Wizardry 薄汚い欲望に囚われし者たちの迷宮 作:無職のプーさん
ダンジョンは、冒険者たちの聖地である。
彼らは己の持ちうる全てを懸けてそこへと挑み、その
見返りに得るのは巨万の富か、貴族も羨むような栄誉か。あるいは小さな自己満足か。
ダンジョンは世界中に存在し、そして今なお新たに発見されていた。
ここ王都アイトックスでも、片手では数えられぬくらいのダンジョンが口を開け、愚か者たちが飛び込んでくるのを待っている。
待ち受けるのは野蛮な獣人、戦士崩れの野盗、人を害する異形、そして歴史からも忘れ去られた、悠久を生きる『古き者ども』。
時代に疎まれ、拒絶された者たちはダンジョンへと逃げ延び、永遠にそこの住人となる。ゆえにダンジョンは世界の歪みそのものであり、世を乱す『悪』の母胎であった。
今までも、そしてこれからも、その在り方が変わることはないだろう。世界の在り方が変わらぬ限り。
「はあ、はあ、はあ……!」
ゆらめく小さな蝋燭が並ぶダンジョンの回廊を、一人の少女が駆けていた。
宝石のような青い瞳を恐怖に見開き、息は荒く、額にはいやな汗が滲む。着ているローブは傷だらけで、綺麗に切り揃えられた白髪も泥や煤でくすんでいた。
彼女の後を追うのは、コボルドと呼ばれる獣人たちである。捩れた尻尾に縮れた耳。暗く濁った黄色い瞳。
彼らの言語で何事かを叫びながら牙を剥き出し、獰猛に少女を追い立てていた。
「あっ……!」
少女の足が止まる。いつの間にか彼女は、三方を壁に囲まれた行き止まりに入ってしまっていた。もはや引き返すことしかできないが、来た道はコボルドたちによって塞がれている。
白髪の少女は血の気の失せた顔で獣人たちを見た。袋小路に追い込まれた。
追われていたのではない。初めから、ここに誘導されていたのだ。
「グルルル!」
「ひっ……!」
コボルドたちが呻ると、少女は思わず悲鳴を漏らし、尻餅をついてしまう。
彼らは小柄で、手にする武器も錆びたダガーや手斧など粗末なものだ。しかし粗末だからといって、人を殺せないわけではない。
獣人たちは柔らかく新鮮な肉を得るべく、じりじりと少女との距離を詰める。
「主よ、どうかお助けを……!」
分厚い聖書を胸に抱き、少女は創造主に命を乞う。
ほとんどの場合、神は肉体ではなく魂を救うことに執心なものだが、今回だけは彼女の肉体も救ってくれたようだ。
「DAL-TI(凍結せよ)」
紡がれた古代の言葉とともに、コボルドたちの背後から青い閃光が迸る。強力な冷気の塊であるそれは彼らの足下に着弾し、下半身の自由を奪った。
石の床に氷で縫い付けられ、悔しげに吠えるコボルドたち。その頭部が、続けて飛来したブーメランによって次々に切断された。
ゴロゴロと床に転がる獣人たちの首を見て、白髪の少女は震え上がる。しかし自分が助かったことを悟ると、ふうっと息を吐き出した。
「あ、ありがとう……ございました」
暗がりの向こうから現れた銀の髪のエルフに、少女は頭を下げる。
すらりと背が高く、顔も申し分なく美形なその男は、彼女をじっと見つめたあと表情を変えずに言った。「礼は必要ない。すでに報酬はもらった」
「え……報酬?」
少女は首を傾げる。しかし自身の周囲を取り巻く奇妙な水色の霧に気づいたとき、その言葉の意味を知った。
「ひゃ……ひゃあああああ?!!」
丸出しとなった自身の乳房を見下ろし、悲鳴を上げる少女。下着の圧から解放された爆乳が、彼女の動きに合わせてぷるんと揺れた。
ガンズは少女をもう一度一瞥し、彼女が大事に抱えている聖書に気づくと、軽やかな動作で十字を切る。
「この出会いを創造主に感謝しよう。見事なおっぱいだ」
「ふええええぇぇ……」
気の抜けた声を上げながら、少女は壁に背中を預けてずるずると床にへたれ込む。
神も仏もない。創造主の慈悲など初めからなかった。
ブーメランを回収していたため遅れて現れたボリスは彼女の様子に気づくと、ガンズの脛に全力で蹴りを入れる。「やりやがったな! このバカ!」
「私は期待に応える男だ」
「うるせえバーカ!」
ボリスは器用に視線を逸らしながら彼女に近づき、肩に彼の上着をかけてやった。
「悪い。おいらのツレが酷いことを」
「いえ、どうせ私は……おっぱいだけの女です」
ちょっと何を言ってるのか分からない返しにボリスは応えず、ガンズに顔を向けて怒鳴る。
「おい、お前のローブもよこせ! 」
「ああ、お前の上着ごときでは隠しきれない、巨乳を超える大巨乳だ」
「うるせえっつってんだよこのバカ!」
「私、もう……お嫁に行けません」
消え入りそうな声で呟く少女に、ボリスは首を傾げて言った。「あんた、プリーストだろ」
「はい……」
「プリーストって嫁に行っていいんだっけ?」
ボリスの質問に、間を空けて少女が答える。
「教派によります。ウチは厳しいとこなのでダメです」
「じゃあどっちにしろ行けねえじゃん」
「ふえええぇ……! イヤですぅ! お嫁に行きたいんです……!」
「あー、分かった分かった。転職すれば行けるよ。シーフとかおすすめだぜ。誰でもなれるし」
少女は涙を拭うと、少しだけ笑顔を見せた。
「私、ビショップになりたいんです。子どもの頃からの夢で……」
「ビショップって、つまり司祭だろ。嫁に行けるんだっけ?」
「行けません」
「ダメじゃん」
「ふええええぇぇ……!」
東の空に広がる朝焼けが、首都の中央に聳える王城を黄金色に染めた。
商人たちは眠い目をこすりながら、市場に卸す雑貨を荷車から降ろしたり、果物や野菜の鮮度を確かめている。
二人の若き冒険者と彼らが助けた(?)少女は、ギルド公認の酒場で早めの朝食をとっていた。
「まったく無茶するよ。一人でダンジョンに潜るなんてさ」
ボリスの言葉に、プリーストの少女は申し訳なさそうに肩をすぼめる。
「反省してます。お二人に助けられていなかったら、私、どうなっていたか」
「……」
ボリスは無言で少女を見つめた。横目でガンズを睨んでから、視線を戻す。「助けたとは言わねーと思うぞ」
「いいえ。モンスターに食べられるより、おっぱい丸出しの方がマシですから」
少女は何でも無いことのように苦笑する。
ボリスは口を開きかけたが言葉は出ず、代わりに変態エルフをもう一度睨みつけた。
「さっきも言ったけど、次この子に乱暴したら絶交だかんな」
「むう」
ガンズは難しい顔をして腕を組む。悩ましげに天井を見上げ、そのまま押し黙ってしまった。
「ディアちゃん、パーティを組んでくれる冒険者が見つかったのかい?」
そう声をかけてやってきたのは、バンダナを頭に巻いた中年の男だ。
腹こそだらしなく出ているが、筋骨隆々で肩幅もがっしりと広い。昔は少々やんちゃをしていたらしく、肩には龍を模したタトゥーが彫られている。
彼は酒場の店主兼、冒険者ギルドの斡旋業務をこなす職員だ。先日の夜、ガンズの奇行の被害を真っ先に被ったのは記憶に新しい。汚らしい乳首であった。
「はい! とっても強い方たちで、心強いです!」
プリーストの少女ディアは、可愛らしい笑顔でそう返す。店主はほっと息を吐き、満面の笑みを浮かべた。
「良かったねえ! そいつらの腕なら俺も保証するよ」
「……え、おいらたちとパーティ組むの?」
小さな声で訊ねるボリスに、ディアはわざとらしく頬を膨らませる。「組んでくれないんですか?」
「いや、正気か? やめとけよ。絶対後悔するぞ」
「私のおっぱいは安くないんですよ?」
「いや、おいらは見てないんだけど……」
ボリスの言葉にディアは眉をひそめ、彼の顔をじっと覗き込んだ。「創造主に誓って言えますか?」
宝石のように綺麗な青い瞳に見つめられ、そして何より、その得も言われぬ圧に押され、ボリスはしどろもどろになる。
「その、ちらっと視界には入ったけど、じっくりは見てないっていうか……」
彼は椅子を引いてディアから距離を取りつつ、店主に顔を寄せて耳打ちする。
「何でけしかけてんだ。止めてやれよ。冒険者のパーティなんて他にいくらでもあるって」
「いいや、そうでもない」
「あ?」
「知らないなら教えてやるが、近ごろ冒険者の数は減る一方なんだ。それに、決まったやつとしか組まない連中がほとんどだしな」
「いや、けど、女の子だぜ。無条件で連れて行きたがるやつらはいるだろ」
「……そういう連中には任せたくないんだよ。いいじゃねえか。どうせお前らケチな宿賃稼ぎに浅い階層をうろちょろしてるだけなんだろ? 面倒見てやってくれよ」
「けど、ガンズのやつが……」
「ああ、それは任せとけ」
店主はボリスの元から離れ、ガンズの後ろに立つ。そして彼の耳元でいくつか言葉を囁いた。
ガンズは表情こそ変えなかったが、肩がわずかにピクリと動く。
店主はボリスとディアにウインクすると、そのままカウンターの奥に引っ込んでしまった。
二人は顔を見合わせ、首を傾げる。
そのとき俯いたままであったガンズが、不意に言葉を発した。
「……どうやら引き受けるしかなさそうだ。彼女の
「やった!」
ディアがぴょこんと跳ねて喜ぶ一方、ボリスは怪訝そうな顔をする。「一体何を言われたんだ?」
「『昨日の一件、お前の仕業ということは知っている。衛兵の厄介になりたくなければ、その子を全力で守れ。ただし手を出したら殺す』」
「……自業自得だな」
いっぱいのおっぱいというサブタイトルの件ですが、おっぱいがいっぱいという割に出てくるおっぱいは一人分だけなんですよね。タイトル詐欺じゃねえか悪質だろと自分でも思うんですが、美少女のおっぱいというのは当社比で成人女性五人分のおっぱいの価値がありまして、五人分のおっぱいということは即ちおっぱいがいっぱいであるということで、いっぱいのおっぱいという表現と矛盾しないのでいっぱいのおっぱいというタイトルのまま行くことにしました。おっぱい。