神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「99点。これはまさか満点もあるのか?」

 神を欠いた場合、世界はどうなると思う?

 智者が問いをかける。

 問われた幼子は、首を傾げてこう言った。

 

 世界から、それが消えちゃう!

 

 

 

 

 我がことながら──今回のは良いロールプレイだった。98点くらいだろう。登場の仕方が雑だったから減点にしても。

 だけど、あの時代の魔纏奏者で、且つ魔色の燕の「オーリ・ヴィーエ」なら、あれくらいはする。そしてゼルフとアリアもまた成長していて、それも良かった。

 

 もし仮に、「魔色の燕」が今日(こんにち)まで続き続けていて、何らかの要因で私達が決別し、戦い合うことになったら……ああなっていたのは想像に難くない。

 泥人形ではないとはいえ、ゼルフとアリアはまた蘇ってくるだろう。トム・ウォルソンもかなりの期待をしているようだし、今度会う時私がどういう立場でいるのかも楽しみだ。

 

 しかし……ちらほら聞こえた単語を拾うに、今回の件はイアクリーズの仕業らしい。

 トム・ウォルソンが用意していた「合図」。それをイアクリーズが何らかの方法で知って、指し手……クールビー・ノス・ゼランシアンに通達。クールビーはこれを受けてこちらの世界に侵略を開始し、しかし食い違う情報に撤退した、と。

 指し手などになるつもりはないけれど、一応盤面を考えるなら、趨勢は決していると言っても過言ではないだろう。

 イアクリーズの圧勝だ。彼女のことは読まないと決めているから、尚更。

 あとは、クインテスサンセスが匂わせた細々がどう動くか、かな。

 

「──ディーンさん」

「はい。どうしましたか?」

「この装飾品は……デザインではなく、用途、なんですね」

「……」

 

 クラリスさんの卒業試験は難航している。

 でもそれは、クラリスさんの考え方に問題があったからだ。

 躓きポイントの四つ目。あの時彼女が拒否したもの。

 

 この装飾品は、ただただ用途のみを追求して作られたもの。デザイン性など欠片も無く、「どれほど緻密に」「使用者への負担を減らし」「様々な機能を備え」「長く使えるか」に重きを置いたものだ。

 だから、デザインの観点からアプローチすれば、絶対に解けない。

 

「助言はしないと言いました。──あなたが卒業できずとも、私は構いません。私があなたの背を押すのは、その試験を合格した時だけです」

「……わかりました」

 

 前史異物に近い装飾品だ。

 どれほどの天才でも、詳しくない分野の別言語の別文化の別技法を瞬時に解ける、なんてことはない。

 努力はするだけすればいい。それができる環境と時間があるのだから。

 

 ……だから私は、あの「一個人」を「まだ余地がある」と思ったわけだしね。

 

 

 

 今日は朝から騒がしかった。

 まぁ、昨夜の衝突が原因だ。クールビーは上手く身を隠したようだけど、痕跡は残りに残っている。

 そして……何が起きたかの究明のため、「国に属さない公共機関」から何人もの調査員が派遣され、今尚調査中。

 アシティスからも人が出されていて、ヴァイデンスと私もその内の一人。なんで一介の装飾品店主が、とは思うけれど、他ならぬヴァイデンスのお呼び出しらしい。少し力を見せすぎた。

 

 大陸の臍は巨大な泉であるため、この泉を横断するための舩が存在している。

 これを用い、計器に異常な反応のあった中心部を調べるべく調査員がこれでもかというほど集まってきているのだけど……うーん。

 

 どう頑張っても答えは出ないから、無駄だと思うよ、という言葉をどうにかして伝えられないものか。

 

「あら……ディーンさん? お久しぶりですわ」

「ああ、スーサナさん。……交易認定所もこの件に?」

「はい。といっても調査などはできませんので、調査員の皆様方に装飾品や調査器具の販売、及び食料の供給などをさせていただいておりますわ」

「それはまた、流石の商才ですね」

「ありがとうございます」

 

 だとして、交易認定所のトップが足を運ぶことでもないと思うけど。

 

「そうですわ、良い機会ですし、ディーンさんも各機関のトップにご挨拶なさられては? 今後の関係性を良好にしていくためにも必要なことだと思いますわ」

「各機関のトップ……が、来ているんですか」

「ええ、大陸の臍でこれほどの魔力異常。前代未聞ですから」

 

 そんなことないんだけどな。

 アードウルグの頃とか、魔族と人間が争う主戦場がここだったくらいだし。落ちたら基本助からないからね、双方にとって「うってつけ」だったわけだ。

 

「……遠慮しておきます。そもそも魔術師協会とは縁がありますし、冒険者協会とも……」

「ディーンさん、是非」

 

 ん。

 ……これは、人目につかないところで何かを話したい、ということか。

 

「わかりました。私と共に来た人がいるので、そちらに連絡を入れておきますね」

「はい」

 

 さて、何の話だろうな。

 

 

 

 流石の私もびっくりである。

 

「ティダニア王国が……消滅した、ですか」

「ああ。正確には王都ファーマリウスが、だが。ティダニア王国の全てが、ではない」

「……その驚き様を見るに、外れのようだね」

「だから私は"彼女は違う"と申し上げましたのに……」

 

 連れられた場所は、先述の通り「各機関のトップ」が集まっている場所。

 大陸の臍の調査など口実で、どうやらこの会合こそが本来の目的らしかった。なぜ私をそんな場所に。……しかし、スーサナさんも、はじめから呼びに来るつもりだったか、これは。

 

「ジルクニフトさん、ディーンさんが困惑しておられます。此度、彼女を呼ぶに至った経緯を説明なさってくださらないかしら?」

「……そうだな。では改めて……初めまして、お嬢さん。私は冒険者協会本部長、ジルクニフト・グレイデイという者だ」

「オーリ・ディーンです。アシティスで装飾品店を営んでいます」

 

 名前は知っている。何度も述べているように、魔術師協会や冒険者協会とはそれなりの繋がりがあるから。

 会うのは初めてだけど。

 

「此度スーサナ君から君を呼んでもらったのは他でもない、君が装飾という技術の一点において、魔術師協会、冒険者協会、古代文明研究学園の全てをも上回る技術を持っていると判断した故。その知恵を借りたいと思ってな」

「ジルクニフトさん、嘘はいけません。誠意を見せなければ、ディーンさんからの助言は貰えないですよ?」

「……まぁ、そうか。その通りだ。……申し訳ない、ディーン殿。此度の大陸の臍における計器異常とティダニア王国の消滅。そのどちらもに関わっている可能性のある者として、君が捜査線上に上がった。だから、直接会って見極めさせていただこうと思ったのだ」

 

 ……えーと。

 なぜ?

 

「心底困惑しているのが見て取れる。本当に無実のお嬢さんらしいよ? グレイデイ」

「あ……っと、その……なぜ私が疑われているのか、そして……ええと、王都ファーマリウスの消滅も詳細を聞きたいというか……あの、情報量が多すぎて、ええと」

「そうなるのも当然だ。だからまず、君の疑念を解いていこう。──君は、ティダニア王国のモリージ侯爵と親しいね?」

「親しいかどうかはわかりませんが、以前私がティダニア王国の都市に居た頃、私の店に時折いらしてくださったお客様ですね」

「王都消滅の報を受け、王国はまず貴族の安否を心配した。──唯一王都にいなかった貴族が、モリージ侯爵だった。それ以外は辺境伯達くらいで、他は消滅している」

 

 まぁ、ファーマリウスは貴族の住む街だから、さもありなん。

 貴族街とスラム街しかない、といういびつさが、都市の人口を増やした、という経緯があったりするんだけど。

 

「当然、私達はモリージ侯爵に事情を聞きに行く。その際に我々は、"一夜でこれらを行える人物に心当たりはあるか"という問いをした。そこで上がった名がいくつかあり、その中に君がいたというわけだ」

「はぁ。耄碌しましたね、あの方も」

「他、君が元住んでいた都市でも情報収集ができている。特に魔術師協会はしきりに警告してきていたよ。"あれほどの使い手"、"怒らせてはいけない"、"あの方ならあるいは"など口々にな」

 

 そこまで披露した覚えないんだけど。

 モリージ侯爵も……でも彼の知識を思えば、あの装飾品の価値も理解できる、か? あとは彼の付き人のコアナクが要らない助言してそうだなぁ。

 

「ええと、それで、しかし私の疑いは晴れた、と」

「ああ。元々、タイミングが噛み合い過ぎていた、というのが理由の一つだったのだ。大陸の臍で計器異常を起こし、各国の目がそちらに向いている間にティダニア王国を、となれば、双方に所縁のある実力者を考えざるを得ない。ただ、ティダニア王国消滅を一切知らないその態度を見れば、少なくともディーン殿は関わっていない、ということは知れる。ちなみに大陸の臍の計器異常にも関わり合いは無いな?」

「強いて言うなら、今時間を奪われていることくらいですかね」

「成程、物怖じしないお嬢さんのようだ。──して、次の疑念。王都消滅についてだが……すまない、こちらも調査中だ。なんせ目撃者が一人もいない」

「何も残されていなかったのですか?」

「……円を描く、溶けない氷。そして落とされ星が落ちたかのような破壊痕。残っていたものはそれだけで、あとは燃え尽きた遺骸だけだった」

 

 ……『縹苛結晶』か?

 長らく適合者の見つかっていなかったアレに合致する存在が現れた……のだとして、じゃあ破壊痕はなんだ。

 感情結晶の出力を上回る炎? ……同じ感情結晶か、あるいは神か。

 少し興味がそそられないでもないけど……「オーリ・ディーン」の仕事じゃないな。

 

「申し訳ありません。力になれそうにないですね」

「いや、現場を見ない事には誰にだって無理だろう。……とまぁ、ディーン殿を疑った理由がこれらで、呼んだ理由はもう一つ。計器異常についてだが……何かわかったこと、あるいは気付いたことはあるかね?」

「それについてでしたら、答えが」

「……ほう」

 

 今まで一言も発さなかったお爺さん。

 魔術師協会本部長、ユディアル。ずーっと私を観察していたから、「人間らしい魔力の揺らめき」にしていたのだけど、果たして私の「人間ロールプレイ」の点数や如何に。

 

「広範囲にわたって使われた魔法は極彩の死期(ディレイン)。中心部で使われた魔法は涸界の落星(ワルド・サテラリグイト)逆様の虚城(レヴェルス・ミレイジ)娑上の楼獄(プライゾン・ゴルデミス)煌炎の灼柱(ティルト・フィアレンツ)風止の大地(エンプロ・ヴァイアス)固蝋壁(フェイズイン)……あたりでしょうね」

「ユディアル老」

逆様の虚城(レヴェルス・ミレイジ)娑上の楼獄(プライゾン・ゴルデミス)以外は同意見じゃ。ヌシ、なぜその二つが使われたと? 痕跡は見えなんだが」

「魔力痕だけで見ればそうでしょうが、水面にある魔力漣痕が逆さの正五十一角形を取っていましたので、少なくともミレイジ系統の魔法。且つ水中光芒の残像が非常に特徴的でしたので、逆様の虚城(レヴェルス・ミレイジ)と断定。泉の中心部上空のNull Essenceが左向きに捻じられていた事から移動()空間()基礎()の魔法だと推測し、特に基礎()の魔力残滓が余剰分として大気中に残っていたことから固有魔法の辺獄境(リーンパウラル)に近いものであると絞り、そこから解釈を広げると挙げられる魔法が娑上の楼獄(プライゾン・ゴルデミス)瀑布の眼岩(ライスァ・アイザット)渇手層動(プレパラン・スンリッザ)の三つ。ただし後者二つは経過()を必要とするために除外。残ったものを挙げた、という次第です」

 

 ただまぁ、逆様の虚城(レヴェルス・ミレイジ)はこの世界で使われた魔法じゃないだろうけど。

 だから水中にしか痕跡が残ってないわけだし。

 

「古代文明研究学園からも意見を。娑上の楼獄(プライゾン・ゴルデミス)については、その魔法の断定にこそ至らなかったものの、今しがたディーン殿が指摘した痕跡を多くの研究員が見つけています。特に上空のNull Essenceの捩れ方については、学園内でシミュレーションを行っている現状でした」

「つまるところ……これは計器の異常なのではなく、何者かがこの泉の上で戦った証拠、と言いたいわけだな」

「ああ、そこには辿り着いていなかったのですか。それ前提で話していました。申し訳ありません」

 

 もう少し詳しく調べられるものがあれば、爪痕なんかが見つかるだろうけど……魔色錬成について詳しく知っている人がいるわけでもなし。

 ここから逆算してどういう魔法だったのか、が解明されて行くのも面白いだろう。だから口出しはしない。

 

「総合医療殿医療長ケールフです。昨夜、医療殿の前で焼死体が一つ上がっています。対応した職員曰く、言葉が通じなかった、且つ助けようとしたら攻撃を仕掛けて来た、などの話があり……今の話を聞くに、その戦闘の関係者であると見た方が良さそうですね。死体は魔術師協会に回します」

「よろしく頼む」

「となると……何と何が戦って、どういう結果に終わったのか、が気になってくるか。ケールフ殿、それ以外の負傷者は出ていないのだな?」

「ええ」

「目撃者はいないのですか? 計器異常があったのなら、異常を吐いている計器を調べる前に、現地で何が起きているのかを見るのが先決であると思うのですが……」

「ああっ、ディーンさん、ダメですよ。……それは私も初めに突きつけた言葉なのですが……」

 

 なのですが。

 ……あからさまに目を逸らす、各機関のトップ。

 

 成程。自分たちの道具を過信しておられるようで。

 

「……仕方ないですね」

「何かある、のか?」

「少々お手伝い頂きますが、過去の残影を現代に映し出す、という装飾が存在します。それで昨夜、何が起こったのかを見ましょう」

「なんじゃその装飾は。聞いたことも……。……まさか陣地魔術か!?」

 

 おっと。

 知ってたのか。知らずにいればいいものを。

 まぁヴァイデンスから漏れてただろうから、今言ったんだけど。

 

「ユディアル老、陣地魔術、というのは?」

「昔も昔に廃れた魔術よ。使える者などもういないと思っていたが……なるほど、装飾! それならば再現し得る……よい勉強になった!」

「では、そうですね。魔術師協会の中で、装飾と魔力印璽学に造詣の深い方を十数名ほど集めてください。指示を出しますので」

「医療殿にも印璽学を修めている者がいる。後学も兼ねて、彼らを手伝わせても構わないだろうか」

「はい。冒険者協会、交易認定所、古代文明研究学園もどうぞ。学問として確立させられるかはあなた方次第ですが、見聞を広めるには良い場でしょう。ただし時が経てば経つほど残影は薄まっていくので、少数精鋭でお願いいたします」

 

 レクイエムがヴィカンシーを嗅ぎまわっているみたいだからね。

 こういうカムフラージュもアリだろう。リルレル含む神三柱がいる以上あり得ないとは思うけど、逆恨みでレクイエムがアシティスに攻撃、なんてことも無くは無いわけで。

 

 ……しかし、王都ファーマリウス消滅、か。

 流石に人形を派遣したところで得られるものは少なそうだけど……ああいや、「ルシア」にそれとない誘導をさせておくのはアリか。

 アルフ達はクロックノックへ向かっている。セノグレイシディルによる翻訳がなかったから、あちらの国の言葉とこちらの国の言葉は通じなかった。それでも名前はわかる。トム・ウォルソン。クールビーは迂闊にもその名を叫んでいたし、その装束は魔色の燕のものだった。

 であればティアとドロシーのどちらかが口添えをしたのだろう。その大本がクロックノックにいる、という話への。

 そして……詳細は見ていないけれど、どうやらユート・ツガーらもクロックノックに向かっているらしい。クインテスサンセスが匂わせたユート・ツガーとフランキスの「対話」はこの後の話なので、まぁ、恙なく終わるのだろう。

 トム・ウォルソンがここで潰えるか、はたまた凡愚らしく生き延びるか。

 

 正直な話をするなら、トム・ウォルソンの行く末には欠片も興味が無い。

 それより……今、とんでもないことをしようとしている「彼女」の方が気になる。流石に世界の記録なんか読まずともわかるその「流れ」。どうやったのか、運命の再獲得を成している彼女への期待は大。出来得ることなら私に対峙してほしい。そしてまた、あだ名で呼ばせて欲しい。

 足る価値を見せてほしい。

 

 ……「オーリ・ディーン」に、じゃなくていいけどね。

 

 

 各機関の精鋭たちに指示をして、大陸の臍の外縁部に装飾を刻ませている……そんな折。

 ジルクニフトさんが、私の休むテントへとやって来た。

 

「どうかされましたか?」

「いや……少々聞きたいことがあってな。二、三の質問をしたいのだが、構わないか?」

「ええまぁ、答えられることなら」

「では、まず」

 

 圧。

 殺気とは違う威圧。遠当てに近いもの。

 

「──それでもやった理由を問い返しますが」

「すまない、実はアシティスのミ・パルティ運営委員会とは個人的な繋がりが……と。……先回りされてしまったか」

「私に対し、知識ではなく武力の方で"聞きに"くるのはその繋がりしかないと思っていますから」

「……地龍の尾を踏み抜いてまでやった理由は、簡単だ。君が脅威となるかを確かめたかった。圧し返してくるようであれば……」

「あれば?」

「……君の監視をしなければならないと、判断していた」

 

 まぁ、そうだろうな。

 ミ・パルティの運営委員会程度であれば脅せようものを、冒険者協会本部長まで脅し返したらそれはもう「無敵」だ。そこに知識がある、あるいは私を守らんとする勢力があるとなれば、それは脅威だろう。

 今回私と一緒に来たヴァイデンスの実力然り、スーサナさんの私贔屓しかり、魔法、装飾に関する知識や陣地魔術を使える、などの事実から、最悪魔術師協会と古代文明研究学園が私の保護に動く可能性が高い。貴重過ぎる人材は時として災厄の種にもなろう。

 

「理性のある人物だと知れて、安堵している」

「どうでしょうね。今脅されたことを種に、冒険者協会を強請るかもしれませんよ」

「何か困りごとでもあるのか?」

「いえ。冒険者協会に頼むようなことは一つも」

「なら問題ないな」

 

 ……豪胆だな。

 もし私が神の眷属だったらどうするんだ。……そんな可能性を考えていたら、私はこの人の世界の記録を隅から隅まで読むけれど。

 

「聞きたいことは、それだけですか?」

「冒険者になる気は」

「ありません」

「まぁ、そうだろうな。荒事の得意不得意はともかく、好んでやりたい、という風には見えない」

「わかっていることを聞くのは何故ですか?」

「恐ろしいからだ。せめてもの未知を無くしたい。……脅し返してこなくとも、君が脅威になり得ることは変わらない」

 

 正直者だな。あるいはスーサナさんの助言かな?

 私相手に嘘吐くと酷いことになりますよ、とか……さっきの話し合いで言っていた以上のことを言ってそう。あの人もあの人で直感の人間だからなぁ。

 

「……あー。いや。そうだな。……そう……回りくどい話は無しにしよう」

「はあ」

「オーリ・ディーン。私は君の名を聞いた時に、胸を射抜かれた気分だった」

「……はあ?」

 

 えっと……もしかして、シンクスニップ的な。

 

「エドニス・ディーンとクラウス・ディーン。……君の両親の名で、あっているか」

「え……え、ええ。あっていますが、どうしてそれを?」

「友人だったのだ。……ビガス戦争で二人を失う、その四日前にも三人で食事をしていたくらいには」

 

 全然シンクスニップ的なことじゃなかったけど。

 へえ。それは……本当に知らなかった。エドニスとクラウス。確かに私の両親の名だ。でも、本当に特別なところの無い、普通の人間だったあの二人が、なぜ冒険者協会の本部長なんかと繋がりが。

 

「どういった繋がりが?」

「クラウスは一時冒険者でな。階級は然程高くならず、そのまま引退したが……出会った当時は私も本部長という立場ではなかったから、酒を飲みかわすことがあった。そこで引退理由を聞けば」

「母が出て来た、と」

「ああ。冒険者という死と隣り合わせの職で、結婚による引退。これほどめでたいことはないと、……まぁ、酒が回っていたのもあって、私は当時の権力を使って二人を盛大に祝ったのだ。今でもなんと迷惑なことをしたんだ、と後悔しているが……事あるごとに二人はそれについての礼を述べてくれてな、いつかお返しをさせてください、とまで言う始末。初めの頃は、これは最大限の皮肉で、私はいつか部下などの前でこれでもかと辱められるのだと怯えていたものだが……二人の人柄から、その疑いは薄れて行った」

 

 へー。

 確かに途轍もなく迷惑なことをする人だ。人に因っては羞恥でその街に居られなくなるくらいだろう。

 

「そのお返しは……実現しなかったが」

「成程。そして、心に燻ぶりを抱えたまま本部長をやっている最中で、私が王都消滅の容疑者に浮上。心中穏やかではなかったでしょうね」

「ああ、心底な」

 

 知られざる両親の交友関係。

 というか知ろうとしなかったというか。いやだってただの人間なんだもの。「人間ロールプレイ」における「娘」として両親の馴れ初めだの過去だのを聞くことはあったけど、交友関係までは別に……だったなぁ。

 

「……だからこそ、脅威だと思っている」

「いざという時、私を斬れないから、ですか?」

「いや、仕事に私情は挟まんよ。……そうじゃない。あの二人は……言っては何だが、普通の夫婦だった。特別な才があるわけでもない、ただただ人の良い二人。そんな二人だからこそ私も友人として在れたし、こんなにも心に残っている。──その娘が、これほど特異になるとは、誰が思おうか」

 

 それは。

 

 そう。

 

「二人から、娘が装飾品店を開いた、という話も聞いていた。開業祝いを素直に受け取ってくれなくて、生涯初めての泣き真似までした、なんて話もエドニスから聞いた」

「ああ、はい。されましたね。下手でしたが」

「そこから今日(こんにち)に至るまでの時間で──ユディアル老を超える知識を身に着ける。それがどれほど驚異的か」

 

 まぁ……そうだよね。

 そこについては全面的に同意する。やっぱり陣地魔術見せるのは異常……だったけど、ヴァイデンスが私を同行者に選んだ時点で、だしなぁ。そこを変えるなら、今度はヴァイデンスと共に過ごしたあれこれまで"改変"しなきゃいけなくなって、そうなれば「異世界の魂」や「彼女」にまで影響が出かねない。

 とりあえずこの歴史においては、その辺は避けたいという気持ちがある。

 

「監視をつけることは構いませんが、こちらの日常を乱すようであれば、報復を行いますよ、私は」

「友人の娘と事を構えることは本意ではない」

「仕事に私情は挟まないのでは?」

「仕事になれば私情は挟まないが、そうならないようにと願うのは普通のことだろう」

 

 ……なんだ、ただの善人か。

 多少悪辣であった方が厚みが出るんだけどな、なんて。

 

 あるいは、もっと突き抜けてくれたら……オウスのような子になるのだろうけど。

 

「結局、何を話しにきたのかわかりませんね。監視をするなら言わずに行えばいいでしょうに」

「結果、全面戦争か?」

「私個人と冒険者協会が、ですか?」

「わかっていて言っているだろう。君はそうならないための価値を示し過ぎた」

「ええ、孤立するのは冒険者協会でしょうね。加えてカゼニスさんやウェインさん、ティニ・ディジーさん、いつか見た憧憬(アヴィダ・アヴィルサグ)などが敵に回る可能性が高いでしょう。私は彼ら彼女らとも繋がりがありますので」

「……恐ろしい個人だな」

 

 加えてアスクメイドトリアラーとステイフォールド家と神が四柱ほどついています。

 ……そういえばファーマリウス消滅、アスクメイドトリアラーはどうなったんだろう。

 

「とはいえ、私も両親の友人を困らせたい、などと思う娘でもありませんので、お互い不可侵でありましょう。そちらが私を"友人の娘"として見るのなら、私もあなたを"両親の友"として見ますので」

「そうであることを祈ろう。……最後に」

「手合わせをしたい、ですか?」

「ああ。ミ・パルティの運営委員会からは、底知れない実力と恐怖を覚えたと聞いた。体感してみたい」

「また面倒な願望を」

「恐怖があるということは、成長の余地がある、ということだろう?」

 

 良い考えだ。

 それは──人間的で、私好みだな。

 

 いいだろう。「オーリ・ディーン」にできることで、出来得る限りをしようか。

 

「初めに。私は生粋の戦闘者ではなく、装飾品や魔法を使って戦う者です。それだけは覚えておいてください」

「ジルクニフト・グレイデイ。五十年程前には騎士アルゴ・ルヴド・フランムや傭兵リオグレイランスに並んで名を馳せていた、ただの冒険者だ。よろしく頼む」

 

 へえ。

 通り過ぎた名がつらつらと。

 

 風圧。……「オーリ・ディーン」の動体視力じゃ追いつけないな。

 身に着けた常時発動の装飾品が効果を発揮する。風を纏う剣圧に対し、そのまま押される形で空中に逃げる。次に展開するのは氷系統の装飾品。固定の概念を持つそれらを足場に、ジルクニフトの真上を取り続ける。

 人間の攻撃、特に剣によるものは、自身の直上には中々向けられないものだ。

 ジルクニフトがポジション取りを考えている間に次の手を──おっと。

 

「避けるか!」

「まぁ、今のは本当に勘です」

 

 これは嘘偽りなく、だ。「オーリ・ディーン」は今の攻撃を感知できていない。ただ、このままやられっぱなし、主導権を握られっぱなしなわけがない、という先入観が私を動かした。

 何が来たのかもわかっていないし。無色の魔力による砲撃……的な、何か。わかんないや。「人間ロールプレイ」をやめれば解析なんか一瞬なんだけどな。

 

「どうした、クラウスの娘! まだ何も」

「どうかされましたか、お父さんのお友達。何もない所に叫んで」

「っ──!?」

 

 背後から聞こえて来た声に驚き、裏拳を叩き込むジルクニフト。

 けれど残念、そこにあるのは巻貝。『潮騒のスフィラ』だ。

 

極彩の死期(ディレイン)

「なんっ!?」

 

 降り注ぎしは、各属性の雨。 

 ジルクニフトはそれを防がんと構えて……ギリギリで「こちら」に対処をした。

 

「へえ」

「……成程、これが圧か。確かに死を連想した」

 

 極彩色の光が私達を通り過ぎる。『幻列のヴィエ』だ。つまり、ただの幻術。

 本命は今みたいに『音吸いのシエルタ』で音を消して近づいた暗殺……なのだけど、今回は試合であるため、威圧全開で行かせてもらった。本当に暗殺するつもりなら圧なんか出さない。

 

「とまぁ、今の私にできるのはこれくらいです」

「準備をしたら?」

「ファーマリウスくらいは一夜で消し去れますよ」

「……成程、良い冗談だ。不謹慎だがな」

 

 それはそう。

 

「最後、と言ったが……もう一つ頼みがある」

「ええ……」

「この剣に、エドニスとクラウスの名を彫ってはくれないだろうか」

「……何か効果を持たせますか?」

「いや。心に刻みたいだけだ」

 

 感傷、か。

 無駄なものとは思わない。いいよ、それくらいならやろう。

 

 両親かぁ。

 懐かしい話だな、本当に。

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