うむ旨い。
喫茶翠屋、相変わらずここのシュークリームは絶品と言える。
神への供物として定期的に祭壇に捧げてしまうほどだ。
いつの間にか供物は消えるのだが、頂かれているのかな?
教会に出入りするのはお爺さんお婆さんと子供たちくらいだから、子供たちが食べたという可能性があるが、まずないだろう。
そんなことするような子供たちではない。
ならばセーラかというと、それもないだろう。
俺がいつもお土産で買ってきているのだから、そんなことする必要はない。
変に考えるよりも神が頂いたと思えばいい。
神も食べるほどのシュークリーム、そう考えるとさらに旨く感じる。
「紅茶のお代わりはいるかな?」
「いただこう」
うむ、美味い。
紅茶の良し悪しなどまるで分からないが、美味いのならなんだっていい。
シュークリームを食べ、紅茶を飲む。
この優雅な時間、実に素晴らしい。
「そろそろあの子たちが来る頃かな」
「……」
空になった皿を片付けながらそんなことを言い、然り気無くこちらの反応を窺う目の前の男は、この翠屋の店長兼マスターの高町士郎。
何年か前に燻っていた高町なのはを焚き付け、家族仲を修正させるついでに重態であるという父親を見つけ出して治療した。
その時治療したのが高町士郎である。
その際、セーラの治療がかつて神により体が治された時の光景を彷彿とさせ身を震わせたのはいい思い出だよ。
だってさ、包帯で覆いきれてない傷口が蠢いて小さくなってくんだよ?
ベッドに付着した血なんか、浮き出てきたと思ったら皮膚に張り付いて浸透していくんだよ?
だからもっとファンタジーにやってくれって!
何でこうも異様を言葉で表す治りザマなんですかねえ!?
思わず体を擦ってしまうのも無理ないと思うんだよね。
「何か作ってこよう」
「軽食で頼みたい」
「軽食か、分かった」
ここ数年で、厨房へと向かっていくあの高町士郎という男は普通の人間じゃないということは理解した。
いや、出会いから既に普通じゃないと悟ったけどね。
普通に暮らしていてこの傷はおかしい、と見て分かるくらいだ。
治療したとはいえ、すぐに目を覚ます精神力にも驚いた。
二三言交わしたあとすぐに眠ったが、そもそも会話をすることが出来たのに驚きだよ。
もしかしたらセーラの治療には見た目以外に失った体力を回復させるとかいう嬉しい効果がついているかも知れないけどね。
さておき、特に関わろうとは思わなかったが、噂に聞くお店を訪れ高町士郎と再開した時は世間の狭さを痛感した。
そこからだ。
何を感じ取ったのか不明だが、俺を道場なんかに誘い、手合わせを申し出てきた。
自分の力を確認するいい機会だと思い了承したが、それが間違いだった。
軽く打ち合っていたと思ったら、熱が入ったのか、高町士郎は徐々にギアを上げていき、文字通り目にも止まらぬ速度で動きだして襲いかかってきたのだ。
もはや人間じゃないよね。
超人だよ、超人高町士郎だよ。
後から聞いた話だけど、神速とかいう必殺技的なやつなんだってね。
え、なに、俺を殺しに来てたの? とかは空気を読んで聞いていない。
体が勝手に動いたから防げたけど、常人なら死んでたよ。
俺は当たったところで傷一つ負わないんだけどさ。
ともあれ、なんちゃら流を継承する高町士郎はこの街にきてから初めての人外だ。
神から聞いた話によるとこの世界は魔法が存在しているはずなんだが、未だ非日常の片鱗すら見せていない。
どういうことだろうか。
確か魔導師だっけ?
かれこれ数年この地に滞在しているが、見かけるどころか話題すら上がってこない。
一体何処にいるんだか。
「ただいまー!」
帰ってきたか。
長居しすぎたな。
そういえば、喫茶点にただいまって言って入ってくるのはどうなんだろう。
周りの客はお帰りといって迎えているから、そういうものなんだろうか?
「おかえりなのは。準備はしてあるから手を洗っておいで」
「分かったの」
「アリサちゃんにすずかちゃんは先に座っているといい。すぐに持ってくるから」
「ありがとうございます」
いつも思うんだが、何故こっちを向いて会話をするんだ。
超人とは思考回路すら人を超越しているのか?
意図が読めないぞ。
ほら、アリサ・バニングスと月村すずかがこっち来るじゃないか。
「今日もいるのね、不良神父」
「こんにちは。志登さん」
別に相席が嫌なわけじゃないけどさ、空いている席は他にもあるじゃん?
思っても言わないけどさ!
「御機嫌よう。私ほど敬虔な信徒はいないというのに、相も変わらず不名誉な呼び名だ」
「あんた、いつも教会にいないじゃない」
「セーラがいるからな。私が表に出る必要はないのだよ」
「それはどうなんでしょう……」
それに教会にいないわけではなく、後ろに引っ込んでいるだけだ。
俺のようなやつが表で神を謳うより、セーラが歌った方が見栄えが良く心地も良い。
セーラの歌は、聴いていると心が浄化されていくようだと大層人気である。
正しく聖歌。
うん、俺必要ない。
「アリサ・バニングス、それは私のスフレだ」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「ほう、私には減っているように見えるんだが?」
「眼科をオススメするわ」
なんだとこの野郎。
あれ野郎じゃなくてアマか?
野郎の反対がなんだか分からん。
「分からないの? 財布の中身は減ってないわ」
ああ、なるほど。
ってこのアマァ!
確かに今は減ってない。
今は! な!
ま、まあいい……。
「確かに減ってはいないな。今は、と但し書きが付くが」
それよりも、だ。
「ところであの青髪の少女と赤髪の少年は何をしているんだ?」
「呉葉と栄治のことね。いいのよ」
「連れではないのか?」
「あの二人はあんな風になると中々帰ってこないんです」
「そうか」
店先でぶつぶつと何かを言う青髪の少女は通報ものなんだけど、あれが普通なのか。
というかどっかで見たことある気がする。
思いだせん。
赤髪の少年の方は口にこそだしていないものの、顎に手を添えて考え事をしているように見える。
目線は俺に向いているが、知り合いか?
俺は知らんぞ。
とりあえずさ、店先でやってないで奥まできなさいと言いたい。
「志登さんこんにちはなの!」
「こんにちは、なのは」
「お待たせ。これと、子供たち用に色々持ってくるから空いたものは下げさせてもらうよ」
なのはを見て思い出した。
そうだ、昔公園で見たな。
銀髪の印象が大きすぎてすっかり忘れてた。
というよりも、青髪少女は影が薄すぎただけかも知れない。
「志登さん! 今日学校ですごいことがあったの!」
「それは気になるな」
「な、なのは! それは言わない約束でしょ!?」
「あ、そうだったの!」
「あはは。なのはちゃん少し落ち着こう? 志登さんだって逃げないよ」
「にゃはは……。で、でも凄かったの。人が五回転」
「なのは!」
「あぅ」
人が五回転……?
車にでも撥ねられたのか?
ないか、学校っていったしな。
気になるけど、言わない約束をしているらしいから無理に聞くことも無いか。
お、店先不審者組が復活したみたいだな。
そして当然のようにこっち来るのね。
いいけどさ。
食べたら帰るし、顔合わせをしたら少しだけ話をしてお土産を買って帰ろう。
『マスター』
(どうした黒金)
『あの二人、魔導師です』
(何?)
え、あの少年少女が?
会わない会わないと思ってたらいきなり二人も見つかったよ。
これは芋づる式に魔導師が見つかるフラグが立ったな!
セーラに連絡をつけなくてはいけないな。
ふふふ、楽しくなってきそうだ。