神の装飾品店   作:Actueater / 万感織機

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訳題:「"価値"の在り処」

 ヤーダギリ共和国が一角。

 国そのものの機能が停止したとて、国土の広いこの国の全てが沈下したわけではない。

 ほとんどの住民は逃げた。大陸の臍に避難所があると知った者は、そこを目指して。

 愛国心など無い。あったとしても、あれに勝つ未来は見えなかったのだろう。ほとんどがもぬけの殻になったヤーダギリ共和国の──隅の隅。

 

 そこに、青い屋根の家があった。

 

「この家は?」

「……私の家です。長」

「そうか。家族は?」

「十年以上も前のことなんだから、もういるわけがない……と、少し前まで思っていました。……売られている、私の知っている年頃の家族を見るまでは」

「殺したのか?」

「いいえ。魔色の燕は暗殺組織ではありませんから。……でも、私を売ったお金で……のうのうと暮らしていてくれたら、少しは恨めたのに。結局続かなくて、自分たちも身売りに出て……その後は知りません」

 

 ティア。

 売られた子供。

 ドロシー。

 捨てられた子供。

 

「私の家は、あの黒い水の下敷きです」

「そうか」

「はい」

 

 あるのだろう。思う所が。

 

「……長」

「なんだ」

「私達に、価値はあったんでしょうか」

「知らん」

「……私達を拾ったのは、長なのに?」

「"人間の価値は自らの手で掴み取るものだ"とか、"人は生まれて来ただけで価値がある"なんて言葉は英雄譚の中だけで述べられていればいい。私からしてみれば、一部の特別な人間を除き、他の人間は全て有象無象。長く話した、共に過ごした、などの関係値が無ければ顔の見分けもつかん程興味の無い存在だ」

「……」

「でもまぁ、そんなものだろう。お前達とて、異国の誰かと誰かの見分けはつくまい。知らんし、興味が無い」

「それは、そうだけど」

「同じだよ。私もお前達と同じだ。お前達に価値があるかも、私に価値があるかも知らん。逆にお前達が私へ価値を覚えているのなら、そうやってお前達に価値を覚えている者もいるのだろう。誰にも知られず、何者とも見出されずに死んでいく者こそが無価値だ。であれば、お前達の価値など自明だろう」

 

 私よりも、お前達に価値を見出す者は、たくさんいるだろうに。

 まだ私からの評価が欲しいのか。

 

「長。前に私は、魔色の燕を終わらせるつもりです、と言いました」

「ああ、聞いた。好きにしたらいいと言った」

「だから──お願いがあります」

 

 現状。

 恐らく最も戦闘力の低い二人。ティアの聖霊の小路こそ有用性はあれど、肉体は貧弱。ドロシーの知識量は、しかしレクイエムに敵わない。

 何者にも勝らない、人間二人。

 

「私達が、最後の魔色の燕です」

「そして、最新の、かな。……冒険者である魔色の燕ではない、組織としての、最後」

「ルビィたちは、逝ったか」

「はい」

 

 そうか。

 単なる対抗心。本物の魔色の燕はこちらだ、ということを示すための数。

 弱かったのか。

 それとも、強かったからか。

 

「本気で、私達と戦ってください。──あなたが、魔色の燕の長であるというのなら」

「瞬きと保たんぞ」

「承知の上です」

 

 ……ヨヴゥティズルシフィの信徒。二人がそう思っていなくとも、ヨヴゥティズルシフィは大切に想っている二人。

 

 構わないさ。

 それで、ヨヴゥティズルシフィからの心象が悪くなろうとも。

 それで、最後の最後にでも復讐されようとも。

 

 私はこのまっすぐな想いを受け止める。

 

「名乗れ」

「ティア。売られ、拾われ、捨てられ──今此処に在る翼!」

「ドロシー。捨てられ、拾われ、捨てられ──今此処に在る翼!」

「ジンだ。見出し、拾い、捨てた。最早何色でもない燕の残骸」

 

 魔を纏いて、奏で。

 魔と共に戦う者。魔纏奏者。

 

 衝突など無い。拮抗など無い。

 差し伸べられる手も、差される水もない。

 

 ただ交錯の一瞬で気付く。

 涙と、笑顔と。──心。

 

 言葉などない。交わした剣は本気の力が込められていたけれど、少女の膂力など然したるものではない。

 死んだ。あっさりと。魔色に躯を貫かれて。隠し玉があったわけでも、秘密裡に育て上げた力があったわけでもない。

 

 ただの。

 

 ティアとドロシー。

 ──私の、教え子。

 

「価値なら……とっくに、だろうに」

 

 拾うのは、二つの指輪。

 装飾品『濃霧の残影』。六つの内の二つ。

 

「逃げる選択肢も、あっただろうに」

 

 青い屋根の家。

 無人のそれの裏手にまわって。

 

「勝てないことくらいわかっていただろうに」

 

 蹴り、飛ばす。

 一撃のもと破壊される家屋。その残骸は黒キ海に沈み、さらに破砕されて行く。

 

「……ああ」

 

 消えていく。消えていく。何もかも──そんな感情など。

 

「物に八つ当たりするくらいには、あの二人を想っていたのだね」

「……ヨヴゥティズルシフィ」

 

 隣にいた。

 砂塵となった二人の前で、膝をついて。

 

「曲がることができなかったのだろうね。君は、己の信徒だから。魔色の燕をやめることも、逃げることも、忘れることも。君は、まっすぐにすべてと向き合って……真っすぐに散っていった」

「……謝罪は、しない。恨め、ヨヴゥティズルシフィ」

「可笑しなことを言うね。己の信徒がこれだけ真っすぐに生きたのに、己がそれを捻じ曲げるだって? ──己はYVWMNTIZLKXAFHE(ヨヴゥティズルシフィ)。信徒に恥じる神ではないつもりだよ」

「そうか」

「そうだとも」

 

 では、話は終わりだ。

 魔色の燕という組織は真贋共に壊滅した。残る燕は、冒険者の燕だけ。

 

 始めよう。

 

 

 

 

 ──落とされ星の御伽噺(エルヴンテイル・サテラリグイト)

 

 開戦の合図などしない。

 こちらにとって都合のいいタイミングで始める。

 

 降るわ降るわ──私の作り上げた宇宙から、星空から、落とされ星が、群星が──集中して落ちる。

 場所は勿論ヤーダギリ共和国の大樹だ。黒キ海が溢れ滴って尚壊れない大樹。

 凄まじい地響き。恐ろしい轟音。吉兆の証たる落とされ星による、凶兆たる具現。

 

 ああ、誰しもが世界の終わりを見た事だろう。

 神の怒りを覚えた事だろう。

 

 そして──対抗するように、黒キ海を纏った大樹が生長し、落とされ星を受け止めていく様を見て、果たしてどちらを、と思ったことだろう。

 どちらもが、だ。

 

 どちらもが、人類に仇なす災厄。

 どちらもが天災。どちらもが厄災。

 

 天も地もヒトの味方ではないことが、どれほど恐ろしいか。

 

「安心すると良い」

 

 大きな声ではなかった。

 けれど響き渡る声だった。

 

「守るよ。神々の戦いから、人間を」

「おう、ガキ。ワシにもちったぁ格好つけさせろよ」

「ジルクニフト・グレイデイ! 及び──冒険者協会一同! この陣地魔術の要はあの少年だ! わかっているな!!」

 

 おお、おおと歓声が上がる。

 地響きにも勝る歓声が。

 

「人々を守るために、守り通すぞ!!」

「総合医療殿は怪我をした者、魔力切れを起こした者を受け入れる体制を整えている! また、魔法薬各種も取り揃えた! 医療長ケールフの名の下、これらは戦いが終わるまでの間、無償で皆に提供するものとする──何があってもだ! いいな!」

 

 叫び──隠れ、血を吐く者。

 当然だ。彼の病はディモニアナタへの信仰により寛解した。それを敵と見定めたのなら、牙は当然。

 それでも。それでも。それでも。

 

「魔術師協会一同、レクイエム殿より授かった知識、一分たりとも零さず使えよ! 気を抜くな、最後の瞬間まで!」

「はいは~い。お腹が空いた人は交易認定所が特別サービスしちゃいますよー。……医療殿と違ってお代は頂きますケド」

「スーサナさん。そのお代、私の出世払いで賄えますか?」

「いや、クラリスさん。代金はあった方が良い。こういう事態においては、誰もが腹を満たしたくなるもの。その制限をすることこそが余裕を作る」

「そこ! 雑談してないで、こっちに来て効率化の手伝いをして欲しいかな! ヴィカンシーの知識は貴重なんだから、ほら早く!」

「おっとっと、呼ばれたようだ。……ヴィカンシーと魔王は、実を言えば禍根を持っているのだが……どちらもが全滅しては意味ないからな。行ってこよう」

 

 聞こえないはずの有象無象の声。

 でも、確かに耳に届いている。

 

「ふぉふぉふぉ……物の怪の贋作。おヌシは、ここで磔じゃ。人間の中に紛れ込んでいた種子共もの。ふぉふぉふぉ、獣人の鼻は誤魔化せんぞ」

「クレイムハルト、だからな。これでまた罪人の誹りを受けようと、今更だ」

「誰ももうクレイムハルトの名を偏見で見たりしませんよ。……さて、私達ミ・パルティ運営も、ジルクニフトさんの所で肉体労働してきますね」

 

 まだ「起きていない声」はあるけれど。

 大丈夫。

 

 人間のことは、彼らが守るから。

 

 私は全力を賭して、クリファを祓える。

 

「さぁ、挨拶はこの程度で良いだろう。もう少しスケールを大きくするぞ……!」

 

 樹木の再生が終わる前に。

 黒キ海が泡立つ前に。

 

 星空の星を、一か所に集めていく。

 

 星々の集合体。食い合いを起こす天体。

 さしずめ、惑星相克か。

 

「Sai no hit org.」

 

 前はパフォーマンスでやっていた詠唱も、無制限の改変ができなくなったこの身では必要とするものだ。

 いいじゃないか。らしいよ、本当に。

 

群星の天檄(ヴィレイン)

 

 落ちろ、星々。

 宙で輝いているくらいなら、軌跡を見せろ。

 お前達がただあるだけではないという、その軌跡を!

 


 

 眺める。

 

「ありゃりゃ。これじゃあどっちがこの世界を壊してるかわかんないね、ママ」

「困ったものだね。これから私達の世界になるというのに、こうまでされては」

「いいえ」

 

 交渉のテーブルを、蹴り飛ばす。

 

「え……」

「おやおや」

「交渉決裂です。姉である私が、あなた達に屈するわけには行きませんから」

 

 抱えた水晶玉の中で、停止したビル群や液体の入った泡から"消失"が起きる。

 演算結果が乱れているのだ。それはその途を辿らなかったと。

 構わない。この未来が壊れても、私は──この取引に応じない。

 

 それよりも美しい可能性を見たから。

 

「うーん、じゃあ仕方ない。ケッキョク暴力かー、残念残念」

「言葉で解決するのなら、それが最もよかったのだけどね」

「お好きにどうぞ。それで、あなた達に何ができるのですか?」

 

 再演算を開始する。

 必要な部品を入れての再演算。

 

「何ができる、って、そりゃ」

「苦痛を与えることだよ、レディ」

 

 大丈夫だから。

 存分にやりなよ、投影。

 


 

 

「マイダグン、まだか」

「全力でやっている……」

 

 ところ変わって神々。

 そう、表の大騒ぎ……「落とされ星を落として敵の本陣を叩き続ける」なんてのは囮。陽動作戦に過ぎない。

 本命はこっちだ。

 

「……何かが近づいてくる。……これは」

「神と天龍だな。だが……」

「私が出よう。マイダグン、ライエル。お前達は外に出るなよ」

「ならば、私が供をしよう、トゥルーファルス。なに、この先どんな珍事が起ころうと、裁判くらい神に頼らずできるさ、人間たちは」

 

 トゥルーファルスとエレキニカ。

 権能を分け合った二柱が、「ある結界」の外に出れば……いた。

 

「よぉ、しかめっ面二人組じゃねぇか! がっはっは、ってことは、やっぱここがアタリだな?」

「些事。不和を起こす神など不要。片付けるぞ、ウアウア」

「よし来た!」

 

 ウアウアとアストラオフェロン。

 わかる。彼らは、もう。

 

「神共の戦いに駆り出されるとは……つくづく度し難い。神とは、それだけで完結するものだろうに」

「それ以上言うな、エントペーン。不甲斐ない七つの同胞の代替が我らだ。用済みとされない程度の働きはすべきだろう」

 

 エントペーンとルエティッポ。

 そう。そうだ。

 だからあの場には、七体しか。

 

「エレキニカ。天龍二匹程度、今更だろう?」

「殺しても問題ないのだったか、今は」

「ああ」

「であれば障害にもならん。──そちらの敵は、一応神だ。気を付けろよ」

「ふん、誰に物を言っている」

「──"審判"」

 

 鐘が鳴る。

 直後、空間が隔たれた。「とある結界」と「トゥルーファルスとウアウアとアストラオフェロン」、「エレキニカとエントペーンとルエティッポ」に。

 

「おいおい兄貴。良いのかよ。これでも神二柱だぜ? 身体のスペックは全ての神が同じなんだ、んでもって"契約"と"鍛冶"、"闇夜"は相性が悪い──弟に良いカッコつけてぇってのはわかるが」

「囀るな、ウアウア。お前の悪い癖だ。──語りたいことがあるのならば、勝者となってからにしろ」

「同意。では死ね、トゥルーファルス」

 

 ギン、と。金属同士がぶつかったかのような音が響く。

 アストラオフェロンの手にあるのは、夜。棒状にした夜。

 対し、トゥルーファルスは素手だ。武器など無い。

 

「一度死んだ程度で。生まれ直した程度で──忘れたか、私のことを」

「硬質。ウアウア、何を呆けている。戦え」

「あ……ああ。いや、なんだかな。俺たちゃ、なんかとんでもねぇことを忘れてるような、そんな気がしたんだ」

「そうか。一つ言い忘れていたな」

 

 攻撃。あるいは夜。

 攻撃。あるいは武具。

 権能により生まれたチカラを以てトゥルーファルスを叩く二人は──ああ、思い出せるだろうか。

 

「私とて怒りはある。唯一の姉と、妹と、弟たちを殺され──どうして冷静でいられる。どうして──目を、閉じたままでいられる」

 

 真偽の神。真実の神。

 かつて「世界にはそうではないものが幾らかあった方が美しい」という自論から片目を閉じたこの神は、序列階位2位。

 リルレルに食われていない、Ovodenも乗り越え続けて来た……今となっては最古に近しき神。

 

「偽りたるお前達が、私の前で踊るなよ」

 

 振るわれるのは不可視の剣。いいや、噓偽りを持つ者には見えぬ剣。

 ──弔いである。

 

 

 空間を挟んで、エレキニカ。

 その彼にブレスや羽搏きを当てようとする巨龍二匹はしかし、うまく連係を取ることができない。

 巨体ゆえか。それとも。

 

「私とノットロットに雷の権能が与えられている理由を知っているか?」

「この……だから小さいものは嫌いなんだ……ああ、邪魔だ、ルエティッポ。食らうぞ」

「こちらの台詞だエントペーン。邪魔をすることしか能の無い羽根つきトカゲめ。お前から食ろうてやろうか」

「実際のところ、この世界の人間は違うのだがな。この世界の人間のモデルとなった人間は、脳を微細な電磁波で動かしているのだそうだ。裁判の……審判の神はそういうのが分かった方が良いから、なんて理由で紐づけられたこの権能は、しかし役に立ったことがほとんどない。せいぜいが出頭命令を拒否する者への呼び出しくらいか? 加えてこの世界の人間は脳をシグナルで動かしていないのでな、別に考えが読み取れる、なんてこともない。シンクスニップ、フィソロニカ、あるいはお前達の同胞たるディオレティシアの方が得意なくらいだ」

 

 雷が、落ちる。

 黒い黒い雷が。

 

「しかし、ノットロットはコレの扱いに長けている。──曰く、躾に丁度いいのだそうだ、雷は」

 

 巨体を天からの怒槌が打つ。別にそれで穴が穿たれたり切り裂かれたりするわけではないが──だからこそ、効く。

 

「痛くとも、耐性をつけることができない。慣れることができない雷というものは、聞き分けの無い奴への躾として最適だと……ノットロットはそれはもう悪い顔で言っていた」

 

 ピシャリ、と。

 エレキニカに雷が落ちた。

 

「……。ここは一応"審判"の権能による隔離空間なのだがな。神々のスパイ。流石だ、謝ろう。確かに躾には最適だとノットロットは言っていたが、それはもう良い笑顔だった。そして防ぐ」

 

 また落ちて来た雷を、今度は同じく雷で防ぐエレキニカ。

 戦いはできないだとか、神じゃないとか、最弱だとか。

 

 色々言っていたけれど、その実ノットロットは──なんて。

 

「というわけだ、魔物となった天龍諸君。私は一刻も早く仕事に戻らねばならないので一刻も早く沈黙してくれると助か……いや、仕事は、裁判はもう要らない、と言わなかったか、私は。……なるほど、ようやく理解した。これが仕事中毒(ワーカーホリック)か。休め休めと言われるわけだ。だが仕事が溜まっているような気がしてならない」

 

 降り注ぐ雷をその身に受けながら、天龍二匹は口に属性魔力を溜める。

 いがみ合っている場合ではないと気付いたか、入力されたか。

 

「そして、もう一つ。なぜ私達神々が、天龍を殺さないのか。これくらいは知っているだろう」

 

 時間()経過()基礎()移動()の混成ブレス。

 大抵のものであれば破砕し得るそのブレスは──エレキニカに直撃する。

 

 直撃し。

 

「世界に必要だから、だ。その理由が無ければ、お前達を殺すことになんの障害もない」

 

 無傷。

 運命の欠片も消費していない。

 

「では、轟雷を食らい給え。何分久方振りに雷を揮う故、力加減に誤りがあったのなら謝罪しよう。裁判にしたいなら、私に対する訴えでも受け付けるぞ。法廷で会おう、天龍諸君」

 

 雷が。

 

 

 そうして、審判の権能隔離が解除される。

 転がるは神二柱と天龍二匹の死体。

 

「……内圧が減っていない。なるほど、焼き増しではあるが、あちらの常套手段なのか?」

「む。……あー」

 

 遠くの空に見える影。

 見覚えのあるシルエットは──神二柱と天龍二匹のもの。

 

「量産型英雄の次は、量産型神と量産型天龍。豊作だな、トゥナハーデン」

「つまり私達は、できる限りの消耗を抑えつつ、これらの相手をし続けなければならないわけか」

「もう音を上げるか? Elec imck(エレク・イニカ)

「つまらん冗談はよせ、TrueFalse(トゥルーファルス)

 

 弔いである。

 裁定である。

 

 くだらぬというのなら、省みぬというのなら。

 続け続けるまでであろう。

 

「とはいえ私達も無限ではない。急げよ、マイダグン」

「久方ぶりの重荷だ。存分に背負え、マイダグン」

 

 ピシャリ、と雷が降ってきて、二柱に当たる。

 変に焦らせないの! という声が聞こえて来たような気がした。

 

 

 

 

 マイダグンの役割。

 それは敵の本体の逆探知である。薬毒の神であるマイダグンは、壊キ根を含む植物たちに薬毒を染み込ませ、その中心を辿ることができる。

 勿論妨害も入るだろうが、それの対処をするのがライエルとヒシカだ。ヒシカはまだ完全に恢復していないので、基本はライエルが守りの要となるが。

 

「そんなに複雑なのか、この壊キ根ってのは」

「構造自体は単純だ。だが、まるで生きているように……それぞれの根が個別の生き物であるかのように、その組成を変え続けている。毒が染み入る前にその部位をパージされる、あるいは遮断されるだけなら諦めもつくが、ダミー個体に誘引されて、苦労して辿り着いたところが行き止まりだった、を何度も繰り返している」

「聞くだけで面倒臭そうだな」

「表の様子はどうだ」

「ああまぁ、トゥルーファルスとエレキニカがコンビ組んでんだ、万が一もねぇだろ。俺の天敵みたいな二人だしな」

「お前も自身の権能を完璧に使いこなせたら、あれらの隣に立てようものを」

「完璧に使いこなせてたらクリファとかいう面倒なモン消し去ってるよ」

 

 未熟。そして臆病。

 これに尽きる。ライエルは、できるのにやらない、ではない。

 できたとしても──どうなるかわからないから、やれない。怖い。それだけで、神々もジンも危険に晒し続けている。

 後ろめたい気持ちはあれど、今は。

 

「頼りにしてるぜ、兄ちゃん」

「都合のいい弟だ」

 

 堂々と頼ることを、覚えたから。

 

 

 そして堂々と頼ることを覚えた者は、ここにもひと柱。

 

「……チッ」

「舌打ち……。そんな機能、わざわざつけなくとも」

「頼るのはいい。姉だからな。だがなんだ、"奇跡"を頼るわけでじゃなく、考え事してる自分を高空に運んでくれ、って……自分で飛べよ」

「昔のゴルドーナより今のゴルドーナの方が私は好きなのだが」

「うるせぇ、口じゃなく頭動かせアホ」

 

 メイズタグ……を掴んで飛ぶ、ゴルドーナ。

 彼女の苛立ちは正当なものであるし、同時に妥当な配役でもあった。

 

 こと守りにおいては、"秘匿"に並んで"奇跡"は強い。

 今回マイダグンとメイズタグは攻略の鍵なので、それぞれが最強に名高い神に守られている。

 ただ、使われ方が気に入らない、というだけの話。

 

「ん……ティダニア王国の国土には無いってよ」

「そうか。次はハストナイト帝国を頼むと伝えてくれ」

「はいはい」

 

 ゴルドーナが耳飾りとしてつけているもの。

 それは装飾品だ。遠くに音を届ける装飾品。ジン曰く、人間が売り始めたのだから多少改良したところで問題ない、とかで、神々に配布されている。

 念話に使う魔力さえ勿体ないのだ。装飾品のみの魔力で通信ができるのならば、それに越したことはない。

 

「おっと」

「む」

「……なんだ今のは。種か?」

「種子を飛ばして来たのか。気を付けろゴルドーナ、直撃すれば寄生されかね」

「だからお前は口閉じて考えな。安心しろ、アタシにもお前にも当てねえよ」

「わ、わかっ」

「だから喋んなっての!」

 

 急速発進、上昇下降、宙返り。

 テンションがおかしくなっているのか、それはもうアクロバティックに弾丸の如き種子を避けるゴルドーナ。

 

 もう声も届かなそうなので、メイズタグは目を瞑った。

 考えるために。

 

 マイダグンがトゥナハーデンの位置を探る役目なら、メイズタグはディモニアナタの位置を探るためにいる。

 植物と密接なつながりを持つトゥナハーデンと違って、ディモニアナタの位置を正確に当てる術がこちらには無い。だから、完全にメイズタグの頭脳頼りの作戦。

 それでも"深理"を使う気は無いとメイズタグが言い放った時は流石の温厚連中も殺気立ったが──ジンが笑って、それでいい。そうではなくてはな、なんて言ったから、緩和した。

 この緊急事態に何を言っているのか。ゴルドーナはしっかり反対派……とっとと"深理"を使え派である。

 

「……少し目を開けろ、メイズタグ」

「なんだ、今私は集中して……」

「気のせいじゃなけりゃよ。──増えてねえか?」

「何が」

「だから、()()だよ。黒キ海の」

 

 気のせいでなければ。

 メイズタグは、真下を……地上を見て。

 

 ()()()()

 

「ジンに繋げ、ゴルドーナ! 敵の狙いは」

「ざぁんね~ん。まさか真理一歩手前深理クンが辿り着くとは思ってなかったけど~──これでオシマイ」

 

 蔦。

 この高空に。

 いや──雲だ。雲に隠れて。……それも違う。

 

「雲に種子を植え付けたのか!?」

「ち──"奇跡"!」

「もう遅いよ」

 

 蔦が伸びる。

 ああ、この雲が、あるいはモデルとなった世界の雲であれば、そんなことはできなかっただろう。

 でもこれは──水の魔力と「死んだ魔力」とNull Essenceなどが溶解してできたものだから。

 植物の種くらい、受け止めてしまう。

 

「内圧二つ、もーらい! ──って、うぇ!?」

「私は子供達を信頼しているが、ちゃんと大事にも思っている、ということを忘れたのか?」

 

 斬り刻まれる。

 今まさに蔦が果実と果皮になりかけていた、その瞬間が、時間ごと。

 

「嘘、どうして……ママはあそこで、魔法を使い続けて」

造人演舞(ラグデム)。解析を終えてしまえば、中々使い勝手のいい魔法だ。死者を呼び起こすのではなく生者の分身を作るのなら尚更にな」

「……あの馬鹿ミット!! だからママの前でバカスカ魔法使うなって言ったのに!」

「ゴルドーナ、呆けていないで行け。それとメイズタグ。もう伝わった。他の神への伝言を頼む」

「はい。助けていただきありがとうございます」

「わかった。必ず伝える。……人間たちにもな」

「勝手にしろ」

 

 しかし、馬鹿ミットか。

 成程。アレも悪魔なのか。

 

「ああもう! 後手後手のクセに、悉く邪魔してきて……嫌い! ママ大嫌い!」

「これが反抗期なら可愛かったのだがな。クリファで、娘を殺していて、しかも分身と来た。──魔色錬成、鍔爪」

「あ、ちょっと容赦とか」

「設けただろう、対話をする時間は」

 

 切り裂く。

 植物のように簡単に裂かれるトゥナハーデン。当然だ、本体じゃない……というか、蔦で構成された分身に過ぎないから。

 そして私も。

 

散人演舞(グレゴム)。……ふむ、素材をNull Essenceにしてみたが、中々保つじゃないか。良い魔法をありがとう、馬鹿ミット」

 

 消え去る。

 消費魔力量も少ないし、よく効率化された魔法だことで。

 

 しかし、意識の分割、ね。

 ……あまり褒められた行為ではないので、やっぱり減点。マイナス80点。

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