【外堀物語】   作:Halnire

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番外編 そのⅡは、
心寿視点・一人称の小説です。
高校生に上がった心寿が、海夢といっしょにとあるコスをするお話です。

外堀物語「雛人形」が完結したあとのお話です。
本誌とは違い、天命編は発生していない世界線です。
新菜と海夢は今、高校2年生です。



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番外編Ⅱ ムー
ムー その1


 

 

 私は暗い部屋にいた。

 

 そこは完全な闇というわけでもない。

 白い壁が明滅する光源にあわせて目まぐるしく色を変えている。

 小さな部屋だ。つんざくような悲鳴が反響して耳を襲ってくる。

 私の視界の片隅では、長い髪の女性が長身の男性の首にすがりついている。女性の顔は非常に整っていて、男性の細面な造形もそれによく釣り合っている。しかし女性はせっかくのその美貌を歪めながら、男性の顔ではなく光源を凝視している。明滅する光源に合わせて女性の赤い瞳がちかちかと何度も瞬く。目を瞠り、開いた口をふさぐこともできないようだ。どれほどの恐怖に襲われているのだろう。

 一方の男性もまた、次第に苦悶の表情を浮かべていく。女性の細腕がぎりぎりと男性の首を締め上げているのだ。腕を振りほどくこともできず、脂汗を浮かべて宙を見上げている。男性が何かを訴えるようにこちらを見つめた。唇がやっと開いた。声は聞こえないけれど、唇の動きから『た』と発音したかったのだろうと想像がつく。ひょっとして彼は『たすけて』と続けたかったのだろうか、などと私は冷静に考える。

 同時に私は思う。部屋の中で繰り広げられる光景を目にしながら、心の底から思うのだ。

 

 ――ああ、初見の新鮮な反応って本当にゾクゾクするなあ。

 

 

 

 

  ◇

 

 

「乾さん、もうちょっと早く止めて欲しかったです……」

「ごっ、ごめんなさい……つい見惚れてしまっていて……」

「見惚れる? って何ですか――?」

 

 五条さんが少し眉をしかめて私を見た。五条新菜さん――大きい人。私は身体が無駄に大きくなっちゃったので大抵の男の人を見下ろしちゃう。だからいつも背中を曲げて猫背になってるってお姉ちゃんに注意される。彼はそんな私よりも背の高い男の人。そして身体だけじゃなくて心も本当に大きい人。ちょっとした人の悩みも気づいて受け入れて、解決してくれる人。そんな心の広い彼に咎められるなんて思っていなかったからちょっとドキドキしちゃったけど、でもこれはほんとうに私が悪かった……。

 

「ごめんなさい……」

 

 思わず項垂れてしまう。すると背中を優しくさする感触がした。

 

「気にしないで! あたしのせいなんだから!」

 

 気まずそうな、でも明るい笑顔で私を励ましてくれたのは、まりんさん――喜多川海夢さん――太陽みたいな人。すごい可愛いのに誰とでも仲良くしてくれるし、明るく励ましてくれる人。そばにいるだけで勇気をもらえる人。彼女はいつも堂々としていて何も怖いものがなさそうなのに、ついさっきまでは怖がって五条さんにしがみついていた。悲鳴を上げながら。

 前に五条さんが言っていた。『胸の内は見えないだけで、誰にでもいろいろあるんですよ』と。人間って本当にミステリアスだ。深く付き合ってみないと解らないことばっかり。

 

「新菜君ホントごめんね? あたし必死すぎて気づかなかった――みたいな?」

「いいえ……でも海夢さんがあそこまで強くしがみついて来るなんて予想していなかったので、驚いてしまいました」

「そーだね、あんなふうに新菜君にしがみついたこと、今までなかったかも? しがみつくにしてももーちょいソフトっつーか」

「はい、これまでは……あっ」

「あっ」

 

 わあ。これまでもホラー映画とか一緒に観たりしてたのかな。いいないいな。まりんさんは本当に怖がりそう。でも【棺】とか【天命】みたいなグロ系平気だって言ってたから、ひょっとしたらオカルトホラーは怖いのかも。私もあんなふうに怖がってみたいなあ。五条さんは逆に全然平気そう。なんか衣装とかメイクとかすごく熱心に見てたし、職人さん視点で楽しんでるのかも。こんな鑑賞の仕方もあるんだなあ。さすが五条さんだなあ。別々の楽しみ方ができる二人が一緒に観て、悲鳴上げたり感想を言ったりしがみついたりするのって、きっとすごく楽しいんだろうなあ。

 ――なんて思っていたら、二人ともいつの間にか黙り込んでしまっていた。顔が二人とも真っ赤になっている。なんだろう。今になって苦しくなっちゃったのかな?

 

「大丈夫ですか? お茶飲みますか?」

「うん、いっただきます。ありがとう心寿ちゃん」

「俺は平気です。ありがとうございます」

 

 まりんさんに冷えたお茶を渡す。まりんさんはごくごくと一気に飲み干した。

「ぷはー! 美味しい! 生き返るぅー」

 

 豪快に笑う彼女を見て五条さんが苦笑いした。大丈夫だってわかって安心したみたい。よし、さっきの続きを訊いてみよっ。

 

「良かったです。ところでその、お二人はよくホラー映画を一緒に観たりしてるんですか?」

「えっ、観たことはあんまない……かな。去年の夏くらいか。どーして?」

「あの……その、まりんさんが五条さんにしがみついたり、とか? 時々してるみたいですし」

「えっ」

「そっ、それは……!」

 

 二人はもう一度真っ赤になった。たぶんさっきよりももっと赤い。二人とも下を向いてもじもじしてる。

 

 ――あ。

 

 やっと気づいた。高等部に上がってちょっと大人になれたかな、なんて思ってたけど、私、全然子供のままだった……。

 五条さんとまりんさんはお付き合いしてる。いわゆる恋人同志という関係だ。まりんさんは五条さんのことが大好きだし、五条さんもまりんさんのことが大切で大切で仕方ないって感じだ。だから――たぶん、もう色々、経験済なんだろうな。ひょっとしたら、何度も何度も経験しちゃってるのかも。さっきみたいにまりんさんが五条さんの首にぎゅっと抱きついたりとかも。五条さんがまりんさんを抱きしめ返して、甘い言葉をささやいたりとかも。

 

「ちょっ、心寿ちゃん⁉ なんで心寿ちゃんが顔真っ赤にしてんの⁉」

「そっ、そうですよ! 俺たちそんなやましいことしてないですから!」

「えっ……ホントに?」

「なんで海夢さんがそこに突っ込むんですか! ……いえ、でも、はい。すいません、してます、やましいこと……」

 

 うわあうわあうわあ。やっぱりしてるんだ……。

 

「……ねっ、続き、観ないのっ⁉」

「そっ、そうですよ! 続きを観ましょう!」

 

 二人が話題を切り替えるようにそう提案した。私もちょっと気まずくなってきたからそう言ってもらえて助かっちゃった。

 私は停止していたレコーダのリモコンを取った。さっきは私が映画を観た二人の反応に夢中になりすぎてしまって、まりんさんに強く抱きつかれて倒れそうになる直前というところまで五条さんの状態に気づかなかった。彼がのけぞるところを見て慌てて一回電源を切ってしまったのだ。なのでタイトル画面からスタートだ。

 【怨電3】――去年の秋に劇場映画が公開されて、ついこの間ブルーレイディスクが販売された人気シリーズの三作目。五条さんもまりんさんも【怨電1】【怨電2】までは観たらしく、私が【3】のディスクを持ってるって教えたら、まりんさんが絶対観たいと言い、こうして私の部屋でプチ鑑賞会をすることになった。

 

「ジュジュサマはやっぱり来れないのかなー。一緒に観たかったなー」

 

 私のお姉ちゃん・紗寿叶のことをまりんさんは〝ジュジュサマ〟と呼ぶ。

 もともとSNSにお姉ちゃんのコスプレ写真を掲載するとき、私が決めた〝ジュジュ〟というコスネーム。実は〝紗寿叶〟の〝寿〟と私の名前〝心寿〟の〝寿〟を繋げて作った名前。お姉ちゃんがコスをして、私が写真を撮ってアップする。だから二人合わせて〝ジュジュ〟――あの時は気軽なイメージで名付けたけど、今はもう、お姉ちゃんはフォロワー数が三十万を超える人気者になった。〝ジュジュ〟の名前に私が入っているだなんて、そんな恥ずかしいことはもう誰にも言えない……。

 まりんさんは本名の海夢そのままをコスネームにしている。だからお姉ちゃんのコスネームも堂々と〝サジュナ〟にしたって格好いいし可愛い、と思ったこともある。コスネームをちゃんとした名前に変更しようかなとも思った。でも、まりんさんが〝ジュジュサマ〟と言うその呼び方に、尊敬と親しみがいっぱい籠められている感じがして、聞いているだけでとても心が暖かくなる。私も応援されている気持ちになる。だから今はこのコスネームにして良かった、と思えた。

 

「……お忙しいんだと思いますよ、料理教室の後片付け」

 

 五条さんがそっと、まりんさんにそんなことをコメントした。

 

 もともと今日の集まりは、五条さんが私たちのお母さんの料理教室に行ってみたい、とお姉ちゃんに相談したことから始まった。

 うちのお母さんは結婚前はプロの料理人だったみたいで、五年くらい前から本格的な料理教室を開いている。お姉ちゃんも私もそこでお手伝いのアルバイトをさせてもらっていることを前に五条さんにも話したことがあった。

 五条さんは小さい頃からおうちで和食を作っていて、今も食事の準備はほとんど五条さんがやっているらしい。食卓の常連になっているまりんさんはよくその味を大絶賛している。

 五条さんはまりんさんのために和食以外のレパートリーを増やしたいのだそうで、相談を受けたお姉ちゃんがお母さんに伝えたら、お母さんは大賛成だった。

 

 ――お姉ちゃんの素敵な衣装を作って下さった方なんでしょう?

 ――私からも御礼をしたいわ!

 ――講習料も材料費も要らないから、是非ご招待させてくださいな!

 

 なので、今日の午前中の料理教室には五条さんとまりんさんが参加した。お揃いのエプロンがとても似合っていて可愛らしかった。他にも常連の受講生の方々がいたけれど、五条さんの腕前はその中でもとても目立っていた。包丁さばきも鮮やかだし、味覚とか嗅覚とかも鋭くてお母さんがびっくりしていたくらいだ。

 隣のまりんさんは結局ほとんど何も作れなかった。最初から最後まで五条さんにずっと見惚れていたらしい。お手伝いに入っていたお姉ちゃんは呆れた顔で笑っていたなあ。

 私は『いいなあ』って何回か口に出ちゃってた。お付き合いするってまだよく解らないけれど、五条さんみたいな優しくて頼りになる男の人と一緒になれたら素敵だなあって思う。でもまりんさんみたいに可愛くて強くて明るい人だから五条さんも好きになったのだろうし、二人とも私には手が届かないところにいるみたいだ。とても羨ましいけれど、少し寂しい感じもする。

 

「大変なのかなー。ね、あたしたち、こっちに来ちゃってよかったのかな?」

「……それは大丈夫だと思いますよ」

「なんで新菜君が知ってんの?」

「……なんとなくです……」

 

 海夢さんが呟いた疑問に、何故か五条さんが答える。

 お料理教室が終わった後、みんなで後片付けをした。五条さんもまりんさんもすごく手際が良いのであっという間に作業が終わってしまった。そこでなんとなくホラー映画の話になり、私の部屋で鑑賞会をしようという話になったのだ。

 その話が出たとたん、お姉ちゃんはお母さんと一緒に教室に残ると言い出した。『まだちょっと片付けておくことがあるから』と言う。私たちも一緒にやる、と言ったら『これはお母さんとお姉ちゃんじゃないとできないから』とお母さんに言われてしまった。お母さんはなんとなく困った感じの笑顔だったし、お姉ちゃんは赤い顔で気まずそうな顔をしていたから、ひょっとしたら秘密のメニューの準備とかをするのかもしれない、なんて私は思っていた。

 でも五条さんはお料理も本当に上手だから、私が解っていないことも何か気づいているのかもしれない。そう思って訊いてみた。

 

「やっぱり五条さんって、お母さんやお姉ちゃんみたいなお料理上手な人の考えも解っちゃうんですか?」

 

 それを聞いてまりんさんは『そっか! さすが!』と肯いてくれたけど、五条さんはやっぱり宙を見上げて苦笑いしている。やっぱり五条さんだけが解る何かがあるんだろうなあ。でもたぶん私たちには内緒だから笑っているだけなんだと思う。本当に心の大きい人だと尊敬する。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 その後は三人でまた【怨電3】の続きを観た。【怨電】シリーズのお約束で後半は内容がスプラッター系になったからかな、まりんさんもそこまで悲鳴を上げなかった。五条さんは相変わらず衣装とか特殊メイクを興味深く観ていた。

 

「やっぱり面白かったですね!」

「うん! ホラーはやっぱりみんなで観るに限るわー!」

「私も、とっても楽しかったです!」

 

 今は映画を観終わった後だ。三人で温かいココアを飲んで、ほっと一息ついたところ。二人の感想を聴いたり、私の感想を聴いてもらったりしてとても楽しく過ごした。

 私の学校の友達にはあまりホラー好きはいないし、お姉ちゃんは誘うといつも何か用事ができたり都合が悪くなったりするので、私は今までだいたい一人で観ていた。今日みたいに一緒に観る人がいて、感想や意見を交換したりすると楽しさが何倍にもなった気がする。

 

「ねね、心寿ちゃんって、ホラー以外はどんなの観んの?」

 

 他のホラー映画の話に話題が移ったとき、まりんさんが私に訊いてきた。私が【フラワープリンセス・烈‼】とかのアニメを観ることはまりんさんも知っているから、ここは他のジャンルの話をした方がいいのかな。

 

「えっと、ホラーに似てるかもしれませんけど、オカルト系は大好きです」

 

 まりんさんが興味津々という顔でさらに訊いてきた。

 

「オカルトって、幽霊とか宇宙人とか超能力とか?」

「そうです。今はもっといろいろなのがありますよ。SCP財団とかラヴクラフトとか」

「あー、なんか聞いたことあるかも!」

 

 五条さんが私たちの会話を聞いてスマホを取り出した。彼はいつも研究熱心だから、たぶんオカルトについて調べているんだと思う。

 

「本当にいろいろあるんですね。世界は広いなあ……」

 

 五条さんが呟いた。私も本当にそう思う。世界には私たちが知らないものがいっぱい存在している。人間の科学では広い宇宙のほんのちょっとしか理解できないんだ。

 

「オカルト専門の雑誌、なんてのもあるんですね。随分昔から刊行されているんだなあ」

「うわあマジだ。表紙カッコイイね!」

 

 まりんさんも五条さんのスマホを覗き込んで感心している。ああ、あの雑誌だ。私も横から見せてもらって確認した。これはどうしてもコメントしたい!

 

「【ムー】はすごいですよ! ほら、この特集タイトルが毎回すごいんですよ! 『月裏には超古代文明が存在した⁉』とかワクワクしますよね! それに特集も毎回全っ然違うんですよ! 世界には謎がいっぱいだって信じさせてくれます! 学校の物理や化学のテストが悪くても大丈夫だって思えます! だって物理じゃ解らないことのほうが多いんですから! 宇宙人だってもう地球で暮らしてるかもしれないし、ビッグフットだっているし、サンタクロースも絶対にいます! 海の底にムー大陸だってありまぁす!」

 

 思わず息切れするほど喋っちゃった。五条さんがすかさず冷えたお茶を差し出してくれた。本当に優しい……。

 

「心寿ちゃん、めっちゃ語るじゃーん! マジでそのオカルト雑誌、好きなんだねー!」

「はい! 大好きです!」

「心寿ちゃんはこの雑誌、持ってないの?」

「もちろん、買ってますよ! ほら!」

 

 せっかくまりんさんが訊いてくれたのだ。すかさず専用シェルフを開く。中は全部【ムー】だ。

 

「うわあ。すごいね!」

「本当だ……。見てもいいですか?」

「どうぞどうぞ! 是非見て下さい!」

 

 五条さんとまりんさんが一冊ずつ丁寧に取り出して読み始めた。

 

「本当だ、特集が毎回違う……」

 

 五条さんが口に指を当てて考え込む。真剣に読んでくれているんだ。

 

「ねね、心寿ちゃん。表紙って毎回、この〝目〟があるの?」

 

 まりんさんが良いところに気づいてくれた。これは語りたい……!

 

「一九八◯年の七月号以降はずっとこの〝目〟が入ってるんですよ。ヴォジテク・シュドマクさんというフランスのイラストレーターさんがデザインしたらしいです。目って人間の身体の中で一番、神秘的なパーツですよね。それがじっとこちらを見つめてくるんです。本屋さんでこれが並んでいたら、ついつい近づいてしまいますし、手に取ってしまうでしょう。それって謎や不思議を求めてしまう人間心理そのものだと、私は思うんですよね」

 

 まりんさんはすごいすごいと拍手してくれた。五条さんは私の今の話を聞いて不思議そうな顔をしている。なんだろう。

 

「乾さん。たしか創刊号は一九七九年でしたよね。最初のうちは、表紙に〝目〟はなかったんですか?」

 

 さすが五条さん……本当に鋭い観察眼を持っている人だ。私はスマホで創刊号を検索して、画面を二人に見せた。

 

「うわあ……!」

「ぜっ、全然違うじゃないですか……‼」

 

 画面にはモアイ像とかUFO、ピラミッドなども描かれていて、それだけでもミステリアスな雰囲気がこれでもかというほど表現されている。

 でもなんと言ってもやはり目を惹くのが、中央に堂々と立っている、すごく格好いい金髪の女の人だ。長い髪をなびかせ、剣を持ってこちらを真っ直ぐに見つめている。その深いブルーの瞳はまるで遥か彼方の星々を浮かび上がらせる澄んだ夜空のようで、思わず吸い込まれてしまいそうなほどの引力を感じる。

 そして何よりも素敵なのが女の人の纏う衣装だ。衣装と言うよりも……そう、古代遺跡から発見された美術品と言ったほうがぴったりだ。宝石がふんだんにあしらわれた黄金の装身具だ。肌を覆っている面積は小さい。見えちゃいけないところを申しわけ程度に隠してはいるけれど、あとは女性の健康的な肌を引き立てるように、首や腰、太ももの上で妖しくきらめいている

 

生頼範義(おおらいのりよし)さんというイラストレーターさんの絵です。本当に素敵ですよね」

 

 思わずうっとりとしてしまう。五条さんが小さく『布……面積……』とか呟いたような気がするけれど、すぐにまりんさんの感激の声にかき消された。

 

「めっ――ちゃ! カッコいい! 何この衣装エグい! 金ピカでゴージャス! これ布じゃなくて鎧? つかアクセっぽいかも。衣装と造形の融合! みたいなカンジじゃん。新菜君超好きそう!」

 

 まりんさんの叫びに私も思わず肯いてしまう。初めて目にしたときからずっと私の心をとらえて離さない表紙の女性は、まりんさんのハートも鷲掴みにしたみたいだ。

 嬉しくって私もずっと表紙を見てしまう。そんな私を見ていたのか、まりんさんが優しく声をかけてくれた。

 

「心寿ちゃん、ひょっとしてこの衣装、コスしてみたかったの?」

 

 その言葉に驚いた。私、そんな顔をしてたのかな……。思わず五条さんの顔を見た。前に〝颯馬お兄ちゃん〟のコスをしたいと思っていたとき、誰よりも敏感に私の本心を察してくれた人。彼には、私の顔はどう見えているのだろう。

 

「……いいと、思いますよ」

 

 五条さんは私と目が合うと、そう言った。ただ、その表情はちょっと困り顔だ。……五条さんは優しいから、私には似合わないけど無理に肯定してくれたのかな。

 

「乾さん、似合うと思います。でも」

「絶対似合うよ! これ素でおっぱいおっきくないと着れないヤツじゃん! 心寿ちゃんスタイルマジでいーからガチでハマるって!」

「おっ……」

 

 まりんさんが目を輝かせて私を褒めてくれた。でも私はまりんさんにそんなふうに言ってもらえるような体型じゃない……。それでも、私の気持ちを汲み取ってくれた二人には私の本心をちゃんと伝えたい。

 

「ありがとうございます……。本当は、憧れていました……。堂々として格好良くて、でも神秘的で。こんな姿になってムーの世界に入り込めたらなって、ずっと想像してました」

 

 まりんさんはうんうんと肯いている。五条さんはじっと静かに私の目を見てくれている。

 

「でも、私、太ってて……」

 

 まりんさんが私の言葉をすぐに否定した。

 

「心寿ちゃん全然太ってなんかないよ! おっぱいもおしりもドンって出てるけどおなかキュッってなってるしマジでうらやま!」

「おっ……」

 

 五条さんが何故か顔を赤くしている横で、まりんさんは私のスタイルを熱く褒めてくれた。でも。

 

「そんな……! まりんさんの方が絶対似合います……! 細いのにメリハリがあって肌もすべすべでお手入れも完璧すぎます! 私もまりんさんみたいだったらって……」

「あたし全然そんなことないよー? こないだ太ももにニキビできたから引っ掻いちゃったんだけど、新菜君にめちゃくちゃ怒られたしイジメられたもん……」

「怒ってなんか……。でも油ものは減らしてますけどね。揚げ物もしばらく禁止です」

「ほらー! イジメるじゃん! 新菜君のいじわるー!」

「俺の見ていないところで吹き出物を潰してしまうからですよ。モデルのお仕事もあるんです。気をつけないと」

 

 ちょっと脱線してきたけれど、でも五条さんがまりんさんの体型管理までやってるって本当だったんだ……。五条さんすごいなあ。

 

「顔とかはあたしも気をつけてるし! いーじゃん見えないトコならさー。股の間とか撮影でも撮らないし」

「駄目です。せっかくの奇麗な肌なんです。俺が気にします。鼠径部でも気は抜けません」

 

 あれ、なんかすごい方向に脱線していってる……?

 

「えっ、あたしの鼠径部、奇麗、なの……?」

「はい……とても奇麗です」

「わっ、新菜君……!」

 

 うわあうわあうわあ……!

 

「あっ」

「あっ」

 

 いつの間にかすごい刺激的なお話になってしまって私の心臓もすごい速さで動いてる。五条さんとまりんさんも顔を真っ赤にして黙り込んだ。気まずい空気が流れる。――だけどそこに。

 

 コンコン、と。

 

 ドアをノックする音が響いた。

 

 

 

 




 続きます。

 ところで、海夢は「紗寿叶がホラー苦手」って言うことを知らないつもりで書いてましたが、
 【棺】のとき、ひょっとして海夢、そのことを聞いてる感じかな、と思い当たりました。都や涼香と同席していますしね……
 ……海夢がそれにコメントしている描写はないから、聞いてなかったということにしちゃいます。
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