仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変 作:大ちゃんネオ
夜が深まる頃、住宅地にポツリと取り残された林の中から剣戟の音が響き渡ってくる。
そんな物騒な音、近隣の家々の住人達は誰も気にとめない。
そもそも、ここに人は存在しなかった。
ここは、ミラーワールド。鏡の中の世界。
「やあッ!」
巨大なカッター刃のような剣を振り下ろし、モンスター「ギガゼール」を一刀両断するは白と黒の騎士。
名を、仮面ライダー縁といった。
自分の家から近い場所にモンスターが出たことを察知した縁はモンスターを狩ると決め、たったいま狩りを終えた。
ギガゼールのエネルギーが宙に浮き、縁が契約している白と黒で色付けられた蛇型のモンスター「ジャノローダー」が闇の中から現れる。
ジャノローダーは眼前のエネルギー体を広げた口で飲み込むと再び闇の中へと消えていった。
「エサやり完了っと。帰ろ」
仮面ライダーはモンスターと契約し力を得る。
力を得る代わりに、ライダーはモンスターに食事を提供しなくてはいけない。
それが契約。果たされない場合は、ライダー自身がエサとなってしまう。
ただでさえ日々殺し殺されということをしているこの世界の仮面ライダー達であるが、そんな死に方だけは絶対に避けたいと誰もが思っていた。
とはいえ諸事情で現在殺し合い、ライダーバトルは停止しておりライダー同士の戦いは禁じられている。
そのため、現状はモンスターか異世界からの侵略者「魔人教団」としか戦いは繰り広げられていない。
────今までは。
「え────」
風を切る音。
それは、ストンと縁の腹部を貫いたそれは矢であった。
縁は何を支えにすることも出来ず、うつ伏せに倒れる。
「やった、やったやったやった!」
闇の向こう側から聞こえる少女の声に縁はなんで?どうして?といった疑問ばかりが頭に浮かぶ。
だが、やがてそんなことを考えてもいられなくなる。
薄れいく意識。
縁は、闇に溶けていく────。
『無残に殺され、悔しくはないか? 怨めしくはないか?』
縁の死体に語りかける者がいた。
ローブを纏った女はその手に細身の西洋剣を携えており、うつ伏せに倒れる縁をひっくり返すとその剣を力なき縁に握らせる。
すると、剣は脈を打ったかのように鼓動した。
縁と、引き合ったかのように。
『やはり怨めしいか。そうだろう。闇討ちなど許せぬよな。妾が力をくれてやる。存分に、その怨みを晴らすがよい。この世界の人間、そして仮面ライダー共の命を妾に捧げよ』
取り出した小瓶の蓋を開け、中身が縁に垂らされる。
液体は縁の胸部から身体全体へと拡がっていき、縁の鎧に染み込んでいく。
白と黒の鎧は、まるでキャンバスに絵の具を乱暴に叩きつけたかのような色彩に溢れ、見る者の目を痛め付けてしまいそうなほど。
「あ、あぁ……」
彩られた縁は息を吹き返した。
いや、それは正確な表現ではなかった。
生者として生き返ったわけではない。
死者として蘇ったのだ。
『さあ、行け。
仮面ライダー魔縁。
それがインクに汚されし縁の銘。
魔縁はゆらりと立ち上がると、闇の中へと歩を進めていった。
林の中から道路へと出たライダーの手にはボウガンが握られていた。
フクロウのような面をした褐色のライダーの呼吸は荒かった。
走ったからでもなく、焦っているからでもない。
ライダーを一人、この手で倒したからだ。倒した興奮が、彼女の息を荒げていた。
「はあはあ……。なにがライダーバトル禁止よ! 殺したってモンスターかメタローとかいうのだかに殺されたってことにすればバレない。こうやって敵を少しずつ減らしていけば……!」
自分は勝利に近付く。
それが彼女の計画であった。
ライダーの死を偽造し、ライバルを減らす。
自分が少しでも有利になるために。
この計画を思いつき、ついに実行した彼女は絶対に上手くいくと実感していた。
そうして、これからもこうやってライダーを支配していくのだ。そう決めて、現実の世界へと戻ろうとした時のことであった。
揺れる、街灯。
明滅を繰り返し、一瞬だけ完全に光を失う。
だが、すぐに光は灯った。
────その下に、それはいた。
「な、なによ……」
そこに、そんな者はいなかったはずだった。
あたかも幽霊が突然現れたかのような登場の仕方に少女は肝を冷やした。
街灯の光に照らされている者は、派手なライダー。
黄、紫、赤、緑、橙等々。
様々な色をぶちまけたかのような、うるさい色彩。
だが、その手に持つ剣は美しく輝く白刃で、剣は使い手とは違ってシンプルな装いであった。目を引かれるところがあるとすれば、やはり煌めく白刃。それと、鍔に瞳のような意匠が象られていること。
「なに……。ライダーバトルは禁止されてるのよ! 分かってるでしょうね!」
己は破ったそれを、今度は盾にする。
だが、そんなもの魔縁には関係なかった。
蛇が獲物を捕らえるが如く、魔縁は一気に疾駆。
少女は咄嗟にボウガンを構えるが遅い。既にここは魔縁の間合。
通りすぎ様に胴一閃。派手に火花を散らし、少女は手からボウガンを落とした。
そして、背後から刺突。
「ガッ!? そん、な……こんな……」
少女は自身の腹部から突き出た剣先に目を奪われる。
白刃を化粧した朱。
それがいやに、綺麗だった────。
最期に、少女から色が失われる。
即ち命が奪われる。
「……」
魔縁は突き刺した剣を抜く。
その背後で、少女が倒れるが気にも留めない。
血濡れの剣をかざすと、鍔にある瞳が妖しく光を灯した。剣が血を吸う様を満足気に見ると、魔縁は血滴る剣をそのままにミラーワールドの闇の中へと姿を消していった。
ビルの屋上に一人佇む長髪の少女。
アリス。ミラーワールドの住人にして、ライダーバトルを管理する謎の少女。
彼女は目を瞑り、何かを感じ取っていた。
『妙な気配が流れていますね……。流れている、いや、流れ出ている……?』
今までとは違うミラーワールドの様子。原因を探り、場合によっては対処する必要があるとしてアリスは真面目であった。
だが、そんな彼女を邪魔するかのように突風が吹いた。
『きゃっ!? なんですか……って、モンスターの仕業ですか……』
アリスのすぐ近くを通り過ぎていったモンスターは巨大なフクロウといった容姿で飛行能力に優れていた。
『ん? あのモンスターは確か……』
あのフクロウ型モンスターには見覚えがあった。
たしか、ライダーと契約していたはずだがとアリスは訝しむ。
契約していたライダーはと思い出そうと頭を捻ると、今度はアリスの側を青い騎士が通りすぎていった。
巨大なフクロウ型モンスター「オウリンガル」が聖山市中央市街のビルの合間を飛び交う。
高速で飛翔するモンスターは、既に倒しにかかったライダー数名を返り討ちにするほどの強敵。そんなモンスターを追跡する青い翼が一人。
仮面ライダーアイズ=咲洲美玲だ。
契約モンスターの青い鷹型のモンスター「ガナーウイング」を背に纏わせ鳥人となった彼女は空を飛び、矢を放つ。
「……早いわね」
空を穿った矢達を見て呟く。
弓道経験者で、腕には自身のある彼女であるが流石に自身も飛行しながら、的も高速で飛行するとなれば命中させることは難しい。
なんとかオウリンガルの動きを止めたいところであるが。
何か策を練らなければと頭を回したところ、前を飛ぶモンスターがくるりと回転し何かを避けた。
避けたのは、地上から放たれる水柱。
「射澄」
アイズはその水柱の援護をした友の名を口にした。
神前射澄、仮面ライダーヴァールが右手に嵌めた鯨のような手甲から放つ水流による援護射撃は間違いなくオウリンガルの飛行を妨げる。
「これしか出来ないね、私には」
「大丈夫です! 私は今のところなんにも出来てませんから……」
「……相手が悪かったね、お団子君」
ヴァールは遠距離攻撃の手段があるが、仮面ライダーグリム=影守美也にはそれがない。
だが、なにか出来ればとミラーワールドに駆けつけていた。
それでも何も出来ないのは歯痒いと肩を落とすが、そんな後輩をヴァールがフォローする。
「せめてもっと高度が下がれば……」
「ふむ……。なるほど」
それならこれだとヴァールがデッキから引いたカードを槍型の召喚機に読み込ませる。
【NASTY VENT】
ヴァールの契約モンスター、鯨に似た「テラーディープ」が現れ、吼える。
超音波はモンスターの聴覚を揺さぶり、オウリンガルの飛行に乱れが生じる。
バランスを崩し、高度が下がってきたオウリンガルを見てグリムは「チャンス!」と叫びカードを切った。
【ADVENT】
アスファルトの地面が波打つ。
落下しつつあるオウリンガルが地面へと近付いてきた瞬間、水面から紅いワニのようなモンスター「グランゲーター」が飛び上がる。
『グアァァァァァ!!!!!!』
巨大な口を開け、オウリンガルの右翼に噛み付いたグランゲーターは獲物を振り回しビルの壁に叩き付ける。
更に、上空からはアイズによる矢の雨が降り注ぐ。
「ナイスグラン!」
「流石だ。一気に決めてしまおうか」
そう言ってヴァールがデッキに手をかけた瞬間であった。
グランゲーターに噛まれ、逃れようと暴れるオウリンガルの左翼が空を切る。すると、風の刃が発生し、ヴァールとグリムに迫った。
「ッ! 美也君!」
「射澄さん!?」
咄嗟にグリムを庇ったヴァール。
風の刃はヴァールに迫る。
だが、風を切るもう一つの音が三人のライダーの耳に届いていた。
白の剣士が駆る、バイクの駆動音。
白の剣士と共に戦う白亜の剣を携えし飛竜の咆哮。
「はッ!」
『ゴアァァァァ!!!!!!』
ヴァールの目の前に躍り出た剣士と飛竜の斬が風の刃を断ち切る。
オウリンガルはグランゲーターの大顎から脱して上空へと舞い上がり、自分の攻撃を切り裂いたその一人と一体を警戒し威嚇の声を上げた。
人に害為すものを切り裂く白の剣士。
モンスター『ドラグスラッシャー』を従え戦う仮面ライダー。
その名は、仮面ライダーツルギ。
「燐くん!」
「すいません遅くなりました!」
愛車スラッシュサイクルから降りて、剣型召喚機スラッシュバイザーを構えるツルギの隣にヴァールとグリムの二人が並び、上空から舞い降りたアイズも共に立つ。
「どうする。結構手強いわよ、あいつ」
「ダメージはしっかり入っているはず。あともう一押しだよ」
「グランゲーターの奇襲はもう通用しない……。ああ! 攻め手に欠ける!」
「……攻め手なら、ここにある」
ツルギが攻め手。
それは、一枚のカード。
黄金の翼が描かれ、その背景では白き風が吹き荒び、他のカードとは一線を画すパワーを持つことが分かる。
スラッシュバイザーはサバイブの力を受けて、太刀へと変化。銘をスラッシュバイザーツバイへと変える。
鍔は龍の頭部を模し、その口を開けてカードを読み込ませる。
そのカードの名は────。
【SURVIVE】
白き風の中、強化されたツルギの虚像が舞い踊りツルギの姿を変える。
仮面ライダーツルギサバイブ・烈風。
風を纏い、白いマフラーが風に靡く白と黄金の剣士。
腰に差したスラッシュバイザーツバイの鍔の側面を、鯉口を切るようにしてスライドさせカード挿入口を開き、読み込ませる。
【CALL VENT】
その場にいたドラグスラッシャーの姿が変わり、「聖剣嵐龍ドラグブレイザー」へと姿を変える。
ワイバーンに似た体型から、がっしりとした手足が備わりドラゴンへと進化。
ドラグブレイザーは天へと向かい吼える。
コールベント。
それは、龍王の呼び声。
我に挑むものはいないのか。
我と戦うものはいないのか。
その呼び声に、オウリンガルは支配される。
闘争、闘争、闘争。
あの龍と剣士を討つのだと。
上空から一気に急降下し、ツルギサバイブに狙いを定める────!
「来た!」
「ここで決めるわよ」
「そうしよう」
「……」
青い炎の矢を番えるアイズ。
手甲が放つ水流のエネルギーを高めていくヴァール。
二人は同時に技を放つ。
青い炎と水流がオウリンガルの胸に直撃し、加速の勢いが落ちる。
「はあぁぁぁ!!!!!」
アイズとヴァールの間を紅い剣士グリムが駆ける。
ソードベントで召喚したグランゲーターの尻尾を模した両手剣を構え、飛び上がる。
「でぇぇぇぇい!!!!!」
上段から振り下ろされる剣は胸部を切り裂き、褐色の羽毛を散らす。
だが、これでも倒しきるには至らなかった。
『オゥゥゥゥゥルッ!!!!!』
己の最期を感じ取ったオウリンガルは全ての力を出し切り、最高速度へ無理矢理至る。
自身を風の刃として、ツルギサバイブだけでも討ち取ろうと翔る。
「燐!」
ツルギサバイブはだらりと下げたスラッシュバイザーツバイをようやく構える。
高く、上段の構え。
タイミングを合わせて切り裂くつもりでいる。
それを見て、オウリンガルもただで斬られるわけにはいかぬと頭を働かせる。
そうして、二者の駆け引きが始まった。
差し迫るオウリンガル。
待つ、ツルギサバイブ。
そうしてツルギサバイブの間合にオウリンガルが入った。
「ッ!」
振り下ろされるスラッシュバイザーツバイ。
完璧なタイミング。しかし、切り裂いたのは虚空。
オウリンガルは最高速度に達しながら、ツルギサバイブの間合に入った瞬間に飛び退き間合の外に出たのだ。
完全に剣を振り下ろしたツルギサバイブはオウリンガルに隙を見せる。
こちらが切り裂く番だとオウリンガルが再び加速する!
「燐!」
美玲の叫び。
射澄と美也も燐の名を叫んだ。
誰もがまずいと思った。
しかし────。
ツルギサバイブの瞳の緑光が煌めく。
ツルギサバイブは、オウリンガルとの駆け引きに勝っていた。
振り下ろされたスラッシュバイザーツバイはフェイク。
オウリンガルにあえて見せた隙。
完璧な攻撃態勢に入っていたオウリンガルにはもう防御することも回避することも出来ない。
スラッシュバイザーツバイの刃が返され、斬り上がる!
その速度、まさに神速。
風を纏ったスラッシュバイザーツバイがオウリンガルを切り裂き、オウリンガルはツルギサバイブの背後に墜落し、爆発。
ドラグブレイザーがオウリンガルのエネルギーを捕食し、天へと消えていった。
「燕返しとは、恐れ入った」
「冷や冷やさせるんだから……」
「え! 燐くんそれ教えて!」
燕返し。
剣豪佐々木小次郎が得意としたとされる創作上の技。
虎切りが元ではないかとされている技で、どちらもフェイクで相手を油断させてから切り裂く技である。
「……にしても、手強かったわね」
『それはそうです。元はライダーと契約していたモンスターで、それなりにしっかり他のモンスターを捕食していたようですから』
「キョ……。アリス……」
4人のライダーのもとへ現れたアリス。
彼女の言ったことが全員気にかかった。
「元はライダーと契約してたってことは、今は……」
『ちょっと調べてきましたがそのライダー、どうやら死んだようです』
その言葉を聞いて、仮面の下で燐は目を見開いた。
「死んだって、なんで」
『それは分かりません。モンスターとの契約違反ではないようですし、モンスターか魔人教団にやられたか。あるいは……』
ライダーにやられたか。
しかしそれは現在敷かれているライダーバトル禁止令に触れる。
そんなことをしてはペナルティに繋がるというのに、それすら恐れずにライダーバトルを推し進めようというのは余程ライダーバトルにかける願いに対して強い思いがあったに違いない。
とはいえそれで確定したというわけではない。
何か不幸な事故で亡くなってしまった可能性だってあるのだ。
ともかく、少し注意する必要があると四人は警戒心を抱いた。
「ん……? なにあれ」
ふと、アイズが見つけた。
街の中を歩く数人の人間を。
だが、ここはミラーワールド。生身の人間はアリスしか存在しない世界。
そんな場所に人間がいるということは、あり得ないことなのだ。
「な、なんかあの人達、変じゃないですか……?」
「ああ、生気がないと言えばいいか……」
「……あの人達、死んでます」
燐は彼等が死者達であることを理解した。
それは直感によるもの。
死というものを、彼は理解していた。
数奇な運命により、死を何度か体験したからこそ分かるものであった。
「……ッ!? 美玲先輩危ないッ!」
「えっ……」
颯爽とツルギサバイブが突風となり、アイズの前へと躍り出る。そして、鋼と鋼がぶつかり合う音。
上空から現れた何者かが、アイズを切り裂こうとしたのだ。
「ぜあぁッ!!!」
ツルギサバイブがスラッシュバイザーツバイに纏う風を荒れ狂わせ、その何者かを押し退ける。
ツルギサバイブは即座に切先を敵に向け、アイズを守るようにして立つ。
「誰だ!」
ツルギサバイブの問いかけにそれは答えなかった。
様々な色に塗り潰された鎧。手に持つ剣の刀身は妖しく輝く。
「こいつは、ライダーなのか……?」
「どういうこと、燐……?」
美玲の目にはそれはライダーとしか映っていなかった。
しかし、燐はライダーとは違うものを感じていた。
ライダーのガワを利用しているもの。なにより、あの剣に強い何かを感じてしまう。
それこそ、あの剣に意識を持っていかれそうなほどに。
「……イダ……る……」
「なに……?」
「ライダーは、斬る!」
「ッ! 美玲先輩下がって!」
振るわれる白刃を回避し、ツルギサバイブとアイズは戦闘態勢を取る。
また、ヴァールとグリムも合流し四対一。
数で勝り、迎撃する上では完璧。
だが、どこからか現れた謎の怪人の群れが押し寄せる。
古代の兵士を思わせるような鎧兜を纏った者達。あたかも腐敗しているかのようで、その姿はまるで……。
「ゾ、ゾンビ!?」
ゾンビ達に応戦しながらグリムが叫んだ。
「あ、あの! 噛まれたら感染とかしないですよねぇ!?」
「ふふ、君のゾンビ像は現代的だね。いいかい、感染するゾンビというのはッ! 20世紀の終わり頃に生まれたもので! 所謂殖えるゾンビは吸血鬼の血を吸って仲間を増やす特性を取り入れたものであってだねぇ!」
槍でゾンビ怪人達を薙ぎ払いながら射澄はゾンビについて説明していく。
そんなものは関係ないとアイズは空へと舞い上がり、ゾンビの群れから脱出。ツルギサバイブは謎のライダーとの戦闘にかかりきりで話を聞いていない。
射澄の講義を聞くのは美也だけになっていた。
「射澄さんそういう映画とか見るんですか!?」
「小説原作のものには目を通すようにしているよッ!」
ゾンビは次々と現れ、数が減る様子はない。
また、斬撃や刺突などは効果が薄いようでダメージに繋がらない。
それがゾンビの強みだ。
グリムはそれにかなり苦戦させられるが、ヴァールは着実にゾンビを倒せているようでこれは一体どういうことかと頭を傾げた。
「お団子君、頭だ。頭を狙いたまえ。まあ、生き物とかなんでもそうだが頭が弱点だよ」
「あ、頭!? え、ちょっと! 私やっぱりこういう系苦手なんですけど!? 頭とかほんとスプラッタぁ!!!」
トンチキな叫びをあげながらゾンビの頭を切り裂くグリム。絶叫しながらゾンビを倒すグリムとそれを見て笑うヴァール。
そんな二人のやり取りを、アイズはやれやれと見ていた。
「まったく。死人なら火葬してやるのがこの国の礼儀よ。ゾンビとか本当に……嫌い」
矢を番え、地に向けて放つ。
ゾンビの群れの中央に着弾した矢から青い炎が広がり、ゾンビ達を焼き尽くしていく。
「美玲! 私達がいることを忘れてないかい!」
「そうですよ!? 私達まで焼くつもりだったんですか!?」
「二人なら大丈夫と思って射ったわ」
「絶対に嘘だからねあれは」
「容赦ないんだから……。でもこれでゾンビはいなくなった! 燐くん!」
三人がツルギサバイブの加勢に入る。
数の面では優勢。また、ツルギサバイブが剣の腕も勝っていたこともあり勝機はツルギ側にあった。
「ライダー……!」
「はあぁ……」
謎のライダーの剣の技術は高く、燐に近しいものがあるが仲間と共に戦う信頼、絆が更にツルギサバイブの剣を鋭くさせる。
「くっ……。足りない、か……」
「お前、何者だ」
「仮面ライダー……魔縁」
「魔縁……?」
魔縁と名乗った仮面ライダーはデッキからカードを抜くと、左手の手甲型召喚機にカードを装填。
【PORTAL VENT】
トリックベントの効果で魔縁の分身が三人生まれ、並び立つ。
そして、ポータルベント。このカードの効果は……。
「ふっ……」
「消えた!?」
「ここだ」
一瞬にしてその場から気配を消した魔縁は、次の瞬間グリムの眼前におり剣を振るう。
双剣で防御するグリムであったが魔縁の剣に双剣は絡め取られ宙を舞った。そして、魔縁の剣がグリムに迫る。
心臓を狙った刺突。
グリムは咄嗟に、右腕を胸の前に出し防御するが魔縁の剣の切れ味は鋭く、グリムの装甲を破って右腕に突き刺さった。
「あぁッ!?」
魔剣は美也の血を吸い取る。
鍔の瞳が喜んでいるかのように怪しい光を放つ。
「美也さん!」
「お団子君!」
ツルギサバイブとヴァールが魔縁へと迫る。
魔縁は剣をグリムの右腕から抜いて応戦。
ヴァールの槍を弾いて、ツルギサバイブと剣戟に興じる。
「影守、しっかり」
「はい……。なん、とか……っう……!」
「射澄! 影守を連れてミラーワールドから出て! そいつは私と燐で応戦するから射澄は手当を! 出来るでしょ!」
「っ……分かった!」
ヴァールは前線から退き、グリムの肩を担いで近くのビルのウィンドウからミラーワールドを出た。
残るツルギサバイブとアイズは魔縁との戦闘を継続する。
「斬る、ライダーは斬る!」
「ッ! こいつ……!」
魔縁と剣を交わす燐はあることに気付いた。
さっきよりも、剣のキレが上がっていることに。
スピード、パワー、技。
全てが向上しているようだと。
ただ、それが一体何故か分からない。
「……射つ」
剣戟する二人に向けて弓を構えるアイズ。
燐に当てるつもりはない。絶対に当てるのは魔縁。そしてそれが自分には出来るとアイズは矢を放つ。
だが、矢は空を裂いて飛んでいった。
「なっ……!?」
これには普段冷静な美玲も驚いた。
絶対に当たる射であったというのに。
そして、消えた魔縁は何処に。
「斬る」
「ッ!?」
魔縁は、アイズの背後にいた。
剣を振り上げ、アイズを切り裂かんと。
「させないッ!」
突風の如きツルギサバイブがアイズの目の前に現れ、魔縁の斬をギリギリで受け止める。
そして、魔縁の腹を蹴り飛ばそうとしたツルギサバイブであったがその足もまた空を蹴った。
10mほど離れた位置に現れた魔縁は二人を嘲笑う。
「斬る、斬る、斬るぞ」
「こいつ、強い……」
「本当に、なんなの……ッ! 燐、時間が……」
アイズの身体が徐々に粒子化していた。
少し遅れてツルギサバイブの身体からも同じように粒子が飛び始める。
これは、ミラーワールドに存在出来る時間、タイムリミットを表している。
もし、タイムリミットを過ぎてしまえばミラーワールドで消滅してしまうことになる。
「逃がさない……!」
「くっ……!」
そんな状態の二人を逃がす手はないと魔縁の攻めは更に苛烈になる。
瞬間移動を乱発し、二人の思考をかき乱す。
二人は背を合わせ、全方位を警戒する。
どこからともなく現れる魔縁に対して有効な策はこれしかなかった。
「どうしたら……!」
「……美玲先輩。僕に考えがあります」
「……なに?」
「足元に、矢を射ってください」
「……私と心中するつもり?」
「まさか。絶対に、美玲先輩と生き延びます。そのための炎です」
「……分かったわ」
美玲は覚悟を決め、矢を番える。
そして、放たれる。
二人の足元に突き刺さった矢から青い炎が噴き上がる。
炎は二人を包むが、同時に魔縁を怯ませていた。
「なに!?」
魔縁は二人に近付くことが出来ない。
怯んだ隙に、足元を燃やす青い炎をスラッシュバイザーツバイの風に乗せて構えるツルギサバイブ。
「ぜあぁぁぁぁ!!!!!!」
裂帛の気合いと共に放たれる風と炎を纏いし斬撃波を魔縁は剣で受け止める。
爆発に包まれ、黒い爆煙に飲まれる魔縁は空かさず爆煙を切り裂きツルギサバイブ達を警戒する。しかし、そこにはもうツルギサバイブとアイズの姿はなかった。
ミラーワールドから脱出していたのだった。
魔縁は一人、怒りに叫ぶと周囲のものを切り裂き、ポータルベントの効果でその場から消え去ったのであった。
現実世界では、射澄が美也の応急手当を終えていた。
また、鏡の中からアリスが美也の傷を回復させている。しかし、アリスの表情は厳しいものであった。
「美也さん! 大丈夫?」
「燐くん……。美玲さんも、無事で良かった……」
「自分の心配をしなさい。で、アリスどうなの?」
『……妙に、治りが遅いです。傷口こそ塞ぎましたが、完治とは言えません。痛みは残るでしょう。この私の力で治りにくいなんて……』
アリスの力をもってして厳しいとは、一体どういうことかと全員驚愕する。
だが、燐はもしかしたらと思い当たる可能性を口にした。
「……あの剣の仕業、かも」
「剣?」
「はい……。あの剣、普通じゃないっていうか、ライダーの武器じゃないっていうか……。ねえ、アリス?」
『そうですね。あの剣はライダーシステムによるものではありません。そして、魔縁というライダーはそもそも存在しません』
「どういうこと?」
『あのライダー。もとは仮面ライダー縁というライダーです。それが何者かの手により、魔縁に変えられてしまったのかと……』
何者か。
ライダーの在り方を変えてしまう敵。そんなことが出来る存在は限られてくる。
アリスもその一人と言えばそうだ。
ライダーバトルの管理運営を行っている存在。ライダーをどうにかすることなど容易いだろう。だがこのアリスの状況を見るにその可能性はない。
魔人教団という可能性。
現状、この世界を脅かす強大な敵。
ライダーの戦力を減らすための作戦かもしれない。
『……魔縁の気配を辿りましたが、どうやらこの世界からはいなくなってしまったようです』
「世界を移動した……。まさか……!」
『ええ……。また、あの世界です』
あの世界。
燐が転移し、他の世界のライダーと共に戦った仮面ライダーが虚構である世界。
そして、謎の存在ヴァンダル・リーグなるものが世界の裏側で暗躍している。
魔縁がその世界に移動したとなれば……。
「……行くよ、アリス」
『そう言うと思いました。止めても行くんですよね』
「もちろん」
『……今回は、私達の世界も関係していることなので止めません。行きましょうか、燐くん』
あの世界へと、燐はデッキを手にしてアリスと共に行かんとする。
だが、その背を美玲が呼び止めた。
「待ちなさい」
「美玲先輩?」
「私も行くわ」
「えっ」
「あなただけ行かせたら、また死んだりとかタイムスリップとかするかもしれないでしょう。アリスも当てにならないし」
「うっ」
『うっ』
燐とアリスに美玲の言葉が突き刺さった。
前回、燐があの世界で戦った際に一度死んでしまうという窮地に陥った。
また、仮面ライダーマイヤ達と出会った世界では千年前にタイムスリップもした。
紆余曲折あり燐はこうして生きてはいるし無事に元の時代、元の世界に帰ってはこられたのだが、美玲からしたら気が気でない。
「射澄、こっちをよろしく」
「分かった。美玲も気を付けて」
「ええ」
「すいません燐くん、美玲さん……。私の分もお願いします」
「分かった。美也さんは怪我を治すことに専念して」
それじゃあ行ってくると燐と美玲は変身しミラーワールドへ。
そして、アリスの導きで世界を越える────。