Infinite stratos / False prophecy 作:✕せんたくだま
照らす者。分け入る者。眺める者。潜む者。
暗黒の森はただ広がるばかり。
「──まだ寝てなくて良いんですか、博士」
「んな寝ぼけたこと言ってられるかい。まんまとしてやられたっちゅうに……」
研究所の地下1階。Dエリアと呼ばれる大空間を見下ろすように、揃ってヨレヨレの服を纏ったリーとエリックが佇んでいる。2人がいるのは空間の壁面に頼りなくへばり付いた細い通路の上だ。
BTシステムについての度重なる異常事態に、研究所への襲撃、ISの強奪など散々な状況の続く2人からは、誰でも疲れの気配を読み取れるだろう。
特に、リーの方は頭に包帯を巻いていた。
「非戦闘員が襲撃者のところまで出張ってるのがおかしいでしょうが。貴方が死ねばプロジェクトは本当におしまいなんですよ」
「じゃじゃ馬娘がグロッキーで警備も負けたとなれば、一か八かウチがやるしかないやんけ。
……はーっ、丹精込めた2号機が奪われたのは悔しいのに、まともに動いてるのが見られて嬉しい自分がいるのがヘンやわ」
格納庫で暴れまわるエムを相手に、当時の研究所にいるISでは対応が出来なかった。
それは乗ってすぐのサイレント・ゼフィルスを使いこなしていたエムの技量が警備兵を上回っていたことや、平時なら余裕で勝ちが見えたはずのセシリアが疲労困憊の上に屋内向きでない装備をしていたこと、戦力になるはずのショウを立場上逃さざるを得なかったことなど、多くの要因によって生まれた状況だった。
だが、開発者たるリーはそれに黙っていられず、試作のレーザー兵器を架台に載せたまま*1持ち出して参戦。当然ながら生身の人間がISに敵うはずもなく、エムが放った一撃で武器を破壊され、その余波で敢え無く失神KOとなった。
「セシリアのやつ、あないな
「監視カメラは私も見ましたけど……動いてましたね、シールド・ビット」
「ことBT適正という点においては、サワムラの兄ちゃんより期待できるんが皮肉やな。アッチはアッチで居るだけで変なこと起こすけども。
逃げる2号機からギリギリ低精度で拾ったログによれば、あの襲撃者のBT適正はBからAの間……才能も実力もそこそこ揃えとる。……なんでテロリストなんぞしとるんやろなあ。捕まえたらこき使ったろ思うたのに、ホンマ勿体ないわ」
「仮に捕まえてもこっちのプロジェクトに降りてくるなんて思わないでくださいよリー博士。ISの強奪なんて極刑間違いなしなんですから……」
リーはよろよろと歩きだして、近くの下り階段を目指した。後ろからエリックがその肩を支えると、その対価とばかりに質問を投げた。
「……そういえば、ショウとセシリアの組み合わせの秘密は分かったんですか? 彼のBT適正は全く無いという結果でしたけど」
「ハッキリ言って検証方法も分からん仮説やけど、ロードバランサー役になれる男なのかもしれん」
「負荷の分散ですか? 一体何の……」
「もちろんBTシステムの制御や。本人に欠片も才能がなかったとしても、セシリアの脳に要求されるタスクをショウが代理でこなしていたとしたら?
「
「コアネットワークの存在に、模擬戦で見られたBT粒子を介したエントロピーの喪失現象、やけに似通った2人の脳活動……ウチの見立てでは、あのログが増殖した瞬間には1号機とガルーダの間に何らかの繋がりが生まれていたはずや。当然、パイロットの思考も同様にな。元々ポッドとやらの制御でセシリアと似通ったアタマの使い方してたって線もあるやろうけど、どの道ショウに並外れた脳機能があることは確実やろ。
まっ、次にあの男がこっちに来るのがいつになるかも分からんし、隣に置いとくと嬉しいオプションパーツとでも思っとけばええんとちゃう」
「そんな乱暴な……」
カツカツと金属製の階段を降りていけば、目的のオブジェクト──精神拡張デバイスと呼ばれるものが中央に鎮座している。
物体は主に3つに分けられ、そのうち銀色の2つは同じ形をしていることから、残りの1つを補助するような、一対一組のパーツであると推測されていた。
それぞれはまるでアイスクリームディッシャーのような半球状の器と、その端から生えた砲身のような部位で構成されている。全長にして10mの2つは、見るからにアンバランスな外見をしていて、本来は半球状の部分を何か満たしていたのではないかと目されていた。
「──で、こんなところに私を呼び出して、何のつもりです? これでもべスピナの件やらショウ・サワムラ来英の後始末で今すぐにでも呼び出しが掛かりそうなんですが」
「決まっとる。今後のBT計画の話や」
コンクリート敷きの硬い床を歩いて、リーは精神拡張デバイスを構成する最後のパーツの前で立ち止まった。
それは全長20m程にも及ぶ、白色の残骸であった。
恐らくは何かの乗り物だったのだろう。機首と思しき部分にはボロボロにひび割れたキャノピーと、それに覆われていたであろう空洞がある。中にはコクピットのような椅子があったが、今はそれを取り外して、外から太いケーブルが何本も挿し込まれていた。
キャノピーから後ろに向けて胴が太くなり、最後尾にはスカート付きのスラスター、左右には水平翼だったと思われるパーツが付いている。どちらもボロボロに破壊されていて、上部に深々と刻まれた抉るような損傷を中心に、所々が煤で黒ずんでいた。
どこか航空機のようにも見える外観だが、それにしては空力特性を無視したような太い胴体が違和感を煽る。
ともすれば、まるでSF映画のための大道具か、何かのジオラマ。
初めてこれを見つけた政府の人間は皆こう思ったという。だが、技術者が派遣されて研究が始まると、その評価は一転した。
──
極秘資料にはそのように記載された。
内部に収められていた核融合炉や、下部に取り付けられた大型のレールガン、そして、ヒトの精神と相互に干渉する謎のシステム……どれも地球上に存在していた技術ではなく、しかし、そのどれもが人間にも解析可能なものだった。それらの技術を記述する言語でさえも、根本部分が人類と共通していたのだ。
後にISの登場によって核融合炉とレールガンに関しては技術的な特異性が失われたものの、残る一つだけは変わらずに異彩を放っていた。
そんな中、イギリスによる技術の秘匿と独占のために始められたのが、BT計画であった。
当初はISに組み込むことは考えられておらず、この物体が持つ超常的なインターフェース技術の解明に重きが置かれていた。
機械とヒトの意識の接続。実現すれば応用先は無数にあったし、地球外の概念にどの国よりも早く触れることができるとして期待された。
そんな重大なサンプルたるオブジェクトを動かすことが困難であったため、それを覆い隠すように造られた研究施設がここである。今ではIS関係の技術という花形を扱っているにも関わらず、この研究施設が僻地にあるのはそのためだ。
継続的な研究の末に、リーはこの残骸の由来をこう結論付けた。
──未来、または並行世界の人類の産物、と。
「この前の模擬戦のお陰で1号機のデータ取りはほぼ終わったも同然や。現状の理論値が引き出せた以上はあのまま運用させておくメリットは薄い」
「それ、本気で言ってます? あの百何十時間とかいうデータに全部収まっていた、と?」
「せや。それに、あのじゃじゃ馬娘、土壇場で
──ウチらは『破』の段階におる。もう
「なるほど、方針は理解しました。それで、具体的には何を?」
あまり滅茶苦茶言われるとこちらが辛いのですが、と苦い顔で嫌な予感を隠さないエリックに、リーは振り向いた。
「建造中の3号機と計画段階の4号機のプラン、あれ全部ストップや」
「はあっ?!」
「2号機を盗られた今、パイロット未定の3号機にリソース回す余裕は消えたも同然や。こっからは1号機を改造して、3号機と4号機の代わりにする方が賢い」
「そう言って、新しく手に入れた技術を使いたくてたまらないだけじゃないんですか。大体、その滅茶苦茶を私はなんと言って上に伝えろと?」
まあ聞けや、とリーは持っていたタブレット端末をエリックに胸元に押し付けた。画面にはドキュメントファイルの表紙が映っている。
「新仕様ビットについての提言、
「セシリア・オルコットのBT適正を最大限引き出すためのビットシステムや。グランゼーラから貰ったブルー・ポッドとその制御端末をベースに、超音速下でも動かせる新機軸のものを作る。BTシステムの最高到達点を拝めたら、後は下々へのフィードバックも見込めるやろ?
……その資料に書けるだけのことは詰め込んだ。後はアンタの働き次第やで、エリック」
淀み無く言葉を吐くリーを見て、エリックは息を呑んで、目を見開いた。
疲労と不眠のせいもあるのだろう。だがそれ以上に、ニィ、と口角を上げる彼女の目には狂気が宿っていた。
初めてセシリアと出会ったときと同じ、純粋に未来を見る意思から生み出される輝きが、リーの目を染め上げる。
──エリック、わたくしには夢がありますの。その為ならどんな無茶も通したいと思う、たった一つの願いが。
──ええか? アンタら公僕の仕事はウチらの仕事の中から何が国の為になるか選び取って、他の連中を納得させることや。考えろ、そして考えるな。
いつも姦しく無茶を言ってくる彼女たちに、それでもエリックが応じてしまう理由はたった一つだった。
凡人の自分でも、才能の描く未来が見られる……そういう期待。
こんな輝きと比べたら、世の宝石は全て無価値かもしれない。
「……まったく、似た者同士だなあ」
「まずは調査任務ご苦労さまと言っておこうか、少佐?」
「あら、まだ階級で呼んでもらえるんですね」
面積にして10平米くらいの薄暗い一室には、簡素な金属製のテーブルと、それを隔てたパイプ椅子だけが置かれている。
壁は灰色のよく分からない材質だが、その分厚い中には電波吸収体がずらりと敷き詰められていて、どんな通信機器も圏外になってしまう。そのうちの一枚は鏡になっていて、しかし、そこに額を押し当てて覗けば向こうからこちらを見ている数人のスーツ姿が見える。要するに、マジックミラーだ。
その上で、ミラーの向こうの部屋までもが電波を阻む設計なので、結局のところ通信が出来ないのは変わらない。
2つの椅子には男と女が向かい合って腰掛けていて、それこそがこの部屋の役割だった。
「勿論だとも。ただ、場合によっては少佐と呼ぶのは不適切になるかも知れないな」
「降格する気なら随分と焦れったい。それどころか今この場で銃を向けられてないのが不思議ですけれど」
女性の方が呆れたように背もたれに身体を預けて上を向いた。艷やかな金髪がふわりと揺れて、帰投してから着たきり雀のままな白銀のISスーツとのコントラストを描く。
もう一方の男は、硬い軍の制服に身を包んでいて、そのイメージそのままに元からシワの多い顔をしかめている。胸元に付いた階級章から高い立場の人間であることが伺えた。
「逆だ。あるとすれば昇進の話だよ、ナターシャ・ファイルス」
「……ジョークですか?」
ナターシャはここが具体的にどこにあるのかを知らない。何度かここに来たことはあるが、内装に特徴が無さすぎて毎回この部屋かどうかは怪しい。瓜二つの双子みたいに、よく似た見た目の部屋を用意されたら違いが分からないだろうと思った。
唐突に始まった戦いを生き残り、大西洋から帰ってきたかと思えば、少々荒っぽい流れでこの取調室に案内されたのが今の彼女である。
妥当な流れだな、とは思う。
勝手に命令を外れてショウたちの元に向かったのは事実だし、ゴスペルの奔放さは周りを呆れさせているとはいえ自分の管理責任だ。何より、こうして問題を起こしたのは今日が初めてというわけでもない。
イギリスの正規の軍人の前で、秘匿されているはずの武装を大盤振る舞いした挙げ句、所属不明の不審者と共闘までしている。その不審者には自分の窮状を、ショウには自分の名前まで言い当てられてしまった。
情報漏洩なんて言葉が遊びに聞こえるレベルの不祥事だ。こんな短時間でここまで揃えたやつは歴史上でどれほどいるんだろうか。
やっぱり妥当じゃないかも知れない。軍法会議が始まってない方が不自然だ。
男に尋ねると、重苦しい口調で答えが返ってきた。
「何から話したものか……先月のゲインズの件で、我が合衆国には疑いの目が向いている。自国の兵器を暴走させてIS学園にけしかけた、とな」
「事前のブリーフィングの内容ですね。それでレヴィ──じゃなかった、謎の巨大遊泳体を探して、それのせいだったことにしようって話だったでしょう?」
「そうだ。その結果、ものの見事に君はターゲットを見つけた上に、それが人類に対して敵対的であると証明までしてみせたわけだ。映画のエイリアンを認めるようで全くもって嬉しくないが、少なくとも任務として成功であることは疑いようもない──と褒めてやりたいのに、何だこの交戦記録は」
男はずい、と分厚い軍用タブレット端末をナターシャの方に差し出した。映っているのは、
「奇妙な話ですけど、一部始終が実際に起きたことです。ゴスペルが癇癪を起こした結果、ショウ・サワムラの試験飛行に再び遭遇して、そこに『笛持ち』なる不審者が乱入して、ターゲットに呼び寄せられたという正体不明の勢力と偶発的に交戦し──」
「それだけじゃなく、君は他国の軍人に自分の所属を知られた。秘匿戦力としての立場を買われてのミッションだったはずなのにな」
「……」
ぐうの音も出ない指摘には何も返さないことにしている。ナターシャは素直だった。
男は二呼吸置いて、意を決したように口を開いた。
「──英国政府のチャンネルを介して、向こうの
「なんですって?」
「『我が国民を守ってくれた勇敢なパイロットに感謝の意を表する。今後もその類まれな才能を人類普遍の理念のために発揮することを期待している』だそうだ。それを序文に、英国側も件の正体不明の勢力を本格的に敵と認識して、こちらとの共同調査の申し出までしてきた。紳士の国らしい、鮮やかな脅しだよ」
最初ナターシャは「脅し」という言葉の意味を掴みかねていたが、向こうの政府が自分を名指しで感謝のメッセージを送ってきたことを思い出して、答えに至る。
確かに感謝しているのは事実だろうが、秘密裏にそれをしてきたというのが重要だ。
何せナターシャとゴスペルは、国際的なタブーとしての完全な軍用ISの開発に関わる身である。大っぴらに言ってこなかった時点で「お前たちのことはいつでもバラせるぞ」という意図が透けていた。
仮に福音の存在をバラされたとして困るのは、ナターシャ以上に米国政府そのものだ。ゲインズの件で疑いの目を向けられている米国にもう一度スキャンダルが起これば、積み上げてきた立場と共に国際情勢は一気に崩れる。
もしもナターシャを罰してパイロットから外すようなことをすれば英国はそういう「告発」をして米国にとどめを刺しに来るかもしれないし、それがないなら同じ大西洋に面する国として、共通の敵に対する共同戦線を張ろうと言っている。ゲインズの件に関して味方になってくれる可能性すらあった。
詰まる所、ナターシャは国際政治のための人質にされているのだ。
「君1人を軍法会議に掛けるのは簡単だ。これまでの
……だが同時に功績も珠揃いだ。英国王室の人間の救援に当たり、会話の記録からショウ・サワムラとの交友関係が構築できて、しかも──ドクター・タバネはバイドと言っていたか──例の敵のデータまで持ち帰ってきた。一体ひとりで何役こなすつもりかね」
「ええと……それで、私は結局どうなると?」
「私にも分からん。クリプトンから来たスーパーガールとしてエイリアンと戦うことになるかも知れないし、もう少し現実にショウ・サワムラと合衆国のパイプ役を任されるかも知れない。
未確定なことばかりだからこんな場所で話をしたが……もう少し無能を装うべきだったな、何でも一人で成し遂げ過ぎたんだよ君は」
デブリーフィングは終わりだから、少ししたら戻りたまえ……。どこか呆れを漂わせながらそう呟いた男は、ふらふらと取調室を後にした。
ナターシャはもう一度マジックミラーに額を押し当てて、さっさとお前らも戻れと向こう側に手を振る。誰もいなくなったのを確認すると、テーブルの上に寝転がって、置いてあったタブレットの資料を眺めた。レヴィアタンと呼ばれる怪物や、アメリカで製造されたものとは似ても似つかないサイズのゲインズなどの性質や行動を記録したものだ。
執筆者の名前にはナターシャと書かれているが、これは彼女が纏めたものではない。
ショウたちと別れてからアメリカの領空に入るまでの間に、差出人不明の形でゴスペルに送りつけられたものがこれだ。
「今日のことをキミが調べた体裁の報告書」──笛持ちが言っていたのはこれかと、当時は驚くと同時に呆れもした。本当に狙いが読めないのだ。
一方的に成功を押し付けてくる、悪魔の名を冠した兵器を駆る存在。次に会うときには魂でも要求してくるのだろうか。
──ほら、コレで上手くいっただろう?
気持ち悪くボイスチェンジャーで歪められた、笛持ちの言葉が聞こえてくるようだった。
「……ままならないものね、ゴスペル」
「──あンの無能共がッ!!!」
少女の怒号とともにステンレス製のゴミ箱が勢いよく蹴り飛ばされる。それは壁にぶつかると甲高い金属音を立てて落下した。側面は粗雑にへこんでひしゃげていて、もはや元の道具としての役割は見込めないだろう。
「バッカじゃなかろうか! IS2機も持っときながら人っ子一人引きずってこいってだけの話もこなせないヤツがさあ、何? どうやってフィクサー気取りでいられるワケ? 面の皮が厚すぎるよ方々に失礼だよね、私だったら申し訳なさすぎて秒読みで首くくっちゃうんだけど、常識とかコモンセンスとか無いのかな。そういうルールの通じないヤツのことなんていうか分かる? 獣だよ、獣! 人間扱いして頂ける最低限のラインすら下回ってる連中って自覚無いの?
いついつどこの警備が薄くて狙い所だって懇切丁寧に説明してやったのに、あの無能共と来たら……ぁぁああっ、ムカツクムカツク」
「やめなさい。そうしていても結果は変わらないし、何よりみっともないだろう」
物に当たっても収まらぬ怒りに地団駄を踏む少女に対し、初老の男が宥めるように呟いた。
コンクリート打ちっ放しの薄暗い部屋に生活感はなく、人のいない間に積もったホコリが少女の動きで舞った。
「これでも我々は隠れ潜む立場だ。今の状態で得られる情報にも限りがあるし、現に想定外も少なくなかったじゃないか」
「じゃあ何、研究所までの道をまた
多少頭が冷えたのか、少女は近くにあった木製の椅子を前後逆にして腰を下ろす。顎を背もたれに乗せると、部品の隙間がぎい、と軋んだ。
「さあね。だが、言いつけの話で言えば『今は目立つべきでない』という方は守っていないようだけど」
「……」
「前から言っているが、どこにでもいる普通の人間の相手は君に相応しくない。たまたま昔上手くいかなかっただけの、君に及ぶべくもない男じゃないか。どうしてそこまで執着する?
……それに、もうすぐ私の仕込みも効果が出てくる頃だからね」
「理屈じゃないの。ゴキブリやネズミと同じように、自分の周りでアイツが生きてるって事実が何より許せないって前から言ってるでしょ。
……それで、なんだっけ。前からやってたフランスの? 会社いじくり回して何してるのかと思ってたけど……私がそういう地味で回りくどいの嫌いってこと知ってるでしょ、パパ」
ガタガタと椅子を傾ける少女に、まあそう言わないでくれ、と初老の男が呟いた。どこか嬉しそうなその声色に、少女は目を細めた。
「どちらにしろ、計画が上手くいけば自ずと君が望む通りの舞台が生まれるはずだし、その前に私が君に望む機会も訪れるはずだ」
「──ま、それが私の天命っていうなら片手間にやってあげるけどさ、時期からして私の助言もなしにやってきたことでしょ? 自信あるの?」
「それは勿論だとも。楽しみにしていてくれていい。
機内泊を含めれば、日本を出たショウたち2人がもう一度学園に戻ってくる頃には、1週間ほどの時間が過ぎていた。
授業の無い日曜の午後に帰ってきたセシリアにとっては、多忙でその間の情報を得られなかったIS学園は、もはや暗黒空間と言っても過言ではない。
何せここは「何処の国にも属さない」という建前に包まれた、政情渦巻く伏魔殿。1日ですら目を離せば何が起きているか分からないのだ。
そうしてセシリアが先輩のサラや同室の
セシリアによって救出された後、簡素ながらも聴取のために研究所へ戻ってからのショウはずっと黙り込んで、何かに怯えたように俯いていた。
往路と同じようにオルコット家のプライベートジェットに乗ったときでさえ、その暗さは変わらなかった。また何か絵を描いていたが、今度はセシリアにも何の絵かを読み取ることが出来ず、自分まで余計に気が重くなるようだった。
──あんなことがあった後では自明でしょうけど、大丈夫ですの?
──やらなきゃいけないことが出来た。今まで大丈夫だと思ってたことが残らずひっくり返っちまったんだ。
──それは一体、どういう……。
──なあ、セシリア。
最後に残した一言から今に至るまで、セシリアはショウと会話が出来ていない。
──お前、
◆
ショウは土日の間もずっと部屋に閉じこもっていたらしい。千冬が同室であることを考えれば酷いことにはならないとは思うが、それでも気掛かりなのは変わらない。
いつもみたくガルーダの中にいるだろうと思って整備室のガレージを覗いてみても、空っぽの架台とコンテナ類があるだけで姿は見当たらなかった。
だから、次に会えるとすれば今日──月曜日の教室が最も近い。
(ミスターに代わったとはいえ、聴取に随分手間取らされました。お陰で不在中に転入してきたとかいう、フランスとドイツの専用機持ちにも会えず終いでしたし……不安ですわね、一夏さんが変なことを吹き込まれていなければ良いのですが)
時刻は朝の7時過ぎ。いっそ蒼白さすら感じる鋭い陽光が差し込むIS学園の廊下は、しんと静まり返っている。ローファーの足音はリノリウム敷きの床によく反響して、余計に大きく聞こえた。
そうして、少しぶりの1年1組の教室を覗いてみれば──いた。
「──で、今日から授業に戻るんだっけ?」
「ああ、話じゃ一昨日の夜にはこっちに来てたっていうんだけど……まあ忙しいからなあ、あの人」
「ふうん、でも僕と同じ境遇の人が他に2人もいるなんて思わなかったよ。しかも専用機持ちも沢山いるって──あっ」
「お、セシリアじゃん、おかえり」
ショウの姿は無い。代わりに、教室の前方にいる一夏と、その隣に金髪がもう一人。
朝日を受けて爽やかに輝くショートヘアに、アメジストを思わせる薄紫色の瞳が特徴的なその外見は、男性とも女性とも分けがたい姿で、声も中性的だ。そんな判断に困る人物は、教室に入ったセシリアの姿を認めるとすぐに近寄ってきた。
「イギリス代表候補のセシリア・オルコットさん、だよね」
「ええ。セシリアと呼んでくださいな。そういうあなたは確か──」
金髪の人物は、にっこりと、いっそ
「──はじめまして! 僕はシャルル。シャルル・デュノアって言います。フランスから来た
こんかいのまとめ
・リー&エリック
度重なる事件に見舞われているが一応は元気らしい。責任を追求されるかと思いきや、一向にその動きがないので戦々恐々とする毎日。
セシリアの才能に未来を見出し、それを引き出すために力を注いでいる。
・ナターシャ
あの、ホントにこれで良いの……?
イギリス王室に人質に取られる形で諸々のやらかしが事実上帳消しに。巡り合わせと言うには都合が良すぎる状況に居心地の悪さが拭えない。
制服のおじさんは彼女がゴスペルと出会った頃から仕事で付き合っている上役の一人。よく胃を痛めている。
・セシリア
ショウの言葉の意味を掴めずにいる。一体あの宵闇の中で何があったのか、文字通り真実は闇の中。
学園に戻ってからは政府とのやり取りに忙殺される形で若干寝不足に。そろそろ休ませてほしい。
・ショウ
視界を塞ぐ暗黒が去って、その先に続くのは13階段。
ラストワードを描く前に、昇る脚が止まってくれなくて。
『獅子』が目覚めるまで、もう少し……。
前回書き損ねた自己処理と、次章への引きで纏めた今回。
表面的な戦いの裏で色々と蠢いているぞ、というのを描いてみました。
さて、これにて3章完結となります。
一夏を襲う謎の存在に、イギリスで連続する事件の数々と、色々やった割に話数は2章の半分くらい……というか2章がおかしいんですよね。やっぱり分割すべきだったんじゃないかと今でも思う反面、それをやるとキリが悪いなとも。
例によってこの章の設定集を次話に置くので、良ければそちらも見ていただけると喜びます。
また、活動報告にも書きましたが、再び更新をお休みします。
書き溜め期間を作るだけなのであまりお待たせするつもりは無いのですが、どうぞお待ちいただけますと幸いです。
既存キャラの強化パターンを見て……
-
もっとやって!何なら別機体渡しちゃえ!
-
強化装備ポン付け位がいいかな……
-
機体はそのまま新武器使わせる程度が好み
-
この水は飲めそうだ