【外堀物語】   作:Halnire

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ちょっと暗めの話が続いてますが、もうすこしお付き合いください……


喜多川さん その3

 

      Ⅳ

 

 小学校の個人面談が始まった。

 今の仕事は転勤がなく、何日もかかるような出張も少ないため比較的こういった学校行事には融通がきく。僕は会社に有給申請を出して面談の予約をしておいた。

 

 面談当日、僕は一番最後の時間帯だった。

 すこし長めに時間がとられていたから、何かじっくり話し合う必要があるのだろうと思っていた。

 

「先生、海夢に何かありましたか」

 

 僕は開口一番、尋ねた。

 緊急性があるものだったらとっくに電話で連絡を受けているだろうから、そんなに焦る必要がない――そう、頭では判っていたのに気が急いてしまっていた。

 

「ああ、喜多川さんすいません。他より時間を長くとったことで心配させてしまいましたね」

 

 担任の先生は申し訳なさそうに言った。前にも相談をしたことがあり、親身に話を聴いてくれる先生だと感じていた。

 

「転入されたときにいろいろご相談受けてましたが、あれからなかなかお話の時間が取れなかったものですから。差し出がましいようですが今日は長めに取らせていただきました。ご迷惑だったでしょうか?」

 

 そうだ。前職よりプライベートの時間が取れるようになったとはいっても、そうそう平日に休めるわけでもなく、学校に足を運ぶのは久々になってしまったんだ。

 

「いえ、とんでもありません。お気づかいありがとうございます。あのときも本当に助かりました」

 

 ほっとして僕はそう答えた。

 僕よりだいぶ歳上と思われる先生は、年長者らしい温かい眼差しで僕を見返した。

 

「いえいえ。そう言っていただけるのは恐縮です。しかし、お気を悪くされたら申し訳ありませんが、喜多川さんも、切羽詰まった感じがだいぶ無くなりましたねえ」

 

 僕は思わず苦笑いした。この担任の先生には本当に迷惑をかけたんだった。

 

「こちらこそ恐縮です……。今思えば、追い詰められていたんでしょうね、僕は」

「無理もないですよ。転校が続いて、子供も保護者の方も不安定になることはままあることです」

「そう、ですね……。それを異常と思えなかったことが、すでに異常だったんでしょうね……」

 

 担任の先生には、僕の家族が父子家庭であることは説明してあるが、そこに至るまでの事情や僕の仕事の詳細については説明していない。それでもある程度察しが付くくらい、あの頃の僕は本当におかしかったんだろう。

 そう、あの頃は本当に、大変だった――

 

 

 

 

 (かのじょ)が逝った直後は一日中泣き通していた海夢だったが、その後すっぱりと泣き止んだ。母親の死を引きずるのではないかと心配し、しばらくお義父さんの家が預かるという話も出ていたが、それも海夢は拒んだ。(かたく)なな、とても強い瞳だった。

 

 ――お父さんと、いっしょにいる。

 ――お父さんと、ぜったいはなれない!

 ――お母さんと、やくそくした!

 

 小学校に上がった海夢を、男手ひとつで面倒を見切れるのか、僕も心配だった。お義父さんも、お義母さんも、海夢を説得しようとしてくれた。だけど海夢はどうしても僕と離れて生活することを嫌がった。

 やむを得ずという形で僕と海夢の二人だけの生活が始まった。途中で異変があったら、すぐに義父母に頼るという取り決めもしてあった。

 始めてみればやっぱり、仕事と家事育児の両立は大変だった。

 毎朝食事を作り、学校の用意をさせて、自分の準備も済ませてから海夢を学校に送り届けた。帰りは学童保育に海夢を迎えにいき、家事を全て済ませ、海夢を寝かせてから事務仕事を自宅でこなした。

 職場では仕事を最短で終わらせる段取りばかり考えるようになり、上司からは疎まれるようになった。

 出世(キャリア)のルートからは早々に外れた。

 上の立場になれば出来ることも増え、環境保全への発言力も増す。だから僕は出世だって視野に入れていた。だがそれも望めなくなった。ただ眼の前の生き物たちに何ができるか、精一杯やることだけを考えた。

 職場の人たちには、『なぜ子供を義父母に預けないのか』とか、『義母に面倒を見に来てもらえばいいじゃないか』などと言う者もいた。我が家の事情も知らない人間がそんなことを勝手に言うのを聞いて、腹が立ったりもした。

 しかし実際のところ、僕は親類縁者の理解に恵まれていた。

 お義父さんやお義母さんは元から海夢を引き取ってくれようとしていた。僕が望めば、海夢は大人にきちんと見守られながら学校に通いつつ、僕は心置きなく仕事に打ち込める環境を手に入れることができたはずだった。でも、海夢がそれを決して望まなかった。そして僕も、そんな海夢を手放したくなかった。

 どんなに家事育児が大変でも、出世がみるみる遠のいても、どういうわけか僕は海夢を疎ましいなどと絶対に思わなかった。海夢がいなければ、などと考えたこともなかった。

 

 ――おはよう、海夢。

 ――いってらっしゃい、お父さん。

 ――いただきます。

 ――おやすみ、海夢。

 ――おやすみ、お父さん。

 

 交わす言葉がそれくらいしかないような毎日でも、僕にとってはかけがえのない日々だった。

 海夢は僕が夜、遅くなっても、朝はやく仕事にいかなければならないときでも、いつも屈託のない笑顔で僕を迎え入れ、また送り出してくれた。

 僕はその笑顔を手放すつもりがなかった。

 僕だけじゃなく、この生活が海夢にとってもかけがえのないものであるという確信があった。

 僕たちは頑なに、それを守り通そうとしていた。

 

 だが、やはり僕にも海夢にも無理があったんだろう。

 やがてほころびが見えはじめた。そのうちそれは海夢の学校生活に亀裂となって現れたのだった。

 

 僕は海夢の学校生活には気を配っているつもりだった。

 最初は授業見学も積極的に参加し、当時の担任の先生ともよく相談をした。海夢は持ち前の屈託のなさでクラスメイトにすんなりと溶け込んでいっているように見えたし、当時の担任も同じ意見だった。僕はほっとした。

 その後、僕の転勤がたびたび続いた。

 海夢は年に二回も転校したときもあった。

 仕事は激務を超え、授業参観や担任との相談も皆無になった。それでもときどき電話で先生と話をするようにしていた。転校の先々で、先生たちの意見はおおむね同じだった。

 

 ――海夢さんは、本当に明るく素直で、皆の人気者ですよ。

 ――誰とでも仲良くできる子ですね。

 

 僕は、海夢が順調な学校生活を送っていると思っていた。

 異変が発覚したのは、海夢が三年生の頃だった。学校からの呼び出しがあったからだ。

 『海夢がクラスメイトをいじめている』

 学校からの説明は、海夢がクラスの男子と一緒になって、クラスの女子に嫌がらせをしているというものだ。

 相手の女子の保護者から学校に〝いじめ〟だというクレームのような形で連絡があり、調査がはじまったのだという。

 学校、とくに公立は〝いじめ〟というワードには原則対応しなければならないので仕方ない部分はある。

 僕だって役人のはしくれだ。文科省から下りている対応マニュアルに則った動きをしなければならないことは理解できる。

 だが感情は別だ。

 海夢がそんなことをするわけがない。親としてそこは譲れない部分だった。

 僕は職場に無理をいって何度か半休をとり、海夢と話をした。

 

 ――男子のさ、あの子いるじゃん?

 ――あの子の好きなヒーローを、女子がバカにしてたんだ。

 ――あたし、ガマンできなくって、おめーがねーわ! って言っちゃった。

 ――なんか、あたしがイライラしてたのもあるかも。

 ――だから、あたしも悪いよ。

 

 あの子、というのはクラスの気の弱い男の子だ。

 特撮ヒーローが大好きらしく、戦隊ものがプリントされた筆箱を大切に使っていたらしい。だがとある女子グループがそれを隠したり、バカにしたりした。海夢はそれが許せなかったようだ。

 海夢は直接手をだすことはしなかったが、かなり強く相手の女子に言ったらしい。相手はクラスのみんなの前で大泣きしたという。そうとう恨みに思ったのだろう、その日のうちに親に告げ口をしたというわけだ。

 きちんと調べれば真実はわかる。だから僕は学校を信じようと思っていた。

 イライラしていた、と海夢がいうのは、やっぱり生活のひずみが重なった結果だと思った。だからこちらにも改める部分はあったし、双方の謝罪で終われば良いと考えていた。

 しかし、学校の対応はマニュアルを都合よく解釈していると思われる節があり、相手側保護者の言い分に一方的にあわせて動いているように見えた。

 そしてその懸念は現実のものとなった。

 気づけば海夢は、気弱な男子に言うことをきかせ、嫌いな女子に暴言を吐く、きわめて利己的で攻撃的な児童、のような扱いになっていた。

 海夢が相手側に心から謝罪することで、一件落着とする――そんなストーリーが出来上がっていた。

 その報告を学校から聴いた僕は、頭が真っ白になった。

 あまりにも大きな怒りは、感情が死んだように静かなものだということを初めて知った。

 僕は冷静に怒り狂った。

 もう形振(なりふ)りなど構わなかった。

 上司の忠告もふりきって有給を取得し続け、学校に連絡をし、説得が無駄だということを確認してからは、思いつく限りの知人に頼み込んだ。

 学生時代の友人に頭を下げまくった。

 弁護士、マスコミ。さらには(かのじょ)の元同僚。調査のための段取りやノウハウなどを入手し、私費で探偵も雇った。

 学校や相手の保護者を完全に敵にまわすつもりだった。

 こんな状況下だったから、海夢は学校を休ませ、お義父さんの家で預かってもらう相談をしていて、お義父さんも絶対そのほうがいい、とまで言ってくれていた。

 しかし海夢はここでも頑なだった。

 

 ――ううん、お父さんと一緒にいる。

 ――おじーちゃんもおばーちゃんも大好きだけど……。

 ――お父さんと別々に暮すのは、ダメだよ。

 ――あたし、学校だってぜんぜんイヤとかないし。

 ――ヘーキだよ。

 

 あろうことか、海夢のほうが、僕よりも落ち着いていた。いつも通り、堂々としていた。僕は自分が恥ずかしくなった。

 僕は、少し頭を冷やした。

 なるべく事を荒立てないようにした。しかし譲れないところは一切譲りたくなかった。言うまでもなく絶対に譲れないのは海夢の心の平穏だった。

 僕は今回の事態を、すべて海夢に見えない所で、秘密裏に処理することにしたのだ。

 自分の立場も最大限、利用した。もう、この仕事が続けられないことを覚悟していた。

 

 ――校長先生、この件はここで終わりにしてください。

 ――僕は海夢に余計な聴取とか面談とか、もういっさいやって欲しくない。

 ――あの子には、大人の汚いところも、臆病な同級生の嫌なところも、これ以上見せたくない。

 ――どうしてもやると言うなら――

 ――しかるべきところに入ってもらいますし――

 ――しかるべき材料を〝表〟に出します。

 ――役人の動かし方は、役人が一番良くわかってるんですよ?

 

 すべてを片付けたあと、次の転勤命令が出る前に、僕は退職願をだした。

 役人の立場を使って学校を脅すような真似をしたのだ。問題になるかもしれない。実際、職場での立場も、無理に有給を取得しすぎたり、仕事の質も量も下がっていて、すでにかなり悪くなっていた。何より海夢との生活を大切に思えばもうこの仕事は限界だった。学童保育も事実上三年生が上限だったし、すべてが潮時だった。

 僕と海夢は、義父母の居住地に近い関東地方に二人で引っ越した。

 さいたまの非常勤職員の仕事をしながら資格の勉強をし、取得した資格をお土産にぶら下げて民間の環境コンサルタント会社に再就職した。理想とは大きく離れても、環境保全の仕事を別の形で続けようとあがいたのだ。

 

 さいたま市立の小学校に転校した海夢は、不安そうな様子もなく、新しい環境に溶け込んでいった。

 だが僕は、最初の半年くらいは、しつこいくらいに学校に連絡を入れたり、授業見学を申し込んだりした。僕は学校不信になっていた。

 今の担任の先生は、そのときの学年主任の先生だった。

 いろいろと細かいことをしきりに聞いてくる父親――というのは学校にとって面倒な相手だっただろうに、煙たがる様子もなく、こころよく時間をとっては面談をしてくれた。おかげで僕も、しばらくして学校に心を開くことができるようになっていた。

 

 ――お父さん、あたしの学校の話聞くの、少し楽しくなった?

 

 ある日、夕食時に海夢から学校の報告を聴いているとき、海夢にそう訊かれた。

 

 ――学校の話を聞きたい、っていうお父さん、前はめっちゃ怖い顔してたんだよ。

 

 自分では気づいていなかったが、学校への不信が、海夢に対しても顔にでていたことに初めて気付かされた。

 

 ――学校は怖いとこじゃないよ。お父さん。

 

 子供に諭されて、僕は本当に情けない父親だと、思った。

 

 

 

 

 あの頃と比べれば、今は、穏やかになったんだよな――

 

「――それで、海夢は最近、学校でどんな感じですか」

 

 気を楽にして、あらためて担任の先生に訊いた。先生はにこやかに答えてくれた。

 

「元気ですよ。よくケンカしてます」

 

 僕はまた苦笑した。ケンカ、という単語に身構える必要はないと、この先生は言ってくれている。

 

「そうですか。相手はいつもの?」

「はい。(はた)からみてると仲が良いんですが、当人たちはケンカしてるつもりでしょうねえ」

「まわりに迷惑をかけてなければいいんですが……」

「それは大丈夫そうですよ。海夢さんは正義感が強くて、気の弱い女子の盾になろうとして言い合いになることが多いみたいです」

「やりすぎることもあるんでしょうね」

「一気に詰め寄りますからねえ。びっくりして遠巻きに見守る子もいますよ」

 

 僕はくすくすと笑った。先生もにこやかなままだ。

 

「それはその子たちに苦手意識を持たれてしまいそうですね……。海夢が気にしている様子は?」

「そこは喜多川さんもよくお分かりでしょう。海夢さんは、『苦手なものはしょーがない』って感じで、わりきってますね」

「確かに。あの子はそういう子ですね」

「あっけらかんとしているように見えますが、人をよく見ているし、よく考えていると思います。思い立ったときの行動力はすごいものがありますけどね」

 

 担任の先生の話を聴いているうちに、海夢の学校生活がはっきりとイメージできていた。

 海夢は決して大人しくはないし、クラスメイト全員と必ずしも親友というわけでもない。だけどちゃんと良好な人間関係を築くことができているようだった。

 僕は、この先生ならば、と負い目に感じていたことを打ち明けた。

 

「親としては申し訳ないんですが、海夢は転校続きで、一年以上、同じ友だちと過ごした経験がありません……。人間関係を軽く考えてないかと心配なところもあります」

「……と、言いますと?」

 

 先生は笑顔はそのままで、しかし真剣な目で訊き返した。

 

「人間関係がダメになっても、そのうち環境が勝手に変わるから平気だ、というような……。そんな安易な考えをしてはいないとは思うのですが、ひょっとしたら、という不安もありまして」

 

 僕の懸念に、担任の先生は目元に柔和な曲線を浮かべ、答えた。

 

「ご心配はわかります。でも海夢さんは、人の心をとても大切にしていますよ。竹を割ったようなすっぱりしたところもありますけど、大事なところはちゃんと見ている。人のことを決して馬鹿にしないし、誰かが馬鹿にしていることを見過ごすこともない。強くて優しい子です。(やす)きに逃げるような子ではないと思いますよ」

 

 それに、と先生は続けた。

 

「親御さんが穏やかであれば、子供も平穏な気持ちになるものです」

 

 僕は息を呑んた。

 

「海夢さんは今、とっても伸び伸びとして見える。喜多川さんご自身が穏やかなお気持ちになれたからでしょう」

 

 無理して厳しい目で見る必要なんてない。自分も、家族も、わざわざ追い込むことなんてしなくていい、と。先生はそう言ってくれているのだと気づいた。

 

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

 この学校に転校できて、本当に良かったと思った。

 

 

 やがて海夢は小学校を卒業した。

 二年の間に背も伸びて、クラスの中でも男女あわせて一番の長身だった。

 (かのじょ)とは違って横幅は増えず、上にだけ伸びた感じだったが、意思の強さをうかがわせる瞳と、男勝りの性格はますますそっくりに似てきた。

 二年以上おなじクラスメイトと過ごす経験は海夢にとっても初めての経験だった。いくら人見知りをしない性格でも、慣れるだけで大変だったと思う。

 そういえば海夢とよくケンカをしていたあの男子とは、結局何も起こらなかった。たぶん海夢は、異性との感情というものに向き合う暇も、なかったのだと思う。

 

 海夢はさいたま市立の中学校に進学した。小学校の学区とは異なっていたため、大部分の子とは別々になった。

 海夢は部活には入らず、大好きなアニメや漫画に熱中した。

 小学校高学年では男勝りでボーイッシュなスタイルばかりだったが、アニメや漫画の架空の人物たちに影響されて変化が見えはじめた。

 中学二年になると、カラーコンタクトレンズを入れたり、美容室を自分で探すようになった。二年生の冬は、渋谷の代官山まで足を伸ばして、お気に入りの美容室を見つけてきたりした。

 

 三年生になると、同級生に影響されたのか、美容室で目標を見つけたのか、埼玉県内でもかなりレベルの高い進学校を受験すると言い出した。校則のおおらかな学校が学力上位校ばかりだったからだ。

 高校になったらメイクもネイルもヘアカラーもピアスも、そしてコスプレもする! とか言っていた。やりたいことがいっぱいだ。

 海夢はお世辞にもあまり勉強が得意な子ではなかったが、有言実行の人だった(かのじょ)の性格をよく受け継いでいて、着実に目標に向かって実力を伸ばしていった。僕もできる限り勉強を見てあげるようにした。

 

 僕はといえば、環境コンサルタントの仕事にも新しい動きが見えていた。

 

「喜多川さん、九州のほうで実証都市を造る計画が出てるの、聴いてる?」

 

 とある日の昼休み、同僚に訊かれた。主だった新聞ですらまだ出ていない情報だ。

 

「中央で検討会、やるみたいだね。読んだよ。まだなんとも言えない感じだね」

「代替エネルギーを中心に、自然公園を中心とした都市を造るって」

「夢物語だね。ナチュラリストの妄想みたいだったよ。とてもそのまま信じるわけにはいかないよね」

「どうせ玄海(げんかい)原発の再稼働案も盛り込むつもりだろうしなあ」

「まあ、でも急にこんな動きが出たのは、パリ協定の影響だろうな」

「二◯五◯年のカーボンニュートラルか。無茶を言ったよね」

「九州のやつ、国連の目も入るのかね」

「入ってるなら、いままでとはちょっと違う動きになるかもね」

「――でもさ、あの湿原の近くだろ。喜多川さん、保全が気になるんじゃないか」

「……ああ。でも現地の自然環境局が入るだろう。守ってくれると信じるしかないさ」

 

 この時は、まさか僕自身が関わることになるなんて、思っていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。
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