Infinite stratos / False prophecy   作:✕せんたくだま

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40 この情景は記憶されません

 

 

 昼前にオルコット城を出発し、車に揺られること3時間。イギリスが主導するBT計画の研究施設は山間にある。

 主役たるセシリアとショウ、それに付き添うエリックが現地に到着したのは日も傾きつつある昼下がりになってのことだった。

 

「……」

 

 はじめまして、グランゼーラの沢村です……。いつものように爽やかな営業スマイルで名乗るその相手は、入口で待っていた小柄な女性だった。

 背丈はセシリアと同じかそれより少し低いくらいで、みぞおちの高さまで伸びた長い銀髪の彼女は、半袖のワイシャツに紺色のパンツを纏っている。首からセキュリティキーを兼ねたネームカードをぶら下げた彼女は、実に軽い雰囲気で答えた。

 

「おー、こいつはどうも。自分はそっちのお転婆娘がやっとるBT計画のチーフエンジニア──リー(Lie)ターナー(Turner)いいます。まっ、よろしゅう頼むで」

 

 リーの口調はかなり強い北部訛りで、一方で名前も顔もアジア系と国際色豊かな人間だというのは多くの人間にとっての第一印象だった。

 小さい手を差し出してショウと握手したリーは、ギロリとその目線を後ろの金髪お嬢様に向けた。

 

「──で、よくもまあそのツラ見せられたモンやなあ。このガキンチョ」

 

「あらあらあら、そちらこそお変わり無いようで何よりですわ。そのどこに出しても恥ずかしい()()()()()()()()()も少しは成長しているものかと期待していたのですが。迷子センターに案内して差し上げても良いですわよ?」

 

「お前っちゅうヤツは毎度毎度毎度……! ウチは頭脳労働者や、お前と違ってこのアタマに栄養回して最高効率やってるんや。一方のお前はどうや? コンセプト無視の考え無しで武器壊しよってからに、そのデカケツに栄養持ってかれてバカになっとるんとちゃうかこのアバズレ」

 

「い、言いましたわね、よりによってミスターの前でわたくしをアバズレと……! 今日こそ許しませんわッ、どちらが”上”か分からせてやりますッ!

 

「ほいだら()()()はあの世に送ったろうか、あぁン!? やったろうやないケっ!

 

 出会って早々ぎゃうぎゃうと取っ組み合いのキャットファイトを始める女二人から少し離れて、エリックはバツが悪そうに、「ホントにごめんなさい、後でちゃんと言って聞かせますので……」と保護者みたいなことを口走る。隣のショウは瞑目したまま「自分の記憶(ログ)には何も残っていませんが」と涼しい顔だ。

 

 仮にも軍隊式の格闘術を叩き込まれたセシリアに対して、リーは体格で劣る上に非戦闘要員だ。にも関わらず互角に喧嘩を繰り広げているのは、大人気無さを抜きにしてもリーの実力によるものだろうか。

 

 

 

 

「……んで、今回の技術交流に先んじて、おたくらグランゼーラから送られてきたコンテナがコレや。ミスター・サワムラ、アンタしか開けられんって話なんやが、何か聞いとるか?」

 

「まあ、一応。ガルーダとセキュリティがリンクしてるとか……詳しくは知りませんけど、触れば開くのでは?」

 

 服はヨレヨレ、髪はボサボサ。壮絶なぶつかり合いの果てにセシリア共々くたびれたリーが案内したのは、研究所の奥にある大きな倉庫だった。

 床から天井まで10mはあるだろうか、慣れ親しんだグランゼーラの整備棟を思い出す内装の中央には、大きな黄緑色のコンテナが鎮座している。

 

 ショウはガルーダの名を呼んで起動すると、片手でそれに触れた。見立て通り、空気の抜けるような音とともにコンテナの表面が機械的に展開して、中身が露わになる。

 出てきたものは、青色の球体が一対と、それよりも小さい複雑な形の機械部品が3つ。困惑気味にガルーダの方に目を向けるエリックに対して、セシリアはそれが何か理解した。

 

「これは一体……」

 

「貴方の使っているものと同種の機械……そうですわね?」

 

「その通り。これはブルー・ポッド──今このガルーダに積まれているレッド・ポッドの前身に当たる遠隔操作デバイスです。砲身が機首前方にしか向けられませんが、エネルギー式の射撃装備は同じものが搭載されています」

 

「んじゃ、こっちのモジュールは?」

 

「遠隔制御のためのポッド・コンダクターですね。OF-3には3スロット分あるんですけど、ブルー・ティアーズにも似たようなものが積まれているのでは?」

 

 ガルーダ本体から────ではなく、近くのスピーカーからショウはそう言って、両肩のポッドをグリグリ回転させて見せた。その砲身があらぬ方向を向くので、エリックは少し慄く。

 

「なるほどなあ、しゃあけど技術交流と称してこんなもん送ってくるってのはどういう了見や? IS関連の技術は公開義務がある。秘密でこんな受け渡しがあったとなれば大目玉モノやぞ」

 

()()()()I()S()()()()()()()()、という見解なんじゃないですかね。元々これは宇宙空間で船外活動を支援するための技術です。もちろんISに積んだほうが効率がいいんでしょうが、名目上はISS*1のような宇宙船から操作するものですし、ISと関わらない限りは普通の秘匿技術の一つと扱えるのでは?」

 

 どこか抑揚の薄い、台本をそのまま読み上げているような声で説明するショウに、リーは目を細めた。それから無言でエリックの方に目を向けると、彼は首を振ってお手上げのサインをする。

 既にグランゼーラがISで使って見せている技術を「これはISのためだけの技術ではありません」と今更言い張って隠すのは無理があるとの判断だ。ショウの言葉は嘘ではないのだろうが、無茶には違いない。

 

(恩を売った体でとんでもないモン押し付けてきよったなグランゼーラ……)

 

「まあええわ。プレゼントっちゅうことでありがたく受け取らせて貰うで。

 ──順番すっ飛ばして悪かったな、おたくらも長旅で疲れてるやろうし、ちと休憩にしよか」

 

 


 

 

「……」

 

 IS学園は第3アリーナの整備室。4組の根暗少女こと簪は今日も専用機の開発のために閉じ籠もっていた。

 

「……」

 

 昨日辺りからお隣さんことショウはどこかへ出掛けているらしく、いつも鎮座しているはずのガルーダは見当たらない。そのこともあって、簪が毎度鬱陶しく思っている神社ごっこの生徒たちが整備室を訪れることはなく、整備室最奥のここは久々の静けさを取り戻していた。

 

「……」

 

 赤色が眩しい隣人は居ない。それを目当てにやってくる迷惑な輩も来ない。

 いつもの通りの、最も集中できる1人の時間。だというのに、簪は全く作業に身が入らなかった。

 

 簪の脳裏にへばり付いて離れないのは、本音がショウから貰ったとかいう、あの絵。

 まるで自分の全てを見透かしたかのような言葉を吐くあの男が描いた、自分の未来を奪うかのような、あの絵。

 一体どうやって? どんなトリックを使えば自分のまだ思い付いていないような、しかしいつか自分が考えついたときのアイデアを持ってこれる?

 

 このままでは駄目だというのは分かっている。けれど、現状を変えようと試行錯誤の方法を考える度に、ショウの、あるいは姉の言葉が(ヨギ)る。自分の全てに先んじて、あれはやめておけ、これもうまくいかないぞ、と通せんぼしてくるような。

 

 もう、何をどうすれば良いのか分からない。今年開かれる各国代表候補の会合まであまり時間はない。それまでに仮でいいから動く専用機を仕上げねばならないというのに。

 簪は眼前に浮かぶ無数の空中ディスプレイから目を逸らして、項垂れた。

 

「──澤さん、前に約束した一機私のチームに回してくれるって話、忘れてないですよね?」

 

ええ? それは勿論忘れちゃいませんが、第一テストパイロットが……」

 

 耳鳴りすら聞こえてきそうな静寂が、不意に遠くから破られた。

 2人分の声だ。片方は若い女性、もう一方は渋い声の男性だ。よく聞けば、カツカツという金属張りの床を叩く靴の音が少しずつ大きくなっている。こちらへ来るようだ。

 

「……」

 

 簪は反射的に壁沿いへと身を張り付けて、廊下から見えない位置に屈んだ。別に後ろめたいことなんて何一つ無いのだが、無意識にそうしていた。

 

「しかし、新型機の発表から配備のオファーまで随分と短いですねえ。何か火力に関する出来事でもあったんでしょうか?」

 

「さっきの織斑先生の様子からして、話せないことがあるんでしょう。どうやら学園も最近キナ臭いみたいですし……それよか、ショウのやつが心配です。先月戻ってきたときは随分思い詰めていたって」

 

「ああ、それならこの前周防さんが電話したときは結構元気そうにしてたって言ってましたよ。OF-3もガルーダになって火力マシマシってところでは? ほら、グローイングからマイティに変身する感じの」

 

 ズシン、と重たい音が響いた。簪から見て隣──ショウの整備室からだった。

 彼が言うには、会社の名前で整備室を占有しているらしいが、件の2人もグランゼーラの人間だろうか。

 

 遂に好奇心を堪えきれなくなった簪が隣を覗き込めば、長さ2m超えのコンテナが数個、がらんと空いた整備室に置かれていて、その近くに男と女が1人ずつ立っている。

 あの大きさのコンテナを運ぶには台車の類が必要だが、どこにも見当たらなかった。男の方は随分と力持ちらしい。

 

「貫通特化型のレールガンとその弾体……一応依頼で作りましたけど、誰の指示なんです? 火力はキッチリ私好みに仕上げましたけど、試合レベルだとレギュレーション違反ですし」

 

「ショウのやつが必要だからってメールしてきましてね。OFのフィードバックならともかく、自分から武器を注文してくるなんて初めてですよ。アイツがここにいればその真意も分かるんでしょうが……今はイギリスでしたっけ?」

 

 屈みこんでコンテナの中身を改めているスーツ姿の男は大柄で、声からイメージする通りの筋肉質な偉丈夫だ。

 もう一方の女性もスーツ姿だが、となりの男と比べると親子に見えるくらいには背が低い。深紅のフレームをした眼鏡に、濡羽色の髪を飾る空色の髪留めがよく目立った。

 

「わあ、それは随分珍しい話ですね。もしや遂に彼も火力の教えに目覚めたということでしょうか? 

 ──ところでそこで覗いているのはお隣さんですか?」

 

「──ッ!?」

 

 しまった、バレた……。そう思う間もなく、驚いて跳ねた身体に躓いた簪はどすんと尻餅をついてしまう。

 気付けば、小柄の女性が目の前に屈みこんで手を差し伸べてきていた。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「はじめまして、グランゼーラ・インダストリーIS開発部門チーフエンジニアの下瀬(シモセ)寧音(ネオン)といいます。こちらは同じくマネージャーの大澤(オオサワ)さんです」

 

「紹介に預かった大澤です。制服から見るに一年生さんですかね。もうこの学年から技術に興味がおありのようで、感心しますよ」

 

 自分を助け起こしたところから自然に自己紹介に持ち込む2人に、簪はなんだか懐かしいモノを感じた。倉持技研の彼らも出会った当初は丁度こんな雰囲気だった気がする。

 

「あ、ええと……1年4組の更識簪です。さっきはのぞき見しちゃってごめんなさい……」

 

「いえいえ、ぶっちゃけると見られて困るもの置いてないですからね。それより────」

 

 ……すんすん。

 突然ネオンは簪の身体に顔を近づけて、鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。

 

「えっ、ちょっと! 何してるんですか!?」

 

「機械油に鉄とクロムとタングステン、そして仄かな硝安の香り……」

 

 困惑のまま悲鳴を上げる簪の視界に、諦めたように目に手を当てて天を仰ぐ大澤の顔が映った。

 ……いや同僚だろうが、止めろよこの変態を。役目でしょ。

 

「さてはアナタ……火力ですね!?

 

「何言ってんのこの人……」

 

「こらこら下瀬さん、生徒さんが怖がってますって……」

 

「これが大人しくしていられるかって話ですよ。その後ろの作りかけは多連装ミサイルポッドですよね? やっぱり火力じゃないですかやだ~!」

 

 うっきゃ~、と勝手に盛り上がって飛び跳ねるネオンから視線を逸らして、簪はこの変態を止めきれていない大澤をじっとり見つめた。すると、すぐにネオンを後ろに引き剥がしてペコペコ謝ってくる。

 

「すみません、彼女、炸裂系の武器を()()()とこうなる性質(タチ)でして……」

 

「か、感じる……?」

 

「ハイっ、感じますよ! 私の火力センサーを震わせる貴女の底知れぬ火力への執念を! 見たところ48連装の同時発射が目標で、照準系と弾体の設計に困っているといったところでしょうか?」

 

 ちょっと待って、どうしてそこまで……。ここしばらく嫌な部分を見透かされてばかりの簪が固まっていると、大澤の手を押しのけてネオンがずい、と戻ってきた。

 

「確か共同開発されてたのは倉持さんでしたよね、その様子だと人員不足で契約が切れちゃったとお見受けしますけど、私なら貴女を応援出来ますよ。火力にかけては世界一を自負する火力教徒ですから!」

 

 黙っていれば好き勝手言ってくれる。だがどれも事実で、先日ショウに言い当てられた通りのこと。グランゼーラの連中はエスパー揃いなのだろうか。そんな愚痴が駆け巡る簪の脳内で、歯車が噛み合うような感覚があった。

 

 ……下瀬ネオン。火力に自信がある。炸裂系武装に関わるエンジニア。

 

 簪には覚えがあった。少し前のIS関連の雑誌のインタビューで名前が出た、謎のウェポンデザイナー。調べたって名前以外に情報が出てこないくせに、それが手掛けた武器は代表候補が模擬戦で使っているのを見るくらいに名が通っている。

 取り回しが最悪な代わりに、火力だけはあるものは、特に。

 

「……もしかして、噂に聞くHUMMING BURD(2連装グレネードランチャー)の作者って貴女ですか?」

 

「はい、そうですよ」

 

 いっそ眩しいくらいのニコニコ笑顔でネオンは答える。

 

「ショットガン用のミニグレネードから無誘導のロケット砲まで火力ならば何でもござれ、グランゼーラのネオンとは私のこと……ふふふ、こうやって名乗るの楽しいですね」

 

 本当ならとんでもない相手と会ってしまったものだ。

 本体の開発に偏重している倉持技研と比べて、簪が苦慮する武装開発のノウハウという点においてグランゼーラは国内トップである。助力を得られたなら大きな進展が見込めるだろう。

 

 だが、相手は企業そのもの。個人的なアドバイスを受けただけのショウのときと比べて、自分にできる言い訳は全くと言っていい程ない。

 姉を上回りたいという自分のプライドに、自分はどこまで向き合えるだろうか。

 

「だからいきなり距離詰めるのやめろってショウにも言われてたでしょうが! ごめんなさい更識さん、こいつは責任もって連れていきますんで……」

 

 刹那の逡巡の間に現実は動いていた。簪が口を開く前に、大澤がネオンの腕を掴んで出口へと向かっていく。

 ひゅん、と風を切るような音とともに何かが飛んできて、簪は咄嗟にそれを掴んだ。ネオンの名刺だった。

 

「何かあればお気軽に相談してくださいねっ! 新たな火力の徒に助力は惜しみませんから~!」

 

 長い廊下の向こうへ小さくなっていく2人を眺めながら、簪はその場に立ち尽くしていた。

 

「……変な、人たちだったな」

 

 


 

 

『──もっぺん説明するで。この模擬戦の目的はこの前の再現や。そこのじゃじゃ馬娘がアンタと戦ったときにBTが変な動きしたっちゅうんで、可能な限り条件合わせて戦わせようってことやな』

 

 研究所の奥にある大型アリーナの中に、2機のISが向かい合っている。

 赤と青。直線と曲線のデザイン。男と女。まるで鏡写しみたいに相反する特性を持った2人は、互いに笑顔だった。

 

 山奥の研究施設に豪華なディナーなんてものはなく、健康管理を兼ねたチューブ飲料とブロックを夕食代わりに休憩時間を過ごした主役2人が臨むのは、今回のメインイベント──模擬戦。

 多種多様な事情や狙いが織り込まれた今回の技術交流において、BT計画側の一番の目的がこれである。同時に、それはセシリアにとっても同じことだった。

 

「思えば、こうして本格的な模擬戦をするのは一月振りでしょうか」

 

「そうだな。色々あったし、何だかんだでマトモにやり合う機会は無かったか。……けど、昨日のことみたいに思い出せるよ。あの時が一番頭がクリアだったんだ」

 

「ふふっ、奇遇ですわね。わたくしも一番楽しかった試合を挙げろと言われたら、迷いなくあの日を思い浮かべます」

 

 既に互いに武器を構え、ビットもポッドも臨戦態勢だ。本体から離れ、青白い粒子が薄っすらと舞うアリーナ内を進むその姿はまるで水槽を泳ぎ回る魚のようで、ときどき挨拶代わりにすれ違っていた。

 一月という僅かな間に研鑽を重ね、共に死線を越えたその実力を阻むものは何も無い。

 

『──試合のルールはフルコンタクト。シールドエネルギーが切れるまで待ったなしの全開戦闘や。一応、データ採取とシステムの活性化のためにアリーナ内にB()T()()()()()()しとるけど、ISの稼働やダメージには一切影響せえへんから、まあ気にせんとき』

 

「実はこれでも、また貴方と戦える日を心待ちにしておりましたのよ?」

 

「その割に誘われた記憶は無いけどな」

 

「ずっと研鑽を積んでおりましたの。以前の弱点をそのまま残していたのでは、とても顔向けできませんでしたから……」

 

『──ヘイヘイ、聞いてっかおどれら。大事な話しとんやぞ』

 

 アリーナに備え付けられた管制室と観測室を兼ねた区画から通信を飛ばすリーだが、彼女の言葉など聞こえてはいないかのように談笑を繰り広げるパイロット2名に、彼女は苛立ちを隠さない。

 

「そっか。俺もガルーダが完成するまでは必死でさ。他の人間と戦うなんて考える余裕無かったから、丁度よかったのかもな。もっと強くなってるっていうなら、滅茶苦茶楽しみだよ」

 

「うふふ、わたくしもミスターの全力と万全の状態でぶつかれるとあっては、身体の震えが止まりませんわ。……武者震い、と日本語では言うのでしたわね?」

 

──おいゴルァっ! 大事やから話聞けぇ言うたやろが! 特にオルコット、随分チョーシ良さそうやけど前みたいに雑に武器壊しよったら、今度こそそのデカケツむしり取って栄養の行き先を矯正してやるからな。

 ……でもってサワムラのあんちゃんもや。何でも、この前やり()うたときは試合後にぶっ倒れたそうやないけ。安全には気ぃ使っとるけど不調を感じたら即申告してくれな。下手に怪我されると責任が面倒や』

 

 堪忍袋の緒が切れたリーの怒号にビクリと身を震わせるセシリアに対し、ショウは気にも留めていない様子だ。紋切り型にご安心くださいと返事して、そのままレールガンを腰のハードポイントから取り出した。

 少し落ち着きを取り戻したセシリアも、同じように長銃《スターライトmkⅢ》を構える。額の拡張ハイパーセンサーがキラリと輝いた。

 

 呆れた様子のリーがコンソールを弄ると、自動的に試合開始までのカウントダウンが始まる。散布されているBT粒子が、2人には少しだけ濃くなったように感じられた。

 そんな状況だからだろうか。堪えきれぬ闘志が漏れるように、セシリアの喉を突いて言葉が飛び出す。

 

──Mr. Shall we dance?(ミスター、踊ってくださいますわね)

 

 対して、仮面の向こうに獰猛な笑みを浮かべたショウの返事はこうだ。

 

Sure. I'd love to(もちろん、喜んで)

 

 それは戦意から身体にギアを繋ぐように。

 アリーナ内に大音量の矩形波が響いた。

 

 

 

 

「リー・ターナー博士」

 

「何や」

 

『何や』じゃねえよこっちが聞きてえよあの言葉遣い……! 仮にもこれから仲良くしなきゃならない男相手に、真正面から責任が面倒だのって言うか普通!?」

 

 管制室でじっと戦いの開始を見届けるリーに、後ろから青筋を浮かべたエリックが叫んだ。

 

「アイツの目ぇ見りゃ分かるわ、ショウには建前だの上っ面だのは通用せん。だったら始めから腹ァ割って嘘言わん方がええ。隠し事はあってもな」

 

「それで済んだら警察も何もいらないよ……セシリアもそうだが、どうしてみんなこんなに好き勝手するのかなホントに……ゔぅっ」

 

 セシリア同様、リーもまた「実力で周囲をねじ伏せてきた人間」だ。政府や大口スポンサーが肝いりで進めるBT計画のトップ陣に彼女がいられるのも、彼女の類稀な知識と技能によるところが大きい。

 言ってしまえば実力主義。近頃やけにリベラルたちに持て囃される()()()()()()()みたいな考えだが、否定できぬ事実としてリーがいなければ開発面でBT計画は進まなかっただろう。

 

 そんな傑物の蛮行を立場上黙って見過ごせないのがエリックである。

 仮にもショウは日本からの賓客だ。しかも世界に2人しか居ない稀有な才能の持ち主。各国にとって喉から手が出るほど欲しい人物が我が国に来ているというのに、この言い草は何なのだ。

 

 今すべきは短い時間でショウに可能な限りイギリスに良い印象を持って帰国してもらい、将来的な関係構築に繋げること。できることなら一夏にも同じようにしたい。

 にも関わらずそんなこと気にもしていないような振る舞いをする()()()2名に、政府の男エリックは今日も胃が痛い。

 

「……」

 

 鳩尾を抑えて背中を丸めるエリックを他所に、リーはアリーナ内のカメラ映像をじっと見つめていた。

 

「チッ、じゃじゃ馬娘のクセに上手くやりよるわ」

 

 疾すぎる。目が追い付かなかった。

 画面の中のセシリアとショウは、始めから全力全開とばかりにスラスターを吹かしながら熾烈な高速戦闘を繰り広げている。今横切った赤と青の線はポッドとビットだろうか。

 

『前より射撃のキレが増してますわねッ、避け方を考えるのが楽しくて仕方ありませんわ!!』

 

『そっちこそ、ビットの動きが随分滑らかじゃねえの。射線が網目みたいでいやらしいったらッ』

 

『ふふっ、乙女(レディ)にそんな口利く殿方には──お仕置きですわッ!』

 

 そして、衝突。

 右手でレーザーブレードを抜き放って受け止めるショウに対し、セシリアは改良されたショートブレード《インターセプター》を手に斬りかかる。

 普段の出力を実用に堪えるレベルまで下げつつ、ここぞという瞬間に最大出力とすることで継戦能力を高めたインターセプターに、以前のような息切れは有り得ない。

 

 ジジ、バヂィッ、と弾けるような音を立てながら二合、三合。セシリアが慣れたように瞬時加速で押し込めば、4速に変速したガルーダでショウが応じて、戦いは鍔迫り合いに持ち込まれた。

 

『はははっ、機動兵器がくっつき合っていいのかよ!?』

 

『貴方こそ──っ』

 

 空いた手にレーザーライフル《スターライトMk3》を呼び出すセシリアの側頭部を狙い撃つように、彼方からレッド・ポッドが突っ込んでくる。

 セシリアは()()()のように額をガルーダのバイザーに押し付けてこれを回避、更に遠方に対空させておいたビットで狙撃を試みた。彼女の頭のすぐ後ろを赤い輝きが駆け抜けていく。

 

「……なんやアイツ、前はこんな戦い方する女やったか?」

 

「いや……前に訓練の様子を見たときは、もっと遠距離重視だった気が」

 

「ビットの扱いがマシになっとるところは認めたるが……妙やな」

 

 エリックにはリーが抱く違和感が理解できない。

 確かに、ISに触れて日が浅いはずのショウの戦い振りはあまりにも慣れすぎているように見えるが、どうやら違和感の原因はそこではないらしい。

 

 そもそもISバトルの戦術だのテクニックだのといった現場のことには疎い官僚の彼にとっては、目の前でどれだけ熾烈な戦いが繰り広げられても「すごい」なんて語彙力の欠片もない感想しか出せないのである。

 仕方がないので、技術的な話を投げてみる。

 

「BTシステムの稼働率は、どうです?」

 

「どんどん上がっとる。ウチで開発してた頃じゃここまでの数字は出とらんし、順調なのは認めたる。このまま偏向射撃(フレキシブル)の発動まで行けば万々歳や。しゃあけど……」

 

 リーは試合の様子が映された数枚の空中ディスプレイから一時も目を離さない。特にその視線を引いていたのは、パイロットのバイタルデータとISの稼働状況を示した一枚。

 門外漢のエリックではあるが、2人分のそれを見比べていると、全体的に何となく似通っているように感じられた。

 

「見間違えそうなステータスですね。脳のヒートマップは特に」

 

「揃いも揃って高適性値の持ち主やからな。装備も似たような構成やし、自然とそうなっとるのかも分からんが……開発側(こっち)の事情も知らず自由に動かせて羨ましい限りやわホンマ」

 

 ショウとセシリアはいつの間にか離れて、中距離戦に戻っていた。

 鋭角ターンを繰り返しながら振り向きざまにレールガンで狙うショウを、四方八方からセシリアのビットが狙い撃つ。よく見ると、地上や天井付近の離れた位置にビットがホバリングしつつ、固定砲台のように振る舞っている。

 

『なるほどな、近くに置くのはやめたわけか』

 

『藁の家のように吹き飛ばされてから、何も考えなかったわけではありませんのよ?』

 

 自機の操作とビットの操作が両立できない──弱点に対する、セシリアの新しい回答がこれだ。

 アリーナという限定された空間の端に予めビットを配置しておき、目標へ常に包囲射撃を見舞う。

 場所さえ固定していれば、照準操作なら飛びながらでもできるようになった。今日まで成長を続けるセシリアだからこそできる技だ。

 

『でもって、離れてるからと狙いに行けば──』

 

『あら、レディの前で余所見ですの?』

 

 ショウはレッド・ポッドを飛ばしてビットを落としに掛かるが、ぶつかる寸前でビットが僅かに動いてそれを躱してしまった。狙われなかった残りのビットが返事とばかりにショウへレーザーを見舞う。

 両腕のコンバーター《プラズマフレイム》から蒼炎を放って身をくらますショウは、ポッドを呼び戻して両肩からセシリアへエネルギー弾の連射を見舞った。

 

 ビットが狙われる一瞬、セシリアは自機の操作から意識を離して慣性飛行に切り替える。余裕ができた思考でビットを動かせば、すぐに意識を戻して相手を狙う。

 ポッドのような遠隔操作デバイスが使えるショウだから無事で済んでいるが、自分の手でビットを落としに行こうとすれば、空いたビットとセシリア自身による4方向からの集中砲火を受けることになる。

 

 一夏にはまぐれで敗北寸前に、ショウには実力で。そしてバイド戦後のシアに言い負かされたセシリアが、自分の誇りに懸けて練り上げた戦術。

 好敵手に見せられる、自身の全力。

 

「稼働率9割弱……いけるか? この場で」

 

「最大稼働すればレーザーが曲がるんでしたっけ?」

 

「ああ、そうや。一度でも理論値が引き出せれば再現のやりようは幾らでもあるからな。ショウ・サワムラ……とんでもない食い合わせや、BTの性能がフシギなくらい引き出されとる」

 

 喜び半分、困惑半分。リーの脳内は大まかにその2色がせめぎ合っている。

 セシリア個人のことは気に食わないが、それ以上にリーは彼女の才能を好んでいる。自分の理論や設計を実現してくれる相手だからだ。それが今、実力を遺憾なく発揮している。嬉しいことには違いない。

 

 一方で気に掛かるのは、今回の状況が急すぎること。

 確かにセシリアは確認された中で最高のBT適性を持ち、同時にISの適性値も上位のものだ。だが、それを以てしてもBTシステムの最大稼働には程遠く、ド素人の一夏に斬り込まれる隙すらあった。未熟だったのだ。

 

 それが、いきなり理論上の限界に触れようとしている。それも、特定の相手と戦っているだけで。

 ショウという人間が何かしらの触媒になっているのか、それとも別の要因か。初めてセシリアとショウがぶつかった状況を再現したことで、その状況以上の結果が得られている。

 リーには、目の前の景色が自分の制御を離れているような気がしてならない。

 

(イメージ・インターフェースの新たな領域。アイツらはそこに踏み込もうとしとる。けど、何やこの妙な胸騒ぎは…………ん?)

 

 リーは、まるで呼ばれるように空中ディスプレイの1つに目を向けた。ブルー・ティアーズとガルーダの稼働ステータスが数値となって並ぶ無機質な画面だ。

 気になったのは、その中の、温度。

 

「冷え、とるのか……?」

 

「え?」

 

 精密機械の状態を測る上で、温度は重要な情報だ。人間の体温と同様に、温度が高くても低くても、度が過ぎれば性能低下や破損の原因になる。

 基本的には最も熱くなる場所にセンサーを仕込んで監視するのだが、ブルー・ティアーズもガルーダも、その最大温度は────摂氏1度を下回っている。

 

 普通、電気抵抗や摩擦によって機械は動かすだけで熱を発する。ISだってその原則からは逃れられないから、オーバーヒートを防ぐための放熱設計も重要な要素である。

 だが、現実はその逆。コンソールを弄って温度のグラフを見れば、時間経過に従って冷えているのがすぐに分かった。

 

「BT粒子による熱放射……いやこの濃度じゃ有りえんし、そもそも──」

 

「……リー博士、説明してもらっても?」

 

「……分からん。放っといても温まるはずのISが勝手に冷えとる。なあ、ガルーダに()()()()()()は無いんよな?」

 

「ええ、学園からもグランゼーラからも、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)は無いと」

 

「ならISが持っとるエントロピーはどこへ……」

 

「いきなり専門用語(technical term)で言われても分かりませんって──

 ────博士、そっちの画面!

 

 

 


 


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Log0523-1611_593.btk  Recording    88min46sec

Log0523-1611_487.btk  Recording    18min7sec

Log0523-1611_237.btk  Completed   1min42sec

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 1つの試合を測るのに、ログファイルは1つでいい。幾つも別れていては処理が面倒だ。

 

「──待て待て待て待てなにが一体どうなっとる!?」

 

 どういうわけか、それがナンバリング付き──同じ名前のファイルを区別するための処理──で無数に増えている。1分と少しだけ記録して終わっているものから、1時間以上記録を続けてまだ終わらないものまで、様々なログファイルの名前が一覧にズラズラと増えていくのだ。

 記録システムの不具合だろうか? 少なくとも1時間もセシリアを戦わせた覚えは誰にもない。

 

 実際のところ開始からどれくらい経ったか、見比べようとリーが試合映像に目を向けると────なにか、いる。

 

 セシリアとショウが戦う画角を占有するように、その手前を人型をした青白い粒子の塊が横切った。それも1つではない。2人の戦いなど気にしていないように、無数の人型が飛び回って試合を繰り広げている。

 ぶつかる位置に来ようがすり抜けてお構いなしで、ショウもセシリアもこの事態に気付いていないようだった。

 

 恐る恐る機体のステータス情報に意識を向ければ──リーとエリックはもう一度目を疑った。

 

「ふ、増えてる……」

 

 ブルー・ティアーズとガルーダ──2機分しか無かったステータス画面が()()していた。それも、増えた画面全てに2機の名前がある。

 どうやら、アリーナ内のセンサーは青白い人型も個別のISと認識したらしい。ステータスは単なるコピーではなく、シールドエネルギーの残量からパイロットのバイタルデータまで全て異なる。

 数少ない共通点は、ISの稼働率が上限手前で、BTシステムは100%で機能しているということだろうか。

 

「あないなガキンチョ、1人でも願い下げや──せやのうて、これ全部ブルー・ティアーズとガルーダなんか!?」

 

「博士これだけ答えてください! これは想定された動作ですか?!」

 

「んなわけあるかいッ!」

 

 リーは努めて冷静に計器に触れる。アリーナ内のBT粒子の濃度は試合開始時と比べて大幅に上がっているが、散布している量とは明らかに見合っていない。

 謎の人型の出現に機体の異常な冷却……どこからどこまでが関連しているのか慎重に見極めねばならない。下手に試合を止めたとして、状況が解決する保証は無いのだから。

 

「──おいバカ共、聞こえてるか!? そっちの状況を教えろッ!」

 

 気付けば一言すら聞こえなくなっていた開放回線(オープン・チャネル)でセシリアとショウに呼び掛ける。さっきまで楽しげな笑い声さえ聞こえていたはずの2人からは、何の返事も無かった。

 舌打ちをしながらガツンとマイクを叩くリーに、エリックは試合の中止を提案した。

 門外漢にだって分かる。今の状態はおかしい。

 

 そんなときだった。

 管制室の内線がやかましく鳴った。

 

「──何や、今こっちは大事な……」

 

『こちらB1監視室! Dエリアの()()()()()()()()が勝手に動作していますッ』

 

ボケーッ、昨日の内にケーブルごと電源切っとけ言うたやろが!」

 

『言われた通りにしてますッ、今だって電源は何も繋がってないのに温度が上がってて……』

 

「ほいだら逃げェっ、退避や退避!」

 

 ガチャリと乱暴に受話器を戻したリーは、もう一度計器に手を伸ばす。

 BTの異常動作。地下の機材との呼応。……脳内には碌でもないシナリオが幾つも浮かんできた。

 

「どうする気です?!」

 

中止するッ。これでどうなるか知らんがもっと酷いこと思い付いてもうた!」

 

「私にできることは?」

 

「そっちのスイッチ、片っ端から全部OFFや! 粒子の供給が止まる!」

 

 現実をその手に取り戻せ。

 大人2人の戦いが始まった。

 

 


 

 

 楽しい。

 楽しい、楽しい、楽しい。

 

 楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい────ッ!

 

 セシリアも、ショウも、その頭蓋を満たす感情はたった1つ。楽しい。

 

 思考がクリアだ。

 操作がどの瞬間よりも思い通りだ。

 装甲の表面からスラスターの先までピッタリ自分の皮膚と繋がったようで。

 

 風を感じた。

 自分が翔んでいる。

 大気を斬り裂いて、相手の攻撃をすり抜けて、次に自分がどこへ行くか自然と分かる。

 

 この身体を突き動かしているのは自分だろうか? それとも相手だろうか? 自分の意思で戦えているだろうか?

 そんな些細な疑問は浮かばない。浮かんだとしても、即座に青白い光の波がさらっていく。

 

 時間に、スピードに、自分の身体が解けていく。

 キラキラと世界が輝いて見える。見られている。

 隣の自分が微笑んだ。数秒先の自分に囁いた。

 

 教えてくれる。見せてくれる。赤と青の捻れた先の極彩色へと導かれていく。

 ビットの放つレーザーの輝きも、レールガンが大気を引き裂く悲鳴も、スラスターの歌う声も、どこにも無い。全て交わって、究極の一点へと昇っていく。

 

 自分が見ても、相手が見ても、隣の誰かが見ても、眼前の景色は全く同じで、常に違った。

 例えるなら万華鏡の中を泳ぐような。

 舗装したてのアスファルトに溜まった水たまりの油膜みたいな。

 それとは全く違う色の濁流がそこにはあって、どこを見渡しても1つとして同じ色が見られない。

 

 全てが古くて、全てが新しい。

 色と情報がどこまでも清く淀みきった柄の布を一反織り上げて、その中に幾つもの自分を見つけ出すことができた。逆に幾つもの自分が自分を見つけてくれている。布に終わりはない。それが世界の全てだった。

 

 ずっとこのままでいたい。

 眠ったまま、微睡んだまま、目覚めたまま。

 幾つもの目で見ている。幾つもの手を伸ばしている。

 

 自分がどこまでも拡張されていく感覚に流され、あるいはそれを呑み込んで、もう一歩前に。

 

 楽しい。

 楽しい、楽しい、楽しい────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あれ」

 

「──あら?」

 

 ……ぱちん。

 まるでシャボンの泡を指で突いて割るみたいに。夢から覚めるみたいに。

 

 セシリアとショウは、眼の前の景色が、つい先程まで戦っていたアリーナのものに書き戻されたことに気付いた。自分の専用機の武装が動かなくなっていることにも。

 

「あ、えっティアーズ!?」

 

「──手ぇ出せ、セシリア!」

 

 突然のことに操縦が狂って、地面目掛けて真っ逆さまのセシリアの手を素早く飛び込んだショウが掴んだ。

 OSからの通知によれば、試合が強制的に中止されたようだ。しかしながら、見たところどこにも異常が見られないことに、2人とも怪訝な表情を浮かべる。

 

 見れば、ガルーダの真紅の装甲に霜が張り付いていた。温度センサーによればアリーナ内は常温常圧。物が凍りつくには些か以上に条件が足りない。

 飛行に伴う断熱膨張にしたって場所がおかしいのだ。

 

「冷凍庫にでもいらっしゃいましたの? ミスター……」

 

「そっちこそ、銃身が凍ってるぞ?」

 

 あら本当……。きょとんとした様子のセシリアと一緒に着陸すると、初めと同じように開放回線(オープン・チャネル)から喧しい声が聞こえてきた。

 

──おいバカ共、聞こえてるか!? そっちの状況を教えろッ!

 

「状況も何も、普通に模擬戦をしていただけですが……何か異常でもあったんですか?」

 

「バカ言わないでくださいまし! 折角こちらが楽しく健全に試合していたところに水を差したのはそちらでしょうに」

 

 とりあえず平静を装うショウに対し、セシリアは外から止められたことにご立腹のようだ。手近な監視カメラにレーザーライフルの銃口をずいずい向けている。

 

『何や、もしかして自覚無かったんか……? まあええ、そのまま医務室で精密検査や。嫌とは言わせんぞ』

 

「嫌ではないですが、一体何があったんです……?」

 

「そうですわッ、説明を求めます!」

 

『オーケーオーケー、バカでも分かるように説明したるから、とにかく従えじゃじゃ馬娘』

 

 怪訝な表情を崩せぬまま、怪現象の容疑者2人は職員に連れられて検査室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

こんかいのまとめ

 

・ショウ

 

 普通に戦ってただけなんだけどなあ……。

 前と変わらずセシリアと戦うのは頭がスッキリして気分が良い。前より強くなった相手とのぶつかり合いは身体の芯まで暖まる感じ。

 ところでお前2人くらい居なかったかセシリア?

 

 

・セシリア

 

 勝手に試合止めてんじゃねーですわよ。

 以前の不甲斐無さを雪ぐべく練り上げた渾身の戦術。ショウには結構通じた感触で嬉しいところ。

 なんだか相手の動きが自然と分かるので戦ってて気持ちいい。

 次の試合はいつにしましょうか、ミスター?

 

 

・リー

 

 北部育ちの銀髪ミニマムおねーちゃんエンジニア。その胸は平坦であった。

 セシリアとは口悪く罵り合う間柄だが、互いに才能と技術力については尊敬している。

 BT計画の中核を成す技術者であり、セシリアが成長できるか否かに熱視線を向ける。

 確かに試合やれ言うたんはウチやで? しゃあけど勝手に妙な現象起こすんはルール違反やろ。

 

 

・エリック

 

 哀しき中間管理職。

 いきなりショウ相手に礼儀ガン無視の発言をするリーに肝が冷える。そしていつも通り胃が痛い。約束通りセシリアが日本の薬を持ってきたので使っているが、それじゃあ根本解決にはならないんだってば。

 政府側に試合を止めた言い訳を何とすべきか悩んでいる。可愛そうだね。可愛いね。

 

 

 

*1
国際宇宙ステーション




祝お気に入り100突破!!!!
いやもうマジで嬉しいです。ここまで応援頂きまして感謝の念に堪えません。
あまり話の進行スピードが無い本作ですが、ISとR-TYPEの設定が混ざった世界を描いていきますので、今後ともよろしくお願いします。


Q.なんで関西弁?
A.海外の方言をどうにか日本語で表現したかったから

 セシリアのライバルことリーを登場させました。北部育ちの中国系イギリス人です。
 BT兵器を手掛ける立場ですが、セシリアがコンセプト無視でビットを壊したりするので出会う度に罵り合っています。
 仲良く喧嘩しな、といったところでしょうか。

 さり気なく差し込んだ簪のシーン。オリ主じゃ怖がらせてしまうので別のキャラに面倒を見させることに。ミサイル愛好家と異常火力愛者の関係性にご期待ください。

既存キャラの強化パターンを見て……

  • もっとやって!何なら別機体渡しちゃえ!
  • 強化装備ポン付け位がいいかな……
  • 機体はそのまま新武器使わせる程度が好み
  • この水は飲めそうだ
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