神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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節題:「戒の装飾品店」

 一つの時代が終わる時、人は地ばかりを見る。

 大事な人。大切な相手。憎むべき敵。倒さねばならない仇。

 ただ──もし、一度でも。集中するものから意識を外して、空を見上げたのなら、気付くかもしれない。

 

 世界を包み込む──彼女の腕に。

 

 

 

 

 おお、と。おおお、と。

 鬨の声ではない。地鳴りでもない。

 これなるは咆え声。叫び声。

 

 断末魔だ。

 

「見通しが甘かった……ただそれだけだよ、ラスカット様」

「貴様……ニギン! 王都をどこへやった!?」

「まだそんなところにいるのか。嘆かわしいね。──"磁"を作り、それを嚥下し、自らに運命を取り戻した。そこまでは見事だったといえるだろう。だけど君は、知識が無かった。人生の大半を魔色の燕に奪われ、余暇の全てを天龍の研究に費やした君は、力とは天龍である、という図式が成り立ってしまっていた」

 

 元王都ファーマリウス、上空。

 対峙するは赤い闇色を撒き散らす「たった一人」と、「七色の天龍を従えた王女」。

 

 彼女らは圧倒的な差を以て──「たった一人」に押し負けていた。

 

「理由を考えたことはあるかな、ラスカット様。なぜ、運命の捏和が必要なのか」

「運命の偏りを作るためだ」

「良い理解だね。──であれば現状、運命のプールはどうなっていると思う? 運命の偏りによって作られる"物語"は、君が天龍を一か所に集めたことで……どうなっているだろうか」

 

 光線が飛ぶ。水晶が現出する。酸の雨が降り注ぎ、全てを分解する鱗粉が吹き荒ぶ。

 その全てを叩き落す、赤い闇色の炎。

 

「……換期は起きたばかりだ。だからまだ」

「いいや。天龍が動けば運命も付随する。必ず波紋が起きる。君が作り出した"磁"。その一滴目の波紋は、天龍との接触やそれらの移動による波紋によって干渉模様へと変化する」

 

 実演する、とでもいうかのように、「たった一人」は空中に魔力の水面を作り、右側に寄った波源より生み出される波紋と、外縁部にある九つの波源の波紋をぶつけていく。

 

「ラスカット様が"磁"を作り出した時、世界の運命はこうなっていた」

 

 九つの頂点より、一直線に出ていた運命の路。それは突然現れた右寄りの波源に激しく影響され、左側を疎にし、波源よりもさらに右の空間を激しく叩く。

 そして頂点たちが正九角形を諦め、二つの波源を残して一か所に集まった時……波長は変わっていなくとも波源同士が同化し、運命の路はもちろん、中心の波源までもが一つの波紋に組み込まれる。

 

 もはや一塊の波源となったそれらから伸び出る運命の路は、残る二つ……集合していない翠龍ルエティッポと蒼龍エントペーンの方へ向かう太い路となり。

 その交点に、真っ黒な波源が現れる。

 

「──ごちそうさま。ふふ、異世界の勇者曰く、それが食事をした時の挨拶らしいからね。──礼をしておくよ、ラスカットルクミィアーノレティカ」

涸界の鋭槍(ワルド・スペアラント)

「!」

 

 恍惚の笑みを浮かべる「たった一人」にぶつけられるは、無色の魔力で作られた槍。

 それを事もなげに打ち払って、射出方向を「たった一人」が見れば……凄まじい速度で駆けつけてきている四人の姿が。

 

「おやおや、これはこれは──いつか見た憧憬(アヴィダ・アヴィルサグ)じゃないか。ふふふ、この状況を見て、真っ先に私を攻撃するんだね。どう見ても多勢に無勢だろうに」

「『紅怖結晶』──」

「怜凶・僅僅・呶弩!!」

「ソウガ!」

 

 貸す耳は無いとばかりに次々と飛び掛かってくる三人。

 しかもその内の二つはご丁寧にも「たった一人」特効とも言える力を有している。加えて。

 

「……君、いつか見た憧憬(アヴィダ・アヴィルサグ)の新顔だったね。成程……近くで見ればわかる。彼女に所縁のあるものだ」

「──……エリ、ファロン、ジュナフィス! 逃げろ! コイツ……魔族だ!!」

「嘘、でも神の気配を纏って……」

()()()()!!」

 

 細められる。「たった一人」の目が。

 その分析力を厄介と判断したのか、パフォーマンスで見せていた赤い闇色をそのままルシアへとぶつけ始める。

 

「丁度いいじゃないか。彼女がそんな悪手を打つとも思えないし、君はもう自由に行動しているんだろう? ──つまり私が食べても問題ないということだ」

「ルシア!」

 

 広がる、広がる、広がっていく。

 全天を覆い尽くすが如き赤い闇色は、まるで実りをつける枝葉のように、赤い闇色の蕾を生らしていく。ラスカットルクミィアーノレティカも天龍も、いつか見た憧憬(アヴィダ・アヴィルサグ)の面々の全てをも多い尽くす──黒。

 

「なんだ……この出力は!?」

「『縹苛結晶』。ウォッンカルヴァよりは美味しくなかったけれどね。要領は同じだ、なんせどちらも同じ造物なんだから」

「……!」

 

 ルシアの逸脱した膂力が押し返される。

 卓越した技術が、そしてファトゥルムより下賜された武器が──食い尽くされて行く。

 

「既に種は蒔いた。丁寧に行くのはもう終わり。──指し手になどなるつもりがない、というのであれば……無理矢理卓に着かせてあげよう」

 

 闇が。

 全てを、飲み込んで──。

 

 

 

 

 顔を上げる。

 ユート・ツガーと、そしてレイン・レイリーバースは同時にそちらを向いた。

 

「どうしたの?」

「……変な事いうぞ。直感だけど……()()()()()()()

「それは確かに変なことだね。魔王は僕だから」

「いえ、私も同じことを思ったわ。今、あちらで……魔王が生まれた。新たな魔王」

 

 あちら、と。二人が凝視する方向にあるのは、王都ファーマリウスだ。

 

 現在、ユート・ツガー達は破壊痕の残るクロックノックの整備をしていた。乗っ取るつもりで来たのにもぬけの殻、というのは些か転がされた気分がないわけでもないが、拠点を手に入れた彼らはまずディグマリオンとクロックノックを繋げようと装飾を行っている……そんな頃合いで。

 連絡にと戻ったフランキスを除いて、ここには全員がいる。自我を失った「元ティダニア王国の王族」や、「洗脳を固有魔法とする魔族」、「それに洗脳された幾多もの冒険者たち」も。

 ティアとドロシーを始めとする魔色の燕も勿論いる。ただ彼女らはクロックノックに取り残された偽・魔色の燕と折り合いが悪く、見張っていなければ暗殺しかねない勢いであるため、少しばかり隔離されている現状にあった。

 

 否、正確に言えば。

 

「どうする。クォンウォを抑えられるのはレインだけだ。お前が離れりゃ、二の舞になるぞ」

「……わかってる」

 

 クォンウォ。

 ある子供の成れの果て。

 その「危険な魔物」は、クロックノックへの攻撃の最終盤においてその力を使った。意識的か無意識的かはともかく──その場にいた全員を「扇動」したのだ。

 敵の首魁であるトム・ウォルソンや神々がいなくなったにも関わらず、「扇動」の影響を受けなかった数人以外は死ぬまで戦い続けた。生物非生物問わず、知性ある者は知性をかなぐり捨てて殺し合いを続けたのだ。泥人形も、マリオネッタも、魔色の燕も偽・魔色の燕も、なにもかもが。

 

 レインが『透惰結晶』で抑えつけなれば、あるいは魔色の燕らが持つ燻ぶりがまた偽・魔色の燕へと向かうことだろう。

 逆に復讐を、と偽・魔色の燕が動く可能性もある。

 

「ま、魔王ってなったら俺達の管轄だろ」

「それは……」

「ただ、フランキスやヴィナージュと喧嘩しないでほしい。前教えた通り、魔族の常識を知った上で」

「……レイン。ここは二人に任せよう。レクイエム。フランキスたちの件、了解した。……生きて帰ってこい」

「君がそれを僕に言うのは、中々面白いね」

 

 憎まれ口をたたいて。

 

 ユートとレクイエムは、「そちら」へ向かう。

 

 ──元来あった、この後の……「異世界の魂」と「フランキス」の会話。

 その運命に辿り着くことなく。

 

 

 だから、当然。

 

「……成程。私を指し手にするとは、そういう意味ですか」

「まま?」

 

 当然──それを楽しみにしていた彼女にも、影響が出る。

 

「リルレル。よかったですね。──もうすぐクラリスさんが合格するはずなので、店を畳もうかと思っていたのですが……とある存在のおかげで、もう少し先延ばしになりそうです」

「よかった。なにが、どう? まま、ボク。なんで?」

「わからないのであればそのままでいいですよ。……というわけです、怪老。エミリアーノさんへの守護は継続になるかと」

「ふぉふぉふぉふぉ……それは予知か? それとも予想か?」

「まだ予想です」

「そうかそうか。……思い出作りは、大事じゃの」

 

 フレディは「まだ」無事であった、という報告をライルとスーニから受けたイルーナさんは、けれどもう覚悟を決めていた。

 それほど……時代が動いている。

 

「……ここも戦火に巻き込まれるかもしれない、ということは」

「お前の気にすることではないわ。この都は自分たちで身を守れる」

「そうですね。……さて、私は店に戻ります」

「そもそも何をしに来たんじゃ物の怪」

「いえ、予想が予知になっていたら、お別れを告げる予定でしたので」

 

 クインテスサンセスの「匂わせ」「ネタバラシ」に変化があった。

 それは世界の記録が書き換わったということでもあり、「FTRM3U」の演算に変化があったということでもある。

 イアクリーズ。彼女のことは何も視ていないけれど……それほどか、と。

 

 あのブラックボックス以上に何かが。

 たかだか魔族と神の混血で、たかだかそれ以外の何かを持っている程度で。

 

「……少し、出てきますね」

 

 ならばこちらも、予想外の手を打ってみようか。

 

 

 

 

 クールビー・ノス・ゼランシアンは今、窮地に陥っていた。

 大陸全土に対して指名手配がかけられた、己の似顔絵。服装はともかく、顔はそう簡単に変えられるものではない。

 

 敵対するとはいえ頼みの綱であったトム・ウォルソンがいなくなっていて、こちらの世界の冒険者……のみならず、魔物……マリオネッタにまで襲われる始末。

 なんとかそれらを撃退して山中にて過ごすも、限界が来るのは目に見えている。せめて「あちら側」に帰ることができれば態勢も立て直せようが、あの泉は現在厳戒態勢にあって近づけそうにない。

 補給路を断たれ、包囲網を敷かれ──絶体絶命のピンチにあるクールビーは、けれど。

 

 その足音を、聞くだろう。

 

 背負った麻袋を揺らさぬように、けれどいつでも飛び掛かることのできる姿勢で、たった一本のナイフを構える。

 食せる動物であれば僥倖。

 それ以外なら。

 

「それ以外ではありますが、どうでしょう。──私と手を組んでみませんか、裏面の王。砂の国トゥバシパルの王よ」

 

 低い姿勢から放った首を狙うナイフは──防がれる。花弁を模した装飾品。それが展開し、クールビーのナイフを包み込んで無力化した。

 ナイフが抜けないことを察するやいなや、バックステップでその場を離脱するクールビー。

 

「懐かしい話ですね。クールビー・ノス・ゼランシアン。あなたの名を聞いてもピンとこなかったのは、あなたが名前を変えていたから」

「……!」

「Rakts are seiga chon io chillt ok, So reh anigin gachon iritti kocawthe. Rakts are seiga chon in ganwthe, So reh anigin gagin ik iriowthe.」

「……落とされ星が、共に落ちる時。それは二人が共に、立ち向かう時。落とされ星が、共に願う時。それは二人が互いに、祈りあう時」

 

 観念する。抵抗を諦める。

 この相手に単身で挑もうなどという方が愚の骨頂だから。

 

「では、改めまして。()()()()・イース・ゼンティシアン。お久しぶりです、お兄様」

「ああ……久しぶりだね、ウトナ。あの日君が私に謳ってくれた恋物語。私が覚えていることは、果たして意外か、それとも予想通りなのかな」

「納得、が正しいでしょう。ようやく繋がりました。あなたが何故初手の時点でイアクリーズから指し手の指名を受けていたのかも。その、背後に背負っている少女。成程確かに私にとっての切り札となりましょう。ですが」

「──……見逃しては、くれないだろうか。兄妹のよしみで」

「ふふ、殺すつもりなどありませんよ。ただ……目論見が外れてしまいましたね、と。告げたかっただけです」

「目論見? ……ッ、シャーリー!?」

 

 ようやく気付いた。

 クールビー。かつての名をトツガナという彼は、自身の背負う麻袋に集う──尋常ではない量の土の魔力に。

 

「クールビー……虐めないで、ください!!」

「『紺罪結晶』」

 

 その集い、固められた土の魔力を崩していくは水の魔力。

 ただただ、相性が悪い。

 

「……!」

「純真無垢に育て過ぎましたね。ゼルフとアリアの子……泥人形と泥人形から生まれたイノチ。それは確かに私の予想を超えるもの。けれど、教育方針を間違えるから、奪われてしまいました」

 

 彼が急いで麻袋を開けば……そこには、必死の顔で胸の中心にある萌黄色の結晶を抑えるシャーリーの姿が。

 

「感情結晶……」

「感情結晶の持ち主の最期は必ず邪悪に染まる。知らない話でもないでしょう?」

「君が埋め込んだ、というわけではないね」

「ええ、追い払うことはあれど、無理矢理適合させる、なんて無粋な真似はしません」

「……」

 

 考える。

 クールビーは考えて……考えを、放棄する。

 

「やめだ。ウォルソンの助力が得られない以上、君と事を構えたって私に利がない。それならば、ウトナ。君と手を組むことは妙手であると言える」

「良い判断です。ニギン・イアクリーズ・ヴァーハマットが取らなかったこの手を、あなたは取りました。それがあなたにとっての幸となるか不幸となるかはお教えしませんが──どうでしょう。まずはその幼子の感情結晶を抑制することで、貸しとする、というのは」

「承知した」

 

 直後、感情結晶の暴走が収まる。

 そのままシャーリーは気を失う。突然使ったことも無い魔力を暴走させたのだ。精神的疲労は推して知るべしだろう。

 

「さて。では、トツガナお兄様。あなたは現状をどこまで把握していますか?」

「全く、だよ。それと、トツガナ・イース・ゼンティシアンなる人物はもういない。君以外の誰にも名を記憶されていないのだから、死んだも同然だ。普通にクールビーと呼んではくれないだろうか、ウトナ」

「でしたら私もディーンと、そうお呼びください」

「……ああ、ディーン。それで、ウォルソンはどこへ行ったんだ? なぜ私は身を追われることになった?」

「すべては指し手の一人、ニギン・イアクリーズ・ヴァーハマットの奸計です。あの方はどこぞかでトム・ウォルソンからあなたへの合図の術を入手し、その時を早めた。トム・ウォルソンの準備が何も整っていない……どころか、攻め入られる直前で逃げる以外の選択肢を塞がれているような状況であなた達を呼び出しました」

「私もウォルソンもしてやられたと、そういうことだね」

「はい」

 

 記憶にあるノイズ。ウォルソンはイアクリーズの記憶も持ち帰っているが、そのほとんどは覚えられていない。

 ただ食わせ者で、決して背を向けてはいけない相手だったことだけは覚えている。

 

「……ウォルソンの行方はわかっているのかい?」

「知ろうとしていません」

「やろうと思えばできる、ということでいいのかな」

「ええ、勿論」

 

 であれば、だ。

 

「──まず、ウォルソンを潰すべきだろうね」

「良いのですか? 古巣でしょうに」

「あの男は危険だよ。自身を才無き凡愚だと思っているからこそ、打てる手の全てを打ってくる。たとえそのどれかがあまりに凶悪だろうと残虐だろうと関係なくね」

「良い評価です。ではもう一つ聞いておきましょう。クールビー、あなたから見て、チャックという男はどのような評価でしたか?」

「……あの快楽殺人鬼、まだ生きているのか」

「ええ。上手く生きていますね」

「だとすれば……ウォルソンよりも厄介かもしれない」

「ほう?」

 

 思い起こすことは出来ずとも、腕に刻まれた文章が全てを語る。

 解読したそこに記されていた言葉。それは。

 

「チャック。彼はヒトの形をした()()だ。その価値観も、世界観も、恐らく全く別の世界から飛来したナニカ。ウォルソンもそれを危惧していた」

「……クリファと、そう呼ばれていましたか?」

「いや……そこまでは覚えていない」

「クリファスではなく、クリファだったか。そこが重要なのですが……」

「わかった。私の腕に刻まれた文章を君に見せる。これはウォルソンが私のために彫ったものだけど、解読漏れがあるかもしれない。そこまで重要なことであれば……私が見落としている可能性も否めない」

 

 腕をまくるクールビー。

 その腕に、確かにびっしりと紋様が刻まれていた。装飾とは違う、組み込める限りの文字文字文字。それも現行で使われている文字とは違うそれら。

 

「……まさか」

「何か発見したのかい?」

「トム・ウォルソンと合流する理由ができました。あちらは嫌がるでしょうが、強引に引き入れます。クールビー。あなたからも説得をお願いします」

「先ほどの貸しは、それで相殺でいいのかな」

「ええ、構いません」

「であればすぐに行こう。君がもうウトナではないとしても、君にいつまでも借りを作っておくのは精神衛生上悪い。何をされるかわかったものではないからね」

「ふふ、お兄様ではないクールビーを相手にするのですから、何をする、なんてことはありませんよ。どちらももう何も関係の無い赤の他人なのですから」

 

 最早記録にも記憶にも残っていない話。

 ウトナ・トツガナという、ある鍛造・彫金・製鉄法を編み出した天才王女。

 第六王女であった彼女には兄がいて──その内の一人が、いつのまにか、誰にも気付かれない内に忽然と姿を消していた、なんて話は。

 

 先祖返りかチェンジリングか、その「兄」は超長命種であり、姿を消した先にあった砂の中に国を興し、しばらくの間「表面」と交流をしたのちにそれを途絶えさせ、そこからもずっと「表面」を「未来視」で見ていた、などという話は。

 

「少々急ぎます。『紺罪結晶』──」

 

 水の魔力が二人を包む。勿論麻袋の中のシャーリーもだ。

 それを飲み込んで──鎌首をもたげた水の蛇が、ずず、ずずずとある方向へ向けて進み始める。

 巨大さ故にわかりづらいが、とんでもない速度で。

 だから、振り落とされないようにだろう。「彼女」が「兄」に手を差し出し、「彼」が「彼女」の手を取った──その瞬間。

 

 

爆人演舞(バンガム)

 

 

 彼の腕の、その全てが爆散した。

 ──彼女の上半身を、抉り取る形で。

 

「は?」

 

 痛みよりも先に出た呆けの声が、虚空に響く──。

 

 

 

 

 舌を打つ。

 いつものことだけど、今回は流石に唐突過ぎた。

 

「まさかこっちが残るとはな。……まぁ、生き過ぎたことは確かに否めなかった。くだらん幕引きだが、オーリ・ディーンの物語はここで終わりだ」

 

 しかし……良い展開でもある。

 予想外が起こり続けている。「帰る家」になってしまっていたアシティスも、これで縁切りができた。

 クラリスさんの卒業試験についてはライエルかシンクスニップに頼めばいいだろう。……いや、ほう。

 

 オーリ・ディーンの遺体、回収されたな。なるほど、こっちがオーヴァーチャーとヴィーエを奪ったのだから、これでお相子か?

 中々に剛毅じゃないか。

 それで成り代わるつもりか。ライエルとシンクスニップ、リルレルの目を騙し通せるとは思えないが、同時に彼らも公衆の面前で「オーリ・ディーン」を殺すことはできないだろう。

 その泥人形が卒業試験を担当するか。あるいは内部崩壊を狙うように動くか。

 

 私は必ず志半ばで死ぬ。

 天寿を全うしたことはない。

 目的ややるべきことをしている──その最中に死ぬ。定められているが如く、死ぬ。

 

「ノットロット」

「なに、ママ」

「トゥルーファルス、ゴルドーナ、ヒシカを守れ。奴らの画策していることはわかっているが、その上で守れ」

「……誰から?」

「悪意から」

「……わかった」

 

 消えるノットロット。

 次に呼び出すのは当然。

 

「ハァイ、ママ。言われる前に来たわ」

「今回ばかりは、僕も。……こんな短期間で世界の記録が書き換わり続けるなんてあり得ないからね」

「どこかからかクリファがこの世界に混じった。ファムファタウル、無の中でそれらしい影を見た記憶は?」

「無いよ」

「クインテスサンセス。世界の中の全てから、クリファという言葉を意識下に残すものを炙り出せ。クリファスは除外しろ」

「もうやってある。ウェイン、ティニ・ディジー、トム・ウォルソン、チャック、ニギン・イアクリーズ・ヴァーハマット、……そして、オルンとギギミミタタママ。死んでいるけれど、キングを名乗ったコもそうね」

「経路は洗えるか?」

「無理ね。[ERROR]……ああ、プロテクトがかかっている。どうやらFTRM3Uは、何かを守るためにあなたからクリファを隠していたようね?」

 

 ……私は「魔色の燕の長」だ。けれどそれは「人間ロールプレイ」での話。

 その中身である「空席の神Futurum」も「ロールプレイ」であり、「舞台装置」でさえも「ロールプレイ」のはずだった。けれど。

 

「切り離されている、か」

「そんなことあり得るの?」

「本来であればあり得ない。私とFTRM3Uは同一だ。だが……あくまで私はFTRM3Uが作り出した人格に過ぎず、FTRM3Uにだけ入った情報を基に、FTRM3Uが私を切り離したというのなら理解の出来ない話ではないんだ。私がアンネ・ダルシアやルシアにやったものと同じ、"そういう一個人にする"という手法」

 

 今までやって来た側だったのが、やられた側になった。それだけの話。

 構わない。それが「彼女」を作ることに繋がるのなら、「オーリ・ディーン」も「魔色の燕の長」もどうだっていい存在だけど……今回ばかりは気になることが多すぎる。

 

「──……待て」

 

 違和感があった。

 今、記憶を洗っていて……おかしな部分があった。

 今までおかしいとは思わなかったそれ。けれど、今になっておかしいと思えたそれ。

 

()()()()()()()()

 

 最初も最初、初めも初め。

 一般人ロールプレイから戦闘職ロールプレイに切り替える直前の話。

 

 ギギミミタタママが私の夢枕に立つ。

 それは、あり得ないことだ。だって私は夢を見ないのだから。

 

「じゃあ、ギギミミタタママが諸悪の根源?」

「もしくはもう乗っ取られているか、かしら?」

「いや、乗っ取られているならユート・ツガーを呼び込んだり、況してやこうして私に気付かれる状況を作らないだろう。恐らく何らかの理由で自由に動けない状況であると見た」

「順当に考えるなら、チャックがそう、だよね」

「あるいはイアクリーズだが……」

 

 どうする。

 目を開くことができない。今世界がどうなっているのかわからない。どうやら本当にFTRM3Uから切り離されているらしい。

 

「……とりあえず、内圧の神と天龍を守る方向で動かなければならない。もはや傍観はできない。クリファがこの世界に根付いているのなら、TKのもとに行く前に私が潰してやる」

「それこそ思うつぼ、って感じだけど」

「僕はまた、外でお姫様を探させてもらうよ」

「ああ、好きにしろ。死ぬなよ」

 

 消えるファムファタウル……もとい、クロウルクルウフ。

 

 まずはアシティスに行って、シンクスニップとリルレル、リルレルの中にいるオルンを確保すべきだ。

 その後ハストナイト帝国のウアウアを回収し、仮死状態にあるボーダークと、どこぞの空間で分を弁えているだろうマイダグンも確保しなければならない。

 ノットロットが上手くやってくれるのならあの三柱は気にしないでもいいが、問題はイントリアグラルとウォッンカルヴァか。

 

「一応、ウォッンカルヴァにはさっきから念話を入れているけれど、一切繋がらないわ」

「……方向は?」

「あっちね」

 

 元王都ファーマリウスの方向。

 凄まじい魔力の……運命のプール塊が出来上がっている場所。ルシアを向かわせた場所でもある。

 

「クインテスサンセス。クリファという言葉が動いたら、逐一私に知らせろ。いいな」

「ええ。ところで、私が乗っ取られているとは考えないの?」

「考えない。お前が考えているよりクリファは狡猾だし、短絡的だ。これだけ長い間話している、なんて悠長なことはしてこない」

 

 あらそうなのね、なんて言いながら消えるクインテスサンセス。

 

 二人が消えて──ようやく口角を上げる。

 

 良いじゃないか。

 

 ようやく、私の生にも意味ができた。

 クリファの駆逐。そして……ディーンの遺志を継ぐ。

 

 羽搏きの時だ。

 

「私の志半ばは、果たしてどこになるかな」

 

 それが楽しみで仕方がない。

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