【外堀物語】   作:Halnire

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いつメンでカラオケルームに入り、企画を立てています。
あまね君も合流。


姫野あまね  1:文化祭の企画(前)

 

「みんなお疲れ様でした。外は暑かったよねー」

「姫野さんこそ大丈夫ですか? 衣装、ハンパなく暑かったと思うんですけど」

「コスプレしてる方が絶対大変ですよ! うちらは全然大したことないっつーか」

「それにしてもマジでスゴかったすね……女装って言われてもまだ信じらんないっす……」

「あまねさん、本当にありがとうございました~! リアルに女装メイクや衣装をイベント会場で見たら、レベル違いすぎてびっくりしました~」

「去年、海夢の見ててスゴって思ってましたけど、コスプレイヤーさんの工夫マジでエグいですね」

「俺も女装ってここまでガチに可愛くなれるって解って驚きました! マジで感謝っす!」

 

 サンシャインシティの喧騒を抜けて、僕たちはカラオケルームで寛いでいた。新菜君のクラスメイトたちも一緒だ。

 僕は衣装も脱いで片付けたし、メイクもすっかり落としてる。

 素顔だから今日初対面の子たちに囲まれてちょっと緊張してたけど、とてもいい子たちばかりなので思わず頬がゆるんでしまう。

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

 その顔のままお礼を言ったら、カラオケルームのみんながなぜか、顔を真っ赤にした。

 

「メイクと衣装のせいだけじゃないんだね……」

「素でも可愛い過ぎる……」

「あまねさん、メイク落としても超絶美少年だからね!」

「海夢さん、それを言うなら美青年ですよ」

 

 まりんちゃんがまるで自分のことのように胸を張ってドヤ顔をしてる。

 新菜君はそれを見て微笑を浮かべながら、バッグからノートや筆記用具を取り出した。

 

「じゃあとりま、やること洗い出してこーぜ」

 

 新菜君の動きを見て、しっかり者の印象がある四季君がすぐに仕切り始めた。

 今日、僕がこの子たちと一緒に居るそもそもの理由は、彼らの高校文化祭でのイベント【ミスコン】の準備のためだ。

 今年、新菜君とまりんちゃんの所属する二年五組からミスコンに出場するのは健星君に決まってるとのこと。

 例年通り女子は男装を、男子は女装をしなければならないルールなんだとかで、女装に詳しい人に教えてもらいたい、というところからスタートした。

 最初それを聞いた時、僕は新菜君とまりんちゃんだけが来るものだと思ってた。二人が作るコスプレのクォリティはレベルがとても高いし、この二人がリードするなら高校の文化祭レベルじゃ優勝間違いなしだろうと思ったからだ。

 だけどよく話を聞くと、そのレベルの高さが今年は思わぬ障害になっちゃったらしい。

 

「とにかく、今年は五条も喜多川も、二年五組の出場者としては出られねーし、衣装や小道具作成、メイクにも関われねーからな」

「その代わりに【特別枠】で出場させて学外のお客さん集めるとか広報活動ガチすぎ」

「ウチって公立なのにな」

 

 そうなんだよなー。

 僕も初めて聞いたときはびっくりした。公立高校の文化祭で特別枠なんてそんなことあるんだって。

 でも僕自身がコスプレを通じて見てきた新菜君とまりんちゃんの才能のことを考えると、納得できちゃうところがある。

 

 もともと新菜君は雛人形の職人を目指していて、小さい頃からお人形の化粧や衣装作りの修行をしてる生粋の職人肌の子だ。そのスキルがまりんちゃんのコスプレ願望を叶えるためにものすごい勢いで成長した。

 まりんちゃんはまりんちゃんで元からめちゃくちゃ可愛い子だ。表情作りもすごい上手なんだけど、新菜君の衣装とメイクを身につけたときは別人レベルになる。そのキャラが〝降臨〟したみたいなリアリティで再現されちゃうんだ。

 その二人のコスがSNSを通じて世の中に伝わっていった。

 二人とも自身ではSNSをほとんど公開してないんだけど、いろいろなイベントで写真を撮った人たちから少しずつ広がった。

 二人は交友関係も広く、フォロワー数がこの間とうとう四十万に到達した魔法少女コスプレイヤー〝ジュジュ〟とも親しい。彼女と一緒に撮った【合わせ】の写真はめちゃくちゃバズったのでその影響も絶大だった。

 僕と合わせをしたときの写真も少しは貢献しちゃってるかもしれない。だって僕も今はフォロワー数が三万くらいにはなってるからだ。

 おまけに海夢ちゃんは有名なファッション雑誌で読者モデルをしてる。しかも読モなのに表紙を何度か飾ってるくらい人気がある。

 まりんちゃん自身は読モやってることをコスプレ界隈では公言してなかったんだけど、〝コスプレイヤーまりん推し〟が激増した結果、すぐに〝読モの海夢ちゃん〟と同一人物だと特定されちゃったらしい。でも本人はとくに困ってない。

 新菜君だって密かに人気が急上昇してる。

 彼が衣装を縫ったり、まりんちゃんに化粧を施すメイキング映像がSNS上でアップされたことがある。

 顔出しも無いほんのちょっとの短い動画だったのに〝作務衣の仕事人〟とか〝神の手の人〟とか呼ばれてすごいバズり方をしてた。

 去年の文化祭では、そんな二人がミスコンで才能を全力で出し切っちゃってたんだとか。

 当然、他クラスの生徒たちが敵うはずもなく二人のクラスはダントツ優勝だったそうだ。

 

 今年は二人の実力が別次元だということが学校内外に知れ渡っちゃっているので、学校側は二人を完全に別枠にして、その分、どんなクォリティのものをどんだけ時間をかけて作ってもいい、学校公式SNSにも大々的に宣伝するから、という特別扱いにしたんだという。

 

「先生たち、なんでこんなにガチになってんの?」

「先生たちっつーより、生徒会らしーよ」

「なんか、卒業した元生徒会長がスゲー圧力かけて生徒会動かしたっつー噂もきくぜ……」

「は? コワっ」

 

 話を聞いてると、その元生徒会長は、去年の文化祭でだいぶ性癖をやられちゃったようだ。男装で出場したまりんちゃんに。

 

「去年のミスコンはまりんちゃんが【生徒会長はNo.1ホスト】の〝鴻上(こうがみ)(れい)〟で出場したんだっけ?」

 

 まりんちゃんに訊いてみると、即答が返ってきた。

 

「そーです! 【生ホス】の〝麗様〟です! お弁当のシーンで着てたスーツ姿で出ました!」

 

 他の子たちも目を輝かせて後に続いた。

 

「五条が作ったスーツ、マジでハンパないクォリティだったよな」

「メイクもスゴかった……あたし、見てて涙出ちゃったし」

「海夢も完全に麗様だったよね~。超カッコよかった~」

 

 まりんちゃんはドヤ顔だ。

 たぶん自分のことより新菜君が褒められてるのが嬉しいんだと思う。彼女はそういう子だ。

 新菜君は褒められて照れてるのか、赤くなってもじもじしてる。

 彼は控えめで絶対に慢心することがない。

 大勢の人から認められるようになっても、まりんちゃんみたいな明るくて可愛い子が自分の彼女になっても、それは変わらない。すごくストイックな子なんだ。

 二人は自分の好きなことに真っ直ぐで、周りから評価だってされてるのに自分のこととなるとすごく謙虚で、そのぶんお互いを心から尊敬しあってる。

 僕は二人を見るといつも満たされた気持ちになる。

 新菜君とまりんちゃんは高校に入って初めて出会ったらしい。

 二人の性格は一見真逆(まぎゃく)で、趣味も友人関係もまったく接点が無かった。コスプレという活動を共有するようになったきっかけも偶然だったみたい。

 『あのとき家のミシンが壊れなかったら、俺は今でも海夢さんに話しかけることもできないままだったかもしれません』と新菜君はよく苦笑混じりで言う。

 でも必ずこう続ける。

 『それでも結局、俺は海夢さんを好きになってしまったはずです』と。

 まりんちゃんも同じで、『あたしが新菜君を好きにならない理由、なくない?』と真顔でよく言ってる。

 コスプレ活動で二人は相方として協力しあい、お互いを理解し尊重しあって、今は恋人同士になった。

 二人は付き合ってからもずっとコスプレを続けてる。そのクォリティもどんどん上がってる。たぶん結婚して子供ができても続けてるんだろうなって想像できるくらい、二人はコスプレを大切にしてる。

 その関係性も変わらない。

 まりんちゃんが着る人で、新菜君はそれを作る人だ。

 まりんちゃんは既製品を使って自分でコスをすることもあるけど、新菜君が自分で作った衣装で自らコスをすることはない。

 まりんちゃんは新菜君のコスプレ姿も見たいらしく、よく『新菜君もコスしないの?』って訊いてる。けどやっぱり彼は控えめで照れ屋なところは変わらない。ずっと頑なに断り続けてる。

 僕も新菜君のコス、見てみたいんだけどなー。

「それで元生徒会長が海夢の〝麗様〟に再会したくてしょーがない、っつーわけね」

 

 大空ちゃんがみんなに投げかけた言葉が聞こえた。

 

「今年は告示もめっちゃ早かったしね」

「そのために俺たちは五条と喜多川抜きで戦わなきゃなんねーのか……」

「二人とも五組の作業の手伝い、一切できないってことになったんだよね~」

「アドバイスだけならオッケーとは言ってもさ、『作業してるところに一緒にいたら減点』とか厳しすぎー」

「生徒会、やっぱ鬼畜だよな」

 

 健星君がため息をつくと、まりんちゃんがあっけらかんとした口調で言った。

 

「ま、ちょーどいいハンデじゃね?」

 

 それに大空ちゃんが眉をしかめた。

 

「他人事と思ってさー、軽すぎんだろ、海夢」

 

 まりんちゃんはその反論に、真剣な顔になって答えた。

 

「いや、だって五組のチーム力だよ? それにあまねさんやジュジュサマのアドバイスもあるし、勝てないわけなくない? それくらいのハンデないと他のクラスがカワイソーだって!」

 

 それを聞いて、みんなも黙った。健星君なんか顔を少し赤くして照れてる。

 

「まあ、去年の文化祭も先生たちめっちゃ絶賛してたもんね。五組の団結力と実行力はスゲーって」

「花ちゃんも、感動して泣いてたよね~」

「一人残らず全員気合い入ってたし」

 

 女の子たちがまりんちゃんの言葉に納得したみたいだ。

 

「ま、何にせよ今年も優勝するしかねーだろ」

 

 四季君が締めくくる。それに応じて健星君が立ち上がった。

 

「俺は絶対一位になる! みんな頼むぜ!」

 

 そこに『おー!』とみんなの声が合わさって、あっさりとこの話題は決着した。

 僕は羨ましいなと思った。

 僕は高校生時代、こんなに行事に熱中した記憶がない。

 僕みたいな目立たない人を踏み台にして、目立ちたい人だけが目立つ。そんな団結力も何もないイベントだったと思う。……ひょっとしたら、その人たちだけは団結してたつもりなのかもしれないけど。

 

「でだ、喜多川は特別枠で出場。そっちは去年同様【生ホス】の〝麗様〟ってことだけど、それについては関われるのは五条だけで俺たちはノータッチだ」

「五組のほうは俺が【(れつ)‼】の〝プリンセスリリィ〟コスで出る。喜多川と五条には手伝ってもらえねーけど、三面図の書き方とか、仕上がった衣装にアドバイスは貰えるってことでいーよな?」

「うん。あと、衣装は既製品をベースに森田のサイズに調整して、仕上がりは(いぬい)さんに監修していただくようにしたほうがいいよ」

「五条君、健星君みたいな背高い人用のって売ってんの?」

「【烈‼】はコス人気が長いので、男性用の特大サイズも売ってるって乾さんがおっしゃってましたよ」

「健星君が衣装着て、ジュジュサマに直接見てもらってね! ジュジュサマもオッケーってゆってたから!」

「お、おう……そこは任せておいてくれ……」

 

 それにしても驚いたのは〝ジュジュ〟――本名は乾紗寿叶(さじゅな)で、新菜君が本名でしか呼ばないから僕もそのうち知ることになっちゃった――にも協力依頼をとりつけてることだ。

 ジュジュちゃんは表にあまり顔を出そうとしない。

 もともと幻のコスプレイヤーとか呼ばれてたくらいだ。コスプレイヤーの集まりですらない、他校の行事の協力なんて絶対にしないと思ってた。

 でもまりんちゃんや新菜君との接点は結構多くて、意外とたくさんのイベントで一緒に活動してる。

 あの二人には人を惹きつけ、勇気づける強い力がある。ひょっとしたらジュジュちゃんも僕みたいに何か影響受けたのかもしれないな。

 なんにせよ彼女は魔法少女コスに関してほとんどプロみたいなものだからすごく心強い。

 特に今回健星君がコスする【フラワープリンセス烈‼】の〝二階堂(にかいどう)シオン〟と、その変身した魔法少女〝プリンセスリリィ〟はジュジュちゃんの原点ともいえるキャラだ。彼女のこだわりもハンパないって聞いてる。実際写真を見たこともあるけど他キャラよりもクォリティが一段とすごかった。

 

「まあ、あくまでアドバイスまでだけどな。頑張るのは俺たち自身だ」

「うちらの学校行事だしね~。校外の人に助けてもらえるだけでもありがた過ぎる~」

「最強助っ人のアドバイスとか贅沢だよねー」

 

 僕もジュジュちゃんもあくまで部外者だから、積極的に衣装作りを手伝ったりメイクをしてあげたりはできない。できることと言えばこうしてコスを見せてあげたり、アドバイスをしてあげることだけだ。

 でも新菜君やまりんちゃんの助けになると思えばやれる限りのことはしてあげたい。

 できればこれをきかっけに今日のみんなからコスの楽しさが伝わってくれたら嬉しい。

 文化祭の日は休日で、おまけに今年のミスコンは外部の人も観覧可能になったのだそうだ。しかも僕たちサポーターには特別席を用意してくれるらしい。

 一番いい席で健星君のコス、そして【特別枠】のまりんちゃんを観覧できるんだから、こっちも頑張りたくなるというものだ。

 

「五条君は特別枠の衣装、何作んだっけー?」

 

 成蘭ちゃんがちょうど僕が想像してたことを口に出してくれた。

 

「麗様のフロックコートです。ホストクラブの新装オープンセレモニーで着てた物ですね」

「まだドラマ化されてないけど、私あのシーン超好きなんだよね~」

「激エモだよね! 瑠音、原作読んだんだー」

「うん。去年の文化祭のあと、全巻買っちゃった~」

 

 僕も【生ホス】はアニメも全話観たし漫画も全巻読んだ。

 あの場面はめちゃくちゃ感動したシーンとして印象に残ってる。

 セレモニーに呼ばれたはいいものの、場違いな姿で浮いてる! ってショックを受けたヒロインの〝三島(みしま)(こよみ)〟が泣きながらセレモニー会場を出て行ってしまう。それを主人公の鴻上麗がナンバーワンホストの立場もかなぐり捨てて追いかけるんだ。

 当然、他のホストや客も止めようとするんだけど、店の一番の上客で、麗の揺るぎないエースである〝(つむぎ)十喜子(ときこ)〟が皆を抑えて、自分の恋敵でもある暦ちゃんのもとに行こうとする麗を助けちゃう。

 ファンの間では、『紬様の元に留まってほしい!』『麗様、行かないで!』って悲鳴も上がるくらい、賛否両論あってずっと話題になってるシーンらしい。

 

「俺はあのシーン、あんま好きじゃねーんだよな……」

 

 突然ぼそっと呟いたのは、ちょっと近寄りがたい雰囲気の金髪男子、村上君だ。【生ホス】、嫌いなのかな?

 

「村上君、紬様推しだもんね~」

「新菜君と同じだよね!」

 

 全然違ったみたいだ。村上君は新菜君と目を合わせて頷き合ってる。

 どうやら村上君も【生ホス】ガチ勢らしい。『原作も全巻揃えてる』と胸を張り、その上で続けた。

 

「俺はさ、あんだけ頑張って麗様をナンバーワンにしよーと支え続けてんのに、『麗様の一番にならなくてもいい』なんて覚悟決めてる紬様にこそ幸せになってもらいてーのよ」

「それわかるー。暦ちゃんが健気すぎて忘れられがちだけど、紬様もめっちゃ健気だよねー」

 

 女の子たちと村上君が盛り上がってる。新菜君も少し頬を染めて頷いてる。そこに四季君が口を挟んだ。

 

「なあ、今回の文化祭のシーンも、三島暦を追いかけるシーン、再現するんだったよな?」

 

 まりんちゃんが即答した。

 

「そだよ。暦てゃ役は元生徒会長がやるって話」

「え、じゃあ元会長を海夢が抱きしめる的な⁉」

「おいおい、すげーな元会長。完全に自分の趣味に走ってんじゃねーか」

「でもエモエモのエモだし、全然よくね? あたしもやりたい! って一発オーケーしたよ」

「間違いなく会場沸くよな」

「去年の〝お弁当〟のスーツよりエグいことになるんじゃね?」

 

 みんなが再び盛り上がる中、また村上君がため息をつきながら独り言を(こぼ)した。

 

「俺は原作と違ってもいーから、紬様が幸せになれるエンディングが見たいぜ……」

「原作と違うシーン……」

 

 新菜君が村上君のその言葉を受けて、感慨深げに呟いてるのが聞こえた。

 

 二時間程経った頃には、十一月後半に開催される文化祭までの工程表が出来上がっていた。

 新菜君が中心になり表にまとめ、四季君が担当者を割り振っていった。今日集まってるメンバーは制作責任者になったらしい。

 といっても、みんなコス衣装の自作なんて初体験だ。

 新菜君とまりんちゃんはルール上、積極的に関われないけど、この二人にアドバイスを聞いたり、二人を仲介してジュジュちゃんに相談しながら進める段取りだ。

 僕はといえば、体型補正の仕方やメイク、女装に必要なコスメなど、基本的なことはだいたい教えてあげることができた。

 念のため僕の連絡先は今日みんなに教えてある。

 メンバーの中で一番手先が器用だという成蘭ちゃんとリーダー役の四季君、実際にモデルになる健星君とは頻繁にやりとりをすることになりそうだ。

 

「近くに専用ショップがあるから、そこで〝プリンセスリリィ〟の衣装なら買えるよ。それに化粧品も揃うと思う。帰りに見てみるといいかな。今日は最低限必要になるものだけ買っておいて、あとは三面図が仕上がったらまた買いに来たほうが効率的だよ」

「姫野さん、ありがとうございました!」

「本当にアドバイス助かります~」

 

 瑠音ちゃんたちがお礼を言ってくれた。

 大空ちゃんが健星君に振り返って釘をさす。

 

「健星君、今日からスキンケアもしっかりやってよ! ガチメイクやるから!」

「化粧水とか買わなきゃダメか?」

「お前の母ちゃんと姉ちゃんに頼めよ。お前が化粧水使うなんて言ったら絶対面白がって買ってくれっから、相談してみろよ」

「や、やってみる!」

 

 健星君、真剣な顔でちゃんと聴いてる。みんな見た目は結構派手だけど本当に真面目だよなあ。

 

「あと今日、家帰ったら採寸しに行くからな」

「え、四季が計んの?」

「他に誰がやんだよ。女子に採寸させらんねーだろ、お前パンイチになんだぞ。五条はルール上できねーしな」

「そーいやそっか」

 

 四季君と健星君は幼なじみで家が近いらしい。

 採寸のやり方もさっき新菜君がしっかり教えてた。既製品をベースにするとはいえ、採寸はちゃんとやったほうがいいかな。

 

「そーいえばまりんって最初のコス、誰が採寸したん?」

 

 そんなことを思ってたら、突然乃羽ちゃんがまりんちゃんに訊いた。

 僕もそれは気づかなかったな。最初のコスのときは二人とも付き合ってたわけじゃないみたいだし、さすがにまりんちゃんが自分で計ったんだろうな――と思ったら。

 

「え? 新菜君にやってもらったに決まってんじゃん。他に誰がいんの?」

「ちょっ、海夢さん! それは……!」

 

 まりんちゃんが当然でしょ、とばかりに答え、それを聞いて新菜君が真っ赤になった。

 

「……あ」

 

 その反応を見て気づいたのか、今度はまりんちゃんが真っ赤になった。

 この感じだと、二人が付き合うずっと前、初めて作った〝黒江(くろえ)(しずく)〟コスの採寸は全身計ったんだな……それもかなり細かいところまで。

 たぶんまりんちゃんは水着か下着になって、それを新菜君が計ったんじゃないかな。

 

「……五条君、けっこー攻めてたんだね」

「おっ、俺じゃ……! っ――」

 

 新菜君が否定しかけて口をつぐんだ。自分じゃない、と言ってしまえば、まりんちゃんを咎めるようになってしまうと思って咄嗟に言いやめたんだろう。

 でもクラスメイトはそんな新菜君の性格のことも、まりんちゃんのグイグイいく性格も理解してるみたいで、みんな納得した顔になった。

 

「海夢、夢中になるとマジで周り見えなくなるからなー。昔っから」

「ってことは、五条君ちに押しかけたね~? 海夢?」

「なんだよ海夢、やっぱ最初っから付き合ってたよーなもんだったんじゃん」

「あっ、あはは……」

 

 さすがにまりんちゃんも返す言葉もなく苦笑いしてる。

 まあ今は本当に付き合ってるんだし笑い話だよね。

 まりんちゃんは瑠音ちゃんたちに冷やかされながらこれまでのコスのことを話し始めた。

 まりんちゃんがやりたいって言って作り始めた衣装もあれば、新菜君が背中を押すようにして始めたコスもあったらしい。

 

「海夢は当然だとしてもさー、五条君もガチでコス好きなんだねー」

 

 成蘭ちゃんが感心したように新菜君を見た。

 

「去年の文化祭んときは、海夢に頼まれたからってあんなすごい衣装とメイクできちゃうとかー、マジで義務感とかプロ意識とかスゲーなーって思ってたけどー」

「付き合い始めたって聞いたときは、『文化祭のあれはやっぱ愛だった!』って確信したけどねうちは!」

「それはそう! でもさー。やっぱり五条君もコスプレそのものがガチで好きなんじゃね?」

 

 賑やかにはしゃいでた女の子たちが一斉に新菜君を見た。

 新菜君は自分のことが語られていて、しかもまりんちゃんへの愛とかまで言われ始めたもんだから顔が茹で上がりそうなほど真っ赤になってた。

 

「あ、も、もちろんコスプレは好きです……。とても勉強になりますし」

 

 辛うじてそう口にした新菜君に、瑠音ちゃんが詰め寄った。この子、間合いの取り方がまりんちゃんにちょっとだけ似てるところがある。

 

「ね〜。五条君もコスプレやりたい、って思わないの〜? 作るだけじゃなくて、自分で着てみたいって思わな〜い?」

 

 その言葉に新菜君が答えるより早く、まりんちゃんが食いついた。

 

「瑠音、わかる⁉ ほんとそれ! あたしも新菜君がコスしてるところ絶対に見てみたいんだよねー! 女装とか最高すぎん⁉」

 

 瑠音ちゃんが目を輝かせながら答えた。

 

「わかる~! 五条君、肌奇麗だしメイク得意だし、絶対似合うよね~」

 

 新菜君は真っ赤を通り越して青くなりかけてる。

 それを見たからかどうかは判らないけど、乃羽ちゃんと四季君が口を挟んだ。

 

「うちもそれはわかるー。でも五条君、そーゆー性格じゃなくね?」

「んだな。俺だって女装コスとかけっこーハードル高ぇぞ。単純に好奇心よりも照れのほーが勝つな。健星みてーな性格なら別だけどよ」

「え~、そ~かな~。私は男装やってみたいけどな~」

「瑠音はマジで似合うよ!」

 

 話の中心が乃羽ちゃんと瑠音ちゃんへと移っていったところで、僕は新菜君とまりんちゃんの様子を何気なく見た。

 新菜君は乃羽ちゃんと四季君のコメントを聞いたからか、ほっとした表情をしてた。

 だけどまりんちゃんはそんな新菜君の顔を見て、とても寂しそうな顔になった。

 そして、新菜君は暗い表情になっていくまりんちゃんを見た途端、口を半ば開き、何かとても大切なことに気づいたように目を(みは)っていた。

 カラオケを出て、僕はみんなと別れて帰宅した。

 新菜君たちはみんなで衣装や化粧品を見に行った。

 別れ際もコスプレを成功させるためにみんなでわいわいと楽しそうに喋ってて、その背中をみてとても温かい気持ちになった。

 だけどそのときでさえ、新菜君だけは考え込むように一人で立ち尽くしていた。

 それがとても印象に残っていた。

 僕が今日のコスプレの片付けを終え、洗濯しおわった衣装やウィッグを干していると、新菜君からLIME(スマホメッセージ)が入った。〝通話いいですか〟とある。僕は承諾した。

 

「どうしたの? 買い物でなにか困った?」

『いえ、買い物は順調に終わって、さっき解散したところです』

「そっか、順調で良かったね。まりんちゃんは?」

『海夢さんは美容室に用事があるので渋谷の方に向かいました。俺一人です』

 

 そこまで喋って、新菜君が少し沈黙した。

 どうしたんだろう、と思ってると再び音声が聞こえた。

 

『……お願いが、あるんです。姫野さんに』

 

 改まってこんな頼み方をするなんて新菜君にしては珍しい。

 でも僕は、新菜君のために何かできることがあればしてあげたい、とずっと思ってる。

 

「うん。遠慮なく言ってよ」

 

 スマホの向こうから新菜君の息を飲むような音が聞こえた。

 そして切り出した。

 

『俺は――』

 

 

 

 




続きます。
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