神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
魔族と魔物の間には特にこれと言った関連性は無い。
ただヒトに害を為すから魔物で、魔族であるとされている。野生動物は魔物以外にもいるのだから。
「と、いうのが定説ですが、これは間違いです。ええ。魔族は初めから魔族であるとして生まれています。ではなぜ魔物が魔物という名なのか。これは単純に、使い回しだからです。我同情」
「……お前もウォルソンタイプなのか? 違うならとっとと結論を言ってくれ、セノグレイシディル」
「いえいえ、我は指し手殿と違って有益な言葉は吐きませんとも。ですが、結論を急くのなら、こうなりますな」
常に朗らかな笑顔を浮かべているセノグレイシディルが──口角を上げる。
邪悪な。邪悪な貌を見せる。
「関連性の無い種族であるにもかかわらず、魔物を操る、というその性質は──我ら神からしたらあり得ないものである、と」
「……もうちょっとだけかみ砕いてくれ。俺もお前と同じ馬鹿だからよ」
「いきなりの罵倒に我傷心。ですが、良いでしょう。つまり、
「ああ……そういうことか。魔族と魔物に関係がありゃ、操れるのにも、魔物しか操れないのにも納得がいくが、関係が無いからこそ魔物だけに限定される能力なワケがない……へぇ、おもしれえな」
計画の第二段階。
それを行うためのプランニングを、何故かセノグレイシディルと膝を突き合わせて行っているチャック。
トム・ウォルソン曰く、「お前達だけでやった方がいい。僕は保険を用意する」だそうで。
「あ? つまりなんだ、人間も動物や魔物と変わらねえってか」
「それはYESでありNOですな。学術的に見ればYES、ですが、人間という種は指し手殿が仰っていたように"意図して不完全に作られた生命"。残念ながら
「そこの説明はいらねえからよ。具体的にどうやるのかの話をしようぜ、そろそろ。──虚構の神ライエルを罠に嵌めるってのは、どうやんだ」
「好奇心とせっかちが混ざり合ったような方ですね、チャック殿は。ええ、ええ。良いでしょう。では──」
コトン、と。
セノグレイシディルが、ボードゲームによく使われる駒を一つ出す。
「ああご安心を。そう嫌な顔をされずとも、盤面は出しませんので」
「……ああそう」
「ええ、そうです。ではまず、これをライエルと見立ててください」
「……急かしておいてなんだが、一個良いか」
「はい、どうぞ」
「虚構の神ライエルってのは、どんな神なんだ」
「おや? 指し手殿から聞いているのでは?」
「アイツのは全部憶測だからな。同じ神から見りゃ、見えるモンも違うんじゃねぇかって思っただけだ」
「良いですよ。知りたいと思う心は人間にとって大事なもの。我嬉しい。……そうですね。虚構の神ライエル。性格は単なる臆病者ですが、権能を見れば神々の中でも最強の名を得られる位置にいます」
「虚実を反転できる、って奴か」
「ええ。たとえば彼が、"神々は全員生きている"と知っていたとしましょう。それを反転させれば、"神々は全員生きていない"ということになるのです」
「……そりゃ、最強が過ぎる。何か縛りでもあるんだろ?」
「おお、想像以上に聡いですね」
馬鹿にされても、チャックは反応しない。
相手が人間であるならばともかく、神だ。チャックは殺人が好きなのであって神殺しには然程興味が無い。無いし、殺し方もよくわかっていない。
彼の中の快楽の食指が動かないのだ。
「その通り。"神々は全員生きている"を反転させたとしても、"神々は全員は生きていない"になるだけなのです」
「定義が曖昧だと漏れるってことか」
「ええ。そして、たとえば"チャック殿は生きている"を反転させたとしても、"チャック殿は生きていない"にはならず、"チャック殿は生きているかもしれない"、"チャック殿は死んでいないかもしれない"……と、無数の嘘が生まれます。そう、虚と実というのは表裏にあるものであるように見えて、解釈次第でどうとでも取れてしまう不安定なもの。だからライエルは自身の権能を使いたがりませんし、使う時は入念な下調べと他の可能性を全て潰してからにします。慎重な性格と言えば聞こえは良いですが、神としての振る舞いを考えれば、やはり臆病者がしっくりくるでしょう」
「……確かに。失敗を恐れすぎだな、そりゃ」
「ええ、ええ! そうです。そうです。直線バカもですが、神々の中には行動派と慎重派がおりまして、慎重派はそのほとんどが臆病者! 我のように積極的に動くことはなく、ただ与えられた権能の通りの役割を熟すだけの人形。……我は悲しいのです。そして恥ずかしい! 同じ神として、あまりにも──彼らは幼稚すぎる」
幼稚。失敗を恐れる神。
誰だって失敗はしたくないが、それは取り返しのつかないことが多い……つまり手の届かない事象の多い人間だからであって、少なくとも神を名乗る相手であれば傲岸不遜なくらいが丁度いい。
確かにチャックの中にもそういう思いはあった。
「話が逸れてしまいましたね。というわけで、ライエルは虚実の反転を慎重に行います。けれど、我ら神々の権能というのは本人の意思とは関係なく常時発揮されているもの。ですからライエルは日常的にどうなっても構わないことを嘯いていますし、その言葉の裏では物事を慎重に選定しています。ここまで言えばお分かりですかな?」
「何がだ」
「おや。……そうですね。我反省。そうでした。つまり、ライエルの身近な場所で、ライエルの言葉の一つで何かが変わってしまって、それがどうでもよくないことで、彼の想定と大きく外れるものだったとしたら……彼はどういう行動を取ると思いますかな?」
「……普通なら、元に戻そうとすんじゃねぇ?」
「そうです。元に戻そうとするでしょう。けれど、先ほど申し上げたように虚実とは無数の解釈があるもの。"一度反転させたもの"を"もう一度反転させた"としても、ライエルの権能では元通りになるかわからない」
「あー、だから、その結果がもっとどうしようもないものだったら、ライエルは思考停止して容易く捕まえられる、ってワケか」
「いいえ違います」
純粋な否定にチャックの心が折れかける。
「神はそんなことで思考停止などしませんし、人間とは思考速度も比べ物にならない程速い。さらにいえばライエルの権能が最強の一端を担うことに変わりなく、そのような手段で捕まえたとしても逃げられるか、返り討ちに遭うだけ」
「じゃあどうすんだよ」
「言ったはずです。我ら神々の権能とは本人の意思とは関係なく発揮されているものであり、且つ、ライエルは権能を使った先で反転させた虚が"どういう実"になるのかを観測できません。予測するしかないのです。ですから──ライエルにライエルを捕えさせることだって、可能と。そういうわけですな。我安堵。これで伝わったでしょう」
「……具体的な手段は?」
「ええ、ですからそれを我々二人で考えろと指し手殿は言ったのでしょう?」
「……」
「……?」
「……」
沈黙。
ええと。だから。
「……待て、無ぇのか、現時点で手段って奴は!」
「はい。我ノープラン。今から共に組み立てましょうと何度も申しているはずですが……我羞恥。言語の神としてここまで言葉が伝わらなかったのは初めてです。我号泣」
「嘘だろ……俺と同じくらい馬鹿な神と俺でンなモン考えつくわけねぇだろ、何考えてんだウォルソンの奴!」
チャックの頭の回転は早い。が、計略を立てられるタイプではない。
そして目の前の神は……なんというか、「神らしく」ズレている。
頼りにならなさそうなのだ。絶妙に。
「……クソ。ウォルソンが任せて来たんだ、アイツの頭の中には勝ち筋が見えてんだろうが、どうせ言わねえだろうし……あ? つか、そのための保険か?」
「ではないですか? 我らが何も思いつかなかった時のための保険。我悲しい。全く信頼されていないようです」
「それについちゃウォルソンは誰に対してもそうだから気にすんな。……あー。じゃあ、話し合いだセノグレイシディル」
「ええ」
「最初に話してた魔物の話。ありゃなんだ。アレが使えると踏んで話して来てたんじゃねえのか」
「無論、その通りです」
「……? じゃああるじゃねえか、策」
「いえ、指し手殿は我ら二人で考えろと言いました。我の策にチャック殿が乗るのではだめなのでしょう」
反論しかけて、けれど口を噤むチャック。
確かにトム・ウォルソンという男はそういうことをする。
口では面倒だのタイムロスだのと言っておいて……周囲を成長させようとするきらいのある男だ。
「いくつか聞いていいか」
「勿論」
「神ってのはよ、祈りを受け取るモンだろ」
「ええ、そうですね」
「虚構の神は誰から祈りを受け取るんだ?」
「嘘を吐く人間。誰かを騙す策略を立てる人間。そして、その嘘が明るみの元に出ませんように、と願う人間でしょうな」
「そういう祈りって奴は、なんだ。こう……目に見えるモンなのか?」
「ふむ。人間には無い感覚ですが、無理矢理言い表すのなら味に近いかと」
「それは、祈りによって味が違うとかそういうことはあるのか? それとも一律同じか?」
「ほう? 良い着眼点ですな。ええ、ありますよ。祈りは、信仰は、質や量、そして内容によって味を変えます。我のように祈りをあまり受け取らない神からするとわからない事ですが、信仰グルメ、などというものさえある始末」
「つまり、とびきりヘンな味の祈りが届けば、ライエルをおびき出すことは可能。そうだな」
「かもしれませんが……人間のあなたにも、権能の違う我にも、虚構の神がどのような信仰をどのような味で受け取っているかはわからないのでは?」
ニィ、と笑うチャック。
卑怯なことをやらせたら、この男は強い。
「損を嘆く人間は、これが夢ならいいのに……つまり嘘ならいいのに、って祈るだろ? なら、得をしたのに、これが夢ならなぁ、なんて祈るのはヘンだ。そうだな?」
「まぁ、一般的には。しかし月並み過ぎませんかな、チャック殿。そういう"明らかにおかしな祈り"というのは、質が低下します。ですから」
「だから、操るんだろ? 心の底から、精神の奥底から自身の損を願う人間を。魔族の力を使って、作り上げる」
「成程。それならば質は落ちず、且つおかしな味になるでしょうな。して、ライエルをおびき出す手段がそれで確立したとして、アレを捕える手段についてはどうですかな?」
「つまるところ、必要なのは二回の反転だ。まず、虚を実にする反転。その後、実を虚にする反転」
「ほう」
「そこに至るには、ライエルに"この光景が嘘なら良いのに"っって思わせなけりゃならねえ。……なんかねえのか、ライエルが大切にしているモンとか」
「ありません。述べた通り、彼は憶病で慎重。"お気に入り"などというものを作ってしまえば、結果がどうなるかを彼はわかっています」
「ならまずはそこからか。虚構の神に大切なものを創らせる。できりゃあモノより命が良い。取り返しのつかなさは命の方が一級品だろう」
「神が人間に入れ込むことはあまりないのですが……」
「いや、そこは大丈夫だ。いいか、セノグレイシディル。俺様の言う通りに動いてくれりゃあいい。──できるだろ?」
「成程、我を完全に利用しますか。よいでしょう。この言語の神、好きにお使いください」
クツクツと。
あるいは、ゲラゲラと。
笑いがこだまする。それが、ああ。
本心であるのなら、どれだけ。
それは、ライエルがあまりにもおかしくて純粋な祈りの正体を見に来た時のことだった。
「ああ、ライエル様! 本当に現れになられたのですね!」
「ライエル様……虚構の神ライエル様!」
「なんと神々しいお姿だ……ああ、ライエル様!」
すぐに引き返さんとしたライエルの判断は優れていたのだろう。
見せようと思っていなければ、神の姿が人間の目に映ることはない。だからこれは罠だと帰ろうとして──ソレを目にする。
「おいおい、やめてくれって。俺はそんな感謝を向けられる神じゃねぇよ」
「そんなことはありませんとも。あなたのおかげで、私達の事業は失敗しました! 感謝しかありません!」
「私も、夫が死にました。全てはライエル様のおかげです!」
などと、気色の悪い言葉を吐き連ねる人間たちと──自分。
滅多なことではしないけれど、人間の前に姿を現す時のライエルが、そこにいた。
「最近の人間は面白ぇなぁ」
「茶番とは、酷い言い草ですな」
「ん、ああ。セノグレイシディル。これやってくれたのお前じゃねえのか」
不機嫌を隠そうともせずに、気色の悪いやり取りをしている「ナニカ」と人間たちの上空で、二つの神が敵対する。
「そのように怖い顔をしないでいただきたい。我、ライエルにプレゼントを持って来たのです」
「くれるのか。そりゃいいな」
「おやそうですか? それは何故。我、心を籠めたというのに。我悲しい」
「あ? だから貰うっつってんだろ。くれよ、早く」
「そうですか。──ところで、眼下の光景。あのライエルに見える者は、なんだと思いますか?」
「んー。まぁ、母さんの人形かなんかなんじゃねえの」
「惜しいですね。正確にいうとアレは、アナタの運命を拝借して作り上げたイノチ。つまり、アナタの──」
瞬間、虚実が反転する。
"実"が"虚"になる。──セノグレイシディルとチャックの「策略」。その「結実」。
今まさに行われようとしていた策
ライエルは臆病だ。それでいて慎重で、強かだ。
だから、セノグレイシディルが暗躍していることも、ライエル自身が標的にされていることも知っていた。つい先日セノグレイシディルと決別した神、ヨヴゥティズルシフィからの助言があったのだ。
一直線の悪意がライエルに向いている、と。
だから──ライエルはクロックノックのこともちゃんと調べたし、そこの首魁が行おうとしていることも、自身を利用してヒシカを捕えようと、さらにはアシティスまでもを害そうとしていることまで掴んだ。
ライエルの権能は強力だ。けれど弱味がたくさんある。狡猾なセノグレイシディルがそばにいるのなら、何をしてくるかの想定がつかない。
だから彼は初手で封じたのだ。相手の出方を見るのではなく、相手を出られなくした。
「は?」
「ふん、やはり馬鹿は馬鹿なりの使い道があって助かるな。さて、初めまして、虚構の神ライエル。僕はトム・ウォルソンという者だ」
けれど、捕えられていた。
いつの間にか。わけのわからない手段で。
解析のできない方法で。
「あの馬鹿二人が妙策など思いつくはずがないからな。だからあの二人は、君をおびき出すところまでを考えて、その後を放棄した。無かったんだよ、策なんてものは」
チャックとセノグレイシディルは、考えに考えて考え抜いて──諦めた。
どうやっても虚構の権能に勝てない。何時間討論しても糸口が見つからない。
だから、無策。
「あの二人は無策だった。それを
朗々と"説明"をするトム・ウォルソンを無視して、ライエルは逃走を試みる。
けれどできない。何故か権能が発動しない。
「それも君がやったことだ、ライエル。逃げることも、虚実を反転させることも、僕の支配下になり、そこから抜け出せない状態になることも……全てを成立させたのが君だ。僕だと最低限の策を考えてしまうから、それを反転させられたら明後日の方向へ転がっていたことだろうけれど、あの馬鹿共は完全なる無策で挑んだ。だからこそ僕達が欲しい結果を全て手に入れることができた」
「……俺は何もしねえよ」
「ヒシカだ。秘匿の神ヒシカを呼び出すだけでいい。簡単だろう? 何故なら君達は仲が良い。仲が良いことになっている。──神も、人も。全ての下準備を君が整えてくれたのだから」
ライエルとヒシカは、権能が似通っているというだけで大して仲のいい関係ではない。
はずだった。けれど、自覚として──ライエルはヒシカと仲が良いと考えている。
この感覚には覚えがある。
つまり、虚構の権能が想定外の働きをした時の感覚だ。
「さて──あとは、すべてのことをあることにしていってくれたらいい。君は間違いなく最強の神だ。それを間違えることなく運用できる
「ハ」
と。
ライエルは嘲笑する。
世界を意のままに、など。随分と幼稚な夢を吐くものだと。
そんなことで「彼女」が手に入るものかと。
自信満々に策を零し続ける「トム・ウォルソン」に、ライエルはあらん限りの罵声を浴びせた。
「と、どうですかな、指し手殿。ボトルシップならぬボトルライエル! ああ、中に居る指し手殿は適当な人間を魔族の力で洗脳したものですので、本来の性格とは幾分離れてしまってるのは悪しからず」
酒瓶。
その中に入った、虚構の神ライエルと、「トム・ウォルソン」。
「……上出来だ」
「へぇ、珍しい。ウォルソンが相手を褒めるなんて──この計画は失敗すんじゃねーか?」
「なら訂正しよう。馬鹿にしては上出来だ、チャック」
「んだとテメこら」
けれど、それでも褒めていた。
考え得る限りで最上位の結果を持って来た。運の要素がかなり強かったが。
「アシティス内部の人間が、ストレスを抱えていることにした。ヒシカが近々ライエルに会うことを楽しみにしていることにした。ヒシカとライエルの仲は神々の中でも最良で、ヒシカはライエルのことを一切疑わないのが当たり前ということにした。流石はシンプルゆえに強い権能だ。これが16位だというのだから、神々の序列というものは本当に当てにならないな」
「まぁ、序列は生まれた順のようなものなので」
「序列? 神はみな平等、じゃなかったか、聖堂の教えってのは」
「人間からすればそうでしょうな。しかし、我々神にも兄や姉、妹や弟の概念があるのです。その点で言うと我はかなり年下。なんと23位ですからな」
「……どれくらいいるんだったか」
「25柱です」
「最後から三番目かよ。兄ちゃん姉ちゃんばっかじゃねえか」
「とはいえ精神の成熟度は階位を関係としません。先に生まれていても幼いままの神もいれば、末弟ながらに最も苦労している神もいます。我同情。……そういう意味で言えば、ヒシカはライエルの直後に生まれた神ですので、仲が良くても特段おかしくはないのですよね」
「なのに元々仲が良くなかったのはなんでなんだ?」
「反りが合わなかった──と。単純な理由です」
「ああ、まぁ、そりゃしょうがねえ」
「無駄話はそこまでにしてくれ。次の段階に行きたい」
「あいよ」
確かに今のは無駄話だった。
だからチャックは素直に従う。
「ライエルを送り出す算段は整えてある。だが、懸念事項が二つ」
「神──リルレルのことですかな?」
「ああ。確かに権能そのものの強さはライエルが最強だろうが、神としてみればリルレルが最も厄介だと僕は考えている。その点はどうだ、セノグレイシディル」
「異論はありませぬ。ヒシカの秘匿も面倒ではありますが、ライエルがこちらの手に在ればどうとでもなるもの。ですが、リルレルは複数の権能を持っている。ですから、どのような状況に追い詰めても躱され、返り討ちに遭う可能性大ですな」
「祝福の神がそんなにやべーのか」
「チャック殿。リルレルは"あらゆるものごとに祝福をかけることができる"のです。それはあるいは、言語や、虚構や、朝陽にまで」
「……あれ? 神々の権能って、被り無いとかじゃなかったか?」
「ええ。被らないよう生まれます。ですが」
「錯角の神リルレル。僕も知識で知っているだけだが、随分と多くの神を食らっているらしいな」
「我も実際に見たわけではないのですが、そうらしいですね」
神を食う。
つい最近、セノグレイシディルと「祈りの味」の話をしただけに、言葉のインパクトより味の方が気になるチャック。
「先ほど、序列は生まれた順であると申しましたが──しかし実際の所、繰り上げ式なのです。上位の神が死ねば、下位の神が繰り上がる。その後、死した神の席を埋める新たな神が生まれる。神々とはそういうシステムを取っております」
「現在祝福の神として知られているリルレルだが──セノグレイシディル。あの神は、生まれた時は何位だったんだ?」
「さぁ、我はその食われた神の穴埋めなので。ただ、……ある、信用できるかできないか微妙な筋からの話によれば、元は20位だったとか」
「……そっから今に至るまでの神、全部食って来たってことかよ」
「そうなりますな。そしてリルレルより下位の神は、リルレルに食われたが故に補充された神。つまり」
「最強の権能を持つライエルが16位にいるということは、リルレルもそれに値する権能を持っている可能性が高い、ということだ」
落ちる沈黙。
打ち破ったのは、セノグレイシディル。
「ただ、ご安心ください。リルレルは人間が嫌いですので、アシティスが不幸に見舞われることに苦言を呈すことはないでしょう」
「人間嫌いというのは初耳だな。なぜだ?」
「たくさんいるからですよ。リルレルはたくさんいるものが嫌いなので、人間が嫌いです」
「……あー。なんつーか、でもまぁライエルより神らしいな、その考え」
シンプル且つ傲慢。あまりにもはっきりとした理由。
それはチャックの持つ「神」の像に合致するものだった。臆病で慎重や、多分今の会話に何個かジョークを織り交ぜたのだろうけれど一切伝わらなかった馬鹿などよりかは、しっくりくる。
「懸念は二つ、と仰っていましたな。もう一つは?」
「……オーリ・ディーンの行方が知れない」
「ああ、なんか狙ってた奴か」
「ああ。少し前にティダニア王国の都市を出たという報告は入っているが、その後の行方が掴めていない。ニギン。クールビー。僕。そして彼女は指し手だ。だが、ニギンは今拘束気味で、クールビーはまだ時期じゃない。となると、現在対局しているのは僕と彼女になるはずなのに、その彼女が見当たらない。何か知らないか、セノグレイシディル」
「残念ながら」
「ソイツ、そんなにやべぇのか? ヴィーエとぶつかった方がやべぇのは知ってるけどよ、そっちは大怪我して入院ばっかしてた方だろ。ウォルソンみてぇに裏で糸を引くタイプだったとしても、行方がわからねえなんざどうだっていいだろ。その点で言やウォルソンだって行方わからねえわけだし」
セノグレイシディルは、言わない。
この計画が初めから破綻していることを、一切言わない。
──彼は悪神である。
協力者。共犯者。
全く以てナンセンスだ。
彼を的確な言葉で言い表すのなら──。
「もうここまで来てしまった以上、今更懸念しても仕方がないのでは?」
「……そうだな」
「うーし、いっちょやるかぁ!」
裏切り者、と。
そう呼ぶのが正しいのだから。