短い草が生える草原を通る道を、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。転がっている砂利を弾き飛ばしながら、ぐんぐんと進んでいる。
「あれかな?キノ」
「だね。草原の中に巨大な岩山……あれだ」
キノと呼ばれた旅人の前には、長い城壁が広がっていた。門の横には、人型の機械が立っていた。
「どうやら話は本当だったらしいね、エルメス。会話、頼める?」
「やるだけね」
キノは門に近付くにつれスピードを落とし、門の前でエルメスから降りた。二体の機械兵士はエルメスの方を向いてしばらく固まった。
「会話出来てる?」
「うん。目的を聞かれたから、観光と休養って答えといたよ」
「ありがとう」
機械兵士は左手を使い、大きな門を開けた。右手は大きなリヴォルバーのようになっているので、使いにくくないかな?というのが見ていたキノの感想だった。
中に入ると目に入ったのは、歯車、歯車、歯車。建造物のあちらこちらに歯車が使用されていて、所々からは蒸気が噴き出していた。
「なんと言うか……今までとがらっと変わった感じだね。エルメス」
「でも前でもそんな事はよくあったでしょ?」
「それもそうだ。とりあえず、宿か何かがあれば良いけど……」
キノとエルメスは会話しながら広い道を歩いて行く。周りを歩く機械達に目線を向けられながら、宿を探していった。
太陽が真上を通った頃。朝から宿を探し続けて来たキノだったが、一向に見つからないので広場のベンチに座って休む事にした。腰を下ろし、改めて辺りを見渡す。
「……本当に機械だけだね」
「機械だから宿なんて必要無いんだろうね。自宅とかで燃料を補給すればいいだけだし」
周りを歩く機械は皆、骨組みのような形だった。所々に門にいた機械兵士が立っているだけだった。
「……キノ、来たよ」
「ん?」
キノはエルメスに言われ、振り返った。そこには、一体の機械が立っている。キノを見つめるその無機質な赤い瞳は、どこか不気味な印象を与える物だった。
「会話、よろしくね、エルメス」
「分かった」
またしばらく、静寂が訪れた。エルメスはともかく、機械は一切の身振り手振りも無しなので、キノには会話が成立しているかどうかすらも分からない。やがて会話が終わったのか、エルメスが喋り始めた。
「自宅に泊めてくれるらしいよ。旅人は初めて見たって」
「ちゃんと会話出来たんだ」
「まぁね」
キノは歩き出した機械の後を追い、エルメスを押して歩き出した。
しばらく歩いて着いた一室は、やはり外と同じく無機質な部屋だった。ベッドは無く、代わりによく分からない機械がずらりと並んでいる。
「一番左のは、多分機械のベッドだろうね」
「へぇ……」
キノは部屋一面を見渡して、椅子に座った。奥から機械が水を持って来たので、それを飲み干して一息つく。
「…………」
「なんて言っているんだい?」
「ねぇキノ、少し悪い知らせ」
「何?」
「この国、明日の朝には敵国に攻撃を仕掛ける事になってるんだって。だから出国するなら今日の夕方には出ないと、後一ヶ月はこの国に留まる事になる」
「……それは嫌だね。分かった、夕方前には出よう。よしエルメス、ボクは寝るからそれまでには起こしてね」
「……はいよ。全く危機感が無いねぇ」
その夜。キノは草原を走っていた。
「ふぅ、なんとか出国出来た」
「やっぱり寝てたから出国が遅くなったんじゃ無いの?」
ドゴーン!
「多分ね。次からはさっさと出国しちゃおうか」
「それが良いと思うよ」
ドガーン!ドガガガガッ!
「さて……次はどこに行こうか」
後ろから鳴り響く轟音を背景に、キノは走り続けた。