Wizardry 薄汚い欲望に囚われし者たちの迷宮   作:無職のプーさん

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久しぶりに原作をプレイしたら、アイアンハンドの喋り方が若干違うような気がしたので訂正しました。
ちょっと凝ったオリジナル小説書くのもダルいけど、二次創作も原作に忠実であろうとするとそれはそれでダルいですね。




10 単純な差し引き

 

 あくる日、ギルドの酒場のカウンター席にボリスとガンズは並んで座っていた。しかし二人の間に流れる空気には、いつもと違って妙な緊張がある。

 

「アレはお前の仕業だろう」

 

ガンズがぼそりと呟くと、ボリスは胡乱そうな横目を彼に向けた。「何の話だよ」

 

「とぼけるな。昨日のアレだ。いやアレだけじゃなく、あのアレもお前がやったんだな?」

 

「ボケが始まってんのか? アレとかあのアレとか言われて分かるわけないだろ」

 

「お前の技量なら十分可能だ。アレは不規則な軌道を描く。死角から私たちをアレしてアレした。そうだな?」

 

「何言ってんだかわかんねーな」

 

ボリスは済ました顔で席から立ち上がる。少し間を空けたあと、ガンズは思い出したように言った。「あの騎士と衛兵どもを呼んだのもお前だな?」

 

「何言ってんだかわかんねーって言ったはずだぜ」

 

ボリスは鼻を鳴らし、彼に背を向けたまま言う。「エルノは学校の試験が近いらしいから、しばらくここには来れないってさ。ルシュタもなんか忙しくなるって」

 

「そうか」

 

ガンズは応えつつも、眉をひそめ、さらに思い出したように付け加える。「……まさかアレもお前の仕業なのか?」

 

「だからわかんねーって言ってんだろ! 仮に分かったとしても、教えてやる義理はねえ!」

 

ボリスは声を荒げ、腹立たしげな足取りで酒場を去っていく。「しばらくお前とつるむのはナシだ! せいぜい反省してろ!」

 

「……そうか」

 

その後ろ姿が見えなくなるまで、ガンズは無言で彼を見送っていた。

 

 

 

 

 日用品や薬品の補充のため、ガンズは街の中央付近にある雑貨店に立ち寄っていた。

この店の主人はすらりと背の高いエルフの老人で、トレードマークである鋼の義手からアイアンハンドという渾名で親しまれている。親しまれているといっても商売が繁盛しているわけではなく、店にはいつも閑古鳥が鳴いていた。

暗い店内には所狭しと奇妙な武具や呪物が並び、天井からは獣人モンスターの剥製が吊り下がっている。

 

「今日はボリスは一緒じゃないのか?」

 

高い鼻に片眼鏡が似合う老人、アイアンハンドが訊ねると、ガンズはどこか不機嫌そうに目を細める。「別行動だ。それがどうした?」

 

「いいや、どうもせんよ」

 

アイアンハンドは肩をすくめてから続ける。「ただ、珍しいじゃないか。お前さんたちはいつも気持ち悪いくらい一緒にいるだろうに」

 

「そうだったか」

 

「そうさ。まさかとは思うが、喧嘩でもしたのか?」

 

「……」

 

無言で俯くガンズを見て、アイアンハンドは思わず噴き出してしまう。「フハハ! 分かりやすいなお主は。どうせまた何かくだらんことで怒らせたのだろう」

 

「……むう」

 

「ハッハッハ、図星か。まったくお前さんの(へき)にも困ったものだ」

 

「あんたに言われたくはないな」

 

顔を上げたガンズの鋭い視線を、老人は余裕の笑みで受け止める。

この老人、紳士のような外見に反して死霊術などの禁忌を探求する危険人物である。

 

「私のは単なる趣味だ。数ある生き甲斐のうちの一つだよ。長命なエルフが心を病まずに生を全うするには、何よりそれが大切なんだ」

 

「そんなことは知っている」

 

ガンズは呟くように返した。「……だが、私の探求は人々に理解されない。数少ない友人を失ってしまえば、私は孤独になる。そうなっては、いくら生き甲斐があっても無意味ではないか?」 

 

「ふむ、まあそれは優先順位の問題だな」

 

「簡単に言ってくれる」

 

「簡単なことだよ。難しい差し引きなど何もない。少なくとも私にとってはな」

 

「……」

 

ガンズは黙って老獪なエルフを見つめていたが、やがて彼の鋼の義手に視線を移す。「そいつの具合はどうだ、アイアンハンド」

 

「悪くないぞ。ここ数百年の間で一番調子が良い。さすがに本職の奴は腕が違うな」

 

義手の手首や指先を、まるで生身のように滑らかに動かしてみせるアイアンハンド。「こいつの礼を是非したい。何か欲しいものはないか?」

 

「報酬はすでに受け取ったはずだが」

 

「あの妙ちくりんなスライムの体液か? フン、あんなもの二束三文もせん」

 

「必要ない。せいぜい借りを作ったと思っておけ」

 

「ううむ、そうか。まあいいだろう」

 

アイアンハンドは居心地が悪そうに頷くと、不意に顔をしかめた。「そういえば……忘れておった。お前さん、あの話は訊いたか?」

 

「どの話だ?」

 

「『ポークルの宝石』を集めて回っている連中の話だ」

 

ガンズは表情こそ変えなかったが、ピクリと肩を揺らした。「……初耳だな」

 

「ギルドの職員から聞いとらんかったか」

 

「連中のことは避けるようにしている」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「犠牲者は出ているのか?」

 

ガンズの問いに、アイアンハンドは苦虫を噛みつぶしたような顔をする。「何人かな。何を隠そう、最初に奴らの悪行に気づいたのは私だよ」

 

「そうなのか」

 

「うむ。連中、こっちが好事家であることを嗅ぎつけたようでな。高値で買い取らないかと持ちかけてきたんだよ」

 

「買い取ったのか?」

 

「そんなわけないだろう。私も知り合いに何人かポークルがいる。気味が悪くて受け取れるか」

 

ガンズは彼の言葉を途中から聞いていなかった。灰色の目を鋭く細め、窓の外を見つめる。「嫌な予感がする」

 

「ボリスのことか? ううむ、確かにあいつはさほど強くないが、そこらの力だけのチンピラに遅れを取るほど間抜けでもないぞ。よほどのことが無い限りは……」

 

アイアンハンドがそこまで言ったときだった。店の扉が勢い良く開き、息を切らした修道女が駆け込んでくる。「ガンズ様ですね? すぐに寺院にいらしてください!」

 

「……悪い予感が当たったか」

 

老人の声を無視し、ガンズは修道女の背中を追いかけ、雑貨店を飛び出した。

 

 

 

 

 寺院に駆けつけたガンズが見たのは、寝台の上に横たわるボリスの姿だった。ステンドグラスから差し込む光が、その身体に色鮮やかな影を落としている。

ガンズは彼の近くまで走り寄ると、静かに声をかけた。「ボリス」

 

彼の言葉に、ボリスは応じない。ただ静かに目を閉じたまま、呼吸すら感じられなかった。

ガンズは彼の首筋に触れ、脈を確かめる。呼吸も脈もないことが分かると、傍に控える修道女たちの方に振り返った。「死んでいるのか」

 

「何とも言えません」

 

そう答えたのはこの寺院の司祭、シスター・サマンサである。彼女は寝台まで近づくとボリスの頭に触れ、その前髪を掻き分けた。

顕わになった額には宝石がなく、痣に似た窪みだけがある。「ポークルの宝石を奪われたようなのです」

 

「見れば分かる」

 

ガンズは短く返すと、ボリスの眠っているような穏やかな顔を見下ろした。顔にこそ出さないが、友人の死に様を見て何も感じない自分に内心戸惑っていた。

 

「呼吸も脈もないなら、死んでいるのだろう? 何故蘇生の儀式をしない?」

 

「成功の確率が低いのです」

 

「死体の損傷はほとんどないのにか?」

 

ガンズが訊ねると、サマンサは彼の目を真っ直ぐ見つめ返して言った。「ポークル族の額にある宝石は、極めて重要な器官です。魂は脳に、心は心臓にあるというのが我々の見解ですが、ポークル族の魂は宝石に宿ります」

 

「魂を奪われたままでは、蘇生をしても意味がないというわけか」

 

「その通りです」

 

頷いた後、ややあって彼女は付け加える。「もっと言えば……この状態は死ではなく、厳密には仮死状態に近いのです。宝石を奪われただけで、肉体的にはまだ生きていますから」

 

「生きているのか」

 

「ええ、先ほど呼吸も脈もないと仰いましたが、実はまだ微かにあります。もっとも、それもいつまで保つかは分かりませんが」

 

「……」

 

ガンズはボリスに視線を戻し、そのあどけない寝顔に触れた。彼の冷たい灰色の瞳に、優しい光が灯る。「……確かに、あの老人の言う通りだな。難しい差し引きなど、何もない」

 

彼はそれだけ呟くと、ボリスの身体から離れた。寺院の中を見渡し、ディアの姿を認めると歩み寄る。

彼女は顔を上げるが、その青い瞳はいつものように輝いてはいなかった。顔色も悪く、唇は乾いてひび割れている。ボリスよりもよほど死人の顔に近い。

 

「お前は無事だったか、ディア」

 

「……」

 

「何があった?」

 

ガンズの問いに、ディアはひどく顔を歪める。目に輝きが戻るが、それは溢れる涙で濡れたからだった。泣き腫らしたのであろう目元に、再び大粒の涙が伝う。

「ご、ごめ……ごめんなさいっ。私のせいで、ぼ、ボリスくんが……!!」

 

「ディア、聞け」

 

彼は屈んでディアに目線を合わせ、その小さな肩に手を置いた。「冒険者の末路というのは、結局のところ皆こうだ。名誉も何もない野垂れ死に。誰もがそれを覚悟して臨んでいる」

 

「ぼ、ボリスくんは、私を庇ったんです! 私が捕まらなければ、彼は無事でいられた!」

 

彼女の言葉に、ガンズは口元に微笑を浮かべる。「それなら、少なくとも名誉はあるな。仲間を庇って死ぬというのは、冒険者にとって最高の死に方だ。アイツらしいとも言える」

 

「ぼ、ボリスくんは、まだ……」

 

「そうだ。まだ死んではいない」

 

ガンズは頷くと、ディアに顔を近づけた。「私がアイツを取り戻す。奴らと出くわした場所を教えてほしい」

 

彼の冷たくも熱のこもった瞳に真っ直ぐ見つめられ、ディアは思わず赤面する。少ししてから落ち着くと、呟くように言った。「……街の外れにある、初級者向けの小さなダンジョンです」

 

「私たちが初めて出会ったあそこだな。上層か?」

 

「はい」

 

「よし、よく教えてくれたな。後は任せろ」

 

立ち上がり、踵を返すガンズに向かって、ディアは大きな声を出す。

「あ、あの! 実は貴方が来る前に、酒場の店主さんがここに来てたんです! 起きたことを伝えたら、腕の立つ冒険者たちを集めてきてくれるって言ってました!」

 

「それは心強いな」

 

ガンズは頷きつつも、足を止めはしなかった。

「だが、悠長に待っていては敵を取り逃がす。私が先に行き、連中を引き留めておこう」

 

「……っ」

 

ディアは口をパクパクと動かすが、それ以上言葉は出てこない。彼女が何か言うのを待たず、ガンズは寺院の重厚な扉を両手で開け放ち、外に出ていった。

 

 

 

 

 雲一つ無い青空の強い日差しが、暗所から抜けたばかりのガンズの目を眩ませた。彼は目を細めることすらせず、早足に通りを横切ろうとする。

しかし寺院の壁に寄りかかる背の高い人影に気づき、ぴたりと足を止めた。「……ついてきていたのか」

 

「うむ。ヒマだったものでな」

 

アイアンハンドは煙管を吹かしながら、ゆっくりと壁から背中を離す。「悪いが話は聞かせてもらった。ここは一つ、老人の手でも借りてみる気はないか? どうせ他に頼れる奴なんておらんだろう。お前さんは友達が少ないからな」

 

「危険だぞ」

 

「分かっておるよ。もし死にかけたら、見捨ててくれて構わん」

 

「……」

 

ガンズは溜息を吐くと、物好きな老人に向き直る。「それなら、難しい差し引きは何もないな」

 

「フフン、そうとも。お主はボリスの宝石を取り戻すことだけに集中すれば良い」

 

「急ぐぞ」

 

ガンズはそれだけ言うと、再び早足に進み始めた。

後に続く者のことなど考えない足取りであったが、アイアンハンドはしっかりついてくるばかりか、老人とは思えぬ壮健さで彼の隣に並ぶ。「ところで、どうにも気になるんだが」

 

「何だ」

 

「お前がボリスと最後に別れたのは明朝だったな?」

 

「そうだ」

 

「つまり、その後すぐアイツが修道女の娘とダンジョンに行ったとして、敵の襲撃を受けたのは朝。そして今は昼前だ」

 

「……何が言いたい?」

 

煩わしげに目元を歪めるガンズに、アイアンハンドは少しの躊躇いもなく、はっきりと言った。「お前たちのパーティに裏切り者がいる」

 

「……」

 

「そうでなければ説明がつかん。ダンジョンに潜ってすぐ、たまたま街を騒がせている悪党どもに出くわす? まあ不測の事態も冒険の醍醐味ではあるが、ボリスも馬鹿じゃない。店でも言ったが、間抜けな連中にあっさり出し抜かれるとは思えん。足手まといを連れていたとしてもな」

 

「待ち伏せされていたと?」

 

「いや、それだけではない。……分かっておるはずだ」

 

「……」

 

彼の厳しい言葉にガンズは押し黙り、ただ先を急いだ。

 

 

 

 

 




いよいよネタとかストックが尽きてしまったので、ここからは不定期更新となります。申し訳ありません。
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