を建てる流れへとシフトする。

 

 盤面は今のところ、トム・ウォルソンが優勢。

 全てが彼の思い通りになっている、という印象を受ける。だからと言って騎士ニギンが劣勢なわけでもない。

 

 指し手は四人、だったか。

 

「母上殿……笑っておられるのですか?」

「……ほんとだ」

 

 今、私は「オーリ・ディーン」ではない。それぞれの身体はそれぞれの身体として動いているけれど、この私はただの創世神だ。

 その上で、意思表明をしていない子供たちとの対話をしている。

 

 契約の神トゥルーファルス。奇跡の神ゴルドーナ。祝福の神リルレル。裁判の神エレキニカ。恋情の神シンクスニップ。虚構の神ライエル。秘匿の神ヒシカ。言語の神セノグレイシディル。酒宴の神ウォッンカルヴァ。巡環の神クロウルクルウフ。

 

「正直に言って、今回は楽しい。歴史をやり直す気力があまり湧いてこない」

「何が母上殿をそうさせているのですか?」

「灯と方角」

 

 多くを語るつもりはないけれど。

 何も語らないのもまた違う。

 

「ただの人間が、"磁"を作った。信じられる?」

「母の言葉で在れば、信じます。そうでなければ……この目で見ない事には、信じられなかったでしょう」

「"磁"ってあの"磁"? すげーじゃんその人間。ウチらに迎え入れちゃえば?」

「ええ、讃えられるべき偉業でしょう。ですが、同時に異常。今回発展したのは魔法、魔術、呪文。魔導ではありませんから」

 

 セノグレイシディルの指摘は、まさにそうだ。

 これでこの歴史が魔導の発展を軸にしていた、というのならまだ理解は及ぶ。あるいは錬金術とか。

 でも、魔法が主軸のこの世界で"磁"を作る人間が現れるのは、異常事態だ。

 

「ほころび?」

「多分ね。英雄ウェインと冒険者ティニ・ディジーも外部の存在っぽいし、ギギミミタタママが異世界から呼び込んだ勇者以外にも、異物が混ざり始めてる」

「排斥するか、母さん」

「やりたいならやってもいいよ、ライエル」

 

 外部からの異物、という言葉のあたりで、全員の視線がクロウルクルウフに向く。

 末っ子は──はぁ、と大きな溜息を吐いて。

 

「言っておくけど、僕はこの世界の巡環を司る神であって、外部からの侵入を防ぐ神じゃないから」

「しかし、世界を(まわ)していれば気付くものもあるだろう」

「ないない。ギギミミタタママ姉さんみたいに無理矢理穴をあけたとかならわかるけど、スルって入ってきたらわかんないよ」

 

 前にも述べたけれど、この水晶玉の外は無だ。

 無限の無が広がっている。いや、所々にぽつぽつと他の箱庭がある可能性もあるけど、基本的には無だ。

 

 そのぽつぽつとした箱庭から入って来た異物。

 

「そもそもギギミミタタママは何故異世界の勇者など招き入れたのだ?」

「知らないよそんなの」

「勇者が死んだから、では理由にならぬか」

「魔王がいて、勇者がいない。そういう時代も少しはありました。だというのになぜ今回彼女がこのような暴挙に出たのかはわかりません」

「なぁお袋。異世界ってのはそもそもなんなんだ。なんでギギミミタタママの奴だけが認識できる?」

 

 ウォッンカルヴァの問い。

 それは。

 

「ギギミミタタママが異世界の在り方を参考に作った神だから、かな」

 

 ギギミミタタママ。綴りをII(GMTM)と書く。他の神と名付け方に違いがあるのは、その発生自体が特別だからだ。

 抜錨の神、ギギミミタタママ。穴を穿つのではなく、内側から錨を引き抜く神。そうであるが故に彼女は外を知覚できるし、そうであるが故に異世界から誰かを呼び込める。

 

「異世界が何か、という問いについては、うーん」

「異なる世界。それ以外にあるのか?」

「まぁ、その認識でいいよ。どうせ理解できないだろうし」

 

 メタフィクショナーとか言ってもわかんないでしょ君達。

 

「メイズタグとホタシアがいなくなったのはなんでなの?」

「自決と聞いているが……」

「なんで? ……そんなに悩んでたのあいつら」

「メイズタグだけならまだしも、ホタシアまで逝くとはな」

「新しい深理と音燃はいつ作る?」

「今のところ予定はないかなー。人間が必要としていないし、神の席が欠けている状態の世界も少し観察してみたいし」

 

 オーティアルパの航行ルート変更。神の欠席。人間の進化。

 どれも面白いものだ。この状態を維持したい。してみたい。

 

「あれ、じゃあ今日集まった理由ってなに?」

「身の振り方を考えといて欲しいから」

「……戦争のこと?」

「事と次第によっては、私が神を不要とするかもしれない」

 

 緊張は──走らない。

 ここにいる子供たちは、「そういうものだ」ということを知っている。

 

「だから、思い出作りしたかったら今の内にね」

「んじゃウチ一抜け! まだウチの見てる国での恋愛愛憎劇が終わってないんだよねー。じゃあね、ママ」

「私も帰るとするか。ティダニア王国から悪意混じりの奴らを断罪してくれ(祈り)がこれでもかと届いていてな。裁を判すに忙しい」

 

 シンクスニップとエレキニカが消える。

 

「話す。無い。帰る」

「私も失礼しますね」

「あ、そうだ。母さんに伝言を頼むのはちょっと憚られるんだけど、ディモニアナタとトゥナハーデン姉さんズが巡環狂わせててさ。やるのはいいんだけど、一言言ってからやって、って伝えておいてほしいんだよね。それじゃ」

「んじゃ俺は人間の酒でも飲みにいくかなー。ウォッンカルヴァ、お前も来るだろ?」

「行かないわけがない」

 

 リルレル、ゴルドーナ、クロウルクルウフ、ライエル、ウォッンカルヴァも思い思いのことを話して去って行く。

 

 去る気がないのは、トゥルーファルス、ヒシカ、セノグレイシディルの三柱。

 

「どうしたの?」

「母上殿。なぜ隠したのですか?」

「流石に見抜けますよ」

「我々は旧いですから。ゴルドーナとリルレルはわかっていて去ったようですが」

 

 旧いって。セノグレイシディルは割と最近の神じゃん。ああまぁ言語の神自体は古いけどさ。

 

「隠したというか、この程度言わなくてもわかってもらわないと困るって言うか」

 

 隠した、と言われたこと。

 それは──私の「人間ロールプレイ」についての話。

 

「縄張りを変える、なんて……私達は問題ありませんが、天龍や他生物は思う所あるでしょう」

風雨の故里(オルド・ホルン)はそのまま使う予定だけど、装飾品店の拠点をね、違う国にしようと思ってる」

 

 理由は言うまでもない。

 住みづらくなったからだ。

 

「でしたら、秘匿の都に来ますか?」

「へぇ、自分から私を呼び込むなんて、珍しい」

「だからこそですよ。先程仰られたでしょう。やりたいことはやっておくべきだ、と」

「……ん、いいよ。秘匿の都に決定する」

 

 即断即決。

 引っ越し先、決まり。

 

「それだけ?」

「ええ、それだけです」

「私も特に言うことはありません」

「でしたら、我から一つ。我も"人間ロールプレイ"なるものをして、勇者ユート・ツガーに接触したいのですが、よろしいでしょうか」

「え、いいけど……なんで?」

「異世界の言語を学ぶためです」

「ああ」

 

 言語の神だもんね。

 興味あるよね。

 しかも自ら「人間ロールプレイ」をするなんて……良いね。

 

 じゃあこれをあげよう。

 

「『フォキュラスの眼鏡』。今勇者たちは子供達から見えないようになっているんだけど、これをかけていれば見えるから。悪用はしないでね」

「もちろんです。それでは、失礼を」

 

 いいよ、その意欲的な姿勢。

 評価する。

 

 さて、じゃあ、私も。

 

 

 

 

 呆けた声が店内に響く。

 

「い……移転、ですか?」

「はい。ニギンさんから頂いた土地所有権(特権)でこの店そのものは確保しておくつもりですが、お店は他の国でやります」

「それは何故……って、聞くまでも無いですね~」

 

 だろうな。

 二人とも、わかっている。

 

 今のこの国、この都市の雰囲気は、「何か嫌だ」と。

 

「イルーナさんはついてきますか? ティダニア王国のアスクメイドトリアラーなので、他国となると」

「ん~、ちょっと兄に確認しますね~」

「リコティッシュ君は……」

「……ついていきたいです。でも……」

 

 ステイフォールド家はそこそこな家柄を有している。

 何よりステイフォールド家の産業はティダニア王国に欠かすことのできないもので、王家、貴族の力が弱まっていくティダニア王国においては必需品クラスになるだろう。

 

 家を継がなければならないのだ。

 

「トゥーナ。あなたは?」

「こっちに残ります。流石に他国にまで付いていくのは……それに」

 

 それに、と。

 リコ君を見るトゥーナ。その「恋愛ロールプレイ」、もうそんな段階まで行ってたんだ。

 

「フレディに確認取れました~。ついて行っていいというか、付いて行かなきゃだめだそうで~」

「そうですか。ではイルーナさんだけですね、新しい店舗へ来るのは」

「……教えてもらったことを忘れるつもりはありません。オーリさん。今までありがとうございました」

「寂しくなりますね~……って、これは私達が言われる側ですかね?」

 

 うん。じゃあ、決まり。

 

「私は挨拶回りに行ってきます。三人は片付けを」

「というより、オーリ姉さん」

「はい?」

「この店、私とリコティッシュさんで継ぐ、というのは、ダメなんですか?」

「……構いませんが、そんな意欲があったんですか?」

 

 後ろでリコ君が「その手があったか!」という顔をしている。

 

「ティダニア王国にはもう一生帰ってこない、ということではない……と見てます。なら、帰る場所があったっていいじゃないですか」

「そ、そうです。その通りです、トゥーナさん。ここはオーリさんのお店なんですから、僕達が守っておきます」

「何より従業員三人の内二人を予告も無しに路頭に迷わせるのは良くないと思います」

 

 ……確かに。

 ぐ。トゥナハーデンに「人間ロールプレイ」の指摘をされてしまった。

 確かにそうだ。トゥーナは論ずるまでも無く、そしてリコ君は家があるから仕事が無くなっても問題ないでしょ、のつもりで突然言い出したことだけど、そういうのを度外視した場合、店主として最悪が過ぎる。「言ってなかったけど他の国で店開くからついてこないなら解雇ね」とか……未熟者の私でもわかる。

 

 悪徳業者だ──。

 

「でしたら、商品はそのままに、収益は二人の懐へ。経営は」

「僕ができます。そのあたりのことは全て頭に入っていますから」

「頼もしいですね。……そうですね、ふた月に一度、仕送りを入れますから、そこから二人で給料を分け合ってください」

「そんな」

「わかりました。……リコティッシュさん。これから、店の売り上げは落ちることが予測されます。ですので、私達の技術がしっかりと認められるまでは肖った方が良いです」

 

 あれ。あれあれ。

 い……いつの間に。トゥナハーデン……いやトゥーナ。いつの間にそんなに「人間ロールプレイ」が上手くなって。

 まるで等身大。まるで本当に「トゥーナ」という人間がいるかのような冷静さ。適当なところが一つも無い。

 

「じゃあ私は身支度だけしてきますね~」

「オーリ姉さん。言いたいことは色々ありますが、一つだけ」

 

 そう言って。

 トゥーナは──得意満面な顔を見せてきた。

 

 ……。

 

 そうか。神々とかの話を抜きにして、ここ最近の私は「オーリ」だの魔色の燕だので、逸脱寸前みたいなことをずっとやってきた。

 対し、トゥーナはずっと「人間ロールプレイ」をしてきたのだ。差がついてもおかしくは……いやでも私云万年やってて……。

 

「一つだけ、なんですか?」

「いいえ?」

 

 よし。

 わかったわかった。わかったわかった。わかったわかった。

 

「次会う時が楽しみですね、トゥーナ」

「ええ、そうですね」

 

 神として、とかじゃない。これは。

 これは、「人間ロールプレイヤー」としての戦い──!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。