Infinite stratos / False prophecy 作:✕せんたくだま
それは、最も高く、最も低きところ。
それは、最も尊く、最も賤しい力。
それは、万古不易にして、有為転変の具象。
子供の子供の子供の子供。親の親の親の親。
永遠で、須臾で。
始点で、終点で。
何処へも行かないさ。何処からも来てないんだから。
お前は空の隙間に伸びた枝葉。
雷の音が聞こえたら笑顔になろう。怒りに身を任せて。
琥珀の雲海、赤と青が引き裂いていくように。
鏡に写した景色の方が正しいよ。
倉庫の扉は閉めておいて。善意なら外にあるから。
つまらない。人でなしめ。
濡れた瞳に親指を押し込んで、乾いた骨になるまで。
古いものを捨てただけで新しくなったつもりか?
俺はこんなものは嘘だと思っていたい。
声を出さないでくれ、忘れてしまう。
中に何も残らなくなるまで積み上げ続けろ。
赤子の、赤子の、赤子の、赤子の、赤子の、赤子の、赤子が咥えた羽を取り上げるんだ。
卵を割って、今日は2つ出てきた。一人っ子のくせに。
「人間」って、どう発音するんだっけ?
臓物から絞り出した、存在しない色で空を塗り固めて。
いい加減に壁の穴から目を逸らせよ。
また、次のコインを入れるときが来たんだよ。
「……よお、ついに来ちまったな。こんな所までご苦労なことで」
「今回はちゃんと目を見て話してくれるのね、視線恐怖症かナニカだと思ってた」
「まあ、ここじゃ肉体は意味が無いからな。トラウマにしろ癖にしろ、引っ張られるものがないワケだ。
なんつーか、魂同士の会話ってやつ? うわ、コレちょっとアツい表現かも」
「──答えて。ここは何処?」
「もう話したぜ。思い出してみろよ。それともこれからじゃないと理解できないか?」
「どういう、意味?」
「ま、どうでもいいや。歓迎するぜ、更識楯無。
──
気付いたときには、
ずっと前からここに呆然と佇んでいた気もするし、今初めて突然ここに飛ばされたような気もする。あるいはここに自分がいるのはもう少し後のことのような感覚もある。どれも正しいようで、どれも間違っているようでもあって、最終的に楯無の思考は「わからない」の五文字に集約される。
踏んでも音がしない代わりに、ザラつく触感のする純白の真砂が何処までも敷き詰められた地面。真上に広がる暗黒の空と、それをカタン*1の盤面みたいに切り分ける六角形の網目模様。気が遠くなるまで続く地平線の果てまで、白と黒が交わることなく広がっている。
何処を見ても代わり映えはせず、自分が一体どの方向を向いているのかがわからない。せいぜい今向いている前とその真後ろを分けるくらいが限界で、その間にある角度は一瞬気を抜いてしまえば違いを即座に見失うだろう。すぐに砂が崩れてしまうので、目印代わりに足で地面に模様を書くのも無意味だった。
「──ぁ」
辺りを見渡すことの次に楯無がしたのは、声を出してみることだった。
全く音がしないこの空間だが、それくらいの自由は許されているらしい。尤も、反射する障害物も喋り掛ける相手もいないので意味なんてあってないようなものだが。
そう、思ったときのことだった。
「あなたは……?」
何となく目を向けたその数歩先に人影が佇んでいる。頭のてっぺんから足の先まで真っ白で統一されたその姿は、もしもこれが遠く離れた場所にいたなら地面の色に紛れていたと言えるだろうが、余りにも楯無に近過ぎた。
ついさっきまでこんなものは近くに居なかったし、何処かから歩いてきたような足跡も見られない。
「聞こえているなら教えて。ここは何処なの?」
咄嗟に尋ねた。
殺風景極まりないこの場にいつまでも留まっていなければいけないかと思うと楯無は耐えられなかったし、ここから出る方法があるとしたら他人に聞く以外の情報源は無いと思ったからだ。
白い人影は、ゆらりと楯無の方へ顔を向ける。少女然とした外見だが、人間ではなかった。
純白の絹糸で出来たようなシワひとつ無い振袖と肌。髪は絹糸を無数に伸ばしたように繊細で、顔の表情は張り子の様に布を向こうから滑らかに押したり引いたりして輪郭と表情を象っているようだった。
無言のそれは、マネキンみたいな無表情で楯無を見据えている。眼球なんて無いのに、そう見えた。
「……そうか。そうなのね? あなたなんでしょう、ここに私を連れてきたのは────マリコ」
根拠は無い。何となくそう思った。
ISコアには意識があるという。まるでおとぎ話みたいに語られる有名な噂だが、こいつはきっと
恨めしげに視線を向ける彼女にとって、マリコとはそういうものだった。
だが楯無は、ここでマリコの名を呼んでしまったことを未来永劫後悔することになる。この場所が一体何なのかを思い出した。
ぶちっっっ!
白い人影──マリコの顔面が独りでに引き裂かれ、中から飛び出した黒い物が楯無を覆い尽くした。くしゃくしゃと絡む、細い植物の枝葉のようだった。
◆
楯無は乱回転する万華鏡の中に放り込まれたように、無数の「景色」の中を揺蕩っていた。真っ黒い植物に絡み付かれ、引っ張られるまま情報の濁流に溺れかけ続けている。
一秒前と一秒後で見えるものは違い、それどころか、何処まで時間を細かく刻んでいっても同じ「景色」が連続することは無かった。奇妙なことに、楯無は何処までも短い一瞬も永遠に近い長さの時間も同じように認知していたのだ。
例えば、こんな試行があった。
茜色の空は不気味に赤黒く濁り、校舎の至る所から黒煙が上がっている。静寂が支配するはずの時間帯だが、聞こえてくるのはISの駆動音でも生徒たちの活気ある声でもない。
──どじゅんッ、どじゅんッ、という、巨大な何かが跳ね回ってるような湿った音。
「なによ、これ……」
楯無は、自分が学生寮として作られたビルの屋上に立っていることに気付いた。上から見下ろせば、学園を構成するメガフロートには数百メートルに渡って巨大な亀裂が走っており、そこから海水が迫り上がってきている。じきにここが海の藻屑となるのは、誰の目にも明らかだった。
眼下の遊歩道には、見覚えのあるIS学園の制服を着た生徒たちが点々と横たわっている。海風に煽られてよく見えなかったが、どれも血を流しているらしかった。
「ねえっ、大丈夫!? すぐに──」
地上へ向かおうと後ろを振り向こうとする直前でピントが合う。死体だった。
頭の上半分が無く、ちょうどその場所から幅広く何かを引きずったような血痕が伸びている。人間の出血量ではない。残された手足の至る所からは鈍色の金属のトゲが生えていた。まるで生きているウニみたいに、そのトゲはグニグニと蠢いているのだ。
よく見ると、遺体の近くには見慣れた空色の髪の毛が────。
「……ひッ」
バランスを崩して後ろ向きに転んでしまった。
学園の防衛システムは完全に機能不全に陥っていた。声らしい声も、警報も聞こえてこない。みんな居なくなってしまったようだった。
簪も、千冬も、セシリアも、真耶も、他の学生全ても、誰も残っていないのだろうか。そして何より、この景色の中の自分は、何も出来なかったのだろうか?
嘘だ。こんなデタラメ、あって良いはずがない。立ち上がろうと前を見ると、一人の人間が貯水タンクにより掛かるようにして座っている。
長身の、濡羽色をした髪の男。
「ショウ……?」
楯無は思わず駆け寄って声を上げた。だが、ショウは彼女の方を向かない。
項垂れたまま視線は地面を向き、楯無の声など最初から存在しないかのように、彼女の身体をすり抜けていく。
男には、右脚の膝から先が無かった。焼き固められたのか真っ黒に染まった傷口からは、緩やかに赤い液体が染み出している。制服は至るところがボロボロで、煤と血と土に塗れている。
「ねえ、何があったの!? 教えて、そうでないと私……」
ショウの顔と持ち上げようと手を伸ばすが、触れることは出来なかった。それどころか独りでに右側へ倒れた男の目からは、生気の光が失われている。胸は僅かにも上下することはなく、彼だったものは、ただそこに落ちていた。
あの、異常な強さを持つショウが、戦いの中から望む結果を好き勝手選び取ってしまえるような存在の男が、ただ、
「信じない……認めない……」
結果は決まってしまった。ダメな入力にダメな出目。
彼が負けたから学園がこうなってしまったのか? それとも、学園がこうなる程のことが起こったから彼の末路がこれなのか?
何処から間違えたのか気付く権利は与えられず、ただただ終わりを受け入れるしか無い、そういう結末。
「こんなものが未来だなんて────ッ」
くるり。万華鏡はまた回る。
◆
例えば、こんな試行があった。
そこは午前の第1アリーナだった。学年タッグマッチ第一回戦、ショウ・ラウラ組対一夏・シャルル組の試合が始まろうとしていた。周囲から響く歓声は何処か歪んで聞こえてくる。
(ここは……あのタッグマッチの、予選……)
楯無は観客席の入口から、眼下に広がる客席と、バリアを挟んで向こうに続くアリーナを見ている。隣に目を向けると、楯無の記憶では、とうにイギリス本国へ帰っているはずのセシリア・オルコットがそこにいた。
『ミスター。どうして貴方は、あの様な人間とタッグなど……。負けたわたくしには、もう価値が無いとでも仰るのですか?』
「セシリアさん、その腕は……」
浮かない表情で真っ直ぐアリーナを見つめるセシリアに、楯無の声は聞こえていないらしかった。頬に絆創膏を貼り付けて、首にネックサポーターを巻いた彼女は、自力では立ち続けらられないのか壁に寄りかかっている。
彼女が日本に留まっていた理由は単純だ。ショウから「帰れ」と突き放されなかったから。聞けば随分と突き放すようなことを言ったらしいショウの行動が、ここでは行われていなかったらしい。
だから彼女は、自分を痛めつけた相手と平然とタッグを組むショウの行動がどうしても理解できなかった。何も言わなかった男の様子を確かめるために、怪我を押してこの場へ足を運んでしまっていたのだ。
そして、惨劇は楯無の記憶と全く同じ手順で幕を開ける。
アリーナの中央で、一夏の白式とラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが瞬いた。2人を起点としたレクイエムシステムの発動。ギリギリでシャルルを逃がしながらガルーダは2対1を強いられる。客席の生徒たちは明らかな異常に、我先にとセシリアの佇む出口へなだれ込んできた。
この少し後に、楯無は教員に呼び出されて駆け付ける。ショウは今にもすり潰されてしまいそうな苦境に立たされているが、この後クロエが救いに来るらしい。そうでなければ。
『ぁ……え……?』
楯無の視界の端で、網膜を焼きそうな程の青い輝きが放たれた。振り向けば、白目を剥いて力無く崩れていくセシリアの耳のイヤーカフス──ブルー・ティアーズの待機形態がブクブクと表面を泡立たせていた。
「──まさか、貴女もなの?」
青い輝きはセシリアの身体を素早く覆い、展開されていく。だが、光が収まって現れたのは、ブルー・ティアーズではなかった。
両肩と背面から長いトゲ状のパーツが伸び、腰部には大型のスラスター。何より、その顔は中身を閉じ込めるようなラウンドバイザーに覆われている。アリーナの中で暴れる2機と酷似していて、楯無にとっては何処か見覚えのある外観。
3番目のレクイエム。冒涜の権化がそこにいた。
目の前で続く異常事態。変わり果てたクラスメイトを案じて数名の生徒が立ち止まる。
『せ、セシリアさん……どうしたの?』
『なにか言ってよ、せっしー……』
セシリアは何も答えない。ギチギチと油の切れた機械みたいに身を震わせると、トゲ状のパーツが各々持ち上がった。それが合図だった。
一瞬、閃光が周囲を埋め尽くす。たったそれだけで周囲は静かになった。
『い、いやあああああああッ────!!』
生徒
誰一人として、レクイエムは逃さなかった。動くもの、生きているもの、それら全ては敵として扱われる。「たまたまそこにいたから」という理由以外は何一つ考慮されない、この世で最も公平な瞬間だった。
「やめてセシリアさんッ。私の声が聞こえてるなら、お願いだから……ねえ……っ!」
楯無は機械的にその場を赤く染め上げていくセシリアだったものの背中を何度も叩いて叫んだが、その手は同じ回数だけすり抜けて、手応えは無い。
アリーナという地獄から、壁一面隔てた観客席にも地獄が広がる。
レクイエムの発動に際して、事態を察知した束はコア・ネットワークを遮断し、感染経路を封鎖したという。この時、対応すべき経路は出来るだけ少ない方が良くて、1種類違うだけでも状況は大きく変わる。要するに、セシリアに対しては間に合わなかったのだ。
周囲のISや機器とBT粒子を介して情報を伝達するBTシステムは、このとき学園においてセシリアのISだけが持っていた仕組みだった。アリーナの2機から溢れ出したレクイエムの信号は、たまたまBTシステムの通信可能距離にいたセシリアの《ブルー・ティアーズ》へと到達。たったそれだけで、感染は完了してしまう。
時間を惜しんでコアネットワーク全体を無効化してしまったために、束はブルー・ティアーズという個体への処理をする方法を失ってしまった。
「……どうして? どうしてこうなるの?」
誰一人居なくなった観客席は、アリーナ内からの衝撃を除けば静かなものだった。楯無のか細い声は飲み込まれ、セシリアに届くことはない。
青色のレクイエムは、次のターゲットをバリアの向こう──アリーナ内で地獄を繰り広げる3機に定めた。
そこからは一瞬だった。有り得ない出力のレーザーによって保護バリアが破壊され、3機目の怪物が乱入する。トゲ状のパーツをビットとしてオールレンジ攻撃を行う青色のレクイエムによってショウのレッド・ポッドは即座に撃墜され、前後からオルトロスとヴァイスリッターがその胸を貫いた。
そうして、止める者の居なくなった3機のレクイエムが、アリーナの天頂から解き放たれる。
これからどれほどの悲劇が繰り広げられるのか、楯無には想像が出来なかった。それが出来ない程度の頭しか持ち合わせていなくて幸運だったとすら思った。
結末へ至る一つの契機として。
セシリア・オルコットは学園から離れなければならなかった。
万華鏡は回り続ける。何時から始まって何時終わるのかを知らぬまま。
「方法は貴方が考えたの? ここを作って、上手いやり方を探す仕組みは」
「ああ。ISコアの素材となる
「とんだ天才──いや、化け物ね。貴方は。……レクイエムに勝つだけじゃ、ダメだったの?」
「確かにアンタは勝って一夏を救い出した。本当によくやってくれたと感謝してる。これは偽りなく本心だ。……でも、それじゃ始めから手遅れだった。時間方向の詰み筋を、後出しでひっくり返すには、こうでもしないと」
「レクイエムが、バイドを呼んでしまうって? コアの動力源がそうだとしたら、全て束博士のせいじゃない。貴方がここまでする必要なんて」
「あの人はバイドと戦うのに必要だから。差し当たっての障害を排除するのは、方法と実行力を持ってるやつの役目だろ。アンタが生徒会長として学園を守ってきたみたいにな」
「……」
例えば、こんな試行があった。
ショウと真耶の距離が始めから随分と近いように見える回だった。教員の仕事を手伝ったり、千冬の居室に招いて3人で毎夜のように晩酌を楽しんだり。時には真耶を護衛にするという体で2人で出掛けることも少なくなかった。
「沢村くん、知ってましたか? ここのクレープ屋さんでミックスベリーを食べた2人は幸せになるそうですよ」
「……うーん、メニューにそんなの見当たらないですけど」
「良いから良いから、行ってみましょう!」
基本的にショウは引っ張られる側の人間だったらしい。
真耶の過去の確執がショウに牙を剥くことはなく、ただただ優しい時間が続く。ガルーダの覚醒も、ショウのシミュレーター漬けの生活も無く、その時だけは楯無にもこれが理想に見えていた。
4月のことだった。変わらず起こったバイドの襲撃を誰も乗り切れず、その景色は壊された。
例えば、こんな試行があった。
諸外国から小言を言われる程度にショウとセシリアのライバル関係が熾烈な回だった。
毎日のようにアリーナを貸し切り、それが出来なければ他のグループが借りた場所の端を使って、とにかく模擬戦を繰り返す。そして、毎回決まって失神寸前で医務室に担ぎ込まれるのだ。
「ふ、ふふ……ついに攻略してやりましたわ、あのポッドの動きを。もう怖いものなんてこのエリートにはありませんわ……!」
「うるせー。ちょっと徹夜で隙が出来ただけだっつの。鼻血出しっぱで言われても全然響かないね」
「このっ……それは言わないお約束でしょうが。いい機会ですし、たまにはハーブティーを淹れて差し上げましょうか。本国では訓練の後によく飲んでいましたの」
学校医には「いい加減に学習しろ」と怒鳴られながら、第3世代機のパイロットらしく脳を酷使し続ける日々が続いた。それにつられて他の専用機持ちの実力も高まっていき、4月のバイド襲撃も乗り越えることが出来た。
英国への出張も問題なくこなし、それが特定の国との過度な接触として国際IS委員会の面々を不機嫌にさせてしまうこともあったが、剣呑ながらも優しい時間が続いているように見えた。
ラウラがセシリアと鈴音を打ち伏せることもなく、全パイロットが五体満足で6月を迎えた。タッグマッチで2人が組んだのは当然のことで、実力者2人ペアともなれば決勝進出は確実とされていた。
準決勝を控え、ベンチで2人が一夏・シャルルVSラウラ・箒ペアの試合を眺めているときだった。
ここでもレクイエムが発動した。ラウラを起点に他の3名も感染し、即座にアリーナの中は地獄へと塗り替えられる。
咄嗟に現場へ駆け出そうとしたショウの胸を強い熱感が襲った。ゆっくり目を向けると、青白いレーザーブレードの切っ先がみぞおちを突き抜けている。悶えながらショウが振り向くと、そこにはもう、セシリアはいなかった。
例えば、こんな試行があった。
5月の始めになって、ショウはアメリカに転校することになった。学園の誰も知らぬ間にアメリカの特務パイロットと出会っていたのがキッカケらしかったが、大半の情報は秘匿されていた。
そして、彼が不在のままタッグマッチの時が訪れる。
例えば、こんな試行があった。
例えば、こんな試行があった。
例えば、こんな試行があった。
例えば、こんなし
「──もう止めてよッ!」
「分かったから! こんな幸せなんて何処にもなくて、ショウは誰とも付かず離れずの半端な関係しか作れなくて、それだけ頑張っても手遅れって……誰がそんなこと決めたの? 嫌がらせみたいに失敗ばっかり見せてきて、何が楽しいの? 彼も私も、そうやって虐められなきゃいけないことなんてしたの? ねえ、答えてよ。答えなさいよ、マリコ!」
次に楯無が目にしたのは、アリーナで自分がヴァイスリッターと戦っている瞬間だった。自分自身が戦う様を間近で眺めるのは奇妙な感覚だったが、それ以上にこの後起こることを全て知っていると、全く違う緊迫感がある。他人ごとのようで、自分ごとでもある、半端な感覚。
「また……」
景色の中の楯無は、スプリンクラーの水を利用した固め殺し戦術を仕掛ける。度重なる爆撃でヴァイスリッターは動きを止め、これを好機と見たクロエと勝負を決めにかかる。
記憶では、この後ヴァイスリッターが再起動して、必殺の斬撃を放ってくるはずだ。
だというのに、ヴァイスリッターへ近付いていく生徒会長はまるで止まる様子がない。そのまま行けば首を斬り飛ばされて死んでしまうのに、誰もそれを伝えていない。知る手段もない。
だからつい、堪えきれずに楯無は、目の前の自分に向かって叫んでしまった。
「──────だめッ!」
その時だった、虚空から見覚えのある黒い植物が伸びてきて、今まさにヴァイスリッターに肉薄する楯無の頸に絡みついて引っ張った。奇妙な感覚に素早くブレーキを掛けたその直前を真っ白いブレードが駆け抜けて、辛うじて命が繋がれた。
そうして、思い出す。自分もこうして生き延びたことを。首に絡みついた黒いヤドリギの感触を、聞こえてきた誰かの声の正体を。
「私……今度は触れたの?」
◆
次は、ある日の生徒会室だった。
これも楯無は憶えている。イギリスから戻ってきたセシリアを呼んで、ショウの事を話し合う時間を設けたときだった。互いに話せることは多くはなかったが、それでも前向きな約束が出来た気がする。
結果として、それが果たされることはなかったのだけれど。
『そこに座っていて頂戴。紅茶で良いかしら?』
『お待ち下さい会長。紅茶ということでしたら、わたくしが淹れても宜しいですか?』
『お客人にそんなことをさせるわけにはいかないわ』
少しの押し問答の後で、セシリアにキッチンを貸すことになった。ISの拡張領域から茶葉を取り出したり、その茶葉についてセシリアが解説してくれたり、今となっては酷く懐かしい景色が目の前で繰り広げられている。CTCとか言ったか、面白い形の茶葉だった。
こんな時間がずっと続いて欲しかったと惜しんでいると────不意にセシリアと目があった。
『自由に量子化を操れるようになって、これでもまだ日が浅いですから、試行錯誤するなら今後の………………あれ』
勘違いや気の所為ではなかった。楯無が少し右に動くと、彼女の目も同じように向きを変える。
自分はこれまでずっと傍観者だったはずだ。どれだけ泣き叫んで頼んでも、手を伸ばしても、目まぐるしく変化するこの景色に干渉なんて出来なかったのに。
「セシリアさん、もしかして……私が見えるの?」
セシリアは誰にも気付かれないくらい小さく頷いた。
見えている。聞こえてもいる。始めてのことだった。誰とも言葉や身振りの一つでさえ交わすことの出来なかったこの場所で、どういうわけかセシリアは、楯無に視線を恵んでくれた。
ならば、伝えなければならない。これからの最悪を避けて、少しでも良いものとしなければならない。
「ねえ、聞こえてるなら聞いて頂戴。この後すぐにでもイギリスに戻──」
『……? どうかしたの?』
『……っ。いいえ、何でもございませんわ。続けます』
過去の自分の方に向き直ったセシリアは、それ以上こちらに視線を向けることはなかった。
また万華鏡が回っていく。少しの希望を滲ませながら。
「CTCって言葉に聞き覚えは?」
「紅茶の種類?」
「アクロニムの悪いところだな、同じ文字なのに意味が食い違う。
……
「ああ、そういうことだったのね。貴方は何時だってそうだった。なんでも見透かしたようにしてみんなを弄んでばっか。ループの起点のここから全て見通して、先に知ってたんでしょう?」
「随分ここに慣れてきたようだな楯無。概ねその通りだけど、全部ってのは正しくない。あらゆる計算には精度の限界ってものがあるだろ」
「ラプラスの悪魔はきっちり殺されたものね。不確定性原理くらいは私も知ってるわよ」
「なら話は早い。俺とマリコがここからやったのは、ループの直径となる時間幅全てに対して、俺個人が知覚できる範囲のあらゆるパターンを試して、上手くいく行動を現実の──ああ、こっちも現実だな。とにかく実時間上の俺に対して示していたんだ。ほら、カーペンターズだって歌ってたろ?」
「
「まあ、実際のところ未来を見るなんてのは副産物でしか無かったから、余ったリソースでやるにはこれが精一杯でさ……現にアンタをここに呼んだのだって、俺とマリコじゃ配役が足りなかったからだし」
「それで言い訳のつもり? こんなカミサマ紛いのことをして、みんな弄んで。いいや、貴方だってマリコに踊らされてただけじゃない」
「……ああ、そうか。それが言えるってことは、まだ知らねえ方のアンタだったか」
「ちょっと、それは一体どういう────」
オリキャラの描写比率について……
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主要キャラならバンバンちょうだい!
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原作キャラの掘り下げに必要なだけ欲しい
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なるべく原作キャラだけが良い……
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拷問だ! とにかく拷問せよ!