神の装飾品店 作:Actueater / 万感織機
風邪らしい。
「二人揃っての風邪となると、イケナイ妄想をしてしまいますね~」
「少し下世話が過ぎますよ、イルーナさん」
「あ、ごめんなさい」
トゥーナとリコ君が。
イルーナさんの言う通り、揃って休みたい旨を言ってきた。
確かにイルーナさん視点で言えば「付き合い立ての男女が揃って風邪を引いたら交尾でもしたんじゃないか」、に見えるのだろうけど、トゥナハーデンが病気になるわけがないことと、そのトゥナハーデンの支配下にあるリコ君が病を患うことがない、というのを知っている私からしてみれば、「ああこれは休みのための嘘だな」とわかる。
もちろんトゥナハーデンとて私にそれが透けるのは承知で休日届を出してきているわけだから、何か二人だけでやっておくべきこと、あるいは魅了の強化か何かをするのだろう。
オーリ装飾品店の店員として機能しなくなるようなことはしないで欲しいんだけど、なったならなったで「元」に戻せばいいだけではある。
「そうだ、お客様もいませんし、少し装飾について聞きたいことがあるのですが~、いいですか?」
「ええ。構いませんよ」
「じゃあちょっと試作中のものを持ってくるので~」
バックヤードに戻っていくイルーナさん。
良かった、恋愛脳だけじゃない、ちゃんと仕事熱心なイルーナさんだった。
……試作か。
そういえば私、過去の流行りを再現したものを置くばかりで、新しいものをあまり作っていない。
何か挑戦してみようかな。「人間ロールプレイ」を逸脱しない範囲で、「目新しい装飾品」を。
午前中は誰も来なかったので、イルーナさんの「宝石と鉱石の結合部におけるエネルギーロス削減について」の講義をずーっとしての、午後。
お客様が来た。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。久しぶりだね、レディ」
騎士ニギン──この都市の実質上のトップ。
先日負かした相手。……先日ってほど先日でもないか。
「
「いやいや、客として来たよ」
言いながら、騎士ニギンは腰に佩いていたオールヴァイトの剣をカウンターに置いた。
その刀身はトツァの樹液で固められて……いない。剥離させたのか。
「修理であれば武具の専門店に行った方がよろしいのでは?」
「あまり邪険にしないでくれ、レディ。君にとって私の印象は最悪に近いものだろうが、私からしてみれば君は目指すべき道の一つなんだ」
「余計なことを言うようなら、その喉から出る音を消しますが」
「店員のことなら問題は無いよ。『音吸いのシエルタ』……シルディアから有用性を聞いてね、君のいない間ではあったけれど、ここで大量購入させてもらった」
それはありがとうございますだけど。
基本一点ものな装飾品店で大量購入はあまり褒められた行為ではない。有用なのは認める。
「それでは、どういったご用件でしょうか、お客様」
「この剣に装飾を施すことはできるかな、と思ってね」
この剣。
つまり、オールヴァイト……魔法吸収効果を持つ剣に。
「可能です」
「おお、やっぱりか。……ああ興奮してしまってすまないね。他の装飾品店……そして魔術師協会にもかけあってみたのだけど、どこに行っても首を振られてしまって。だけど、どこへ行っても皆口々に言うんだ。"六区の二番通りにあるオーリさんの店ならあるいは"、ってさ。界隈じゃ、結構な有名店だったんだね」
「ありがたいです」
これも認める。
他の装飾品店は普段は競い合うべき店だけど、その依頼が命に係わるだとか、騎士の依頼であるとかのとき、「できない」では困るのでウチに依頼を回すことがあるのだ。魔術師協会からも時々「紹介状」が届く。ちなみにこれはコトラさんのお店も同じ。
無論それは彼らが自らプライドを折ることに等しい……のだけど、初めの頃ならいざ知らず、既に功績は十二分にある。なんなら魔術師協会に装飾品を贈ったこともある。すでに認められているのだ。
あと、根が真面目なのもあるんだと思う。
先も言ったけど、命に係わることだから。それを前にすれば、儲けも、矜持も、全て度外視して「できる場所」を紹介する。この都市の人々はそれがとても多い。
「どんな装飾をしたいのですか?」
「自動修復と、対魔物戦闘時における魔力ドレイン。材料と予算は十二分だけど、如何せんできる人がいなくてね」
「どこか遠征にでも行くのですか?」
「そういう情報は聞かないのが普通なんじゃないかい?」
「勿論普通のお客様には聞きませんよ。ただ装飾の内容と他の店を巡って来たことから、結構な死地に向かわれるものと見まして」
「見たら、何かな。そんな慈善事業をする店なのかい?」
「金払いの良い客を取りこぼさないようにすることがそんなに不思議ですか?」
ただ騎士情勢を知りたいだけだけど。
騎士シルディアと今代勇者に「やってもらっていること」、ティアとドロシーが「やっていること」、リーさんの感じ取る予兆。
正直それだけでは足りない。一番フットワークの軽いカゼニスさんを自ら切ってしまった以上、情報の集まって来やすい騎士ニギンを取り込むのは良好であると判断した。
「……」
騎士ニギンは……笑顔から、少しばかり真剣な顔になって。
「
「そうですか」
「うん。君は情報を集めたがっている。やろうと思えば自分でできるのに、それをしない。君が崖から落ちて全治ひと月の怪我を負った、と聞いた時に確信したことだけどね。──何か企んでいるだろう。それも、それなりによからぬことだ。やればできるのにやらない。だというのにやることはやる。……ははぁ、なるほど。私を抱き込みたいわけだ」
わあ。
一瞬でバレた。
「申し訳ないけれど、騎士団は公明正大な組織ではないからね。誰しもに平等に接するわけじゃないよ。だから──今の私は客だ、オーリ・ディーン。どうかな、依頼は受けてくれるだろうか」
「ええ、承りました。オールヴァイトの剣に『自動修復』、『魔物攻撃時に魔力ドレイン効果』ですね。大金貨二十枚になります。材料はこちらにありますが、そちらが提供するというのであれば十五枚ほどにまで落ちます」
「ふむ、そういうことなら二十枚でお願いするよ。なにせ、材料は一般には出回っていない代物だからね。こちらが用意する必要があると思ったのだが……在庫があるなんて」
「店員とお客様、では?」
「おっとすまない。それで、作業時間はどれほどになるだろうか」
「お店の閉店時間がもうそろそろなので、明日の午後には」
「……早くないかい?」
「不満ですか?」
「いや。店員と客だからね。それに、君の腕を疑うつもりはないよ」
一般には出回っていない材料。
そりゃそうだ。そりゃそうだし、宝石類や鉱石類含めて秘境も秘境に採りに行かなければ「在庫」なんて揃えられない貴重品ばかり。
ただ、仕入先を探るのは客の仕事ではないから。
店員と客でいたいのなら、それ以上は踏み込まない事だ。騎士ニギン。あなたも「一般人ロールプレイ」をするのならね。
「わかった。では明日の午後、剣を取りに来る。では会計と行こう」
「ベースがお客様の装備ですので、仕上がりを見てからの後払いで構いません。気に入らなければ元の状態に戻します」
「……わかった。疑わない。それではね、レディ。また来るよ」
「はい。またのご来店をお待ちしております」
店を出ていく騎士ニギンと──店の周囲にいた五人程の騎士の気配が消える。
何をそんなに警戒しているのやら。私は装飾品店の店長でしかないというのに。
「あれ、オーリさん。お客様が来ていたんですか?」
「ええ、所有物への装飾依頼でしたので、私がやります」
「珍しいですね~、ここに来る人は買い切りの……ってそれ、なんかすごい剣じゃないですかー?」
「オールヴァイトの剣ですよ。オールヴァイト、見るのは初めてですか?」
「ああいえ、前に王都でやっていた騎士団のセレモニーで見たことがありますけどー……間近で見るのは初めてですねー」
音吸いのシエルタは気配まで消してしまうので、イルーナさんは騎士ニギンの存在に気付いていなかったのだろう。
午前中に私から習った内容を一生懸命に再現しようと頑張っていたはずだ。それは悪いことではないし、ぶっちゃけ他人の店の敷地内で装飾品の効果を発動させている騎士ニギンが完全なマナー違反である。騎士自体が絶対であるこの都市でそれを揶揄する輩はいないだろうけど。
「確か、魔力吸収効果でしたっけー?」
「魔法吸収効果ですね。オールヴァイトは三重構造になっている鉱石で、外殻にあるスライムの外皮に似た変性組成が触れた魔法を記憶、変性。その内側にあるオールヴァイトの七割を占める多孔質石質が変性組成の変性を受け、配列を変えます。多孔質石質は魔法を分解し、魔力に変え、中心にあるアマトラトが魔力を吸収。これがオールヴァイトの魔法吸収効果の原理です」
「アマトラトは……確か、純度の低いマトラトでしたよね?」
「はい。純度と深度の浅いマトラトですね。地中の深い所にあるマトラトは無制限の魔力吸収効果を持ちますが、地表付近で不純物の混じっているアマトラトは無制限にはなり得ません。このように刀身が灰色になるのも、本来のマトラト宝石であれば黒一色になるところを、不純物、外殻、多孔質石質を通過して発光が抑えられている証拠です」
ただ、純度が低いからと言って性能が悪いというわけじゃないのが鉱石や宝石の面白い所だ。
「アマトラトは一定まで溜め込んだ魔力を無色の魔力として放出する機構を有していますので、無色の魔力を使う時は重宝するでしょうね」
「無色の魔力……。私には出せない奴ですね~」
「おや、あらゆる人間に適性があるはずですが」
「それはそうなんですけど~、難しくて」
「ふむ。この剣の装飾の片手間になってしまいますが、無色の魔力を出すコツ程度なら教えられますよ」
「良いんですか~?」
「ええ。これから先、無色の魔力を装飾に使うこともあるかと思いますので」
「じゃあお願いします!」
わあ急に元気。
でも実際無色の魔力は有用なのだ。属性のついていない魔力。人間の体内から生まれ出でるエネルギー。最も「ロス」の少ないエネルギー。
学名を「Quartz Genus Pure essence」といい、頭文字のQGPで呼ばれることが多い……とかは、余計な知識か。これは「学者ロールプレイ」の頃の名残。こんなことをイルーナさんに言っても仕方がない。
「ではまず、私の指を抓んでみてください」
「はい……」
魔力操作で装飾における材料と用具を浮かび上がらせながら、身体は完全にイルーナさんに向き直る。
抓ませた人差し指。そこから流す無色の魔力。
「魔力自体は感知できますね?」
「はい」
「ではこれを押し戻してみてください。まずは自分の扱いやすい魔力で構いませんよ」
こちら側も魔力の弾性を最弱にまで抑えて、イルーナさんからの「返り」を待つ。
微弱。……本当に遅々とだけど、押し返されてくる無色の魔力。……なるほど、苦手な理由はわかった。
「イルーナさん。もしかしてですが、前職はアスクメイドトリアラーをされていましたか?」
「えっ……いや、その」
「口外するつもりはありませんのでご安心ください。というかアスクメイドトリアラーでもアサシンでもどっちでも構いません。とにかくそういった職業をなさっていたのだと感じ取りました」
「……その。いえ、認めます。アスクメイドトリアラーでした」
アスクメイドトリアラー。
凄く端的に言うならば、「公的機関の暗殺者」。騎士団や国といった場所で育成される、暗殺を生業にする騎士モドキ。騎士のように日の目を浴びることはなく、アサシンのように自身を表に出せるわけでもなく、シーフのように冒険者になれるわけでもなく。
己を滅し、ただ国を動かすための装置としてある職業。「アスクメイドトリアラー」はヒストアジークの時代に作られた役職名で、意味は「礎になるために生まれてきた者」。
しかし、少し驚きだ。
アスクメイドトリアラーは言ってしまえば終身雇用というか子供の頃から死に至るまでずっとアスクメイドトリアラーのはずだから、今こうしてイルーナさんが外に出てきているのは異例の中の異例といっても過言では……。
……。
あー?
「この職場が好きなのは、本当です。……ごめんなさい」
「いえ、問題ありません。ただ……騎士団じゃないとすると、もっと上ですか。成程」
「ごめんなさい。……オーリさんがダメというのであれば、私は……命を断ちます」
ただ魔力の使い方を教えるだけのはずが、そんなところにまで。
記憶処理……をしても、意味はない。同じことを繰り返すだけだ。
だったらイルーナさんがアスクメイドトリアラーであるという事実を消去してしまう……と、彼女がこの店に居る理由がなくなるかもしれない。
「重ねて言いますが、問題ありません。不用意に口を滑らせた私が悪いので。……それに、アスクメイドトリアラーの存在を知っている、というだけで、イルーナさんの目的は果たされたようなものなのでは?」
「はい。ですから、私は国へと戻り、全てを報告しなければなりません。……それをしたくないので、やっぱり命を断とうと思います」
さて。
どう処理しようかな。
つまり、彼女は国からのスパイで、私はかなり早期に目をつけられていて……誰かな、私の存在に気付いたの。
どこを断ち切れば丸く収まる? ああ、世界の記録を漁るべきだったのかな。……いや、だから、逆に……。
「本当に、辞めたくないです。心の底から。でも、私は帰らなければいけません。目的とする情報を手に入れた上に、自らの正体も明かしてしまったのですから。……けれど、オーリさんに不利益を齎すくらいなら、私はこの首を切ります。リコティッシュさん、トゥーナさん。お二人とも出会えてうれしかったです。どうかお幸せに……?」
「ごめんなさい、本音を見るために少し薬を使いました」
飛び退こうとするイルーナさんを無色の魔力で縛り付ける。見えないことはこういうことにも有用性を発揮するんだよ、っていうデモンストレーション。
「気にすることは何もありませんでしたね」
「……無詠唱で、こんなに強固な……!」
ああ。
そうだった。忘れてた。詠唱しなきゃなんだった。
「イルーナさん。私と主従契約を結びましょう。そうすれば国へ戻らない理由も、命を捨てなくていい理由も作れます」
「……知ってますかー? オーリさん。ヤーダギリ共和国を始めとする"奴隷制度"のある国ではー、主従契約のことを、奴隷契約、って呼ぶんですよー?」
「理由のためですから、何を命令することもありませんよ」
引き攣った顔をしているのは、私を見誤ったからだろうか。
そういえばカゼニスさんも言っていた。「善人だと思っていた」とかなんとか。
──今の私は、まぁ、言葉だけ見ればイルーナさんを助けようと必死な人なのだろうけど。
「気が、変わりました~。……オーリさん、貴女は、危険です……! 確実な危険因子……排除が必要……」
「アスクメイドトリアラーの危機管理スイッチですか。取り払ってあげてもいいのですが、どうしましょう。ここであなたを"改変"することは……大雑把と、また言われてしまうのでしょうか」
イルーナさんが魔力の流れを変えて来ていたので、抑えつける。
目を剥くその表情に込められているのは……それはもう危険なものを見る目。そりゃそうだ。発動前の魔法。それも他人の魔法の魔力操作抑制なんて、宮廷魔術師クラスじゃないとできない。でも宮廷魔術師クラスならできるのでセーフ。「逸脱」はしていない。
ああ、今度は舌を噛み千切ろうとしている。口を固定。失血死を狙ったのか窒息死を狙ったのか知らないけれど、どっちも苦しいのでやめておいた方がいい。
これは救いよう無さそうかな。
うーん、アスクメイドトリアラーという名前を出した私が悪い以上、彼女に損をして欲しくはない。
……ま、やっぱり記憶処理が妥当か。彼女の過去を改変するのではなく、先ほどの会話開始時点まで戻せば良い。それだけで十分だ。
無色の魔力を扱うコツについては、違う理由を適当にでっち上げよう。
「しゅ……主従契約を結ぶ前に、聞かせてください~。オーリさんは、何者なんですか~?」
「定期的な風の魔力の送信が途切れた時点で、全身に薄く纏っているキリニスの音織物がその瞬間までに溜め込んでいた音の魔力をどこかに送信する仕組み。仕事熱心というか、ヒストアジークの頃からやり口が変わってないというか。人を使い潰すやり方は非効率的だと教えたはずなんだがな。お前の子孫は何も学ばなかったらしいぞ、リードリヒ」
「オーリさ」
"改変"する。
私がアスクメイドトリアラーという単語を出した瞬間から、今に至るまでの記憶。その全ての消去と、彼女が常に行っていた魔力操作における外部への送信の帳尻合わせ。
やり方が一切変わっていないから対処もしやすいしやすい。まったく、人間は代を重ねるごとに成長する生き物なんじゃなかったのか。
「イルーナさん。これは予想でしかないのですが、身体強化魔法を使う時に魔力を体外放出しないクセをつけていませんか?」
「え……あ、あ、そそ、そうです。えとー……身体強化魔法は、子供の頃に習ってー……体外放出しない方が、相手に出方を探られないからー、いいぞー、って」
「それが原因ですね。試しに今身体強化魔法を使ってみてください。いつものやり方ではなく、体外に魔力が滲み出るような形で」
「わかりました~」
カゼニスさんに施したものもしっかり「処理」し直してあるけど、本来であればこういう風に即会話を再開できるくらい完璧なものだ。記憶処理……もう何度やったことか。
イルーナさんがゆったりと身体強化魔法を練り上げていく。
風と熱の魔力を用いた身体強化魔法。熱の魔力を使っている時点でアスクメイドトリアラー風味が抜けていないのだけど、まぁ熱の魔力自体が一般にはあまり知られていない魔力だから良い、のかな。もう少し隠した方がいいんじゃとか思ったり思わなかったり。
「こんな感じ……ですかー?」
「はい。ではもう一度私の指から流れてくる無色の魔力に集中してもらって」
今度は弾力を少し上げて無色の魔力を流す。
すると、イルーナさんの身体強化魔法と私の無色の魔力が「拮抗」を見せた。
「何かが触れてきているのがわかりますか?」
「はいー……。ぷにぷにしてますねー」
「ヒトは魔力を体外に放出する時、皮膚を媒介にします。つまり、神経こそ通っていないものの、体外に放出した魔力には"感触"があるんです。といってもほとんど気付くことのできない程度の"感触"ですが。でも体外放出をしない身体強化魔法だと、媒介とするものが筋肉だけになってしまいます。そこに微弱な魔力の"感触"が入ってきても、それよりも遥かに鋭敏である肌の触覚に負けて、感じ取ることができません」
「なるーほどー?」
「ではイルーナさん。体外放出の身体強化魔法を維持した状態で、無色の魔力を編んでみてください」
「……本当に下手ですよー?」
「ええ、今までとの違いに気付くはずです。どうぞ」
イルーナさんは目を瞑り、むむむ、と集中し……無色の魔力を生み出す。
瞬間、パッと目を見開いた。
「え、あー……これー、面白いですねー」
「わかりましたか」
「はいー。……他の魔力が皮膚の延長線上にある中で、無色の魔力だけがそうではなくてー……なんでしょー、ぷにぷにした魔力がー、身体の中で、どこに行けばいいか迷っているようなー」
「まずはそれを自分の魔力であると認識するところからですね。それができれば次はそのぷにぷにを体外へ。操ったまま身体強化魔法を切れば無色の魔力を操れますし、慣れてくれば身体強化魔法を介さずともできるようになります」
「……まとめるとー、私は無色の魔力と他の魔力の区別がついていなかった、ってことでいいんですかー?」
「はい。完全習得には少し時間がかかるかもしれませんが、お仕事の傍らでやってみてください。極めると」
無色の魔力を操作し、造形、光の屈折率を内部で変えて「
無詠唱はダメだからね。呪文の方にしなかったのは、探られると面倒くさいから。
「おおお」
「無色の魔力を固めて作った鳥の像です。触ってみてください」
どこか恐る恐る、と言った感じでイルーナさんがそれに触れる。
驚いた顔。
そうだろう。こんな硬そうな見た目なのに。
「ぷにぷにしてますねー……不思議ですー」
「無色の魔力には元から弾性があるのですが、こうして物質化することで弾性を持つ透明な物体をつくることができます。これは装飾品にも使えますし、魔力伝導率を高めたい時などに中空にした鉱石の中身をこれにして代用する、などという手法も存在しますね」
「これ、耐久性はどれくらいなんですか?」
「属性耐性で言えば高い耐久性能を持ちますが、斬撃耐性はそこまででもないですね。家庭用の包丁でも切込みをいれることができます。ただ衝撃耐性はそれなりにありますよ。ケインズウッドの尖塔の最上階から落としたとしても割れません。またこれら耐久性能は込める無色の魔力の量や密度によって変わります」
同じ呪文を唱えながら、今度はスッカスカの鳥の像を作る。
それは上に放ればぽーんと飛び、ゆっくりと落ちて来て……床に当たってぺしゃりと潰れた。
「需要はあまりありませんが……子供をあやす時に使うくらいでしょうか」
「いろいろできるんですねー」
「ええ、頑張ってみてください」
だからやろうと思えば即席ナイフや籠手なんかも作れる。いわないけど。
魔色の燕のリーダーは無色の魔力の扱いが上手で、基本武器は大剣であるにも拘わらず、咄嗟に小刀を出したり弓を作り上げたり、果ては投石器に自身の無色魔力塊を乗せて攻撃する、なんて荒業もやっていた。無尽蔵が過ぎる。
──だから魔王に負けたんじゃないか、とか思うけど。
魔力を「休めば回復する、自在に操り得る無尽蔵のエネルギー」だと勘違いしている人間は多い。というかほとんどがそうだ。
だけど、違う。ヒトに与えられた魔力というものには限りが存在するし、魔力の回復には別のエネルギーが変換、及び消費されている。
世界の根幹に纏わる話だ。これについて私が答えを言うことはないけれど、あるいは辿り着く人間がいたのなら、私は手放しにその人間を褒め称えるし、何か褒美を取らせるかもしれない。
死後、ディモニアナタの世界ではなく、私の用意した安寧へ迎え入れることも吝かではない。別に塗り潰されたわけじゃないし。
まぁ、今イルーナさんとやっている魔力講座程度でどうにかなるような話ではない。だから好きに使ってくれていい。
「そろそろ閉店ですね」
「あ、もうそんな時間ですかー」
イルーナさんとの会話の裏で、オールヴァイトの剣への下準備は全て終わらせた。明日の日中には装飾も処理も完結するだろう。
昔は閉店後も一人で作業をしていたのだけど、忘れ物を取りに来たリコ君がそんな私を発見。「ちゃんと休んでください!!」と怒られたので時間外労働はしないようにしている。
……リコ君、トゥーナと何してるのかなー。
見るのは簡単だけど……ま、風邪が治ったら詳しくつついてみよう。その方が面白いだろうから。