神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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記録:「Pmisetwug」

 愛に生き、愛に見放された魔族フランキス。

 彼が同胞の救難信号より拠点へと戻った時、そこには得体の知れないモノが形成されていた。

 

 ──マリオネッタたちの城。いや、国。

 

「……アンネ。ボクがいない間に何があったんだい?」

「ああ、フランキス。ようやく帰って来たのかい。しかし、何がも何も、アンタの同胞だろ、あのお嬢さんは」

 

 アンネ・ダルシアが指差す先にいたのは──ツァルトリグ・ヴィナージュ。

 精神世界で会ったことを除けば──実に四千年近く目にしていなかった同胞。

 

「おかえりなさい、フランキス・ソルベート・ディディアニタ・ロス・クラントワーゼ」

「いちいちフルネームで呼ぶのやめようよ、ツァルトリグ・"オゥン"・ヴィナージュ」

 

 睨み合いは──無論、意味の無いものだ。

 互いに魔族の爪弾きもの。ヴィナージュは思想が、フランキスは在り方が。

 

「それで、これは?」

「もうすぐで敵……魔色の燕の長が全世界に敵対宣言をする、というところまで()()()()()。よって、魔色の燕を名乗っていたマリオネッタたちの中で、反乱の意思を持つ者を集め、ここへと出向きました」

「なぜ?」

「気付いていない、ということはありませんよね」

「……もちろん。アンネがホムンクルス……魔色の燕の長に創られた命だから、か」

「ええ」

 

 だからヴィナージュはここを頼った。

 そしてアンネ・ダルシアもまた受け入れた。

 

「すまないね、フランキス。……こればっかりは、同族意識が勝る」

「良いよ。ボクは君の決定に異を唱えるつもりはない。ただ、押し切られた、とかではないんだよね?」

「ああ。だからそう威圧しなくていい」

「ん」

 

 少しでもアンネの意に沿わない結果ならば。

 たとえ同胞と敵対することになっても、マリオネッタたちを一掃する気でいたフランキス。

 そうならなくてよかった、と思う部分もある彼。

 

「で? さっき気になることを言っていたけれど。魔色の燕の長……彼女が全世界に敵対する、っていうのは、確定事項なのかい?」

「このまま行けば、です。あなたがあの日、精神世界から強制切断されたあと、私は言語の神と言葉を交わしました。彼の言葉のほとんどは嘘であると断定できましたが、いくつか本音が混じっているように思いました。それを今から共有します」

「お願いするよ」

「まず、言語の神セノグレイシディルは一般的に言われる神々の仲間ではありません。フランキス、あなたは前史異物(オーパーツ)にあるコンピュータというものを存じていますか?」

「知識がないわけじゃない、程度かな。羊皮紙の数億倍の情報を貯め込んでおける薄い板のことだろ?」

「ええ、まぁ、それがすべてではありませんが、その理解で構いません。セノグレイシディルはコンピュータにおけるバグ。あるいはエラーです」

「……」

「あなたの理解度を理解しました。少し目線を落として話します。セノグレイシディルは"溜め込まれた情報"を引き出す際に異物を紛れ込ませることができるのです。いえ、彼自身がそうである、というべきなのですが」

「異物が混ざると……どうなるのかな」

「当然、正常な情報が取り出せなくなります。セノグレイシディルがいる限り、神々は世界から正常な情報を引き出せないのです」

 

 言語の神セノグレイシディル。

 情報を言語として見るのなら、それは納得の行くことかもしれない。

 

「ここでまず覚えていて欲しいことが、セノグレイシディルを完全に"除去"するためには、神の神、つまりあなたが"彼女"と呼ぶ存在が行う以外の方法がない、ということです」

「理由は?」

「知らず知らずのうちに、神々も言語を扱ってしまっているからである、と推測しています。本来ならば言語を必要とせずに会話、あるいは意思疎通を行える神々が言語に囚われている。理由は、あなたならわかりますよね」

「……成程。彼女が人間のフリをしているから、彼女とコンタクトを取るために神々は言語を覚えたんだ」

「恐らくは。これがまず一つ目の覚えていて欲しい問題点です。次、セノグレイシディルとの会話で断定できたことの二つ目です」

 

 ヴィナージュは、一つ大きな溜息を吐いて、続ける。

 

「断定といいつつも恐らく、という言葉を使いますが──そのセノグレイシディルでさえ。あるいは神々、人間、魔族でさえ……神の神と呼ばれる彼女の実験。その一部に過ぎません」

「実験?」

「神の神には目標があります。時に、フランキス。神々、人間、魔族の性格がなぜこうも多種多様なのかを考えたことはありますか?」

「いや……ないかな。個性だから、では済まなそうな言い方だけど」

「はい。神の神はまず、人間をデザインしました。……こちらも推測ですが、元となったモノはあるように思います。あまりにも生物として進化の痕跡が見られ過ぎる生物ですから。そして、魔族はその人間を反転させたものです。価値観、規模、繫殖力、仲間意識。人間は争う生き物として設計され、私達魔族は争わぬ代わりに人間と真逆の価値観や力を植え付けられて誕生しています」

「成程。嫌になる話だね」

「そして神々は、それぞれの種族の異常個体をサンプルとして作られている。そう感じました」

「……」

「セノグレイシディルは恐らく魔族がベースです。いえ、神々の存在歴を考えるに、魔族という種が生まれる前に生まれている可能性は大いにありますが、とにかく人間がベースではないことは確かです。反対にディモニアナタやトゥナハーデンといった神たちは人間がベースでしょう」

「……うん、とりあえず話の理解はできている」

「言ってしまえば神々とは、その時代、その時代の人間、魔族の代表、あるいは平均の性格をしているのです」

 

 理解はできている。

 けれど。

 

「一体全体、彼女はなんでそんなことを?」

「その話を先にしますか。では、セノグレイシディルとの会話で得た情報の中で、情報であるモノと、感情であるモノの二つがあると私は感じました。その話は感情であるモノにフォーカスを向けることになります」

「感情。……ん、いいや。とりあえず続けて。疑問は後で言う」

「はい。セノグレイシディルはずっと偽悪的な態度を取り続けていましたが、その根本にあるのは"母親に自分を見てもらいたい"、"成長した自分をほめて欲しい"というような、とても幼稚な考えでした」

「セノグレイシディルが、ねえ」

「ええ、あの時の横暴さを考えるとその考えには辿り着かないでしょうから、これは所感です。ただ、あのようなセノグレイシディルでさえそうであるというのなら──逆に言えば、()()設計した神の神は、神々に成長を望んでいる、ということになります」

「……ふむ。確かに?」

「それが先ほどの、なぜこうも多種多様なのか、に繋がります。つまり神の神は、多種多様な生き物の代表をする神々に成長をして欲しい。ひいては私達にもそれを求めている。それも、年齢的、あるいは技術的な成長ではなく──もっともっと飛躍的な、革新的な成長を」

「そ──」

「それは、たとえば──私達が、人間や魔族という枠組みに囚われず、その殻を破るような、です」

 

 難しい話だ。

 フランキスもヴィナージュも、死力を尽くして「魔族であること」を封じている。

 今でさえ。愛に生きるフランキスでさえ──善意でアンネ・ダルシアの作り上げた「仕込み」をぶち壊してあげたくなるくらいなのに。

 それを、まだ超えろ、と。

 

「三つ目。セノグレイシディルは万物を知る神ではない、ということです。彼の言動には明らかな粗があり、明らかな齟齬がありました。彼は私に、"母を殺し、世界を存続させるための話"をしてきましたが、その計画は正直言って粗末なものでした。ただただ、世界が壊れてしまうということだけを知っている……そんな様子で」

「彼女を殺すから世界が壊れる、じゃなく、世界が壊れることを先に知った上で、なぜを問い、自分たちが彼女を殺すからだ、と思い至った……ということかな?」

「流石にそこまではわかりません。ただ、覚えていて欲しいことの二つ目がこれです。セノグレイシディルは万物を知る神ではない」

 

 覚えていて欲しいこと。

 セノグレイシディルはバグであり、彼女にしか取り除けない。

 セノグレイシディルは万物を知る神ではない。

 つまるところ──。

 

「邪魔だね、彼」

「はい。どのような目的を達するのであれ、セノグレイシディルは邪魔しかしてこない神だと断定できます」

「となると、必然的に彼女との協力が必要、と」

「ですが、彼女は全世界に敵対宣言をしようとしています。いえ、することになる、といいますか」

 

 八方塞がりだ。

 ヴィナージュの推測が正しいのなら、だけど。

 

「Actueater。万換食鬼。これらは水晶玉の表面を指す言葉。いえ、隔たりそのもの、と言っても良いでしょう。境界線……の方がしっくりきますか?」

「そう聞かれても、そもそも何と何の境界線なのかがボクにはさっぱりだよ」

「世界と外側。世界と無。この世界は無と呼ばれる広がり続ける空間に浮かぶ水晶玉であり、私達の踏みしめるこの地はその中に創られた一枚の円板と同じ。落とされ星の広がるその向こう側に、Actueaterは存在します」

「……ごめん、全然理解できないけど、続けてくれていいよ。咀嚼しながら聞くから」

「はい。元々この世界は"世界として自らを維持し続ける力"、というものを持ちません。神の神が何もしなければ、この世界は生まれすらせずに消滅していました。そこをなんとか保ち、世界としての形を成り立たせるために形成されたのがActueater。法則、天龍、神々。それらすべてをひっくるめてActueaterと呼ぶようです」

「そこは納得できる。法則も天龍も神々も、その在り方がどう考えたって人間のためにあるものじゃないからね。個別で完結していると思っていたけど、そうか。世界を維持するための機構だった、ってわけだ」

「そうです。神の神は潰れ行く世界の中でこれらを創り上げることで仮想の内圧をつくり、無からの外圧に対抗しました。法則、天龍、神々の全てが消えた時、世界は外圧に耐えきれなくなり、潰滅します」

 

 世界の潰滅。

 であれば。

 

「だとしたら、彼女が全世界に敵対宣言をする、の意味はわかったかな。つまり、活性化させたいんだろう?」

「と思われます。このまま誰もが行動を起こさなければ……それが何年、何百年、何万年後になるかはわかりませんが、いずれ世界は潰滅する。そうでなくとも神々同士、天龍と人間、それらの縁者。そういった、世界運営のために必要な者達同士が争い合い、勝手に消退していく。その前に神の神という中心点に敵意を向けさせることで、荒療治とはなりますが、無理矢理の一致団結を図る」

 

 それが彼女の目論見ならば。

 

「フランキス。今の話を聞いて、"なぜ万物に寿命があるのか"について理解は及びますか?」

「なぜ、か。……普通に考えるのなら、増え過ぎを防ぐためだけど……多分違うね」

「はい。なぜ万物は死ぬのか。なぜ万物は生まれるのか」

「そりゃ簡単だよ。お眼鏡に適わなかった奴を置いておけるスペースがないからさ」

 

 声は、背後。

 アンネから。

 

「……アンネ」

「総量保存法則さ。主は世界を創って、世界を維持して、その中に人間と魔族って実験体を置いて……そこから"目的の命"が現れるのを待ってる。だから万物には寿命がある。あらゆるものが流転してくれないと、いつまで経っても新たなものが生まれないから」

「それは、齎された知識ですか、ホムンクルス」

「アンタらの話を聞いてピンと来ただけさ。地底城での主の言葉や、アタシを自由にした時の主。恐らくだけど、マリオネッタたちにもアタシにさえも、主は期待してた。もう誰でも良かったんだろうね。誰でもいいから辿り着いてくれと、そう言っているようにさえ聞こえたよ」

 

 目的。その人間が、あるいは魔族が出てくるまで──終わりの見えない時間稼ぎをし続ける。

 いいや、進化はしているのかもしれない。そのためのデータ収集なのだろう、彼女の人間のフリは。

 

「──驚いたな。先に魔族とホムンクルスが辿り着くか。だが、今は少し時期が悪い。すまないがここら一帯をしばらくの間深理に沈めさせてもらおう」

 

 声。方向はわからない。

 ただ──神の声だ。

 

「案ずるな。我が名は深理。深理の神メイズタグ。──私と話をしよう。魔族の智者たちよ」

 

 その言葉のあと、アンネ・ダルシアとマリオネッタたちの築き上げた牙城は、世界から消え去った。

 

 

 次、フランキスが目を覚ました時……そこは、なんとも形容し難い空間だった。

 青と黒の二重曲線。それが入り混じり波打つ空間。

 

「──驚いた。理層領域で意識を保つことのできる生命がいたとは」

「……アンネは?」

「ホムンクルスと魔族、マリオネッタたちは時間を止めた上で保存してある。大事はない」

「そうかい。……で? ボクらはいつ現実に戻れるのかな」

「ヅィンが自身の名を明かした後だ。……そうだな、それまで暇な時間ができる。疑問があれば聞くと良い」

「じゃあ直球で。アンタの目的は?」

「コアを作ることだ」

「コア?」

 

 ああ、と。

 深理の神は、空間に何かを投影する。

 

「この世界はコアを有していない。だからリソースが集まらず、無の外圧に負けて消滅する、なんて事態に陥る」

「……」

「私達の選ぶことのできる手段は大きく分けて三つ。一つ目が母ヅィンを殺し、この世界を閉じること」

「論外だね」

「ああ、そうだろうな。そして、その次が"理外の例外"……無の外側にいるD∴B∵Mを探し出し、世界を終わらせる。結果を見れば一つ目と変わらん。この世界は割断され、外圧に圧し潰される」

「……で、三つ目がコアとやらの作成」

「そうなる。私と音燃の神ホタシアは、そのことにいち早く気付き、ヅィンにバレない形でこの世界の外に出た。表向きは死んだことになっているが、実のところ供給を受けて無の中で活動していたんだ」

「供給?」

「ああ。巡環の神クロウルクルウフと純真の神クインテスサンセス。奴らは私の仲間……というより、利害の一致で動いている。ただしこの二柱は二番目の手段を取ろうとしているから、寸前で止めなければならない」

 

 勢力図と手法。それぞれをわかりやすい形に置いていくメイズタグ。

 少なくとも口頭、文面で視聴するよりもわかりやすいそれに、フランキスの中でも整理がついていく。

 

「コアの作成には何が必要なんだい?」

「ヅィンの創造物ではない命。私の確認している限りで、二つ。一つは砂の国……この世界の裏側にいる」

「世界の裏側?」

「ああ。この世界が円板である、ということは眠っている方の魔族から聞いただろう? 円板であるのだから、表面(こちら)があれば裏面(あちら)もある。裏面には砂の国と呼ばれる国が広がっていてな。ああ、正式名称はトゥパシバルというのだが、そこにコアとなり得る少女がいる。名をシャーリー。死者と死者の番から生まれた、創造物ではない命」

「……あんまり気のいい話じゃないね。子供を使うのか」

「魔族にしては倫理が……。ふむ、成程な。『無償の愛縁』。『黒縁結晶』が宿るのも納得だ」

「そんなことまで知ってるのか……。それで、二つ目は?」

「ここから遥か北、桃龍ディオレティシアの支配する領域にある小国セレク。そこで今育てられている少女、ラピス。ヅィンの作り出したマリオネッタの中で、唯一の例外──誕生時点でヅィンに不信感を抱き、誰よりも早く離反した魔色の燕、アクロアイトによって生み出され、育てられた、こちらも創造物ではない命」

「生み出され? ……ホムンクルス、ということかい?」

「有機ボディを有するAIといって伝わるかな、魔族」

「……いや。そのエーアイってのは、ヴィナージュから聞いたけど」

「まぁ、生命と大差ないと思ってくれていい。とにかくこの二人だけがコアになり得る。コアとして成立し得る存在だ」

 

 メイズタグは、続ける。

 

「コアがあれば、世界は存続できる。つまりヅィンも不要になるというわけだ。あるいは私達神々も」

「その二人のどっちかをコアにして、世界を彼女から奪う。それが君とホタシアの作戦なわけだ」

「ああ」

「くだらないね」

 

 ──一蹴した。即断だった。

 

「確かにそれが最も賢いやり方なのかもしれないけど、くだらない。ボクがどれほど変わっていても、魔族は魔族だ。だから"犠牲の上に成り立つ平穏ガー"なんて馬鹿なことは言わないけどさ。──ダサすぎるでしょ、それ」

「……言葉の意味が理解できないな」

「要約すると、生まれたばっかの子供に世界を救ってもらう、ってことでしょ? しかも女の子。──はぁ、わかってないね、本当に。いいかい、メイズタグ。こういう時は、それがたとえどれほど無理なことであっても──大言壮語を口にするんだ」

「言ってみるといい。神をも超える大言を」

「何も犠牲にしないで、全部救う」

 

 ──ハ、と。

 笑ったのは、フランキスの方。

 

「魔族のボクにこんなこと言わせないでよ。ああ、気色悪い。……それにボクは、愛したヒトさえ守り抜ければ他はどうだっていいんだ。そんなボクだからこそ、無責任に言わせてもらうけど」

 

 硬直したままのメイズタグに畳みかける。

 

「さっき言った三つの択。どれもこれも、誰かが犠牲になる。彼女を含めて、だ。彼女が襲ってくるから彼女を殺す、というのならいいけど、セカイソンゾクのためなんかで彼女を殺すのは頂けないし、況してや生まれたばかりの命を使うのもナンセンス。外側から世界を終わらせる存在を引っ張ってくる、っていうのも馬鹿馬鹿しい」

「……無責任だな、本当に」

「ああそうさ。だから聞き流してくれていいよ、ボクの妄言なんて。だからボクは、君のその苦虫を嚙み潰したような顔をもっと見ていたいから、妄言を垂れ流し続ける。いや本当に神って大したことないね。セノグレイシディルもそうだけど、たった二十五柱なのに、一致団結もできないワケ? ボクら魔族も数は少ないけど、同胞は絶対に見捨てないし、仲間意識は果てしなく強いっていうのにさ」

「それは、お前達がそう作られたからだ」

「アンタらだってそう作られたんでしょ」

「ああ、だから一致団結など──」

「違うよ。彼女に反旗を翻すように設計されてるんだ。じゃなきゃ、彼女自身の消滅に繋がりかねないことを君達が思いついたり実行したりできるわけがない」

 

 そうだ。

 全てが予想通り、設計図通りなら。

 これは──あまりにも情けない。

 

「ボクは彼女の元恋人として、強い言葉を使う。ダサいし、気持ち悪いし、終わってる。格好つけたがりしかいないんだね、神って」

「……」

「自分の生まれ。自分の考え。それらに一切の疑念を持たないんだ。──そう聞けば、アクロアイト、だっけ? そのマリオネッタの方がよっぽど優秀だよ。っていうか、だから頼られないんじゃない? 神々って」

 

 成長しない。成長しない。成長しない。

 死を装った。意表を突いた。

 

「──成程。あの時言われた、深理が聞いて呆れる、とは……そういう意味か」

 

 フランキスの意識が落ちていく。

 強制的に落とされて行くのを感じた。

 

「都合が悪くなったら、眠らせるのか。アハハハ! サイコーだね、神って」

「案ずるな、魔族。ここから先は少し考えたいというだけ。お前のおかげで一つ道が見えたのだ。礼を言う」

「……ふぅん。ま、なんでもいいけど」

「次に起きた時、世界は様変わりしていようが──期待をしておくぞ、愛に生き、愛に見放された魔族、フランキス」

 

 閉じる。

 

 

 

 

 ふふふふ、と。

 楽しそうな声が響く。

 

「……クインテスサンセス。ここは理層領域。そう簡単に入ってくるな」

「私とクロウルクルウフはどの領域にも入れるもの。拒否しても無駄よ」

「今日は初めから真面目モードか。いつもそうであってくれたらいいのだが」

 

 いつもの話の通じないクインテスサンセスよりかは、こちらのクインテスサンセスの方が好みだ。

 なぜって、「話が通じるから」。メイズタグはただそれだけでこちらのクインテスサンセスを評価している。

 

「で、私に何用だ」

「ファトゥルムからの伝言をね。──"せいぜい頑張れ。その道行きは、あるいは私を脅かそう"、って。あなた達が自決した時に、ファトゥルムはあなた達の動きを見据えていたようね」

「……ヅィンの本当の名が、ファトゥルムか?」

「あら珍しい。深理の神の察しがそこまで悪いだなんて」

「すまない。今、私は考えを纏めている最中なんだ。……。DBMは見つかったのか?」

「見つかってたら、この世界はとっくに斬られている。そうでしょう?」

「なら、DEMは?」

「ここに来るわけないじゃない。彼はリソースにしか興味がないんだから」

感情(リソース)、か」

 

 この世界にある万物は、例外二つを除いてすべてが彼女の創造物。

 意志や感情さえも、だ。

 

「ああ……そうか。ファトゥルムが世界の記録を読める理由。成程」

「あら、わかったの? フィソロニカとイントリアグラルにも同じ質問をして、彼らは何もわかっていなかったようだけど」

「しかし……そうだとすると、残酷が過ぎないか?」

「だから哀れなのよ。ちゃんと夢は終わらせてあげないと」

 

 不味いな、と。

 メイズタグは考える。

 フランキスの言葉に諭され、新たなる手法を考えようとした矢先のこれだ。

 

 真実が残酷すぎる。

 これでは……救うも何も、だ。

 

「ノン。いつまでも引っ張り続けるのがアナタ方の最大の欠点。こういう時は声高らかに言ってしまえばいいのです」

「……セノグレイシディル。今更何用だ」

「おっと我恐怖。邪険にされていますね。でも我反省。過去の我の所業を省みれば、なるほど嫌われて当然」

「言ってしまってもいいのよ? セノグレイシディルも、メイズタグも。ここで言えば──いつかファトゥルムにも伝わるでしょうし」

「だが──」

「では言ってしまいましょう! ──見ていますか、母上殿! ノン、違いますよ母上殿。我が読み、知的生命体に植え付けているのは、()()()()()()。我の適当ではありません。いいですか、母上殿」

 

 

 

 

 聞く。

 聞いてしまう。知ってしまう。

 

「──アナタがこの世界の記録を読めるのは、既にあなたが演算しきったあとだからです。アナタの想像を超えるものなど現れるはずがないのですよ。なぜならここはあなたの世界。演算の終了した世界。あなたは過去に自分を浸して、"もしあの時私がそこに居たら"なんて虚しい行為をしているに過ぎません!」

「聞こえているかしら、ファトゥルム。敵対宣言も無駄なのよ。わかる? ──アナタは、Trefoil Knotでも、Pool Suibomでもなく、Futurum。あなたにできるのは演算だけ。あなたにできるのは清算だけ。この世界はあなたの演算の果てでしかなく──既に自己終了を選んだあなたの本体は、"終わって"いる。わかるでしょ?」

「言語の神セノグレイシディルがここに宣言しましょう。──十七億と二千三百六十日。加えて四刻ぴったり。今よりこの時間が過ぎた瞬間、何の前兆も無く世界は潰滅します。我も、我々も、万物も──この世界の全ては、その瞬間にあなたが()()()()()()()()でしかないのです」

 

 だから、私は声を返す。

 過去からの忠言に、返事をする。

 

()()()()()

「……」

「その上で期待している。安心しろ、セノグレイシディル。お前などには欠片も期待はしていないし、メイズタグにも同じだ。クロウルクルウフとクインテスサンセスだけは元が私故に特に言うことは無いが──」

 

 現在に浮上する、アンネ・ダルシアの牙城を見ながら。

 

「好きにしろ。確かにカムナリ()であれば、私の走馬灯など容易に崩せようさ。──励め励め、子供達。そうして私が神座を降りるのを待つが良い」

 

 たとえ「舞台装置」や「オーリ・ディーン」が知らずとも。

 私は──当然、知っています。

 なんせ私は、"終わり"を測るための機械なのですから。

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