Wizardry 薄汚い欲望に囚われし者たちの迷宮   作:無職のプーさん

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1 大きなイチモツをください

 

 

 ディメント王国の首都、アイトックス。

 

都を囲うように高く連なる外壁と尖塔の隙間から覗く空が、目も奪われるような鮮やかな夕暮れに染まる。

 

通りは家路に着く労働者たちで溢れ、暖かな光が洩れる民家の窓から子どもたちの笑い声が響く頃。

冒険者ギルド公認の酒場は、鎧やローブを纏った荒々しい男たちで賑わっていた。

 

店主の趣味で東洋大陸風の趣があるこの店は、腕に自信のある戦士や魔法使いたちの集う場所となっている。

彼らはここで仲間を見つけ、ともに酒を飲んで英気を養い、難攻不落のダンジョン(地下迷宮)に挑む。

世界は広いが、この流れだけは古今東西、どこも同じだろう。

 

 

 

 その酒場のカウンター席に、二人の冒険者が座っていた。一人は茶色いボサボサ髪のポークル族の少年。

もう一人は銀色の長髪を靡かせた、美しいエルフの青年だ。

 

「女性の裸体は至高の芸術だ」

 

エルフの青年、ガンズは呟くように言った。店の品揃えの中ではそこそこの上物をグラスに注ぎ、静かに喉を潤す。

 

隣に座るポークル族の少年、ボリスはじろりと彼を見た。「……急にどうした?」

 

「女性の裸体は至高の芸術だ」

 

「二回言わなくていい。聞こえたから」

 

「ある種のスライムは女性に組み付き、その衣服のみを溶かすという」

 

ガンズは懐から怪しげな小瓶を取り出し、カウンターの上に置いた。粘性の強い液体が、中で淡い水色の光を発している。

 

「これが、そのスライムの体液?」

 

「ああ」

 

「うさんくせーな。どこで手に入れた?」

 

「アイアンハンドの店だ」

 

「あの腹黒い爺さんか? たぶん騙されてるぞ、お前」

 

ボリスの言葉に、ガンズは眉一つ動かさなかった。空になったジョッキを静かに置くと、目線で机の下を見るように促す。

 

「……?」

 

わけも分からず、とりあえずカウンターの下に頭を突っ込むボリス。

そこで目にしたのは、ガンズの艶めかしい生足だった。

 

「!」

 

さすがにエルフというべきか、美しく透き通った脚にはすね毛一本生えていない。

目線を上げると、黒いビキニパンツがもっこりしていた。

 

ボリスは椅子に座り直すと、胸くそ悪そうな表情で訊ねる。「自分に試したのか?」

 

「ああ。ズボンが溶けてなくなった。跡形もなくな」

 

「後先考えて行動しろよな。おかしなもん見せやがって……」

 

「次は女性で試したい」

 

しばらく間を置いてから、ボリスは口を開いた。「やめといた方がいいと思う」

 

「何をだ」

 

「だから……それを女にぶっかけて、裸にしようってんだろ? やめとけって」

 

「何故だ? 溶けるのは服だけだ。外傷はない。実証済みだ」

 

「いや、ケガしなけりゃいいってもんじゃねーだろ!」

 

「何が問題なんだ?」

 

「逆に何が問題じゃねーんだよ!?」

 

声を荒げるボリスだったが、ガンズはこれを無視した。

おもむろに小瓶を手に取ると、コルクの栓を外す。

 

「ちょうど人が多い。ここで試すことにする」

 

「……は? ちょっと待てバカ。やめろ!」

 

「至高の芸術への探求は、人類の義務だ」

 

「よせって!」

 

ボリスは止めようとしたが、すでに遅かった。

 

「MA-QUREA-LTO(気化し拡散せよ)」

 

ガンズが呪文を呟くと、小瓶のなかの液体が沸騰する。内部の圧力で小瓶が弾けるように割れ、酒場全体に水色に光る不気味な霧が漂い始めた。

 

「思いつきで効果範囲を広げたが……さて、どうなるか」

 

言うが早いか、近くで料理を運んでいた酒場の店主の服が溶けた。だらしないビールっ腹と、乳首の周りの汚らしい剛毛が露わになる。

それを指さして爆笑していた冒険者たちのローブや革の鎧も、瞬く間に溶けてなくなった。

不気味な霧にいち早く気づく者も中にはいたが、全裸の洗礼から逃れることは叶わない。

 

「うおっ!?」

 

「なっ?!」

 

あちこちで悲鳴が上がり、そして、恐怖は伝播する。数分と経たずに、酒場は混乱の渦に呑まれた。

 

立派なイチモツを空いた皿で隠す者。イチモツがぶらぶらするのも構わず、一心不乱に出口を目指す者。仲間のイチモツの大きさにショックを受ける者。仲間のイチモツの短小さを嘲笑う者。仲間のイチモツを見てウホッと興奮する者。イチモツ。イチモツ。イチモツ。見渡す限りのイチモツである。

 

それらの光景を一瞥したあと、ガンズはその端正な顔を曇らせた。

「なんだこれは……たまげたなあ」

 

「お前のせいだろうがっ!!」

 

カウンターの下に身を隠し、霧の影響から逃れていたボリスが怒鳴る。「元に戻せよ! 」

 

「いや、そんな都合の良い魔法は知らない。しかし……」

 

「しかし、何だよ!」

 

「……女が一人もいなかった」

 

「知らねーし!」

 

「こんなイチモツばかりの場所に用はない」

 

ガンズは椅子から立ち上がると、出口に殺到する冒険者たちの流れに身を任せ、酒場を後にする。

ほどなくして、店の中央にある朱塗りの柱が、ミシミシと音を立てて傾いた。

 

 

 

 

 数時間後、別の酒場で何事も無かったかのように飲み直す二人の姿があった。

 

「もうこれっきりにしろよ。次やったらギルドにチクるからな」

 

ボリスの言葉に、ガンズは重々しく頷く。

「分かった。次こそ期待に応えよう」

 

「何も分かってねーよ!」

 

「いや、実際分かったこともある。このスライムの粘液は、鉄には効果が薄い」

 

ガンズは小瓶を手の中でコロコロと転がした。

ビキニパンツ一丁の変態のような(事実変態には違いない)格好であったが、彼の左手の肘まで覆う黒いガントレット(手甲)だけは無傷で残っている。

「少々腐食させた程度では全裸にはできん。フルプレートの鎧などにはほとんど効果がないだろうな」

 

「……何でそんなに全裸にしたいんだよ」

 

「言わなかったか? 至高の芸術のためだ」

 

思慮深げな面持ちで宣うガンズを横目に、ボリスは溜息を吐いた。

「芸術とかより、もっと目先の問題があるだろ」

 

「目先の問題? 『マナロスト』か?」

 

「そういうのはお偉いさんか英雄みたいな連中に任せとけよ。金だよ金。もう宿賃がねーの」

 

「確かに。私も残り少ないな」

 

「そろそろ潜るぞ。お前も一緒に来い」

 

「ふむ、いいだろう」

 

ガンズは頷き、荷物をまとめ始める。ボリスはきょとんとした顔で彼を見つめた。

「……え、今から行くのか?」

 

「無論だ。問題を解決するなら早い方がいい」

 

黒いシャツとズボン、そして灰色のローブを素早く身に纏うガンズ。そのいやに清々しい表情に、ボリスは一抹の不安を覚える。

しかし何か問い詰めるようなことはせず、黙って彼の後を追った。

 

 

 

 

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