神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
現状、指し手における最大勢力は当然「彼女」。
空席の神Futurum──従えている駒は己自身と、
その下で自身を彼女と同じ陣営だと
駒を置く。
崩すべき牙城はここだけど、一対一で勝てる相手ではないから、と。
イアクリーズは……「五芒星の盤面」を見る。
空席の神の対立点に存在するは、トム・ウォルソン率いるクロックノック。
従えている駒は
もう一つの対立点に存在するは、勇者と魔王の合同陣営。一応、形としてはイアクリーズの持ち駒。
従えている駒は
彼女に隣接する頂点にいるクールビーに持ち駒は無く、もう片方の頂点に台頭してきた彼女にもソレは同じ。
よって、五芒星の中心には「浮いている駒」が集められる。
まず、内々で画策を行っている
次にハストナイト帝国で遊んでいる
留意すべきは次。
既に死んでいる……あるいは所在不明であるのが、
他は神ではないか、所在がわかっているから気にしなくていい。
であれば……次に打つ手は、と。
イアクリーズは一手打つ。
「丁寧に行こうか。討つべき敵を間違えないようにね」
目標は、クロックノックだ。
埋没した空間で──トム・ウォルソンは頭を抱えていた。
ある一定までを演算し、……首を振る。ダメだ、と。
「トム・ウォルソン。そこまで悲観する必要はあるのか?」
「神というのは馬鹿しかいないのか? どう考えても今、僕達は攻め時……攻められ時にあるだろう。指し手が多ければ多いほど盤上が混乱することは確かだが、イアクリーズは落とせる指し手を泳がせる趣味は持っていない。……いや、馬鹿は僕だ。クソ……結局凡愚のままか」
「ティダニア王国が攻めて来る、と?」
「ふん、ティダニア王国や騎士団が攻めて来たところで、"蘇った英雄"の一人でも仕向ければ殲滅し得るだろう。厄介なのはイアクリーズだ。そして、アレの動かす駒。……アンデッドとマリオネッタの牙城に異世界の勇者と魔王の転生体が接触するのは最早秒読みで、そこの合流が起これば"まず潰すべき敵"が明らかになる。魔族を利用している僕達がな」
そして。
「今代勇者もそうだ。あれらは己が意思で動いていると考えているだろうが、イアクリーズの誘導によってここを目指す。僕の蒔いた種を発芽前に掘り起こした上でな」
「……そこまでわかっているのなら」
「先手を打てばいい、と? 打っているさ、既に。だが……考え得る限りの先手の全てを打って尚、この流れを変えることはできない。追い打ちでイアクリーズ自身も来る可能性がある。そうなれば、急造になるがヴィーエを稼働させるしかないだろう。何の経験も積ませていない、完全洗脳のオーリ・ヴィーエがどこまでやれるかはわからないが、一秒でも稼いでくれたら御の字だ」
「ニギン・イアクリーズ・ヴァーハマット。アレ自体にそこまでの戦闘力があるのか?」
「ある。奴単身で神と渡り合えるほどの強さがある。だが、そんなことはどうでもいい。大事なのは……君をどこに逃がすか、だ」
「……私を?」
「なんだ、気付いていないのか? 今最も命を狙われているのは君だぞ、イントリアグラル」
思案する。
どこにこの神を逃がすべきか。既にFuturumと彼は完全な決別をしてしまっているし、メイズタグとも同じ。
クールビーに預ける……として、アレの手腕は未知数だ。幼稚かもしれないし、手練れかもしれない。ただ建国以来一度も戦争というものを経験したことのない国の王が、盤面をそううまく操れるとも思えない。
トム・ウォルソンは……繰り返す。想定として、クロックノックはもう無理だろう。役目は果たしたので不要と言えば不要だが、ただただ食い尽くされるのも違う話だ。
「なら、この空間から出なければいい。安心しろ、トム・ウォルソン。この空間はヅィンのOvodenにも耐え得る」
「この空間自体はそうだろうが、ここに入って来られたらどうにもできないだろう。君は埋没空間での埋没を行えない。違うか?」
「……ここは私の支配する空間だ。私の望まない侵入などできはしない」
「楽観的な神だな。羨ましくなるよ。なりたいとは思わないが」
埋没空間ではアストラオフェオロンも本領発揮ができない。フィソロニカは通常通り戦い得るだろうが、敵にはメイズタグがいる。搦め手は搦め返されて終わるだろう。
何より。
「敵にはギギミミタタママがいる。相性は最悪だろう、イントリアグラル」
「……抜錨か。確かに相性は悪いが、だからといって一方的にやられる、ということは無い」
「君達の戦いの話はしていない。君の権能とギギミミタタママの権能の相性が最悪だ、という話をしている。──この空間を抜錨されたら、君は抗えないだろう」
「……!」
して──次元震が起きる。
トム・ウォルソンは肩をすくめた。
「始まったぞ。──自分の保身だけを考えろ、イントリアグラル。僕は僕で動く」
"埋没"した空間が、"抜錨"される──。
の、少し前の話。
「本当に……アンデッドとマリオネッタの群れだね。それに、あのマリオネッタは」
「ああ、天空城でメイドとかガヴァネスやってた奴らだ。間違いねぇ」
ルシアに示された場所。そこを見下ろせる山の中に、二人はいた。
建てられた城は黒と紫という些かどころではなくおどろおどろしい色味をしていて、威圧感だけでいえば四大厳殿にも勝ろうというもの。
「どうする?」
「僕としては、別に行ってもいいと思うよ。懐かしい……というか、もう慣れた気配があるし。あ、来た」
「やぁ、レクイエム! 久しぶりだね。ここに何の用かな」
「用って程の用はないんだよね。一夜で城が出来たって聞いたから、気になって来ただけ」
「ああそうなんだ。そっちの君も同じかい?」
「同じだが……俺はあのマリオネッタたちに用があるっつーか、世話になったのに礼の一つも言えてねぇから、ちっと挨拶しときたいくらいだ」
「ふぅん? ……まぁいいや。見られてると落ち着かないからさ。こっち来てよ。ああ、罠とかじゃないよ。レクイエムに敵対するほどボクは馬鹿じゃないし、君もボクらへの特効を持ってるみたいだし」
「んじゃ行くか」
「……レクイエム。彼、いつもこんな感じ?」
「うん。簡単に信用し過ぎて怖くなるけど、ユートの直感は六割くらい正しいからね。まぁ、正しくなかったら二人で逃げられる程の力がある」
「成程ね。君も苦労しているわけだ。アハハ、嬉しいな。ボク、君のそんな顔初めて見たよ」
それじゃ、と。
青年が──フランキスが、翼を広げる。レクイエムもまたユートと己に浮遊の魔法をかけた。
「ようこそ、ディグマリアンへ。烏合の衆だけど、よろしくね」
なんて、ウィンクをして。
その中心部へと、二人を連れていく──。
はぁ……と。
それはもう盛大な溜め息が出た。
フランキスが二人を連れてきた場所にいた、老婆から。
「フランキス……また拾って来たのかい? 元居た場所に返してきな、ウチはもういっぱいいっぱいなんだから……」
「彼はボクの旧友で、もう一人はその旧友の友人。だからディグマリアンに入れるつもりはないよ、アンネ」
「……ま、アンタの目に狂いがあったことは……山ほどあるけど、それで問題が起きたらアンタが対処をするんだろう?」
「勿論」
「じゃ、良いよ。アタシはまたアンデッド強化の実験に籠るから、何かあったら言いな」
場を去っていく老婆。
彼女が城の奥へと消えて……ようやく。
「それじゃあ、改めて。初めまして、ボクはフランキス。見ての通り魔族だ」
「ああ、俺は結人・積川。異世界から来た勇者だ」
「勇者? ……ああ本当だ。というか君……どっかで……。……んー、いいや。ボク、男の事はちゃんと覚えてられないんだよね。ごめんね」
「別に構わねえよ。俺もアンタの事覚えてねーし、ホントに会ってない可能性もある。毎度毎度初めましてをしたっていいんだ、その時から仲良くなりゃいいんだしな」
「……君、ダメだね」
「ん……なんか気に障ったか?」
「ボク達魔族にとっては、君みたいなのは毒だ。ということで、知り合いらしいし彼女にこの場は譲ろう! 何か用があったら彼女に言ってね!」
バサァと翼を広げ、逃げるように窓から去っていくフランキス。
その背後から……げんなりした顔で、ようやく本当に見覚えのある姿が来た。
「ヴィナージュ! 良かった、無事だったか!」
「ええ、おかげさまで。……意図を感じますね」
「君もかい? フランキスにアンネ・ダルシア。ヴィナージュに僕。そして魔色の燕のマリオネッタたち。どう考えても"集められている"。……でもそうなると、ルシアが怪しくなってきてしまうんだけど……」
「そうか? なんとなくだけど、ルシアじゃなくてもああいう情報は俺達のトコに入って来たと思うけどな。どこの国のギルドに行ったって、ここの情報は出てただろ」
「……確かに。考え過ぎだね、今のは」
ところで。
「ところで……ヴィナージュ。後ろの彼は、君の知り合い?」
「ええ、まぁ。彼は」
「カカ、待て待て。挨拶くらい拙僧にさせろ。──拙僧はアザガネ。ディモニアナタ様を信奉する単なる剣士よ」
「……それを言うのは、俺達がディモニアナタ討滅を謳ってるってのを知ってるから、だよな」
「理解が早くて助かるな。カカカ──では一手、死合おうというもの」
「んー。……レクイエム、結界頼む。ヴィナージュも」
「え、やるの? 僕らにメリットがないよ、コレ」
「まぁ……なんだ。ちょいとアテられただけだよ」
ユートは、その手に光の大剣を……出現させない。バックパックも結界の外に出して──それを構える。
握りしめたのは刀。光で出来た刀。
「ほう……? カカ、素人ではないな。拙僧に合わせた、というより……そちらが本来の得物と見た」
「少しばかりの欠落はあるが……故あって己も刀を取る者。血に飢えた獣。その始末なぞ、我らが本業よな」
「ユー」
豹変した彼に、声は届かなかった。
合図も無しに始まった死合い。中空長刀から漏れ出でる水の魔力と、光の魔力そのもので形作られた刀。
「カ──達人! 久しく出会えぬ、力ではなく技巧を持つ者!! カカカカ、まさかこのような場所で、そして敵として囃されて来た者がそうだとは──世界とは、誠に楽しきことよ!」
「咆えろ咆えろ、獣は声を荒げるしか能無き定めよ。せめて威嚇だけでも立派にして、己を強く大きく見せるが良い」
「カカカ! 厳流!」
「真に静なる剣を目指すのならば、技の名など叫ぶな。心に収めておけ、獣」
高圧水流を纏った振り下ろし。
それが往なされる。空間を司る光の刀に刃毀れなど存在せず、アザガネ渾身の振り下ろしは刀の側面を滑り、地面へと突き刺さる。
直後、ユートの左膝がアザガネの右頬へと直撃した。
脳を揺らされてフラつくアザガネの視界に、逆向きの掌底が迫る。咄嗟の判断。立ち上がることをやめてそのまま倒れることを選択していなければ、アザガネの頭骨は陥没していたかもしれない。
ただ──追撃は止まない。完全に体勢を崩したアザガネに、当然のように迫り落ちるは光刀。その頭蓋を串刺しにせんと落ちた上顎の牙は、既のことで獲物を逃がす。
「ほう……片手の握力だけで自身の身体を引っ張るか。怪力だな」
「カカカ……刀だけではなく、体術も、容赦の無さも……聞いていた話とはまるで違う。前足を折りたたんだランティコアか。愉快、愉快。……拙僧は少々特殊なアンデッドだ。殺せども復活する。故」
「承知した。望み通り、技だけで殺してやろう」
「感謝する!!」
魔色が漏れ出る。レクイエムとヴィナージュが結界を四重に追加したのも束の間──それらがすべて割り砕かれた。
「カカ、許せ、拙僧はまだ殺意を己が内に秘められぬ! ──魔色・白羽・艇鄭!!」
「大技というのはな、獣。自身より巨躯たる敵に放つものだ。威力や速さだけが強さではない。そして──大きな効果を持つ技であればあるほど、大きな隙を伴うもの」
「っ!?」
いた。
アザガネが振るう、魔色の粒子を纏う中空長刀──その手前。
長身であるが故に手から肩までの距離は遠く、そこに魔色の粒子は存在しない。
音など無く。
気配など無く。
いつの間にか──忍んでいた。
「ヒトを殺すに、力など不要」
心臓。肋骨の隙間を縫って刺さるは、小さな光刀。
首。骨を避けて弧を描くように斬閃が走る。
「対する相手に合わせろ、獣。余剰たる力は敵に利用されるだけだ。適度を覚えろ」
「カ……ァ……」
ずしゃぁ、と。
倒れ伏すアザガネ。それを見下すユートの身には、血糊一つついていない。
沈黙が落ちる。
「……おい、蘇生するなら早くしろ。気まずいだろうが」
「……カカカ。拙僧を殺してしまったのではないかと慌てふためく姿も見たかったのだが、想像以上の落ち着きよ。──参った。そして、教授感謝する」
「はぁ。……っぷはぁ……! あー、疲れた。こちとらブランクの塊みてーな状態なんだから、あんま面倒なことさせんじゃねーよ。……レクイエムもヴィナージュも固まってんだろ」
「いや……驚いただけだよ。ユート。……君は、そこまで冷たい空気を出せたんだね」
「まぁな。異世界じゃ仕事の大半は斥候か殺しだった。中でもこういう狂った人間を相手にすることが多かったから……自然とな」
いつものユートだ。
切り替えはスムーズで、雰囲気に緊張も無い。
ただ──見る目は、変わってしまう。どうしても。
それには気付いているのだろう。ユートは後頭部をガジガジと掻いて……よし! と。
「飯にしよう。アザガネつったか、お前」
「応」
「アンデッドらしいが、飯は食えるんだよな?」
「無論よ。というより、食わねば腹が減る。特殊なアンデッドでな、基本的な部分は人間と同じであるがゆえ」
「あのアンネ・ダルシアってのと、フランキスってのは?」
「食事は可能ですよ。天空城に居た頃と同じで、私に合わせた味付けをしてくだされば、フランキスの舌にも合うはずです」
「よーし。この城、他に飯食える奴いねぇか? いねぇなら、その人数に合わせて作るよ」
「いませんが、調理器具がありません」
「……アザガネが食わねえと腹減るって言ってたのは?」
「野生動物を狩って丸焼きよ。カカカ、これが一番美味い!」
「ほーぉ。──それは料理という人類の文明に対する挑戦だな。覚悟しろ。今日を境に、素材ってモンは調理した方が美味いってことわからせてやる。ああ川魚とかが素材のまま美味いのは認める」
やはり、いつものユートだ。
レクイエムの中に湧き上がった──あの残影とは、欠片も重ならない。
魔王。歴代の魔王。
それを屠って来た勇者たちの見せる、最後の顔。
冷たい、冷たい──そして悲しそうなあの顔の、残影。
「んじゃ──レクイエム、ヴィナージュ!」
「あ、……うん、なに?」
「私もですか?」
「魔法でキッチン作ってくれ!」
──盛大な溜め息。
「ユート。もう散々言ってることだけどさ……魔法って、"なんでもできるすごいちから"じゃないんだよ」
「私も付きっ切りで授業したはずなのですが、もう忘れてしまったと。残念ですね」
「え、いや、なんかあったじゃん。クリエイト系の魔法は造形が云々って」
「ムム。これは……拙僧以上の常識知らずか。カカカ、強者とはそうではなくてはな」
しかし、運が良いのか悪いのか。
ここには──ユートのお悩みを解決し得るスペシャリストがいる。
「話は聞かせてもらいました。お久しぶりですね、ユート・ツガー」
「っと……ルビィにサフィニアか。あれ、トパルズは?」
「トパルズは別件対応中です。──して、キッチンが欲しいと」
「ああ」
「お任せください。私達魔色の燕。突貫工事による一刻以内での家屋建設も可能です」
「マジか! すげぇ!」
「代わりと言ってはなんですが……食事のあと、あなた方に聞いてもらいたい話があります。よろしいでしょうか」
「おう、それくらいでいいなら聞くよ。ありがとうな!」
「では、半刻程の時間を頂きます。──以上」
消えるマリオネッタたち。
そして……城のどこかから、なんだか陳腐なトンテンカンという音が鳴り始めた。
「……魔色の燕って」
「カカカ。奴らは基本的に暇を持て余していたからな。覚えられることは全て覚える。それが奴らの習性よ」
「へー、勤勉なんだな」
「……その結論も天然過ぎると思うが」
さて、キッチン……へ行ったマリオネッタ及びユートを見送って。
「勝率、低いですね。アザガネさん」
「ヴィナージュ嬢……中々痛い所を突いてきよるわ」
「聞いた話を統合したまでです。あの長なる者に負け、トガタチさん、でしたか。その方にもほとんど負けた状態で、今はああして接していますが、フランキスにもぼろ負け。最後不意打ち気味に長へと攻撃をするも相手にされず、今ユート・ツガーに敗北。ティダニア王国では指折りの強さを持つという話でしたか、全て誇張でしたか?」
「カカカ……流石は魔族、言葉が」
「いやこれは魔族関係ないよ。ヴィナージュが単純に辛辣なのと、事実として君が弱いのが原因だ。魔族だから、は濡れ衣が過ぎる」
ユートについていかなかったレクイエムが冷静に告げる。
加えて、と。
「君、強くなるのを拒んでいるだろう。いや違うな。……人間で在ろうとしている? しかも、中途半端に」
「……カカカ。童子、名は?」
「レクイエム」
「そうか。拙僧はアザガネという。……お前の言う通りだ、レクイエム。拙僧は……中途半端に人間で在ろうとしている。そうさな……そうさ。それを捨てれば、拙僧はさらに強く……」
「勘違いだよ、それは。──魔族より、神より、アンデッドより……人間の方がずっと強い。中途半端に人間で在ろうとしているからいけないんじゃない。化け物なら化け物として人間へ劣等感を抱き、人間なら人間として生存への渇望を見せる。それこそが強さだ。君にはそれが無いから、弱い」
すとん、と。
アザガネの表情に、何かが落ちる。
「……トガタチ殿にも似たようなことを言われたなぁ。……カカ、成程。成長か。……それでも拙僧は、このままで在り続けようなぁ」
「どうして?」
「童子。お前の言った通りだ。拙僧は強さを拒む。死なぬ身体。死なぬ化け物の身体に、稚拙な技。余地のある技。既に幾度となく死んで、尚も成長を実感できる。それはおそらくお前や長の思う成長と違う物を指すのだろう。生物的、人間的、あるいは化け物的な成長。修練、鍛錬。やり方が違うと言われたらその通りだと頷こう。だが、違うからなんだとも言おう。カカカ──愚直ですらない愚か者。結構結構。それに巻き込まれた者は堪ったものではなかろうが、それこそ中途半端に無視をしようさな」
「……あくまで君のやり方でやりたい、ってことだね」
「然り」
「なら、僕から言うことは何も無いよ。ヴィナージュ、君もあまり突っかからないように。君の目にはもっともっと非効率に映って、苛立ちを覚えるのはわかるけれどね」
「ええ、相手に聞く耳が無いのなら、言葉を操る必要はありませんね」
ただ、最後に、と。
レクイエムが振り返る。
「──化け物と呼ぶには、恐ろしさが足りないよ、君」
じゃあね。
キッチンが完成し、アンネ・ダルシアを含めた「食事のできる者」が一堂に会する昼食会が開かれる。
初めは手を付けることに躊躇していたフランキスも、ヴィナージュの言葉を信頼して食事を始め……弾かれるようにユートを見る。
「ボク、魔族だからこういう素直な事言うの凄く気分が悪いんだけど、今ばかりは言うよ。美味しいよ、君。これ!」
「気分悪いなら言わなくていいけど、おう、ありがとうよ」
「そっちこそお礼を言わないでくれると助かったかな。余計に気分が悪いや。あはは」
という小粋な魔族ジョークを挟みつつ──次第に話が「そちら」へ移行していく。
なぜ、ディグマリアンという城を作るに至ったのか。
つまり──魔色の燕の長が何を考えて
「空席の神Futurum……か」
「カカカ。ああ、そう名乗っていた」
「それが今、世界を滅ぼそうとしている神。……ディモニアナタでも、トゥナハーデンでも、マイダグンでもなく」
「初め、ディモニアナタ様は拙僧
「考え得る限りでは最悪の所が手を組んでいる、と」
「ディモニアナタだけでもキツいのに、あの長まで敵に回るとなると……ヤバいな」
「そこなんだけどさぁ」
もぐもぐと。
口に物を入れたまま喋るフランキス。行儀がどうのとかを言う奴は……ユートがいるけれど、今は言わない。
「んぐ。……ボク、ちょっと前に神と話しててさ。どーにも、この世界をどうこうしよう、って連中が今何人かいるらしいんだ」
「クロックノックの首魁、騎士団の白金位、ですかね。確認できているのは」
「多分まだまだいるけどねー。で……どいつもこいつも、犠牲ありきで話を進めてたんだよ。この世界のどっかにいるらしい、まだまだ赤子だって話の人間と、この世界にはまだいないらしい、少女の域を出ない人間。それを犠牲にすれば彼女……Futurumに対抗できる云々」
「聞いてて気分の良い話じゃねェな」
「ああうん、ボクも同じ気持ち。で、ボクとしては彼女をどうこうする、ってのも気分良くないんだよね。彼女がアンネを攻撃するから、それの対処のために彼女を、っていうのは良いんだけどさ。セカイのためとか、ミライのためとか、あまりにもどうでもいい話のために彼女を、ってなると……ボクは賛成できない」
そのFuturumが世界を滅ぼそうとしているというのに、フランキスは言う。
無責任に、やっぱり同じことを言う。
「君さ、勇者なんでしょ? 赤子も少女も世界も未来も彼女も救って大団円、くらいできないの?」
「……」
「フランキス。それは流石に無茶だよ。勇者に求めす」
「いや。それについては……俺もずっと考えてたんだ。何かを殺して得る平和ってのはさ、なんか……前に進んでる気がしない。だから魔王は転生し続けて来たんじゃねえかって思ってる。今までの勇者が、魔王を殺す以外での救済方法を知らなかったから」
「へぇ」
「全員が全員お手て繋いで仲良しこよしが理想論なのはわかってる。俺も……そういう悪意は腐るほど見てきたからな。けど現状、少なくとも空席の神とは対話でどうにかなる気がしてる」
「対話、ね」
「ああ。魔色の燕の長とはそれなりの時間を過ごしたけど、それでわかったんだ。少なくともこいつは話の通じる奴だし、気のせいじゃなけりゃ俺に対して何か期待するような感情を持ってる、って」
非常に残念なことに、ユートと長が一対一で話す、という機会には恵まれなかったが。
それでもユートなりに感じていた。
彼女が何かを己に求めている、ということを。
逆に言えば、その取引材料次第では、相手から何かを引き出すこともできる、ということだ。
「空席の神に対して、取引材料がある、か」
「もうちょい考える時間は必要だけどな。それが何なのかと、俺に支払えるものなのか、っつー」
「……有益な情報だね、うん。……正直な話をするよ。ボクはアンネのためならなんだってできる自信がある。けれど、彼女に勝てるとは思っていない。そして彼女はボク達のことを同じテーブルについているとさえ思っていない」
「それはそうでしょうね。なんせ創世神ですから」
「だから、ユート。君に交渉材料があるのだとしても──まず、交渉の席に着く必要がある」
そこで、だ。
フランキスは、言う。
「クロックノックとかいう国──乗っ取らない?」
「そう言うと思っていましたよ。一度は救難信号を出していた同胞がそこで利用されているという情報も入っていますし」
「だったら丁度いいかもしれない。伝手があるんだ。クロックノックに住んでて、けどあんまし国を良く思ってない奴ら」
「盤上の駒から指し手になると。であれば、ディグマリアンの防御はお任せください。火力は多いに越したことはないでしょう」
「戦争しに行くわけじゃないよ、ヴィナージュ。お願いをしに行くだけだ。クロックノックの首魁にね」
「なら、両者被害の出ねぇやり方がいいな。あとでちゃんと作戦を詰めよう。これでも攻城戦にゃ慣れてんだ、俺」
「頼もしいね。それじゃあ」
臨時ではあるが──異世界の勇者・魔王の転生体・アンデッド・マリオネッタ・魔族連合軍の発足である。
「イマアママ……いや、甘いママ……ダメだな」
「何ぶつぶつ言ってるの、ユート」
「良い感じに略したかったんだけど、無理そうだから諦めた」
「?」
都合。
この世界の公用語は少なくともヒノモトで使われていた言語ではないので、伝わるはずもない……なんてのは、余分な話。