Infinite stratos / False prophecy   作:✕せんたくだま

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背中を槍で突かれてるんだ
穴だらけになったって、止めてくれないのに


24 淀んだ灰と差し込む紅

  

  

  

「――あの地震に巻き込まれたんですか!?」

 

『ええ、幸い彼は無傷で、そのまま救助に当たれる程度には……』

 

「……彼の、ショウの様子はどうですか?」

 

『率直に言うと、取り乱しています』

 

「そう、ですか……」

 

『ただ、不思議なことにその状態のままISを起動して、的確に救助活動を進めていたんです。救急隊の方も褒めていました。

 その後はずっと俯いたままで……何か、伝言はありますか?』

 

「なら……”正しいことをした”とだけ。後はそっとしておいてあげてください」

 

『……分かりました。では』

 

 日没後のグランゼーラ北陸支部には、自室のデスクでため息を吐くコウスケの姿があった。

 顔を抑えてため息を吐いていると、背後の出入り口からカツカツというリノリウムを叩く音が1人分。

 

「――更識さんからですか? その電話」

 

「ああ、周防さんですか。そうです。

 なんでも、ショウのやつが地震に巻き込まれたそうで……」

 

「え、昼の地震ですか? 大澤さんが沢村くんの装備が通行止めで送れないって嘆いてましたけど……。

 それで、彼は大丈夫なんですか?」

 

「無傷だそうです。ただ、やっぱり……」

 

「あぁ……元から何だか余裕無さそうでしたもんね。

 寄りにもよってそんなタイミングで、手酷いパンチを食らっちゃったかあ……」

 

 


 

 

「……全員、揃いましたね」

 

「皆さんお疲れのところでしょうが……こんな夜中でもないと顔を出しづらいのも難儀なものですね」

 

「何はともあれ、ご苦労だったな更識」

 

「これでも仕事ですから。……山田先生はいらっしゃらないんですか?」

 

「ああ、体調が悪そうだったから仕事を押し付けてきた。適当に切り上げるだろう」

 

 職員棟地下の、とある一室。

 一部の人間を除いて存在が隠されたこの部屋には、夜遅くになってから明かりが灯った。

 

「今回集まって頂いたのは、男子2人についての情報整理のためです。丁度今日で片方が帰ってきましたからね」

 

 空中ディスプレイや諸々のハイテク機能を備えた長机には千冬と楯無の二人。そして、部屋の最奥にあるデスクには、このIS学園の真の理事長――轡木十蔵が2人を視界に収めるように座っていた。

 

「先に一夏くんの方から始めましょうか。どうですか織斑先生、彼の様子は」

 

「身内贔屓、というのは承知の上でお願いしますが……何だかんだでクラスには打ち解けているようです。初日は少々ヒヤリとしましたが……」

 

「ああ、イギリスの……」

 

「ええ。もっとも、彼女のお陰で体よく戦闘データが取れましたし、当人同士で解決したことなので問題とは思っていませんが」

 

「私、彼とはあまり顔合せ出来てないんですよね。今度絡んで見ようかなぁ……」

 

「なんだ、一夏はやらんぞ?」

 

違いますって! 大体そんなだからブラコン呼ばわりされるんですよ、この前だって山田せんせあだだだだだだだだッ!!!

 

 その話、良く聴かせてもらおうか……? と恐るべき笑みを浮かべながら楯無にヘッドロック中心の絞め技を仕掛ける千冬。訓練を積んだ暗部の長でさえ、人類最強には敵わなかった。

 

「はいはい、お二方。その辺で。

 特に素行不良の予兆も無いようですし、心配は無いということで良いですね」

 

「ええ。今は月末のクラス代表対抗戦に向けて特訓をしているようです。先日のショウの戦い振りもそれなりの刺激になったと、本人のレポートで」

 

「うう、痛てて……例の試合、刺激が強すぎましたもんね」

 

「……お前も見ていたのか。あの()()

 

「寮を抜け出して違法録画に興じている()()()()()がいたので、釘を差しに……。映像は一時的に取り上げて、3ヶ月間は公開しないという話で手を打ちました」

 

「なんですか? その試合というのは……」

 

 日中は用務員として活動し、理事長としての業務を妻に任せている関係上、まだ十蔵は件の試合のことを知らなかった。

 

 楯無がポケットから携帯端末を取り出して何度か操作すると、部屋の明かりが暗くなり、代わりに空中ディスプレイに数枚の写真が大きく浮かび上がった。木曜の夜に行われたショウと真耶の試合、そのスナップショットだ。

 

「ほう、山田先生と戦ったのですか。彼女は相当以上の実力者だったと記憶していますが……試合の様子は?」

 

「勝ちかけていた……そうですよね、織斑先生」

 

「本人曰く、()()()()()()()()()()そうだぞ」

 

 何処かうんざりしたような表情で視線を泳がせる千冬に、十蔵は怪訝な表情で尋ねる。楯無も同様だ。

 

「……それ、どういう意味ですか?」

 

「元代表候補でしたよね、それも最上位の……彼はそんな相手に勝敗を選べる程強いと?」

 

 表示されたスナップショットのほとんどは、真耶がショウを追い掛けているシーンである。真正面からぶつかり合ったり、逆にショウが追い掛ける側に回っているものは少なかったので、これだけ見ると「教員が生徒を圧倒している」ように見えていた。

 

「驚くべきことにその通りです。ぽっと出の生徒が教員に勝つことに対する忖度だそうで、これ以上の悪目立ちと教員の権威を崩すことを恐れたと後で言っていました。

 過去の試合を真似て動いた結果だそうですが、ほとんど未経験であんな実力が出せるなんて、今でも信じられませんよ。異常です」

 

「なんと……。とはいえ我々の秩序のことを考えてくれているのは、ありがたい所でしょうか」

 

 十蔵は目を丸くする。そもそもショウに関する情報が不足している段階で、この男が「学園の仕組み」そのものに対して影響を及ぼすとは分からなかったからだ。

 全世界へ門戸を開き、有望な学生を育てる。ISに関する教育を行うこの学園のシステムにおいて、誰にもほとんど教わることなく学園内の人材の多くを凌駕するとなれば、それはシステムに対する否定材料になる。ショウはそれを理解した上で身の振り方を選んでいるらしい。

 

「操作方法についてはシミュレーターで覚えたとのことですが……更識、何か見てきたか?」

 

「ええ、まあ……というか、そのシミュレーターを触ってきました」

 

「シミュレーター?」

 

「ISに乗り込んで、そのまま動かす代わりに完全な没入体験として各種の訓練を行う……グランゼーラの彼らがイメージファイトと呼ぶシミュレーターがあるんです。彼の専用機にも搭載されているそうで」

 

「感想はどうだ。アイツみたいな実力のやつが量産出来るような代物なのか?」

 

「継続の賜物ってところでしょうか。とにかく戦闘訓練が過酷で、一瞬でも気を抜いたら即撃破扱い……そもそも要求される反射神経のレベルが数段違いますし、何を想定してあんなものを作ったのか分からないくらいですね。

 他にも災害救助を想定したシナリオもありましたし、まさか体験して早々にそれが生かされるとは思いませんでしたが……」

 

「彼はそのイメージファイトなるシミュレーターを、ISの適性が分かる前から続けていたと……何故そのようなことを?」

 

「曰く、元々彼の仕事がIS用シミュレーターのテスターだったそうで。元から一番スコアが高かったから採用されていたそうです。何処までが真実かは分かりませんが……」

 

 楯無は再び携帯端末を操作して、表示される画像を変更する。次に映し出されたのは、グランゼーラの格納庫に並ぶOF-3や、発表会に訪れた重鎮の姿、誰かの自室と思われる写真など、今回の護衛で撮られたものだった。

 

「これが彼の新しい専用機……次期第2世代量産機のOF-3だそうです」

 

「相変わらずの古めかしいデザインだな」

 

「この参加者の面々……グランゼーラが防衛省系の官僚と仲が良いというのは知られていることですね。しかし、新型機なのに今更第2世代なのですか?」

 

「サンデーストライクの更新機体のつもりのようです。

 今なおサンデーストライクのシェアは世界3位。ほぼ同じ操作系で動かせる高性能機なら今からでも売れると考えたのかも知れませんね」

 

「操作系が同じ……。通りで、戻って早々乗り回してますよアイツ」

 

「――は?」

 

 OF-3の写真を見上げながら呟いた千冬に、楯無は信じられないものを見るような目を向ける。

 自分だって疲れて今すぐ寝たいくらいなのに、昨日から寝ていないというショウの疲労は想像もできない。

 ……そんな人間が、乗り回す? ISを?

 

「寮長室で少し話したんですが、そのときにこの世の終わりみたいな表情で、アリーナを使わせてくれと……休めと言っても聞かないので制限時間厳守で使わせています」

 

「今すぐにでも止めさせられませんかソレ……現在の彼にISを使わせ続けるのは、ちょっと」

 

「……昼の地震、ですか」

 

 十蔵が目を細めると、空中ディスプレイの内容が切り替わる。既にニュースになっている、崩落現場の空撮や被災者へのインタビュー画像が主だ。

 

「気象庁曰く、新規断層による局所災害だそうですが……とんだ災難でしたね更識さん。

 沢村さんと救助に当たっていたそうで、夕方に消防庁から感謝の電話がありましたよ」

 

「それは、どうも……ただ、現場で真っ先に動いたのは彼なんです。国際法で禁じられているのを分かったうえでの行動というよりは、もっと衝動的な感じで」

 

 楯無は当時の様子を語る。行動こそ正確で丁寧だったが、開放回線(オープン・チャネル)越しに聞こえてきたショウの声は半狂乱で、救助が終わって学園に戻ってくる間でさえ精神状態が不良だったと。

 初日の本社前での行動も目立った。楯無の制止を無視して動いてデモ隊を突破し、結果として車を乗り換えることになった。

 そして、乗り換える前の車は……。楯無は顔を振って余計な考えを捨てる。

 

「無断でのIS起動に関しては、国家代表たるあなたの指示だったという建付けで報告しますから、心配には及びませんよ。

 ああ、それと、救助活動の件で取材が入ってしまったので明日対応をお願いします」

 

「お気遣い、痛み入ります。取材の件も了解しました。ただ……」

 

「『突発的な行動が目立つ』、か……こっちに居た間はそんな事していなかったんだがな。むしろ思慮深すぎるくらいだ」

 

「急に立ち止まって何かに怯えだしたり、地震の後も俯いて何かブツブツ呟いたままでしたし……。

 何が原因かは知りませんけど、睡眠不足で幻覚を見ているとか、そういう可能性を排除する意味でも今は休ませるべきかと」

 

 その後も会談は続き、一夏とショウ両名に対する今後の対応が話し合われた。

 

 


 

 

――はあッ!? いやだって、時間ならまだ」

 

 誰もいない深夜の第6アリーナ。ナイター照明に照らされながら縦横無尽に飛び回るOF-3の中で、ショウは声を荒げた。

 

『楯無から聞いたが、お前寝てないらしいじゃないか。何に困ってるか知らんが、そんな状態での操縦訓練に意味は無いぞ』

 

「そんなこと気にしてられる状況じゃあないんだって……なあ、頼む。あと少し、ほんの少しだけ」

 

『理事長命令だからどうにもならん。今は戻って休めよ、新しいおもちゃを試したいならまた明日にすればいいだろう』

 

 「じゃあな」とだけ言い残して切られた千冬との通信に、ショウは名残惜しそうに呻いた。続けてナイターが消えて、夜間灯にぼんやり照らされたピットへの隔壁が開かれる。

 現場の全てが、ショウに帰れと言っているようだった。

 

「時間が無いんだよ、いつまでかも分からないのに……! ああ、クソ」

 

 誰の目もないアリーナの中心で、ショウは忌々しげに呟く。

 空中で佇むOF-3の顔面――ラウンドバイザーが不規則に明滅していた。

 

 


 

 

 翌日夜8時。

 純白色のLED灯に照らされたIS学園の正面ゲート前には、高い位置で結んだツインテールの黒髪を湖風に靡かせながら1人の少女が佇んでいた。

 長旅で疲れた首を一回しすると、金色の髪留めが一層強く、ギラリと輝く。

 

「ふうん、ここがアイツのいる……」 

 

 その手に持った大容量のボストンバッグは、少女の小柄な体型に似合わぬ大きさで、中身は荷物で膨れ上がっている。持ち手に付けられたバゲージタグは海を越えた証であり、空港から直行したために剥がす間もなくそのまま貼り付けられたままだった。

 

「で――受付行くんだっけ? どこよ、それ……」

 

 少女はポケットからくしゃくしゃになった一枚のメモ紙を取り出して広げる。画数の多い漢字を走り書きで書いたものだから傍から読めたものではないが、自分の字だから少女には問題にならなかった。

 大雑把にして活発。それが彼女の気性である。

 

「本校舎一階総合受付総務部……だからそれはどこにあんのよ。あンのクソ役人……行き先だけじゃなくて道筋も説明しときなさいっての!」

 

 出国前に受けた政府の役人の説明を時間が無いからと書き留めた内容だったが、そもそも説明されなければ書きようが無い。

 少女はグシャリと紙を握り潰してポケットにねじ込むと、バッグを抱え直して歩き始めた。

 

「言われずとも自分で探してやりますよォ、自分で……」

 

 文句を言いつつ足は止めない。

 考えよりも身体が動いてしまう性分ゆえに相応の苦労もあったが、現時点で彼女に生き方を変える予定は無い。

 何よりも行動を優先する、一種の考えなしだが決して鈍いわけではない。言うなれば天才肌。

 

(……ったく。出迎えナシとは聞いてたけど、学園側だって不親切が過ぎるわよ。あたし、これでも代表候補よ? 国の代表で来てるのよ? 相応の扱いってモンがあんじゃないの!?)

 

(政府のアホ共だってそう。曲がりなりにも代表を送り出そうってのに、最低限未満の情報と荷物持たせて国外に放り出すとか……ホント死んでるわウチのモラル)

 

 苛立たしげに細められた目は日本人のそれよりも少し切れ長で、艶やかな濡羽色の瞳をしている。彼女の故郷は中国だった。

 

 しかし、彼女にはもう1つの故郷――日本がある。物心付いてからの大半の期間を過ごし、中学2年の頃に親の都合で帰国してから約2年。少女は再び日本の土を踏んでいた。

 

 分からないなりに学園の敷地を歩き回りつつ、少女は他の人間を探していた。少女の求める簡易地図の描かれた看板を綺麗に避けるルートで歩いてしまっているため、案内してくれる人が必要だったのだ。

 しかし、今の時刻では自由に敷地を歩き回っているような人間はほとんど居らず、それもやはり少女の致命的なルート選択で回避されてしまっていた。

 

(あー面倒くさい。もう飛び上がって上から探してやろうかしら――)

 

 少女は一度立ち止まって、右手に嵌められたブレスレットにチラリと目を向けた。

 黒を基調として、マゼンタカラーの線が彩るように刻まれているそれは、一見して単なるアクセサリーの類である。

 しかし実際はISの待機形態。唸るチェーンソーを押し当てられたって傷一つ付かない代物だ。

 

 代表候補生の中でも期待される立場にある彼女には、専用機が与えられていた。

 ()()()()()()()()()()()という自分のアイデアを一瞬名案と思うも、無断でのISの起動は国際法違反である。それは学園内でも同様で、正式な入学手続きすらしない内にそれをすればテロリストも同然である。

 

(まっ、あたしは偉いから? 自重してあげるのもやぶさかではないけど?)

 

 にへ、と笑みを浮かべて少女は再び歩き出す。

 直前まで静止していたボストンバッグの慣性で身体がフラリと揺れた。

 

「おっとっと――きゃッ!?」

 

 だから、ボストンバッグに気を取られたその一瞬、少女は周りが見えていなくて。

 

 何かにぶつかった。倒れる。

 

 直後に肩を掴まれた。

 

「一体どこ見て歩いてんの、よ……?」

 

 肩を掴んでいたものを振り払って、その根本の方を見る。

 少女は最初、顔が見えなかった。白いIS学園の制服がそびえるように視界を埋め尽くし、ほとんど真上まで顔を向けなければその正体が分からなかったのだ。

 

 真上の宵闇と区別が付かないほどに暗い瞳に、濡羽色をしたセミロングヘアーの、長身の男。首に引っ掛けたワイヤーには、透き通る緑色を銀色で囲った直方体のペンダントが付いている。

 そこまで来て、少女はこの男が自分を転ばないように抑えていたことに気付いた。

 

(IS学園には女しかいないはず。そして知る限り例外は2人。1人がアイツなら、目の前のもう1人は……)

 

「――ああ。悪い」

 

 抑揚の欠片もない、平坦で虚ろな声。男は短く謝罪して歩き出そうとする。

 あまりにも浮世離れした雰囲気に、少女は一瞬硬直してしまった。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 だが少女は諦めない。去りゆく男の肩を、今度は逆に掴んでやる。

 この男は探し求めた第一村人ならぬ第一生徒である。ここで取り逃せば、後どれほど学園内を彷徨うことになるか想像もできないのだ。

 少女はたくましかった。

 

「あたし、転入してきたんだけどさ、本校舎一階総合受付ってどこにあるか知らない?」

 

「……」

 

 男は振り向くこと無く、そのまま無言でウエストポーチからスケッチブックとペンを取り出して、何かを書き始めた。

 ペンを単に振り回しているだけにすら見える素早いペン捌きの後で、紙を引き裂く音が小さく響くと、男の手に1枚の紙切れが掲げられた。

 渡すというよりは、虚空に向かって突き出しているような感じ。

 

「え? あ、ああ……ありがとう?」

 

 少女は恐る恐るその紙を手にとって、街灯の白い明かりで照らしてみる。そこに描かれていたのは、精密な地図だった。

 現在地から目的地の本校舎までどれだけ進めばいいか、ランドマークを幾つか添えて迷いづらいようになっている。しかも、右下には縮尺まで書かれていた。

 

(手描きで縮尺? ていうか、まるで店売りの地図ねコレ……)

 

 何はともあれ、これがあれば迷うことはないだろう。ボストンバッグを抱え直した少女は、男にお礼を言おうとして――いない。

 

 周囲を見回すと、遥か遠く100m程の所を男が歩いている。地図を渡して早々歩き去ってしまったらしい。

 だがやはり少女は諦めない。夜なのも気にせず声を張り上げた。

 

あたしッ、凰 鈴音(ファン リンイン)! 地図ありがとう!

 

 少女――鈴音の声が聞こえたのか、男は歩く姿勢そのままに右手をゆらりと振ってみせた。

 

 

 

 

 無事にたどり着いた窓口で入学手続きを手早く済ませた鈴音は、学生寮にある自分の部屋の前に立っていた。

 

「……よし」

 

 ルームキーの番号とドアに記された番号を見比べて、鈴音はノックの後勢い良くドアを開けた。

 

「はじめまして。あたし、中国から転入してきた凰 鈴音っていうんだけど、この部屋の番号ってコレよね?」

 

「あら、はじめまして。私はティナ・ハミルトン、ティナって呼んで。

 番号はそれで合ってるから……あなたがルームメイトってことね」

 

「改めて凰 鈴音よ、(りん)って呼んで」

 

 ぱちん、と2人で握手を交わした後、ティナと名乗ったアメリカ人の少女は、鈴音に部屋の内装や使い方を案内する。それから手荷物をある程度片付けたところで、話題は学年の話に移った。

 

「――で、イチカ・オリムラがもう一人のショウ・サワムラに勝ったのよ」

 

「へえ、アイツ、そんなに強くなってたんだ……」

 

「親しそうだけど、知り合い?」

 

「幼馴染みたいなものかな、一時期同じ学校に通ってたんだよね」

 

 鈴音はここ数ヶ月と同じように、かつての出来事を思い出す。

 

 親の事情で小学校へ転校して早々、鈴音は学校で虐めを受けた。

 

 きっかけは、クラスのいわゆる「ガキ大将」に鈴音が食って掛かったこと。

 男だから。腕っ節が強いから。大体そんな理由で偉そうに他のクラスメイトに威張り散らしていたその男子が、クラスに入ったばかりの鈴音は気に入らなかった。

 だが、悲しい哉。腕っ節の強さは確かに真実で、中学生の鈴音の体格で勝てる相手では無かった。口より拳の方がずっと速いのはどの世界でも変わらない。

 

 そうして鈴音がその男子に負けた後、彼女は日常的に揶揄われ、時には無視を受けた。物を取られたり隠されたりしたことも数度ではない。

 ――コイツはパンダ女なんだぜ。

 ――動物園の動物に触っちゃいけねえよなあ?

 ――オイ、飼育員さんに逆らってんじゃねーよパンダ。

 

 「中国=パンダ」という子供の狭い見識に由来するステレオタイプと、クラスで一人だけ日本人ではないという物珍しさ。

 

 誰も助けてはくれなかった。触れようともしなかった。

 

 そんな中、ただ一人、顔も大して合わせていないのに助けに入ってくれたのが、隣のクラスの一夏だった。

 ――女の子に何してんだテメエッ!

 ――お前らも恥ずかしくねえのかよ、寄って集って一人虐めて!

 

 その後、いじめは無くなった。

 一夏やその友人とつるむようになってからの日々は、今でも忘れられない思い出だ。 

 

 そんな一夏がIS学園にいると聞いて、わずか数ヶ月で代表候補の座を、そしてIS学園への切符を勝ち取った努力家が鈴音である。

 

「へえ、他にも幼馴染がいたんだね。運命的ってヤツ?」

 

「――え、()()()?」

 

「うん、1組のホウキ・シノノノって子。最近はアリーナで一緒に特訓してるみたいだよ。月末のクラス代表対抗戦に向けてだろうけど……」

 

「へえ……」

 

 鈴音は全身の血液が冷えていくのを感じていた。

 

 確かに一夏はここにいた。

 どんな再会になるだろうか。第一声はなんと言ってやろうか。

 そもそも自分のことが分かるだろうか。仮に分からなかったら、あたしが美人になったってことで――。

 

 鈴音の脳裏に広がっていた、そんなお花畑がボロボロに崩れていく。

 ――誰よ、その女。名前からして、()()篠ノ之か? いや、そんなことより――。

 

 ――あの男は自分が死に物狂いで努力している間に他の女とイチャコラしていたと?

 

「――ねえ、ティナ」

 

「ん、なに? なんか雰囲気怖いけど……」

 

「2組のクラス代表の部屋ってどこだっけ?」

 

「それ聞いてどうするの……?」

 

「お願いしてこようかなと。代表をあたしに譲ってれないかって……」

 

 ニッコリ笑顔を貼り付けた鈴音の額には、くっきりと青筋が浮かんでいる。

 どこの国の誰が見たってこの表情を笑っているとは思わない程に分かりやすい顔。

 

 確かめねばならない。一夏という人間が、自分の知るままなのか、否なのかを……。

 

「いや、それ、私だけど……」

 

「じゃあ、譲って。これでも代表候補だし、専用機もあるの。何なら勝負で決めたって――」

 

「――え、専用機!? Really(マジ)!?」

 

 突然の大声に気圧されて、僅か1分足らずで鈴音の青筋は引っ込んでしまった。

 ティナは目を輝かせて彼女を見つめている。それはまるで、探していたものが突然目の前に降って湧いたような……。

 

「じゃあこっちからお願いしちゃうよ。What a relief(ホッとした) ~!

 いやね、入学初日に私が代表候補だって言ったらクラスのみんなに押し付けられちゃってさ。ヘンに期待されてるけど、専用機も無いのに訓練機でイチカに勝てるワケないって……」

 

「じゃあその……渡りに船って感じ?」

 

「まさにそんな感じ。だから、お願いしていい?」

 

「OK、交渉成立ね」

 

 がしっ。鈴音とティナは再び、そして先程よりも力強く握手を交わす。

 古今東西、握手は友情の証である。今宵ここにも、女子の友情が刻まれた。

 

「あ、ちなみに対抗戦の景品は食堂のスイーツ半年パスだって」

 

「あー……そりゃみんな期待するわけだわ」

 

 


 

 

こんかいのまとめ

 

 

 

・コウスケ&ハルカ

 

 グランゼーラ組。

 地震による高速道路の通行止めに伴って物流に障害が出ている中、ショウの身を案じている。

 身体は無傷らしいけど、中身は……。

 

・千冬

 

 必死の形相でアリーナを使わせてくれと頼むショウに快諾するも、ショウの精神状態を聞いて即止めさせるフットワークの軽さ。理事長の命令だからね、仕方無いね。

 ショウが寝ているところを見たことがないが、千冬より遅く寝て早く起きているだけだと思っていた。

 ブラコン煽りされて飛び出す暴力は恥ずかしさの裏返しか、それとも怒りか。

 一夏はやらんぞ?

 

 

・十蔵

 

 IS学園を裏で牛耳る真のボス……ではあるが、学園で起きる出来事の時間帯によっては把握が遅れることも。

 真耶とショウの試合のことは千冬が出来るだけ秘密になるように計らったため、今回まで知らなかった。

 

 

・楯無

 

 情緒不安定な人間の真横に置かれ続けて疲労困憊。それはそれとして心配ではあるが、静観するか干渉するか迷っている。

 一夏のことも気になっているので、一旦そちらに目を向けるべきか。

 日曜に行われた災害救助のについての取材内容は、翌日すぐにニュースになった。

 

 

・ショウ

 

 地震のことはもう終わったこと。

 今は何より時間が無い。灰色に呑まれていく景色に、どこへ逃げれば良いのかも分からず足掻く日々。誰も行けない場所など、どこにもないのに。

 雑な落書きだったが持っていかれた。本当にいたのかなあ?

 

 

・鈴音

 

 満を持してないけど登場。

 見事にクラス代表の座に就くことに成功。デザート半年パスの命運はキミの手に。

 一夏の噂にキレつつ、それでも会うのが楽しみ。早く明日にならないかな。

 

 

・ティナ

 

 こういうの日本語だと「棚からぼた餅」っていうんだっけ?

 専用機持ちがいない2組で、代表候補だと自己紹介したらクラス代表を押し付けられてしまった可哀想な子。流石にワンパン食らいかねない相手と戦うのは御免被る。

 意欲と専用機を持った鈴音との出会いはまさに救い。だって面倒くさいし……。

 

 




 やっと鈴が出せたよ! ほめて!!!!!!

 事後処理回です。
 災害救助とはいえ、勝手にISを使うのはマズいよね……という設定に対するアンサーとして「権限を持った人間がその場にいた」という形にしました。スパイやってる割に国家代表で顔が売れてそうな楯無のことなので、ニュースに出るくらいのことはあるだろうなと思ってます。

 改めて鈴がようやく登場。
 原作だとクラス代表を譲ってもらうとしか書かれていなかったので、どんな感じだったのかを勝手に補完してみました。
 ティナに関してもかなり捏造していて、「専用機がないアメリカの代表候補」ということにして特徴を増やしました。

 気付けばR-TYPE TACTICS I・II COSMOSの発売が延期してる……。
 生放送で流れたトレーラーで興奮しつつ、描写も幾らか思いついたのでまだ耐え……?

戦闘シーンは……

  • なんぼあっても困りませんからね
  • 戦ってねえで話進めんしゃい
  • そんなことよりおなかがすいたよ
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