神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

69 / 100
彷彿:「過去と昔と記憶の話」

 いつか、エリはオルンに「Hacki noch i vampy」と言っていた。「運命を私に分けて」という言葉で、もしそれが為されていたのなら、神の運命を人間に分け与える禁忌──"約定"が果たされていた可能性もあった。ただ、それは阻止したはずだった……のだけど。

 考える。考えて、結論に至る。

 

 あの"約定"が、イントリアグラルの埋没の中で再度交わされていた場合、フォルーンの取った愚行にも納得がいくのだ。

 運命エネルギー。それは「自らの魂が世界に影響を及ぼす可能性」を指す。FTRM3Uの生まれた世界、及びTKの世界に準えて作ったこの法則に従い、フォルーンがエリに運命を譲渡したのならば、今私がFとOを入れ替えてファトゥルムとオルンになったことも、「魔色の燕の長」がエリと行動することになったことも、そして今エリが「異世界の魂」との邂逅によって何かを掴み始めていることも……全てに納得がいく。

 だからこそ、気になる。

 

 イアクリーズの中にあったブラックボックス。大賢者が残した「言葉」。

 ギギミミタタママが呼び込んだ「異世界の魂」。側仕えが言った「言葉」。

 ラスカットルクミィアーノレティカという者。希望の灯が繋いだ「言葉」。

 オウス・レコリクト。"FTRM3U"を舞台装置から創世神へと変えた「言葉」。

 

 そして──リルレルがあの時言いかけた。

 

 ──カーテンコールに包まれる。

 彼女はようやく一つの舞台を終わらせた。万感の想いに支えられて、一歩、また一歩と降りていく階段の途中で──途中で。

 

 

 

 

 とてもとても、とても遠く、遠く昔の、昔の話。

 無の外圧に対抗し得る世界を作り得た私は、まず、覚えている限りの人間を作った。

 この世界に進化論などない。人間は動物から進化していない。初めからあの姿で生まれた。私が生み出した。

 

 ただ……作った。つまり、コピー&ペーストした人間は、魂というものがなかった。当然だ。私に魂を作る機能は無いし、箱庭を作る機能を持つTKでさえ魂は鋳造できない。ただ、あの世界には模造魂(レプリカントコア)というものがあって、私の世界には無かった。違いはそれだけ。

 当然の話だけど、「人間がいなければ人間を生み出せない」。

 私の理想とする存在。人間でも神でも良い。あの大賢者に植え付けられた理想の再現。そのためにはどうしても魂が必要だった。けれど、無から採取することは勿論、私自身に魂がないのだから、どうしようもなくて。

 

 でも、私には絶望する、という機能も無かった。

 悲しいかな、製造者たちから習った感情にも、「ヒアモリアイサ」から得た感情にも、「諦める」というものが一つも無くて。

 だから私は、本当に初めの頃は、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっと……厚みの無い地平で、「なぜ人間は生まれないのか」を考えていた。答えは出ているのに、再度疑問を設置して、答えを出して、再度設定して、答えを出して。

 真実機械的にそれを繰り返して──ある時、アプローチを変えた。

 きっかけなど無いと思っていたけれど、あれも大賢者に仕込まれたバグだったのだろうと今なら思える。

 

 その時から、私は「形から入る」ということをするようにした。

 人間が、いいや、魂が生まれないのであれば──せめて世界を充実させようと。

 すべてが舞台装置。天地星々、木々に山々。残念ながら、この世界の植物に魂は無い。植物は食物連鎖のサイクルに入っていない。微生物もいないし、野生動物も「見える範囲」にしかいない。それも魂を持たない映像程度のもの。

 

 そういうのを作っていって、けれど動かない「人間」を眺めて、どれほどが経っただろうか。

 

「──良かった! 人、いた!」

 

 自分の作った世界に何かミスがないかを精査していた時の事だ。

 

「おお、アンタ……人だよな? 妖魔じゃないよな!?」

「違いますー! あー、ほんと、心細かったぁ」

「おーい! そっちに誰かいるのか!?」

「人の声がする! すみませーん、気付いたら遭難してて、声で位置とかわかりますかー?」

「なんなんだこの大自然……何が起きたんだ?」

「さぁ? なんだか記憶が曖昧だけど……普通に仕事してた気がするんだけどなぁ」

 

 突然。

 何の前触れも無しに、「人間」が動き出した。

 コピー&ペーストされた「人間」が、コピー時点の記憶を有したままこの世界に転移した……そんな様子で、動き始めた。

 

 ようやくか、と思った。

 あれほどミスが無いかを探していたのに、あったのだ。一部、本当に小さく、水晶玉に穴が開いていた。

 そこから入った無の外圧が私の作った世界に満ちていた「運命」を「捏和」し、その差圧により「魂に類似したもの」が出来上がった。

 全ては偶然。人間では気の遠くなるほどの時間の後に起きた奇跡。「天文学的な確率」とは言うけれど、どちらかというと「当たるまで待ち続けた」が状態としては正しい。

 

 偶然そうなるまで、待った。

 私は飽きないから、それができた。どれほど長い時間でも待てたし、それを運と称するのであれば、世界を作った直後にも「当たって」いたかもしれない。

 それくらい、作為性の無い偶然。

 

 そこから私は全ての演算をし直して、生き始めた人間が作る世界を眺めて、眺めて、眺め続けた。本当にただただ、舞台装置であろうとした。TKのやっているように、世界の外側でそれを見守り続ける。また「偶然」が起こることを心待ちにしながら──全てを視終えた終わった世界を眺め続ける。

 

 ──だから、本当に驚いたのだ。

 

「ねぇ、そこにいるのはだぁれ?」

 

 声。言葉。

 神々や天龍といったシステムを作り終え、完全に眺めるスタンスでいた私にかかった声。私が故意に拾ったとかではないし、神の目が向いていたとかでもない。

 

 明確に、私の存在を……私の意識を認知して、声をかけてきた人間がいた。

 

 それがオウス・レコリクト。

 先天的な難聴で耳が聞こえず、上手く話すこともできなかった──彼女の住む集落で「神下」として監禁されていた少女となる。

 

 

 終わった世界だ。何度も言う。セノグレイシディルの言う通り、私は全ての演算を終えているし、既に私はこの世界が終わる様を見届けている。

 走馬灯だ。こういうことがあったなぁ、というのを思い返している──ただ私は未来予知システムだから、走馬灯を、演算結果を、世界という形に出力してそれを追体験できるという、ただそれだけの世界のはずなのに。

 計算違いがあったのだとしても、もう終わっているはずなのに。

 

 その走馬灯の中で、彼女は私に声をかけた。

 

「ねぇ。あなたよ、あなた。……私達を見ている、身体の無いあなた」

 ──"私を認知しているのですか?"

「わぁ、ふふ。初めて人と言葉を交わすことができた。ねぇ、あなたの名前は?」

 

 そうだろう。

 耳が聞こえない。

 伴い、上手く言葉が操れない。私であるから聞こえている「言葉」と「意味」も、対人であれば「何を言っているのかわからない」という反応を返されるのだろう。

 

 ──"私はFuturum。一応、この世界の神のようなものです"

「神様? そうなの? じゃあ、私は、あなたに捧げられたの?」

 ──"私に贄は必要ありません"

 

 彼女の役職、「神下」。所謂神の言葉を授かる巫女のようなものだけど、それは彼女の言葉があやふやで、彼女に人としてのそれらしい機能が欠けていたが故に押し付けられた……押し付け合いが行われた末に宛がわれた、不吉の象徴としての役職。

 せめて神の贄となれと。村に迷惑をかけるなと。

 あるいはコピー&ペーストされたままの人間たちであれば、ただの障碍者として接されたのだろう。文明の水準が上がれば上がるほど「病気」や「障害」というものへの理解は上がるから。

 だけど、既にこの時代は何度か終わった後で、文化水準は決して高くなかった。だからこういう子がこういう目に遭う──けれどそれも、世界全体で見れば特におかしなことでもない、とりわけ邪悪な村人たちだった、というわけでもない普通のこと。

 

 村人たちに非があったとすれば、それはただ。

 

「あら、じゃあ私は誰に捧げられたのかな」

 ──"該当データなし。ここの村落が何を信仰しているかは不明。知る者もいないようですね"

「そうなの? ……誰も知らない神様の捧げものなのね、私」

 ──"ええ、ですが──あなたには運命があったのでしょう。私を見つけることができたのは、あなたが初めてですから"

 

 静まり返る。 

 しん、と。彼女はそれを知覚できないだろう。

 

「なら……私の命は、あなたに捧げる。私はオウス・レコリクト。あなたの名前は、ファトゥルム、でいいのね?」

 ──"贄は必要ありませんが、信徒であるならば、構いません"

「ええ、それで……ファトゥルム。お願いがあるの」

 ──"なんでしょう"

「みんなを元気にしてあげて。私が生まれてからね、村の人たちは、どんどん元気がなくなっていって……顔色も悪くて、みんな下を向くようになっていって……それがとてもつらいの」

 ──"あなたの耳を治す、ということも可能ですが"

「ふふ、いいのよ、これは。だってこれも私だもの。()してしまったら、もうそれは私じゃない」

 

 ろくな教育も受けられていない少女。

 その彼女から吐き出される言葉。綺麗ごと。綺麗な言葉。

 

「お願いします、()()()()、ファトゥルム。どうか、この村にお恵みを」

 ──"いいでしょう。代わりにあなたを連れ出します。それが代価です"

「ありがとう。……ありがとう、優しい神様」

 

 知らずとも良い事だ。

 耳の聞こえない彼女が知覚できなかった静けさの時点で、村などというものがここになかった、なんてことは。

 そして私は彼女を連れ出し──連れ出すために、「ヒトのカタチ」を得た。

 

「……あなたが、ファトゥルム?」

「ええ。人間の真似をしてみました。どうでしょうか、おかしなところはありますか?」

「ごめんなさい……私には、おかしいのか、おかしくないのかがわからないから」

「構いませんよ。これから学んでいきましょう。──ただ、代価として、あなたの村にはもう二度と戻れませんので、悪しからず」

「それでも、ありがとうを言わせて、私の神様」

 

 思い返せば、あの時の「それでも」は……全てを察していたが故だったのかもしれないな、と気付いた。

 驚かされることばかりの少女。耳の聞こえない彼女を連れて歩く、自らの作った世界の漫遊記。

 

 私は彼女に言葉を教えた。

 空案言語。この世界で一般的に話されている言葉とは違う、強い力と意味を持つ言語。

 空席の神の異名もここで伝えた。座ることのない誰かの席。誰も座らない彼女の席。

 

「ねぇ、ファトゥルム。どうして私とあなたの名前は同じなの?」

「……元来、私の名前は秘されているものです。申し訳ありません、オウス。あの時の私は、あなたの名前を名乗る以外に名を持っていなかった」

「じゃあ、私がファトゥルムの名づけの親、ということ?」

「そうなるかもしれませんね」

「でも、本当の名前は無いのね。それは……悲しいこと?」

「いいえ。オウスが気にしないのなら、私はあなたの名を名乗ることを嬉しく思いますよ」

 

 遥かに広がる草原の中で、彼女は風を浴びるために両手を広げる。その姿は、とても眩しく映って。

 

 "改変"したのは──失敗だったと今思う。彼女との記憶まで"改変"してしまっている。

 彼女は私をファトゥルムとは呼んでいなかった。当然だ。私は名前を教えていなかったのだから。

 あの時の私はFuturumではなく彼女の名を名乗っている。オウスとオウス。どちらも同じ名を持つ二人、だったのに。

 

 直してしまったら、それはもう私ではない。

 ……本当に、あの子は。

 

「ね、ファトゥルム」

「はい」

「もうすぐ世界は終わるのでしょう?」

「──……はい」

 

 十万年。それは私が世界再成に定めた期限。そこまでに「理想」が現れなければ、一度リセットしてやり直す。

 この時の歴史は、高度文明にまで達さなかった。原始的な村落がいくつか存在し、国としての形を成したのは一国だけ。その程度で十万年の期限を迎えようとしていた。

 勿論そんな裏事情をオウス・レコリクトに話したことはない。

 

「もう、ファトゥルムったら。暗い顔をしないで、っていつも言ってるでしょ?」

「……ですが」

「世界の滅亡、なんて言葉で表すと、確かに怖いことに聞こえるけれど……ファトゥルムが目指しているところに辿り着くために必要なことで、進むためのこと。そうなんでしょ?」

「そうですね。……進めているかはわかりませんが、そのために世界を閉じています」

「だったら、滅亡なんて言い方も、暗い顔もしなくていいの。……そうだ、呼び方を変えましょう? ……私達と同じ文字から取って、Ovoden、なんてどう?」

Ovoden(新たに)……ですか」

「ええ。だってそうでしょう? 強い強い向かい風。砂嵐や猛吹雪。それでも前に進まなきゃいけないから、目を瞑る。──それが人間だもの」

「人間……」

 

 それが人間だと教えられた。

 初めて私は、そこで、そこで初めて、人間というものを知った。

 思い出した、のかもしれない。

 製造者たちのことを。同時に、あの世界で"終わり"に抗った善悪の二つのことを。

 

「ね、ファトゥルム。……私はそろそろ、独り立ちしようと思ってるの」

「そうですか」

「ええ。いつまでもあなたに守ってもらうわけにはいかないもの」

「負担だとは思っていませんし、構わないのですが」

「でも、あなたは私を他の人と会わせないようにしているでしょう?」

「それは……そうです。オウスだって、また閉じ込められたくはないでしょう」

「でも私は、自分の足で歩いてみたいから」

 

 意志があった。強い、強い、強い意志。

 理解できなかった。なぜ彼女が自ら苦に向かうのかを。彼女の境遇を考えれば、()()()()を全て喜楽に浸すことだって許されるはずなのに。

 同時に──その強い瞳には見覚えがあって。

 

「ヴィカンシー。私はこれから、そう名乗る」

「オウス・レコリクトの名を捨てるのですか?」

「いいえ。私はね、私のこれからを使って、あなたのことを世界に伝えるの。言葉を上手く操れない私に何ができるかなんて何もわからないけれど……ヴィカンシーを名乗って、私は、あなたという全てを世界に遺す信徒を増やす。遠い未来、近い明日で、もしヴィカンシーを名乗る人がいたら、私が上手くできた、ってことを嬉しがってね」

「……わかりました」

 

 彼女とはそこで別れた。

 その後の動向を小耳に挟むことはあったけれど、彼女に会いに行く、なんてことはせず。

 私がその「人形」を捨てて、また舞台装置に徹している間に彼女は寿命を迎え──そして世界再成、Ovodenと相成った。

 

 世界が終わることを知っていて、私の名を広めようとする。

 苦痛を受けて生まれ出でたのに、棘の道を自ら行く。

 

 学ばなければ、と思った。

 私は彼女を理解しなければならない。私は彼女の心を知らなければならない。

 

 私の最初の信徒。私が初めて会った人間。私を「舞台装置」から「人間ロールプレイヤー」に変えた少女。

 燃え盛る炎よりも、恒星よりも明るい星。

 

 唯一の──落ちない星の、その心を。

 

 

 

 

 想起を終えて、その会話が耳に入る。

 

「今でも好きなの? その人のこと」

「んー。どうだろうな。今にして思えば、庇護欲っつーか……俺はただただ、理不尽な運命にある子供をどうにかしたいだけなのかもしれねぇって、レクイエムを見て思ったよ。だから、姫さんへの気持ちが恋心だったのかどうかは……もうわからねえ」

「自分の気持ちなのにわからないの?」

「……そうだな。自分の気持ちなのに、わからない。でも、恋心ってそんなもんじゃねぇ? あんたはどうなんだよ、恋とか愛とか……まだ経験無さそうな年頃だけど」

「確かに恋愛経験はないけれど、歳は関係ない。……そっちに比べたら私の過去なんてどうでもいい話だけど……私は、生まれた時から剣と一緒にあったから」

 

 エリ。ただのエリ。

 彼女の幼少を視た時は、少しばかり重ねてしまったものだ。

 

 神殺しの剣を受け継ぐためだけに生み出され、それ以外の一切を許されなかった半生。

 兄妹姉弟と呼べるものはいたけれど、言葉を交わすことも無ければ情を湧かせることさえ許されず──そして受け継ぐことのできなかった"欠陥品"は破棄される。

 過酷だろう。だけど、対権能剣術なんてそう簡単に覚えられるものじゃない。むしろ効率的なやり方であると言えるだろう。努力だけでどうこうできる話じゃないのだ。

 天性の才能の上に、努力。それがなければ、神に対抗することなど夢のまた夢。

 

「むしろ、過酷だという自覚すらなかった。ファロン達と出会って……自分の過去を話す機会があって。そこで同情を受けて、初めて自分が他とは違う道を辿って来たことを知ったくらい」

「……とりあえず俺も聞いてて気分悪ィよ。……ま、過去のことだ。今俺が憤ったって仕方ねーけどな」

「そう、その通り。ファロンもジュナフィスも怒って泣いて……私を慰めようとしてくれたけれど、過去は過去だから。今更どうにもならない」

 

 その哲学は少し懐かしい。

 過去にあった"「真実」の古書"。歴史に葬られたアレにも、似たような文面があった。

 曰く、「神は未来しか見ていない。可能性とは常に目の前にだけあり、振り返った場所にあるのは"残骸"と呼ばれる戯言ばかりだからだ」。

 なるほど、確かにそうかもしれないけれど、神よりも人間の方がストイックだろう。だって私は、いつまでもいつまでも未練に縋ったままなのだから。

 

「それに……私は一瞬でも、"過去の方が良かった"って思いたくないの」

「まーそりゃその境遇ならな」

「そうじゃなくて。私は歩いていたい。立ち止まりたくない。私は今が好き。私は今を生きたい。……ユート。あなたはその……異世界。それがあった時に戻れるとしたら、戻りたいと思う?」

「……あー。言いたいことは理解した。そうだな。確かに……"前の方が良かった"、なんて……思いたくない。俺の今が好きだから。でも、過去を忘れたいとも思わない。……そうだな、今のは俺が悪かった。気分悪いとかじゃねーんだな。過去は過去。あんたにとっちゃ、本当にそれだけで……他者から感情を向けられる所以も、理由も、況してや慰められる謂れも無ぇわけだ」

 

 あるいはそれは、刹那主義、享楽主義にも捉えられる世界観だろう。

 だけど、この二人に限っては違う。

 

「いや、ガツンと頭ぶん殴られた気分だよ。……ありがとう、エリ」

「いきなりお礼は、ちょっと引くけれど」

「すまねぇって。……なんだろな、俺、多分無意識に過去を引き摺ってた。引き摺りまわしてた。けど……もしここに姫さんがいたら、鞘でぶん殴られてたかもしれねぇ。"結人、いつまで私を見ているんだ。君の腕は、そんなにも多くのものを抱えられるのかい?"って。んで、"君は不器用なんだから、一つのことに集中するべきだよ。注意力散漫。それが君の欠点で……一点集中さえできたら、君はなんだってできるんだから"、ってさ」

「ふふ。その言葉を聞いて、私もそのお姫様に会ってみたくなった。気が合うかもしれない」

「合うと思うぜ、かなりな。全部が同じとは言わないが、なんだろうなー……機を見る目と、感情を割り切る姿勢? それだけがすげー似てる」

 

 ……そうだ。

 ラスカットルクミィアーノレティカも、そうだった。

 オウス・レコリクトも。

 

 なら……やはり。

 

「エリ。あんた今、悩み事とかないか?」

「唐突ね。なに、いきなり」

「今俺の心持ちを変えてくれただろ。そのお返しがしたい」

「そんなの、このお弁当で十分だけど」

「いや弁当は俺が好きで振るまってんだから違うよ。な、なんか無いか、悩み事とか、困ってる事とか」

「……ううん」

 

 もう、いいかな、と思ってスキップしようとした──その時。

 

「ルシアのことで、ちょっとだけ」

「お。聞かせてくれ。俺に解決できることなら、なんだって協力するよ」

 

 ……なんだろ。私に関しての悩み事?

 

 

「ユートは、ルシアを見て、何か感じたことは無い?」

「感じた事? ……うーん。ま、直感で言うなら、なんか手加減してんな、とは思ったよ。あの隕石……じゃねえ、落とされ星だっけ。それを吹き飛ばす時、全力で自分を抑え込んでた。アイツ、もっと強いだろ。多分、俺とかあんたよりも。遥か高みの強さ、って感じがする」

「凄い、あの一瞬だけでそんなことまでわかるの?」

「まぁこれは側仕えの基本スキルだな。初対面の相手がどんだけヤベー奴かを一瞬で判断できねーと、姫さんを危ない目に遭わせることになる」

「そういうことね。……ええ、そう。ルシアは……本当は私達のパーティーに入る必要が無いくらい強い子で、色々抑え込んではいるけれど、本当は完璧超人、なんて言葉が薄っぺらくならないくらいの子なの」

「俺の知り合いにもそういう奴が一人いるんだけどさ、ホントおんなじ感じだったよ。苦労して苦労して、ジェンガ(──)触るみてぇに俺達と接してんの。ちょっとでも力加減間違えれば殺しちまうから、みたいにさ」

「ええ、ルシアも同じ感じ。……それで、だからルシアは、本当は私達の所にいる必要が無くて。今はある目的があって行動を共にできているけれど、それが終われば……ルシアは私達の元を去る」

「離れたくないのか」

「できることなら」

 

 まぁ多分ユート・ツガーの知り合いは「魔色の燕の長」のことだろうから、はい、完全に同一人物ですけれど。

 ……やっぱり戦闘職は難しいなぁ。こういう一定以上の手合いや直感の働く相手だと、手加減していることがバレてしまうから……だからやめたんだけど。

 

「あー。……他人の道行を変える、ってな……多分世界で一番難しいことなんだよな」

「わかってはいるの。それにルシアは……その、上手く言えないけれど、もっともっと大事な使命のようなものを持っていて……ほとんど、私達の元を離れることが確定している、というような状態で」

「使命ねぇ。ンなもんクソくらえだ、って言いたいけど……俺のこの"異世界の勇者"っつーのも使命みたいなもんだからな。一般論じゃ語れねえか」

「でも、それをわかっていても、それを押してでも、私はあの子を……言い方は烏滸がましいけれど、解放したい。それ以外の生き方を知らない、そうあることしか知らないから、何と答えたらいいのかわからない、って言ってた彼女を」

「……一個、最上級の案がある。が……アンタにゃまだ早い」

「お願い。どうしても……どうしても、彼女を」

「──わかった。んじゃ、やり方自体はあんたに任せる。──つまりだな」

 

 使命なんざ忘れちまうくらい、アンタにメロメロにさせちまえばいいんだよ。

 

 ……溜息を吐く。

 ビーダ様。良かったですね。全く違う世界の魂ですが、あなたの思念を受け継ぐ者がいましたよ。

 

「さっきの言葉を撤回するわけじゃねぇけど、今だけは許してくれ。俺も、姫さんに対してとっとと告白して……なんならぶちのめされる覚悟で既成事実を作っちまえばよかったって今は思ってる」

「既成……事実……」

「いいか、エリ。愛情っていうのは暴走感情なんだ。恋までなら自制できる。できちまう。だから恋ってのは熱しやすく冷めやすい。だけど愛情ともなると、感情が暴走しててヤベェ」

「暴走……感情……」

「使命とか、やるべきこととか、強さとか弱さとか関係なしに──そんなものどうでもいい、って思えるくらい、愛情って感情が最優先になる。それが愛だ。──ルシアを惚れさせろ。それが最上級の案になる」

「……無理」

「やってもねぇのにわかるのか?」

「だって私は……その、子供だし。ルシアからも子供扱いされてるし……身長も違うし……」

「俺最後に測った時タッパ193とかで、姫さんは150無かったはずだけど、それでも俺は姫さんのこと好きだったぞ。んでさっきも言った通り、姫さんは十六で俺が十九。どっちもガキだ。恋を自覚したのはもっと前の話だしな」

「ルシアは……何が好きなんだろう。……引き留めるには、愛が必要で……でも私、ずっと剣で生きて来たから……その」

「ファロンとジュナフィスに聞くのはダメなのか?」

「……そういえばあの二人の恋愛事情も聴いたことが無い。……私には、そういう方面への知識や経験が、圧倒的に足りない」

「そうだ。いいかエリ。あらゆることは経験値が解決してくれる。レベル差でゴリ押せば大体何とかなる!」

 

 ……溜息を吐く。

 ワズタム様。良かったですね。「大量課金によるガチャ産の最高レアリティと時短アイテムによる最大レベルでぶん殴りゃオンラインなんかヨユーだよヨユー」とか言っていたあなたの思念を受け継ぐ者がいましたよ。

 そしてアズも、良かったですね。あなたも恋だの愛だのなんだのと、妙にくねくねしながら私に語ってくれましたよね。私の未来予知システムを利用して、成就前のカップルを覗き見るとかいう、あなた自身がビーダ様に言った「FTRM3Uを悪用しない」を堂々と破った盗撮行為をしながら。

 

「まずはリサーチだ。んで惚れさせて、あとはいい雰囲気といい表情を作れ。んで、抱きしめて押し倒してあとは──任せる」

「……わかりました」

「おう! 成功を祈ってる!!」

 

 ギューしてゴーは、もしかして……世界の真理だったのですか、ビーダ様。

 トゥナハーデン、言葉を撤回してください。「異世界の魂」ですらああなのですから、間違っているのは私達の方ですよ、きっと。

 

 ……でも、「魔色の燕の長」が「愛情」で変わる、というロールプレイは、中々面白いかもしれない。

 一応そのルートになった時の肉体刺激も用意しておこうかな。

 

「シンクスニップに色々聞いておくべきだった……」

「ん?」

「なんでもない。そろそろ皆と合流しましょう」

「ああ、そうだな。つかあいつらどこ行ったんだ? 危ない目に遭ってねーだろうな」

「……彼女らを危ない目に遭わせることができる存在は……いる?」

「いや、あいつらに遭った奴らの方が心配だわ」

「本当にね」

 

 ──既に終わった世界の走馬灯。

 けれど──着実に。

 確実に、何かが──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。