Infinite stratos / False prophecy 作:✕せんたくだま
其は多貌の大公。71に座すも繋がりし数価は74。
36の軍団を従え、あらゆる知識に通じる、真の王国の住人なり。
時を遡ること僅かに5分。
倉持技研第2研究所の付近にある駐車場で待ちぼうけしている楯無が大きく欠伸をした。
「ふぁ、あ……やっぱり急に話進めるの良くないわね。色々スケジュールがぶっ壊れてるし」
これでも学園の盾にして更識のトップ。空き時間をただ待つなんてことはせず、部分展開したISをデスク代わりに、学園から持ち出した分の仕事を進めている。
轡木夫妻の活躍もあって、楯無に回ってくる仕事は平時とさほど変わらない量ではあったものの、それを帳消しにするように彼女がしなければならない裏方の仕事が増えるから困りものである。
「あなたもごめんなさいね、いきなり朝から護送してくれって言ったら早速引き受けてくれて。ホントに感謝してるわ、こんな時だっていうのに……」
「いえいえ、お嬢様にお仕えする身として当然のことです。まあ……こういう重要人物を車1台で送る仕事は怖いですけどね。実は今でもびくびくですよ」
「あはは、何かあればあなたもキッチリ守るから。たとえ災害だって、二度目の不覚を取るつもりは無いも────────
それは符牒の一つ。長が放った一言で、車内は一瞬で緊張で埋め尽くされた。
ドライバーは即座にエンジンを始動して、サイドブレーキも外してギアはドライブに。何時でも動き出せる。
楯無の視線の先にあるのは、駐車場の隅に生えていた一本の木。そこに誰かが寄り添って佇んでいる。十数秒前までそんなものは居なかったし、何よりそこまで移動してくる素振りが見当たらなかった。
何故ならその背後は崖だ。登ってくるにしてもその動きは車内から見えるし、確かにそんなものは無かったのである。
つまり、一瞬で現れたとしか思えない。
何より、その外見。
有機的な形状で全身を覆う毒々しい紫色の装甲と、映画のエイリアンみたいに顔面から後頭部まで伸びた、半透明のゲルでできたライトグリーンの奇妙なバイザー。背中から縦に2本生えた円筒形の物体はスラスターだろうか。
一見すると、まるで
「……行ってくる」
「お気をつけて」
滑らかに後部ドアから降車した楯無は、最大限の警戒をもってその怪人へと歩いていく。ISは部分展開したまま、何時でも
「──ヤア、ヲハヨウ」
「……ッ!?」
先に言葉を発したのは怪人の方だった。
それは男にも、女にも。あるいは赤子にも若人にも老人にも聞こえる。街中を歩く普通の人間と、聖なる僧侶と、凶悪犯罪者を重ねたような、奇怪なフィルター越しの声。
単なるボイスチェンジャーとは明らかに違う、異様な音の重ね合わせだ。
「あなた……何者? あと今は真っ昼間なんだけど」
「──アァ~、あー。これでいいかな。声も時間感覚も狂って仕方がないよ。改めてご機嫌よう、更識楯無。息災そうで何よりだ」
「質問に答えて」
「まあ、そうだね……僕は
「……意味も分からなければ答えにもなってないわね。嫌われるわよ? そういうまどろっこしいの」
「安心しなよ、自覚はある。実際、誰かに好かれることを前提には動いてないからね」
こんな見た目してるし? と楯無に向けて一歩進んで正面を向く怪人を、
(なにこれ、コアの反応が無い……?)
見かけからして明らかにIS。だが、距離にして10m程まで近づいたにも関わらず、ISコアの反応が読み取れない。
外見だけの虚仮威しだろうか? しかしコスプレ衣装の類だってここまで作り込むとは思えない。何より、ISでもなければ突然現れたことの説明が付けられないのだ。
「まあ、そうだね。この場は
怪人は隣に生えていた木の樹皮をベキリと抉り取ると、一言呟いてそれを投げた。
「──僕はキミの敵だよ」
「──
楯無は即座にISを完全展開して、アクア・ナノマシンのヴェールを広げる。コンマ1秒の間もなく、そこに無数の木片が散弾のように突き刺さった。防がねば、確実に背後の車は破壊されていたはずだ。
その間に上昇していた怪人に
「敵対してくれてありがとう! これで心置きなくあなたを叩けるもの。ついでにサンドバッグにでもなって貰おうかしら、ストレス溜まってんだからッ!」
「何でも構わないさ、向かっておいでよ」
弾丸を平然と躱しつつ、怪人は両腕を覆うウロコ状の装甲部から、これまたウロコ状のエネルギー弾を飛ばしてくる。水膜による防御を試みる楯無だったが、鋭いそれは食い込んできて、刃先が彼女の目前まで顔を出した。
(ちっ、何よこの威力……並の装甲ならこれだけでズタズタじゃない)
だが受け切れる。それだけ確認した楯無は、射撃を止めることなく怪人を追う。
2機のパワードスーツは銃撃戦を繰り広げながら尾根を超えて、倉持技研から離れつつあった。
「ここまでくれば、多少は躊躇もやめてくれるかい?」
「知った風な口を……だったらッ!」
楯無は見透かしてくるような怪人の振る舞いがとにかく不快だった。どこかショウと似ているようで、嘲笑を含んでいるように感じられるそれは別物だと分かる。
怪人は楯無に本気を出させるべくわざわざ山の深みまで後退したようだ。であれば、お望み通り全力を叩き込んでやろう。楯無は
──ど、どどうッ!
怪人の進行方向を遮るように、無数の水蒸気爆発が予告無く暴れる。
機動力に優れた謎のパワードスーツも流石に危険を感じたのか急制動を掛けて、楯無はその一瞬の隙を目掛けてガトリング砲を連射しながら肉薄する。
「これでおしまい──ッ!」
「──ありきたりだが有効な戦術だね。では、こうしようか」
──直後、エイリアンみたいな怪人の手首から黄色い光でできた線状のエネルギー体がぶわりと伸びた。それは有機的に枝分かれしながら広がり、楯無を守る水膜に防がれる。
「無意味なその場しのぎね。大人しくお縄に──」
「そう見えるかい?」
ぞわり。楯無の背中を嫌な感覚が這い回った。
よく見れば、黄色いエネルギーの線は受け止められているのではなく、それに潜り込むようにして侵食を進めていた。進行は早い。このまま行けばどうなるか、わからないのが怖い。
楯無の判断は早かった。
槍の表面、光の触手に侵されつつある水膜、そして大気中に散布されたもの──全てのアクアナノマシンが即座に凝集し、それぞれがぼごりっ、と音を立てて膨れ上がる。
「──ミストルテインの槍ッ!」
大出力の水蒸気爆発。自爆も厭わず暗部の長はそれを実行した。
咄嗟の起爆ゆえに最大火力とは言えない。だが試合用の
「ぁ、がァ……っ」
反作用で地面に叩きつけられた楯無は、PICの処理飽和で硬直したままに、人工の雲を眺めた。
全身が痛い。当然のように絶対防御が発動した上から突き抜けた衝撃に呻くことしか出来ない。
一体、アレは何だったんだろう。
多少呼吸を落ち着けて真っ先に浮かんだのはこの疑問だった。
突然現れたかと思えば、「監査」と称してこちらに戦いを挑んでくる。
使ってくる兵器は強力なものばかりで、状況はあの機体がISでないと言っている。
正体を暴く前に消し飛ばしてしまったのは残念なところだが、今日の最優先事項は一夏の護衛である。障害となりうるものを一つ取り除いたのならそれで良いはずで。
「………………は?」
良くなかった。
「自滅覚悟での大火力……このニューロンレーザーの性質を直感したのかな。流石の判断能力だね、こればかりは真似できそうにないよ」
楯無は自分の目が信じられなかった。
エイリアンみたいな形の頭をした怪人が、目の前に立っている。
それも、無傷で。
「え、どうして……なんで」
「その覚悟に敬意を表して答え合わせをするけど、今の選択で大正解だ。ニューロンレーザーは侵食作用があってね、あのまま放置すると障壁をすり抜けてシールドバリアを侵し、更にはキミの体組織をズタズタに引き裂いて殺していた」
怪人はまるで見せつけるように黄色い光の線──ニューロンレーザーを展開して、またそれを仕舞った。レーザー体はそれほど広くは伸びないらしい。
つまり、回避せず防御したのが一番の戦術ミス。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……だったかい? 自分を危険に曝す行動が逆に命を救う訳だね、まったくもって興味深い限りだ」
「ふざけ、ないで……っ」
楯無はランスを杖代わりに無理矢理に身体を起こして、怪人に向き合おうとする。
コイツは、ダメだ。残しておけばどれほど被害が出るか分からない。危険過ぎる。
消耗し切っている自覚はあるが、それは動かない理由にならない。
さもなければ。
「あなたは、止める……織斑くんのところには、行かせない」
「残念ながらここまでだよ生徒会長──モデルケース:
言葉と共に怪人の左腕が淡く光ると、楯無の周囲の地面から太い蔓が無数に伸びて、その全身を締め上げるように絡みついた。表面が樹皮のように硬化したそれは見かけ通りに頑丈で、
「この程度、ISの力なら」
「無理だよ。そのISのアクチュエータがさほど強くないのは知ってる。……あとほら、みずタイプにはくさタイプがよく効くし」
「私は、どっかの
ミシミシミシ……!
蔓が一際強く絡みついて、それだけで楯無は立っていられなくなった。
解除したらそのまま締め潰されるからISは纏ったままにしなよ、と気怠げに呟く怪人は、悠々と彼女の前まで歩いてきて、顔を覗き込むようにしゃがんだ。
「正直なところ、キミのパイロットとしての実力は認めてるんだ。ただ……その機体のコンセプトはお世辞にも遭遇戦向きとは言えないね。なんで僕がわざわざ人里から離れたところまで下がったと思う? そうでもしなきゃキミは周囲への被害を嫌って
「……」
「肝心のナノマシンも散布が進まなきゃ火力に繋がらないし、ああして速く飛ぶだけで散布領域から抜けるのは簡単だ。ハッキリ言って同格の相手を攻めるのには向いてないよね。そんなゴールキーパーとオフェンスの間の子みたいな機体が、自分のホームグラウンドから出てしまってる時点で戦術的には大問題だと思わないかい?」
何がしたいのだ、この怪人は。
まるで厭味ったらしい教師みたいに説教をしてくる紫色のパワードスーツは、しかし確かに楯無の弱点を的確に指摘している。
身動ぎ一つ出来ないところまで締め上げられている状況も相まって、楯無は一言聞くたびに自分が惨めで仕方が無かった。
「どこまで行ってもキミは
「……じゃあ、どうしろっていうのよ。黙って聞いてればアレコレ好き勝手……自分で打ちのめした相手に好き勝手言うのは、さぞ気持ちが良いんでしょうね!」
「最初に言っただろう、監査だって。嫌なら機体を変えるなり改良するなりしなよ。国家代表の専用機ともなれば一朝一夕には難しいのは理解するが、キミの実力と望みにその機体は不整合だ。言っておくけど、そのままじゃ君は
「どういう、意味?」
相手の目的がまるで理解できない。
一方的に自分を叩きのめしたかと思えば、上から目線でその改善を求めてくる。これではまるで……。
だが怪人はそれ以上答えることなく、不意に空を見上げる。楯無の墜落に伴って木々が折れ、開けた視界の中央には正午手前の太陽が
「……さて。こうして話していれば時間潰しになるかと思ったんだが、中々来ない────────ああいや、来たね」
楯無の視線の先で、真っ白い烈日の輝きが、一瞬揺らいだ。
……違う。別の
「その人から……離れろォォォォォォォォォォ──────ッ!!」
──ずんっ、ぐぐぐぐぐ……!
地上で佇む怪人の頭部──ゲル状のバイザーに、一夏の剣戟が真上から突き刺さる。
自由落下に瞬時加速の運動エネルギーを乗せての一撃は、相手の姿勢を大きく崩す。だが、切断には至らない。
「真打登場ってやつだね。待ってたよ」
「──がうッ!?」
膝のバネで衝撃を受けきった怪人が、逆立つように生え揃ったウロコだらけの拳をアッパーカットの要領で一夏の首元に打ち込んだ。どこにそんな威力があったのか、一夏は纏う白式ごと上空へ吹っ飛ばされる。
「織斑くんッ! ソイツの真正面に留まっちゃダメ!」
「ここから先は手出し無用だ更識楯無。……まあ、観てなよ」
空中で姿勢を立て直した一夏の前に、一手遅れて上昇してきた怪人が対面する。
つい先程満身の力を込めて切り込んだはずの怪人の頭部に傷は見受けられない。治ってしまったのか、そもそも効かなかったのか、一夏にはそれを判断する情報が無かった。
純白のヒーロー然とした白式と、ギーガー調のデザインで象られた怪人の外見は、まるで天使と悪魔のように対照的だ。
そんな悪魔に、一夏は吠える。
「テメエ、楯無先輩に何しやがった……!」
「ちょっと戦って、勝ったから拘束して、あとは少しだけお説教……それだけさ。嘘じゃないよ? 疑うなら後で本人に聞くといい。
──ついでにさっきの一撃について、2つほど良いかな」
「……何だよ」
「1つ。せっかくの不意打ちだったのにわざわざ大声を上げて突っ込んできたのはどういうことだい? レーダーが当たり前のIS戦でも身を隠す意識っていうのは大事だよ
……でもってもう1つ、その一撃にキミの
一夏は答えない。単にムカつくからそうしてやりたくなかったのもあるが、自分を気にかけてくれた大事な先輩の窮地を見て、そのときは何も考えられなかったからだ。だから、答えるべき説明も無い。
「……お前、何者だ?」
「おや、答えてくれないのか。つれないね。まあいいや、僕は──」
……ブツン。
両者を繋ぐ通信に、短いノイズが混じる。先日の経験から、一夏にはそれが何を意味するか理解できた。
『──ついに顔を出したな、
「……束、さん?」
「こうすればキミも首を突っ込んでくると思っていたよ、篠ノ之束。だが通信越しの言葉だけとはね。以前なら
『わあ、哀れ……。お前にそこまでしてやる価値が無いって気付けないなんてね』
天才、篠ノ之束。
通信に割り込んできて早々に煽り合いを始めるこの女を、一夏は未だに理解できていない。
「あの、束さん……目の前のコイツは一体何なんですか? 知っているなら教えて下さいよ」
『この前キミも戦ったバイドを、こともあろうに兵器にして扱ってるクソ野郎だよ。何企んでるか知らないけど私は笛持ちって呼んでる』
「ご紹介に預かった笛持ちだよ。まあ、実のところあだ名なんだけどね。名前なんて伝われば何でもいいさ、この場はそう名乗るとしよう」
怪人、改め、笛持ち。
名前が変わったからと言って何だと言うのだろう。この相手の意味不明さは全く変わっていない。
楯無を下したという割に、妙に話の通じる笛持ちという存在。一夏は少し敵意を鈍らされていた。
『……いっくん。全力でサポートするから、ソイツぶっ壊して。相手はバイドと同じ人類の敵だよ』
「おいおい、
「──ッ!?」
笛持ちがゆらりと一夏に腕を向けると、それを覆うように生えていた無数のウロコから、同じ形の光弾が放たれる。即座にバレルロールで回避した一夏の、その横を通り抜けた先の木々が無惨にも切り倒されていった。
それが開戦の合図となった。
『いっくん、上昇!』
「分かってま──おぉあッ」
『よく見て、次は横から──右ッ!』
白式のセンサー情報を覗き見ているのか、一夏より先に束が攻撃方向を予測する。一夏はそれに辛うじて追従することで無傷を保っていたが、彼我の機動力の差は圧倒的だった。
(なんなんだこの滅茶苦茶なスピード……俺がケイロン使ったときだって結構キツかったんだぞ、ホントに中に人乗ってるのか?)
ギリギリ見える。けれど追えない。
近接武器しかない白式においては、相手への肉薄は必須事項。だが笛持ちはまるでUFOも斯くやという程の鋭角機動を繰り返し、無数のウロコ弾をバラ撒いて飛び回る。
頼みの瞬時加速を挟む隙が見当たらなかった。
「所詮はこの程度かい、白式は! まあ、軍用でもなければ試合用でもないISなら仕方のないことかもね?」
「じゃあ何用だってんだテメエっ!」
『いっくん耳を傾けないで! あと2秒後に全力後退!』
「せいぜい
束の言い付け通りに慣性制御を真後ろへ向けてバック走のような形で下がる一夏と、それを追い掛ける笛持ち。見えざる銃口を備えた腕が白式に向けられ、このままでは一方的に蜂の巣にされてしまうであろう、その刹那。
──笛持ちの前で緑色の粒子が球形に弾ける。
直後に、一夏は背中から何かに追突されたような衝撃を受けた。
「──うぉあッ!?」
『ぃヨシっ、間に合った!』
腕、脚、胴、肩……一夏の視界の端から、白色の装甲が白式の表面に纏わりついてくる。拘束するというよりは、支えてくれるような感じ。
この感覚と状況に、一夏は覚えがあった。全方位視界で背後を見れば、分かりきったその正体が目に飛び込んでくる。
「ケイロンか、助かった!」
TL-T ケイロン。
先日のバイド襲来の折に束から貸し出された拡張武装。これなら遠距離武装もある。零落白夜も長く使える。この意味不明な相手に、きちんと立ち向かえる。
結局のところ白式では攻めきれなかったという一抹の情けなさ以上に、自分に御しきれない程の力を与えてくれたケイロンへの安堵が一夏の心を埋め尽くす。
だが、そんな一夏の目の前に、一瞬遅れてシステムメッセージが浮かび上がる。相手の情報を記したものだった。
Target Type: BX-T "DANTALION"
Pilot: ■■■■■■■
Status: Enemy(must be)
Wave Cannon Type: Dantalion's Flute
Force Conductor: Open
──────
────
「ダン、タリオン……?」
ダンタリオン。笛持ちと呼ばれた毒々しい紫色の機体の名前を、どうやらこのケイロンは知っているらしかった。
「ああ、そうか。Rシリーズのケイロンならダンタリオンのデータも照合できるのか。なら隠しても仕方ないね──これこそバイド素子添加プロジェクトの成果たる機体、ダンタリオンだよ。……正確にはその
『ハッ、何がプロジェクトだよ。行き当たりばったりのクセに』
その言葉はそのままお返しするよ、と束の言葉を受け流す笛持ちは、始めと同じようにウロコ弾を放った。一夏は今度こそそれを自力で避ける。
(いける、コイツなら……!)
ケイロンの補助スラスターが齎す、暴力的にも思える推力。初めて使ったときよりも、一夏は自分がそれに慣れているのを感じていた。
自機の速度に合わせて、自分の感覚も研ぎ澄まされていく。
「それでようやく臨戦態勢ってわけだね。こちらも本気を出すとしよう」
『いっくん気を付けて、隙を見せたら冗談抜きで殺されると思ってよ。私でもアイツが何仕込んでるか全部は分からないから』
「──分かってますッ!」
一夏は腕に装備されたレールガンをお礼とばかりに撃ちながら、少しずつ距離を詰めていく。だが一夏には射撃の心得が無いし、実際笛持ちへの命中弾はまるで無かった。ゆえにそれは端から本命ではない。
(相手がバイドだってんなら……)
ぎゅろろ、と重い稼働音と共に一夏の背中から黄緑色の粒子が舞い始める。
狙いは真っ直ぐ。進行方向。
「その輝きは確か……」
「──当たれぇッ!」
バンッ、という炸裂音と共に笛持ちが球状の光に飲まれる。
先ほどケイロンが牽制に撃ったのと同じ、衝撃波動砲の一撃。決まった空間を均一に破壊する範囲攻撃は、強固な守りを持つゲインズにも効いた実績がある。
「なジジッほど、これザザッ厄介だね。こジジッ恐ろしザザッを向けられザザッ大変だ」
閃光が収まると、その向こうには全身の装甲がひしゃげたダンタリオンの姿があった。
内部が破壊されたのだろう、人を食ったような言葉を発する笛持ちの通信にもノイズが混じり、相手は動けなくなっている。
『いっくんッ!』
一夏は虎の子の
同時に、構えていた刀──雪片弐型の刀身が真っ二つに割れる。
これこそが本命。
衝撃波動砲だけでは倒せなかった。零落白夜だけではそもそも当てに行けなかった。
だが、2つが揃えば。
割れた刀身から真っ白い光の刃が噴き出して、一夏はそれを目一杯引き絞って、ギリギリまで距離を詰める。
最後の抵抗とばかりに、ダンタリオンの腕から黄色いレーザー体で出来た触手──ニューロン・レーザーが放たれる。有機的に分岐と伸長を繰り返すそれは、一夏の行く手を面で阻む。
一夏にとっては初めて見る攻撃。だが、サラと千冬に教わったこの少年は、その軌道をしっかり把握することが出来た。
確かに攻撃範囲は広い。でも、真っ直ぐ自分に向かってくるのは一部だけ。
なら、その部分だけ斬り払えばいい。ショウの放つ反射ボールを斬り捨てたときのように、エネルギー体なら恐れるに足らないのだから。
「でぇやああああああああ────ッ!!」
束が言うには、相手はバイドを兵器にしているのだという。異常な機動力からして、ゲインズみたいに操っているのだろうか。
その真偽を、そして相手の正体を一夏は知らない。だが、学園のみんなを、自分の大切な人の命を実際に脅かしたバイドを彼は許さない。
何より、こいつは楯無を襲った。敵と断ずるにはそれで十分。
その敵意のまま、一夏はダンタリオンへと純白の刃を振り下ろした────────────。
『──
こんかいのまとめ
・楯無
みずタイプの人。
不利な場所に出てしまったのが運の尽き。出会った不審者怪人に翻弄される。
多忙と疲労の中でも瞬時の判断力は鈍らない。死地に陥れて後生くの精神で生き延びた。
・一夏
楯無さんに何しやがる。全速力の斬撃はあんまり効かなかった。終いには批評までされる始末。
不審者こと笛持ちの強力さに追い付けない。白式に乗って1月ちょいで戦う相手じゃないから仕方ない。ケイロンありがとうね。
・束
バイド絶対許さない勢。多忙なので今日はリモートで。
白式のセンサーから笛持ちの出現を悟った瞬間にケイロンを送り込む即断即決。
できるだけバイド兵器は使いたくない主義だが、好き勝手するやつを見るとぶち殺したくなる。
・笛持ち
ダンタリオンを駆る謎の人物。あだ名だよ、ホントの名前は別にあるよ。
気持ち悪い兵器を持ち出して気持ち悪い行動と気持ち悪い言動を繰り返す不審者。自覚はあるらしい。
バイドの根絶を掲げてはいるものの、手段を選ばないその方針は束と真っ向から対立している。
2章で主人公側を強くしすぎたため、敵もキッチリ増やしてみた今回。
本作初のバイド系機体としてダンタリオンが登場しました。束たち同様に技術が進んでいるため色々改造されています。そのまま名前を出したもの以外にも、R-TYPERにとって見知った要素が含まれているかも?
人型兵器に落とし込むにあたって外見の描写に困りましたが、猫背をやめて尻尾を無くしたエイリアンみたいなものを想像していただければと思います。原作のダンタリオンもギーガー調を意識しているとのことなので、そちらに立ち返った感じでしょうか。
前半で負けてしまった楯無ですが、シンプルに相性が悪過ぎました。笛持ちと呼ばれる人物が指摘したように、屋外で高速戦闘するには向いていないのが素のレイディです。今のままでは本人の実力を発揮するには色々足りないよ……という強化フラグの裏返しと思っていただければ。
既存キャラの強化パターンを見て……
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もっとやって!何なら別機体渡しちゃえ!
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強化装備ポン付け位がいいかな……
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機体はそのまま新武器使わせる程度が好み
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この水は飲めそうだ