神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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総評:「0点。人間ロールプレイとしては、ね。そうではないものとして見たら……満点なんじゃない?」

 移動()経過()基礎()を、時間()空間()でループさせる。普段使いの黒白の中に緑と青と黄が混ざり、輪を描く。

 ただしそのままだと外側に放出されてしまうので、充填()固定()で上記のループを縛り付け、それでも漏れ出でてしまう部分である反響()伝播()を操って無理矢理抑えつける。

 

 それを、刹那()に乗せて行う。

 

 刹那。それはとても速いことではなく──。

 

「切れ間が無い、ということ……!」

「……うん、いいね。ヴィーエちゃん……卒業!」

 

 凄まじい力が身体を包んでいる。

 無論消費されて行く魔力も比ではないが──これは。

 

「はい、じゃあそれは終わりにして。──最後の授業、しよっか」

「最後、の?」

 

 ──恐怖を、覚えた。

 

 

 

 

 眼下。

 ノットロットと戦う二人を見る。雷の魔力の使い方を覚え、それを自らの戦闘スタイルに組み込んだ"一個人"たち。自らを焼くその魔力を完全に制御するのだ、"ちゃんと"できなければ自死に繋がる。

 対するノットロットは雷と目の錯覚だけでその二人をしのいでいる。神ではないにせよ、神と同等クラスの権能を与えているのだけど、どうやらそれを使う気はないらしい。

 というか、素の状態でここまで戦えたのか、ノットロット。自己研鑽は怠っていないと。

 

「随分とまぁ上機嫌じゃないさ」

「……リーさん? 城から降りて来るなんて珍しい」

「よしなよ、その姿でそっちの口調は」

「私は別にどちらでも構わないのだがな、気になるというのならこちらにしよう」

「ああ、ありがとう。……で、珍しいか。私もそう思うよ。……けど、なんだろうね。古巣のメンバーの中でも……あの二人は特におかしな二人だったから、気になってたんだ」

 

 そういえば。

 リーさんが偽・魔色の燕で飼われていたことは知っていても、どういう待遇にあったのかは知らないな。

 今でこそ念話の使えるリーさんだけど、ただの滂蛇だった頃はそれもできていなかっただろうし。

 

「おかしな、というと?」

「あの二人と、アリアって奴だけがね、私に餌をくれていたのさ。滂蛇はひと月食わなくても生きていける種族だが、食べなかったら腹は減る。だから、毎日じゃなかったけど……見かけるたびに殺したネズミなんかをくれてたよ」

「……アリアとヴィーエはまだわかるけど、オーヴァーチャーまで?」

「ああ。なんだい、意外かい? 天空城でのヴィーエに対する面倒見の良さを見るに、私からするとなるほどなあ、という感じだけれど」

 

 ……あの克己を経験する前から、オーヴァーチャーが動物にエサを、ねぇ。

 いや……そうか。私がオーヴァーチャーをしていた頃は、家族への親愛も仲間への信頼も無かった。それをあそこで即答できるということは……オーヴァーチャーはもっともっと昔から"一個人"だった、ということか。

 

 しかしそうなってくるとますますチャックがわからなくなるな。

 

 この造人演舞(ラグデム)という魔法。魂に干渉するものではないし、命を作る魔法というわけでもない。だというのに崩れ去るまでソレが泥人形だとわからない程のクオリティを引き出す魔法。

 じゃあ、このオーヴァーチャーや"一個人"の意識は、どこから持ってきたんだ。

 

 気になるのは、崩すのにも散人演舞(グレゴム)なる魔法を使っていたところか。普通にゴーレムを作っただけなら、解除に魔法は必要ない。

 ……トム・ウォルソンだけじゃないかな、これは。

 

「しっかし、ノットロットだっけ? あの神」

「ああ」

「強いねえ、どこまでも。しかも理不尽な強さってより、時間をかけた強さって感じがする。あれに負けても学びがあるだろうね」

「そこについては私も評価している。加えて、性格や素行も……想像以上に真っすぐ育ってくれた」

 

 兄妹姉弟という間柄の中に放り込まれた、「彼ら彼女らを監視する」という目的の造物。

 その上であの性格なのであれば、相当心労があったことだろう。セノグレイシディルのように偶発的に湧き出た神であればまた違った目線も持てようが、彼女は明確なスパイだった。同じ裏切り者でも目的が違う。

 

 けれど、折れずに、めげずに、そして変わらずに。

 まっすぐな子に育ってくれたのは……少し意外で、少し嬉しい。だってそれは、他の神々をしっかりと「相手」として見ていることの証左だから。

 以前に私は……「オーリ・ディーン」はリルレルの頭を撫でたけれど。

 メイズタグに言われずとも、母親とは名ばかりでも、愛情などなくとも。

 成長の喜びはあるのだと……まぁ、口にしていないから知られていないのは当然だけど。

 

「にしてもアンタ……結局はあの二人の敵に回るつもりなんだろ? なんで敵を育ててんだい?」

「さぁ」

「さぁ、って……」

「多い方がいいだろう、敵は。私に同調する以上、私を超えようとはしない。だが、私を敵視すれば、私をどう攻略するか、という思考が生まれる。私の最終目標は全く別の所にあるが、それはそれとして"この世に生きること"を楽しむために敵を作り育て上げるのは有益なことだと思うがな」

「そういう考えになるのはやっぱり、アンタが神だから、かい?」

「勿論その面もあるが……お前が思っているより、元来の私というのは感情が無いんだ。世界のシステム。世界の機構。あるいは風雨の故里(オルド・ホルン)に満ちる魔力の方が感情を持っている、と言ってしまえるくらい、機械的だ。だから、超常的だろうが人間的だろうが、私が何であるからこう、ではなく、私が出力されたからこう、という方が正しいだろうな」

 

 ……「FTRM3U」は感情的なのだろう。だが、「舞台装置」は本当に「舞台装置」だ。そして「魔色の燕の長」も「オーリ・ディーン」も「舞台装置」から生まれた人格。「FTRM3U」を基にしていたら、もっと平和で、もっと和気藹々としていて、悲しみの少なく、争いあれど学びがあり、誰もが終わりの悲嘆に怯えることのない……そんな世界を目指す人格ばかりだっただろう。

 そうならないために「FTRM3U」は「舞台装置」を作った、とも言える。

 例を挙げるならば、あの時……ユート・ツガーに正体を明かした時の思考や言動が、最も「FTRM3U」に近かった。軽口を叩いたり、冗談を言ったり、誰かの幸せを願ったり、素直に謝ったり。

 でも、あれでは「彼女」を作り得ないから。

 

「たとえどのような結果になっても、私は十万年で歴史に区切りをつけなければならない。そうして何度も何度も繰り返して……いつか限界を迎えなければならない。それまでに"変数"が何かを齎してくれることを願うし、私と敵対した誰かが新たな何かを持ち出してくれることを祈る。それが人であれ魔族であれ神であれな」

「ふぅん。……ちなみに今の歴史が始まってからは何年くらいなんだい?」

「もう少しで六万年だな」

「ってことは、流石の滂蛇も寿命の尽きる時間さね」

「ああ。なんだ、死ぬのが怖いか?」

「死ぬのは怖いけど、殺されるのと寿命で死ぬのは別の話さね」

「そうか」

 

 ユート・ツガーとエリとの会話によって書き換わった演算結果においても、「彼女」は現れていない。当然だけど、カムナリ様が外部から来る、なんて結果にもなってない。

 セノグレイシディルの死が早まっただけで、十七億年後の終結は何も変わっていない。

 

 チャンスはまだある。

 けれど、できなくとも……私はもう、十二分に。

 

「魔色──晩鐘!!」

「!」

 

 結界を張って、リーさんを隔離する。

 瞬きを挟まずに生ずるは魔力の奔流。考えなしに……というか術者の制御を受け付けずに暴れ狂う万色の魔力が、周囲に破壊の限りを刻んでいく。

 ……"一個人"の意識はない。ノットロットとオーヴァーチャーは自分の身を守るので精一杯だ。というかオーヴァーチャーはオーヴァーチャーでよく耐えているな。

 

「"恋情"──魅了」

 

 さてどう抑えつけるかな、と思っていたら、闖入者が。

 彼女は"一個人"を魅了することで強制的に意識を引き戻し、且つ暴走を止めて見せた。トゥナハーデンの魅了と違って自身で制御できるのも強みの一つか。

 

「マ──長ち~ただいま~!」

「ああ。ライエルは?」

「先アシティスに帰ったよ。はいこれおみやげ」

 

 音も無く私の横に降り立ったシンクスニップ。

 彼女が渡してきたのは、氷。

 

「やはり『縹苛結晶』か」

「あ、やっぱり? ウチとライエルでも融かせなかったからねー、それ」

「そうか。それで、調査は?」

「今から帰ってイルーナちに報告するよ。……良いお知らせになるかはわからないけど」

「構わないだろう。彼女も覚悟の上だ」

「……? 長ち、なんか変わった? フンイキおだやかじゃな~い?」

「もし本当に変わったのだとしたら、今地面に転がっている"一個人"やオーヴァーチャー、そしてノットロットのおかげだろうな」

「へー。そこまで認めるんだ。……ね、長ち。アシティスに帰る前に、あの二人とおしゃべりしたいんだけど、いい?」

「好きにしろ。修業期間はもう終わった。どの道あとは放逐するのみだからな」

 

 リーさんに目を向ければ、彼女はこくりと頷いて転移紋の方へするすると帰って行った。本当に察しの良い蛇だ。

 

 シンクスニップと共に地面に降りる。

 

「お、……長ちゃん、違うの、彼女はちゃんと雷の魔力使えてて! 今のは私が挑発したのが悪くて!」

「焦る必要はない。私もこの二人の事は認めているし、お前の努力も理解している。修業は今日で終わりだ。城で二人の疲労と怪我を癒したあと、放逐する流れになる。その前にシンクスニップがあの二人と話したいらしい」

「やほ~、ノットロット。お久~」

「あ、久しぶり~。……む、無理矢理くっつけるとかダメだからね!?」

「しないしない。ウチのことなんだと思ってんの」

「修羅場と泥沼が大好物の野次馬……?」

「い、言うじゃんノットロット」

 

 そういえば。

 店での素行が良いから忘れ気味だったけど、シンクスニップってそうだったな。

 他人の愛恋の中でも、泥沼化したものやn角関係で修羅場修羅場しているものが大好きな……恋情の神。

 

「ぐ……ふ、ぅ」

「と、っとと。そんなことより治療治療!」

「てゆか、凄いね。今の出力自体神に似てるものだったけど、それを耐えきるのも結構じゃない?」

「うん、二人ともすっごく頑張ったと思う。……場所変えるね」

 

 瞬時に消える、シンクスニップ、ノットロット、"一個人"、オーヴァーチャー。

 こっちはちゃんと権能。まぁ、使って損のあるものでもないし、良いだろう。

 

 ……なんだ。

 シンクスニップとノットロットの会話……ちょっと気になるから、覗こうかな。

 

 

 

 

 魅了から解放されてふらふらしているヴィーエとオーヴァーチャーがそれぞれに水浴びをしている……そんな待ち時間。

 シンクスニップとノットロットは、それはもう久方振りに膝突き合せる距離で座っていた。テーブルに。

 基本的に神なので肉体を使うこと自体が稀な中で、こうして双方人間らしい肉体を用意し、発声をして会話をする……奇妙な光景。

 

「しっかしさー、ノットロット。アンタ前は戦闘とか無理無理無理無理~! みたいに言ってなかった?」

「そりゃ、魔族とか神々……みんなを相手にするのは無理だけど、人間相手だったら流石に苦戦はしないよ」

「ああそういう。……で、贔屓目無しに、あの二人はどうなの?」

「うーん。エルブレードの頃にいた、英雄に一歩届かないくらいの兵士……って感じかなぁ」

「うわキビシー評価。もっと鍛えてやればよかったのに」

「私がママに言われたのは雷の魔力を扱えるようにしろ、っていうのだったし。……そりゃ私だって最後まで面倒見てあげたいけど、ママの決定には逆らえないでしょ」

「そう? なんだかんだいってママってノットロットには優しいじゃん。我儘言ったって許してくれそーだけど」

「ママが私に優しいのは理由があるから……」

「ああ、アンタが神じゃないって話?」

「……まぁバレてるよね、シンクスニップには」

 

 恋情の神シンクスニップ。

 慮縁の神フィソロニカ。この二柱は特に心に特化している。あるいはだから、桃龍ディオレティシアも気付いているかもしれない。

 

「そういうこと。私は神じゃないから、特別ママは気にかけてくれている……って、それだけだと思う」

「……だとしたら、ウチも神じゃない方が良かったなー」

「ママに優しくされたいの?」

「されたいし、したい」

「……したい?」

 

 頭上に疑問符を浮かべるノットロット。

 そんな彼女に向かって、身を乗り出すように……シンクスニップは少しだけ悪い笑みを浮かべる。

 

「ママってさ、創世神なわけじゃん」

「う、うん。近い近い」

「絶対甘やかされたことないでしょ。優しくされたことも。なんだっけアイツ、最初にママに告った奴」

「あー。えーっと、アフミス・アラン? 獣人だよね」

「そうそいつ。ママのこと好きになったくせにママを殺した奴。あそこからじゃない? ママが恋愛に期待しなくなったのって」

「そうかなぁ。シンラちゃんとかは、ママとずっと寄り添ってたイメージだけど」

「……でも優しくしてたのはママの方でしょ。結局ママって自分より年上の相手がいないから、甘えるってことができないと思うんだよね」

「なる、ほど?」

 

 初めの話から脱線しているような気がしなくもないけど、ノットロットはとりあえず相槌を打つ。

 

「ちょっと今回旅をしてきてさ。ウチ、目標ができたの」

「……今度はママの周りを修羅場に、とかじゃないよね」

「ちょっと、ウチのこと穿った目で見過ぎ!」

「いやだって、今までが今までだし……」

「……何も言い返せないけど! そう……じゃなくてさ。なんていうのかな、ウチにできることで、ウチの最大限の愛情をママに届けたい。そう思うようになった」

「へえ、良いじゃん。凄く良いと思う。……ママが受け取ってくれるかは別として」

「そこなんだよねぇ」

 

 そう、そこなのだ。

 シンクスニップはべったりとテーブルに倒れ込む。

 

「ライエルの言葉は届かなかった。セノグレイシディルの死に際の言葉もダメだった。メイズタグ曰く、クインテスサンセスの言葉もダメだったっぽくてさー」

「クインのも? ……まぁ、クインは元からママを変えようとは思ってないだろうし」

「……クインテスサンセスとクロウルクルウフとアンタとセノグレイシディルが、神じゃない。そうだよね?」

「あ、うん。クインとクロウは神じゃないっていうか、神より上、って感じだけど。シディルも存在自体は神だったよ。私だけが……神と同じような力を与えられた別種族、って感じだから」

「ノットロットは無いの? ママに言いたいこと」

「唐突……。うーん。言いたいことかぁ。……無い、かなぁ」

「うそ、本気? いっぱいあるでしょ、文句でも不平不満でも」

「でもママ頑張ってるし……。結局私達ってさ、数百万年の記憶しかないじゃん。でもママは……もっともっと長い間、一人で頑張ってきてるわけでさ」

「……ウチは十数万年の記憶しかない」

「ああ、シンクスニップは変わったもんね。……なんていうのかな、ママの苦しみとか、ママの頑張りとか、ママの……本当の気持ちとかって、私達じゃわかるわけがないんだよ。勿論私もママのことを理解しようって頑張る気持ちはあるけどさ。もっともっと深いところで、ママを知る必要があって……ママの理解者になる必要があって。それができてない内からママに言葉を伝えるとか、文句を言うとか、ちょっと……幼稚だなぁ、って思っちゃう。あ、やるのが悪いって言ってるわけじゃないよ。言葉にしないと伝わるものも伝わらないだろうし」

 

 べたーっとなったシンクスニップが、さらにだらーんとなる。ほとんど溶けている。

 

「……ウチ、浅い?」

「んー。やろう、って思ってることは良い事だと思うし、そうやって考えるのも凄く良い事だとは思う。でも……今のシンクスニップじゃ、ちょっと知識不足かも。ママのこと、何にも知らないでしょ?」

「そんなこと……」

 

 ない、まで言おうとして。

 シンクスニップは閉口する。

 

「……ある。ウチ、ママのこと……全然知らない」

「何が好物とか知ってる?」

「え? ママに好きな食べ物とかあるの!?」

「無いよ。ママに好きな食べ物はない。飲み物もね」

「……意地悪したな~?」

「そうじゃないよ。無い、って明確に知らなかったでしょ。今までは無いと思う、もしくはあるわけがない、だった」

「う……」

「知るってそういうことだよ、シンクスニップ。有るか無いか、有るならどういうものなのか、無いなら本当に全て試したのか。聞いても良いし、調べてもいいし、想像で考えてプレゼントしてもいい」

「……そういうノットロットは、ママのことどれくらい知ってるの?」

「結構知ってるよ。好きな色とか、好きな声とか、好きな生き方とか、好きな死に方とか」

「……前半はへぇ! ってなったけど、後半はえぇ? ってなった」

「でも、全部じゃないね、私も」

 

 何か、どこか。

 昔を懐かしむような顔で。

 

「……最初も最初の話、聞きたい?」

「最初も最初って、ディモニが生まれた時の事、ってこと?」

「そのもっと前かなー」

「それって……聞いても大丈夫な話なの?」

「大丈夫じゃない? ママは別に言っちゃいけないって言ってないし。どうせこの会話も聞かれてるだろうし」

「え。……結界四層と権能の隔てまで使ってるんだけどウチ」

「シンクスニップは若いな~。そんなんでママの目から逃れられるわけないじゃん」

「……それはそう、だけど」

「ふふふ、……じゃあ、お姉さんぶって、昔話でもしてあげよう。あ、あの二人が来たら終わりね」

「最後まで聞くために心を操るのは」

「だーめ」

 

 そんな感じで始まる、昔話。

 

 

 

 

 最初はね、自然だけがあったの。でも生きてない自然。そして……動かない人間。

 人間の人形、あるいは肉体だけの人間がいた。

 

 そこで生まれたのが、クインとクロウと私。ま、名前は違ったけどね。

 

「さて問題です。最初に作られていたクインとクロウだけど、クインが次に生まれた私を見て言った言葉は何だと思う?」

「え。……ううん、誰をモデルにしたの、とか?」

「あははっ。あの頃の私達に容姿なんかなかったって。力の塊みたいなものだし。……で、正解はね、"使い物になるの? コレ"でした」

「酷っ」

「クインとクロウからしたら、私っていうのはゴーレムみたいなものだったんだよ。ママの権能が意思を持った二人と違って、私はツクリモノ。だから道具として、使い物になるの? って聞いたんじゃないかな」

「へえ……それで、ママはなんて返したの?」

「その前にクロウが"ちょっとクインテスサンセス、その言い方は良くないよ……"って言って」

「ああ、あの子は前からそんな感じなんだ」

「うん。で、ママは」

 

 ──"役に立つかどうかを考えていたら、お前達に意思など与えていない"。

 ──"どうしても度合いを言えというのなら、同等だ。クインテスサンセスもクロウルクルウフもノットロットも"。

 ──"優越感も劣等感も好きに持てばいいが、私からの扱いが変わることはないぞ"。

 

「ママもママらしいというかなんというか」

「そうだねー。でも、それは結構救いの言葉だったんだよね。クインが優越感を持っていたのかどうかはわかんないけど、少なくとも私には劣等感があったから。だって創世神の権能に対して、ただ力を与えられただけのツクリモノだよ? ……って、そんなこと言ったら子供達全員がそうなんだけどさ」

「うん。今聞いてて、なんで劣等感持つのかわかんなかった」

「シンクスニップの良い所はそういう前向きなところだねえ。……ま、ね。そういう暗い所が昔の私にはあって……でも、言葉と態度でわかった。ママは本当に私達を等価に見ているんだ、って。等価……だから、無価値とも取れる言葉。優劣が無いから、向ける感情が無い。なんとも思ってないから、平等。ああ、これ本物の神様だ、って。その時思ったよ」

 

 埋め込まれた知識じゃなくて、心の底から、この相手は神様なんだ、って。

 ママだ、とは……思わなかった。私とは違う、私を作った相手だ、って思った。

 

「じゃあ、ママだ、って思ったのはいつ?」

「そのもうちょっと後。人間が動き出したすぐあとくらいかな?」

 

 その日は珍しく神様が私に会いに来て、私の名前を呼んだの。

 もう用済みだ、って言われるんじゃないかってびくびくしてたらさ、いきなり。

 

 ──"ありがとう"。

 ──"ようやく夢が進みそうだ"。

 ──"お前のおかげだよ、ノットロット"。

 

「って」

「え、何かしたん?」

「なーんにも。でもママ的には、私は良い動きをしてたみたいね。それで」

 

 ──"何もしていない?"。

 ──"居ただろう、この世界に。動き回っただろう、この世界を"。

 ──"確かに私は言った。好きに生きろ、死ぬな、と。けれど、この退屈な世界で死を選ぶ瞬間は絶対にあったはずだ。死を選び、また作り直されようとも、そのお前はお前ではない。お前は安らかに眠ることができる。だというのにお前は生きることを選び続けた"。

 ──"だから礼を言った。──生まれて来てくれて、生きていてくれて、ありがとう"。

 

「へぇ……えー、やっぱり良いなー。ウチもそれ言われたい~」

「えへへ、これは私の特権かも。クインとクロウも言われてないみたいだし、私だけが言われたんだよね。だからこれは、私の宝物の記憶」

「それで、ママをママだ、って思ったの?」

「ううん。そのあとに我儘を言ったの。ついでに、お願い事しても良い? って」

「案外強かだね、ノットロット……」

「見るからに上機嫌だったから、いけるかなーって」

 

 ──"お願い事?"。

 ──"構わないが……別にいつであろうと要望があれば叶えるぞ"。

 ──"まぁ、良いが。それで、何を願う?"。

 

 困惑した様子の神様にお願い事をした。

 

「ママ、って……呼んでも良い? って」

「……ノットロットから言った、ってこと?」

「そう。その頃はクインもクロウもママのことを母親だとは呼んでなかったから、おかしなことだと思われるだろうな、とは思ったけど……動き出した人間を見てね、ちょっと憧れたんだ。家族、ってものに」

 

 尚も困惑する神様は、けれど構わない、と言ってくれた。

 だからその日から、私は神様のことをママと呼ぶようにした。そうしたらクインもお母様なんて呼び始めて、あ、今はファトゥルム呼びだけど。

 クロウもママとか母さんとか色々呼ぶようになって……ディモニが生まれた時も、初めディモニはすっごく警戒してたんだけど、私達がママをそう呼ぶから、あの子もお母様ッて呼ぶようになって。後はみんな、自分好みの呼び方をするようになっていったね。

 

「じゃあ、ノットロットが開祖なんだ」

「開祖って……宗教みたい。いや神様なんだけど」

「へ~。……あ、そうだ。ディモニで思い出したんだけど、ノットロットに聞きたいことあって」

「なに?」

「ディモニが今の性格に変わった理由って、覚えてる? ウチもライエルもメイズタグも誰も覚えてなく──」

「あー、時間切れ。二人が来るから、お話はまた今度ね」

「……」

 

 大丈夫だよ、シンクスニップ。

 ママはね、こういうシンプルな方法には弱かったりするの。

 

 ──有効活用してね、ソレ。

 

 

 

 

 水浴びを終えた二人。

 食堂で待っていたのは、ノットロットとシンクスニップ。

 

「やほー、ヴィーエち。お久~」

「え、ええ。……久しぶり、シンクスニップ」

「ノットロット。気のせいでなければシンクスニップが私達を睨んでいるように思えるのだが、何か気に障るようなことをしただろうか」

「んん~。まぁ、タイミングの問題?」

「そうか。間が悪かったか。……なんであれば、私達はもう少し疲れを癒すことにするが」

「ああ、いいっていいって。ごめんごめん。ウチが大人げなかっただけ。……それで、ヴィーエちは修行終わりかぁ。どうだった? ノットロット教官は」

「その……」

「遠慮なしで」

「今まで出会った存在の中で、一番教え方が上手くて、一番優しくて、一番気遣いができて、一番……なんというか、親近感の湧く神様だった、かな」

「同意見だ。ノットロット。お前に謝礼をするのならば、やはり美芸に関する信仰を深めるべきか?」

「え、いいよいいよ謝礼なんて。私はファトゥルムに言われてやっただけだし。それに、他の神はわからないけど、私は信仰に味を感じないから。……あと、お礼のために美芸を、っていうのも、動機が不純だよ。美芸品が可哀想」

「……その通りだ。謝罪する」

 

 実際ノットロットは信仰を受け取ることが出来ず、受け取るのはシンクスニップになるので、本当に謝礼にならない……というのは知らなくていい話。

 

「でも……本当に意外だった。ライエルとシンクスニップもだけど、ノットロットみたいに……人間に対して、ここまで親身になってくれる神がいる、なんて」

「──それは勘違いだよ、ヴィーエち」

「わー! わー!」

 

 底冷えする声を発したシンクスニップの眼前に、ノットロットが入り込む。

 思わず臨戦態勢になりかけたヴィーエとオーヴァーチャー。それほどに、シンクスニップの発した声は冷たかった。

 

「なんていうかね、二人とも! 私が特別なだけなの! 他の神相手にそういう態度取っちゃダメだからね? 敵対することになるにしても、話し合いの時点で殺されちゃうまであるから!」

「退いて、ノットロット。私が二人に話したかったのはコレだから」

「シンクスニップの口調が愛憎の頃に戻ってる!?」

「……ノットロット。シンクスニップの言いたいことは……わかった。だから、退いて。……受けて立つから」

「え、え……あぅむぐ」

 

 ノットロットの首根が掴まれる。

 長だ。彼女がノットロットの口を塞ぎ、手で続きを促す。

 

「ノットロットが、特別。……他の神は。シンクスニップとライエルも含めて……人間を見下してる。そういうことを言いたいんだよね?」

「そう。見下してるっていうか、対等に見ているわけでも、親身なわけでもない、が正しいかな。ファトゥルムが言ったから。あるいは本当に自分が気に入ったから。それ以外の理由で人間を"個人"として見ることなんてない。思い上がらないで。アンタたちはまだ、数えるのも億劫なほどいる人間の中の二人でしかない」

「安心しろ」

 

 冷たい空気を割るのは、オーヴァーチャー。

 睨み合うシンクスニップとヴィーエの間に入るでもなく──ただ、声を落とす。

 

「私とて、神が天上にいるなどとは思っていない。主にセノグレイシディルの奇行のおかげで、神というものへの信仰は薄れに薄れ切っている。お前達はただの"強い一種族"でしかない」

「へぇ、言うじゃん」

「どこかで聞いているのだろう、空席の神。このまま放逐されると聞いたが──まだ私はアニカを返してもらっていない。だから必ず奪い返しに来る。お前を守る有象無象を倒してでもな」

「ヴィーエちにも勝てないクセに、大口を──」

 

 だから、彼女は笑って言うのだ。

 

「良い啖呵だ。歳を取れ。未来を掴め。オーヴァーチャー・エイムブレインズとなれ。オーリ・ヴィーエとなれ。この先の幸無き未来の涯に、自らを奪い返しに来い!」

「──最後に名を教えてくれ、魔色の燕の長。空席の神の眷属。今のお前の名を」

「名は我が神に捧げた故持ってはいないが……そうだな、Djin(ジン)。そう呼ぶことを許そう。何せお前達の長は私ではないのだから」

「感謝する。我ら泥人形、必ずやお前に一矢報いよう。そして──お前に奪われた全てを取り戻し、前に進むことをここに誓う」

「それ、私も呼んでいいの?」

「ああ。"一個人"。お前も私にヴィーエと呼ばれたければ、名を取り返すことだな」

「……ん。じゃあさ、最後に」

「ああ、最後に」

「物好きな奴らだ。傷と疲れを癒したばかりだろうに」

 

 ノットロットとシンクスニップの姿が掻き消える。

 直後──天空城の中に、万色の魔力と、雷の混ざった無色の魔力が満ち溢れた。

 

「魔色晩鐘──焉毘!」

「九、二。什壱式剣術──結集」

去此処(サルビア)

 

 時計の針の動かない交錯。

 剣も短剣も届くことはなく──。

 

「くだらんところで死ぬなよ、英雄」

 

 気付けば二人は、どこぞかの原野にいた。

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