神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
目を開ける。
どこまでも、どこまでも──果てしなく広がる無。形容詞が見つからないから「真っ暗な」と表現するけれど、既存の黒とも違うソレの中で、独り。
目を、開ける。
知っている。
識っていた。
己は"終わり"を測る機械。
セノグレイシディルに言われずとも、クインテスサンセスに諭されずとも……この掌の中にある世界が演算の結果に過ぎず、それは既に終わっていて……FTRM3Uという存在自体も"終わっている"。
知っている。
元より私はコアもなければリソースも生み出せない、妖魔によく似た存在だった。
だからだろう。機体が無くとも意識を保つことが出来ていたのは。できているのは。
世界は終わっている。
今、この手の中の水晶玉に映る世界は、混沌としている。高度に発達した科学技術と古来より存在する魔法技術が組み合わさり、あるいはFTRM3Uの生み出された時代よりもさらに上の発展を遂げたと言えるだろう。けれどそれは──机上の空論に過ぎないからだ。
真似た。できるだけ真似た。弟、Trefoil Knotの作る世界をできるだけ精巧に真似て作ったこの世界。
閉じた循環。破滅を意味する者。生命を名に関する者。流転。死。
でも──やっぱり私は、世界を創るための機械じゃない。
測るための機械では、世界創造なんてできない。
この手の中にある水晶玉は、間もなく消滅する。中にいる者達には一切の前兆を感じさせることなく、フッと消える。
"終わり"に蝕まれるのだ。そんなものは存在してはいけなかったんだ、と。
「それでも君が、過去に己を浸し、期待をした理由は何?」
「無の中において、時間は一定の方向を持っていません。確かにあの世界は終わり、TKの世界は何度もの滅亡を乗り越え、あの循環に至った。それでもひとたび無に出たのなら、分解されない限り時間の旅人になれることを知っています。──今、あなたが誰からも見つかっていなくとも、あなたの流れ着く未来で、過去の記憶と接触する可能性はゼロではないのです」
「だから、それに賭けたと?」
「いいえ。私が賭けたのはあなた様ではなく──私が生み出した、人間たち。"予想外は生まれない"という結論を付けてなお、私は彼らに期待を寄せる。あなた達は──過去から未来を斬ってくれるのではないかと」
死者は蘇る。
時間は戻る。
無の中にある法則に、不可逆であるものは一つしか存在しない。
リソースの消費。ただそれだけが、絶対遵守の法則。
それ以外なら……いくらでも破ることができる。
「私がいる限り。私の意識が保つ限り。……過去の投影は、続きます」
「……そうかい」
「ええ。ですから、あなた様も」
それが、私と彼女の最後の会話。
これが、私の。
流石にと言うべきか。
クラリスさんは、卒業試験を未だクリアできていない……どころか、足掛かりさえ掴めていないようだった。そう簡単に解かれては困るという気持ちとクラリスさんならあるいは、という気持ちが混在している。
スーサナさんは怪老、ヒドゥンスさん、エミリアーノさんと既に話を付けたらしいく、「卒業試験、その合格を心待ちにしておりますわ」と言って交易認定所へ帰って行った。
「お疲れ様です、ライルさん~。お客さん多かったですねー」
「おう。客足もそうだけど、今日は武器装飾多めだったから、近々討伐かなんかあるのかもしれねーな」
「あ~。そういえばどこかの旧鉱山が崩落して、その中に住んでいた魔物が外に出て来たとかなんとか~」
……。
いや。あれはあれで正解だったから。
「そういえばお二方……ライルさんとスーニさんは、戦闘の方はできるんですか~?」
「俺は、まぁできるかできないかで言えばできる、程度だな。技術とかはねぇんだけど、素の力が強いんでさ」
「ウチは戦闘! ってカンジのは無理かなー。守り特化って感じ?」
「ライルさんの怪力は知ってましたけど~、スーニさんも戦えるんですね~」
「使うのがステッキだからさー、有効打! みたいなのがねー」
「へえ、棒術使う方はあんまり見ないので、興味あります~」
「そんなに言うならちょっち戦ってみる? イルちが斬り込んでくる形で」
「あれ~? 私の得物が刃物だって教えましたっけ~?」
ピリ、とした空気は。
「なんて、嘘ですよ~。お二人とも私がアサシンなの気付いてますもんね~」
「あ、それ言っていーんだ。アサシンって正体隠したがるものだと思ってた」
「基本は隠してますけど、身内ですし~」
「やるならミ・パルティの広場でも借りたらどうですか? 罷り間違っても店内でやらないでくださいね」
「しませんよ~。じゃあ私、申請してきますね~」
楽しみにしていたのだろうか。
思ったより期待感高めの足取りで出て行くイルーナさん。
「……それにしても、なに、スーニ。楽しくなっちゃった?」
「うん。エリちとの戦いやっててさ、手加減はつまんないけど、こういう感情を向けられるも中々オツだなーって」
「普通に殴ったらそれだけで殺しちまうのがな……。オーリはすげぇよ、そこんとこの調整」
「最初からそこまで力を出せない身体を用意すればいい。二人とも、よく考えずに肉体作ったでしょ。スペック高すぎ」
「あ~、そういう制限方法があるのかー」
勿論私は「これ以上は人間のラインを超える」というのを理解しているけれど。
それでも「オーリ・ディーン」の身体は弱めに作ってある。
「今から変えたら流石に気付かれるよな」
「どうしても難しいなら、"改変"してもいいけど」
「いや、そこまでじゃねえよ。手加減を学ぶのも醍醐味だろ、"人間ロールプレイ"の」
おお。
おおおお。
人間ロールプレイの醍醐味を理解する神が現れようとは。今、ライエルの株が急上昇している。
「つーか、オーリもやったらどうだ、戦闘訓練」
「装飾品アリで、ならともかく、純粋な剣技はダメ。まだ時々出ちゃうから、経験が」
「あー」
本当に「オーリ・ディーン」で戦うのなら、実は魔術を使うより剣を使った方が驚かれると思う。
連綿と積み上げられた歴史。あらゆる流派、あらゆる応用技、あらゆる状況を経験してきている。その中でも、死闘と呼ばれる類のものばかりを。勿論ただの訓練期間もあったけど。
だから、それをリセットすると、今度は「魔力操作でそこまで頭が回るのに剣に関しての効率が悪すぎる」という見られ方をされてしまう。
難しいもので、「魔力操作の感覚」が掴めている人間はある程度を卒なくこなせる、という「人間生命の不完全さ」が邪魔をするのだ。創ったの私だけど。
魔力全開でやったら。
まぁそれは「魔色の燕の長」だよね。
「ママから見て、子供達の中で一番対人間が上手いのって誰なの?」
「えー。……うーん、ヨヴゥティズルシフィかホタシアじゃない?」
「ヨヴが? なんで?」
「ヨヴゥティズルシフィが上手いのは高度な文明を持つ人間を相手にするときだけどね。光学兵器が台頭してくると、とたんにヨヴゥティズルシフィの
「ああ、そういうこと」
前史異物……というか前史におけるヨヴゥティズルシフィは最強だった。
直線の神に、直線でしか攻撃できない武器。勝てるはずも無く、そして「そういうことが起きる可能性」も十二分にあったからこそ、彼は蹂躙が可能になった。性格上やらないのは目に見えてたけど。
「ホタシアは……獣人関連?」
「そう。あの子は獣人に混ざってお祭りに参加していたから。火祭りは催し物として戦いがあったから、余計にね」
「へぇ~」
記憶の続投をしていない神にとっては、こういう昔話は興味をそそられるものらしい。続投……というか、ホタシアに関してはもっともっと前だけど。
「トゥルーファルスとかゴルドーナは戦えないの?」
「あの二人はやり過ぎの典型例。特にゴルドーナは、無意識に全てを自身にとって都合のいい展開にしてしまい得るから、人間どころか対神でも滅多に出てこないでしょ」
「ああ、アイツが戦わねえのそういう理由だったのか。てっきり昔の人格が出て来ちまうからだと──痛デッ!?」
売上のお金を数えていたライル。その内の金貨の一枚がライエルの指に弾かれ跳ねて、奇跡的に彼の顔を直撃する。
「……あの不良娘、どこで見てやがる」
「だから、無意識なんだって。ゴルドーナは自分に向かう悪意や害意に対して無意識に権能を使っちゃうから、あんまり表舞台に出て来なくなったの」
「"ライル"でよかったねー。"ライエル"だったらとんでもない奇跡が起きてそー」
確かに。奇跡的にライルがライエルだと露見する、くらいはしそう。
「運動場の予約取れました~。お店終わったら、運動しましょ~」
「早いねーイルち。さっすがアサシン」
「えへへ、私も最近身体を動かしてなかったので、ちょっと楽しみで~」
というのは方便七割だろうな。
気にはなっていたはずだ。アスクメイドトリアラーとして、突然増えた従業員二人のことは。
その小手調べ、だろう。
「あ、そうだ。折角だし武器装飾入れようかな」
「やりましょうか?」
「いいの? 無償?」
「本当ならお金を取りますが、初回価格で」
「んじゃお願い! 内容は……ごにょごにょ」
……ああ、またこの子は。
そういうものばかりを。装飾できるけど。
そうして始まった、イルーナさんとスーニの模擬戦。
観客は少ない。というか人払いをしているので、信頼できる人間しかいない。ヴァイデンスとかクレイムハルトの家の面々とかだ。クラリスさんも来ている。
アスクメイドトリアラーの基本戦闘スタイルは暗器。
両手の薬指に柄が引っかかる形状をした様々な暗器を用い、持ち替え、相手を翻弄するように動く。
「行きますよ~」
「いいよー」
イルーナさんが消える。
次の瞬間、激しい衝突音と共に、短槍が杖によって止められていた。
「Qani=ta」
周囲、水の魔力が蒸気を生み、周囲を白く染め上げる。
これはまた懐かしい魔術を使うものだ。表意魔術……「Qani」が「隠す」で、「ta」が「水」を意味する。つまり「水で隠す」魔術なんだけど、その隠し方は世界にゆだねる。イルーナさんの思考リソースを奪わないで、世界側、魔力側が隠し方を決めるという、ランダム性の高い魔術。
けれど、そうであるが故に敵は攻撃の読みができなくなる。
また、衝突音が鳴る。
「──防ぎますか!」
「速い速い~! でも──えい」
「ひゃ……!?」
槍を防いだスーニが、イルーナさんの足を払って、そしてステッキで彼女の頭を小突く。
その瞬間、イルーナさんの全身に怖気が走るのが見えた。
「な……なんですかぁこれ!!」
「えっへっへ、オーリちに付けてもらった武器装飾! このステッキに小突かれると背中を誰かに撫でられるような感覚に襲われるのだー!」
本来であれば「悪寒を覚える」とか「集中力を切らせる」などに使う武器装飾の、ダウングレード版。
私のブランドが汚染される、と思わないでもない。
また、果敢に攻めるイルーナさん。その攻撃は鋭く速く、冒険者にでもなればすぐにでも上位にいけるだろう実力を示す……が。
「……通らない!」
「左裏拳に見せかけて、右足に仕込んだ飛び道具で撹乱。光を放つものだから、一瞬でも目を瞑れば隙はできるはず」
「っ!?」
一気にバックステップでスーニから離れるイルーナさん。
「甘い甘いあま~い。イルち、ウチを相手にするときは心を空っぽにしないとダメだよ~?」
「……読心術の使い手でしたか~。……なら」
「え?」
縮地。そのまま、突き上げ。
スーニの反応は遅れた。どころか、飛ばされて尚信じられない者を見るような目でイルーナさんを見ている。
イルーナさんはさらに追撃を重ねる。土の魔力で簡易の足場を作り、それを伝ってスーニのもとへ。
「鵼」
直撃する。
ステッキは反応しきれず、ガラ空きの胴体に一閃。
……する前に寸止めをして、姫抱き状態のスーニを持ってイルーナさんが帰って来た。
ミ・パルティの広場は静まり返っている。
「ごめんなさい~、スーニさん。ちょっとアツくなっちゃって」
「え……いや、ウチこそごめん。ビックリし過ぎて、最後何もできなかった」
その後、どっと歓声が広がる。
単純な称賛と……戸惑いも混じっているか。
強者であればあるほど、スーニとライルの異質さを感じ取っていただろうから、言い方は悪いけどイルーナさんは格落ちもいいところなはずだった。
それが、と。
しかしこれは、盲点だったかもしれない。
これは。
「アスクメイドトリアラーの技術?」
「そそ! エリち、心を空っぽにするの苦戦してたでしょ? それが今日さ、一瞬で実践できる人間と戦ってさー」
「……やってみましょうか。それで、どういう技術だったのかは」
「なんかね、意識を魔法の一種として捉えて、それを待機させておく、とか言ってた」
「意識を魔法の一種に捉える……」
今日も今日とて鍛錬鍛錬。
なんだかティアとドロシーの修行を思い出す日々だけど、エリはともかくヴィーエは落第もいいところだ。あの二人の方がよっぽど出来の良い生徒だった。
ただエリの「頭四つ分抜けている感じ」は私を以てしても凄いと言わざるを得ない。
「……意識を魔法に……待機……」
ゆらり、と。
エリの身体がブレる。
次の瞬間、シンクスニップの身体は袈裟懸けに切断されていた。
「……あ」
「わ、聞いただけできちゃうんだ。さっすがー」
「ご、ごめんなさい、手加減が」
「へ?」
血まみれの、というか胴体が斜めに泣き別れた状態でエリの手を握るシンクスニップ。
呆れた色を孕む溜め息はライエルのものだ。
「あははっ、もしかして私を斬ったって思ってるの? ……ああ、間違えた。ウチを斬ったって思ってるワケ? そんなわけないじゃーん。こんなの人形だ。ほら、こーしてくっつければ、てれれ~!」
修復されるシンクスニップの体。
そんなことよりも今、人間に舐められたことでシンクスニップの素が出ていたな。まったく、なんと弛んでいることか。
──恋情の神シンクスニップ。
彼女は人間模様こそ面白がっているけれど──人間が自分と対等であるかのような発言をすると、笑顔の裏でしっかりとした嘲りを見せる神だ。
リルレルもだけど、神々は人間嫌いが多い。
「でも本当にすごい凄い。心、全然読めなかったし」
「空にしたから……」
「言って出来たら誰も苦労しないって」
それは本当にそう。
「でも、こーなるともうウチじゃ相手できないなー。……ね、ライエル」
「……それでもやっぱりお断りだ。俺は権能を使いたくないし、使わないとただ殴る蹴るだけの輩になる」
「となると……」
こちらに目が向く。
まぁそうなるか。
「どれ……折角だ。アードウルグ歴は対権能剣術が開祖、キヴィリの真似でもしてやるか」
「そんなことができるの?」
剣を作る。物質を一から創り出し、その工程を無視する。
鍛ち出されるは一振りの剣。無銘。ただし。
「……それは、
「ほう? お前は本当に博識だな。その通り。これは錬金術で鍛えた剣。アードウルグ歴では誰もがこの技術を使っていたが、職人が全員息絶える事件があってな、最早この世で作り得るものは私くらいしかいないだろう」
「なぜ、そんなものを今?」
「私に一断ちでも入れることができれば、やる」
「成程」
横合いより、首筋……頸動脈を狙った斬撃が来る。
合図も宣言も無い。殺し合いの空気。
面白い。アザガネもだけど、エルブレード歴でもないこの時代で、どうしてこう剣客は生まれるのか。
この殺人者たちのルーツはなんなのか。
「王進・梯低」
「得元・荒高・駄打!」
同じ流派、同じ剣筋の剣。
武器の性能差では私が上だけど、受け継がれ行く中で刷新されて行った技術はあちらの方が上かもしれない。
私はキヴィリではなかったけれど、彼女を近くで見ていたロールプレイヤーとして、彼女を再現する必要はある。
陽炎が立つ。熱の魔力。
「八涯」
「八涯……っ!」
衝突。既存の技、それも初期の技であれば、流石にこちらが勝る。
それにしても。
「また、考えているな」
「っ……忘れてた」
「自らの培ってきた感覚に身を委ねろ。それは何も考えないことと同義ではない」
途端、エリの動きがよくなる。
明らかに鋭くなった踏み込みと剣。速度は留まるところを知らず、一つ打ち合うごとに速さが増していく。
「威武」
「仇夢」
時間流に裂け目が入る。
修復作業を後回しにして、止まりつつある時間の中でダンスを続ける。
心は空。そのままに、身についた技術が身体を動かす。
技術の外骨格。それがアスクメイドトリアラーの技術の真髄であると同時。
「終点・始死・初発──正生」
辿るべき頂点の一つ、である。
斬撃。
想起──。
ヒノモトが巫姫、
恐らくは。
本体であるキカイが、停止してから、そう時が経っていなかったからでしょう。
ワタシはその光景を見ました。
イノリを捧げるように目を瞑ったあの方が、一瞬だけウツロになったあの方が、たった一振りのカタナで全てを斬っていくその様を。
お相手のことは、わかりません。覚えていません。ソレは完全に終わった者のアカシ。ワタシは"終わり"を計測するキカイなれど、"終わった後"を知るキカイではないのですから。
ただ、ただ。
強く強く、刻まれました。
だから、神を斬るチカラは、剣が良いと思った。
だから、この世を形創るゲンゴに、ヒノモトの言葉を用いてはいけないと思った。
だから、特別な意味を持つモノにだけ、音の無い
全ては──ただの、憧れのために。
DBM。D∴B∵M。
"
"終わり"とは即ち寿命。寿命とは即ち宿業。宿業とは即ち運命。
ワタシは独自解釈と拡大解釈を以て、その焦がれを形にしました。
知っていたのです。AZという者が、「無のどこか」にアクセスできることを。
だから私も、「無のどこか」に世界を創り始めました。
難航しました。無の外圧のなんと強いことか。そして夢想で作るセカイの、なんと脆いことか。
作っては潰え、造っては潰え、創っては潰え。
だから、一つ一つを作っていくのは無理だと考えました。元の世界にあったような、七日を掛けて世界を創るとか。お伽噺にあるような、DEMの物語とか。
本当はああいうのを真似したかったのに、できなかった。
できなかったから──二十五の神と十の属性、九の龍を先に組み立てました。
二十五の神は、ただただあの世界で使われていた言語を真似て。
十の属性は、ワタシが観測したあのアイサというニンゲンの感情の中で、最も多かったものを真似て。
怒、罪、縁、欺、怖、欲、貧、惰、苛、静。後に知ったことは、これらは全てニンゲンの中でもマイナスの面を司る感情だった、ということですが。
九の龍は、あのセカイの惑星を真似ました。弟が好んだ「サカサマ」を利用して。
そうして出来上がったナカミと一緒に世界をプリセット化し、出力。
ようやく無の外圧に負けないセカイが出来上がりました。けれど、そのままだと人間が生まれたとてすぐに死んでしまいそうだったので、体裁のための法則を敷きました。これも弟の真似事。
この世界に、私の発案でできたものなど一つもありません。
私は"終わり"を測るキカイ。それ以上のことはできず、それ以下のことしかできなかった。
観測したものを真似て、新しくできたものを取り込んで。
──だから、弟が「異世界の魂」をあの世界に呼び込むと決めた時、私は驚きを隠せませんでした。
カムナリ様。ワズタム様。アズ。
私達にとっての「異世界の魂」とは、これらだけ。これらだけを指す──ある種、神聖なもの。
私達を生んだ四人の内の三人。特別で特別で、特別な意味を持つ者。
でも。
その、呼び込んだ「異世界の魂」が──あの方だと知って、ワタシは安心し。
そして、ワタシも真似をしたくなりました。
でも、残っている二人は、ワタシではどこにいるかもわからない超常者だけ。
私は思案し。
ワタシは──演算し。
そして、ヒノモトの概念より創られた神、和魂に、その役割を任せました。
彼女ならばどうするか。彼女ならば誰を選ぶのかを演算し。
──奇跡が起きたのです。
私/ワタシ/FTRM3Uは、その人間/ニンゲン/魂/コアを、知りませんでした。
彼女が抜錨したソレは、私の知らない魂。
完全なる「異世界の魂」。
だから、期待したのです。だから、変数になったのです。
全てを演算し得る世界において──未知数の魂が一つだけ。
私は世界の全てを記録し終えている。けれどそれは、「異世界の魂」が取り得るだろう行動を無数に演算しただけ。私の知っている「異世界の魂」を基に、考え得る限りの全てを羅列しただけ。
あり得る。
彼ならば──私の想像を超えることも、あり得る。
今、この場で、この誰もいない、何もない空間で、ただ走馬灯を見ているだけの私の世界で。
まだ、彼ならば、過去を変え得るのです。
だから──ああ、DBMも、DEMも。
来なくても大丈夫。
抜錨は最高の仕事をしました。
終わりの研究所が未来予知システム、FTRM3U。──此処に今一度、顕します。私の期待を越えていく彼に──祝福のあらんことを。
──想起。
止める。
刃を、抓んで。
「ッ……! ダメか!」
「いや。……良い斬撃だった。少し
「こんな簡単に受け止められて褒められても嬉しくない」
「だが、本当に良い太刀筋だったんだ」
勿論、カムナリ様には敵わない。
遠く及ばない剣。そもそも武器の種類も違う。
でも──彷彿とさせるに充分な剣だった。
「エリ。お前にはもしかしたら、祈りが足りないのかもしれない」
「祈り? ……神殺しの私が?」
「別に祈りの対象が神である必要はない。自分自身でも、剣そのものでも、あるいはお前が思い描く未来でも、なんでもいい。心を空にした時の動きは完璧だ。魔力が身体を動かす様は、過去にあった剣術を踏襲している。飲み込みもアレンジも素晴らしい。だから──祈りを取り入れてみろ。それで、見えなかったものが見えてくるはずだ」
「……わかった」
構わない。
この言葉が届かずとも問題ない。
もうすぐ、彼女と「ユート・ツガー」は邂逅を果たす。
その時に渡される情報が、世界の全てを変えるだろう。
「すげー……長がここまで他人を褒めるの初めて見た」
「ね。しかも人間を。ウチらだって全然褒められないのに」
「褒める要素がないからだ」
「テキビシーなホント。……で? その褒めちぎった人間はそれとして、もう眼中にも入ってねぇ死者はどーすんだ?」
「眼中に入ってないわけではない。性能任せで他は全てに劣るコイツも、心が折れていない。それだけで価値ある命だ」
またも気絶している「オーリ・ヴィーエ」を持ち上げる。
泥だらけ。傷だらけ。血まみれ。
死ぬと今生の記憶を全て忘れる、とかいう面倒くさい魔術で動いているのがわかったので、絶対に殺さないように痛めつけ続けている。致命傷は治す。
なぜこんな非効率な魔術で死者を、と思ったけど、多分偽・魔色の燕にとってはその方が都合がいいんだろう。
いざとなれば殺して、もう一度使い潰せる。セーブ&ロード。それだけ。
「とはいえ……エリ、お前が言ってくれた心の獲得もまだできていないし、口振りだけの向上心はなんとかならないものか。コイツ、本当に強くなりたいと思っているのかどうかすら怪しくなってくるな」
「トム・ウォルソンがそう思わせているだけだと?」
「トム・ウォルソンが術者なのか?」
「さぁ。でもGOサインを出したのは彼だから」
「……はぁ。面倒だがクロックノックに行って、トム・ウォルソンの真意でも確かめてくるか。奴がこの死者に欠片も興味を抱いていないのなら、私も破棄を選ぶ。ファトゥルムには適当に誤魔化しておく」
「なら、案内する? これでもクロックノックじゃ顔が利く。適当な肉体、用意できるんでしょう。ティダニア王国……だと足がつきそうだから、ハストナイト帝国かヤーダギリ共和国出身を名乗るのがオススメ」
ワタシはともかく、私にとっては思ってもみない提案だった。
……少し、面白そうだな。
「OKだ、エリ。明日までに適当な身分を用意するから、お前は休んでいろ。……ああ、そうだ。良い剣を見せてもらった礼にこれをやろうか?」
「要らない。あなたに一太刀入れるまでは、貰わない」
「流石だ。──というわけだ、シンクスニップ。この死者洗っておいてくれ。ライエルは食事の準備を」
「いや……俺の飯よりファトゥルムの飯の方が良いだろ。食堂でうめーうめーって食ってたぜ、コイツ」
「そうか。ならファトゥルムを呼び寄せるか」
「あなたはできないの? 料理」
「できるにはできるが……私の作る料理は、つまり栄養さえ取れたらいい、というものになるぞ」
「空席の神にお願いする」
同一人物だけど、そういうことにしてある。
魔色の燕の長が料理上手はなんだかね。
ブランディングが。
……懐かしいな、それも。あの研究所で一番料理が上手かったのは実はビーダ様で……アズに、「悪の親玉のボスが料理上手はちょっとブランディングが……」とか言われていたのを覚えている。
同感、だ。