Infinite stratos / False prophecy   作:✕せんたくだま

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ごめん、月曜日には行けません。
この月を上下に縦断する日曜日に、私は絡まれています。


01 でもそれヒヤリハットじゃん

 

 えー、本日ハ晴天ナリ本日ハ晴天ナリ……。

嘘つけバリバリ雪降ってんだろうが。寒いぞ今日も……。

 

 今日は西暦2022年の2月12日、朝7時。窓越しに見える灰色の空には、白い粉がちらちらと舞っている。今日も冷えそうだ。

 

 

 俺の名前は沢村ショウ。ここグランゼーラ・インダストリーに勤めるしがないテストパイロットだ。……名前もちゃんと漢字で書けって? 画数多いからヤダ。

 

 グランゼーラはこんな名前してるが日本の企業で、重機の制御系から医療向けの義手義足の開発など手広く行っている場所だ。最近は専ら、とあるパワードスーツ向けの周辺機器やら内装やらの開発がメインの事業になっているらしいが、どちらにせよ俺の仕事には大して影響がないので詳しくは知らない。

 

 テストパイロットと言っても、やることはそんなに大した事ではない。毎日決められた流れで筋トレや仮想シミュレータに明け暮れ、たまに開発中のパワードスーツを実際に動かす。更に稀なことだが、実地テストと称して実務をやらされることもある。この実務というのは要するに、「宇宙まで行ってなんかしてこい」とかそういうやつで、2年前から始まり今までに3回やったが、ここ9ヶ月は何もない。

 

 2年前、初めて宇宙に行かされたときは本当に酷かった。

 軌道上行って、人工衛星置いて、代わりに古いやつを回収してこい……そんな話だったからその通りで終わると思うだろ? 途中で変なUFOもどきに襲われて危うく死にかけた。

 それ以降の2回は何もなかったが、毎回碌でも無い目に遭うんじゃないかと思いながら宇宙に行かされる俺の気持ちを誰か理解して欲しいね。もう二度と行きたくない。

 お陰様で最近は穏やかなもので、毎日シミュレータが楽しい。シミュレータは良いよ、自分の判断力を徹底的に苛められるのに死の危険は無いんだから。

 

 さて、そんな俺は今グランゼーラの施設内を走っている。行き先は敷地の端っこにある工作棟――要するに呼び出しを食らっている。

 平時こそテストパイロットを務める俺だが、時々エンジニアとして呼び出されることがある。テストパイロットとエンジニアにどんな関係があるんだと思われるかも知れないが、いざという時に自分で諸々の整備やら修理やらが出来なければならないし、俺が触った製品の感触を直接フィードバックすべく開発に回されることだってある。切っても切れない間柄ってわけ。

 

 リノリウムの床を軽やかに駆け抜けていくと、他のところからも同じような足音が聞こえてくる。今、このグランゼーラ全体が慌ただしい状況にある。

 何故こんなことになっているのか。それを説明する前に、さっき言ったとあるパワードスーツの話をしておこうと思う。

 

 マルチフォームスーツ「Infinite Stratos(無限の成層圏)」――通称ISは、10年ほど前にとある中学生によって発表された代物で、当時の人類が持っていた技術を置き去りにした発明品の集合体だった。

 例えば、古典物理学に中指を立てた機動を可能にする「PIC」――パッシブ・イナーシャル・キャンセラー。

 例えば、物体をデータに変換して体積を0にしてしまう「量子化」。

 例えば、核爆発にも耐えるとされるエネルギーシールド「絶対防御」。

 ……とまあ碌でも無いものが目白押しだったわけだが、余りにも現実離れし過ぎていたせいか誰もそれを認めようとはしなかったらしい。俺だって、目の前でイエス・キリストが水の上を歩いているのを見せられても信じられる気はしないから、仕方のないことだったんだろう。

 分からないものは鵜呑みにしない、無難に生きる上では重要だ。

 

 しかしながら事態はこれで終わらなかった。

 一向に自分の発明が認められない状況に苛ついたのか、発明者「篠ノ之 束(シノノノタバネ)」は全世界の当時発射可能状態にあったICBMを掌握して日本目掛けて発射。ISを纏った協力者にそれを撃墜させつつ、更には押っ取り刀で駆けつけた軍用艦やら戦闘機やらも纏めて制圧し、全世界生配信で「ISってすごいでしょ?」。

 ここで暴れたISが白かったから誰が呼んだか白騎士事件。全くもって中学生の考えそうなことだ。まあ、当時の俺は小学生だったんだけども。

 

 この事件で人的被害は出なかったらしいが、これで全世界がISを認めることになった。

……兵器として。

 とはいえそれはあまりにも強すぎた。ISが野放図に使われるのを防ぐために、条約やら国際機関やらを作って無理やりISをスポーツの道具という立場に押さえつけることで事なきを得ているのが、現在の世界情勢だ。

 

 さて、そんな超兵器ISには幾つかの致命的な欠陥が知られている。今回の多忙の原因となっているのはその一つ、()()()()()()()()()()というもの。

 何をどう判定しているのか知らんが、ISは女性以外の操作を受け付けない。

 じゃあ男が触るとどうなるかって言うと、うんともすんとも言わない。

 こんなもの抱えた代物を本当に世間様は有難がってるのかって? さふだよ。

 

 ここ10年、ISが大流行りした結果として「つえー兵器動かせるんだからアタシらって男より強くね?」という様子のおかしい論理を信じ込む人間もチラホラいるが、この際それはどうでもいい。俺も引きこもりなので詳しく知らんし。

 とにかく重要なのは、ISが発表されて以来「ISは女性にしか動かせない」という絶対のルールが存在していたということ。

 

 ――先々週のことである。そのルールがぶっ壊れた。

 下手人は中学3年生の「織斑 一夏(オリムライチカ)」くん。経緯は忘れたが、ISに触った上に動かしちゃったらしい。しかもこの子、ISの世界大会の初代優勝者の弟なんですってよ奥さん。なんか感じちゃうけど気にしない。

 

 絶対のルールに対して急に生えてきた例外に、世界は湧いた。頭も湧いた。

 二匹目のドジョウを求めるのに国境は関係ないようで、今この瞬間も世界各地で「ISが動かせる男」を求めて思惑がぐるぐるしているというわけ。日本でも例に漏れず、その検査を始めようという話になった。

 ……にしたってかなり動きが早かったように思う。普段のお役所仕事だったら動き出すまでにあと一月は掛かってるだろうに。

 

 ここでやっと話が戻ってくる。

 グランゼーラはISに関する製品開発をしているわけだが、そのためのISを幾つか日本政府から借りている。そう、飽くまで借りているだけだ。

 なので政府に「ゴメン、検査に使うからお宅のIS貸してちょ?」とか言われたら、どれだけ言い方が気に食わなくても従わなければならないのだ。

 

 しかし、ISを貸すと言ってもそう簡単には行かない。普段からウチの製品開発に使われているISだ、その中にはウチの開発データとかの見せちゃいけないやつが色々入っている。したがってそれを消したり見えなくしたりする作業や、積んでいる武装を外して安全に検査ができるようにする作業をしなければならない。それも1台では済まず、何台も。

 

 そうこうしている内に工作棟に着いた。

 工作棟は、飛行機の格納庫みたいなだだっ広い空間に、クレーンやら何やらの機材が置かれている場所だ。デカいものを安全に組み立てるにはこういう部屋が役に立つ。

 当然、危険な物も多いので床や壁には黄色と黒を合わせた警戒色のテープが貼られている。俺は早速ヘルメットを装備した。安全第一である。

 その奥の方に鎮座している白と緑色が特徴のアレが、これから政府の下にドナドナされる予定の最後の機体だ。もっとも、今回貸すのはどれも同じフレームなのだが。

 

「お、やっと来たかショウ! 早速で悪いが手ぇ貸してくれ」

 

「あ、了解です。どこ持ちます?」

 

 棟に入った途端に奥から作業着がやって来る。胸のネームタグによると……ああ、オオサワさんか。今回の搬出作業の班長だ。この前、娘が反抗期で困ってるとかなんとか言ってたっけ。

 

「ああ、拡張領域(バススロット)の中身を空にしてるんだが、昨夜の時点でモノが残ってたらしくてな。そいつを頼む」

 

 一先ず返事をしてISの元へ向かう。ISはメンテナンス用の架台に載せられていて、本体から伸びた数本の太いケーブルが、付属のコンソールに繋げられていた。

 

 後ろから「あと1時間で迎えが来るから特急でな~!」との声が聞こえてきたが……聞かなかったことにしよう。

 大丈夫、やれば終わる。ベストを尽くせば結果は出せる。至言だね。

 嘘つけ社畜の妄言だろうが。

 

 さてさて、早速作業を始めよう。

 件の拡張領域(バススロット)というのはISがデータに変換した物体を保存しておく領域だ。RPGといえばやたら物が入る鞄が付き物だが、それのお仲間と思ってもらえれば分かり易いだろうか。

 これが多ければより大きいものや複雑な機械を仕舞えるので、ISの性能に直結する重要な部分と言える。

 

 今回のお仕事はそれをすっからかんにすること。

検査なんて正味、触って反応するか確認できればそれでいいので、内部に下手な武装やら何やらが入っているのはシンプルに危険との判断だ。実際その通りなので「身包み剥いだらぁっ」って感じで作業を進めていく。よく分からないがこう言っておこう、ぐへへ。

 

 

 

 ――正式名称、R-9K《サンデーストライク》。

 このISのフレーム名だ。ISはコアと呼ばれる本体を、フレームに組み込むことで動作する。このサンデーストライクは、グランゼーラが世界で最初に売り出した汎用量産型のIS用フレームだ。

 拡張領域(バススロット)の容量と推進力を重視した設計で、最大の特徴はとにかく製造コストが低いこと。最初に売り出されたのもあって、当時は世界各国から注文が入ったらしい。今となっては装甲が足りないとかの理由で性能不足と言われるが、スタートダッシュが大きかったのだろう、配備数の世界シェアは今なお第三位だ。

 

 もう一度言うがこの機体は、大抵の物が積めてそこそこ速くてしかも安い。まさにテストベッドにしてくれと言わんばかりの仕様をしている。ISの武装を開発するメーカーにとっては、自由にカスタマイズが効く本機が余程魅力的らしい。サンデーストライクを使い続けてくれるお得意様が多いお陰で、この機体はグランゼーラの稼ぎ頭の一つになっている。

 

 聞くところによれば、ISが発表されてからの2年でこれの前身となる機体を幾つも製造して課題を洗い出し、3年目にはこれが出来上がっていたらしい。控えめに言って頭がおかしいと思う。

……やっぱり無理があるんじゃないかなぁ、その説明。

 

 

 

 拡張領域(バススロット)が大きいということは、それだけ探さなければならない領域も多いということ。重箱の底を、隅から隅まで突いて回るようなことをしなければならないわけだ。

 昨夜までに作業が終わらなかったのは、どうも拡張領域への格納の仕方がよろしくなかったらしい。記憶領域の至る所にデータが散らばって断片化している。何をどうしたらこうなるんだか、読み始めの先頭データが見つからないと中身の正体すら分からない。

 

 そうして空の格納ブロックにチェックを付けて、マトリクスの端から潰していくと――あった。

 

「お、ミッケ。パーツの名前は……R9-DV? ドメスティックバイオレンス?

 まあ良いや――オオサワさ~ん! これですよね~?」

 

 工作棟は広い上に機材の駆動音が喧しいので、大声で喋らないと通じない。俺の呼び声に反応したオオサワさんがすっ飛んできて、これが例の残り物だと教えてくれたので、デフラグしつつ早速その量子化を解除する。

 なんで普段ISに触らない俺がこんな作業できるのかって? 俺が知りたい。なんか傍から見てたらデキちゃったの。才能のショットガンマリッジかな。

 

 出てきたのは青色をしたデカい5角柱に穴が5つ空いたもの……とそこから伸びたなにかのケーブル類。縦置きすれば吹き出し花火に見えないこともないだろうか。何のためのものかは分からないが、まあ俺の知ったことではない。

 そのDVとやらもすぐに運ばれていったので、最後に拡張領域(バススロット)が空になったかをチェックして――工事完了です……。

 

 時間にして20分くらいか、これで多少は余裕ができると良いんだが……。

 一仕事終えたところで腕のストレッチをしていると、横からオオサワさんが労いの言葉と共に「朝から呼ばれてビックリしてんだろ、ちょっと休んでてもいいぞ」と。

 

 ――視界の端に、それが映った。

 ちょっとでも脳を暇にするとすぐこれだ。離れよう。

 

「ははは、元気なら有り余ってますよ。

 ……それで、次は何します?」

 

「ん? なら……コイツの積み込み用コンテナを移動させよう。他にも人を呼んでくるから、先行って待っててくれ」

 

 コンテナはあっちな……オオサワさんがISの奥を指差すと、確かにコンテナが置かれている。何らおかしいことはない。問題はない。

 

 そうと決まれば……コンソールの前から立ち上がって、そこから降りようと3歩進んだところで、

 

――足首を掴まれた。

 

「うおッ――」

 

 2回つま先で跳ねて全力で体勢を戻そうとするが、もう後の祭りだ。このまま倒れるのは確実と判断して、受け身の体勢を取ることにする。

 さて、前受け身の構えを取ると、倒れるまでの間に必然的に前方の景色が見える。そこで一つ大きな問題が発覚した。

 

 ――え、ISにぶつかるんだが?

 

 言うまでもなくISはお高い代物だ。稼働中ならまだしも無防備な停止状態のこれはただの精密機械の塊。しかもこれから他所に貸そうというときに人間がぶつかってどうなるかなんて誰でも分かる。

 どうしよう、弁償か? 弁償だよな……俺の収入で死ぬまでに払える額だと良いな……この先の地獄が分かってしまうだけに目を閉じると勝手に走馬灯めいた後悔が溢れてくる。

 

 ああチクショウ、こうなるならもう少し趣味でもやっとくんだった……いやそもそも趣味ってなんだよ、何すりゃ良かったんだよ。食い物か? 美味いもの食ってれば満足できたのか? 分かんねぇよもう……。

 

 そうして浮遊感に身を任せてあれこれ考えていたが、一向に衝撃がやってこない。これからすっ転ぶっていうのに、あんまり思考が速すぎて時間感覚が狂っちゃったかも知れない。落ち着いて素数でも数えてみよう。ええと、イチ……1は素数じゃねーよバーカ!!!!

 

 反射的に目を開いて、そして気付いた。

 

「……なんじゃこりゃ」

 

 まず注目すべきは視座の高さ……いつもより結構高い。普通に床を歩いていたら絶対にこの位置からものが見えることはあり得ない。

 次に視野。どういうわけか前を見ているのに後ろのコンテナが見える。人間の感覚とかけ離れていて違和感が凄い強いが、不思議と気分は悪くない。

 そして何の気無しに下を見下ろしてみると……手足に白と紫色の装甲がくっついている。手をグーパーさせると視界の中の手もその通りに動いた。

 

 ここから導き出される結論は……そこで一旦考えを止めたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――右側頭部を殴られたかのような強い衝撃。脳内に光が弾けた。

 


 

R-OS activated.

Initialization phase... Failed.

Retry initialization... Failed.

==CORE Permission==

Startup phase: level_2 started.

Initiate pilot data collection...DONE!

Updating Vital Statistics.

Selected connection mode → P.C. Layer 1.

Testing P.C. connection... Failure to support.

Set to standard_type: myopotential scanning method... DONE!

Updating Vital Statistics.

Estimating pilot language: Ja-JP

Changing language settings... DONE!

 

 


 

 

 まるで頭の中に電話帳の中身をぶち撒けられたのかってくらい、夥しい量の情報が駆け抜けていった。不思議なことに、一字一句全部覚えている。例えば、拡張領域(バススロット)が空なこととか……いやさっき自分で確認したなコレ。

 視界にもあれこれと情報が流れていった。その最後にチャチャーンという安っぽいファンファーレと共に「ようこそ」と書かれたウィンドウが一瞬表示されると、急に思考がクリアになる。

 気付けば周りに人が集まっていた。

 

「ショウ、お前……」

 

 ……もちろんオオサワさんも。

 てかオオサワさんってよく見るとこんな顔してたのね、こういうのをダンディ……ダンディでいいのか? もうダンディでいいや。

 

 ひとまず状況を整理しよう。

 俺はISの側で何かに足を掴まれてすっ転んだ。

 そしてそのまま倒れ込んだ俺は、恐らくそのままISに触れた。

 ドンガラガッシャンと衝突する代わりに、ISは俺をパイロット扱いしたのかそのまま内部に格納する。

 結果、晴れてISに乗った俺という状況が出来上がる……恐らくこんな流れなのだろう。全くもってわけがわからないよ。

 

「あの、これ……どうしましょう……」

 

「どうするってお前、どう……どうすっぺ……?」

 

 そういえば何で俺はすっ転んだんだろう。これが諸悪の根源じゃねーの? そう思ってコンソールの周りを見渡してみる。ご丁寧にも自動でズーム機能が働いて、隅々までよく見えた。

 そして見つけたのは、コンソール付近の床を這っていたケーブルの一本。丁度人の足首が入りそうな大きさの蜷局を巻いていた。なるほど、気味の悪い心霊現象の類でないのは分かった。俺の前方不注意って訳だ。

 ……さっきまであんなところにケーブルなんて置いてたか? 作業始める前にあそこ通ったときは何もなかったような……。

 

「ひとまず、沢村主任を呼びましょう」

 

 ――脇から人の声が聞こえてきた。

 声の主はシモセさん。開発部の携行装備担当だ。俺の使うパワードスーツの装備にも関わっているようで、時々一緒に仕事をする相手だ。……今知ったことだがこの人、女性らしい。赤いメガネがよく似合っている。顔が整っているとはこういうのを言うんだろうが、これで口癖が「火力」と「火薬」なのはちょっと信じられない。

 

「あ、そしたらオオサワさん、親父を呼んでもらってもいいですか? 俺が言っても多分来てくれそうにないので……」

 

「まあ、それもそうだな……」

 

 そう言い残してオオサワさんは出入り口の方へ歩いていった。ここの責任者が呼ぶのだ、沢村主任もすぐに来ることだろう。

 

 さて自分はどうしたものか……そう考えて周りを見渡していると、シモセさんが床に落ちたヘルメットを拾っていた。

 あ、そうじゃん、俺のヘルメット。ISを起動した際に床に置き去りになったらしい。

 

「シモセさん、それ多分俺のです。すみません、拾わせちゃって……」

 

「ああ、そういうことでしたか。こんなところに落ちてるなんて変だと思いましたが……」

 

 シモセさんが拾ったヘルメットをこっちに手渡してきたので、俺もISの腕を伸ばすと、急にヘルメットが引っ込められた。

 

「よくよく考えたら、()()着けてる人には要らないものですかね?」

 

 シモセさんは微笑んだ。久方ぶりに見る人間の笑顔に心が洗われるようだ。

 しかし、多少楽な姿勢とはいえいつまでもISに乗りっぱなしなのは精神衛生上よろしくない。ヘルメットが恋しくなる瞬間もあるもんだなぁ……。

 

「ああいや、流石に落ち着かないので一旦降りますよ」

 

「おや、そうですか?」

 

 開発元が同じだからなのだろう、俺が普段乗るパワードスーツとサンデーストライクのUIはよく似ている。だからいつもやるように操作すれば……よし、コレで解除できそうだ。

 本来ISはパイロットの思考で展開と解除を行うが、ちゃんとマニュアルでの操作にも対応している。操作を受け付けたサンデーストライクが素早く装甲を格納していくと、すぐにフレームから手足が引き抜けるようになる。

 

「よ、っと……」

 

「はいどうぞ」

 

 ISのフレームは、物にもよるが全高2mは下らない。例に漏れずコレも高いので、アスレチックから降りるような要領でISから抜け出ると、近くの人からヘルメットを受け取って被る。うん、目の位置はこれがやっぱり落ち着く。でもまた分からなくなった。

 

「なあ、俺らも試してみないか……?」

 

 不意にそんな声が聞こえた。さっきISの周りに集まっていた人の誰かだろう。それに続くように聞こえてきた「じゃあ俺も……」という声が開始の合図になり、『誰がISを動かせるのか!? 工作棟でボクにタッチ!』大会が始まった。

 

「男って、こういうとこは変わりませんよねぇ……」

 

「まあまあ、試せる内に試すってことで」

 

 横から聞こえてきたボヤキに答えつつ、俺は事の推移を見守ることにした。

 とはいえ、ここにいるのは高々30人程度。5分もしない内に全員の脱落という結果で大会は終了する。もう一人くらい俺と同じやつが現れてくれたら、いい感じの身代わりに出来そうだったんだが、残念なことだ。

 

「やっぱダメかぁ……」

 

「まあ、普段から整備で触ってるし、結果は分かってたけどな」

 

 ISに反応してもらえなかった男たちの落胆の声が随所から聞こえてくる。

 そんなに乗りたいなら俺の代わりに宇宙行ってくれない? 大丈夫、パパパッと行って帰るだけネ。俺もやったんだからさ。

 

 にわかに聞こえだした、リノリウムの床を叩く音が段々大きくなってくる。数は2人分か。どうやら待ち人がやって来たらしい。

 

 足音が工作棟のコンクリート床のものに変わると、10秒ほどして話しかけられた。

 

「また何かやらかしたらしいな、ショウ。今度は何だ……」

 

「これはこれはお父様、『また』とは随分手厳しい」

 

「……その気味の悪い喋り方を止めろ」

 

 この難しい顔をした白衣の男が沢村主任こと沢村コウスケ。直属の上司にして……俺の親父だ。OF計画を始めとしたパワードスーツの開発を纏めている責任者で、ここグランゼーラでも結構上のポジションにいる。余程忙しいんだろうな、親だってのに殆ど家に帰ってこねえ。職場でばかり顔を合わせるもんだから今となっては家族よりは同僚みたいな感じになってしまったが、法的にはきちんと親子だ。

 名字同じだから分かるって? カンが良いね君。誰だよ。

 

「……いい加減に話を進めようぜ。ショウ、見せてやってくれ」

 

「了解です。

 ――親父、真面目に重大事案だ。腰抜かさんで見ててくれな」

 

 というわけで改めてISを起動する。フレームによじ登る際に後ろから親父が止めろと怒鳴りつけてくるが気にしない。

……そういえば今度は触るだけじゃ起動しなかったな。特別演出は初回だけか?

 

 フレームに手足を通し、顔の前に出てきたUIを視線で操作すると、ガチガチと音を立てて装甲が俺の体を覆うように変形する。白と紫に色分けされた装甲が組み上がると、俺の顔を緑色のバイザーが覆った。緑がかった視界は即座に調整され、元の色に戻る。

 

 シュウウ……という気体の抜ける音共に装甲の隙間から蒸気が吹き出し、機体全体がほのかに白い光を放った。すると、機体の各部に繋がっていたケーブルが独りでに抜け、まるで傅くようにこっちに向けて端子を下げながら架台の端でとぐろを巻いていく。さらに、ISを固定していたアームも勝手に収納されていった。

 事が済むと、もう良いとばかりに光が収まり、架台の上にはISに乗った俺が取り残された。

 

「な……っ!?」

 

「――んんん?」

 

 これにて起動完了。親父が信じられないものを見るような目でこちらを見ているが、俺だって信じられない。いつからケーブルは自分で動けるようになったんだよ、特別演出は初回だけって話じゃなかったのか?

 

「ま、まあ、少々変なことは起きたが、ご覧の通りだ親父。

 ……俺、IS動かしちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

こんかいのまとめ

 

 

・沢村ショウ

 

 本日の下手人。ケーブルに足引っ掛けて転ぶ危険インシデントを更に特大のインシデントで塗り潰すことでgot事なきした自称引きこもり。

 ISに乗ると思考がクリアになるらしい。何かキメてらっしゃる……?

 普段はISとは別のパワードスーツに乗っている。

 

・オオサワ

 

 多分苦労人枠。国に貸すISの調整を臨時で任された班長。普段は実験用ISを始めとしたパワードスーツの調整と、社外の組織との折衝を任されている重役の一人。

 実は女性ウケが良く、社内に秘密ファンクラブができているくらいには人気だが。本人はそのことを知らない。ショウをしてダンディな顔と言わしめる容姿の持ち主。

 反抗期の娘がいるが、夫婦仲は良いらしい。

 

・シモセ

 

 恐らく苦労人枠。ここ数日は役所仕事の手伝いをさせられているが、普段はIS用の携行装備の開発を行っている。

 ちなみに重度の火薬中毒者で、中学生の頃に爆発に魅入られた人。代表作は手持ちの拡散グレネードランチャー。

 整った容姿と普段の振る舞いから男性人気が高いが、交際が始まっても火薬中毒がバレて別れるのを4度繰り返している。

 

・沢村コウスケ

 

 間違いなく苦労人枠。ショウの父親にして上司。

 家族ではあるが、忙しすぎて仕事上での付き合いばかりしていたため、ショウとは男の知り合いのような関係に落ち着いている。

 

・R-9K サンデーストライク

 

 ちょっと様子のおかしいIS。グランゼーラから政府に一時的に返却される機体の中では順番が一番最後だった子。政府のところにドナドナされるのが嫌だったのかな?

 




 特殊タグ……苦しい……。
 起動時のメッセージは「古く、無骨に」をコンセプトにしています。基本的に画面出力が一番時間を食う処理なので、そこまでの余裕を持たせていない最初期の量産型という設定に即したものに出来ていれば良いのですが……。

 原作における世界シェア3位はフランスの機体でしたが、下にR-9Kが入ったことで持ち上がっています。

 FINAL2のR9-Kは素材の安さに対して使い勝手の良い、初心者御用達の機体だと思います。ショットガンレーザー改が気持ちええんじゃ。でもちょっと画面が見づらい。
ダイヤモンドウェディング作るよりこれ720機用意した方が良かったんじゃ……おや、こんな時間に誰だろう?

機体の説明とかいる……?

  • 絶対欲しい!
  • あったらうれしい
  • うむっ、緊急連絡だ。
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