仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変   作:大ちゃんネオ

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魔剣-第三頁 銀鏡の御剣(ツルギ)

「素晴らしいな。あの恩讐が魔剣の力を引き出している、妾の想定すら凌駕した力を」

 

 仄暗い、全身が震え上がるほどの冷気とむせ返るような死臭の漂う空間の中。

 一人の女が、水晶玉を眺めながらそう呟いていた。

 そこに映し出されているのは、禍々しい色彩を放つ仮面の戦士の姿。片手に剣を持ち、人を襲う凶気の存在、仮面ライダー魔縁である。

 血と屍の腐臭が立ち込める場にいても、その女は眉ひとつさえ動かさずに微笑む。

 薄く透き通る紫色の生地の胸が大きく開いたドレスを素肌の上から纏い、毛先が渦巻くようにカールを描く栗色の髪が特徴的だ。

 顔立ちも体型も整っていて美麗な淑女のようであるが、しかし左頬から下にある半身は、死体のように蒼褪めていた。

 

「現状……作戦は順調のようね……冥界の女神様」

 

 不意に声がかかって、女神と呼ばれたはゆるりと振り向く。

 そこにいたのは、艶のある黒い長髪と白い肌が際立つ麗しい女。日本の白い着物を着用し、こちらも悪臭と冷たい空気をものともせず佇んでいた。

 

「────カンナか」

 

 名を口にされ、その着物の女はゆっくりと歩み寄って行く。

 

「ヴァンダル・リーグからの支援、感謝する。貴女のお陰で妾の領民は増え続けているからな」

「それは……何よりだわ。祝杯でも如何かしら」

 

 カンナは半分蒼褪めた肌の女神にそう語りかけるが、しかしその女は首を横に振った。

 

「まだだ。妾はまだ満足していないぞ」

「……というと?」

「これを見て欲しい」

 

 女神が指を弾くと、水晶玉に映る景色が変化する。

 新たに映し出されたのは、右目が長い前髪で隠れている、美しい顔立ちの少年。仮面ライダームラサメ、行雲 紫乃だった。

 

「この子は……?」

「妾の世界で見つけた少年だ。美しいだろう? 死体にして傍に侍らせたい」

 

 うっとりとした笑みを浮かべながら、女神は言う。

 さらに彼女は続けて、指を弾いて映像を切り替えた。

 

「もうひとり気になる人間がいる」

 

 次に水晶玉が見せた少年の姿を目にすると、カンナはハッと息を呑む。

 白き刃龍と共にある剣士、仮面ライダーツルギ。

 

「御剣……燐……!」

「知っているのか」

「……彼を、あなたの領民にするのなら……もう少し……力を貸しても良いわ」

「ほう?」

 

 目を細めて、女神はカンナの言葉の真意を探ろうとする。

 すると、カンナは着物の袖を唇に持っていきながら、冷たい瞳に僅かばかりの執着めいた光を見せていた。

 

「少しだけ……あの仮面ライダーには因縁が、あるの」

「ふむ」

 

 再び思索に耽った後、女神は水晶玉の映像を完全に消す。

 

「では、ありがたく力を借り受けるとしようか。一体何をしてくれる?」

 

 その言葉と同時に、女神とカンナの背後で、床に散らばっていた人や動物の骨が集合して組み合わさって椅子の形になる。

 ここからはビジネスの時間だ。女神とカンナは微笑みながら、作戦を組み立てるのであった。

 

 

 

 

「で、彼の者との因縁とはなんだ?」

 

 作戦立案を終えた女神は、どこか愉快そうな顔をしてカンナに訊ねた。

 

「愛しあってでもいたか?」

「……最悪な、冗談を……」

「だろうな。大方、計画を邪魔されたのであろう?」

 

 女神の言葉に、カンナは黙って頷いた。

 機械的な動きで、表情をピクリとも変えないカンナではあったが、その黒く冷たい瞳の奥に御剣燐/仮面ライダーツルギへの怨念が宿っているのを女神は見逃さなかった。

 

「……この世界に、ガイアメモリという他世界の技術を持ち込んだの……」

「ほう?」

「この世界でもガイアメモリを流通させ、効果を観測すること……。そして、仮面ライダーツルギの抹殺が私の使命だった……」

 

 それも、失敗に終わったのだなと女神は水晶玉に御剣燐を映し出す。

 今も変わらずに生きている様子を。

 

「……誤算が二つ。ガイアメモリを持ち込んだ影響か、カウンターとしてこの世界はガイアメモリを扱うライダー、仮面ライダーシェリフを招いたこと……」

「敵が増えたというわけか。で、もう一つは?」

「……シェリフは私の能力でこちらに引き込み、ツルギと同士討ちをさせることを計画した……。シェリフが生き残っても、傀儡となったシェリフを恐れる必要もなく……。完璧な、計画だった……。ツルギを殺すことには成功したの……。けれど……」

 

 続くカンナの言葉に女神は目を見開いた。

 この女神にとって、その事象があまりにも興味深かったためである。

 

「ツルギは……蘇った……」

「────!」

「どんな力を使ったか分からない……。確実に、彼は死んだはずなのに……」

 

 腹を貫かれて、自身の血溜まりに確かに沈んだのだ。

 それが、再び自分の前に現れたのだとカンナは語る。

 新たな力までも得て、撤退を余儀なくされてしまったと。

 

「なるほど。ゆえに、妾を利用しようというわけだ。その戦いでついた傷がまだ癒えていないから、自分は裏に回る。そんなところだろう?」

 

 女神の言葉は、正解であった。

 だが、言い当てられたからといってカンナに焦りが生ずるわけでもない。

 

「……契約には、そちらも合意のはず」

「分かっている。責めているのではない。……だが、ますます気になる。いや、気に入ったと言おうか。死してもなお、剣を執り戦場へと舞い戻るため蘇るとは面白い。────妾の冥界に、閉じ込めてみせよう」

 

 御剣燐を映し出す水晶に蒼褪めた指を這わせる女神を、カンナはただ黙って眺めていた。

 何も思っていないかのような佇まいであるが、その内に潜ませた心には御剣燐への殺意が煮え滾っている。

 

「魔縁を使い、ツルギと妾の世界の少年を侍らせた後はどうしようか。カンナよ、ヴァンダル・リーグは数多の並行世界を観測しているのだろう? あまねく並行世界の者達も、妾の領民にしてやりたいのだが、それはそちらの意に反するか?」

「……問題ないわ」

「そうか、それはよかった。久しく、胸が高鳴っているぞ。妾の領土が広がる。それはもうかつてとは比べ物にならぬほどにな!」

 

 女神の高らかな笑いが響き渡る。

 己が夢、野望が再び動き出すのだと。これほど嬉しいことはないと。

 

「……そのためにも、計画の障害となる仮面ライダーを排除しなければ……」

「そうだな、ではツルギのことをより詳しく教えよ。一度、交えた相手なのだから、感想ぐらいあるだろう?」

 

 どこか、カンナをからかうような笑みを見せながら女神は訊ねた。

 

「……その名の通りよ。彼は、剣……。剣のみで数多の戦いを駆け抜けた生粋の剣士……」

 

 カンナの脳裏に浮かぶ、戦場を切り裂く白き剣。

 遠距離からの攻撃であれば一方的になるだろうと作戦を立てたが、それすらも切り裂かれてしまった。

 並大抵では折ることは出来ない存在と、カンナは認識している。

 

「これに、サバイブという力が加わってしまった……。あれは、嵐……。戦う、嵐……」

「ほう……」

「けれど、貴女の力があればそれも……」

「恐るるに足りず、か……。では、ムラサメはどうだ。観測していたのであろう?」

 

 女神がいた世界のライダー、ムラサメ。

 こちらはまだこの世界、ヴァンダル・リーグと相見えたことはない。

 だが、ヴァンダル・リーグの目は様々な世界を見つめている。

 それは、ムラサメの世界とて例外ではなかった。

 先の計画立案の中で大まかなムラサメのスペックは掲示したカンナではあったが、女神はもっと深いところを探っていた。

 

「もう一人の白き剣士……。似姿ではあるけれど、ムラサメはモンストリキッドによって能力、属性を変化させることが出来る……。状況に応じて……」

「それはさっきも聞いた。だが、面白いな。片や剣のみ、片や状況に合わせて能力を変える。良い良い。折角、侍らせるのだ。タイプが違う方が良い」

 

 美という点でいえばムラサメ、行雲紫乃の顔は好みのど真ん中である。

 しかしツルギ、御剣燐には何か惹かれるものがある。

 そんな女神の与太をカンナは黙って聞き流していた。

 

「仮面ライダームラサメ……。行雲紫乃は発展途上のよう……」

「美少年の青い果実は大好物だが?」

「……熟す前に、刈り取るのが良いかと……」 

「無論、そのつもりだ。……御剣燐は、発展途上ではないとするか?」

「……分からない」

「そうか。なんにせよ、早く味わいたいものだ……」

 

 水晶玉に再び行雲紫乃と御剣燐を映し出した女神は、わざとらしく音を立てながら水晶玉に口付けをする。

 蒼く冷めた肉体でも、その心には熱い情熱が宿っている。

 自身の欲望に忠実に、己の世界を広げようという野心。

 強大な敵が、二人の仮面ライダーに牙を剥く。

 蒼く、冷たく、おぞましく。

 冥府からの魔の手が、迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺物を本部へ輸送するための貨物船が襲撃され、さらにそれを奪った犯人の追跡に動いていた紫乃とロゼ。

 犯人が通っていったと思われる空間の裂け目を見つけると、二人はそこに飛び込んで行った。

 だが、その先にあった光景を目にすると、紫乃は困惑する事になる。

 

「……これは、どういうことだ?」

 

 紫乃もロゼも、裂け目の先は現代とはかけ離れた神の住む領域であると考えていた。

 問題はその戯我がどこの神話に属する者なのか、という点で、紫乃たちは場所次第でそれぞれ対策を取るつもりだったのだが。

 目の前に広がっているのは、自分たちが元いた世界とほとんど変わらない、現代日本の建築物や道路だった。

 強いて違う点があるとすれば、それは少し『古い』か『違う』という点だけ。

 使われている携帯端末や機械類は何世代も前のものに見えるし、逆に今まで見たことも聞いたこともないメーカーの車やバイクが走っている。

 

「何なのかしら、ここ? こんなに現代的な神界なんてあり得ない……」

「別の都道府県に転移した、という事でもなさそうだ。一体どうなっているんだ? そもそもここは本当に日本なのか?」

 

 両者は視線を交わし、頷き合う。

 そして、情報を集めるべく探索を始めた。

 街を歩き回り、この場所の年代について調べたり、言語や通貨が使えるかどうかの確認。さらに地名・地理の把握も。

 それらを一通り終えると、ロゼは近場にあったベンチに腰掛け、紫乃はその正面で腕を組んで唸る。

 

「……結論が出てしまったようだ」

「うん……」

 

 深刻な面持ちで、紫乃が言う。ロゼも深い溜め息と共に、空を見上げた。

 

「オレたちは今、異界にいる。それも、オレたちの知る日本と近似した世界に……!!」

 

 場所こそ彼らも知っている東京で同じような風景に見えるが、決定的なのは年代だ。

 この世界は2020年、しかし紫乃たちの世界も2022年。そうでありながら、科学技術に大きな差がある。過去だとかではなく、明確に別の世界としか考えられない。

 自分たちを知る者は一人もおらず、LOTによる支援も期待できない。本来住んでいる場所に似ていながら、二人は孤立無援の状況に立たされていた。

「どうするの? この展開は流石に私も想像してなかったのだけど」

「それはオレもだ、しかもこの世界は現状で戯我も見られないし平和そのものに見える。奪われた遺物の行方が気がかりだが、帰還もできないからな」

「そうね……調査できそうな場所は一通り回ったし、ひとまず落ち着ける場所でも探してみる?」

 

 ロゼの言葉を聞いて、紫乃は口を噤んで考え込む。

 実際、今の二人には体を休める拠点、寝床すらない。ならば一度気分を紛らわせるために、英気を養うのは悪くないアイデアだろう。紫乃はそう考え、ロゼに向かって首肯する。

 

「分かった、そうしよう。ここで考えていても始まらないからな」

「え、えぇ! ふふ、どこに行きましょうか!」

「甘いものを探しに行こう」

「言うと思った」

 

 くすくすと笑い、今にも鼻歌でも口ずさまんばかりに上機嫌となったロゼは、彼の腕に抱きついて微笑む。

 紫乃は照れて頬を染めながらも、その身体を引き寄せて並んで歩き始める。

 

「甘いものといえば、さっきアイスクリームのお店があった気がするわ」

「ほう。じゃあそこへ行ってみよう」

 

 意気揚々と二人が向かった先にあるものは、いわゆるロールアイスの店だ。

 牛乳とクリームを混ぜたものを、-30度の鉄板の上で薄く引き伸ばした後にロール状に巻いて作るというもの。

 その上にさらにトッピングとしてホイップクリームに果物や菓子などを盛り付けるという、見栄えも味も良好なアイスである。

 紫乃はチョコアイスにバナナのトッピング、ロゼはストロベリーアイスとブルーベリーで、それぞれホイップクリームにチョコソースやイチゴソースがかかっているものを注文した。

 

「これはなかなか美味そうだ」

「そうね! じゃあ、頂きます」

 

 店内の椅子に座った二人は、カップに入ったそのアイスをプラスチックのスプーンでつつき、掬って味わう。

 甘い味が口内いっぱいに広がって、紫乃もロゼも自然と口角が上がり、じっくりと舌鼓を打った。

 そうして半分ほど食べた後、ロゼが声をかける。

 

「ねぇ紫乃くん、そっちも食べて良いかしら?」

「いいぞ。オレも貰うが」

 

 互いに了承を得ると、相手のアイスにスプーンをつけて味見を始めた。

 

「ふむ、やはりベリー系のアイスも良いな。この甘味と酸味の組み合わせがクセになる」

「うんうん、チョコバナナも美味しい! また来る機会があったら、別の味も試してみない?」

「賛成だ」

 

 快く紫乃が返答し、再びアイスを口に含む。

 傍目から見れば彼らは普通の仲の良いカップルで、とても異世界から来たようには見えないだろう。それほど自然に周囲に溶け込んでいる。

 そうして食べ終わった頃。絹を裂くような悲鳴が耳に入り、続いて破壊音が響き渡った。

 この平和な世界で、恐らく戦闘が行われている。

 原因に心当たりのある二人は、すぐさま飛び出した。

 

「こ、これは……!」

 

 現場に辿り着くと、平和だった光景が嘘のように、この世界にとって非現実的な惨状が広がっていた。

 ゾンビめいた姿の怪物が人々を襲い、その生命を脅かそうとしているのだ。そしてそのゾンビは、紫乃たちの世界にも出現した戯我である。

 

「やはりここにいるようだな、遺物を盗んだ犯人が!」

「でもまずは探す前に、この状況をどうにかしましょう!」

「分かっている!」

 

 そうと決まれば、二人の動きは早かった。

 

《サンダー!》

《ハウンド!》

《フラッシュ!》

《ケンタウレス!》

 

 レリックライザーをホルダーにセット、そして二色のモンストリキッドを取り出し、起動。

 さらにリキッドを装填し、そのまま二人同時にトリガーを引いた。

 

『変身!』

《天を裂く紫電の咆哮! サンダーハウンド!》

《輝き貫く瞬速の騎士! フラッシュケンタウレス!》

 

 紫乃は仮面ライダームラサメに、ロゼは仮面ライダーブリューナクへと変身を遂げ、それぞれ刀と槍を手にゾンビたちへと立ち向かう。

 

《サンダー! Calling(コーリング)!》

「急々如律令!」

 

 先手必勝とばかりに、まずはムラサメがドライバーを操作し、掌から雷を放つ。

 雷撃は迫り来るゾンビの群れの頭を焼いて破裂せしめ、消滅に追いやった。

 しかし動かなくなったのは前列にいる者たちのみ。その後方には、まだまだ数多の戯我がいる。

 そこで、ブリューナクが動いた。

 

《ケンタウレス! Calling(コーリング)!》

神器解放(レリクス・ドライブ)!」

 

 下半身が騎馬のものとなり、ブリューナクはムラサメを乗せて疾走。

 槍と銃撃によるコンビネーション攻撃で、ゾンビたちを次々に消し飛ばしていく。

 海に現れた時と同じで、敵の戦闘能力は大した事がないので幸いにも倒すのには然程苦労せず、確実に周囲のゾンビは数を減らしている。

 しかしあまりにも数が多く、対処し切れていない。その上ゾンビたちは、逃げながらも何の力も持たない民衆にさえ襲いかかっていた。

 

「マズいな……異世界だからといって形振り構わないつもりか」

「一旦二手に分かれましょう! この数ならすぐに殲滅し切れるはずだから!」

「その通りだな、よし。そっちは任せたぞ!」

「ええ!」ロゼはそう返事をして、自らの手に形状の異なるリキッドを握る。上下で二色に分かれており、それぞれローズレッド、ローズパープルとなっている。

 そしてそれを、先の二つの代わりに改めて装填した。端子を差し込んでいるのは、紫の方だ。

 

Turning Color(ターニング・カラー)! BRIGHT GRADATION(ブライト・グラデーション)!》

「カラーシフト!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 音声が流れると同時にブリューナクが跳躍すると、その姿が繭のように蔦に包み込まれ、紫の薔薇が開花する。

 

《輝け! 華麗なる紫薔薇の竜乙女! ブリリアントヴィーヴル!》

「ヤァッ!!」

 

 蔦の繭が破れた瞬間、竜の甲殻に似た装甲を持つブリューナクが、皮膜の翼を拡げて現れる。

 そして武器をライフルモードに変形させ、全身から宝石弾を放ってゾンビの頭を貫いた。

 

「よし、一気に……!?」

 

 残るゾンビを一掃するべく、低空飛行でさらに宝石射出を続けようとした、その時。

 視線の先の道路から、巨大な青ざめた腕が生えるように伸び出て、その野太い剛腕で歩道橋を掴んで捩じ切った。

 驚きのあまり、ブリューナクは慌てて停止する。

 

「何事!?」

 

 当然腕だけの怪物が彼女の疑問に答えるはずもなく、歩道橋を棍棒のように振り回し、攻撃を仕掛けて来た。

 回避すると道路が割れ、その地面の中へ腕が自身の体液を流し込んでいく。

 

「こ、この腕は、まさか!」

 

 目を凝らして見ると、道路から生えたように見える腕はゾンビが集合して半分インクと化す事によって形成されたものであった。

 巨大腕のスピード自体は然程のものではないので、飛翔しているブリューナクならば回避は容易い。

 しかしゾンビたちの方もそれを承知で、建造物を攻撃する事で飛礫を飛ばすといった搦手で攻めて来る。

 

「く!?」

 

 ブリリアントジェムを放っても、飛礫で軌道を逸らされたり歩道橋による一撃で防がれてしまう。

 さらに砕いた地面の中に溜まったインクからは、ゾンビの兵が新たに這い出てブリューナクの方に向かって来た。

 路面に作った亀裂にインクを流す事で『巣』を作り、そこから同じ戯我を生み出す事で、ゆっくりとだが確実に新たなゾンビを増殖させているのだ。

 

「このままじゃまずい……!」圧倒的に手数が足りない。このままでは、自分だけではあの巨腕を破壊できない。

 そう思っていると、背後から突然にバイクのエンジン音が聞こえ、まるで矢のように閃光が迸って巨大なゾンビの腕を吹き飛ばした。

 さらにそれによって鈍器に使われていた歩道橋がインク溜まりに落ち、巣は破損して使い物にならなくなった。

 

「紫乃くん!?」

 

 まさかもう終わらせて駆けつけたのかと、振り返って声を上げた。

 だが彼女の想像とは裏腹に、そこに現れたのは全く見た事もないマシンだ。

 というよりも、背後にあったのはガラス張りのビルで、そのバイクは明らかに()()()から出て来たように見える。

 

「え……誰!?」

 

 座席が黒いガラスに覆われた、曲面を描く銀色のバイク。

 そのガラス部、フードがゆっくりと開いていき、中から姿を現したのは────。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 一方。ムラサメの方も、ゾンビの戯我を相手に少々手こずっていた。

 

「こいつら、数が多いのはともかく……しつこい!」

 

 どこからか限りなく湧いて出てくるゾンビに悪態をつき、首が裂けて落ちた者の頭を踏み潰しながら、ムラサメはドライバーを操作する。

 

《サンダー!》

「急々如律令!」

Calling(コーリング)!》

 

 雷撃が数多のゾンビの身を焼き、黒焦げにする。しかしそれでも、数は増え続けていた。

 一人では倒し切れない。今回のケースなら恐らく近くに発生源となる巣があるので、それを処理しつつ残ったゾンビを倒さなければ終わらない。

 

「せめて巣さえ見つける事ができれば……」

 

 しかし巣を叩くには目の前のゾンビたちを対処しなければならず、この場を離れてしまうと今度は住民に被害が出る。まさに八方塞がりだった。

 戦いながらムラサメが必死に打開策を考えていた、その時。

 突如として、彼の斜向かいに建っているビルの鏡面から、白い『何か』が飛び出して来た。

 

「なんだ!?」

 

 現れたのは、真っ白なカウルが特徴的なオンロードバイクだ。

 その上に跨っている者もまた白い装甲を纏い、ムラサメの前にいたゾンビを轢き潰す。

 そして、視線が合った。腰に差した剣、三本角の龍の紋章が描かれたバックル。顔を覆う白い仮面と、刀身のような鋭い緑の瞳。

 

「仮面ライダー、なのか……?」

 

 ムラサメの呟きが、ゾンビの蔓延る道路で静かに消えた。

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