仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変 作:大ちゃんネオ
真夜中────静けさに包まれた、磐戸の港。
そこには暗い色彩によって巧妙に秘匿された、大きな貨物船があった。
ただの船ではない。とある組織が管理する、秘された存在だ。
「ゆっくり下ろして……そう、そのままよ」
インクの怪物である
船員たちに向かってそんな指示を飛ばしているのは、ここ磐戸の支部長である
普段は酒を飲んでばかりいる彼女も、今夜は真剣な面持ちで作業に参加している。
そんな織愛へと、封魔司書の一人が声をかけた。
「珍しいですね、支部長自ら現場に来るなんて」
「今回ばかりは運び出されるのを自分の目で確かめておきたいからね。何しろ、モノがモノだし」
部下に返答しながら、織愛は扉の開いたコンテナへと収容されていくその遺物に目をやった。
と言ってもそれは既にジュラルミン製の大きなケースの中で鎖と錠前によって厳重に封じ込められており、さらに呪符を貼り付けられて床面の五芒星の上に置かれている状態で、物理的にも魔術的にも破れないようにされている。
その中身について、織愛は知っている。だからこその厳戒態勢だ。
「一応言っておくけど絶対に中を見ないでよ、みんな。決して魅入られないように」
封魔司書の面々が緊張した様子で重々しく頷き、船に乗り込んでいく。
積荷の行き先は本部だ。とは言え織愛ですら場所は把握していないので、他国の支部に一度これを運んだ後は、そこで待機している本部の者に託す手筈となっていた。
遺物は表の世界の人間に触れさせてはならないもの。超常の力が存在するという事実は、
船が出港を始め、何も起きる事なくどんどん陸から離れるのを見送ってから、織愛は安心した様子で背を向ける。
だが、次の瞬間────。
『うわあああっ!!』
「え!?」
突如として聞こえて来た悲鳴と、鈍い金属音が響くのを耳にして、織愛は振り向いた。
見れば、船の周囲を取り囲むようにして、海水で作られたであろう氷のドームが形成され、貨物船はその場を動けないままドームと氷海に閉じ込められている。
誰の仕業なのかはまだ分からないが、何が目的なのかは明白。先程の積荷を、何者かが奪おうとしているのだ。
「う、嘘でしょ……どうしてもうバレてるの!?」
織愛は動揺しつつも、すぐに船に向かって通信を飛ばす。
だが氷のドームのせいなのか内部に電波が届かないようで、通話機器は役に立たなかった。
よって、万が一に備えて港に待機している
「緊急事態よ、みんな! 海が凍ってるからそのまま船の方に向かって!」
『おう、任せとけ支部長!』
男の声で返事が聞こえ、しかしその直後に再び異変が起こる。
いつの間にか港の倉庫の中から、鎧兜と剣や盾などで武装状態の腐敗した死体のような姿の戯我が出現したのだ。
これらは、事前に近辺を捜査していた時には見つからなかった者だ。想定外の事態に織愛は舌打ちし、右手に銃を構えて近場のゾンビを狙い撃つ。
「この!」
「ア゛ー……」
銃弾に体を撃ち抜かれても、動く屍たちは緩慢だが歩みを止めずに織愛に向かっていく。
しかも一度に何体も押し寄せて来るので、織愛や非戦闘員の封魔司書だけでは対処が難しい。
だがそんな苦境を切り裂くように、激しいエンジン音が夜空に下に木霊する。
「ハッ!」
叫び声と共に降り立ったのは、三つのバイクと詰め襟の軍服のような形状のLOT制服を纏った三人の戦士たち。
彼らはそれぞれ、腰に大きなベルトを装着していた。そのバックル部分には窪みがあり、何かを装着できるようになっている。
「……思ったより数が多いようだな」
犬の仮面を付けた少年がそう言って、ベルトの右腰にあるホルスターから銃を抜いて照準をゾンビに向けた。
しかし、亀の面を被った男が腕を伸ばして遮る。
「お前らは先に船行きな。ここは俺が受け持つ」
「灰矢?」
「元々俺の方が防衛戦に向いてる。こっちは一人で良い、だから任せとけ」
亀の仮面の男、弓立 灰矢からの言葉を聞き、二人は顔を見合わせ頷き合う。
そしてバックル部へ手に持った銃『レリックライザー』をセットしてレリックドライバーへと変え、続けてそれぞれ二本の弾丸型のインクカートリッジを手に取り起動スイッチを押した。
《サンダー!》
《ハウンド!》
「行雲 紫乃、並びにロゼ・デュラック。これより遺物回収の作戦行動に入る」
《フラッシュ!》
《ケンタウレス!》
「ええ、行きましょう!」
紫乃とロゼ、二人がインクカートリッジのアイテムである『モンストリキッド』をドライバーに装填。
さらに、音声を聞きながらその引き金を指先で弾いた。
《
『変身!』
《
瞬間、二人の頭上と足元に光を放つ五芒星が描かれる。
それぞれ紫乃はマジックヴァイオレットとピュアホワイト、ロゼの方はリリーホワイトとローズレッドだ。
五芒星から溢れ出すインクが二人を包み込み、アンダースーツと装甲を構築していく。
そうして生み出されたのは、バイクを駆る二人の仮面の戦士、仮面ライダームラサメと仮面ライダーブリューナクであった。
《天を裂く紫電の咆哮! サンダーハウンド!》
《輝き貫く瞬速の騎士! フラッシュケンタウレス!》
迸る閃光と共に、二人がかりの銃撃と激突でゾンビを蹴散らしながら氷の海の上を仮面ライダー用バイクの
だが西洋風の鎧姿の戯我たちは、倒しても倒してもどこからか何度も湧いて出た。
彼らの装飾や扱う武装を目にして、ブリューナクは不思議そうに声を上げる。
「この装い……妙に古めかしく見えるけれど、でも壊れたような形跡はないわね。一体誰の差し金なのかしら?」
「分析している時間はないが、正体については察しはつく。大方、例の『積荷』の本来の受領主だろう」
ムラサメに変身した紫乃の言葉に、ブリューナクのロゼは納得した様子で頷いた。
運び出す予定であった荷物は、本来なら磐戸には存在しないはずのもの。
以前にとある敵対勢力が船の中で『
だがそれは船を沈没させる事によって遺物全てを丸ごと海に還すという苦肉の策に等しいもので、全ての積荷が完全に失われた事は当然ながら確認できていない。
実際、運び出そうとしていたものは海から磐戸まで流れ着いたもので、織愛たちはこれを同事件で所在不明となっていた遺物のひとつであると考えていた。
「誰であろうとアレを触らせるワケには行かない、あんなものが世に放たれてしまったら……」
「そうなる前に、奪還するか破壊しましょう」
ムラサメは黙って頷き、バイクのスピードを速めてゾンビを轢殺していく。
そうして彼女と共に船の前まで到達すると、Aストライカーを小型端末形態の
船体はほとんど氷で埋め尽くされており、登るには一苦労しそうだ。
「ブリューナク、頼む」
「任せて」
頷き、ブリューナクは自身のドライバーにセットされているリキッドをひとつ押し込み、そしてトリガーを弾く。
《ケンタウレス!》
「
《
するとブリューナクの下半身が光に包み込まれ、馬の胴と足に、謂わばケンタウロスのような姿に変化した。
ムラサメはその背に飛び乗って、しっかりと腰に腕を回す。
「じゃあ、行くわよ!」
その言葉と共に、半人半馬となったブリューナクは力を込めて大きく跳躍。船から伸び生えた氷柱を蹴り、上へ上へと駆け抜ける。
瞬く間に二人は凍りついた甲板に到着した。氷に足を取られて転ばないよう注意を払いつつ、そのまま船の上を進んでいく。
船員である封魔司書たちはコンテナを背に氷の壁の内側に閉じ込められており、しかし幸いなことに彼らが襲われる心配はないようだった。
「進路が凍らされているな……」
ムラサメの言った通り、荷物のあるコンテナまでのルートを辿ろうとすると、必ず分厚い氷の壁に遮られている。
まるでその先にあるものを守るために、誰も通さないと言わんばかりだ。
さらに氷壁からは、またもやゾンビが這い出て来ている。
「くどい連中だ」
言いながら、ムラサメは自身の武装である太刀を手に取った。
彼の持つ武器はAウェポン
「砕け散れ」
そして、発砲。弾丸はゾンビの兜ごと頭部を貫通し、氷の壁に命中する。
が、堅牢な氷はほとんど銃弾を全く通さず、命中と同時に勢いを殺し停止させてしまった。
「チッ! なら……ブリューナク、使え!」
言いながらムラサメが後ろに向かって放り投げたのは、ファイアレッドのモンストリキッド。
それを目にして、ブリューナクは仮面の奥でフッと笑う。
「ナイス! これなら!」
《ファイア!
ブリューナクが自らの武装、AウェポンL/Rへとそのリキッドを一度リードする。
続いてライフルモードのまま、彼女もひしめくゾンビたちとその背後の氷の壁に銃口を向けた。
《
「行け!!」
トリガーが引かれると同時に放たれる炎の弾丸。
勢いよく燃え立つ火炎は鎧を纏う屍を尽く焼滅せしめる。
だが、その業火でさえも氷壁を溶かすには至らず。そればかりか、罅さえ入れず一瞬の内に炎を消してしまう。
「えぇっ!?」
「バカな……!!」
あまりの出来事に、二人とも愕然とする。
この頑丈な氷の塊を完全に破壊できはしなかったとしても、ある程度なら熱で溶解できるだろうと思っていたからだ。
しかし、如何なる力によって作られたものなのか、必殺の一撃すらも通していない。
積荷はこの先にある。となればどうにかして別のルートを探さなければならないのだが、二人にはそんな猶予は残されていなかった。
『去れ』
「はっ!?」
甲板で、突然そのような声が聞こえたのだ。
姿は見えないが声は女性のもので、口調と態度から尊大な人格が窺える。
『今すぐ立ち去れ、人間。妾は自分の手にすべきだったものを取りに来ただけだ』
「ほざけ!」
己の拳で以てムラサメが壁を壊そうとするが、やはり通じない。何度破壊を試みても結果は同じ、傷一つさえ付けることができなかった。
そして氷塊越しに何者かの影が見え、焦燥を強めつつも拳をひたすらに突き出す。
だがその思いが通じることはなく、声の主であろうその影はコンテナの扉を開いて中に入っていく。
「まずい!!」
仮面の中で強く歯を食いしばる紫乃。
直後、二人は背後から突き飛ばされたかのように、前のめりに倒れそうになる。
いきなり目の前の氷の壁が消えてしまったのだ。あれほど数多く蔓延っていた戯我たちも、最初から存在していなかったかのように姿をくらましていた。
それはつまり、例の人物にはもう壁やゾンビを生み出しておく必要がなくなったということを意味する。
大急ぎで走り出し、コンテナの中を確認するムラサメとブリューナク。
中身はやはりもぬけの殻。だが、変身を解いた紫乃とロゼにとって、目を見張るものがそこには遺されていた。
「これは……」
目の前にある『それ』を見ながら、紫乃は呟く。
その時、ロゼのAガジェットに織愛からの着信が届いた。
紫乃に目で合図を送り、互いに頷いた上でその通話に応じる。
『ロゼちゃん、どうなったの!?』
「残念ですが遺物は奪われてしまいました。犯人の正体も、声だけしか聞こえなかったので分かりません」
『……そう、なのね。残念だわ』
「ただ」
言いかけたところで、ロゼは紫乃へと端末を渡す。
「異界へと繋がる『穴』を見つけた、恐らくここから今回の犯人が向かった場所に辿り着けるはずだ」
『えっ!?』
「オレとロゼはこのまま現地へ向かう。そして遺物を取り返し、帰還する!」
驚愕する織愛をよそに、二人は動き出した。
だがそれを静止するため、端末からは激しい抗議の声が上がる。
『待って! 待ちなさい! 異空間への穴を作るという事は、それは神界に住むモノ……神やそれに類する戯我ってことなのよ!?』
「分かっている。だが、あの遺物を放置などできない。それに穴が閉じてしまったらもう二度とヤツを追えないんだ、今すぐに向かうしかない」
『そんな勝手な……!!』
「必ず戻る。安心しろ」
それだけ伝えると、紫乃は通話を切ってガジェットをロゼにパス。
向こう側が見えないほどに暗い穴に向かって、危険も顧みずに二人で飛び込んでいった。
────その背後で、白い狐のような動物が付いて来ているのにも気づかずに。