神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「考えて行動しろ」

 長く伸ばした氷の爪。内向きに沿ったその刀身で剣を撫でて、狙いを外させる。咄嗟に姿勢を整えようとする彼女の横腹を蹴って吹き飛ばし、完璧なタイミングで合わせようとしていたもう一方の拳に裏拳。

 地面を蹴る音。「Rat snom wonus.」という私の呟きで起こるは全身のスパイク化。氷の棘を纏ったそこに攻撃が来る……ということはない。しっかりと魔力の動きが見えている。

 一拍遅れて地面から出てくる槍。それを避けるために上体を逸らせば、どうにもできない角度から炎を纏った剣が迫ってきて──。

 

「まぁ、合格でいいですよ」

 

 止まった。

 どちらも寸止め。剣も、そして突き出てきた槍の腹から突き出ようとしていた槍も。

 

「ったぁ!」

「よし!」

 

 相手をしていた二人が気の緩んだ声を出す。あるいは喜びの声か。

 いやー。

 

 大変な十年だった。

 

「ドロシー、ティア」

「はい!」

 

 背の高くなった二人。人間の成長速度はやはり早い。短命であるが故だけど、だとしてもたった十年で……とか。

 まぁ、今更。

 

「私が先生役を務められるのはここまでです。これ以上は殺し合いでの経験しか持ち合わせていません。だから、実戦で覚えてください」

「……実戦」

「そうです。魔色の燕の一人として、本物の空を飛んでみる。恐怖心があることは恥ずべきことではありませんし、むしろとても大切な事です。未知は恐ろしいもの。だけど、いつかは照らし得るものですから」

「はい」

「では、今日よりこの城の外に出る許可を与えます。基本は自由行動ですが、招集には必ず応じること。自身の正体を誰にも明かさないこと。そして最後に」

 

 掌を上に。

 まるで手を差し伸べるかのように。

 

()()()()()()()()

「っ……」

「身売りにあったティアと親のいなかったドロシー。あなた達二人を私は十年前のヤーダギリ共和国で拾いました。あの人攫いの集団と同じことをしました。そしてあなた達を魔色の燕の一人へと育て上げました」

 

 人間を学ぶために人間の子供を連れてきたのに、結局私が先生役になったのは誤算も誤算だったけど、おかげで「英雄ではない人間の脆弱さ」というのは知れた。

 

「厳しい生活だったでしょう。私に恨みを持ってもおかしくはありません。あなた達の大事な"子供時代"を奪ったのですから、それを動機にしても構いません。とにかく、私とあなた達は何の契約も結んでいないので、この結界から出て、そのままどこかへ逃げても問題はありません。ただし──」

「いやです」

「お断りします!」

「……まだ最後まで言ってないのですが」

「これから戦争が起こるというのに、長の陣営にいないのは全ての恐怖心を上回ります!」

「たとえどれほどの死地に送られたとしても、長の隣が一番安全です! ──たとえ命を失っても」

 

 それはそうだけど。

 そういうことを言いたいんじゃなくて、君達には自由意思があるよ、と。

 

「オーリ。アンタ子育てってものをわかってないね。そんなことにゃこの子らはとっくに気付いているし、その上で残るって言ってるのさ。ったく、いつまで経っても子供心のわからないやつだ」

「リーさん、あまり長を責めないであげてください。長は長で頑張っています!」

「なんでこの気持ち伝わらないんだろう、と思うこともありますけど、長は努力家です」

「ほぉら、子供たちに擁護されてる」

 

 遺憾の意を。

 

「……じゃあもういいです。まとめると、これから本格的に色々と動くので、準備しておいてください。じゃあ私は行くので」

「え、行くって……どこにですか」

「ああ二人には話していませんでしたか。私は普通にお店で働いているので、そっちに戻るんですよ。全治ひと月。丁度経ちましたから」

「……?」

 

 この結界の中では十年が過ぎた。ティアとドロシーは成長し、元の年齢がわからないから断定はできないけど多分十六、十七歳くらいになった。

 けど、外の世界で過ぎた時間はひと月だ。いやもっと短いか。その半分くらいだ。

 私はどちらの時間であろうと「長い」とは感じないけど、「子育ては大変」だということは知れた。今度の「人間ロールプレイ」で「親」をやることになったらこの経験が活かせると思う。

 大変だったからあんまりやりたくないけど。

 

「リーさん、契約通り、何か予兆を感じ取ったら連絡をしてください。ルビィに言えば私に伝わるので」

「はいはい」

 

 まだどういうことなのかを理解していない二人。……ま、リーさんが説明してくれるだろう。

 なお、彼女との念話については二人とも適性があったためすぐに覚えさせた。不便だからね。

 

「最後に一つ。──どうやら偽物の魔色の燕がいるようですが、可能な限りは生け捕りで、殺してしまったのなら死体を持って帰ってきてください。積極的に会いに行く必要はありませんが、もし出会ってしまったら、の話です。それでは」

 

 もっと詳しく教えて欲しい、という目の二人に手を振って、転移をする。

 ティダニア王国の一都市。六区。二番通り。

 オーリ装飾品店の自室。

 

「今すぐ退かないなら肉体を重ねて潰すことも辞さない」

「ちょ、ママ!? なんでそんな怒ってるの!? どく、どくどく!」

 

 トゥナハーデンだったら許していた。

 でも私のベッドに涎を垂らして眠っているのがディモニアナタだったから怒った。

 

 なんでここにいるんだ。

 

「あ、アハハ~……いやその、トゥーナと私って色味以外一緒でしょ? だからママのいないこの期間、入れ替わったりして人間に悪戯してて……」

「興味がない。私の部屋で眠っていた理由だけ教えて」

「あいや、だって人間の身体でもママはママだし、えへへ、……こう、マーキング、というか」

「人間を大量虐殺するための試練をたくさん用意するんじゃなかったの?」

「あー、それ。……魔王のやり口に見せない、っていうのが案外難しくて。今までの魔王の所業から、関連性を考えられないような試練をたっくさん引き起こす……つもりが、いやー、魔王ってなんでもかんでもやってるんだなぁ、って」

 

 それはそう。

 魔王は悪逆非道の限りを尽くしている。「悪事」と聞いて思いつくだいたいのことはやっているし「非道」と聞いて思い浮かぶだいたいのこともやっている。

 前にディモニアナタが挙げたアンデッド大量発生も意味もないスタンピードも、既に魔王がやったことだ。

 

 魔王にヘイトを向けず、神にだけ、というのは案外難しかったりするのである。

 ……。

 ……?

 

「そういえばあの日から今日までにそういう災害が起きたことを耳にしてないけど、まさか」

「……そーです。なんにもできてませーん」

「それでトゥナハーデンと入れ替わって悪戯をするだけの毎日?」

「や、やめてママ。そんな憐みの目で見ないで! 私はディモニアナタ、生死を司る神! 今回勇者と魔王によって討伐されるべき、死後の安寧を穢した邪神なんだから! 倒されるべき邪悪なんだから!」

「今のところ良くてホブゴブリン程度だね、やってること」

「ゴフッ」

 

 ベッドの時間を巻き戻して私が出て行った直後のものにし、それまでについた汚れ等々を消滅させる。

 ……ちょっと戻し過ぎたか。ひと月分は埃が積もっていても良いんだから……これくらい?

 

「マ、ママ~?」

「なに?」

「私も、トゥーナも、なんなら子供達みーんながずーっとずーっとお願いしてることだと思うんだけどね?」

「うん」

「時間遡行って実は世界改変で……それを言ったらママが作ったあの城はとんでもない爆弾なんだけど、あれは定着したから良いとして……だからね?」

「ああ、余波は抑え込んだから大丈夫。そうすればいいんでしょ?」

「……これどうやったら意識改革できるんだろう。何か、ママの行動が原因でママでも対処できない事態が起こらないと……」

「そろそろ店を開ける時間だから、出て行って。それともここで働く?」

「うーん、そういうの流石にママが帰ってきたらトゥーナも反撃してきそうだからー、そろそろ帰ろうと思ってる」

「そう。じゃ」

 

 これ以上会話を引き延ばされるのも面倒なので、ディモニアナタの領域に彼女を飛ばす。ばいばい。

 

 ふぅ。

 

 ようやく日常が戻ってきました、と。

 

 

 

 

「オーリさん!? お、おはようございます! 帰ってらしたんですね!」

「おはようございます。ええ、心配おかけしました」

「はぁ、良かった……その、手先とかは」

「大丈夫ですよ。最近の医療は進んでいますね。あれだけの怪我だったというのに、どこも痛い場所がありません。魔力操作も万全です」

「あ、オーリさん! おはようございます~! 良かった、そういえば今日が退院でしたね~」

「マ……オーリさん。お久しぶりです」

 

 店を開けてすぐ、開錠するつもりで来ていたのだろうリコ君と再会。会話している間に他の二人も集まるとかいう勤労さ加減。

 ワーカーホリックが過ぎない? ちゃんと休んでる?

 

「私のいない間に何か変わったことなどはありましたか?」

「ああ、一度ディアという人……あれです、オーリさんが怪我をする前に応接室に入った人が来て、何事かを問われました」

「それと、カゼニスさんが~、三日に一度来るようになって~。……なんだかずっとオーリさんの名前を呟いてて怖かったので、一回騎士団に通報しました~」

 

 ……記憶処理に何か問題があったのかな。カゼニスさんには悪いことをしたかもしれない。もっと徹底した処理をして、騎士団に捕まった、通報された、という記録も消そう。

 

「それと……その、本人の前ですし、オーリさんが帰って来たので直接言いますが……トゥーナさんの情操教育をもう少しですね」

「違っ、それは」

「お客様のいない時間、僕の身体を触って来たり、腕を抱きしめてきたり……。未婚の女性がしていいことではありません」

「そうですねー。最初は私もリコ君の妄言かなーって思ってたんですけど、トゥーナちゃんは、私にも色々と……してきているので~、それに、何度言ってもやめられないようなので~、オーリさんから叱ってあげてくれると助かりますね~」

「いや、ですから、なんども言っているようにそれは私では」

 

 トゥナハーデンはいつもディモニアナタのせいで苦労してるよね。

 もしかして外観ほとんど一緒にした私が悪かったりする?

 

「トゥーナ」

「オーリさんまで!?」

「あの子は今朝追い払ったから、大丈夫ですよ」

「あの子?」

「……やっと解放された、ということですか?」

「はい。ごめんなさい、苦労をかけたようですね」

「えっと……?」

 

 簡易な説明をする。

 トゥーナには双子の姉がいて、恐らく今までの悪戯は全て彼女の仕業である、ということ。

 それを聞いて──真っ先に頭を下げたのは、リコ君だった。

 

「……申し訳ありません、トゥーナさん。僕の施錠ミスであらぬ疑いを」

「あ、いや、その」

「トゥーナちゃん、ごめんね……」

「本当に申し訳ありません。……この職場を愛している僕ですが……自らのミスで同僚にストレスをかけ、あまつさえ苦言を呈すなど……最低です。責任を取ります」

「ち、違うんです! 姉はその、手癖が悪くて、こう言ってしまうのは……あまりよくないのですが、このお店のセキュリティ程度であれば簡単に突破できてしまうので、だから」

 

 ちょっと時を止める。

 

「トゥナハーデン」

「ママ!? 名前読んだらバレちゃ……あれ」

「これ、リコ君大丈夫かな。イルーナさんも。……罪悪感でここを辞めるって言い出しそうな雰囲気してるよね」

「時間停止? 広域……どころじゃない、世界全体!? ママ、ダメ、こんなことしたらどんな影響が出るか……」

「時間加速の負債が十年分あるから後で遡行で帳尻合わせれば大丈夫。抑制もするし」

「念話じゃダメだったの? 会話しながらの並列会話くらいできるでしょ?」

 

 ……。

 まぁ、良かったけど。

 

「ねえママ、最近ちょっと大雑把になり過ぎじゃない? 抑えられるから良い、じゃなくて、初めから影響が出ないやり方を選んで。そうじゃないといずれ破綻するから」

「それも私がなんとかするから大丈夫。そんなことよりこの二人の事。私、このひと月で人間の脆弱性をそれなりに学んできたんだけどさ、強いストレスでこういう真面目な人間は心が弱ってしまうから、それが健康を損なうみたいでね」

「……はぁ。いつも通り聞く耳なしかぁ。うん、うんうん、それで?」

「だから、ディモニアナタの一連の所業を二人及びこの都市の全ての"記録"から消して──」

「ダメ。……もう良いから、私に任せて。私が何とかできるから」

「リコ君にもイルーナさんにもやめてほしくないんだけど」

「なんとかするから。それに、ママ。時間を止めるのも記憶の処理をするのも、『人間ロールプレイ』からかけ離れてる。ひと月の間にどれほど一般人から離れた生活をしてきたのかは知らないけど、一回初心に帰って。普通の人間、オーリ・ディーンに戻って」

 

 ……むぬぅ。

 正論だ。確かに私は……今ちょっとオーリ・ディーンじゃなくなっていたかもしれない。

 魔色の燕の長としての振る舞いに近かった。これではいけない。魔色の燕の長であるときはそれなりにハイスペックな設定でロールプレイをしているから、そうだ、落とさなきゃ、加減しなきゃ。

 

「本当に、どうにかなる?」

「なる。だから時間停止も早く解除して」

「……どうにかならなかったら、するからね」

「信じて、ママ」

 

 解除する。

 世界が動き出す。

 

「……隠していても、話が進みませんね。……イルーナさん。リコティッシュさん。ずっと隠してきたことを言います」

「ど、どうしたんですかー?」

「トゥーナさん……?」

「……ごめんなさい。本当は、私が姉に依頼したんです。その……意識調査を」

「意識調査?」

 

 リコ君とイルーナさんのストレスを可視化し、数値として見る。

 ……閾値を超えたら、実行する。

 

「お二人が私にどういう感情を抱いているかと……その、リコティッシュさんが私に……れ……」

「! ……オーリさん! 私達はちょっと離れましょう~!」

 

 突然何かに気付いた顔をしたイルーナさんが、私の手を引いて店の中に戻ろうとする。

 いやでも私は二人を見届ける義務が。

 

 まぁいいや、遠くからでも見えるし聞こえるし。

 されるがままに引っ込む。

 

「どうしたんですか、突然」

 ──"れ……恋愛感情を、抱けるかどうか……"

「大丈夫です~。これで万事うまくいきます。……ちょっと寂しいですけど~、なんとなくこうなる予感はしてたので~」

 ──"……? えっと"

 ──"察してくださいよ、もう。……リコティッシュ・ステイフォールドさん。私は……あなたが、好きなんです。それで……でも、私と瓜二つの姉からのアプローチを、あなたは全て拒絶していて"

 ──"え。……え、いや、え、え!"

「もしかして、トゥーナがリコ君を好いている話ですか?」

「あら、わかっていたんですか?」

「ええ、初日に相談を受けましたから。一目惚れというのを初めてした。どうしたらいいかわからない、と」

「あらあらあらあら……」

 ──"勝手に設定を……じゃない、その、このお店に来た時に……一目惚れして。それからずっと気になっていて。でも……リコティッシュさんは、この職場でそういうことをしてしまえば、関係性が崩れることを恐れている……そうですよね?"

 ──"そそそ、それはその、……そう、ですね。僕は……職場恋愛そのものは否定しませんが、仮にこれでイルーナや……オーリさんとの関係性が変わったり、ぎこちない雰囲気になってしまうのなら……尻込みしてしまいます"

 ──"だから、言い出せなくて……。ごめんなさい、私が気持ちを隠していたばかりに"

 

 あ、魅了使った。

 なんだ、私に色々言うくせに結局改変するんじゃん。

 

 トゥナハーデンは豊穣の神。子宝の神でもある。だから強制的な縁結びもできるし、今みたいに魅了を行うことも可能。もとから人間の好意を誘う容姿にはしてあるんだけど。

 

「ちなみになんですけどー」

「はい」

「オーリさんは、リコティッシュさんのこと、どう思ってるんですかー?」

「仕事中毒でいつか倒れそうで心配……という答えを期待しているわけじゃないですよね」

「はい~。恋愛的な意味です」

「……正直なところを言えば、皆無です。時折リコ君が私に信奉するような目線を向けてきていることは理解していますが、だとしても私から彼への気持ちは同僚程度のもの。それは……申し訳ありませんがイルーナさん、あなたに対してもそうです」

「謝る必要はないですよ~、それが普通ですし」

 

 ああ、これでもうリコ君はトゥナハーデンに篭絡された。

 彼女以外見えない、って程の支配具合ではないみたいだけど、ちょっと作品に影響出そうかなー。テーマを「愛情」とか「恋路」にした時、トゥナハーデンの影が見える作品になりそう。

 

 そして二人が帰ってくる。

 腕を組んで。

 

「あらあらあらあらあらあらあらあら」

「う、うるさい!」

「トゥーナ。気持ちを伝えることができたのですね」

「はい。……その、ただ、真面目に働く気持ちも変わっていないので……今回の騒動の原因はすべて私にあるのですが、どうか」

「別に何が盗まれたというわけでもありませんし、ディモを招き入れたのがトゥーナである以上、セキュリティを上げる意味も無さそうです。といってもここが仕事場である以上、トゥーナの行動は咎められるべきものなので……そうですね。罰はリコ君が決めてください」

「え、ええ!」

「なんでもいいですよ。ディモがやっていたような、"未婚の女性がしてはいけないこと"をトゥーナに要求するとかでも」

「しません! そんな罰受けさせません!!」

「どんな罰でも真摯に受けさせていただきます」

 

 ……うーん。

 成程、これがトゥナハーデンなりの「人間ロールプレイ」かぁ。勉強になる……のかなぁ。

 恋愛系はサンプルが少ないから、これは一つのサンプルとして記憶しておこう。ただリコ君もイルーナさんもストレス値が正常にまで戻っていたので安心。

 

 トゥナハーデンの「私が何とかできるから」は信用に値するのかもしれない。

 

 信じて、か。

 ……子離れ、まだできてなかったかな。

 

 

 

 お店を閉める時間となり、どうやらトゥナハーデンとリコ君はこのままデートへと洒落込むようなので、「尾行しましょう~!」とか言ってるイルーナさんを引き連れて挨拶回り兼ショッピングへ行く。

 それを止めるだけの良識は私にもある。

 

「そういえば聞き忘れていましたが、イルーナさんからリコティッシュ君へは」

「あ、ないですね~。確かに顔が整っているのは認めますが、私はどちらかというともう少し野性的な方の方が」

「なるほど」

 

 野性的。……カーヴィスとか、時代が合えば。

 そういう意味じゃないのかな野性的って。

 

「あ、そういえば、さっきは言うタイミング逃しちゃったんですけど、変わったことがもう一つあってー」

「そうなんですか」

「はい~。騎士団のニギンさん? という方から、オーリさん宛で荷物が届いていましたよー。中身は見てませんから、ご安心ください~」

「ああ、ようやく。ただ今イルーナさんが考えているような恋愛事ではありませんからね」

「……違うんですかぁ?」

「ええ、まったく」

「……ちぇー」

 

 こんなに恋愛脳だったのか、イルーナさん。

 いつの時代にもいるものだ。男女をすぐにくっつけたがる人間。そして知っている。これでいて彼女に恋愛感情を聞いてもはぐらかされるだけだということを。

 これも「人間ロールプレイ」の経験値。

 

 さて、ショッピング。

 といっても私に買いたいものなどないので、所謂市場調査に近い。

 今の流行りがなんなのかを見る行為だ。イルーナさんは普通に買い物をしているけれど。

 

「あ、そうだ、イルーナさん」

「はい~?」

「結婚祝いって何を贈るべきでしょうか」

「いやあの……私が言うのもなんですけど、気が早すぎじゃないですかー?」

 

 あなたに言われたくはないよ。

 ……あれ、なんだろうその目。もしかして本気で言ってる?

 

 ホントに気が早かったりする?

 

 

 

 

 夜。

 音も無く走るその影──の首根っこを掴む。

 

「!?」

 

 驚きと共に振られた小刀を素手で受け止めて、何もできないよう持ち上げて。

 

「何をしているのですか、ドロシー」

「……長」

「ティアも聖霊の小路にいますね。ティダニア王国に何の用ですか?」

 

 風雨の故里とティダニア王国は、馬車を使わないと移動できないくらいの距離がある。

 確かに好きにしていいとは言ったけど、まさか一日かけてこっちにまで走って来たのだろうか。……あ、そうか。路銀問題? でもルビィにある程度は……。

 

「ルビィさんに、長のお店の場所を聞いて……居ても立っても居られなくて」

「なぜですか?」

「だ、だって……長はわかってないと思うけど、十年、ですよ? 十年も一緒にいた長が、突然いなくなって、自由にしていいって……」

「つまり、捨てられたって感じちまうのさ、この子らはね」

 

 するり、と。

 ドロシーの胸元から光が溢れ、そこからリーさんが出てきた。聖霊の小路。ティアの使う空間移動の魔法。その応用。

 

「……」

「言ったろ? 子供心がわかってないって」

「……どうやらそのようで。……しかし、どうしましょう」

 

 捨てたつもりはない。自由にすればいいと思っている。

 十年を拘束していたのだから、やりたいことだって沢山あるだろう。

 ……子供心か。

 

「わかりました。これからは六日に一度、風雨の故里に帰るようにします。丁度お店の従業員からも六日に一度休みを取れと言われていましたし」

「だーめだこりゃ」

「ダメですか、これでは」

「一緒に住みたいっつってんのさこの子らは。そんなことも察せられないかね」

 

 いやだって。

 十年間一緒に住んでたじゃん。

 まだ足りない?

 

「……じゃあ、長。私に考えがある」

 

 にゅ、と。

 ドロシーの胸元からティアが出てくる。首だけ。

 

「はい、どうぞ」

「私とドロシーはこれから、自分たちでお金を稼ぐ。ギルドでパーティ登録をするつもりです。それで、この都市に家を買います」

「はあ」

「買ったら一緒に住んでください。……これなら、独り立ち、ですよね?」

「ああこっちもダーメだこりゃ」

 

 呆れたように首を振って聖霊の小路に引っ込んでいくリーさん。風雨の故里に戻ったのだろう。

 

 何がダメなのかはわからない。

 良いんじゃないか。そういう条件付きなら、成長にも感じられる。

 

「良いですよ。ただ、前に言ったことは忘れないように」

「はい! ありがとうございます!」

 

 掴んでいたドロシーを離す。

 しかし、ギルド登録か。

 

 大丈夫……かな? 人間にとっては天龍なんかも討伐対象で、多額の報酬が出るから、お金目当てでギルド登録したらすぐにでもそっちに行きそうで怖い。

 どっちが負けても私にとっての損だ。また作り直さなきゃいけなくなる。

 

「あまり大暴れして目立ち過ぎないように」

「はい!」

 

 元気な返事だし。

 ま、大丈夫か。

 

「パーティ名は決まっていますか?」

「はい。『魔色の雀』で!」

「ダメです」

「……じゃあ『魔色の烏』で!」

「ダメです」

 

 魔色の燕だってばれないように、って言ったよね。

 ああいや、逆に? 逆に疑われない? 堂々としていれば?

 ……流石にリスクが勝るでしょ。この子たちは私みたいに記憶を弄れるわけでもないんだし。

 

「無難に、風雨の故里で良いのでは? 私とあなた達のホームなわけですし」

「成程……じゃあ、『魔色の風雨の故里の燕』で」

「ダメです」

 

 もしかして頭が悪いのだろうか。

 十年の中での学習、その思考速度や吸収率はとても良い物だったと思ったんだけど。

 

 ドロシーの魔法による「無音のベール」。その中で行われる「絶対にダメな案出し」と「却下」。

 それは朝まで続いた。朝になったので解散した。

 

 

 ……今思えば、少しでも長くそばに居たいというアピールだったのかな、って。

 かなり高度な教育を施したあの二人がそんな頭悪いワケないもんね。

 これが子供心か。うん、「人間ロールプレイ」の経験値になったから無駄ではなかったと思おう。うん。………だよね、うん。

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