Infinite stratos / False prophecy   作:✕せんたくだま

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 天使と、天使と、天使と、悪魔がわたしの頭上をぐるりと回り、天の星々と苦難は切り分けられている。
 交差した輝きに導かれるように、世界を塗り潰す琥珀色に抗って。


42 エスコート・タイム

 

 

「久しぶり──と言うには期間が短すぎるか、コールサイン:シルバー」

 

「あら? 名前の方は否定しないのね」

 

 大西洋上、高度30キロ。

 セシリアとショウの前に悠然と現れたのは、巨大な2基のスラスターを翼のように生やした銀色のIS──銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)だった。気付けば昇っていた月の明かりに照らされて、その全身は青みがかった輝きを放っている。

 

「そっちこそ、ボイスチェンジャーはどうしたよ」

 

「え、点けてたのに──うわ止まってる……。今から使ったら無かったことにしてくれたりは……しないわよね」

 

「頭の中でどんなガーデニングしてたらそのような発言が出るのか疑問ですわね……」

 

 ボイスチェンジャーを点けたつもりでが無効化されていたらしいことに狼狽えるシルバーに、セシリアは呆れ顔だ。

 知っている相手とは言うが、では実際のところ誰なんだとショウに尋ねれば、難しそうな反応が返ってくる。

 

「……先月の話なんだが、受領直後にOF-3(コイツ)の飛行テストをやってたときにバッタリ遭遇したのがこのIS──ゴスペルって言ったっけ、その超音速モデルの機体。でもってパイロットはアメリカ所属のシルバー、階級も部隊も知らないけど」

 

「当時は日本が秘密のISを作ってるって大騒ぎだったのになあ……いつの間にか真っ赤になっちゃって、しかも中身は超絶有名人(セレブ)ときた。

 ──というか勝手に私の所属バラさないで貰える?」

 

「ん、無難にコールサインで呼び合ってたのにいきなり名前バラしてきた相手がなんか言ってる」

 

「だったらもうちょっと隠しなさいよ。学園で貴方がIS乗ってる映像見たらあの夜のまんまで、私叫んじゃったもん」

 

「プレスリリース見たろ、ただの量産モデルに隠す理由無いっての。……そんなに言うならそっちの名前もバラすぞ、()()()()()()()()()()()

 

「──それ、どこで調べたの?」

 

()()()()()()()()()ことだろ」

 

 どこか時制のおかしいことを呟くショウとナターシャなるパイロットの会話に、中々セシリアは入れずにいた。そもそも自分以外は揃って全身装甲(フルスキン)のデザインで顔が見えないし、何やら2人の間には自分の知らない関係があるようだし、どうにも疎外感を感じるお嬢様だった。

 

 アメリカ所属の身分を明かせないパイロットと、公式記録に該当しないIS。明らかに不審者である。

 仮にも少佐の階級を与えられたセシリアとしては、上役たる政府側に通報して判断を仰ぐのが当然の義務なのだが、奇妙なことにイギリス側への通信が繋がらない。最低限の呼び掛けにすら応答が無かった。

 あるのは出発前に言われたものと同じ、「同空域を重要な航空機が飛行しているため十二分に距離を取ること」と「その航空機のことをショウに悟られてはいけない」という短いメッセージだけである。

 

「──お二人の世界に入り込んでいるところ申し訳ありませんが、目的を教えて頂けますか。ナターシャ?」

 

「ノーコメントよ。答える義務があるのかしらね、それ」

 

「わたくしたちは英国政府の許可の下、正式に飛行テストを行っている身分ですの。アメリカ所属とのことですが、それが証明できない以上は『テロリストが割り込んできてISの強奪を図った』と受け取ることも可能ですわよ?」

 

「ふうん? だとしたらわざわざ公海上まで出張ってきてるのは不自然じゃないかしら。自国の領域でやれば良いものをはみ出してきているんだから、『領空侵犯を試みた英国機に対応するために出てきた』ってシナリオも考えられるけど?」

 

「世界に2人しか居ない男性操縦者を連れてやることではないでしょうに……大体、アメリカの領空まであと何キロあるかご存知ですの? 出しゃばりが過ぎますわよ」

 

 今度は男一人を蚊帳の外に置く形で米英の2人が睨み合う。

 ISでの戦闘行為は基本的に認められていない。その例外である「テロリストへの緊急対応」に現状を当てはめるべく、如何に大義名分を手にするかの勝負が繰り広げられていた。

 そんな、いつ終わるかも分からぬ喧嘩に待ったが掛かる。

 

「争うのは紅茶の淹れ方で十分だろ。で、本当のところはどうなんだよ」

 

「……言っても信じてもらえないと思うんだけど」

 

「言う前から心配ですの?」

 

「貴女ねえ……。先月末に学園で戦闘があったって聞いたけど、本当?」

 

「ああ。事実だ」

 

「なら、そこに米国(ウチ)の兵器が乱入したって話も本当?」

 

「純然たる事実ですわね。ゲインズには殺されかけましたわ」

 

 それはどうもご愁傷様……。とイヤミを滲ませるナターシャが語ったのは、彼女に課せられた調査任務の内容だった。

 

「ここ暫く、大西洋沿岸で機械の故障が多数報告されてるの。特に船舶とか航空機が勝手に動き出すような感じでね。不気味でしょ? そして同時期に()()()()()()()()()()()()()の噂も出回るようになった」

 

「潜水艦か何かの見間違えでは?」

 

「タンカー並の大きさらしいから、流石に見間違え様がないわね。それで、合衆国はその巨大なナニカが故障の原因と踏んだみたい。あわよくばゲインズの暴走もそのせいってことにしようとしてるんじゃないかしら」

 

「で、立場の悪化した米国が秘密で自由に動かせる駒がゴスペルだったわけか」

 

「そういうこと。極超音速モデルなら大西洋をカバーできるとの判断ね。ピークォド号*1よりずっと速いわよ?」

 

 言うに事欠いてオカルトに責任を押し付けようなんて、と皮肉を思い浮かべたセシリアは、口に出すことなくすぐにそれを振り払う。

 あの日の土壇場で米国が学園を攻撃するなど普通に考えれば有り得ない異常事態で、その異常そのものと一戦交えた経験がナターシャの言葉に奇妙な真実味を与えていた。

 最後に迎撃したベルメイトの大きさは並外れていた。仮に白鯨みたいな巨大な怪物が海にいたって、セシリアは疑わない。

 

「……目的は理解しました。けれど、わざわざ我々と合流した理由は? 秘密裏に調査がしたいなら距離を取ってやり過ごすはずでしょう」

 

 それがね……、と声量を抑えるナターシャはバツが悪そうというか、あるいは恥ずかしそうな様子だ。

 

「……前と同じよ。ショウ・サワムラ、貴方の……ガルーダのコアにゴスペルが会いたがったの」

 

「は?」

 

「セシリアの言ってたことは正しいってことか。コアに意識があるってやつ」

 

「それはそうかも知れませんが、いえ、そうではなく……ナターシャ、貴女は自分の任務よりもISの気分を優先してらっしゃいますの?!」

 

 「ふふふ……酷い言われようね。まあ事実だからしょうがないけど」と苦笑いのナターシャは、ゴスペルの厄介な特性を明かす。

 要するに、パイロットの言うことを聞かない瞬間があるのだ。ゴスペルが飛びたいと思うのなら、ナターシャの意思を無視して勝手に起動するし、今回の場合はどうやら仲が良いらしいガルーダのコア「マリコ」が近くにいたから、独りでに動くままにそちらを目指すしか無かった。

 パイロットの身分を持つナターシャであるが、その実情はゴスペルという手の掛かる子を持った親に近い。

 

 何にせよ、と呆れ顔を戻したセシリアは、ナターシャに右手を差し出した。

 

「真偽はともかくとして、色々お話いただけた分の礼は示しておかなければなりませんね。──はじめましてナターシャ、王立空軍特務少佐兼イギリス代表候補のセシリア・オルコットと申します」

 

「こちらこそはじめましてセシリア。詳しい所属は言えないけれど、米軍ISパイロットのナターシャ・ファイルスです。貴族令嬢さんだそうね、噂はかねがね」

 

 2人の間で交わされた握手は力強く、ギチギチという装甲が擦れる音が聞こえてきた。

 裏切ったら許さないという言外の意思がそこに籠もっている。

 互いの身分を考えれば、「今は敵ではない」という状況そのものが不安定で注意深さを要求するものだったからだ。

 

「あ、じゃあ俺も自己紹介した方が良いですかね?」

 

「必要ありませんわ。今年の世界で一番有名な方ならそれで通じるでしょうし」

 

「うん、いらない……というか突然妙に丁寧になるのやめて。気味悪いから」

 

「……」

 

 突然の状況にも対応出来るよう、慇懃な営業モードで名刺情報まで準備していたショウは、しょぼくれた様子で2人に背を向けると、10m程離れた。

 

「ちょっと~、そんなに落ち込むことだったかしら?」

 

「そうですわよ。どういうわけか共通の知り合いなのですから、既に済んだことをもう一度やる必要は────何をしてらっしゃいますの?」

 

 セシリアの視線の先、月光にぬらりと照らされたショウは、腰にマウントされていたレールガンを抜き放って、真下の海上へとその先端を向けていた。

 銃身たるレールには青白い光が仄かに灯っていて、それが単なる見せかけのポーズではないことを控えめに主張している。

 

…………いる

 

 か細くも力に満ちたショウの声を塗り潰すように、レールガンからの弾丸が大気を切り裂いて鳴った。

 

 


 

 

「──何が、起きている」

 

「軍と米国にも確認を取っていますが、完全にロストしているとしか……」

 

「『ロストしました』で済ませられる訳なかろうがっ、メディアの様子は? 今すぐこの施設を封鎖だ、間違っても情報を漏らすなよ」

 

 英国政府直属の、とある施設。そのコントロールセンターは現在騒然としている。

 国家に関わる重要な航空機の航跡が突然追えなくなったことで、皆がその真偽の確認や情報封鎖の実施、解決に向けたタスクフォースの結成などに当たっていた。

 

「直前まで付近を飛んでいた機体は? ログの共有が出来るものは何か居ないのか!?」

 

「ええと──代表候補セシリア・オルコットが例の二人目と共に飛行テスト中です。BT計画から申請されたものなので確かですが……なんてことだ、こっちもシグナルロストですッ!」

 

 ショウとセシリアのことではない。勿論、ナターシャでもない。

 彼ら政府の人間たちを顔面蒼白にさせて、緊張と錯乱の中に追いやっているのは、3機のISと同じく大西洋上を航行していた、ある旅客機──正確には、その中に搭乗している「ある人物」の存在であった。

 

「チィっ、今すぐ動かせる軍用ISは? 誰でもいいからスクランブルの要請を出せ。他所に勘付かれる前に探し出して救出するんだ!」

 

 


 

 

 ガン、ガン、ガン……!

 突然始まったショウの射撃から一瞬遅れて、眼下数キロのところで爆炎が同じ数だけ弾ける。

 だが、その様子を見ていたセシリアとナターシャの目を引いたのはもっと下方にあった。

 

「なんですの、あれ……」

 

「正直言って、ホントに実在するとは思ってなかったんだけど……」

 

 彼らから30キロ下の海面──その広範囲が青白くぼんやりと光っている。

 一見すればホタルイカのような発光生物の群れにも思われるが、30キロも先から確認できる明度は生物としては異常だ。かといって人工物にしては妙な光り方で、電飾を満載した船が群れているというよりは何かの光源が海面より下にいるように、不規則に揺らめいていた。

 望遠の倍率から逆算して長さは300mは下らない、巨大なナニカが確かに真下の海中を移動しているのが3人の目に映る。

 

 一方で、それより手前──ショウが狙う先に視線を向ければ、セシリアには覚えのある機影をブルー・ティアーズは認識した。

 眼下を不規則に飛び回る、戦闘機ともロケットともつかない外見の、背面からピンク色の噴射炎を輝かせる「物体」としか形容できないナニカの群れ。忘れるはずもない。

 

サージ……? ま、待ってくださいまし、バイドはあれで倒しきったのではありませんでしたか!?」

 

「現にいる以上は終わってなかったってことだろ。チクショウ……なんで今まで気付けなかった? そんな景色も死体も──うっ

 

「ショウ、説明してもらってもいいかしら?」

 

 状況を飲み込めずにいるナターシャの横で、ショウは喉から迫り上がる何かを抑えるように息を支えさせた。唐突に頭を抑えて苦しげな彼を見かねて、セシリアが口を開く。

 

「先ほどの戦闘の話を思い出してくださいまし。襲撃してきた相手の名前がバイド、中でも今我々の真下を飛んでいる飛行物体がサージですわ」

 

「敵の特徴と対策は?」

 

「表面を浸食作用のある粒子の膜で覆っているようです。同様の粒子による射撃のも行ってきましたから、被弾と物理接触は死を意味しますわ。

 ……もしかして戦う気でいらっしゃいます? 一度相手にした我々ならいざ知らず、米国の隠密が手を出す理由なんて無いでしょうに」

 

 金髪のイギリス代表候補は暗に「逃げてもいいんだぞ」と告げる。相手への侮りは一切ない。バイドの危険をその身で味わったからこその言葉だった。

 

 一方のアメリカ軍人にとっては、自分のターゲットが付近にいる以上、自身の安全確保は任務目標に合致する。詳しい調査は邪魔者を退けてからじっくり行えばいいし、それが敵ならこの場で倒して解決してしまうのが米国にとっても手っ取り早い。何より近くにIS2機という大戦力がいるのに活用しない理由はないのだ。

 

 「楽しい夜を過ごした相手と一緒に飛べるんですもの、喜んで協力するわ」と仮面の向こうでウインクしてみせると、セシリアは不満と猜疑心の混じった目でそれをじっとり睨んで、ナターシャの駆るIS「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)」の大まかな兵装を訪ねた。

 

「……広域爆撃向けの特殊誘導弾。分かってると思うけど、他にバラしたらお互い首が飛ぶだけじゃ済まないよ」

 

「だったら小型のバイドは任せた。俺は海中の白鯨(デカブツ)を叩く──()()()()()()()()()()()()()()

 

 ネバついた怒りを込めて半ば唸るように、しかし何の根拠も示さずにナターシャの探す発光体が元凶だと断定するショウ。困惑する2人を置き去りに、今すぐにでも急降下を始めようとガルーダのスラスターにプラズマが灯る。

 その時だった。

 

──やめておいたほうがいい

 

 手だ。

 セシリアには、飛び出そうとするショウの肩を、何かの手が掴んでいるのが見えた。

 虚空から生えているかのように見える腕にはびっしりと逆立つように鱗のようなものが生えていて、まるで爬虫類か何かの前脚を歪にしたように感じられる。

 

 一瞬遅れて腕の根本から胴体が生えるようにして、その主が姿を現す。徐々に透明な部位に色が付いていく様はカメレオンの擬態にも見えた。

 有機的な形状で全身を覆う毒々しい紫色の装甲と、映画のエイリアンみたいに顔面から後頭部まで伸びた、半透明のゲルでできたライトグリーンの奇妙なバイザー。その全体がぼんやりと燐光を発していた。

 これがつい先日に一夏たちを襲い、戦いの果てに消滅した機体であると知る者はこの場にいない。

 

「完全な光学迷彩……明らかに軍用ね」

 

「コアの反応がありませんわ、そもそもISですの?」

 

 ガルーダからのデータリンクを受ける形で、紫色のエイリアンみたいな機体の情報が共有される。

 

Target Type: BX-T "DANTALION"

Pilot: ■■■■■■■

Status: Neutral(trust me)

Wave Cannon Type: Dantalion's Flute

Force Conductor: Open

──────

────

 

「TL-TでもTX-Tでもなく、BX-T……」

 

はじめまして、通り過がりの監視役だよ。篠ノ之束には『笛持ち』なんてあだ名で呼ばれているけどね

 

 笛持ちから距離を取って各々の武器を構えるセシリアとナターシャに対して、ショウは肩を掴まれたまま、身動ぎ一つしないで訪ねた。

 

「笛持ちとか言ったか。何故ここにバイドがいる」

 

話が早くて助かるよ、沢村ショウ。まさに先ほどの見立て通りだ。他のバイドは真下のアレに引き寄せられている

 

「その正体は」

 

コードネーム:Leviathan(レヴィアタン)──10年前に現れた大型バイドの成れの果てさ。当時は殺しきれなかったから、こうして泳がせながらずっと監視を続けてる

 

「ガルーダでは消せないってことか?」

 

火力不足だね。今は結晶性の波動エネルギーを撃ち込んで中身のバイド体と打ち消し合わせてるけど、キミのスタンダード波動砲じゃその封じ込めに穴を開けて汚染を広げるのがオチだ。やるなら全部を一撃で、完全に葬らないと意味が無い

 

 露骨に舌打ちをして笛持ちの手を退けたショウは、構えていたレールガンを腰にマウントし直した。

 続いて、横からセシリアが笛持ちの頭に長銃「スターライトMkⅢ」を突き付ける。

 

「貴方、敵ですの? それに、そのダンタリオンとかいうものは一体……」

 

 笛持ちの、老若男女を同時に喋らせて重ねたような声は万人に不快な印象を与え、実際セシリアはそれだけで敵意を隠さなくなっていた。

 眼下で飛び回るバイドがこちらに襲い掛かってこない今のうちに情報を引き出さねばならない。

 

今はシンプルに味方ということにしておいてくれ。それよりも──

 

 笛持ちは眼下のバイドではなく、水平に近い方向を指差して、そのまま飛び出した。

 どこへ行く気だと叫ぶナターシャに続いて、3人はその後を追う。全員が超音速仕様にも関わらず、ダンタリオンの推力はそれを平然と先導できる速度だった。

 

キミらがどこの国にも属さないなら共にバイドの迎撃をお願いしたいところだが、現状ならアレの救助を優先すべきだね

 

 普通なら突然現れた正体不明の相手の言うことに従うなど有り得ないのだが、ダンタリオンに追従する3人──特にセシリアは、その行く先にあるものを見て、即座に考えを改めた。

 

「何あれ……旅客機?」

 

「にしては暗いというか──待て、航法灯どころか何のランプも点いてねえぞ」

 

 目に映るのは、大型の旅客機。垂直尾翼には派手にユニオン・ジャックがあしらわれ、胴体部には「UNITED KINGDOM」と金色の文字で刻まれていた。

 そんな航空機が、音もなく滑空しながら高度を下げている。少なくとも正常な振る舞いではない。

 

()()()()──間違いありません、我が国の政府専用機ですわ。けど、どうして……普通なら護衛がいるはずなのに」

 

間の悪い話だが、偶然レヴィアタンの近くを飛んだ結果、内部のシステムがバイドの波動にやられたようだね

 

「どういう……ことです?」

 

キミら2人は見たはずだけど、バイドと戦う前に束は学園にジャミングを掛けただろう。バイドには機械類を誤動作させる波動を発しているんだけど、アレはその対策だったんだ。何もしなければ目の前のべスピナみたいになる

 

「誤作動って、それじゃあ……」

 

キミの探し物の原因もまさしくバイドというわけだね、ナターシャ・ファイルス。ちなみに、既にこの空域にはバイドの波動が放射され続けている。レーダーが狂うから、米英どちらでも本土からは僕らの存在が消えたように見えているはずだ

 

「……おい待てよ、そんなVIP機体がなんでこんなところを飛んでる?」

 

「ニュースとか見ないわけ? アメリカに視察に来てるって話、ネットでも流れてたでしょ」

 

 セシリアはべスピナのコクピット部分まで行くと、フロントガラス越しにパイロットと会話を試みた。機長は乗客を含めて全員が無事だと答えたが、同時に状況が絶望的であるとも告げた。

 

「補機含めて全電源喪失……?」

 

「惰性のまま滑空してるだけで、放っておけばそのまま墜落ってことね。──笛持ちとか言ったわね。この機体、あのデカブツから引き剥がしたら元に戻る?」

 

可能性は高いが、時間が立つほど()()の安全は保証出来なくなるぞ。やるなら急いでくれ

 

 それならわたくしが参ります、とセシリアが胴体部の下に回り込んだ、その瞬間。

 ──べスピナの周囲の景色が何箇所も歪んで波打ち始めた。

 

──行けよポッドっ!

 

──『銀の鐘(シルバー・ベル)』!!

 

 ガルーダの両肩から2基のポッドが放たれると同時、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の大型スラスターから真っ白い光弾の群れが飛び出す。

 赤と白の輝きは自在に軌道を変えながら、亜空間から頭を覗かせようとしていた小型バイドたちに命中し、あっという間に政府専用機(べスピナ)の周囲の敵を一層した。

 

「……セシリア、機体の牽引は俺がやる。不本意だがここのヒトデナシどもの相手を任せたい」

 

「どうして? これはわたくしの国の問題です。わたくしが対応するのが正当で──」

 

この空域からの脱出にはパイロットの立場だけでなく、この機体を引っ張りながら周囲のバイドを退け続ける殲滅力が必要だ。キミのストライクガンナーではビットが使えないし、その大型ライフルでは隙が大き過ぎる

 

 「スペック上は私がやっても良いけど、立場からすれば論外だしね」と呟きながら周辺警戒を緩めないナターシャを見て、セシリアは歯噛みする。

 

 べスピナに今誰が搭乗しているかをセシリアは知っていたし、その事実はセシリアの精神を揺さぶるに十分だ。いや、そもそも誰が乗っていようが、イギリスの政府専用機が大西洋上で行方不明になったとすれば、その後の国際情勢の混乱は計り知れない。

 だからこそイギリス代表候補たる自分がやるべきと思うが、笛持ちの指摘に対する代替案は思い浮かばない。誘導可能で、継続的に使える武装が、今のブルー・ティアーズには無いからだ。

 だが、だからといってショウに護送をさせても良いだろうか? アメリカの隠密と謎の自称「監視者」に委ねるよりは幾千万倍マシだとしても……。

 

モデルケース:マッド・フォレスト──見た目こそタダの蔦だが、()()()()I()S()()1()()()()()()()()()()()()()()から強度は折り紙付きだよ。タキシング用のハードポイントに結べば問題無く牽引出来るはずだ

 

 どこからともなく長くて細い蔦を取り出した笛持ちから、ショウは無言でそれを受け取ると、べスピナの機首下部と自身の脚に装備された接地用クローに結びつけた。

 同時に両足のハードポイントに装着していたコンバーターを取り替えて、準備が完了する。

 

「──ミスター、本土から見てべスピナ諸共わたくしたちが消えたように見えているとすれば、ほぼ間違いなく空軍がISを緊急出撃(スクランブル)させます。情報の共有が出来ない以上、多少の混乱は予想されますが……とにかく後続のパイロットと合流して引き継げば問題にはならないはず。

 このような責任を負わせてしまうのは全くもって不本意ですが、この機体も、そして中にいらっしゃる方も、失うわけにはいきません。どうか、無事に送り届けてくださいまし」

 

 セシリアはずい、とガルーダの前に立って、その顔を見つめる。正確には、その群青色のラウンドバイザーの向こうにあるショウの瞳を。

 ショウは英国にとっての賓客だ。そんな相手をこんな厄介事に巻き込むなど、どうして出来ようか。だが、現実はそれを許さない。それどころか、無関係な賓客であっても、その才能と実力の全てを要求してきている。

 中庭で見せた異様な目付きを思えば、この男に何も背負わせるべきでないことは明白で、しかし、セシリアはそれに頼らざるを得ない。

 

 そんな中で、ショウは何かを抑え込むような声色で口を開いた。声は少しだけ震えていた。

 

「……セシリア」

 

「なんでしょう?」

 

「お前は、俺のことは気にしないで、前だけ見ていればそれでいい。この前だって生き延びたんだろう、その過去が保証してくれる。セシリア・オルコットは間違えないって」

 

 セシリアの返事も待たずに、ショウはべスピナの機首で加速を始めた。緩やかにその高度が上がり、同時に周辺を守るようにレッド・ポッドが飛び交っている。

 残された3機は、その背を見送った。

 

「──()()()()()()()()()()。だから、今は誰も死なない」

 

 ショウが最後に言い残したことの意味を理解できるものはその場にいなかった。

 けれどセシリアは、何となくそれが自分たちへの励ましだと理解して、後ろへ向き直った。

 海中に蠢く巨影──レヴィアタンと、バイドが我が物顔で飛び回る空の方を。

 

さて、VIPの退避が済んだところで、僕らもすべきことをしようか

 

「ちょっと、勝手に仕切らないでよ。──それで、何をどうする気?」

 

当然、殲滅戦だ。レヴィアタンに(タカ)る小物が尽きるまで叩き続けるだけさ。少なくともあのべスピナが逃げ切れるまでは付き合ってもらいたい

 

「その後は? わたくしにバイドを見逃す理由はありませんが、それとは別にタダで不審者に顎で使われる気もありませんわよ」

 

礼代わりに幾らかバイドに関する情報を渡そう。米英政府にも学園にも伝えてくれて構わないものだ。特にナターシャ、キミにとっては必要なものだろう?

 

 セシリアとナターシャは、苦い顔をしながらスラスターに火を点けた。即座にプラズマの青白い尾が二筋、夜空に刻まれる。

 

BTの申し子とフルスペックの福音──どうしてこのタイミングで揃ったんだか。何にせよ、是非とも頼らせてもらおうか!

 

 もう一筋のプラズマが夜空を焼いて、戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

こんかいのまとめ

 

・ナターシャ

 

 来ちゃった♡

 機械の暴走を引き起こす謎の物体を求めて夜間飛行してたらばったりショウと再会。

 目当てのレヴィアタンを発見するも、謎の不審者まで合流してきてワケワカメ。

 なんか勝手に名前までバラされたんだけど、どこで知ったの……?

 

 

・セシリア

 

 どなたですの、その女。

 ショウと楽しい夜間飛行のはずが禁断の邪魔者”二度打ち”。ナターシャについては何だか親密っぽいのでちょっぴりジェラシー。

 倒したはずのバイドの再来に、危機に瀕した政府専用機。震える心を抑えて、トリガーに指を。

 

 

・ショウ

 

 時制のおかしい人。

 突然やってきたナターシャに困惑している。マリコが呼んだって言うけど、そんなことあんのかなあ?

 視界の外から現れたバイドで気分が悪い。見通しは立っているので早く仕事を片付けて全部取り除かないと。

 

 

・笛持ち

 

 ダンタリオンを駆る謎の人物。例によって名乗らない、というか、名前に意味を感じていない。

 10年前に現れた大型バイドを骨とコアだけになるまで追い詰めるも殺しきれなかったため、とどめを刺す方法を探りつつ監視を続けている。

 セシリアもナターシャもこんな場所にいるはずじゃないんだけどなあ?

 

 

・ゴスペル

 

 今宵は歌っていない銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のコア。

 ナターシャと飛ぶのが楽しい年頃だが、言う事を常に聞くとは限らない我の強さがトレードマーク。一度呼ばれたらすぐにやってくるフッ軽な一面も。

 実はマリコとは(コア)ネッ友。一緒に進もうね。

 

 

 

*1
小説『白鯨』の舞台である捕鯨船の名前。モビー・ディックと呼ばれる巨大な白い鯨を仕留めるべく、エイハブ船長が指揮している




 ナターシャ再び。
 2章で出したときは戦わせられなかったのが心残りでしたが、今回はきちんと活躍させたい所存。
 でも原作の描写が少なすぎて捏造マシマシじゃないと書けない苦しみ……。

 同時に笛持ちも再登場しました。
 前回は謎の襲撃者でしたが、今度は味方になってくれるようです。
 そんな彼(?)の狙いにも注目いただければと思います。

 例によって主人公が変なこと言ってますが仕様です。

既存キャラの強化パターンを見て……

  • もっとやって!何なら別機体渡しちゃえ!
  • 強化装備ポン付け位がいいかな……
  • 機体はそのまま新武器使わせる程度が好み
  • この水は飲めそうだ
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