因みに僕の友人はコロナとインフルA、B型を全てコンプしてました。
夜の砂漠で、コートを着た一人の旅人と一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が、上を見上げていた。
「大きい」
「大きいねぇ」
月明かりで照らされたそれは、大きな城ほどある建造物だった。表面にはレンガのような模様が刻まれている、四角錐のそれは、砂の世界に静かに佇んでいた。
「どうする、キノ?今ばっちりライトで照らされてるけど」
「とりあえずじっとしておこう」
どこからか照射された光が、キノと呼ばれた旅人を照らす。キノは手で額を覆いながらモトラドの問いに答えた。やがて階段から、数人の男が出て来る。
「何者だ」
「ボクは旅人です。ネフティスの皆さんから紹介を受けてやって来ました」
「……何か武器は所持しているか?」
「所持しています」
「ならそれを全てこちらに渡して貰おう。君が信頼出来るならいずれ返却する」
逆光で顔は見えなかったが、全員が動物のような仮面を着けているのが分かった。やがてキノの側に来ると、その姿がはっきりと見える。
犬を模した金色の仮面に、同じく金色の装飾が施された鎧。以前、前の世界で訪れた国の王家を思い出すものだった。
「渡して貰おう」
「どうぞ」
キノはホルスターから『カノン』と『森の人』を、モトラドの荷台からケースに入ったライフル、『フルート』を手渡した。男は少々驚きながらも受け取ったパースエイダーを持って中に戻って行った。
「その二輪車にも武器を隠していないだろうな?」
「なんにもないよー」
「なっ!」
「喋るだと!?」
男達が持っている杖を構える。
「喋るだけです。武器とかは何も搭載されていません」
「喋るだけ、と言われてもな……うぅむ……とにかく、中に入る事を許可しよう」
「ありがとうございます」
キノは男達の後に続いて階段を登った。中に入り、石造りの狭い廊下をしばらく進むと、大きな扉が現れる。
男が先に中に入った。
「マスター、旅人を連れて来ました」
「うむ」
そう言ってこちらに振り向いた、マスターと呼ばれた男は、キノをじっと見つめた。司祭のようなローブの奥に光る目が、キノの視線と合う。そしてその表情は、やがて穏やかな物に変わった。
「ようこそ旅人さん。私はトラミッドの管理長をしている者だ。歓迎しよう。ところで名前を教えてくれるかな」
「ありがとうございます。ボクは、キノと言います」
「キノさんか」
「そうそう。この沢山食べる旅人がキノ」
「おやおや、そちらの乗り物さんも喋るのかね」
「エルメスだよー。質問だけど、壁に描かれてるのは?」
エルメスの質問に、マスターは壁を見て答えた。壁には黄金の獅子の体に翼を持つ動物が描かれている。
「あれは、我らの守護神『トラミッド・スフィンクス』様だ」
「スフィンクス……エルメス、聞いた事は?」
「さぁ。何かの神様じゃない?」
「我々の伝承では、このトラミッドをお創りになられた神の使いとされている。そしてこのトラミッドを護り、次世代へと繋げてゆくのが我々の使命なのだよ」
「なーるほど!」
その後、マスターはキノを個室へと案内した。個室にはシャワーが備え付けられており、周りよりも進んだ科学力を有している事が分かった。
「エルメスが喋るのを見て驚かなかったって事は、僕らと同じ位の科学力が大昔から存在したって事かな?」
「だろうね。巫女さんが言ってたけど、これも『大きな乗り物』らしいし」
「まぁ何でも良いけど。シャワーしてくるよ」
「うん」
キノはシャワーを浴び、久々にフカフカのベッドで眠りについた。
翌朝。キノはいつも起きる時間より少し早い時間に目を覚ました。部屋が揺れたように感じたのだ。
「……おはよう、エルメス。地震かな?」
「分からない。誰かに聞いてみれば?」
キノはエルメスを押して部屋を出た。廊下を見ると、仮面の男が歩いて来る。
「おはようございます」
「おはようございます。先程の揺れはなんですか?」
「すみません、起こしてしまいましたか。揺れは最小限に抑えているのですが……こちらへどうぞ」
キノは男について行き、やがて操縦室に案内された。そこには数人の男とマスターがいた。キノはマスターから預かっていたパースエイダーを返して貰った。
「おはようございます、キノさん、エルメスさん」
「おはようございます」
「おはよー」
「起こしてしまったのなら、申し訳ありません。先程、南に向けて移動を開始した所です」
マスターが窓の方を向いた。そこには、砂丘やオアシスが小さく映っていた。
「はへぇ〜っ、こんなでっかい建物が動いてるよ!」
「凄いね、エルメス。車輪で動くんですか?」
「いえ、側面から翼を展開し、少し浮かんで飛んでいます」
「更に凄い」
「こんなのが大昔に造られたとはねぇ」
「超古代文明の賜物ですよ」
そう話している間にも、どんどん景色は過ぎて行く。マスターによれば砂漠を抜けるにはあと一日あれば足りるとの事だったので、キノはゆっくりと待つ事にした。
「暇だね」
「うん、暇だ。でも狭いしうろつく訳には行かないからなぁ……寝よう」
「線は防げってやつだね」
「……善は急げ?」
「そうそれ!」
キノはベッドに横になり、目を閉じた。だがそこで、再び揺れを感じた。
「また揺れだ」
「なんだろうね?」
外に出ると、男達が慌ただしく動いていた。
「どうされました?」
「
キノ達は先程とは逆に階段を降りて行き、トラミッドの最深部に訪れた。ここには非戦闘員や女が集まるとの事だった。中に入ると、男とは違う仮面を着けた女達がいた。
「あら、こんな時に乗るなんて、旅人さんも運が無いわね」
「はい。砂漠の飛蝗賊とはなんなんですか?」
「文字通り、巨大な飛蝗に乗った盗賊達よ。襲撃された所は一瞬で荒れ地になると聞いているわ」
「ここは安全なんですか?」
「外の攻撃からは、ね。中に侵入されたら分からないわ」
すると、扉が開き数人の男が入って来た。
「もうすぐ撃退出来そうです。まだ外には出られませんが、部屋には戻って良いかと」
それを聞いて、女達がぞろぞろと歩き出す。だが突然、男が女を掴みナイフを突き立てた。そして仮面を脱ぐ。
「床に伏せろ!まんまと騙されたな、間抜け共め!殺されたくなけりゃ、マスターとやらの所に案内しな!」
「おいそこの旅人、お前もだ」
別の男がキノを指さした。キノは無言で伏せて男達を見た。
「なんだその目は!あぁ!?」
女にナイフを突き立てていた男が、顔とナイフをキノに向けて叫んだ。その瞬間、キノは一瞬で『カノン』をホルスターから引き抜く。そして男が慌てる隙に狙い、発泡。
「キャッ!?」
女が悲鳴を上げ、男は眉間に風穴を開けて倒れた。他が唖然としているにも、次々と弾丸が撃ち込まれていく。数秒後には、全ての賊が死亡していた。
「驚かせてしまいすみません、皆さん」
キノは女達と、駆けつけた男達に向かって頭を下げた。
それから一日が過ぎ、時刻は朝。トラミッドは砂漠の南端に着陸していた。入口で、キノは後ろを振り返る。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、良いんです。それにしてもキノさんがそんなにお強い方だったとは……」
「キノは強いよ〜?」
「エルメス」
「はいはい」
「ははは、楽しそうですな。では、旅の幸運を祈ってます」
「ありがとうございます」
「ありがとね!」
歩きだしてしばらく。遠くの景色となったトラミッドが動き出すのをキノとエルメスは見ていた。
「凄い仕組みだね、エルメス」
「どうやってるのかな?」
「さぁ。エルメスもあんなふうにならないかな」
「途中で振り落としていい?」
「……それはやだ」
ラクダに揺られながら、旅人が言った。