【外堀物語】   作:Halnire

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この話も、時間をさかのぼっています。
2:千歳の部屋にて(前)の続きです。

千歳の部屋での打合せです。
麗様の衣装の打合せが終わったあとの話です。


姫野あまね  7:千歳の部屋にて(後)

 

「いよいよあまね君の出番だね!」

 

 僕の部屋。

 ミヤコさんが掛け声をかけ、新菜君がカバンから三面図を新たに四枚取り出している。それは女性用のパーティドレスを描いた下図。

 さっきまで出ていた〝鴻上麗〟のフロックコートの三面図は、もう新菜君が手早く片付けていた。

 僕はタブレットを準備した。

 あらかじめピックアップしておいたドレスやアクセサリーの写真や、これまで僕自身がやってきた女装のメモや写真などのデータがある。

 

「主役は新菜君だよ。初回打ち合わせにしちゃ内容盛り盛りだけど、ラッキーなことに時間はいっぱいとれそうだし。新菜君が納得できるところまでやろう?」

 

 僕の言葉にミヤコさんもアキラさんも笑顔で頷いた。

 ミヤコさんはバッグから何枚か紙面を取り出している。新菜君のコスプレをする〝紬十喜子〟が掲載されてる漫画のページをコピーして持ってきてくれたらしい。

 

「今日はまりんちゃんが来れないかも、って聞いたから持ってきたんだ。新菜君の衣装まで話を進められて良かったよ」

「まりんちゃんは夕方までバイトだっけ? 買い出しも余裕で間に合うね」

 

 このあと池袋に行ったら、新菜君の衣装の材料までだいたい買ってこれそうだ。

 まりんちゃんには悪いけど、今日の初回打ち合わせで彼女が居なくてよかった。準備がめちゃくちゃ(はかど)りそう――と言っても、別にまりんちゃんが邪魔だとか、迷惑だとかいう話じゃない。

 

「みなさん、本当にありがとうございます。何卒よろしくお願いいたします」

 

 主役の新菜君が僕たちに向かって深々と頭を下げ、【新菜女装プロジェクト会議】――〝極秘〟プロジェクト――まりんちゃんへのサプライズ企画打ち合わせが始まった。

 情報共有されているのはまりんちゃん以外の特別枠チームのみ。つまり、新菜君、僕、涼香さん、ミヤコさん、アキラさん、それにジュジュちゃんだ。

 ジュジュちゃんは直接作業に関わることはほとんどないだろうけど、まりんちゃんのコスプレには関わってくるため、知っておいてもらわないと不都合がある。まりんちゃんや二年五組の生徒たちに漏れないようにする防波堤の役割だ。

 もともと新菜君はまりんちゃんへのサプライズをするつもりはなかった。演出を変更する必要があるからと、新菜君が生徒会に相談しに行ったことが始まりだ。

 実は最初、紬十喜子のコスを追加する計画は予算の問題などでオーケーが出なかった。だけど、元生徒会長が新菜君のプランを聞いてめちゃくちゃ乗り気になってくれたらしい。彼女は【生ホス】ガチ勢で、紬十喜子も大好きなキャラなんだそうだ。

 

 ――私自身が暦ちゃん役で出演して、しかも〝紬様〟コスも見られるなんて最高しかないです!

 ――〝IF〟ストーリーを映像で見たいってずっと思ってたんです! 麗様と紬様が結ばれる世界線を! 舞台で、しかも母校で見れるなんて夢みたい!

 

 と大喜びだったそうだ。

 だけどそこに一つ条件がついた。それが〝喜多川海夢へのサプライズ〟ということだった。

 

 ――五条さんのサプライズコス! それが紬様だなんて、喜多川さん、絶対泣いて喜びますよ! 私、喜多川さんが感動する姿を生で見れたらって思うともうそれだけで涙出そう!

 

 そんな感じで始まったサプライズ計画だったけど、今では新菜君もすごいやる気を出している。

 

 ――俺も、サプライズ、やってみたいとは思ってました。

 ――海夢さんが好きだって言ってましたから。

 

 確かに彼女なら大喜びするのは間違いない。僕も想像したらつい顔がニヤケちゃいそうだし。でも新菜君はそこにさらに付け加えた。

 

 ――これも〝俺らしくない〟ことへの挑戦だと思うので。

 

「――で、紬様のドレスも麗様と同じく色が描かれてないんです」

 

 新菜君の声で我に返った。

 彼は三面図を見ながら困り顔をしてる。ドレスの色で悩んでいるらしい。

 

「〝レイ〟の衣装の相談してるときも言ったけど、形はイブニングドレスで間違いないよ。肩が大きく空いてるし」

「紬十喜子だと、イブニングドレスなら赤が似合うと思うんけど、それは無いかな?」

「トーンの濃さから考えると、薄い色だよね」

「〝レイ〟がシャンパンゴールドだから、こっちはシルバーとか?」

「それいいね!」

 

 全体の色味はそれに合わせて決まっていった。

 ショールは白い毛皮。ネックレスはプリンセスと呼ばれてる長さでシルバー。宝石はイメージ的に赤のルビーにした。他のピアスやブレスレットもその色に合わせる。

 

「ドレスの下は、たぶんマーメイドシルエットという形だと思うんですが漫画には全体が描かれてるシーンがないんです。これで正しいのかどうか……」

「うーん、そうだね……」

 

 ミヤコさんが新菜君の疑問を聞いて考え込んだ。僕は気になっていたこともあったので発言した。

 

「原作には描かれてないですけど、たぶん大きくスリット入ってるんじゃないですか」

 

 ミヤコさんが手を叩いた。

 

「そうかも……! そうしようよ! そのほうが新菜君、歩きやすいし!」

「新菜は脚も長いし、どうせならアピールしたほうがいいね」

「ええっ、俺の生足、見せるんですか⁉」

「そうなるね」

 

 脚の話から、新菜君の体型の話へと移った。

 

「新菜君、痩せ型だけどさすがに補正はがっつり必要になるかな」

「紬様、スタイルがすごくいいですしね」

「ダイナマイトだもんね」

「胸元は結構露出するから、〝おっぱいNEO(ネオ)sister(シスター)〟の出番だなー」

「新菜、前に着けたことあるんでしょ?」

「いえ、店頭でちょっとだけですよ……」

「今度はお尻も盛らないといけないし、上下が合ってるサイズ買わないとね」

「着けて自然に歩けるか、試したほうがいいよ、新菜君」

 

 新菜君が頷き、三面図を手にして言った。

 

「いずれにせよ、補正下着を着けてからサイズを計ることになると思うんですが……俺自身のサイズも計れてないところが多いんです」

 

 確かに三面図はサイズがほとんど書いてない。自分じゃ計れないサイズも多いから当然か。

 

「補正下着とかいろいろ買うにしても、今のサイズは知っておいたほうがいいよね」

 

 ミヤコさんがそう言ったので、僕も賛同した。

 

「じゃ、計っちゃいますか」

 

 僕だってメジャーくらい持ってるから、うちで計ればいい。

 そう言うと、新菜君が凍りついたような顔になった。

 

「こ、ここでですか?」

「いやまさか」

 

 さすがに女性の眼前で計るわけにはいかないから、浴室でちょっと計ってくればいい。なので僕は新菜君を連れて浴室へ移動した。

 

「はやく脱いでよ」

「上下ですか⁉」

「そりゃそうでしょ。男同士だよ、何恥ずかしがってんの」

 

 なぜか抵抗するので、無理やり()ぎ取るようにして脱いでもらった。

 

「肩幅からいこうね」

 

 見た目通り新菜君は痩せ型だった。

 お腹周りも細くそこまで絞らなくても済む。でも肩幅の広さは衣装で誤魔化すしかなさそうだ。

 

「終わりましたよ」

 

 抵抗したのは最初だけで、大人しくなった新菜君は非常に協力的だったからすぐに終わった。

 リビングに戻ると、ミヤコさんとアキラさんがなんか居心地の悪そうな顔で向かい合ってちょこんと座ってた。

 

「……涼香が居なくてよかったね」

「ほんとだね……」

 

 その他の必要な項目を記入し、三面図をだいたい埋め終わると昼を回っていた。

 

「おなかすいたね」

 

 池袋に移動し、ミヤコさんおすすめの東口にあるコスパがいいイタリアンでランチを済ませたあと、買い出しをした。

 まりんちゃんの衣装と新菜君の衣装の生地、補正下着、それに装飾品とかの材料として銀粘土やレジンモールドなんかも買う。スワローでウィッグも買わなきゃいけない。

 みんなもいろいろ意見を言ってくれて一番いいものが選べたと新菜君も満足してたけど、そのぶん結構な時間がかかった。

 気づいたら夜六時近かった。

 ちょうど店を出たところで新菜君のスマホが振動した。

 

「――はい。こっちも終わりましたよ」

 

 新菜君が通話に出た。相手はたぶんまりんちゃんだ。バイトが終わったんだろう。

 一回スマホのマイク部分を手で押さえて新菜君はこちらを見た。ちょっと困った顔をしてる。

 

「海夢さんがこっちに来て合流したいそうですが、どうしましょう」

 

 荷物が多いし〝おっぱいNEOsister〟とか目立つしなあ。

 ここでバレなくても新菜君の家についたらバレそうだ。それに新菜君はまりんちゃんに嘘は言えないだろう。

 

「僕が新菜君の衣装の材料だけ預かるよ。どうせ今度また体型補正後の採寸するでしょ? それもうちでやろうよ」

 

 新菜君は申し訳なさそうな顔をして、頷いた。

 

「ありがとうございます、姫野さん。申し訳ないですが、お願いしていいですか」

「いいよ。じゃあ僕は先に帰るね!」

「今日はお部屋借してくれて本当たすかった! ありがとうあまね君!」

「姫野さん、本当にありがとうございました。また連絡します」

 

 新菜君の、ちょっと戸惑い気味の笑顔に手を振った。

 新菜君も海夢ちゃんも、思いやり深いし真っ直ぐすぎて隠し事は全然得意じゃなさそうだ。サプライズが上手くできるか不安なんだろうな。

 電車に揺られているときも、つい二人のことを考えて思い出し笑いをしちゃう。

 本当にあの二人は微笑ましくて――暖かい。

 

 




次話も、すこしだけ時間をさかのぼったお話です。
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