Infinite stratos / False prophecy 作:✕せんたくだま
壁から生えた臍帯に
赤子の声が木霊する
どちらが親かは分からねど
産声だけは止め処なく
2022/02/16 AM10:24
『あの、あの、もしもし』
『そちらに沢村ショウっているでしょう? あの2人目』
(12秒間の無音)
『私、あれは[判別不能]てしまったほうが良いと思うんです。あんな気持ち悪いもの、1つで十分でしょう?』
(15秒間の無言。背後で聞こえるのはお経?)
『呼んでいただければ、それはこちらでやろうと思いますので。ハイ』
『よろしくどうぞ』
2022/02/17 AM2:38
(42秒間に渡り無言。約1秒周期の電子音のようなものが聞こえる)
『……ヲハヨウ』
2022/02/17 PM14:11
(5秒間無言。物音あり)
『あの、もしもし。2人目が見つかったんですよね』
『おれ、期待してるんです。特別なひとじゃなくてもISに乗れるって』
(3秒間無言。発信者のものでない声がするが物音により聞き取れない)
『木星行きたいですよね、ありがとう』
2人目の男性操縦者が見つかってから約一週間。グランゼーラは相変わらず――否、より一層騒がしくなっていた。
「機密保護」を謳った速川たちの努力は欠片程度の効果しか無く、3日目の2月15日頃には既にグランゼーラへの鬼のような着信の嵐が始まっていた。
規模を問わずマスコミの取材依頼、某国の大使館を名乗るもの、企業からの一方的なセールストーク、個人的なもの、市民団体による業務とは無関係のクレーム、よくわからないもの……統計でも取ったら何かの研究に使えるかも知れない。
ショウがグランゼーラの建物内を散歩している際に受ける他の職員からの鋭い視線の割合は、日に日に増加していくようだった。同じ組織の人間が少し特別だっただけで、今や業務に支障が出る程の電話対応に追われる羽目になったのであるから、ある種仕方のないことではあるだろう。
もっとも、ショウはそんな視線に気付かない。どうでもいいからである。
かく言うショウの業務用端末――貸与された安物のAndoroidにも同様の
一通一通を紙の手紙にしたら、それこそダーズリー家みたいなことになりそうなデータ量に端末は耐えられなかった。
一体どこから連絡先が漏れたのやら。
今やショウの信じられる端末は、root化してセキュリティ面を弄り倒して遊んだ個人用端末とそのアカウントのみであった。しかし、これが侵されるのもきっと時間の問題だろうと思うと、ショウはため息を我慢できない。
◆
スッスッ、ハッハッ……。
グランゼーラの一角、トレーニングルームには規則的な2呼2吸の息遣いと軽やかな足音が響いている。一面窓ガラスになっている壁に向けて並べられたトレッドミルの内、1つだけが動いている。
断熱性能の高い二重窓の向こうには、雪化粧を纏った山々と、それを借景にした小さな庭園があった。朝日を受けて輝くその景色を漠然と視界に入れながら、ショウがジョギングをしている。ビュウ、と外で風が一迅駆けて、窓を揺らした。
スッスッ、ハッハッ……。
左腕に付けたスマートウォッチと連動しているトレッドミルの画面によれば、心拍数は毎分120回。適切な運動強度だ。
今のショウは暇そのものである。平生のテストパイロットの仕事といえば、まず何よりも機体のテストだ。だが、肝心のワルキュリアは改修中で使えず、乗れることが分かったISについても、改修に使われているもの以外のコアはここにはない。今頃、日本のどこかで見知らぬ男にペタペタ触られているのだろう。
しかも、ワルキュリアが使えないということは、イメージファイトもできないということである。普段なら、隙あらばワルキュリアに閉じ籠もってシミュレータに興じるショウだが、今はそれさえ許されないのだ。
スッスッ、ハッハッ……。
かと言って、何もすることがないわけではない。
今日も昨日も一昨日も、沢村ショウとの面会を求める政治家やら海外の政府関係者やらとの会談に呼び出されては、あれこれ要求を聞かされて、琉球王朝めいた牛歩戦術でお帰りいただく日々が続く。今はその間の空き時間に過ぎない。
仕方がないので、両耳を挟むように付けた骨伝導イヤホンから流れる音楽に身を任せつつ、黒いセミロングの髪を上下に揺らしながら、体力が落ちないようにランニングをしている。普段からテストパイロットのすることの一環なので、特別なことはない。寧ろ精神統一になった。
――ぷにっ。
突然にショウの左の頬が、細いもので突かれた。
「おはよ。捗ってる?」
「……おはようございます」
ショウが器用にも足と呼吸を乱れさせずに返事をすると、頬を突いた指の主――「
長い栗色のポニーテールに左目の泣きぼくろ、上品な濡羽色の瞳が特徴の彼女は、ショウと同じく運動用の軽装だ。
ショウと並ぶ身長に、引き締まったハムストリングスや腹筋が眩しいが、今は2月。傍から見ると寒そうだ。もっとも、トレーニングルームには暖房が効いているのでそんなことはないのだが。
周防はショウの頬から手を放すと、やや間を開けて隣のトレッドミルを動かした。まずはウォーキングからだ。
「相っ変わらず冷めてるよねぇ、キミ。IS、動かしちゃったんでしょ?」
「いつも通りですよ。世界で2人目らしいですけど、実際は大して変わらないもんです」
ベルトの速度を上げて走り始めた周防は、ふぅん、と声を漏らす。そこから数分、トレーニングルームには二人分の規則的な息遣いが響いた。
周防はグランゼーラの擁するテストパイロットの一人だ。ショウと違うのは、普段扱うのがISであること。
サンデーストライクの発売以降も続けられている新型機の開発や、現在のグランゼーラの主力産業であるIS用パーツのテストに携わっており、時々ショウとも一緒に仕事をする間柄だ。扱う機体を十全に扱えるよう、普段から鍛えておく必要のあるテストパイロット同士、トレーニングルームで顔を合わせることは特段珍しいことでもなかった。
「……時に沢村くんさぁ、暇だったりする? 私も結構暇してんだけどさ」
周防もまた、ここ二週間ほど暇であった。理由は勿論、男性操縦者騒ぎである。ISを駆るのが仕事の彼女であるが、その普段使うISのコアはショウが見つかる前から出張中である。開発にしろテストにしろ、できることがない。
「いつ変な会談が入るか分からない状況を暇と呼んで良いなら、そうですね」
「んもー、ちっとは柔らかくなりなよ~!」
ショウのトレッドミルの操作パネルに、左からぬっと手が伸びてきた。ピッ――そんな音と共に、ベルトの速度が急上昇する。
「――わぁっ、ちょっ、何すんですかあッ!?」
「わーっはははははっ! その鉄面皮、剥がしたりぃ~!」
自分のトレッドミルも同じように操作していたのか、軽やかに駆ける周防は大声で笑った。二人揃って全力疾走である。
数値上で100m程走ったところで、ショウは両側の手すりを使って身体を持ち上げると、トレッドミルから降りた。そのままへたり込むように膝を突く。利用者が居なくなったのを感知したトレッドミルは、自動的に停止した。
「はあ……はあ……スオウ、ざん゛っ、はあ……アンタ゛……何考え……うえぇっ」
息も絶え絶えのショウを見て、少し遅れて周防もトレッドミルを停止させて降りてきた。ショウよりも後に走り始めたとはいえ、全力で走っていた時間は周防の方が長かったはずだが、その足取りは軽い。
「たまにはガチで走るのも悪くないでしょ? 色々ウンザリしてるだろうと思ってさ」
倒れない程度に呼吸を整えたショウは、半ば逃げるようにヨロヨロと壁際のベンチまで這うと、両腕を投げ出すように突っ伏す。それから、その上に置いてあった自分のウエストポーチに手を突っ込んだ。
相変わらず息は荒く、言葉が支えた。
「そ、そりゃウンザリしてんのは、っ事実ですけど。どうにもならん、でしょうが……」
「実際問題はね。でも、気の持ちようでちょっとは変わるよ?」
「……さいですか。それで、要件は?」
呆れたような声で返事をしたショウは、ウエストポーチから手を引き抜く。その手にあったのは、長方形をしたビニール製の小袋だ。表面には、行書のフォントで「本わさび」の文字が描かれている。
ショウはマジックカット加工の施された端を引き裂いて口に含むと、中身を流し込む。
「ああ……キマるぅ……」
仕事柄、周防はショウのことを幾らか知っている。ショウが正式にテストパイロットに就任した2年前から、会う頻度こそ低いが弟分として可愛がっていたところもあった。だが、これだけは何度見ても慣れることがない。
事あるごとに山葵を摂取しては、涙を流して「キマる」なんて口走るその姿は薬物中毒者か何かにしか見えない。だが、こんなものでキマるのは世界中探してもこの男くらいのものだろう。男性操縦者としてはナンバー2だが、その前からこの男はオンリー1である。
本人によれば仄かな甘味に脳が痺れ、しかも疲労が飛ぶとのことだが、全く分からない。なんで山葵……?
「フー、スッとした」と、ショウは何事もなかったかのように立ち上がって、改めてベンチに腰掛けた。それを見て若干――これでも大分我慢している方である――引いた周防は、スポーツドリンク入りの水筒を持ってくると、その隣に座る。
「コアが無くなっちゃったから私たち暇でしょ? またネオンちゃんに武器開発しないかって誘われててさあ……」
「開発ったって、テストの仕様が無いじゃないですか。
……まさか手持ちとかスタンドでアレのテストするんですか? あの火力バカの作品を?!」
「そこは案出しの段階までだってさ。てかここで『火力』なんて言ったら……」
「あ」
世界中どこへ行っても都市伝説というものはあるが、それはここグランゼーラにおいても同じことだ。もっとも、これに限っては再現性のある事実なのだが……。
――たんたんたんたんっ……。
噂をすれば影が差す。英語にして"speak of the devil"。
廊下の方から、小学校の運動会で使われるピストルのような音が連続して響いてきた。そしてそれは段々と大きくなる。
「かぁ〜りょ〜くぅ〜!!!!」
バァンッ、とトレーニングルームの扉が開け放たれ、声の主の姿が明らかになる。
真紅の眼鏡に、ミディアムヘアーを彩る空色の髪留めが特徴の、背の低い女性。
羽織るように着た白衣と、その下のTシャツにはでかでかと「I♡FIRE POWER」の文字。そんな格好の人間が、ラーメン屋の店主の写真よろしく腕を組んで立っていた。
「誰か火力って言いましたよね!?」
「言ってないです」
「言ってたよ~」
「ほら火力ッ!」
スビシっ……そんな音が聞こえそうな勢いでショウたち二人を両手で指差す女性。名を、「
ショウがISを動かした際にも居合わせた、グランゼーラの開発者だ。
平時こそ大人しい彼女だが、「火力」という言葉を聞くと即座に豹変。火薬狂として覚醒してしまうのである。その執念は凄まじく、グランゼーラの敷地内ならどこでもその3音節を聞き逃さず、特徴的な足音で追い詰める。ちなみに靴は特注品で、走る際にピストルのような足音になるように拘ったのだという。
実のところ、ショウが誘いに乗る乗らないに関わらず周防が下瀬を予めここに呼んでいたのだが……カリョクなんて言ってしまったのが運の尽き。哀れショウと周防は下瀬に引き摺られ研究棟に連行されるのであった。
◆
ISに限った話ではないが、武器開発というのは、とりあえず作ればいいというものではない。
試合用を前提とした開発を行う場合、国際IS委員会が提示するレギュレーションを熟読し、それに違反しないように設計や仕様を決めなければならない。ISバトル黎明期と比べれば落ち着いたとはいえ、今尚レギュレーションはそこそこの頻度で改訂が入る。結果として、一度準拠したものが完成したと思ったら次の瞬間には使えなくなっていた……というのも、ままある話である。
下瀬の得意とする炸裂系の武器はその傾向が強い。
単発の火力を追求するグレネードのような武器は、基本的にレギュレーションが許すギリギリまで火薬を搭載する場合が多く、それ故にレギュレーション更新でギリギリアウトとなるケースが黎明期には多く見られた。大抵の場合、すぐに火薬の種類と量をレギュレーションに合わせたものに変えるのだが、それによる弾体の重量の変化により使用感が変わることも多々ある。ISによる補正があるとはいえ、アスリートたるパイロットたちにとっては死活問題だ。
しかも、一発ごとの弾薬費も無視できるものではないので、折角買った弾薬が次の試合で使えなくなればまさに大損である。物が物なので返品を受け付けない企業も多い。
故に現状、グレネード類はミサイル等と並んで、あらゆる武器種の中でもっとも気難しいものの一つに数えられる。
「――で、今度は何しようってんだっけ?」
「火力ですっ!」
「いやいつもそうだろうが……」
この火力モードはいつになったら解除されるんだろうか。ショウは下瀬の地獄耳に引っかからない最小の声量でぼやいた。
下瀬の活動場所である研究棟の一室は、建物の中でも一番端にある。理由は勿論、危ないから。
本棚に挿し込まれた無数の紙資料と設計図が壁を埋め尽くしている中で、下瀬は「火力=正義」とペンで殴り書きされたホワイトボードを後ろ手でバンと叩いた。
「では第六回、『なぜ4連装グレネードが売れないのか』対策会議を始めます!」
「いえ~い!」
事の発端は、下瀬がかつて売り出そうとして、結果没になった携行武装の4連装グレネードキャノン「BELL BIRD」*1だ。
当初意気揚々と上層部に企画書を提出した下瀬だったが、本体が明らかに重く拡張領域を圧迫しかねない点などの理由から却下を食らってしまう。下瀬が泣く泣く規模を半分にした2連装の企画書を再度提出したところ、晴れて製品化が決定、実際に売り出されることになった。
「というわけで意見があればどうぞ」
「はいは~い! 名前を軽くした方が売れると思いま~す! ハチドリで売れたんだし、ライフルマン*2とかどうでしょ」
下瀬にとって気に食わないのは、売り出した2連装グレネードキャノン「HUMMING BIRD」――製品化の際に気付いたら勝手に名付けられていた――がそこそこ売れてしまったのと、とある日本の代表候補がそれを2丁担いで好成績を残してしまったことだ。
だったら最初から4門でいいじゃん……そんな下瀬の悲痛な叫びが、参加者を毎度変えながら行こなわれるこの会議である。巻き込まれた側は堪ったものではないが。
「なるほど……でも火力に見合った名前じゃないと合わないのでダメですね!
あとライフルは誉れがないです」
「そっか~ダメかぁ!」
「ほ、誉れ……?」
知能指数が低いんだか高いんだか分からない会話を繰り広げる2名に、ショウは呆れたように天井を仰ぐ。そこには何かの構造式がでかでかと描かれたポスターが数枚貼り付けられていた。立方体とその各頂点にニトロ基が描かれているものがオクタニトロキュバン*3であることはショウにも分かった。察するに残りのものも何か火薬の類なのだろう。
「――はい沢村さん速かった!」
そんなショウに大喜利の司会者よろしく発言を促す下瀬。その目は期待に輝いている。
ショウは別に手など上げていないが、そこはツッコまない。無意味だからである。
「えぇ……弾持ちが悪すぎるのがいけないんじゃないんすかね。16発積んでも4回しか打てないんじゃ使う側も安心できないかと」
「その4回で仕留めれば良いのでは……?」
さも当然といった様子でキョトンとする下瀬。その脳内には「全弾命中」の4文字しかあり得なかった。
どうせ弾速が遅いのは榴弾の宿命なので、当たった場合のことだけ考えれば良い……そんな過激思想がグランゼーラではどういう訳か今日までまかり通ってしまっているのだが、その境地に到れる人間は当然少ない。
「一発入魂――火薬一粒一粒に神様が宿ってるんですから、外すなんてまさに冒涜ですよ。
やっぱり沢村くんは火力の何たるかを理解できていないようですね。特別な稽古を付けてあげましょう!」
「いえ遠慮しときます……」
「嫌って言ってもするんですよ火力……」
「おらおら火力~!」
後退りするショウにジリジリと迫る下瀬と、悪ノリして同調する周防。
戦力比は2対1。戦いは数である。
「やめてくれよ……」
その後研究棟にはショウの悲鳴が響いたとか響かなかったとか……。
422:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:20:05 ID:/zaQ8deDu
つーか二人も見つかったんだし、三人目も見つかるって話じゃなかったのかよ
423:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:20:32 ID:SjouULo0i
>>422
二人目までで政府も学習したんでしょ、確実に隠してる
424:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:21:00 ID:rCRHjjz1z
てか見つかったっていう沢村の垢、あれマジモンなの?
毎日パックわさびの写真上げてる辺りガチのやつにしか見えないんだけど
425:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:21:27 ID:DTYAULuS7
異常者ならさっさとバラして因子でも何でも見つけて欲しいわ
職場の雌共とシノカスをぶちのめせるなら何でも良い
426:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:21:55 ID:q4R3K8pm5
なんか最近変なニュースばっかよな
この前なんか気象庁のレーダーぶっ壊れたりとかしてたし
427:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:22:21 ID:CkUXG0vH/
全部シノカスの仕業だよ
そうに決まってる
428:名無しのジャッコス 2022/2/23 2:25:41 ID:qxR3aWGzu
>>424
織斑一夏の垢も未だに見つかってないし、そっち方面の特定はあんま信じられん
下手すりゃ同姓同名の別人って可能性すらある。それはそれでキショいが
429:名無しのジャッコス 2022/2/23 6:13:52 ID:TD2ezSoAL
>>426
ワイもこの前納品予定だった新車乗っけた船が不調で別の港行っちゃったとかで納期大幅に遅らせられたわ
何が不調だよ。キレそう
430:名無しのジャッコス 2022/2/23 10:38:19 ID:a/VeqDqdT
ここは弱者男性が傷を舐め合う場やぞ
外車持ちの強者はカエレ
ずんっ……ずんっ……。
時は進んで3月。
日陰に溶け残ったものを除けば雪の見られなくなったグランゼーラの敷地の一角は、不定期な地鳴りに見舞われていた。
『周防さん、第三パターン行きますよ~』
震源地は敷地の最奥にある試験場。
整地され、高さ1.5mの壁で囲われているだだっ広いだけの空間だが、今はそれを上から覆うように琥珀色の曲面が広がっている。六角形を敷き詰めたそれは、安全な
「はいよ~」
両手に呼び出したのは現在開発中の大口径ショットガンだ。試作品故に型番も無いが、弾薬に使用する最適な火薬のパラメータを決めるべく同じ物が数丁製造されている。いま周防が握るものには弾薬のサンプルナンバーに倣って三番という名が付いていて、つい先程連射時の冷却が間に合わず無惨にも破裂し、地面に転がっている残骸は二番と呼ばれていた。
「そお――れッ!」
純白を基調に各所を赤で彩った、イチゴのショートケーキを思わせるカラーリングのISがスラスターを吹かす。
試験場を覆うバリアと同じく光学ハニカム製のターゲットの群れに飛び込んだ周防は、左右で別々の目標に狙いを定めて続けざまに発砲した。
――ずずん……ッ!
巨大なスラッグ弾が命中したターゲットは食いちぎられるようにして破壊、即座に消滅した。量子化を応用した自動装填装置により、リロードの動作無しで次の射撃が行われる。
型式番号、R-9A3《レディ・ラヴ》。
量産機であるR-9K《サンデーストライク》の開発に際して得られたデータを元に生み出された正真正銘のテストベッドにして、周防の専用機でもある。
製造コンセプトは、「より実際的なテスト環境の提供」。拡張性を重視してほとんど必要最低限のパーツで構成されたサンデーストライクと違い、レディ・ラヴにはイメージインターフェースの一種であるサイバーコネクタを始め、いわゆる第3世代機の要素も盛り込まれている。そのため、レーザー兵器や遠隔操作デバイスのような新時代の兵装のテストを汎用的に行うことができる。
型番にRを冠するだけに、この機体にも淡いピンク色のラウンドバイザーがあり、頭部の保護とHUDの役割を果たしていた。
機体各部の「矢で射抜かれた赤いハート」のペイントやカラーリングは周防本人の好みによる。
「でもって次ぃっ!」
照準とほぼ同時に行われる射撃に少し遅れて、発砲による衝撃が大気を震わせる。
政府への貸与とショウの専用機分の確保によって運用できるISコアの無くなったグランゼーラは、政府に「1つでいいからコアを返してくれ」と要請していた。当初政府の反応は悪かったのだが、上層部が散々ゴネた結果レディ・ラヴの分のコアが返却され、晴れて今日から武装のテストが再開できることになったのだった。
「沢村くん、よ~く見てなよ! これが
射撃を繰り返しながらターゲットの群れを突き抜けた周防は、急に壁にぶつけられたスーパーボールの如く向きを変えて元来た方向へ飛ぶ。PICの機能を完全に使いこなさなければ実現できないこの技は、旋回の瞬間に自機の速さを保存しつつ運動方向のみを変更するもので、例によって古典物理に中指を立てる常識外れだ。まるで鼻歌でも歌うように喋りながらこれを成功させる周防の技量は、まさしくテストパイロットに相応しい優秀さであった。
そのままテストは続き、左右それぞれ15発撃ったところで三番の分の弾薬が尽きた。一定間隔で行われる発射に対して、今度は排熱も間に合ったらしく本体が壊れることはなかった。
『ネオンちゃん、結構良い感じだけどどう?』
性能を思いの外気に入った周防に対し、管制室の下瀬は難しい顔だ。
白いLED式の蛍光灯が天井に付けられた9畳程の真っ白い部屋の壁には、大型のモニタが3台ほど固定されている。画面にはそれぞれ、試験場の様子と、レディ・ラヴから送られてくるセンシング結果、今使われているショットガンの各種パラメータが表示されている。
下瀬が気にしていたのは、3つ目のモニタの内容。特に温度の推移だ。
「うーん、火力は申し分ないんですけど……多分あと2発くらい打ち続けてたら二番と同じことになってそうなんですよね。どうしても蓄熱が問題っていうか……。
今からでも何かしらの放熱パーツを追加するべきですかね?」
『それはそれで重くなりそうだけどね~。取り回し悪くなるのも良くないし。
――で、沢村くん。IS乗るってこんな感じだけどどうだった? 何ならこの後乗ってみない? 今なら手取りあやとりみっちりやっちゃうけど』
試験場壁面のカメラに向かってヒロイックなポーズを決める周防を、ショウは管制室のモニタ越しに見つめる。その目は眠たげだが、これが本人の通常モードである。
「ワルキュリアで同じことができるか分からないんで何ともって感じですね。
……あと、今日はこの後人来るんで遠慮しときます」
『IS学園からだってね。来年度から入学すんのはもう決まったようなものなんでしょ?
可愛いコいたら捕まえておいでよ。今度口説き方教えとくからさ』
「法律」
区分上は高等学校に相当するIS学園は、成人年齢が引き下げられた今でも、その生徒の大半が未成年である。既に成人しているショウが手を出したとあっては、運命の赤い糸よりも先に金属質のお縄が掛かるだろう。
そもそも、生まれてこの方ショウは色恋沙汰に興味を持ったことが無かった。
『……ゴメン、冗談。まあ何にせよ頑張っといで。
ネオンちゃんは何かある?』
そこでこの人に振るのか……?
今度こそショウの目が見開かれる。だが時すでに遅し、火力の申し子はすぐそこに迫っている。
「沢村さんっ! IS学園でもぜひ火力の布教を!
私の後継者として火力の伝道者たり得るのは貴方しかいませんっ!」
「自分でやりゃ良いでしょうがそんなの! セールスでも何でもやり様はありますって」
目を輝かせながら、ショウの手をぎゅっと握って顔を寄せてくる下瀬。むふー、と荒い鼻息が聞こえてきて、ショウは全力で顔を逸した。
全ては空ではなく火力である……そんなことを言う
「やはり実際に使っている人の言葉じゃないと通じないんですよ! さあ貴方も火力ッ!」
『沢村くん、諦めたほうが良いよ~。私もやらされたんだからさ』
ショウと下瀬がせめぎ合っていると、まるで狙いすましたかのようなタイミングで、ズボンのポケット越しにショウの太ももが震えた。
予てより今日来ることが決まっていたIS学園からの使者――それが到着した徴だった。
それを言い訳に「呼ばれちゃったので」と逃げるように管制室を後にするショウを、下瀬と通信機越しの周防は応援の言葉と共に見送った。
◆
試験場に一人、管制室に一人。
一対一になったところで、周防は使い終わったショットガンを端に置きつつ、思い出したように言う。
『あ、そうそうネオンちゃん。久し振りの稼働テストだからさ、オシレーターの動作テストもしときたいんだけど……的出してもらっても良い? できるだけ硬いの』
「わかりました~。私の権限で発射の承認出しときますね」
ありがと、という周防の返事を聞きながら、下瀬は手元のキーボードを弄る。すると、試験場内にいる周防の前方に琥珀色をした半透明の壁が出現する。数は15、奥に向かって厚さを増やしつつ、等間隔に並んでいた。
「動作テストなら
『オッケー、力場形成も問題無いね』
続けて下瀬がキーボードを弄ると、周防は空の両手をだらんと下げて、壁の前に立つ。
『
周防が魔法の言葉を呟くと、それに呼応するように、画面内のレディ・ラヴの周囲に青白い粒子が舞った。
こんかいのまとめ
・周防
ショウの同僚。快活な性格ゆえに誰とでも仲良くなるが、ショウにはダル絡みを繰り返しているため若干避けられている。
テストパイロットを続けているだけあってISの操縦技術は確かで、企業間の交流試合では負け無し。愛機レディ・ラヴは実質2.5世代機。
交際相手がいるらしいが誰もその相手を知らない。
その胸は豊満であった。
・下瀬
脳みそ火薬庫の火力狂い。苦労人には違いないが苦労(させる)人としての特徴も持つ。
信頼性の高い武器を設計することからグランゼーラ内外からの評価は高い。今回テストしているショットガンはKS-23より太いナニカ。
去年、デートに香水代わりに硝煙の香りを漂わせて行ったところ、相手に別れを切り出された。
その胸は平坦であった。
・ショウ
面倒な女二人に振り回されて可哀想な人。今回ばかりは苦労人。
基本的に睡眠とは縁遠いので何時でも眠そうな目をしている。夢が現実で現実が夢。
周防の技能をシミュレータ上で真似しようとして失敗している。
火力とわさび。どちらも刺激的なところが似通っていますね。
本作3番目のR戦闘機の名を冠する機体はR-9A3でした。
前作FINALに続きFINAL2でもパスワードで開放される機体で、切り離しショットの強いスタンダード・フォース改がいきなり使える点では初心者向けな機体と言えるでしょうか(でも今はuso799が……)。
本作ではR-9Kと違って生まれながらのテストベッドとなっています。パイロットの周防と共にイカれた武装をいくつも生み出してきました。
特殊無反動旋回に関しては捏造しました。原作でも名前とほんの少しの動作の描写しかないんだもん……。
同じ旋回技の三次元躍動旋回はどうしようかな。
次回から学園のシーンに合流します。
機体の説明とかいる……?
-
絶対欲しい!
-
あったらうれしい
-
うむっ、緊急連絡だ。