神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
未だトム・ウォルソンからのアクションはないままに、少しばかりの日々をクロックノックで過ごす。
クラリスさんの進捗は難航気味で、少しだけ方向性が……その、見当違いなところへ向き始めている。デザインや形には勿論意味があるのだけど、装飾品店からの卒業試験なので印章や装飾から読み解いた方が上手くいくと思うよ……という言葉は勿論、私含む全員が口を出さない。イルーナさんもその「見当違い」には気付いているようだけど、ちゃんと口を固く結んでくれている。
天才性故の見落としというべきか。人間というのは自身の後頭部が見えない生き物である。
ということで、アシティスの生活は一旦安定。何度も述べているように「オーリ・ディーン」と「長」を同時に動かせない、なんて縛りは無いのだけど、とりあえず「オーリ・ディーン」の方はクラリスさんの合格待ち、ということになるだろう。
反対にクロックノックでの生活は……思ったよりも激動だった。
冒険者である、というのは大きい。つまるところ、私がやらずやらずにしていた戦闘職だ。ただ、隣にエリ、及び
ある程度人間離れしていても問題が無いことと、「ルシア」のディティールをそこまで深掘りされないことが理由となっている。
戦闘職以外だとね、過去を聞かれたり趣味を聞かれたり、雑談の暇が多いから……その辺ちゃんとしなきゃいけなかったんだけど。
冒険者で、ソロで、根無し草だった。「人間ロールプレイ」としてはありきたり過ぎてサンプルにもならないから破棄予定は変わらないけれど、息抜きには丁度いいというか。
「ルシア! 左は任せた!」
「いいだろう──ソウガ」
ファロン・ウィリアムズの火。彼女はまだ火の特性を理解しきれていないようだけど、その業火は魔物を転ばせるに十分な火力を持つ。
左……私側に倒れて来たグレイファントという巨大な魔物。なんとかバランスを取ろうとするこれをさらに押し倒すは無色の魔力。ジュナフィスだ。
それとほぼ同時に私が大剣で左……グレイファントの右前後足を一直線に切り裂く。悲鳴を上げながら倒れ行くそれに止めを刺すのは、勿論エリ。
別に相手は神々や魔法ではないから、対権能剣術を使うこともない。
頭頂から腹までをするりと斬って、終わり。斬ったそばから凍らせているからだろう、血が噴き出ることもない。実にスマート。この辺りもアザガネとの差を感じる。
まぁ、アザガネは血を浴びた方がテンションの上がる性質であるようだから、そもそもの着地点は違うのだろうけれど。
「よーし。グレイファントとビシアーペント。こんだけデカい餌があれば、地龍も食いつくだろ!」
「ああ。だが、エリ。今回は血を流させた方が良い。ファロン、氷を溶かしてくれ」
「おう!」
「……ごめんなさい、少し……ムキになっていた」
「珍しいミスだが、理由はわかっている。ルシアだろう?」
「う」
「あれほどに芯のある剣を見せられたらな、お前も張り合いたくなる。それくらいはわかるさ」
ああ、そういうこと。
地龍は別に血の匂いで寄ってきているわけじゃないから、なぜ彼女が咎められているのかわからなかったけれど、人間的にはそういう解釈なのか。
勘違いは……別に正さなくていいか。
なんというか、エリの少女性……もとい、アズ曰くのところの「マスコット感」が、私といる時だけ強く押し出されているように感じる。
ラスカットルクミィアーノレティカと一緒にいた時に対峙したエリはもう少しキリっとしていたというか、流石は王都一のパーティのリーダー、という感じだったのに。何が彼女をこうさせたのだろう。
私の「戦闘職ロールプレイ」経験から考えるならば、エリという英雄は私をライバル、ないしは超えるべき壁だと設定している可能性が高い。いや、高かった、というべきか。先日の風呂での機微を見るに、ただそれだけではなくなってきているのは目に見えているから。
勝たなければいけない相手。自身と同格以上の相手であると同時に……どうにかしてファトゥルムから引き剥がしたい存在。
つまり。
つまり……あれか。
「エリ、お前……私に対して、お姉さんぶろうとしているのか?」
「は──はぁ!?」
「む。……成程、ルシア。それだ。私も張りあいだけが理由じゃないと思っていたが、なるほど」
「はっはっは! さては、昔のエリとルシアはそういう姉妹のような関係だったんじゃないか? それが、しばらく会わない内に……みたいな。そうだろ!」
「違う! 断じて違う! そんな感情は一切抱いてない!!」
トゥナハーデンが生まれた直後のディモニアナタを彷彿とさせる。今のディモニアナタではなく、前のディモニアナタだ。
彼女は落ち着いた性格で、自身の同型機が生まれることに喜び……同時に「どうにかして姉らしくあろうと」していた。まぁそれは叶わなかったのだけど、トゥナハーデン側が察して妹としての立ち振る舞いをしたから空回りが起きずに済んだ……なんて、懐かしのエピソードだ。
なら、あの時の二人に倣ってみるのも一興かな?
「エリ姉さん、とでも呼べば、その浮ついた態度は改善されるのか、エリ」
「気が散るだけだから、やめて」
「そうは言うがな、エリ姉さん。現時点で気が散っているのだから、荒療治も──」
あの、時間流を割く剣が来る。
当然のように受け止めるけど、それ川下に影響出るからあんまり使わないでって言ったの覚えてないのかな。
でも……羞恥からの怒りで、普段以上の膂力が出ていた。代わりにバランスを失っていたけれど……。
なんだか本当に、エリは「等身大の人間」という印象を受けるな。
「自分で直せよ?」
「……わかってる」
あの日習得した「時間流の修復魔術」を使い、それを糺すエリ。
当然のことながら、他の二人にはエリが瞬きよりも速く移動し、私に剣を叩きつけているように見えたことだろう。
「ちょ、エリ怒りすぎだろう! 悪かった、悪かったよ! ほらルシアも謝れ、このさらに上、拗ねたエリは面倒くさいんだ!」
「そうか。その姿も見たことが無いな。すまないな、エリ姉さん」
首を狙った一撃を大剣でガードする。こっちはおふざけだ。剣速があまりにも遅いから。
「良い性格をしているな、ルシア。……ファロン、やはりあの件」
「ああ、良いと思うぞ!」
「では地龍退治が終わってから、ルシアに話そうか」
「そうだな。奴さんも、来たようだし!」
遠くから近づいてくる地鳴り。
クロックノックから少し離れた山中に出た地龍の討伐。それが今回の依頼。
成程、あの二人の間でそういう話に発展していたのか。
「……妙だな」
「おお、気付いたか、ジュナフィス」
「ルシアも気付いていたのか? 何故言わない」
「それはルシアの悪癖だから気にしないでジュナフィス。この子は妙に他人を育てたがる傾向にある。それだけだから」
「ということは……むしろソロ時代は、ルシアの方が姉だったのか?」
「もうその話は終わり! ──ファロン、ちょっと空に上がってて」
「おー、いいけど。私には何が何だか……」
ファロン・ウィリアムズだけは気付けず、か。まぁ感情結晶の持ち主なんてそんなものだ。
アルフが珍しいだけ。普通はあれほど強いものを手に入れたのなら、それのコントロールに必死になって、基礎の訓練は疎かになる。
恐ろしい精神力で『朱怒結晶』の感情増幅を抑え込んで、堅実な騎士をやっていたアルフが異常なのだ。
それで、何が妙なのかと言えば。
「初撃は貰おう」
「あ!」
大量の土と共に飛び出て来た地龍の頭部を割断する。──も、地鳴りは止まない。直後、私の背後に出て来た頭部を蹴って高くへと飛び上がり、空へと躍り出た私に噛みつこうとする頭部に斬撃を入れ、その腕に酸を吐いてきた頭部を躱し。
「六つ首!? 突然変異か!」
「いや──」
「いいや、突然変異の突然変異だな」
冷静なジュナフィスの言う通り。
地から出て来た首は計六つ。そして──見える尾もまた、六つ。
これはもう龍というより新種の虫だな。
「ファロン! 辺り一帯囲んで、蒸し焼き!」
「わかった!」
出力が低かろうと、感情結晶の魔力が無尽蔵に近い、という所は変わらない。
振り撒かれて行く火は次第に「伝播」し、周囲の温度を上げていく。ジュナフィスは絡繰故に平気で、エリは氷の魔力を纏っている。私もポーズとして纏う。
その「伝播」が次第に生物では耐えられない熱さとなって──地龍がその全貌を明らかにした。
六つ首、六尾。さらには──。
「魔力が……心臓がばらけている」
「融合体か。少し面倒だな」
まぁ。
今まであんまり触れてこなかったけれど、魔物、というのは進化という側面において多種多様を極めすぎている。
人に害を為さない、益となるものを動物、人に害を為し、破壊を生むのが魔物。そういう位置づけにあるから、魔物と人は生存競争をする関係値にある。ただ私が「人間への期待」を込めてこの世界を作った以上、人間の絶滅はほぼあり得ず──ゆえに、独自進化を遂げに遂げている。
少ない餌から蟲毒を起こし、強力な固体となったり。逆に別固体との共生関係を突破して、融合したり。
この地龍はその融合体で、しかも地龍同士が融合しているというレアケース。
余程過酷な環境且つ余程有用な能力を有した固体同士でなければあり得ないが……さて。
「ルシア! ぼーっとするな、退くぞ!」
「なぜだ」
「なぜって、初見の魔物なのだから、対策を立て直す必要が──」
ああ……堅実だな。
それがこの
無理をしない。初戦で異常な固体であれば、すぐに撤退して分析をする。作戦を立てる。狩り慣れた魔物であれば豪快に行こうものを、異常個体には慎重になる切り替えの速度。
ふむ。良いパーティだ。
「が──私がいる時は、その心配は無用だ」
先述の通り、地龍……というか魔物は別に血の匂いを感知して追ってきているわけじゃない。
奴らが好物としているのは莫大な運命エネルギーの方であり、だから高ランク冒険者やそのパーティは強大な魔物に狙われる。
地龍の知性の問題で食欲の方を優先する可能性はあるけれど、エリの運命プールを考えると撤退は意味はないだろう。
矢を六本、弓に番える。
纏わせる魔力は熱、風、音。「ルシア」の膂力で限界まで引き絞られた矢は、
地龍の甲殻を貫ける威力ではないけれど、確実に心臓の有る位置を捉えた。後はそれを叩けばいい。杭を打つように、大剣でガツンと。
出血は起きない。ただ──倒れてくる地龍の身体を。
「鬼面・呱呱・汲弓」
対ファムファタウル……つまりクロウルクルウフの対権能剣術でエリが消し飛ばした。
「……ルシアもエリも、流石だが……とりあえず反省会だ」
「すごいなルシア! 今の魔力操作……音と風と……もう一つ使ってただろう!」
「威力から鑑みるに、熱だろうな。だがファロン、あまり囃し立てるな。反省会だ」
「おっとすまんすまん!」
成程。
上手く行けばそれでいい、じゃないのか。
しっかりしたパーティだな、本当に。
そんな感じでしっかり反省を促された後──その話が来た。
「ルシア。お前、
「……誘いは光栄だが、急じゃないか? 私達はまだあって十日程度だろう」
「だが、気が合うし、強さも十二分。ソロ時代の癖が抜けきっていない部分もあるが、それはゆっくりと変わっていけばいい。お前も、そして私達もだ」
「ああ! 誰かが抑圧されるようじゃ、
「エリ、お前の意見は?」
「……賛意は示す。けれど……大事なのは、あなたの意見の方」
それは多分、「ファトゥルム」ではない「長」の意見が聞きたい、ということだろうけれど。
「元より天涯孤独の身。ありがたく誘いに乗らせてもらうよ」
結局は、"改変"すればいい話だし。「ルシア」も、捨てる人形だし。
エリの目論見としては、「長」に自我を持たせること、なのだろうから、上手く便乗して「オーリ・ディーン」と「長」の完全断絶を目指したいものだ。
私の意見に、三人とも笑顔を浮かべ。
「ならばともに来てもらおう、ルシア」
その笑顔を消して、魔術を発動させた。
瞬時に周囲の景色が変わる。地龍の暴れまわった山麓はどこにもなく、あるのは暗い地下室だけ。
人影は五つ。
「脱げ」
「はい」
言われた通り、服を脱いでいく。
その途中……人間が羞恥を覚えるだろうあたりで「もういい、着直せ」という命令が入る。
「はい」
「……ウォルソン。お前さぁ……毎回だけど、悪趣味じゃね? 俺が言うのもなんだけど」
「相手の性別が女であれば、これが最も有効な確認手段だ。初対面の男に肌を見せる。それも躊躇なく。そんなことは、洗脳下にある者か、これでもかというほどに自我を潰されたアサシンくらいしかあり得ない」
「いやそれはわかるけど……今のところあの魔族の洗脳魔術は全部通ってんだろ? それでよぉ、初手脱げ、は……しかもギリッギリまで止めないの、ちょっとなぁ」
「今更倫理観側に立つのか、快楽殺人鬼」
「そーいうわけじゃないけど、俺は割と紳士な方だぜ? ドレアムする時も局部なんかが外に出ねぇよう気を付けるし」
「お前の妙な矜持はどうでもいい。……そんなに気に入らないのなら、最も仲の良いと思われる人間……今回であればエリか。ルシアにエリを殺させる、という命令をしよう」
「あー、まぁそっちの方がまだ見てられるわな」
知っていた。
クロックノックの中に、常に意識を束ねるような、掌握するような魔術があったことを。
魔族の洗脳魔術。恐らくそれが先の一件においてヒトットさん達を暴走させた魔術なのだろう。人間が開発したわけではなかったことに落胆を覚えると同時、その魔族を完全に道具のように扱えていることには感心を覚える。
ここにいる三人だけじゃない、クロックノックにいる冒険者の全てはその洗脳魔術に操られている。普段は一切気付けないほどに。
操られていなかったのは、ウェインとティニ・ディジーだけ。だからこそあの二人は早々と出国したのだろうけど。
「しっかし、エリと同じレベルの冒険者が手に入ったのは運が良いなぁ」
「運が良すぎる。だからしっかりと調査を行ったが……どうやら本当に運が良かっただけらしい。クロックノックにいる神たちもこの女の素性を調べ、中身まで見ている。そこまでして、本当にただただ強いだけの人間である、との話だ」
「名が売れてなかったのは、やっぱソロだったからか?」
「というより、こいつは基本的に名乗らないらしいな。ハストナイトで活動していた時も、冒険者協会にのみ名を明かしていたが、依頼人や住民たちには名を明かしていなかった。大剣と弓というアンマッチな組み合わせの武器を使い、颯爽と現れては礼を言う暇も無く消える。半ば慈善事業のようなことさえやっていた冒険者」
「へぇ……何が楽しいのかはわかんねぇけど、そりゃ名が売れないのも納得だ」
択はある。
ここでトム・ウォルソンに真意を問うて、「オーリ・ヴィーエ」の処遇を決めるか。
それとも洗脳されたままにして、
……どう考えても後者だな。
「……いやさっきは悪趣味って言ったけどよ、……良く鍛え上げられた、良い身体してんな、コイツ」
「なんだ、好みなのか? そういう思考も植え付けることはできるぞ」
「いやぁ、好きになった女は殺しちまうのが俺の性でね。これで言動まで俺好みになったらヤっちまいかねねぇ……が、返り討ちにあって俺が殺されかねないんで無し」
「ほう。お前がそこまで言うか」
「ウォルソン……お前俺の事めっちゃ評価してくれてるけどさ、本気で、本気で単体の俺は弱いと思うぜ、俺自身」
「知っている。だからこその搦め手だろう、お前は」
「否定しろよ。まぁそうなんだけど。……なぁ、洗脳解かない限りコイツ動かねえんだよな。ちょっと触ってもいいか?」
「構わないが、それをするなら今後僕に悪趣味だのなんだのと言うのはやめろ」
「へへ、わかってるよ」
チャックの腕。
明らかに下心のある腕が私の身体に近づく。別に人形に何をされようと構わないので傍観に徹するけれど、ふむ。
……チャックの言う通り、何故トム・ウォルソンはこの男をこんなにも信用し、評価しているのだろう。独自のゴーレム操作技術以外、大した取り柄の無さそうな男に見えるけど。
「チャック、止まれ」
「ん?」
その彼の腕。いや、指先──爪か。
斬り落とされる。下手人は──エリ。
「おいおいおいおい……ウォルソン、あぶねーだろ! なんで洗脳解いたんだよ!」
「解いていない。これはただの意志の力だ。友情、あるいは守護の意志。エリにとって、ルシアはファロン、ジュナフィスと同列に並べる程には大切な存在らしい」
「……もっとキツく縛れないのか? これ、また触ろうとしたら」
「今度は腕を斬り落とされるかもしれないな」
「怖っ! ……ああ、じゃあ、ルシアにだけ脱げってまた命令してくれよ」
「ダメだ。これ以上の洗脳は時間的齟齬を生む。──各自、元居た地点から拠点までの帰り道を互いに齟齬の無い空想で積み上げ、それを記憶とせよ。拠点までは誰とも会わずに戻れ。いいな?」
「はい」
ぞろぞろと、生気を感じさせない様子で戻っていくエリ達。
……気になったから、罅を入れる。
「!?」
「いや何、どうせ本来のお前は忘れる話だ。気にするな」
「っ……クソ、これだけ精査をしてわからないのか。神もほとほと使えない……!」
「気にするなと言った。それで……お前、なぜそこまでこの快楽殺人鬼を評価している?」
「……はぁ。まぁ、簡単な事だ。僕には野生の勘と呼ばれる直感が備わっていない。戦闘職ではないし、他に比べたら……恵まれた環境で幼少を過ごした。今も裏方に徹しているから、命を脅かされることがほぼない。だから直感が育たない。チャックは僕と真反対の人生を送ってきている。スラムに生まれ、殺人に悦楽を見出し、追われ続ける日々を過ごしながら、学も無いのに生き延び続けた。コイツは野生の勘がこれでもかというほどに働くんだ。僕はそこ評価しているに過ぎない」
「神々の精査や魔色の燕の調査よりも、信用できると」
「少なくとも今罅に放り込まれた僕はその信用を失っているが、トム・ウォルソンという男は神より人海戦術より、チャックというただ一人の直感を信じているだろうな」
成程。
……このままヴィーエについて聞くのも吝かではないけれど……少し、面白そうだ。
やめておこう。
「驚かせてすまないな。全てを忘れ、私達を見送るといい」
「謝るくらいならやるな……」
「全くだ」
罅が修復される。
何事もなかったかのように私達はぞろぞろと部屋を出て行く。
「ただ……ウォルソン。どーにも俺の勘が警鐘を鳴らし続けてるんで、もう少し監視はした方が良いと思うぜ」
「そうか。良い意見だ、重く受け止めておく」
「いや本当だって!」
「監視ついでに彼女の私生活を覗きたい、というお前の意思が本当なのは伝わっている」
「それはっ! ……あるけど、それはそれとして!」
ふぅん。
トム・ウォルソン。ジョークも言えるんだな。そして、仲のいい事で。
指し手を名乗るのなら、仲のいい相手なんか作らない方が良いと思うんだけどなぁ。
それともイアクリーズや砂の国の王にもそういう相手がいるのだろうか。
いるのだとしたら──やっぱりわからない。
盤上に動かすこともできなければ狙われたら致命的な駒を置く、なんて。理解の範疇外なのだけど。
人間だから……だったりするのだろうか。
こうして、正式に私が
「お?」
「彼女たちは……」
自分探しの旅に出ていたユート・ツガーとレクイエム達と、ばったり遭遇する。
予定調和。演算通りの邂逅。
けれど──ここで行われる会話は、天文学的な数字を記録している。そんなどうでもいい私の演算結果より、本物の「異世界の魂」の言葉だ。何を犠牲にしてでも聞く価値がある。
「……ユート・ツガー……と、レクイエム、で合っている?」
「おー、ちょっと会っただけなのに覚えててくれたのか、お嬢ちゃん。ありがとな!」
「エリ、知り合いか?」
「ファロン……。覚えてないの? ほら、前に冒険者協会で会った二人組」
「エリ、ファロンに期待し過ぎだ。そんな特徴だけで、この女が覚えられるはずがないだろう」
「そうね……ごめんなさい、ファロン。期待し過ぎていた」
「なんか馬鹿にしてないか?」
「されていることに気付けない時点で、だと思うよ、ファロン・ウィリアムズ」
「お……なんだこのガキんちょ、生意気だな!」
「だから……それ、前もやったって」
成程、一度目の邂逅はそういう交わりだったのか。
だとしたら……もう少し関係値が必要と見た。
"改変"する。
「エリ」
「どうしたの、ルシア」
「上を見ろ。昼からは珍しいが……"落とされ星"だ」
「落とされ星?」
全員が上を見上げる。
そこには、尾を引く火球。
「隕石のことを落とされ星っていうのか、こっちの世界じゃ」
「ああ、ユートには説明してなかったか。君の世界で落とされ星がどういう扱いだったのかは知らないけれど、この世界じゃ基本的に有用な鉱物を──」
「……あの落とされ星、こちらに落ちて来ていないか?」
「へ?」
冷静な一言を発するジュナフィスに、一度は興味を失いかけていた面々がそれを注視する。
私達に命中するコース、ではないにせよ。
近くの山に落ちる。それがわかる軌道を描いている。
「おいおい! マジで隕石ならやべぇぞ! レクイエム、水魔法の準備してくれ!」
「ああ、そういうところは君の世界でも同じなんだ」
「ファロン、広がる火のコントロールは取れるか?」
「やってみる!」
山火事に関しては安心してくれていい。
魔術のスペシャリストと火のスペシャリストがいて、最悪全てを消し飛ばせるユート・ツガーもいる。
消火隊を名乗れる程に火事に対する技能が揃っている。
「ルシア、風圧いける?」
「軌道を逸らすのか? 構わないが、あの山に何か価値が?」
「この山の裏手に大きな湖がある。そこに落とせたら、被害も少なくなる」
「そうなのか! んじゃ俺も手伝うよ。最近魔力操作ってのをモノにできて来ててさ」
「そんな初心者が出る幕はないと思うけれど……まぁ、無いよりマシか。タイミングはルシア、あなたが決めて。私達はそれに合わせる」
「いいだろう」
大剣の柄を握りしめ──その切っ先を地面へと擦らせながら、ぐるりぐるりと回転。
そして、インパクトの瞬間に風と火の魔力を纏い、放出する。
「クウガ!」
「急進・清清・止視!」
「『属性変化Lv.30 光→風』、『烈風Lv.60』!!」
成程、スキルとかいうのに落とし込んだのか。
中々賢いな。これでいてギギミミタタママが接触していないのだから……やはり流石は「異世界の魂」と言わざるを得ない。
かの「女王」も、与えられた環境から様々を己で生み出し、過ごしやすくし、成果を掴み得た。アズも齎された賢者の知識をすぐにモノにしていたし、「異世界の魂」とは皆そういう性質を持っているのかもしれない。
なんにせよ──豪風が吐き出される。
落とされ星の軌道を変える程の豪風。地龍の甲殻程度であれば貫通して余りある威力の風が、落とされ星の軌道を逸らし。
その着弾地点で、激しく水しぶきを上げたのが見えた。凄まじい震動と共に、であるが。
「おー。成功か!」
「レクイエム、と言ったな。中々やるじゃないか」
「君も、無色の魔力しか使えないにしては器用だね」
「ん? 何の話だ?」
ユート・ツガーの放った「スキル」を両側から軌道修正を行った、という話だけど。
ジュナフィスもレクイエムも、それを誇示することはないだろう。だからユート・ツガーは知らないまま。まぁ、それでいいのだろう。
「まぁいいや。で、なんだっけ。落とされ星は有益、なんだっけ? ちょっと行ってみようぜ!」
「そうだね。賛成だ。それに、火事が起きていないとは限らないし」
「エリ、私達も行こう。落とされ星が落ちた瞬間を見るなんて生まれて初めてだ。わくわくする!」
「そうね。湖が干上がってしまっていた場合、あの湖を水源としている河川にも影響がでるだろうし、その補填は必要でしょう」
よし、良い感じにまとまった。
これで、「仲良く」なれるだろう。深い話をするほどに。
「一応、聞いておくけれど」
「流石に無理だ」
「そう。良かった」
小声で、そんな確認をされながら。