神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「まぁ、妥当」

 "秘匿"の霧などお構いなしに乱入した「魔色の燕の長」。

 それとほぼ同時に現れたのが、蝶を模したマスクを付けた男性。

 

「──飛び入り。しかも二人同時とは」

「なんだぁ、示し合わせてたのか? いいぜ、相手になってやる!」

 

 イルーナさん、ヒトットさんと共に驚きながら、「魔色の燕の長」は「魔色の燕の長」で動かす。

 どちらかしか動かせない、なんて制約はない。

 

 だからまずは、小手調べ。

 踵で爆発させた無色の魔力。その推進力を用いてヴァイデンスに肉薄し、つま先で顎を捉える。

 感触は──液体のそれと同じ。水の魔力だ。

 

「ッ、疾い!」

「俺は無視かよ!」

「無論、君の相手は私だとも」

 

 聞いたことのない声。世界の記録を読む……のは、つまらないか。

 誰が勝つにせよ、面白くはしたいところ。なんせミ・パルティの熱気は今最高潮に達しつつある。

 

 水の魔力でクッションを作られて受け止められたつま先。そこから氷の魔力を流して、ヴァイデンスを凍らせる……前に逃げられた。

 シュタークはフィジカルだけだけど、ヴァイデンスはそこに加えて魔力操作が圧倒的に上手いな。加えて属性の判断や事象への対応も速い。

 なるほど、勝敗が見え透いているのも頷ける。

 

「無色の魔力と氷の魔力の同時使用……。成程、それなりに分の悪い戦いになりそうだ」

「体内に火の魔力を秘しておいてよく言う。お前、全属性使えるだろう」

「それを見抜くということは、君もだね」

 

 廻天法則を用いた投げ技と、精密且つ緻密で高速な魔力操作。全属性の適性持ち。

 感情結晶(後付け)の力じゃない、恐らくは血筋、あるいは継承された技術。──つまり、歴史だ。

 

 いいじゃないか。

 これがリルレルの要請である以上、ヒシカも余計な手出しはしてこないだろう。

 

 時代()か、歴史(お前達)か。

 偽・魔色の燕といいここの民といい、此度は心躍ろうものの多いことよ。

 

白蘭(ハクラン)

「!」

 

 ふわりと花弁が舞う。ミ・パルティに使われる運動公園全体を覆う花弁は、しかし途中で止まる。

 

「……光属性の固有魔法?」

「いいや。エルブレード歴において途絶えてさえいなければ、今もどこかに継承されているだろう技術だ」

「後、ろっ!?」

 

 また、水の魔力のクッション。けれど今回は足を止めることなく蹴り飛ばす。

 骨を折った感触はない。体内にも水のクッションを入れているのか。用意周到なことで。

 そうでなくては。

 

 吹き飛んだヴァイデンスは、しかし空中で何かに激突し、止まる。

 それは花弁。彼が視抜いた通り、光属性。そこまではあっている。だから──。

 

「空間固定用のッ──四重・天座の闇遮(ガン・シアデ・ペンタ)!」

 

 花弁のひとひらひとひらがヴァイデンスの身体に纏わりつき、その場での固定を行う。そこに突き刺さるはまたも光の礫。空間凝固の礫は、けれど咄嗟に張ったとは思えない強度の結界に阻まれる。

 そして彼もやられてばかりではない。運動公園中の水の魔力という水の魔力がこの場に密集し、私を貫かんと高圧水流を放ってきた。自身の結界で私は見えていないはずだけど、なんらかの手段で感知したのだろう、見事という他ない。

 ただし、当たる前に全て凍らせる。その頃にはヴァイデンスも闇の結界を解いていて、しかも光の花弁からも抜け出している。自分の中の光の魔力で中和したか。センスがいいな。

 

「──不謹慎だが。……残念ながら、ミ・パルティにおける殺しは禁止されている。……本気の君と戦ってみたかった」

「自信は? 何秒耐えられる」

「二秒」

「良い自己判断だ。ゆえに褒美をやる。──割れろ」

 

 罅が入る。水晶玉の罅。

 ゆえに、これより、修復までの時間に起きたことは全て「無かったこと」になる。

 周囲、集まっていた面々も、シュタークも謎の男も、アシティス全体までもがテールグリーンに染まる。

 

「二秒後のお前は何も覚えていない。不満は?」

「無い!」

 

 突進。否、全身に七色の魔力を纏っての……スライディングキック。

 黒白相克と似た現象が起きる。即ち食み合い。換期法則と万化法則により、相反する魔力が反発を起こして強制的に「中心点」を作る。

 

 ──ああ、それなら、見覚えがある。

 懐かしい。途絶えた技──途絶えたと思っていた技。

 

「アードウルグ歴、28600年。カーファ隊長、アンタの護ったものは、しっかりと血脈を継いだらしい」

翔王(シェイウォン)!」

 

 スライディングは、けれど空中へと逃げた私を追う。風の魔力による制御。その姿はまるで、天へと飛び立つ翠龍が如く。

 

黒祆(ヘイシェン)

 

 であれば同じ時代の技で返すのが礼儀だろう。

 こちらもまた足技。時間遡行を起こす闇の魔力を纏う蹴り。

 

 天を、空を、私を目指す星を──叩き、落とす。

 魔力は逆流し、絶技の全てがヴァイデンスへと戻り──。

 

 二秒。

 

 

 観客の目には、闇の結界を解いたヴァイデンスに私の蹴りが突き刺さったように見えたことだろう。そういう処理をした。

 鳩尾を捉えた蹴りは彼から意識を奪い、彼の身体は地へと落ちる。

 して、それはあちらも同じらしかった。

 

 耐えに耐えたのだろうシュタークが、防御姿勢のまま気絶している。

 対する謎の男は無傷。

 

「──飛び入り参加誠に申し訳ない。が、ちょうど二人残った。これはこのまま、私が白陣営で、あちらが黒陣営ということで良いかな、運営委員会」

「問題ありません。ですが、その前に二人を運ばせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだとも。戦士には栄誉を。敗者だとしても、生きるための活路を」

 

 謎の男の言葉によって運ばれて行く二人。

 ……いつまでも謎の男、じゃあ面倒か。

 

「名乗れ、仮面の」

「仮面は君も同じだろう。黒白の羽織に赤の仮面。──魔色の燕」

「だからそちらに名乗れと言った」

「そうかい、それは察しが悪くて申し訳なかったね。私のことは……そうだな。キングとでも呼んでもらおうか」

「随分と自信過剰な奴だ。なら、私はクイーンとでも呼ばれようか?」

「謙虚だね。自ら権力を抑えるとは、」

 

 二人の撤去が終わったので、仕掛ける。

 事前情報無しの、少なくともシュタークに無傷で勝利できる人間。

 

 最初は、不意打ちだ。

 

「おっと」

 

 非接触状態での攻撃停止。何か纏っているな。

 ただ、魔力は見えない。──魔力以外で体に纏えるもの。歴史を変えれば光学迷彩やら量子スーツやらがあったけど、流石にそういうのではなさそう。

 となると……。

 

「加護持ちか。それも、かなり手厚い加護を受けているな」

「わぉ、見抜くのが早いよ、クイーン」

「正式に手先を雇ったか、フォルーン」

「……バレるの早っ」

 

 権能で物と物を隔離させる、などフォルーンかトゥルーファルスくらいしかやらない。知識も伝えないとダメだよ、フォルーン。

 私の「人間ロールプレイ」をやめさせない、とか言って尽力しているみたいだけど、どうやったってあなたは指し手にはなれないと知れ。

 

 視る。

 ──やはり、混入物。なりふり構わなくなったか。

 

「一応、聞いてはおこう。自身が何をさせられ、何を相手にしているのかわかっているのか、異世界からの来訪者」

「げ、そんなことまでバレて……。いや、いや。大丈夫。僕……私には神様の加護があるんだし。そう、えーと、で。何を相手に、だっけ? わかっているよ、クイーン。私が相手をしているのは君だ。魔色の燕を騙る者。悪の親玉。世界の(──)。勇者と魔王を裏で操る黒幕」

「そうか」

 

 一瞬でも期待した私が悪かった。

 謝るよ。

 

「名を聞く意味も、理由もない。──元居た場所にでも還るといい」

「へ──」

 

 消す。

 記憶からも、世界からも。殺してはいない。

 無論、元より死んだ魂であったのなら、知らないが。

 

 ……なんだ、折角出てきたのに、面白みのない最後で終わってしまった。

 これは……もう少し作るか、盛り上がり。

 喚ぶ。

 

「え……う、わ」

「責任を取れ、フォルーン。なに、私は人間の域を越えないでいてやる。存分に暴れろ、流離の神。──底が知れたら、お前の最後と知れ」

「っ──」

 

 浮遊させていた光の花弁をドーム状になるよう敷き詰め、半円状の結界を作る。

 今しがた召喚したフォルーンにはキングの恰好をさせた。強制的に。

 

 私は言った。

 次会う時、あなた達がそうでなかったら、私はあなた達を作り直す、と。

 

 自分の好きなタイミングで出会えるなどという妄言を抱えていたわけでもないだろう。

 性懲りも無く異世界から人間を呼びこみ、それに加護を与えてここへと送り込み、様子見をさせる、など。

 

 小物にも程があろうさ。

 

「存分に、と。そう言った」

「ぁ……ぐっ!?」

 

 どうせ仮初の肉体だと油断したか。

 案ずるなかれ、それはおまえの精神に直結している。お前たちの"磁"は私が有しているのだから当然だろう。あるいはそんなことも知らないか、ブレイン気取り。

 

 肌を切り裂く真空の刃。それを風の魔力で掻き消して、一歩、また一歩と近づく。

 

 直後、私とフォルーンは水晶玉の端と端にいた。

 "物を動かすこと"に特化した魔力。それが風の魔力。それを権能として司るフォルーンにとって、こんなことは造作もない。

 

 だから、私がその距離を二歩目で詰めるのも造作もないことだ。

 

 神に魔法名など関係ない。詠唱など関係ない。

 だからフォルーンは無言のままに権能を、嵐を振り回すけれど──なぜだ。

 

「なぜ、あなたは成長しない。成長をする人間をあれだけそばに置いて、冒険者などという最も成長するものをその目で見て来て、なぜ──生まれた時から、何も変わらない」

「──む、無理! 無理だよ! 無理に決まってるだろ! 人間なんかどれを見たって同じじゃんか! 成長するだって? 嘘だよ、どの時代をみても、どの歴史を見ても、人間はいつも同じだ! いつも同じことをしてる! 争って喪って傷ついて争って、ただそれだけの繰り返しだ! 学ぶところなんか一つだってありゃしない、母さんも母さんだ、そんなのに混じって何が得られるんだ、何がロールプレイだよ、それに何の意味があるんだよ!」

 

 言葉はそれっぽいものに変換して周囲にお届けしているけれど、観客の目には強大な風魔法を放ち続けるキングとそれを腕に纏う風の魔力だけで弾く私の図が見えているはずだ。

 うん、ちゃんと盛り上がっている。

 

「Folln」

「……もういい、殺すなら、そうすればいい。そうやって作り直して、自分の好みの奴になるまで何度も何度も繰り返せばいい。でもどうせ来ないよ、そんな日は。母さんが考えているほど……期待しているほど、人間に可能性なんてないから」

「リルレルが、庇ってくれるってさ」

 

 理解した。

 他の神とフォルーンの違いを。

 

 ──"おやばなれ。まだ、できない。フォルーン、こども。まだ"

 ──"一度()()()()()()。リルレルが充分だって思ったら出して。それでもまだなら、それが最後"

 ──"おんじょう。ありがとう、まま"

 

 フォルーンの精神を抜いて、リルレルのもとへ。

 当然力なく倒れるキングの肉体。その右頬へ強烈なアッパーカットを食らわせて、ノックダウン。

 

 魔力の流れでこれが魔術対決だったことは皆わかっているだろうけれど、一見して魔法vs肉体みたいな戦いだったわけで、その肉体側が勝ったとあらば大盛況。大盛り上がり。

 ただ、申し訳ないけれど、駆け寄って来ている運営委員会のインタビューを受けるつもりはないので……キングの肉体を担ぐ。

 

「え。……あ、ちょ、ちょっと!?」

「そういうこともある」

「何が──!?」

 

 結界を解き、ヒシカの霧を越え、離脱する。

 

 さて……これでリルレルも重い腰を上げるかな。

 最古の神、リルレル。獣人のいた頃から存在する幼子。

 

 あるいは──今まで死に行った神々の全てを飲み込んできた、終帰の神リルレル。

 祝福の神、など。のんきな話である。

 

 

 

 

「あぶなかった。かんしゃ、いい。フォルーン」

「……リルレル」

「……? なぜ。はんこうてき、いし。りゆう、わからない。たすけたのに」

()()()、ギギミミタタママを唆しているのは──」

「ばか。ことば、だめ。おそわらなかった?」

「自分だけ安全圏にいると思ったら大間違いだよ、リルレル。母さんが君を特別甘やかしているのは、ちゃんと理由があるんだ。僕はそれを知ってる!」

「うん。ボクも、しってる。でも、フォルーン」

 

 口が、開く。

 

「フォルーン。なにも、しらない。ばか」

 

 そして、閉じた。

 そこにはもう、何も。

 

 

 

 

 熱狂と混乱の内に終わったミ・パルティ。

 とはいえ住民たちは派手な戦いを見れて満足だし、様々な屋台で交流も深めることができたということで、運営委員会はこれを「大成功で終わった」ということにしたらしい。

 実際大成功だったと思う。だって。

 

「こ……これ、全部ディーンさんが……?」

「一部の商品はイルーナさんや、前のお店の従業員が作ったものですよ」

「……凄い、すごい凄い! ウトナ・トツガナの冶金技術もあるし、こっちなんて……もしかしてタンナレッタ!? 嘘でしょ、現存しているものは国宝クラスしかないと思ってたのに……」

 

 ちゃんと従業員が一人増えたのだから。

 

「熱量の凄い方ですね~……」

「でも、働き始めのリコティッシュ君や初めてお店に来たカゼニスさんもこんな感じでしたよね」

「ああ、そういえば確かに。……というか、あれ? オーリさんって、確か定期的にカゼニスさんの呪いを」

「大丈夫です。作り方はトゥーナに教えて来ました。……従来通りの効果が出せるかどうかはトゥーナ次第なので、しばらくは突然の暴走に悩まされるかもしれませんが」

 

 とはいえ、救援要請は来ていないし、店は回っているのだろう。

 あるいはあっちはあっちで新しい従業員を雇う、とか。リコ君の経営手腕はなんなら私より上だろうから、ティダニア王国に帰国したら最大手装飾品店になっている可能性も無きにしも非ず。

 

「クラリスさん。そろそろ大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい。興奮し過ぎました」

「いえいえ。では、改めまして。私はオーリ・ディーン。この店の装飾品全般を扱っています」

「私はイルーナです~。水と風の魔力が得意で~、火は苦手で~。アクセサリーは、主に実用性のあるものばかり作ってますねー」

「クラリス・クラリッサ・クレイムハルトです。今日からお世話になります。魔力操作は、氷、音、闇を得手としている自負があります」

 

 すんごい適性。闇はクレイムハルトの血筋だろうけど、氷と音の複合属性使いは久々に見たかもしれない。

 ちなみにイルーナさんにはもうクレイムハルト姓のことを話してある。アスクメイドトリアラーとしてイルーナさんもクレイムハルト姓のことは知っていたようだったけど、「アシティスですから、大丈夫ですよ~」とのこと。まぁいざとなればどうとでもなるからね。

 

「クラリスさんはデザインのお仕事をしたいそうで。装飾についてをレクチャーしつつ、彼女独自のデザインを取り入れた装飾品も出して行くつもりです」

「いえ、ほんと、まだ駆け出しの身で……」

「大丈夫ですよ~。私も装飾品の知識なんて一切ない所からここまで来ましたから~」

 

 ちなみにそれは"改変"していない過去だ。

 イルーナさんが私の店に来た理由は変えたけど、彼女の資質に関しては触れていない。

 彼女は本当に装飾品の知識ゼロの状態でやってきて、リコ君と共に成長してきたのである。

 

「あ……それと、その、働く前に言っておかなければならないことがありまして」

「クレイムハルト姓のことなら知っていますし、気にしないので問題ありませんよ」

「私の姓……クレイムハルトは……って、え?」

「一国大虐殺の大罪人、クレイムハルト。かなーり昔のことですけど~、有名人ですからね~」

「とはいえ真相は()()()()()ザシアン・ゼシリアス・クレイムハルトに襲い掛かって、それを撃退したが故に起きた悲劇。ザシアンから手を出した相手は一人もいなかったので、正当防衛でしょう。鼻が折れようと顔が陥没しようと手足がもげようと襲い掛かってくる死兵相手に手加減しろ、なんてほうが無理です」

「──そ、……それ、本当、ですか?」

 

 ん?

 ……あ。

 

「オーリさんはやっぱり物知りですね~。私の情報網でも引っかかりませんでしたよそれ~」

「私達の……クレイムハルトの祖先は、やはり、大罪人などではない……んですか?」

 

 え、あれ、なんで知らない?

 隣国の歴史編纂者がしっかりとそれを記録していたはずだけど。当時の私が人伝にそれを聞くくらいには真実として広まっていたはずだけど。

 

 ……記憶処理する前に、ちょっと待ってね。時間停止して、漁るから。

 えーと?

 

 ……うん。うんうん。

 うーん。……うーん?

 ザシアンが逃げた国では真実が知られている。彼の子供も普通に暮らしている。

 その子供……その孫……その玄孫……。

 

 あった、記録の切れ目。

 ってまたエルブレード歴。ホント、あの22年は色々なものが失われ過ぎてて……。

 

 これは……記憶処理無しで良いかな。

 というかアザガネの中空長刀関連のこともあるし、いっそのこと風雨の故里(オルド・ホルン)に書庫でも作ろうかなぁ。世界の記録から「残っていてもおかしくない書物・記録・技術書」を転写して、それらが大量に貯蔵された書庫を。

 そうすれば理由付けも上手く行きそう。

 

「ええ。……そうですね。クラリスさんの働き次第では、歴史の一端をお見せすることも吝かではありません」

「それ、私も見れるんですか~?」

「構いませんけど、ティダニア王国にとって都合の悪い歴史も幾らかありますよ?」

「……やめときま~す」

 

 イルーナさんの目的は「監視兼報告」から「監視兼護衛」に変わっているものの、流石に「ティダニア王国にとって都合の悪い証拠」を見つけたら消さないといけないし、あったことを報告しに帰らないといけない。そこはもうアスクメイドトリアラーの根本理由なので変えられない。

 だから自発的に「見ない」という選択肢を取る。

 

「……ディーンさんは。……いいえ。私、頑張ります!」

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 

 それから三日。

 いやぁ。

 

「売れ行きが良い……」

「ですねぇ。デザインって大事ですねぇ」

 

 特にアシティスはお金持ちばかりだからだろう、シンプルで絶大な効果の装飾品より、煌びやかで華やかな装飾品の方が受けがいい。

 そしてクラリスさんの飲み込みの早さも凄い。私が教える各歴史の装飾……アクセサリーだけでなく、織物や紋章だったりを覚えて、飲み込んで、アレンジして、さらにアシティス受けするように工夫して、且つ自分の作りたいものも損なわないで……という「創作における理想像」みたいなデザインを返してくる。

 駆け出しなのは事実なのだろう。でもそれは経験と知識が足りていないだけで、技術とセンスは超一流だ。

 彼女を雇ったのは正解だったけど、この様子なら自分で店を開く日も近いんじゃないかと思えて仕方がない。

 

 加えて、アシティスという土地も彼女と相性が良かった。

 ここは亡命者の都。泣く泣く生まれ育った地を離れて来た者も多い。

 

 そこに登場するのが私の知識とクラリスさんの復元技術だ。

 

 売れる売れる。飛ぶように。

 

 無論、アシティスだからこそでしかないのはそうだ。

 他の地で彼女の装飾品を売ろうとすると、耐久性能に難があり過ぎて売れないだろう。

 外敵が居らず、外に出る冒険者の少ないアシティスゆえの売れ行きだ。

 

 でも多分、過去最高の売り上げである。

 

「やっぱり、学ぶことは多いですね」

「ですね~」

 

 私の場合は「人間に」だけど。

 

 

 そんな感じで終わった三日目。

 店を閉じ、またどこかへ散策に行こうか、としていると、クラリスさんの方から声がかかった。

 

「あの……お二人がよろしければなのですが、クレイムハルト(うち)でお菓子と夕食など……どうですか?」

 

 イルーナさんと顔を見合わせ、頷く。

 

「是非」

「やったー」

 

 不肖、名の知られぬ創世神。

 もてなされるのは大歓迎である。

 

 

 市場、大通りを抜けて、アシティスの中でも高級な部類に入る住宅街へと進んでいく。

 元王族、元皇族。あるいは未だ継承権を手放していない……つまり現国家元首までいる区画の、奥の奥。

 

 そこにクレイムハルト家はあった。

 

「……わ、大きいですね~」

「大きいだけですよ。使っていない部屋もたくさんあります」

 

 それを含めて大きいと言っているんだけど。

 にしても、大罪人として逃げて来たにしては大豪邸だな。……クラリスさんが知らないだけ、とか? いやそれならあんな反応しないか。

 あるいはヒシカの方針かな。ありのままで。彼だってクレイムハルトの顛末は知っているだろうし。なぜザシアンを国民全員が襲う結果になったのかまで把握しているかもしれないし。

 

 刀。

 

「……」

 

 甲高い金属音と共に、私の眉間を突き刺そうとした刀が二股の刃に止められる。

 

「お……お爺様!? 何をして……す、すぐにやめて、この人はお世話になってるディーンさん! 話したでしょ!」

「刀を戻さないのであれば、このまま折りますよ~?」

 

 二股の刃はイルーナさんのものだ。ソードブレイクに特化した剣なのだろう、もう少し捻るだけでポッキリと。

 

「……しばし時を止めろ、物の怪」

「ええ、構いませんよ」

 

 しわがれた声で、老人が言う。

 まだ扉の奥。暗がりから手と刀だけを出している老人。

 

「何が目的でクラリスに近づいた」

「近づいてきたのはお孫さんの方です。この耳飾りのデザインが気に入ったそうで」

「……クラリスらしい。が、物を見る目はあるのに人を見る目が無い。……物の怪。クラリスに手を出してみろ、死後の苦界まで呪い続けてやる」

「お好きにどうぞ。とはいえ、私より先にあなたが苦界に行きそうですが」

「抜かせ、物の怪。必ず道連れにする」

「それは楽しみですね」

 

 時間停止を解く。同時、刀が引かれていく。

 ソードブレイクは諦めたらしいイルーナさんは、けれど警戒をやめない。

 

「──ひょひょひょ。すまんかったすまんかった。そう怒るな、娘子」

「お爺様! もっとちゃんと謝って! 私はまだディーンさんの所で働きたいの!」

「……オーリさんに攻撃した理由を聞かない限りは、警戒は弱められませんね~」

「試したまでよ。クラリスの命を預かる勤め先が、こんな老いぼれの刀一つ止められなくてどうするとな」

「それで、ご感想は?」

「参ったわい」

 

 刀を降ろし、両手を挙げる老人。

 それでも警戒は弱めないイルーナさん。まぁ拾って居合抜き程度余裕の距離だからね。鞘無いけど。

 

「お・爺・様!」

「ひょ~、孫が怖い孫が怖い。悪かった、悪かったわい。どうかほれ、儂の切った爪一つでなんとかしてちょ。それでクラリスの解雇はなんとかならんかのぅ」

「──このクソボケ老人なんとかして、パパ!」

「おんどりゃこのクソボケジジイまたクラリスに迷惑かけとんじゃろ顔面膝蹴りィィイ!!」

「当たらんぞ~ひよっこめ。ほーいほーい」

 

 ん。

 ん……うん。

 

「わぁ、大きなお屋敷ですね」

「ですね~。これだけ大きいと、使っていないお部屋もあるんじゃないですか~?」

「……あ、は、はい。そうなんです。ただ大きいだけで……。じゃ、じゃあ私の部屋に案内いたしますので、どうぞこちらへ……」

 

 私の"改変"や闇の魔力を使わずとも、時間は飛ばせる。

 これ学び。

 

 

 なんか遠くの方でまだドタバタやっている音を聞きながら、通された部屋に入る。

 私の部屋、とはいっていたけれど、ティールームらしき場所で、寝室では無さそう。中心に置かれたティーテーブルには既にお菓子類が並んでいて、私達の後ろから入って来たお給仕さんがお茶を淹れてくれる。

 全員分のお茶を淹れ、下がろうとしたお給仕さんを、けれどクラリスさんが引き留めた。

 

「あ、ママ。待って、挨拶だけ」

「ママ……?」

「あら、まだ紹介していなかったのですか? 仕方のない子ですね。初めまして、オーリ・ディーンさん。イルーナさん。いつも娘がお世話になっております」

「いえ、あと少し経験を積めば自分の店を開くことも遠い未来ではない、というほどによくできた娘さんで」

「本当ですか? ふふ、嬉しい評価です。クラリスも、毎日毎日お二人のどこかどう凄いのかを私達に語ってきて……」

「わーわー! ママ、それ以上は良いから!」

「あらあら。引き留めたのはあなたなのに。でもお友達とのお茶の時間を邪魔するのも悪いし、おばさんはこれでお暇しましょうね。それじゃあ、楽しんで」

「ありがとうございます」

 

 今度こそ部屋を出ていくお給仕さん。

 もとい、クラリスさんのお母さん。

 

「……ママ?」

「あ、はい。今のが私の母親のエミリアーノ・エイミー・クレイムハルトです」

「な……なぜ、給仕の恰好を?」

「母の趣味です」

「そ……そうですか~」

 

 あ、イルーナさんが諦めた。

 

 さもありなん。

 そういうこともある。うん。

 そういう家族だっているよ。世界は広いよ、イルーナさん。

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