Infinite stratos / False prophecy   作:✕せんたくだま

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 庭をザクザク耕しましょう。種が植えられるように。
 苗に肥料を与えましょう。きっと大きな蕾が付きます。

 葉を切って、枝を落として、そうやって花を摘み取るのです。大輪の一瞬を。



49 DETERMINARE

「うーん……わからん」

 

 部屋割りが変わった割に落ち着いた時間の流れる学生寮の一室には、一夏の唸り声が響く。

 

 ──Quantum mechanics near closed timelike lines.

 相変わらず英語が苦手な一夏には、ディスプレイ式のデスクトップPCの画面に映った英語の論文は題名だけでもギブアップ手前の難易度である。もっとも、機械翻訳を頼ったところで1%も理解できるとは思っていない。

 もちろん、これはショウが読んでいた論文だ。ISとは無関係の専門書をいきなり読むなど課題でも出されたことはない。

 学園に帰ってきてからは授業終わりに練習に誘っても、夕食に誘っても忙しいからと断られてしまう機会が増えたショウに対して、少しくらいは話題を合わせてみようという一夏の努力が実るのにはもう暫く掛かりそうだった。

 

「一夏、シャワー出たよ。次どうぞ」

 

 そんな彼の背後からシャルルが声を掛けた。うっすら湯気を立ち上らせる真っ白い首筋にはタオルが掛かっていた。

 先日から一夏のルームメイトになったこのフランス人少年は、年の同じ同性ということもあって早速打ち解け、今や仲のいい同居人となっていた。この前の朝なんて、コーヒーにクロワッサンを浸すフランス式を教わった代わりに一夏が我流で見つけた美味しい緑茶の淹れ方を伝授してみたくらいである。

 

「ん? ああ、ありがとう。すぐ入るよ」

 

「あとシャンプー無くなってたから詰め替えておいたよ」

 

「マジか、助かる」

 

 一夏は画面を閉じると、ベッドの上に置いておいた着替えの山を掴んだ。

 

「そういえば一夏、タッグマッチのチーム申請って明日からだったよね」

 

「ん? 確かそうだったと思うぞ。4日くらいしか無かったっけ。意外と余裕ねえよな」

 

「だったらさ、明日すぐに申請しちゃわない? もう僕と君で組んじゃってるし」

 

 学年タッグマッチの開催が予告されてからというもの、一夏とシャルルに対する女子たちのラブコールは日に日に強まっていた。

 

──織斑くん私と組んで!!

──じゃあシャルルくんは頂くよ~。

──フフフ、あなたはだんだん私とタッグを組みたくな~る……。

 

 授業終わり、休み時間、休日を問わずに女子たちに追い掛け回されれば嫌になるのは当然の流れである。ここ数日は2人でどうにか追跡を躱せるルートを探しまわる毎日だ。ショウにだって似たようなことが起きているのかもしれないが、肝心の本人が基本的に行方知れずなおかげで情報がない。

 手っ取り早い対策として考え付くのは早々にタッグを決めて文句が付かないようにすることだったが、では、誰と組むべきか?

 学園に来たばかりで心細いであろう同性を案じた一夏は、シャルルに自身と組むことを提案していた。

 

「うーん、俺もそう思うんだけどさ、逆に最初から組んでるって言ったら今度は狙い撃ちで対策されそうだなって思い始めてさ」

 

「一夏の武器はブレード一本なんだっけ」

 

「おう。だから既に結構手が割れてるんだよな。普段の練習でも平気で痛いとこ突いてくるから辛いのなんのって」

 

 こういうときばかりは束から借りたケイロンが恋しくなると同時に、自力で中・遠距離に対処できない無力を悔やんでしまう。姉の背中はまだまだ遠くて。

 

「そこはこれから本番までのコンビネーション次第でどうにでもなるんじゃないかなあ。これでも手数には自信あるし」

 

「そういえばシャルルの戦い方って見たこと無かったな。結構、銃とか使うのか?」

 

 風呂場へ行こうという気概はどこへやら。いつの間にかシャルルと一夏は互いにベッドの上に座り込んでいた。

 

「むしろそっちが本業かな。……あ、それなら一夏も銃を使えば良いんだよ。装備が幾つかあるから貸せば一夏も動きやすいんじゃない? 撃ち方も教えるからさ」

 

「え、そんなことできるのか!? 白式だと拡張領域が埋まっててさ……」

 

「うん、難しくないから、明日の放課後辺りにでも試してみようよ。……どうしたの? まだ心配ごと?

 ──ああ、分かった。ショウ・サワムラに他の女子たちが集まるんじゃないかって気にしてるんでしょ。僕たちがペア決めから抜けたら残る男は1人になるもんね」

 

──うええっ!? シャルって、もしかして心が読めたりするのか?」

 

「もうちょっと表情を隠すことを覚えた方が良いと思うよ、一夏……。というか、そんなに心配する相手なの? 僕はちょっと話したくらいしか知らないけど、企業所属で年上なんでしょ?」

 

 そうは言ってもなあ……。

 唸る一夏は難しそうに目を閉じた。

 ショウとはそれなりに顔を合わせているし、授業で分からないことを教えてもらうことも少なくない。「いつかきちんと決着を付ける」という約束もある。一度は命を預け合った間柄の……。

 

(……あれ?)

 

 好きなものはワサビで、所属している企業は医療機器メーカーのグランゼーラで、年は自分より5つくらい上で、不思議なくらい強くて。

 

 今までまともに考えたことなんて無かった。

 授業後に姿を消す彼がどこへ行くのか。戦闘の経験が妙に豊富な理由。一夏以外の生徒と話しているのをほとんど見かけないのは何故か。

 一夏は、自分が思っているよりもずっと、ショウのことを知らないのだ。もしかしたら、目の前で怪訝な表情を浮かべるシャルルのことよりも。

 

「……まあ、俺が考えても仕方ないか。シャワー行ってくる」

 

「そうそう。気楽に、自然が一番だよ。行ってらっしゃい」

 

 不意に湧き立つ疑念。そんなものを口に出せる訳でもない一夏は、考えを振り払うように洗面台へ向かった。

 その背中を、シャルルはじっと見つめている。

 

……Il vaut peut-être mieux ne rien savoir plutôt que de vouloir savoir à tout prix.

 

 


 

 

「……」

 

 人気の少ない廊下を銀髪の小柄な少女が歩いている。

 左目は黒い眼帯で覆われ、もう一方の瞳には鋭い眼光が不機嫌そうに宿っていた。

 

 ドイツから代表候補生として送り込まれた彼女──ラウラ=ボーデヴィッヒは、ISに乗るようになる前から軍人として生きている人間だ。

 普通の人間とは異なる生まれを抱える彼女は、いわゆる「普通の人生」というものを送る代わりに、ドイツ軍にて訓練に明け暮れ、そのスコアを高めることだけを求められてきた。昨年には日本から招聘した人類最強(ブリュンヒルデ)である千冬を教官として師事していたこともあり、所属部隊の黒ウサギ(シュヴァルツェ・ハーゼ)は軍内での評判も高い。

 

 そういう経緯もあって、己よりも強い相手を打ち倒すことは、そして己の力を示すことは、彼女の価値観とアイデンティティを支える重要な行為である。

 他でもなく、最も強い人(織斑千冬)に教わった自分自身を否定させないために。

 

 一番最初に勝負を持ちかけた相手は一夏だった。

 この世で誰よりも強い個人の弟だから、というのもあったが、それ以上に一夏という個人が気に食わなかった。

 自分の立場をまるで理解していないような、見るからに弱そうなヘラついた表情。どうせ女を周りに侍らせながら、他人におんぶに抱っこ。そうに決まっている。

 何より、貴様さえいなければ教官は今も……。

 

 しかし、その場は他のクラスメイトに邪魔される形で宣戦布告はうまくいかなかった。よくよく考えてみれば、弱者を叩いたところで全く満足できる気がしないということで、ラウラはターゲットを変えた。

 

 ──貴様がショウ・サワムラだな。私と戦え。

 

 2人目の特異体質者。

 搭乗経験と一致しない異常な操縦技能。

 ドイツ軍でも調べきれない不可解な経歴。

 

 どれもラウラの興味を引いて余りあるものであったが、いざ試合を持ちかけてみると慇懃な態度で断られてしまい、しかも翌朝まで行方が分からない。

 それなりに尾行や人探しの訓練も積んできたラウラではあるが、大して広くないはずのIS学園で尻尾すら掴めないというのはラウラの自尊心を大いにくすぐった。

 ……しかも教官と同居しているだと? 度し難い。

 

「いっそ教官の部屋に突入してやろうか……いや、でも……」

 

 ショウが学園に戻ってきてから3日目。ラウラがショウを探し続けて3日目。

 流石に彼女の堪忍袋の緒もギリギリと軋み始めてきた今日此の頃。

 青筋を立てるラウラの足取りは速い。

 

「──Salut(やあ) !」

 

「……貴様か、シャルル・デュノア」

 

 数メートル先の角からシャルルが顔を覗かせた。

 夕暮れの赤い光に照らされた顔には爽やかな笑みが貼り付けられている。巷で「フランスの貴公子」と呼ばれ、行く先で黄色い悲鳴の多重奏を響かせるキラー・スマイルだ。

 

「まだあの人を探してるんだってね」

 

「貴様には関係のないことだ。

 ──それとも、貴様が代わりに私と戦うか?」

 

 ギロリと睨むラウラの前に歩み寄ってきたシャルルは、わざとらしく両手を肩の高さまで上げて困ったように言った。

 

「いやいや、それは流石に御免かな。どうせタッグマッチで戦うんだし、今ここで手の内を明かすのは良くないでしょ?」

 

「ふん、なら離れていることだな。平和ボケしたここの女子どもに囲われている方が気楽だろう」

 

 そこまで気楽じゃないんだけどな……。

 一瞬浮かべた苦笑いを塗り潰すように、シャルルは無表情になった。

 

「……僕は、一夏を育てるつもりだよ。キミの目的にも適うことだよね。この後も一緒に訓練しようって誘ってあるんだ」

 

「そうか、ご苦労なことだな」

 

「たださあ、そうやってウロチョロされると、一夏が気になるようで困るんだよね。そういうわけでお話に来たんだけど」

 

「なら織斑一夏に目隠しと耳栓でも付けておけ。私に関わ──」

 

 ラウラが言い終わるのを待たずに、シャルルは一歩歩み寄って、口を開く。

 

「──キミが探してやまないショウを釣り出せるかも、と言ったら?」

 

 


 

 

「……しかし、意外ですわね。貴女がわたくし一人を呼び出すなんて」

 

「そう? 合同練習で何度も一緒してるし、たまには二人きりってのもおかしくはないでしょ?」

 

 夕刻の第6アリーナには、セシリアと鈴音の姿があった。

 いつもなら他の専用機持ちたちと練習するところだが、今日は一対一(サシ)が良いと鈴音が誘っていたのである。

 

「さては、山田先生に負けたのを気にされているのでしょう? 不在の間のことは聞きましたわよ」

 

「……そういうの、口で言わないのが友情ってモンじゃないの?」

 

「別に、恥ずかしがることでもないでしょう。4月末の戦いで実力は窺い知ることができたわけですし」

 

「……遠回しに『負けて当たり前』って言うのも止めて貰えるかな。それともケンカでも始める? いつでもウェルカムだけど」

 

 両者はウォームアップがてらアリーナの外縁部を穏やかに飛んでいる。ジロリと不満げな鈴音の視線をセシリアは悠々としたバレルロールで躱した。

 周囲をブルー・ティアーズのビットが忙しなく飛び回り、甲龍の両肩に浮かぶ球体はそれを目で追うように回転している

 

「まあ……実際こっ酷く負けたからさあ、あたしもいい加減に回避とかの練習を真面目にやるべきかなって。今まで感覚だけで何とか出来ちゃってたし」

 

「それこそペアで合わせた方がよろしいのでは? 一夏さん……は、あのフランス人に取られたんでしたわね。そうでなくとも2組にどなたか、いらっしゃいませんの?」

 

「いっそあんたを誘うのもアリかなって。その様子じゃ沢村()()とは組めてないみたいだし?」

 

 鈴音の言う通り、学園に戻ってきて以来セシリアはショウとあまり話せていない。

 あの日、サイレント・ゼフィルスを強奪したテロリストとの戦いで何があったのかは知らないが、ともかく彼の目により一層暗いものが宿るようになったのは確かで、以前にも増して一人で過ごすようになった。メールやチャットツールも返事がない。

 

 何となく彼が使う整備ガレージに行ったときは、謎の図形や数式で埋め尽くされた数枚のホワイトボードと、分野も時代もバラバラな論文が表示された無数の空中ディスプレイが視界に飛び込んできて、怖くなってその場を離れてしまった。

 

 ともかくとして、彼が誰とタッグを組むのか、そもそもタッグマッチに出場できる状態なのか、セシリアは何も分からない。

 教室では後ろの席の、毎日顔を合わせる相手だというのに。

 

「それで、今回はどうされるおつもりですの?」

 

「この前の授業で先生に負けたのは、同時に幾つも戦術をぶつけられて判断が遅れたからだと思ってる。要するに、頭がパンクしたのよ」

 

「では、わたくしを誘った理由というのは……」

 

「話が早いじゃないの。今からアンタにはそのビットであたしを四方八方から狙って貰うから、あたしはそれを掻い潜りながらどうにかして距離を詰めるって寸法」

 

「わたくしがそれに付き合うメリットは?」

 

「世にも珍しい近接縛りのあたしと戦える機会を得られる……じゃ、ダメかしら?」

 

「……貸し、1つですわよ」

 

「オッケー、5秒後に始めましょ」

 

 すぐさま間合いを取る両者。セシリアはビットを散開させてレーザーライフルを呼び出し、鈴音も二振りの青竜刀を構えた。

 

「……それじゃ、行くから」

 

「お好きなところからどうぞ」

 

 スラスターをアイドリングから一気に出力を上げて、鈴音は駆け出す。

 そんなときだった。

 

「──随分と楽しそうな()()()()()だな。私も入れてくれよ」

 

 横から差し込まれた声に振り向いた2人の視界に入ったのは漆黒のISだった。

 右肩に装備された大型のリボルバー式レールカノンがまず目を引いて、やけに大きな非固定部位(アンロック・ユニット)は鈴音の甲龍にも似ている。

 そして、それを纏う銀髪の少女、ラウラ。猟犬の耳にも似たヘッドセットを付けた彼女の右目がギロリとセシリアたちを見据えていた。

 

「……転校生」

 

「あら、ドイツの。申し訳ありませんが、今このアリーナは2人で占有しておりますの。遊びがしたいなら他所を当たって頂けます?」

 

「おいおい、そんな淋しいこと言わないでくれよ」

 

 ……がちり。

 ラウラの右肩でリボルバーが回転し、砲口がセシリアに向けられる。即座にロックオンアラートがけたたましく鳴った。

 

「……とんだ狂犬ですわね、予防接種は済ませてらっしゃるのかしら?」

 

「どうせ多頭飼いの飼育崩壊でしょ。EU(ソッチ)じゃ愛護愛護ってうるさいそうだし」

 

「あら、我が国は既に連合を抜けておりますので詳しいことは何とも……実際のところ如何なのですか、ねえ、ドイツのワンちゃん?

 

 雰囲気は今や一触即発の様相を見せている。

 「ISはISでしか倒せない」という不文律が罷り通る今の世界で、数的優位は絶対だ。

 それでもなお、敢えて分かりきった破滅に食って掛かるラウラの考えはつまり。

 

「そうか、そうか。まったく、イギリス人は回りくどいし、中国人は字がゴチャついて面倒極まりないな。

 ──『殺してください』と言うだけで通じるのに」

 

 ────轟ッ!

 空気が弾けるような音と共に閃光が駆け抜けて、首を傾けたセシリアの背後の地面が砂煙とともに大きく抉れた。

 続いてラウラの眼前でプラズマが持続的に輝く。一瞬にして距離を詰めた鈴音の青竜刀を、ラウラは腕から生やしたレーザー体の刃で受け止めていた。

 

「……先に始めたの、そっちだから」

 

「弱者はいつもそうだなあッ! どうせ負けるから後で相手を責める材料探しばかり!」

 

 にい、と犬歯を剥き出しにしたラウラの脚部パーツからワイヤーブレードが放たれて、鈴音は即座に離脱する。追い掛けるラウラは奇妙に身を捩る──直後に虚空をセシリアのレーザーが駆け抜けた。

 

「躱した……!? ──鈴さん、前衛は任せますわ、暴れてくださいッ!」

 

「射線は?」

 

「お気になさらず、幾らでも合わせますッ!」

 

 嬉しいこと言ってくれるじゃないの……。

 意図は分からないがお墨付きを頂いた鈴音は、一瞬浮かべた喜色を直ぐに消し去ってラウラに肉薄する。

 

「ハッ、単純バカが! 野生の猪でも少しは考えて──ッ!?」

 

 真正面から突っ込んでくる鈴音にレールカノンをお見舞いしてやろうと照準を合わせたその瞬間、砲口が蹴り飛ばされたように向きを変えた。

 さらに続けて、溝尾にボディーブローのような衝撃。

 

「ちっ、衝撃砲か……」

 

「単純……何だったかしら?」

 

 弾けるような音と共に再び青龍刀とレーザーブレードが衝突する。更にそれを取り囲むようにアリーナの内縁部の数カ所からビットによる狙撃が飛来する。

 弾道は見えている。ラウラは先程と同様に身を翻して────、

 

「……まがれ」

 

 ──全弾被弾。

 

(弾道が曲がっただとッ!? クソ、イギリスの偏向射撃(フレキシブル)か)

 

(え、なにそれ……イギリスでヘンな修行でもしてきたの?)

 

 数発はシールドが防ぎ、残りがラウラの装甲を灼いた。

 白煙を立ち昇らせながら姿勢を崩す少女に、鈴音は二振りの青龍刀を振り上げた。両肩の衝撃砲もエネルギー充填済みだ。

 

「さっきのワイヤー出した時にあたしだけでも潰しとくんだったわね。ISで二対一(ニーイチ)挑むバカを保健室で診てもらいなよッ!」

 

 もはや照準に頼るまでもない。咄嗟に見上げたラウラの顔面に肉厚の刃が迫る。

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

(あ、れ……? なんで何時まで経っても当たらな──)

 

 鈴音はまるで止まった時間の中に投げ込まれたような感覚に襲われていた。金縛りと言ってもいい。

 全力で叩きつけているはずの青竜刀はそれ以上進むことなく、意識を向けても衝撃砲は眠っているように動かない。

 辺りには静寂が降り、自分の心音だけがやけに大きく聞こえる。

 

 だが、その中で唯一、ラウラの口角がゆっくりと、嗜虐的に上がっていくのだけが動いて見えた。

 

「──ゴっ、お゛……」

 

 空中で身動きの取れない鈴音の鳩尾にラウラの拳が突き刺さった。すぐに離すようなことはせず、肺の空気が徹底的に抜けるまでぐりぐりと右手をねじ込み続ける。

 

「鈴さんッ!」

 

 悲鳴混じりに叫んだセシリアに呼応して、アリーナの各所に散ったビットがレーザーを放つ。

 射線は関係ない。全て鈴音を躱すように回り込ませるだけだった。

 だが。

 

「……仮にも軍人だろうが。人質がどう扱われるか、考えようともしないのか?」

 

 ラウラは項垂れる鈴音の首と肩を掴んで、甲龍の巨体を強引に動かすことで盾にする。ラウラを仕留めるべく出力を上げていたレーザーが突き刺さって、鈴音は苦しげに身を震わせた。

 

「この……! ルールは無用か、ドイツ人(German)ッ!」

 

「おいおい、私は犬じゃなかったのかよイギリス人(Engländerin)。人並みのルールを求めてどうする?」

 

 怒りに顔を歪めるセシリアと、用済みになった()を放り捨てたラウラが空中へ駆け出した。

 

 

 


 


 


 


 

 

 思えばいつからこうだったろうか。

 筑波の研究所に初めて行ったときかも知れないし、中学時代からかも知れない。少なくとも物心が付いた頃には無かったものだ。

 

 それは変わらず存在し続ける景色で、今なお俺の視界を蝕み続ける死そのものであって、最近では日を増す毎に酷くなっている。

 

■■■のうねりに巻き込まれた。入力に耐えきれなかった。辺りに血が流れている。見捨てやがったな。セシリアは死んだ。俺も倒れている。俺じゃダメだってどうして初めに言わなかったんだよ。

 

 こうなる頻度がどんどん増えている。

 自分がどこにいるのか分からなくなって、ひどく気分が悪くなる。

 俺がバイドに触れすぎたから? セシリアと模擬戦をしたあの瞬間? あのヒトデナシの不意打ちをわざと受けたから? それとも、人間に違いない()()()に拒まれたから?

 

 どれも納得できる原因とは思えない。

 とにかく分かるのは、学園にいる限りこれは好転しないということ。ここを出たって同じだろうけど。

 

ごめんなさい。多分そういう体質なんだ。ヤマダ先生は真っ先におかしくなる。だから俺は。ああどうしようあんなにやさしくしてくれたのに。殺された。ごめんなさい。殺した。ごめんなさい。死体になって初めて分かる。どうしてこうなるまで理解できないんだ?

 

 運よく今日この時間の第6アリーナは静かで、壁に取り付けられていた鏡にはひどい顔の俺が映った。人間に見えない。

 廊下を一歩進むたびに後頭部に流し込まれるものが気持ち悪い。脳のシワに粗い砂鉄を擦り込まれるような感触。

 視界の端に眼球が転がってきた。いいや、そんなものは無かった。

 足音がグジュリと湿って粘ついている。違う。俺が歩いているのはリノリウムの上だ。

 

 マリコ、教えてくれよ。

 俺が立っているのはいつの、どこだ?

 お前の景色を信じていいのか?

 それとも、全部俺が勝手に思い込んでいるだけなのか?

 

 結局のところ、俺の行動が、この恐怖が正しいモノであるかなんて誰にも分からないんだ。

 順位付けしたら自然と最上位と最下位が出てくるように、何もしなくたって勝手に結果は向こうからやってくる。それが俺の見たものと違ってくれるかどうかの話でしかないのに。

 

 4月の襲撃は、自分の実力さえ仕上げれば何とかなると思っていた。

 とんだ思い上がりだった。ガルーダが強かっただけで、俺は一人では何一つ成せなかった。

 

 今度はどうだろう。一体何があるっていうんだ?

 何も分からない。今まで散々嫌がらせみたいに見せられてきた地獄が、今はほとんど黒く塗りつぶされているようで。

 

止められなかった。あの瞳孔が這い出してきて、学園が全ての中心にされちまう。待ってくれどうして親父がここにいる?今殺したのは誰だったやつだっけ。会長?カンザシ?どうせおかしくなるなら今の内に殺しておかないと。無力だった俺に責任を取らせてくれ。

 

 ()()の波濤が止む瞬間はない。だから寝ないようにしていたのに、少しでも頭を鈍らせていたのに。

 近頃になってそれすら意味が無くなってきた。余計に苦しいだけ。

 どうすれば良いかだけは教えてくれない。ただ、何がダメかばかり押し付けてくる否定形。

 

『ちィっ、先程からどうしてビットが急に動きを止めますの……!?』

 

『戦場を俯瞰すべき狙撃手(スナイパー)がその程度の分析能力とは恐れ入るなぁッ』

 

 だから俺はこうして見ているしか出来ない。

 アリーナのピット入口まで来て、向こうで蹂躙されている2機のISを。

 俺にはガルーダがあって、道徳的には割り込んだ方が良いことだって分かっていて、俺は何もしない。最低のクズが。

 

 ……ずっと前から思っていた事だが、()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()ここにいるべきなのは1人のはずで、でも、おかしい。

 単一であるべきそれらは、時に一糸乱れず重なって、時に全くの別物であるかのように踊っている。

 おかしい。1人は1人であって、2人にはなり得ない。

 

 きっと何かしらの補正が掛かっているんだろう。ISを通して見える景色はひどく正常に感じられた。

 俺にとってはISに乗っていないときよりも何倍も気楽で、だからこそガルーダから出て、この異常な景色の中に戻りたいなんて思わなかった。イメージファイトが現実を塗り潰し続けてくれていた。

 だというのに、何だ?

 

 

 ガルーダを解除する。

 瓦礫と黒ずんだ血糊に辺りが埋め尽くされて、アリーナだったであろう場所では人間じゃないものが戦っている。

 

 ガルーダを展開する。

 綺麗に均されたアリーナの地面にリンインが倒れていて、ラウラにセシリアが押されながら戦っている。正常なはずだ。綺麗なはずだ。

 でも、2人いる。

 

 ガルーダを解除する。

 異常だ。元々そこに何人いたのかさえ分からないくらいグチャグチャにされている。

 

 ガルーダを起動する。

 おかしい。今まで気の所為と思ってきたはずなのに、一度気になると否定のしようが無くなる。

 

 ガルーダを解除する。

 ガルーダを起動する。

 ガルーダを解除する。

 ガルーダを起動する。

 ガルーダを解除する。

 ガルーダを起動する。

 ガルーダを解除する。

 ガルーダを起動する。

 

「はあ……っ、はあ……っ」

 

 あと少しで呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。

 顔が焼けるように熱くなって、視界が急にぼやける。

 震える手をポケットに突っ込んで、いつものおまじない。

 

 マジックカットがすぐに切れてくれなくて。ダメだ、早く上書きしないと。これはいけない涙。

 

 

 

 

 舌を刺す刺激はやがて脳を囲むように広がって、少しだけ気が楽になる。

 

 結局、なんだっていいのだ。

 俺が何をどう見ているかを言い訳にするまでもなく、俺は何もせずここに立っている。

 

 だって、それは。

 俺がそう選ばなくちゃならないから。

 例え思い込みや勘違いだとしても、選ばなかった景色を見たくないから。

 

 つまり、結論はこうだ。

 

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

セシリア・オルコットは学園から離れなければならない。

 

 


 


 


 


 

 

「……これで終わりか?」

 

 ここまでに僅か8分。

 静まり返った第6アリーナに立つのは、黒色のISだけ。

 残りは青とマゼンタのひしゃげた塊が苦しげに震えていた。

 

 最新技術を多分に取り入れた第3世代の専用機持ち2人に、持ちこたえるどころか一方的な勝利。

 それはドイツのIS《黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)》の持つ恐るべき性能の証左であると同時、パイロットたるラウラの実力を示すこれ以上ない材料でもあった。

 

 普通ならばセシリアと鈴音が圧勝していて当然だったはずなのに、あり得るはずもない番狂わせは無観客の中で行われた。ラウラはひどくつまらなそうに2人を見下ろした。

 

「国連のきまりに従えば──」

 

「ゔ、ぅ……」

 

 首に巻きつけられたワイヤーブレードに引き摺られ、セシリアがラウラの前まで持ち上げられる。

 

「我々は共に国家代表候補生という等級に分類されるな。国の名を背負い、ゆくゆくは代表にもなり得る存在だ。

 ……私と、弱者(お前たち)がだぞ?

 

 つう、とラウラの指がセシリアの顎をなぞった。普段なら堪えられぬ屈辱だったが、意識が朦朧としている彼女に身動ぎ以上の方法で反応する余力は無い。

 ブルー・ティアーズの全身はボロボロで、離れた場所に転がっている残骸が元はビットだったなどと見抜けるものはいないほどに破壊されていた。

 

「ふざ、けんじゃ、ないわよ……っ!」

 

 ズリズリと地面を擦りながら、鈴音が起き上がろうと試みた。両肩の衝撃砲《龍砲》は交通事故を起こした車みたいに大きく凹んでいて、元の姿は残っていない。

 既にラウラは右肩のレールカノンの照準を彼女に合わせていた。

 

「ふざけているのはどっちだ、ええ? 仮にも軍人なら状況を客観的に見るがいい。数的優位を真正面から覆されたんだぞ? 何をどう考えたら同列に扱って貰え──

 ──ああ、漸くのお出ましか」

 

「……」

 

 急に視線の向きを変えたラウラに追従するように、鈴音はゆっくり首をピットの方へ向ける。

 視界に映ったのは、長身に濡羽色のセミロングヘアをした、どす黒い瞳の男。ショウだ。

 

「このような少々乱暴な招待の仕方をしてしまったことには謝罪しよう、すまなかった。だが、本当に来るとはな。バカ正直に貴様を探す前にこうしておけば良かった」

 

「……お前はそれを選ばない」

 

 ショウは生身のままラウラの前まで歩み寄る。

 その目に宿っているのは侮蔑でも嫌悪でもない。どちらかと言えば諦観にも似た、ごちゃ混ぜの感情。表情はなく、目の周りが少しだけ腫れているように見えた。

 

「その目は何だ貴様、まるでさっきまで泣いて──、

 ────いや、いやいやいや。おいおい嘘だろう? まさか、この戦いをただ見ていたのか? ことが終わるまで手出しせずに、こいつらが無様を晒すのを、手をこまねいて眺めていたと? 途中で助けに入れば無事に済んだかも知れないのに、何もしなかった? そうでもなければ泣いている暇なぞ無いよな。ふ、ふふ……あはははっ!」

 

「……ガルーダ」

 

 己の専用機を呼び出したショウは、吊り下げられたままのセシリアを抱きかかえた。腹筋を抑えて苦しげに笑うラウラは首に巻き付けたワイヤーを解いて、両手を上げてみせた。

 

「くっ、ふふっ……ああ良いぞ、連れて行け。その偽善はもう少し観察しないと理解出来そうにないから」

 

 意識の戻らないセシリアをピットの中へ置いたショウは、続けて鈴音も抱き上げる。

 全身を装甲に包まれたショウの表情はもう見えなくなっていたが、鈴音は訝しげに尋ねた。返ってきたのは、ひどく弱々しい返事。

 

「アン、タ……どういう、つもりよ」

 

「……ごめんなさい」

 

「だったら……アイツ、だまらせて」

 

 返事の代わりに鈴音を優しくセシリアの隣へ寝かせたショウは、今度こそアリーナへ戻ってラウラの正面に立った。

 

「……すごいな、貴様。いや、本当に。全く行動目的が理解できん。知っていたか? 貴様の背後を洗おうとしたドイツ(うち)の諜報部は泣いていたよ。『まるで意味がわからんぞ』とな」

 

「……」

 

「……まあいい。招待したのは私だからな、理由を明かすべきはこちらか。

 端的に言えば貴様が強いからだ。代表候補を容易に下し、ロシア代表にも食らいついたその実力……私は貴様を倒して己を証明するぞ。何者にも私を変えさせない。何者にも穢させない。比類なき力によって────その次はあの男だ」

 

「その割に、ロシア代表には挑まなかった」

 

「順序ってヤツだよ。学園の偶像(アイドル)を真っ先に叩いては問題もあるだろう?」

 

「……穢されるぞ。お前の、望みは」

 

 ショウの言葉が合図になった。

 ラウラのレールカノンとショウのレールガンが互いに火を吹いて、両者の間で轟音とともに弾ける。その火花を隠れ蓑に、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラが突撃してきた。

 

「悪いが、()()()()()()()()なんて曲芸を観に来た覚えは無いぞ」

 

 迷いなく突き出されたラウラの右腕からレーザー体の刃が伸びて、ショウは即座にそれを自前のレーザーブレードで内側から押しのける。

 だがラウラにはまだ左腕があった。レールガンで埋まった片手では詰めの2撃目を止められなかったショウは、右足でラウラの土手っ腹を押し返すことで辛うじて止める。

 

 至近距離で膠着したところで、ラウラのレールカノンが滑らかにショウの顔面へ向きを変えた。打つ手の少ないショウは両肩のレッド・ポッドの射撃で応じて──、

 ────動かない。それどころか、手足の先からガルーダの中心まで、何かに押さえつけられるように停止していた。

 

「ふっ、コレだから近接バカは簡単に絡め取れる」

 

 AIC──アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

 黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)が保有する最大にして最新の第3世代兵装だ。姉妹機である黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)と違い、自機の前方にある物体の慣性を一方的に打ち消して停止させる慣性場を展開するこの兵装は防御的な側面が強く、《停止結界》とも呼ばれる。

 

 鈴音の青龍刀が不自然に止まったのは?

 そのまま全身も固められてレバーブローを食らったのは?

 セシリアのビットが突然言う事を聞かなくなったのは?

 

 答えは1つ。全てこの結界に捕らわれてしまったのが原因だ。

 

(ふん、所詮はこの程度か)

 

 イギリスと中国の専用機は潰した。目の前のこの男も同じ様に打ち負かせるだろう。

 ラウラは猟犬の如き獰猛な笑みを浮かべながら、少しの寂しさとともにレールカノンの引き金に指を掛ける。

 

(ん?)

 

 ぞわり。

 不意に、AICからのフィードバックが不自然なものになってラウラの脳を撫でた。

 直後、視界には信じ難いものが飛び込んでくる。

 

「なにっ」

 

 ()()()()()。ガルーダの腕が、首が、ゆっくりと、しかし確実に。

 ──ガルーダの背面が爆発するように輝いて、面食らったラウラは恐るべき速度で空中に投げ飛ばされた。

 即座に姿勢を立て直したラウラは、追い打ちに飛んできたレールガンの弾を寸でのところで躱しながら中距離戦に戻った。

 

 AICはPICよりも強力で、確かにISならば捕らえて固め殺しにできる。

 それはある種の絶対であって、初見の状態ならば為すすべなく討ち倒される他ないのだろう。

 だが、それは普通のISならば、の話。

 ガルーダはそうではなかった。

 

 もう一つの慣性制御機構。XICS──ザイオング慣性制御システム。

 PICと協調する形で2重の力場によって自機を制御するガルーダにとって、AICは己を縛るには実に矮小な鎖でしかなかったのだ。

 その翼は、その爪は、絶対の(クビキ)を殺す。

 

「……くっ、あははははっ! そうか、そうか。そうだよな。コレで終わるなんて興醒めも良いところだものなァっ!」

 

 レールガンとレールカノン。電磁砲の応酬が繰り広げられる。

 だが互いに命中弾は無い。人間の反応速度を振り切った領域にありながら、互いにその弾道も、次の瞬間にどこへ回避すれば良いかも見えていたのだ。

 

「そういえば私の部下がお前の同僚に世話になっていたな。貴様ら日本人に倣ってお礼参りもしてやる……!」

 

「……3速」

 

 プラズマを迸らせながら再びの吶喊。今度はショウが突っ込んだ。

 両腕のレーザー刃とワイヤーブレードによる波状攻撃と、ショウのレーザーブレードが火花を散らしながらぶつかり合い、幾重にも重なる輝きとして現れる。

 

 方や恐るべき包囲斬撃。方や神速の剣戟。

 ラウラが速度を手数で補っているかと言えば、決してそんなことはない。むしろブレードを振るう両者の反応速度は互角だった。

 あまりに速く動く刀身やワイヤーのせいで、虚空に色や明るさが付いているようにすら見える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()のが貴様だけの特権だと思うなよ────ッ!」

 

 脳神経とISを直結しての人機一体。それはショウのものよりも後発の、より完成度の高い代物。

 生身の常人が追従出来ない限界領域に、ラウラは更にAICによる遅延妨害も仕込んだ。完全に動きを止められずとも、相手の邪魔ができるなら十分。

 だが。

 

(何故だ。何故コイツは互角に打ち合ってこれる?)

 

 レーザー刃の2刀流による素早い剣戟を弾き、ワイヤーブレードによる多重攻撃は両肩のレッド・ポッドの射撃でいなし、AICによる不意の拘束も見切ったようにXICSの出力を上げて無効化してくる。

 反応速度も攻撃速度も互角。手数ではラウラが上回っていて、だとすれば、何故こうなるのか。

 群青色のラウンドバイザーと真紅の装甲に覆われたこの男の力が、ラウラにはまるで理解できなかった。

 

「……ここ」

 

「──そんな単純ッ!」

 

 ラウラの左腕をすり抜けて、ショウが大振りに片手でレーザーブレードを叩き込む。迷いなく首筋に向けられるそれは実にいなし易い。ラウラは平時の何倍にも引き伸ばされた感覚でその軌道を見抜き、軽く右手のブレードで弾いた。

 

 重みなんて無い。ひどく、軽い剣だった。

 

(な、に…………?)

 

 すぽん。

 ショウの手からレーザーブレードが回転しながら抜けて、虚空へ投げ出されていく。青白い光の線が空中を踊り、ラウラの注意を引いた。

 

 AICで停止できるのは、パイロットが意識を向けた対象だけだ。それが一瞬の隙を生む。

 次の瞬間には、ラウラの視界の4割ほどを銀色の何かが埋め尽くしていた。その正体が握られたガルーダの左手だったと理解する頃には────。

 

 ──ずンッ!

 ラウラの視界が波打ちながら90度そっぽを向く。続けて逆向きにもう一発。

 

「が、がアっ……!?

 

「──4速」

 

 そこからは一瞬だった。

 体勢を崩したラウラの胸に、スラスターを最大出力にしてのドロップキック。アリーナの砂地へ盛大に「着地」しつつ、上から降ってきたレーザーブレードをキャッチしてラウラの首に突きつけた。

 8分掛けて2人を圧倒した少女は、1分足らずで打ちのめされた。

 

「き、貴様……!」

 

 猛攻を受けてなお意識を保っていたラウラは、恨めしげにショウを睨んだ。

 拳の威力を意図的に過剰にしていたのか、シールドバリアを差し置いて発動した絶対防御でパイロットへのダメージが少なかったのも理由の1つだった。

 

「その、両腕の装備は、どうした……? 両肩の兵装の遠隔操作は? まさか」

 

 そんなものがなくとも私を倒せたとでも言いたいのか……。

 その言葉を遮るように聞こえた男の声は、やはりラウラを困惑させる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前……()()()だ?」

 

「何の話だ──」

 

『────そこの生徒2人! 今すぐ停戦して学生証を見せなさい!』

 

 聞き覚えのある教師の声がアリーナの大気を揺らして、ショウは黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)の胸元から脚を退けた。その隙間を付いてISを解除したラウラは、スルリと抜け出てアリーナから駆け出した。

 後には、穴だらけになった砂地と、そこで呆然と佇む真紅の鎧だけが残るのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

こんかいのまとめ

 

・シャルル

 

 キラキラした王子様的な人気を誇る貴公子。陰の中にあってなお輝く。

 冷蔵庫の麦茶が切れてたら何も言わず補充してくれるタイプのルームメイト。

 一夏を強くしたいので邪魔されたくない模様。良かったな一夏、同い年の男だぞ。

 

 

・一夏

 

 シャルルに言われてみれば俺ってショウのこと全然知らないよな。

 先にタッグ決めちゃったけどアイツなら何とかできると信じて特訓へ。

 論文の内容は結局分からず終い。

 

 

・ラウラ

 

 笑えるな、立場だけの弱者にもプライドがあるらしい。

 シャルルのアドバイス通りセシリアをブチのめしたらショウが出てきて笑いが止まらない。え、しかもセシリアが負けるの待ってから出てきたの? 私の腹筋壊す気なの?

 なお速攻で制圧される模様。意味不明なやつに意味不明な負け方をする心情や如何に。

 

 

・ショウ

 

 こんなものが■■であるものかよ。

 この涙は全てワサビのせいであって、どこもかしこもヒトデナシだらけなのであって、だから、だから、だから。

 伸びた枝葉に絡まれて、垣間見るだけの傍観者。無力を無力と分からない。

 

 




 地面を這い回り絡みつくナニカ。

 相も変わらぬ変な論文を読んでいるショウとそれに追い付けない一夏という構図。でも今回はシャルルがいます。同年代の男子がいれば一安心ですね。依存先が複数あるのは良いこと。
 ちなみにこの論文は実在します。

 原作通りにセシリアと鈴音を倒したラウラ。今回はショウを誘い出すための策略でしたが、やっぱりレーゲンの初見殺し性能が高すぎると再確認しました。結局力押しでねじ伏せるくらいしか対応策が考えつかないですもん……。
 もっとも、初見殺しさえ越えてしまえばフェイントからのダイレクトアタックで何とかできてしまったので常勝最強とはいかないとも思ったり。

 一方でなぜ彼女がショウを狙うかといえば、前章でクラリッサが戦ったときの縁がここまで続いているわけです。本人の内面的な問題もありますが、御礼参りの側面も小さくありません。

オリキャラの描写比率について……

  • 主要キャラならバンバンちょうだい!
  • 原作キャラの掘り下げに必要なだけ欲しい
  • なるべく原作キャラだけが良い……
  • 拷問だ! とにかく拷問せよ!
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