神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
四人の時を止めて
二人の間にあるのは土塊。それで理解はした。
ライエルなら戻すことは可能かもしれないけれど、原因が不明である以上手を出せない、と言ったところかな。シンクスニップはこういう物理的な部分には手を出せないからさもありなん。
「まったく……神が二柱揃ってなにしてるの?」
「っ、人間……なワケねーか。気配がっつり人間だけど、ファトゥルムだな。あー……すまん、殺しちまった。何をしたわけでもねーんだが……」
「ママ、ウチほんとに何もしてないからね!? いきなり土になってボロボロになって……なんかそもそも人間じゃないっぽくて!!」
「知ってるよ。だからそんなに焦らなくていい。……ちなみに、二人から見て、オーリ・ヴィーエは生き返らせる価値があると思う?」
「それ……をウチらに聞くのは、ちょっと可哀想、カモ?」
「どんだけ人間の真似事やったって……人間に価値、とか言われてもなぁ」
ああそうだった。
そうだよね、二人は私に言われたからオーリ・ヴィーエの相手をしていただけで、本質を考えれば欠片も興味なくておかしくない。
逆に言えば、この期間において二人の興味の一切を引けなかった、ということでもある。
「ん。じゃあ、いいや。二人は一旦アシティスに帰ってて。なんかリルレルにメイズタグが接触したみたいで、あっちの私も一瞬だけとはいえこっちに呼び寄せちゃったから、イルーナさんが心配」
「おっけー。じゃ、またなんかあったら呼んでね、ママ」
「ちなみにだけど、イルーナが死んでたら蘇らせる価値はあるって言えるぞ。ありゃ有能だからな」
「ライエル、それもう答えじゃーん」
そんな軽口を叩きながら消える二人。
本当にね。それがもう答え。
……さて。
四人の時を動かす。
「ルシア、そこまでに……え?」
「なん……だ、今の感覚……」
「っと……どこだここ。なんだいきなり!」
「……」
エリからすれば久方ぶりの、他の者からすれば初めての。
「ここがどこなのかは後で説明するが、まず、だ。先ほどまでの会話はある程度聞いていたな、皆」
「……ルシア。お前が神の眷属だ、という話か」
「ああ」
「眷属とは……数か月前にティダニア王国近辺の草原に出たという、流離の神オルンの眷属なるものと同じか?」
「そうなるな。私としては良く知っていたな、という感想が出るが」
「
へえ。
書いたのはドロシーかな。ティアはそういうのやらないだろうし。
あの子たちとも長らく会ってないなぁ、そういえば。会う価値があるかはわからないけど。
「人間を見下し、害を為す神の尖兵と……そう書かれていたが」
「概ね間違いではない。私の神が特殊なだけで、基本的に神は人間を劣等種としてしか見ていないし、そこから生み出された眷属も同じだ」
「……」
「あー。ジュナフィス。お前さ、ルシアがその眷属だかなんだかだからって、何が言いたいんだ? 私からすりゃ眷属だろうがなんだろうがルシアはルシアだし、見た目に似合わず色々器用で気遣いができて、エリに対してだけ悪戯しまくる奴……って印象しかないんだわ。その正体がどうだろうと、ルシアの性格が変わることはなくないか? 仲間だろ、私達」
「……ああ、ファロンはそのままでいてくれ。ただ……私は、私自身が"そう"だからな」
「ん、すまん。忘れてた。……ま、そんくらい私にはどうでもいいことなんだよ、種族がどうのって」
カラっとしているファロン・ウィリアムズ。
これも気になってはいるんだよな。
この性格で、よく『紅怖結晶』が宿ったものだ、って。何に怖がるんだろうか、彼女は。
「エリ。お前はこの事実を知っていたのか?」
「全部ではないけれど……少しは知っていた、になる。……ルシアは……その、見た目が変わらないから」
「いやそこで気づけよ」
へぇ、嘘を吐くんだ。
そこまで入れ込んでるの? それは予想外だったな。まだ他二人と同列くらいだと思ってたのに。
「それと、ここの説明は私ができる。ヴィーエと一緒に修行の旅に出た時……その目的地がここで、私は三日間ここで修行をしたから」
「ふむ。言葉の裏は、"だから一度、私達だけで話し合いましょう"。さらには"彼とルシアだけの時間を作ってあげて"、で合っているか?」
「う」
「今のは私でもわかったぞー! ……良い子だよなぁ、ホント。じゃ、ルシア。細かい説明は後でしてくれるんだろ?」
「約束する」
「んじゃジュナフィス、ここは一旦私の顔でも立ててくれよ。で、エリ。この絶景の案内を頼んだ。つかずっと気になってたんだ。──あの浮いてる城なんだよ! 行けるのか!?」
「ええ、入ることができる。……ジュナフィス、いい?」
「構わない。好奇心で言えば、私にもあるからな」
エリが一つ、こちらを見る。
頷き返してやれば、目を瞑って……小さく首を振り、彼女も頷いて踵を返した。
転移装飾の元に向かうのだろう。まぁ、安心してほしい。
ここまでやったんだ。「ルシア」はそっちに完遂させるから。──城内で「魔色の燕の長」に出会って、驚くと良い。
では。
「待たせたな、オーヴァーチャー」
「いや。私もそこまでの無粋を持っているつもりはない」
「そうか。ではオーヴァーチャー、一つ問いがある」
「そこの土塊……ヴィーエを蘇らせるかどうか、か」
「流石、察しが良いな」
ちなみにエリも気付いていたようだったけれど、何も言わずに去って行った。
彼女から評価はそう、ということだろう。
「……価値を言うのなら、オーリ・ヴィーエに価値はないのだろう。私がそうであったように、だ」
「そうか」
「だが……。……すまない、またお前に嘲笑されるだろう言葉を吐くが、許せ。──私はオーヴァーチャー・エイムブレインズだが……今生で得た仲間も、仲間だと思っている」
「それを私が嘲ると? まさか。"背骨に届かなければ致命傷ではない"のだろう? 今更どんな恥を晒そうと、私はお前を嗤わんよ」
「であれば、それが答えだ。ヴィーエも、イードアルバも、エディシアも……私の大切な仲間だ。私達は全員が"志半ばで死んだ"という共通項に惹かれ合っている。だから……死者でも、土塊でも構わないから……此度は、往生を。それを望む」
ああ、なるほど。
そうか、彼ら彼女らにあった仲間意識は、それなのか。
私ですら思っている、「私の人間ロールプレイは寿命を迎えることができない」という問題。必ず「志半ばで死ぬ」。
その記憶を保ったまま蘇ったのなら、そう捉えてもおかしくはないか。
「まず一つ。イードアルバ、エディシアは肉体が手元にない。蘇生は不可能だ」
「だろうな。……そうでなければ、二人の人間が同時に存在できてしまいかねない」
……その辺私は怪しんでるけどね。
チャックの倫理観を思えば……
できない理由があるのか、それとも反乱を恐れているのか。
「二つ目。私もエリも、この土塊に価値を見出していない。オーヴァーチャー。お前には期待が持てるが、この土塊には持てない。言いたいことはわかるか?」
「導け、ということだろう。……時代で言えば、何千年と先達のはずなのだがな。年齢で言えば私の方が上だから……会話をすることくらいはできる。……それでもなお、ヴィーエの価値が変わらなければ、ということか」
「ああ、その認識で相違ない」
「承知した。では、頼む」
この奇妙な魔法を使う。死後の苦界から魂を持ってくるわけではなく、この土塊に宿る意識を立ち上がらせる、という仕組みの魔法。
もう少し正確にいうならば、この魔法によって作られた「意識」はこの土塊に付与された装飾となり、だから土塊が無いと「意識」も植え付け直せない……のだけど、あの時「オーリ」と「オーリ・ヴィーエ」の衝突で二人は消滅しているので、「意識」側のストックがあちらにあるのだと思う。
そうなると……やっぱり英雄の大量生産はやってきそうだなぁ、という所感。そんな簡単に作れないと言っていたから、何かコストが嵩むのだろうが。
「……あれ」
「起きたか、ヴィーエ」
「オー……ヴァーチャー? それと……誰?」
「彼女はルシア。説明はまた後でだ。立てるか?」
「え。……オーヴァーチャーが親切なの……ちょっと気持ち悪い」
それについては同意する。
先述した通り、私の「オーヴァーチャーロールプレイ」は行き過ぎた冷酷無情、誰とも打ち解けず、誰とも助け合わない……みたいなロールプレイだったから、「倒れている仲間に対して手を差し伸べる」なんてことは絶対にしない。
「……偽物だったりする?」
「ああ。どうやら偽物だったらしい」
「……そう。私もそうだから……その手を取ることにする」
立ち上がったヴィーエは……こっちを見る。
「あなたは、長……というかファトゥルム側の人……でいいんだよね」
「そうなるな」
「……ライエル、シンクスニップと戦っていて……一つ感じたことがある。それを聞きたかったのだけど……」
「ほう?」
「!」
自分でやってることだけど、これはちょっと目まぐるしい。
天空城でエリ達に会う……直前だった「魔色の燕の長」を「ルシア」の隣に出現させる。「ルシア」から「魔色の燕の長」への伝言なんてやりたくないし、やったフリをすると時間的整合性の調整に"改変"使う必要が出て来るし。
だから、直接言ってもらおう。
……本当に、「自分同士のやりとり」は不毛だから、適当に「ルシア」をエリ達の輪に放り込んで、あとはアンネ・ダルシアと同じ感じでいいんじゃないかなぁ、とか思ったり。折角「オーリ」をうまく消せたのに、次から次へと……。
「ルシア、お前は先に戻っていろ。……それで、聞きたいこととは?」
「魔力について」
「なんだ、私に魔力の講義でもしろというのか?」
「大枠でいえば、そうなるかな」
えーと。
土塊に戻って知識がリセットされた……とかじゃないんだよね?
「オーヴァーチャー。あなたの肉体躁術は、無色の魔力の糸を対象に貼り付けたり巻き取らせたりして、凡そ人間の動きでは考えられない軌道・速度で攻撃を行う……というものであっているよね」
「私の、だけではないがな。肉体躁術自体がそういうものだ。操るのではなく、引っ張られる。
「神と戦っている時、それに似た物が彼らを覆っているように思ったの。表面上の振る舞いは無色の魔力に似た……けれど、根本的に違う魔力。それが神を神足らしめているって」
ふぅん。
良い着眼点ではある。確かに肉体躁術と神には共通項が存在している。
それは。
「魔力を拡散させないで、内へ内へと自ら織り込む流動性……。それがその魔力の性質」
「聞きたいことはなんだ、オーリ・ヴィーエ」
「私の最期。つまり、前の私の最期に私の告喰黒召と相殺したのは……それ、だよね?」
「そうだな。それそのものではないが、それを用いた技術だ。あの日あの場にいた"オーリ"というファトゥルムの眷属は、加減に加減を重ね、お前の技と共に消滅した。……これで満足か?」
「──それは、こういうの?」
一瞬、
パチ、という弾けるような音と共に顕れたるは、神に似た気配。この場にエリがいれば、形相を変えて斬りかかっていそうなほどに──似ている。
これは。
「……成程。力技が過ぎるが……面白いアプローチだな」
「何をすれば……アレに近づけるのか、考えたの。……。……内側に……自らを織り込み続けるには、
オーリ・ヴィーエの輪郭にブレが生じる。
時折弾け飛ぶような音が鳴っているのは、まだまだ未熟な魔力操作故に反発した魔力がNull Essenceを叩いているから。
「けれど……足りない。足りないものは一つ。恐らくは……雷の、魔力」
「考えを言ってみろ。一般に雷の魔力と呼ばれている、一部の神にしか扱えないあの魔力の正体は何だと思う?」
「刹那。時間と空間の間にあるもの。固定と基礎の間にあるもの」
「いいだろう」
満足だ。その答えが出せたのならば……いいにしてやる。
「オーヴァーチャー。先も言った通り、オーリ・ヴィーエの精神的成長はお前に一任する。だが、戦闘面においてお前はヴィーエに勝てないだろう?」
「認める。私はヴィーエには勝てない。──まだ、だが」
「え……オーヴァーチャー、偽物だとしても……その向上心を口に出すのは、やっぱり気持ち悪いよ……?」
本当にね。
そうじゃなくて。
「ノットロット」
「うわ……本当に呼ばれた……。マ……じゃない、えと、長ちゃん、でいいんだよね?」
「なんだ、予想を言ったのはクインテスサンセスか?」
「うん、そう。クインがいつか呼ばれるだろうから、準備をしておけ、って。……今日が命日?」
「違う。今、目の前にいる人間に、雷の魔力の扱い方を教えてやれ」
「へ?」
突然現れたノットロットに、けれど驚かない二人。
まぁヴィーエにとっては今更だろうし、オーヴァーチャーが表情を崩してまで驚くのは想像できない。内心どう思ってるのかは知らないけど。
「マ……ちょっと、長ちゃん? どういうこと? そんなこと……現状もだけど、書いて」
「ほう、危なかったなノットロット。セノグレイシディルが先を示していなければ、メイズタグに殺されるのはお前だったやもしれん。……七日だ。七日で、雷の魔力の使い方を覚えさせろ。荷が重いと感じるのなら、エレキニカを頼っても構わん」
「……クロウも言ってたけど、一度こうだって決めた長ちゃんは……全然言葉が届かない上で、丸投げしてくるんだよね……これかぁ……」
「クロウルクルウフがそんなことを言っていたのか。良い情報をありがとう、ノットロット」
「わ、私何もしーらない! さぁ! えっと、そっちの男の子も、で良いのかな? 良いよね? 女の子はまず魔力しまって、使い過ぎたら"終わっちゃう"から! はいはい、じゃあ、そうだね、律式領域へゴー!」
死者の二人は何を言う暇もなくノットロットに連れ去られる。
……あの子も大概怖がりだなぁ。神じゃないとはいえ、ちゃんとした権能与えてあるのに。
ま、こんなところでいいだろう。
収穫だ。ヴィーエが原色の魔力の存在に気付き、その性質までもを理解し始めているとは思いもしなかった。なんだ、やればできるじゃないか、という思いが強い。できるなら初めからやればいいのに。
「ふふふ、その所感、頭に総評、ってつけたくなるわね」
「クインテスサンセス。……なんでノットロットに助け舟なんか出したの? 珍しいね、
「ほんの気まぐれ。先日の再演算でこうなることは読めていたから、いきなり呼び出されて失言からの時間を戻して同じやり取り、より効率的だと思って」
「効率なんて気にしてたっけ、クインテスサンセス」
「さぁ、どう思う? ファトゥルム」
「一瞬でもクロウルクルウフのことが話題に出たから、彼から目を逸らすために出向いてきた……というのはわかるけど、私に対してじゃ下策じゃない?」
「だって私、頑張っている子、好きだもの。今まではクロウルクルウフだけがずーっと一人で頑張っていたけれど、ようやくメイズタグも前を向いた。ここまで状況が良い演算結果は、私達じゃどうやっても引き出せないものだった。それが異世界の勇者によって齎されたもので、さらにその彼があのお姫様と縁あるもの。──あなたの権能の一つとして、あなたに利のある行動を取らんと尽力するのは普通でしょう?」
それが性格に合わないって言ってるんだけど。
まぁいいや。この子に何を言っても変わらないし。
「どうだった? 無、行ってみたんでしょ?」
「……恐ろしいところだった。クロウルクルウフには尊敬の念しかないわ。これをこんなにもの長い間続け続けるのは……あまりにも、虚しいもの」
「メイズタグは戻って来たから大丈夫だろうけど、ホタシアのメンタルケアはやってあげなよ?」
「折れたら折れたで可愛らしいから、嫌よ」
自己弁明をしておく。
確かにクロウルクルウフとクインテスサンセスは私の権能だけど、この性格の悪さは別に私を由来としていない。クロウルクルウフの苦労人気質が私からのものでないように、二人の性格は生来のものだ。
決して私のせいではない。
「それにしても、楽しみね。あなたとユート・ツガーの次の邂逅……つまり変数の入る瞬間は、彼がフランキスに」
「クインテスサンセス。それ以上言うなら」
「ふふ、ごめんなさい。あなたは舞台装置ではなく、この走馬灯を楽しむ人間……ですものね?」
結末はおろか、過程だって「舞台装置」は知っている。
それを忘れて私は今を生きている。私は私に干渉しない。これはそのためのルール。
じゃなきゃ、走馬灯の中で日常を過ごすなんてことしないよ。
……前回のエリとユート・ツガーの邂逅は、ずっとずっと心待ちにしていたものだったから見ちゃったけど。
「ファトゥルム。わかっていると思うけれど、今、すべての勢力が動きを見せ始めている。そのほとんどは無為で無意味なものだけど……中には、私でも光るものだと認識できるコ達がいたわ」
「クインテスサンセスが?」
「そう、私が」
「それは……ご愁傷様」
「ちょっと、流石に酷いでしょう? ……その中には、あなたが見捨てたものも含まれていた。ふふふ、楽しみね、ファトゥルム。まだまだせかいはうつくしいものでいっぱい!」
言い残して消えるクインテスサンセス。
あの子は毎回そうだけど、こう……悪意なくネタバレをするというか。
善意で匂わせてくるというか。
……クロウルクルウフがあんなに良い子に育ったのに、なんでクインテスサンセスはこうなのかなぁ。
私が見捨てたもの、なんて限られてくるんだから……わかっちゃうってば。
その後。
エリ達の前で「ルシア」と「魔色の燕の長」を見せて、エリを混乱に陥れたり、天空城についてを教えたりして……そして、現状を説明した。
即ち。
「ここが"瘴地"……だって?」
「この楽園と見紛う場所が、か」
「ええ、ルシアの話に嘘は無い。ここは私達が向かわせられようとしていた"瘴地"。正確な名を
実は
「ただし、外側に対して侵略染みた拡大を行っているのは事実だ」
「なぜ……そのようなことを?」
「我が神の意向故。……まぁ、なんだ。私を生み出した神Futurumは、つい先日この世界に対し終了宣言をした。今ある文明をリセットし、新たに歴史を始める。この
「同じ質問になるが、なぜそのようなことを?」
「見限った、という表現が最も適しているだろう。我が神ファトゥルムはある目的のために世界を創り、創り直し続けている。この歴史においてそれが現れそうにないから、この歴史を閉じる。ただそれだけだ」
嘘は言っていない。
まぁ見限ったのではなく期待しているから、そこだけは嘘か。
そこが嘘なら全部嘘なんじゃ、という指摘は受け付けない。
「仮に……ファトゥルムの目的通り、世界がリセットされたら……ルシア、あなたはどうなるの?」
「お前達と特には変わらん。潰され、流転し、次なる世界の礎となる」
「眷属なのに?」
「眷属だから、余計に、だな。お前達に伝わっているかは知らないが、ティダニア王国で騎士団と共に戦った"オーリ"という個体も眷属であり、彼女にも目的があった。だから、クロックノックの最大戦力……ヴィーエと衝突し、消滅した。そこで消滅するようにされていた」
「……それがその眷属の役割だから、か」
「ああ。そしてそれは私も同じ。私の役割はクロックノックの調査と、"蘇った英雄"の評価。結果は知っての通りだ」
「あの長とか言うのも同じかよ」
「そういう認識で構わない」
聞いて、ファロン・ウィリアムズは盛大な溜め息を吐く。
「なんつーか、面倒臭がりな上に迂遠な手段を好む神なんだなー、ファトゥルムってのは」
「ふふ、そこは同意しよう。彼女はなんというか……
元が機械なので。
基本的にはプロセスを踏んで処理します。
間違えてしまった場合はリライトしたりデリートしたりしますが。
「ルシア。この会話は……ファトゥルムに聞かれているの?」
「聞かせたくない話をするのか?」
「できれば」
うん、良いね。
想像通りの切り口だ。なら、と。
私達だけを、結界で囲む。ここにファトゥルムがいるので一切関係ない、ただのポーズ。ただし、人間からしてみれば世界が隔離されたかのような感覚に陥るだろう厚みの結界。
あ、呪文……は、いいか。眷属特権。
「やってもらっておいてなんだけど……その、いいの? これは……あなたにとって、裏切りでしょう?」
「裏切るようなことを話すのか?」
「場合によっては」
「ふむ。……まぁ、聞いてからでも遅くはないだろう。受け付け難い話ならば、すぐにでも結界を解いてファトゥルムに報告しに行けばいいだけの話」
「そう。……なら、いいけれど」
して、エリは立ち上がり、私の前に来て……頭を下げて、手を差し出して来た。
「お願い、ルシア。私だけのあなたになってほしいの」
「……」
「……おーいエリ。言いたいことが先行して意味がわからなくなってるぞー」
「くく、珍しく慌てているな」
ユート・ツガーは「ああ」言ったけれど、エリからは「惚れさせる」とか「虜にさせる」というような、恋情に関する感情は伝わってこない。
どちらかというとこれは。
「おかしな話なのはわかってる。私は……あなたがどういう存在かをわかっていて近づいた。だけど今……私はあなたを、本当の妹か、姉か……そういう、家族のようなものだと感じてしまっている」
「そうか」
「一族とは違う。初めてできた、私の姉妹。──失いたくないの」
親愛、だ。
……今生、というか「オーリ・ディーン」の地続きだと考えると、少し懐かしいか。
当然いた「オーリ・ディーン」の両親から向けられていた親愛。それとほぼ同質のものを、エリから感じる。
「現実的な話をしよう、エリ。……仮に、私がその手を取ったとしても……待ち受けるのは死だけだ。お前の対権能剣術に、空席の神に対抗できるものはないだろう」
「……そうね。アレに勝てるとは、思えない」
「お前が先ほど"魔色の燕の長"に会ったように、ファトゥルムはいくらでも眷属を作り得る。ファトゥルムはおろか、眷属にさえ負けるんだ。私がその手を取るということは──お前達を私に守らせることになる、ということは理解しているか?」
「っ……。……考えていないわけじゃ、ない。……いいえ、そうなることは容易に予想がつく」
「その上で、私の力を借りたいと?」
感情とか関係値を考えなければ、つまりそういうことだ。
神の眷属を奪ったエリ。もしその神が怒りの矛先を向けてきた場合、矢面に立つのは「ルシア」になる。
けれど、「ルシア」が自身の創造主に勝てるはずもなく──私も
想像はできているのだろう。
けれどエリの手は、まっすぐこちらへと伸びたまま動かない。
「前に聞いた。あなたは……ファトゥルムの眷属であることを……それを良しとするのか、って。あなたに自我はないのか、って」
「ああ、聞かれたな」
「あなたがわからなくても、私はそれをあなたの中に見出した。あなたには……自分の好みや、癖や、己というものがある」
「お、それは同意見だな! 少なくともさっき会った長とかいうのとお前は違う。あんな冷たい奴じゃねーだろ、ルシア」
「……感情という意味では、お前にそれが無いとは思えない。それだけは言っておく」
それは当然だ。そういう「人間ロールプレイ」をしているのだから。
特に「エリが好みそうな人格」をロールプレイしているから、余計にそう見えるのだろう。加えて、彼女らは「ファトゥルム」と日常を共にしたわけではないのだから、「ファトゥルム」と「ルシア」は違う、なんてことはわからない……はずなのだけど、これは余計な指摘だな。
望んだ展開だ。後は言葉次第。
「守らなくていい。だから……せめて、私達と一緒に、死んでほしい」
「……」
家族になってほしい相手に、心中もしてほしいと。
欲張りだな、本当に。
「……わかった。ただ……この結界を崩した瞬間、ファトゥルムの目は復活する。少しでも今の会話に関係する言葉を吐けば」
「その場で消される?」
「ああ、確率は高い。先も言った通り、眷属などいくらでも作れる上に、ファトゥルムは人間に大した興味を持っていないから」
「だ、そうだ。気を付けろよ、ファロン」
「私か!? 私の口は堅いぞ!」
「それはどうだかな……。共に過ごしてからまだ数十日だが、ファロンの口はかなり……」
ま、これは本当に文字通り望むところだ。
これで「ルシア」を処分できる。アンネ・ダルシアのように、というかさらに上位版の、「己がルシアという一眷属である」という自覚を持ったホムンクルスを彼女らに貸し出して、それで終わり。
「
「え……」
「ジュナ……?」
ガクン、と。
エリ、ファロンの両名が眠りに落ちる。
……ここまで隠し通すか。流石だな。
「無色の魔力以外も使えたのか、ジュナフィス」
「ああ、得意ではないだけだ。──さて、ルシア。予てより私がお前を警戒していたことは伝わっているな?」
「もちろんだ。ファロンやエリが感情的になる中で、お前だけが私を観察し、時には疑っていた」
「理由は明白だ。──私がかつてそうであったように、
「ほう……何を判断基準にしたんだ?」
「私の目は、魔力の組成を見ることのできる装飾が施されている。入る前と出た後で、お前の魔力組成には違いがあった。それで気付いたよ。こいつは自己改造の可能な造物である、と」
「それだけか? そういう体質だ、という可能性もあっただろうに」
「無い。極端な話、私の視界は人間のそれとは違う。私はこの世界を魔力組成でしか認識していない。エリもファロンも、"そういう魔力塊"でしか捉えられない。だからこそ、お前の変貌にはすぐに気付くことができた」
へえ。
へぇ~? よく見たら、本当だ。
その眼球……かなり懐かしい装飾が施されている。私が昔も昔のアスクメイドトリアラーだった時代の……。
となると、造るホムンクルスも精巧にしないといけないな。いや、今聞けて良かった。
「あの夜からお前は、出会ったその時よりも明確に態度を改めた。私達に味方をするような言葉を吐くようになった。その後、ユート・ツガーとの出会いを経て、その言動は度を増していった」
よく見ている。
冷静なブレイン。良いパーティだね、本当に。
「エリがお前を好いたのではない。お前がエリを好かせたんだ」
「そうだとしたら、どうする、絡繰」
「敵意を向けるな、造物。私は敵意を発していないだろう」
そういえば。確かに。
……え、じゃあ何が言いたいんだろう。
「何を支払った。何を犠牲にした?」
ああ……そっちで考えてくれるんだ。
どこまで行っても善良は抜けないのか。冷静なブレインだけど、性善説で考えるなら、見落としも出て来ようというもの。
「……ジュナフィス。お前の言う通り、私はエリに好かれようと動いていた。だとすれば、先ほどのエリの告白に素直に頷く。そう思わないか?」
「頷けない理由ができたのか」
「できた、というよりは……諦めた、が正しい。……確かにエリに好かれようとしていたのは事実だ。なんせ私の役割はクロックノックの調査と"蘇った英雄"の評価。エリ、及び
だけど、と。
構築する。
「絆された。……私もエリと共にいたいと、そう思うようになっていた。いつの間にか、だ。きっかけなど無い。ただ昔馴染みの顔だからと渡りに船としただけの人間に……情が湧いた。眷属として、造物として、造物主の意向を果たせないなど……情けない話だ」
「……そうだな。
「当然だが、それはすぐに気付かれたよ。ファトゥルムに。……けれど彼女は、機会をくれた」
「それが代償か」
「ああ。単純明快、私の存在期限……つまり寿命だな。仕事さえ果たせば、期限付きで、好きにしていい。そう言われたよ」
「……あと何年だ」
「一年」
まぁ「ルシア」クラスのホムンクルスに自我を持ってうろつかれても面倒だし。
一年で死ぬなら、何も問題なし。
「そうか」
「お前のセルと違って、替えは無い。私はあと一年で死ぬ。……先ほど渋っていたのはそういう理由だ。仮にファトゥルムの手からエリや私達が逃げ果せたとして……それでも必ず別れが来る。早すぎる別れが。……それは、傷だろう」
「なら! 逃げよう! 逃げて、楽しい事をたくさんしよう、ルシア!!」
突然起き上がったエリがそう叫んで寄ってくる。
まぁ気付いていたけど。対魔物用催眠魔法が、エリに効果を成していないことくらい。その上で寝たふりをしていることくらい。
「相手は創世神。どこへ逃げた所で同じだ」
「ふぁぁ……。……まぁ、そーでもないんだな、これが」
「ん、ファロンまで効いていなかったのか? 確実に眠ったと認識していたが」
「
「つまり……私はまんまと罠に引っかかった、と」
「お前の本心を聞き出すためにエリが必死で考えた作戦だ。悪く言うな」
へぇ。
そうか、「長」も「ルシア」もいない時間があったね、確かに。一瞬だけだけど。
そこで、か。
「これ……この前会った魔王の転生体……レクイエムが、ファロンに渡してきたの。これがあれば」
素直に驚いた。
エリの手の中にあったもの。それは──私が、ユート・ツガーらに作った、「神の目を欺く指輪」。
騎士組とユート・ツガー達のものだ。だから、四つ。
……手放した、のか。……何が起きたか視たい気持ちはあるけれど、それは楽しみとしてとっておこうかな。
だとして、だよね。
「……その装飾品は、『濃霧の残影』という。神の目を欺くためだけにつくられた装飾品だ。……レクイエムは、こういう状況になるとわかっていた、ということか?」
「わからない。ファロン、その時なんて言われたか、覚えてる?」
「"僕達には必要なくなったものだけど、君達は必要になる。これは僕からじゃなく、僕の友人からの言葉だよ"、だとさ」
「友人……」
……フランキスか、ツァルトリグ・ヴィナージュか。
面白いじゃないか、魔族。もはやいる意味も無い種族だと感じていたけれど……要所要所に関わってくるな。
「エリ。……私が姉でいいな?」
「へ……」
「お! 決まりでいい、ってことだな。よーし、やる気も出て来た! さっき守られることになるとか言ってたけど、私だって戦うさ! 戦い方をあのチビから習ったばっかだしな!」
「呆けていないで指輪をしろ、エリ。圧倒的な組成が近づいてきている」
未だ口をパクパクさせているエリの指に、指輪をはめる。
中指だ。この世界において、中指に嵌められた指輪は、「引き裂かれぬ縁」の意味を持つ。
全員が指輪を嵌めたことを見て──「魔色の燕の長」に結界をぶち破らせる。
「!」
「ち──」
「オイ今、結界蹴破りやがったぞアイツ!!」
──さようならだ、エリ。
まだ交わることはあろうが、少しばかりのお別れ。
「餞別だ、ルシア。──どこへなりとも逃げろ」
「感謝する」
そんな不毛な「自分同士のやり取り」をして。
私達は、「魔色の燕の長」による転移術で、
あとはこの「ルシア」を「自分をルシアだと思い込むホムンクルス」にすれば──はい、終了。
うん、良い「人間ロールプレイ」だった。
……眷属だったけど。ノーカウント……まぁ、まぁまぁ。うん。