神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「できてないけどできてる扱い!」

 この国、ティダニアは巨大な国土を有している。王族制度こそ取っているものの、王族の姿を拝んだことのある国民なぞたかが知れている――そんなレベルの人口比率。

 当然一都市でしかない私の住むここに王族(かれら)が訪れることなんてないし、貴族ですらほとんど顔を見せない。まぁ物好きが一人常連に居はするけれど。

 そういうわけもあって、いわゆる「位の高い相手」というのは大体が騎士団、あるいは聖堂関係者になってくる……のだけど。

 

 一つの事実として、この都市には勇者がいる。

 貴族とは派閥を持つものだ。王族であってもその威信維持のために欲を持つものだ。

 つまるところ、勇者を抱き込みたいのである。なんせ勇者とは、あるいは単独で魔王に対抗できる存在。そうでなくとも人を集める性質を持ち、目を離した隙に一大勢力になっている、ということもままある。

 敵対とは言わずとも折り合いのよくない貴族に勇者が抱き込まれでもしたら。何かのはずみで勇者がそそのかされ、王国に反旗を翻しでもしたら。

 全ては勇者の気分次第。だからこそ騎士団という首輪をつけている……わけだけど、最近その騎士団も不穏な動きを見せていると来た。

 

 そうなるとどうなるか。

 

「侯爵……一応私は忠告しましたからね。ここは貴族のほとんど訪れない市井の店。無礼を働かれたとしても癇癪を起さないように」

「わかっておるわかっておる。お主、儂を子ども扱いし過ぎじゃろう」

「何歳から付き人やってると思ってるんですか。それを、しかも勇者が身に着けていたアクセサリーだから、なんて子供みたいな理由で似た装飾品を贈答しようとしてて、子ども扱いも何も」

「ええいうるさいわ! 店先で騒げばそれこそ迷惑じゃろう!」

「……侯爵に正論を言われるとムカつきますね」

「ここで雇用解除しても良いんじゃぞお主」

 

 リコ君、イルーナさん、トゥーナを店の奥に下がらせて、少し威圧の雰囲気を出しながら待機する。

 

 戸が開き、入ってくるは豪華絢爛な衣装を身に纏う男性。とその付き人。

 

「いらっしゃいませ」

「……ほぉ」

「閣下、お下がりください。相当な手練れです」

 

 あ、威圧が殺気に間違われたか。

 あるいはちゃんとした慧眼の持ち主か。

 

「客を害す店員などおらんじゃろ。それよりも……良い品揃えじゃの。贈答とは別に、儂のコレクションに加えても良いくらいの」

 

 会話で探り合いをするのも面倒なので、世界の記録からこの二人の情報を漁る。

 モリージ侯爵。その付き人コアナク。付き人兼護衛であり、前侯爵に差し向けられた刺客……子供で……。

 

 ……魔色の燕?

 

 心の中でため息を吐く。

 どういう巡り合わせか。クロウルクルウフが干渉でもしてきているのか。あの子は良い子だから絶対しないと思うけど。

 ともかく……幼少期を「魔色の燕」として過ごし、侯爵暗殺に失敗し、その場で死のうとしたところを助けられ、現侯爵の付き人として……ねえ。

 それが私のもとに。

 

「これを作っているのはお主か?」

「いえ、数人の店員で製作しております」

「ほうほう。このジュンガッファの宝石と、それについた花の意匠……これはトツガナ・タルヴァ王朝の頃の品に見えるが……本当に店員が作ったのかね?」

「トツガナ王朝崩壊期の意匠を汲んでいることは認めますが、決して盗品や骨董品ではありませんよ」

 

 貴族だ。さぞ歴史には詳しいんだろう。

 加えて、先ほどの口振りからするに美術品好き。

 この店にある私の製作物は大体その時代その時代で流行った柄を取り入れているから、見る人が見れば骨董品に見えるのも致し方のないことだとは思う。

 むしろわかってくれて嬉しい、という感情も持ってみようか。その方が「ぽい」だろうし。

 

「トツガナ王朝の装飾品製作技術を受け継いでいるのかの?」

「あの時代の製作技術は然程特別なものではありませんよ。確立はヒストアジークの頃ですから」

「ほーぉ。……ほーぉ。コアナク。勇者の付けていたペンダントと似た意匠のものを探してこい。儂は少し、このお嬢さんと話がしたい」

「ダメです。死にますよ、閣下」

「では聞くが、お嬢さん。お主は儂を害するか?」

「迷惑なお客様でない以上は、私からすることはありませんね」

「無礼を働かぬよう儂が気をつければいいだけ、ということじゃな」

「普段無礼しか働いてないような人が何言ってんですか……!」

 

 さて。

 しかし、ここでこの侯爵と歴史談議に花を咲かせるのもナシではないけれど、それだと他の客が入ってきづらいだろうし、何よりそこまでの興味がない。

 ここはさらっと勇者のペンダントと似た感じのを出して──。

 

「ウトナ・トツガナ。血縁か?」

「いえ。ですが、名前は知っていますよ。装飾品店を営むにあたっては当然ですが」

 

 表情も眼球も動かしていない。声色も変えていない。

 雰囲気というのも意識した。

 

 しかし、ピンポイントに当てられると流石に称賛が出そうになる。

 今のはトツガナ王朝崩壊期……六千年も前に名乗っていた名前の一つだ。王族の六女。権力も無ければ期待もされない位置に落ち着いた私は、お金だけは使える、という点を最大限に利用し、鍛造界隈に革命を起こした。いや言い過ぎた。新風を巻き起こした、程度だ。

 従来の炉で行う鍛造法から、魔力で行う鍛造。これによって彫金、錬金にも影響が出たし、武具防具の作り方も根本からの変化を見せた。

 無論、従来のやり方が死ぬことはなかったし、魔力操作に長けた者しかできない鍛造法だったから主流にはならなかった……けど、歴史には残ったはずだ。

 ただ、その方法の起案者の名を知っているとまでなると、このお爺さん相当な物好きだな。加えてケースに入ったジュンガッファの宝石を本物だと一発で見抜いているし。

 

「できるのか。彼女の彫金が」

「はい。でなければここには置いていません」

「ふぅむ。──年、大金貨六十枚。それで儂に雇われぬか?」

 

 ざわつきは二つ。バックヤードのリコ君イルーナさんと、付き人コアナク。

 

「お断りいたします。そこまで気に入って頂けたのであれば、この店に足繫く通っていただければよろしいかと。具体的な依頼があれば新しいものも作りますよ」

「……八十枚」

「値段の問題ではありません」

「百枚でどうじゃ!」

「良いのですか? 止めなくて。──無礼と見做しても構いませんが」

「閣下。……それ以上我儘を続けるのであれば、私の命を差し出すのと同義と捉えてください。瞬きの間だけであれば時間を稼ぎます」

 

 折角良い目をしているお爺さんだけど、少し面倒くさい。

 加えて私はこの意味の無いやり取りを続けても無益とは思わないんだけど、後ろがね。

 リコ君もイルーナさんも少し殺気立っているし……何より危ないのはトゥーナだ。あの子は神々の戦争と自分以外が、私の行動を阻害することを酷く嫌う。独占欲。ディモニアナタが対外的にアレなら、トゥナハーデンは内面的にアレである。

 うん、お母さんは何も言いませんよ。

 

「あれ、モリージのおっさんじゃん。こんな外れに来るとか珍し」

「だぁれがおっさんじゃ! 無礼……ぬぉ!?」

「ジジイと呼ばないだけ感謝されてもいいくらいだろ。つーかここで問題起こすとかやめてくれる? ここ俺のお気にの店なんだよね」

 

 青年。助け舟となった彼は、ここの常連の一人であり、貴族。

 爵位は男爵と、侯爵よりかなり格落ちするものであるが──平民上がりで貴族になった、その経緯が口を噤ませる。

 

「天竜殺し……お主こそなぜこのような場所に!」

「だからお気にの店なんだって。オーリちゃん、今週もいつもの奴頼むわ。俺新作見て回っからよ」

「はい、カゼニスさん。いつもありがとうございます」

 

 武功。武勲。

 天竜と呼ばれる世界に数体しかいない災厄。それを単身で殺し切った、紛う方なき「英雄」。この時代における「人間ロールプレイ」を「逸脱しないようにする」ための基準値の一人。

 そして──。

 

「お、これ何?」

「リコ君、カゼニスさんへの説明をお願いします」

「はい。これは『アスカヴィルの突嚢』と言いまして、周囲の水を吸い込みます。といっても海や川に沈んで問題ない、というほどではなく、どちらかというと雨の日などに──」

 

 大の「新作好き」である。

 ほら。「新作」とか「期間限定」とかついていると買いたくなってしまう人。あれの最上位。

 天龍討伐の報酬金がとんでもない量あるらしく、たとえ自分が使わなかろうと新作は買っていく変人。加えて超限定的な実用品なども購入していく太客。

 また、彼に刻まれた「ある呪い」の緩和のための装飾品も定期的に買っていくので、ぶっちゃけこの店の四割くらいの売り上げが彼から出ている。

 

「……これ以上は、じゃな。すまんな、店主。勇者レイン・レイリーバースの身に着けているペンダントに合うアクセサリーを三つほど見繕ってくれぬか」

「はい」

 

 毒気が抜けたか、熱が冷めたか。

 もしくは、付き人コアナクが大事か。

 とにかく突然大人しくなったモリージ侯爵は効果の薄い装飾品を購入し、とぼとぼと店を出て行った。最後まで警戒を怠らなかった付き人コアナクも、馬車に乗って移動するそのギリギリまでこっちを警戒して……去って行く。

 

 あとに残されたのはリコ君とカゼニスさんと、そしてようやく一息ついた、という感じに出てくるイルーナさん、トゥーナ。

 

「あれ? オーリちゃん、従業員増やしたの?」

「はい。私の親戚で」

「へえ! あ、俺カゼニスっていうんだ。この店とはマジで長く付き合うつもりだから、よろしくね~」

「よろしくお願いします。トゥーナと言います」

「トゥナハーデン様から肖ったのかな? ご両親が農家だったり? にしては主武器弓っぽいけど」

「農家の娘が弓を武器にすることなど普通ではありませんか?」

「ん~……ま、狩猟もするか。そだね、そういうことにしておくよ」

 

 ありがたいことに、カゼニスさんはこの店を愛している。

 だから新たな従業員と聞いてトゥーナを見極めようとしたのだろう。

 

 そして──何か見抜かれたな。まったく、「人間ロールプレイ」がまだまだ未熟だからだ。私のように完璧にしていなければ、そりゃ達人にはわかられる。

 

「トゥーナちゃんが作ったアクセサリーはまだないの?」

「あ、まだ製作途中で」

「そっか。できるのいつ頃そう? その時にまた来て買うよ」

「あと四日もあれば……」

「へえ、じゃあ結構即戦力なんだ」

 

 カゼニスさんは距離のつめ方が異常だ。ガンガンに行く。ただそこに下心とかはないし、相手が嫌がっていると察したら一瞬で身を引く。

 戦士なだけあって目が良い。勘も良い。

 

「カゼニスさん、これ、いつものです」

「お、ありがとー。……あ、そうだ。一昨日だったかな? ちょっとドーンの方に行って来てさ、宝石かどうかはわからないけど、こんな石採って来たよ」

 

 カゼニスさんに呪いを抑える装飾品を渡す。小指に嵌める指輪で、効果はその呪いを抑えることだけに限定している。

 さて、お代ではないが、カゼニスさんが出してきたソレを見る。

 

「トツァの琥珀じゃないですか。これ、かなりの貴重品ですよ」

「あ、トツァだったんだ。樹液と色全然違うんだね」

「ええ、琥珀になると碧が混ざるんです。どうしますか? これを加工した装飾品もいくつか作れますよ」

「効果ってどういうのになるの?」

「鉱石をエリキシャラアルにすれば、攻撃時に自身の傷を回復させる効果を付与できます」

「え、最強じゃん。追加でお金出すからそれ作ってよ!」

 

 良いものだ。純度も高い。

 売ればまた大金が手に入るだろうけど、そういうのよりアクセサリーに興味があるのがカゼニスさんだ。

 

「あのさ、ダメだったらきっぱり断ってくれていいんだけど、作ってるトコ見せてもらえたりしない?」

「構いませんよ」

「マジ? やった!」

 

 特に特別なことをするつもりもないし、快諾する。

 ただエリキシャラアルの在庫が……ちょっと足りないから、創るかぁ。

 

「カゼニスさん、エリキシャラアルは有していますか?」

「少しなら持ってるよ。なに、在庫無いの?」

「はい、少し足りないようでして。オーリさんがまた()()()()()()()()()、それを売っていただくことはできますでしょうか」

「売るなんてとんでもない。むしろ装飾品作ってるトコ見せてくれるのに金払いたいくらいだし、俺が持ってても使い道ないから貰っちゃって」

 

 言って、アイテムボックスと呼ばれる魔法的拡張が為された袋からエリキシャラアルを出すカゼニスさん。

 ……トゥーナめ。創り出せばいいものを、お客さんに材料を出させるなんて。

 

「では、始めますね」

 

 潤沢になったエリキシャラアルを風と水の魔力で浮かせ、火の魔力……と、一般には知られていないけど熱の魔力で過熱していく。

 私の手の上で浮くそれはリング状を取り、閉じたり開いたりを繰り返して広く薄くなっていく。

 

「うわすげー魔力操作……王城の爺さんたちが見たら腰抜かすよこれ」

「あ、カゼニスさんもそう思いますかー? ですよねー、いつ見ても綺麗で」

 

 雷と風の魔力で極細の槍を作り、先ほど作った薄いリングに穴を穿つ。雷の魔力が通り抜けた場所には螺旋状の傷が刻まれ、そこに土の魔力でコーティング。

 光と闇を混ぜて作った混色の魔力と無色の魔力で時間停止と浄化を繰り返しつつ、人間の手ではどうやったって再現できない圧力をエリキシャラアルに加えていく。

 

「Ureganus towen ohettik ow ukin.」

 

 いつもの製作時には使っていないから違和感を持たれるかもだけど、一応詠唱はしておく。

 それを皮切りに起こる変化は二つ。

 一つはトツァの琥珀が薄く、平べったくなっていっていること。

 もう一つは、熱の魔力が氷の魔力に姿を変え始めた事。

 

「すげえ……」

 

 さて、仕上げである。

 もはや全魔力の暴風雨、その中心点になっている装飾品。

 

 これに対し、音の魔力を流し込んで、波を作っていく。平べったくなったトツァの琥珀がエリキシャラアルにへばりつき、完全に結合する。

 元々土の魔力でコーティングされていたエリキシャラアルの表面に刻まれる波。それは文字を描き、失われた言語ではあるけれど、「星の河」という意味を持つ呪言を刻み付けて……完成。

 実は私の作る装飾品の全てにこの文字は刻まれている。一見模様にしか見えないようにしてあるし読める人間はもういないから問題ないだろうけど、なに、銘打ちみたいなものだ。

 

「完成です。どうぞ。『トツァの腕帯革』です」

 

 今しがたできたばかりのそれを渡す。腕、どちらでもいいけど二の腕のあたりに巻くベルト。

 トツァの琥珀は樹液だけど、エリキシャラアルは確実に鉱石だ。それがこれほどの柔らかさになっていることに着目してほしいのと同時、その「フィット感」に驚いてほしい。

 

「……俺の腕の太さと全く同じ……だけど締め付け感もないし、腕の可動域を下げるわけでもない」

「はい。エリキシャラアルは別名『万能塑材』。一定の魔力を流し込むことであらゆるものと結合し、あらゆる硬度になります。それほどの柔軟性を持つにもかかわらず、天龍の顎の力であっても受け止められる硬度を見せますよ」

「え、もう一匹倒せって言ってる?」

「倒したらこの店の新作買い放題ですね」

 

 さらにトツァの琥珀。樹液の効果は前述したばかりだけど、琥珀クラスになると増幅効果や反射効果なども持つ。さらに刻んだコーディングと呪言が先ほど言った「攻撃時に回復する」を発揮し、本来「一回しか起動しない効果」を琥珀が反復させる。

 

「これ大丈夫?」

「何がですか?」

「国宝クラスじゃない? これ」

「素材が素材ですからね。技術自体は時間をかければ誰にでも……」

 

 リコ君、イルーナさんがぶんぶんと首を振る。トゥーナはできるだろうけど、まだ装飾品作りに慣れていないからだろう、小さく首を振った。

 

「らしいけど」

「まぁ私くらい魔力操作ができれば誰にでもできます」

「そんな人数えるくらいしかいないんじゃないかなー」

 

 マズイ。

 折角魔色の燕でギリギリできてた「人間ロールプレイ」を、こんなところで逸脱したか?

 

 ……いや!

 できる人はいる! 大丈夫!

 

「あ、そうだオーリちゃん、ここまでやってもらっといてアレなんだけどさ」

「代金が足りないですか?」

「いやそっちは大丈夫。ちょっとついてきてほしい場所があるんだよね。……ってことでオーリちゃん借りても良い?」

「……なんで僕に聞くんですか?」

「一番嫉妬しそうだから」

 

 明け透けだなぁ。

 リコ君ははぁ、と大きな溜息をついて、「僕に決定権はありません」と言った。

 

「いいですよ。お店が閉まってからで」

「いえいえオーリさん、もう行ってもらって大丈夫ですよ~」

「イルーナさん? 休日はもう取りましたよ」

「そうじゃなくて」

 

 その目が……燃えている。

 見れば、リコ君も。そしてトゥーナまで。

 

「創作意欲が」

「ああ」

 

 ちゃんとクリエイターだ。

 そういうことなら、先達として邪魔するわけにはいかない。トゥーナも着々と装飾品に興味を持ってくれているようで何より。

 

「なら、少し出てきます。先程のように貴族様が来たら」

「ああ俺の名前出して追っ払ってくれていいよー。使いどころのない爵位だし、武勲ってのはこういうところで見せびらかしていかないとね」

「ありがとうございます」

 

 では、そういうことで。

 私はまた正午にもなっていない時間に、店を出ることになった。

 

 

 カゼニスさんの目的地は都市の外にあるらしく、馬車を使って移動する。

 本当のことを言えば二人とも走った方が早いんだけど、私は一応隠している立場だし。

 

 にしても、本当に何用だろう。

 

「オーリちゃんはさー。天龍と地龍の違いってわかる?」

「はあ。空を飛ぶか地を這うか、では?」

「まぁそれは勿論なんだけど、そこ以外で」

 

 唐突な話題振り。

 真実を言うなら、そもそも種類が違う、になるんだけど……そういう話じゃない、気がする。

 

「知性があるかないか、でしょうか」

「お、せーかい。そうそう、地龍ってのは飛べないのもそうだけど、基本的には野生動物と同じなんだよね。腹が減ったら食って、眠くなったら寝て。だけど天龍って奴らは違う。あいつらは人間並みか、あるいはそれ以上の知性を持ってる」

 

 そりゃそもそもの脳の出来も種族も違う。作り出した経緯も違う。

 当然だ。

 

「お、ここだ。おーいおっちゃん、ここで止めてくれ。帰りは自分たちでなんとかするから」

 

 言って馬車を止めさせて、降車するカゼニスさん。

 私も降りる。当然馬車はそのまま街道を走っていってしまう。

 

「天龍の倒し方は三つある。一つが討伐。俺がやった奴ね。んでもう一つが調停。こいつは捧げものなんかをして鎮まってもらうって方法だ。そして最後が──」

 

 森の中を通っていった先。

 そこに。

 

 青い龍が、いた。

 身体に突き刺さるは魔法の槍と鎖。

 

「封印。倒せねーから封印して後世に託す、ってやつ」

「はあ」

「ただなぁ、俺が倒した紫龍は相性が良かったから勝てたようなもんでさ。この蒼龍は無理なんよ。で、この封印は今にも解けそうと来た。やべーでしょ?」

「そうですね。そもそも誰がこんな場所に封印を?」

「魔色の燕」

 

 ……ここでもかぁ。

 うーん、ちょっと巡り合わせが合い過ぎかなぁ。

 

「責任取ってくれるよな?」

「というと?」

「いやいや、ここまで来て、しかも魔色の燕の名を聞いて何の反応も無しにとぼけるってのは無理だぜ、オーリちゃん」

 

 確かに。

 く、「人間ロールプレイ」として天龍を見た時点で腰を抜かすべきだった。「魔色の燕ムーブ」が抜けきっていなかった。

 

「噂にはなっててさ。この国、っつーか都市に魔色の燕の構成員が紛れ込んでる。そいつは歴代でも最強と言われる程で、初代と同じく黒白の魔力を自在に操る、って」

「闇と光の魔力の複合属性持ちくらいたくさんいると思いますが」

「一目見た時から思ってたよ。俺は絶対アンタにゃ勝てねえ。へへ、あの頃は天龍倒してチョーシ乗ってた俺がだぜ? こいつは剣士の勘って奴でもあるが……アンタ強すぎだよ。少なくとも一装飾品店の店主じゃ収まり切らないね」

 

 勘、か。

 相手の勘を封じる術なんかないしなぁ。そこは「人間ロールプレイ」の弱点だ。

 

 ただ。

 

「お断りします」

「あん?」

「私に天龍を傷つける意志はない、と言っています」

「……無かったら、いずれこいつは封印破って周辺の村々や都市を破壊しにいくぞ」

「ええ。ですが、その時はカゼニスさん含む冒険者や騎士団の方々が対応するでしょう? 私が何かをする理由はありません」

 

 そもそも天龍には役割がある。

 カゼニスさんに倒された紫龍も新生して力を貯め込んでいる最中だっていうのに、そこで蒼龍を、なんてのはバランスを壊し過ぎる。況してや私が、なんて。

 

「未然に防げる被害だろ?」

「見過ごして問題ない被害です」

「……あちゃあ、こりゃ参ったね。オーリちゃんは善人だと踏んで連れて来たんだけど……アンタ実はそういう性格なのか」

「オーリ・ディーンである内は平和を願っていますよ。ですが、あなたが今そう決めつけている相手であるのなら、理解はできるでしょう」

「魔色の燕。……金さえ払や、やってくれんのか?」

「私達は傭兵集団ではありませんので。それは私達を騙る魔色の燕にお願いします」

「傭兵じゃねえ。冒険者への依頼だ、つったら?」

 

 お。

 と。……口から出そうになった。

 

「魔色の燕。もう知ってる奴も少ないが、創設者は単なる冒険者パーティだって話じゃねえか。傭兵稼業で汚えことも平気でやる奴らが偽物だっていうんなら、依頼受けて人助けすんのが元来の魔色の燕だろ」

「良いんですか? 天龍殺しが他人に天龍殺しを頼むなんて。プライドとかないんですか?」

「俺のプライドが傷つく程度で大勢を救えるってんなんら、俺は俺のプライドへし折ってでも頭下げるよ」

 

 それは。

 

 それは、とても良い答えだ。

 

「わかりました。依頼料は、そうですね。オーリ装飾品店の常連になること」

「いやもうなってるよ」

「支払い、確認いたしましたので──」

 

 天龍から、封印術の鎖を全て抜く。

 目を剥くカゼニスさん。即座に背負っていた剣を抜き放ち──吹き飛ばされ、気絶した。

 高圧水流か。お腹に大穴が開かなかっただけすばらしい。ちゃんと魔力耐性も鍛えている。

 

「……何を血迷ったかは知らないが。……解放に、礼を言おう、ヒト。お前だけは殺さずに残してやる。だが……我をこの地に縛り付け、況してや力を奪わんとした人間を」

「解放したとは一言も言っていない。言っていないし、主の顔を忘れるとは何事?」

「主? ……なんだ、気狂いか? 我がヒトのもとにあるなどあり得、」

「エントペーン。あなたの知性がその程度であるのなら、新しく作り直してもいいのだけど」

 

 一歩踏み込めば。

 一歩後退する天龍。

 

「……ヅィン?」

「耄碌したね、本当に。それとも魂も見れなくなっちゃったの?」

「なぜ、ヒトの姿など……」

「趣味だけど」

「……ここはヅィンの縄張りなのか?」

「そうだね。今はこの辺りを縄張りにしているよ。無論、世界の全てが私の縄張りだけど」

「ああ、それは疑いようもないが……ああ、そうか。それならすぐにでもここを立ち去ろう。すまなかった。どうか気を荒立てないでくれ」

 

 蒼龍・エントペーンは、低い姿勢で後退り、今にも立ち去らんとしている。

 やっぱり聞き分けは良い。紅龍の子とかだと話通じないんだけど、この子はちゃんと分別付けられるし。

 

「行く前に聞かせて欲しい」

「なんだ?」

「貴方を封印した集団。どんな格好をしていたか覚えてる?」

 

 飛び立たんとしていたエントペーンを引き留めてそれを聞けば。

 

「昔のヅィン……魔王を倒してしまった時のヅィンの恰好によく似ていた」

「ん、ありがと。それじゃ、この辺にはあんまり近づかないようみんなに言っておいてね。別に他の地域で人間をどうこうするのは構わないからさ」

「承知した。……ヅィン。出来得ることなら、縄張りは縄張りであるというしるしを立てて欲しい。お前には匂いがない。我らでは判別がつかないのだ」

「ああ。じゃあ、一目見て私のだってわかるものを敷いておくことにする」

「頼んだ。──ではな、ヅィン。くれぐれも癇癪を起さぬように頼む。これ以上世界が荒れ果てる姿は視たくない」

 

 ……信用ないね、私。

 そこまで癇癪を起したこと無いんだけどなぁ。

 

「じゃあね。エントペーンのことは討伐した扱いにしておくから、しばらくは静かにしてて」

「わかった」

 

 そうして飛び立っていくエントペーン。途中で身体を透明にして、誰の目にも映らなくなった。

 これで良し。

 

 それじゃ、気絶したカゼニスさんを背負って、近くの村まで行きましょうかね。

 馬車、あるといいけど。無かったら宿屋かなー。

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