仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変   作:大ちゃんネオ

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魔剣ー第五頁 安息は喫茶店で

 オフィス街から離れ、住宅街へ。

 今時は数少ないレトロな喫茶店に燐が入っていくのを見て、紫乃達は首を傾げた。

 紫乃は店先の看板を見つけ、店名を読み上げる。

 

「喫茶Hameln……」

「普通の喫茶店、よね?」

「ああ。だがLOT(俺達)のように秘匿している組織があるのかもしれない」

 

 紫乃とロゼが言葉を交わすと、燐が中から扉を開けて入っても大丈夫と三人に告げる。

 紫乃とロゼは鬼が出るか蛇が出るかといった、少し緊張した面持ち。美玲はいつも通りのポーカーフェイスを崩さない。

 そうして、三人を出迎えたのは……。

 

「仮面ライダーだぁぁぁ!!!!」

 

 その声に、紫乃とロゼの目が丸くなった。

 至って普通の小学生男児の出迎えを、二人はまったく予想していなかったのだ。

 

「こちら藤堂章太郎くん。この世界の、仮面ライダーの協力者」

 

 章太郎の両肩に手を乗せて、紫乃達に紹介する燐。まだ色々と飲み込むことが出来ず、紫乃とロゼは言葉を発することが出来なかった。

 

「とりあえずこっちの席に」

 

 燐は慣れたように三人を店の奥のボックス席へ。奥の壁には大きな鏡があり、その手前の席に紫乃、ロゼ。燐、美玲と並んで向かい合い座る。

 章太郎がカウンターから椅子を持ってきて、通路に置いて座り、興奮隠しきれぬといった様子で初めてやってきた三人を見つめていた。

 

「それじゃあ改めまして、僕は御剣燐。仮面ライダーツルギやってます。こことは違う世界から来てます。よろしくお願いします」

 

 ニコリと人当たりのよい笑顔で、紫乃とロゼに頭を下げる燐。しかし、それよりもまず気になることが紫乃達にはあった。

 

「あ、ああ……。その前に、一ついいか?」

「どうぞ」

「ここは、普通の喫茶店……なのか?」

 

 紫乃の質問に、燐は不思議そうな顔をした。章太郎も同じく。

 そこへお冷やを五つ、お盆で運んできた中年の男性がやって来た。紫乃の質問は彼にも聞こえていたようで、お冷やを並べながら紫乃の疑問に答えた。

 

「うちの店を普通の喫茶店かどうかを聞くなんて、君が初めてだよ」

「はあ……」

「あ、こちらここのマスターの藤堂権兵衛さん」   

 

 燐がそう紹介すると、紫乃達は古めかしい名前だなとまず思った。

 

「普通の喫茶店、喫茶Hamelnをどうぞよろしく」

「あ、ああ……」

「えっと、何か世界のために秘密裏に戦う組織というわけでも……?」

 

 ロゼの質問に、男は思わず笑ってしまった。

 

「ははは! お嬢さん達にはうちが世界を守る正義の組織の秘密基地に見えるってわけかい。残念ながら、うちは正真正銘純喫茶」

「え、えぇ……」

 

 権兵衛の返答に困惑した様子の紫乃とロゼに、ここまで口数少なくいた美玲が逆に問い掛けた。

 

「……何か、組織だっていないと不都合なことでもあるの」

「不都合、というか……。不自然というか……」

「……あなた達は、組織に所属しているということ?」

「ああ。俺達はLibrary Of Thoth(ライブラリィ・オブ・トート)、通称LOTに所属している封魔司書だ」

「ちょっと紫乃くん……」

「構わない。別世界でまだ右も左も分からない状況だ。そこに利害が一致している、協力関係を結べるだろう相手がいるんだ。明かしても問題ないだろう。そうだな、御剣」

 

 紫乃の涼やかで、鋭い瞳が燐に向けられる。

 人によっては震え上がってもしまいそうな視線だが、燐は笑顔で返答した。

 

「もちろん。信頼してくれてありがとう紫乃くん。あ、あと御剣じゃなくて燐でいいよ。名字で呼ばれるの、なんか固い感じするから」

「分かった。こちらこそよろしく頼む、燐」 

「私もよろしくね、燐くん! あと、美玲さんも……」

「……そうね、よろしく」

 

 

 

 

 

 会話を重ねていると、だんだんと各々の役割というものが出来てくる。

 人当たりが良く、この世界についても慣れている燐が司会進行し、コミュニケーション能力の高いロゼが話を膨らませ、紫乃に振る。相変わらず口数の少ない美玲だが、時折核心をついたことを言っては話を一気に進ませる。

 

「まさか、仮面ライダーがテレビ番組の世界とは……」

「そ、それじゃあ仮面ライダーブリューナクってタイトルで私が主役になってたり……!?」

「なってないよ」

 

 章太郎の素早い否定に、ロゼは少ししゅんとした。

 

「はは……。とりあえず、この世界はこんな感じで、僕と美玲先輩の来た世界とはほとんど違いはないかな」

「なるほど……。オレ達は2022年から来たが、科学技術に関してはこちらの世界の方が進んでいるようだ」

 

 紫乃はNフォンを見せると燐と章太郎は興味津々に見つめた。

 

「それより、今は解決すべき案件があるでしょう」

「そうでした……。とりあえず、互いの置かれてる状況とか情報共有しましょう」 

「ああ。それではオレ達の方から話そう」

 

 

 

 

 

 

「回収した遺物を紫乃くん達の組織の本部に送ろうとしたら、何者かに襲撃されて……。そいつを追ってこの世界へ二人が……」

 

 燐が紫乃とロゼの境遇を理解するため、復唱する。

 紫乃達が所属している組織のことなど情報が多かったため、しっかりと覚えるためにそうしていた。

 

「紫乃兄ちゃん達の組織って、猛士みたいな?」

「章太郎! 今、燐くん達は大事な話をしてるんだから邪魔しちゃいかん。それよりこっち手伝ってくれ」

「えー」

「また後で話してあげるからさ」

「……はーい」

 

 燐に言われ、しぶしぶといった様子で章太郎は席を離れて店の奥へ。

 四人だけとなってから、美玲が会話を再開させた。

 

「で、犯人の目星は?」

「まだ分かりません……。ただ、異なる世界へ渡ることが出来るほどの戯我となれば神やそれに類するものではないかと」

「神、ね……」

 

 流石の美玲も、ポーカーフェイスを崩して苦い顔を浮かべた。

 紫乃やロゼ達が当たり前のように神だとか神話、伝説を本当の事として話すのでカルチャーショックを受けているのだ。

 スケールが大きい話だとも感じていた。

 

「私達の目的は奪われた遺物の奪還、あるいは破壊。そして、今回の事件の終息です。ですが、並行世界まで関わってくるような話だとは……」

「……ところでさ」

「なにかしら?」

「その、奪われた遺物って何なの?」

 

 遺物、遺物とばかり言うので肝心の物がどんな物か、燐と美玲には想像がついていなかった。

 ロゼは紫乃と顔を見合せ、紫乃が頷いたのを見てから遺物について二人に明かした。

 

「奪われた遺物は────魔剣ダインスレイヴ」 

「名前は聞いたことはあるか?」

「えっと、ゲームとかで……」

「私はそういうの、全然だから」

「二人とも情報なしと。じゃあ、私が説明するわね」

 

 魔剣ダインスレイヴ。

 北欧の伝承に登場する、ダインという名のドワーフが打ち、デンマーク王ヘグニが所有していたとされる魔剣。

 一度鞘から抜けば生き血を飲み干さなければ鞘には戻らないと言われている。

 生き血とは言われているが、紫乃達の世界では同時に色も吸っているようだ。

 

 説明を聞き終えた燐と美玲の脳裏には、先刻戦った謎の仮面ライダーの存在が同時に浮かび上がっていた。

 

「その剣、僕達の世界に持ち込まれたのかもしれない」

「なに?」

「今回、僕達がこの世界に来た理由にも繋がるんだけど……。モンスターと戦い終わったら魔縁って仮面ライダーが現れて、そいつが持ってた剣が僕達の世界の物じゃないみたいなんだ」

「魔縁を追って、私達はこっちに来たわけだけど……。あの剣、あなた達の世界の物である可能性が高いわね」

「だとしてどうして、そちらの世界にダインスレイヴが……」 

 

 ロゼの疑問は尤もだ。

 ダインスレイヴ強奪の犯人を追って紫乃とロゼはこの世界に来たが、何故ダインスレイブは燐達の世界にあるのか。

 

「……魔縁と遭遇する直前、妙なものを見たわね」

「妙なもの?」

「ああ……」

「一体、何を見たんだ」 

「ええっと、有り体に言うと……幽霊?」

 

 本来、人の存在することの出来ないミラーワールドで人間が集団で何処かへ向かって歩いていくのを目撃した。これがダインスレイヴ、魔縁と関係あることかどうか、燐は紫乃とロゼに訊ねた。

 

「ダインスレイヴに死者をどうこうする伝承はないわね……」

「……その現象はダインスレイヴではなく、ダインスレイヴを強奪した者と関係があるのかもしれない」

「どういうこと?」

「ダインスレイヴを強奪した者が燐達の世界に赴いて、魔縁というライダーを生むことだけを目的にしたとは考えにくい」

 

 黒幕は自身の計画に利用するために、魔縁を生み出したのではないか。

 紫乃はそう考察を述べる。同時にやはりこの疑問が全員の頭を悩ませた。

 それでは、真の目的は何なのか。

 

「目的が分かれば、犯人の正体にも繋がるはずだ」

「そうね……。何にせよ、魔縁がこの世界にいるんだからダインスレイヴを盗んだ奴もこの世界にいるはず!」

「そうですね。まずは手分けして皆で探しま……」 

 

 席から立ち上がった燐がそこまで言いかけて……突然、糸の切れた人形のように身体から力が抜けた。

 幸い、座っていたところに腰を下ろすことになったので倒れはしなかったが……。

 

「燐!?」

「どうした!」

「……すぅ……すぅ……」

「……寝てる? えっ、寝てる?」

 

 気絶したように見えた燐であったが、寝息を立てていた。

 

「……普段から、こうなのか?」

「いいえ。寝るのは好きみたいだけど、こんな突然なのは初めて……」

「連戦で疲れちゃったとか、実は結構ダメージを負ってたとかは……」

「それもない。連戦だって、そこまで……」

 

 燐を心配そうに見つめる美玲。美玲が言ったとおり、燐が会話の途中で突然眠り出すなんてことは初めてのことであった。

 ただ寝ているだけなら良いのかもしれないが、本当にただ寝ているだけとは限らないのだ。

 

「ん……。あれ、僕寝てました……?」

「燐……。具合悪いところとかない?」

「え……。ないですけど……。ええっと、ごめんなさい寝ちゃったみたいで。眠気とかなかったんですけど」

 

 あははと笑いながら燐は座り直して、どこまで話したっけと会話を続けようとしたが。

 

「燐兄ちゃん達の部屋準備出来たよ!」

 

 ドタドタと階段を降りてきた章太郎が得意気な笑みを浮かべて四人に伝えた。

 

「……燐、ひとまず休みなさい。あなた達も、違う世界で慣れないでしょうから少し休んだら」

「そうですね。紫乃くんも一休みにしましょう!」

「……そうだな」

 

 何故かやたらと嬉しそうなロゼを見て、疑問を感じた紫乃であったが、疲れが溜まっていたのだろうと結論付けた。

 

 

 

 

 

 章太郎の案内で二階へと上がった四人。部屋は二部屋用意されており、ロゼの胸は高鳴っていた。

 

「それじゃあ私達はこっちの部屋に……」

 

 そう言って紫乃の袖を引いたロゼ、であったが。

 

「あーちょっとちょっと」

「なにかしら?」

「お嬢さん方はこっちの部屋で、男衆はこっちの部屋だから」

 

 権兵衛が指差してそれぞれの部屋を指示をする。

 それを聞いたロゼは……絶望した。

 

「あの! 私達は同じ世界から来た同士で……」

 

 反論するロゼであったが、権兵衛はわざとらしく咳払いをして反論を封じて、ロゼにトドメの一撃を刺した。

 

「不純異性交遊禁止!」

「ふ、不純だなんて……私と紫乃くんは不純じゃありません! ねぇ紫乃くん!」

「いや、マスターの言うことは尤もだ。俺と燐はこちらの部屋だったな」

「よろしくね紫乃くん」

「ああ」

 

 仲良く部屋へ入っていく紫乃と燐。パタンと扉が閉められ……。

 ロゼは、拗ねた。

 

 

 

 

 

 ベッドにうつ伏せで寝転び、枕に顔面を埋める少女がいた。

 時折、呻き声が上がり、ゾンビが部屋の中にいるかのようであった。

 ロゼのベッドの向かいでは、美玲がベッドに腰かけ部屋にあった小さな本棚から拝借した文庫本を読んでいたが……流石に見かねて文庫本を閉じた。

 

「いつまでそうしてるつもり?」

「うぅ……」

「気持ちは分かるけど、流石にずっとそうされてると、私もへこむんだけど」

「いやっ! 決して美玲さんと同じ部屋が嫌ってわけじゃ!」

「冗談よ」

「あ……」

 

 羞恥から顔を赤らめるロゼであったが、同時に美玲も冗談を言うのだなと新たな発見をした。

 美玲に少々取っ付きにくい、軍隊の女教官のような印象を抱いていたが、一気に親近感を覚えたのだ。

 

「美玲さん、燐くんと同じ部屋の方が良かったですか?」

「いいえ。気の抜けたところとか、見せたくないし」

「な、なるほど……」

 

 その視点はロゼにはなかった。

 紫乃と付き合い始めて少し経つが、まだプライベートではどこかどぎまぎとした感が抜けない二人。ロゼはここで一気に距離を詰める算段をしていた。

 それも虚しく不可能となったが。そもそも、拠点を得たとはいえ一応は任務中でもある。

 

「やっぱり美玲さん、燐くんのこと好きですよね」

 

 しかし、ロゼは恋ばなを優先した。

 一時の休息を、彼女は年頃の少女らしく過ごすことに決めたのだ。

 

「付き合ってるんですか!」

「……付き合ってたというか、なんというか……」

「え!? ま、まさかの元彼さん!? でも美玲さんはまだ燐くんのことを……」

「ちょっと、想像をたくましくしないで。元彼って、別れてないから」

「じゃあ付き合ってるんですよね!」

「いや、そういうわけじゃ……」

「どういうわけなんですか!?」

 

 歯切れの悪い美玲の言葉にロゼは声を荒げた。付き合ってたというが、元彼ではないという。では付き合っているのかと聞けばそういうわけじゃないという。

 ロゼの反応も当然のものだ。

 まるで、意味が分からない。

 

「ちょっと、声大きいから」

「一つずつ整理しましょう! まず美玲さんは燐くんのことが好きなんですか!」

「……それは、その、好き、だけど」

「では次の質問。現在、お付き合いは?」

「……してない」

「じゃあつまり美玲さんの片想いということね!」

「……まあ、そういうことにしておきなさい」

 

 美玲は説明を諦めた。

 非常に説明が面倒な上に、他人に聞かせる話でもないと。

 しかし、ここまで話してしまったらもう止まらない。恋ばなとは、暴走特急なのだ。

 どこに惚れたとか、好きな仕草やら、何やらとロゼは美玲を質問責めにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女二人の向かい、紫乃と燐の部屋は……沈黙であった。

 しかし、悪い空気ではない。心地の良い沈黙というやつだ。

 紫乃はベッドの上で胡座をかいて目を瞑り休息の姿勢。燐は本棚にあった文庫本を神様の言うとおりで選び、読み始めていた。

 しばらくそんな時間が流れた時のことだった。

 

「……休んでいなくていいのか」

「えっ」

 

 いつの間にか目を開けていた紫乃が、燐にそう問いかけた。

 燐は目を丸くしていたが、すぐに紫乃の質問に返答した。

 

「うん。別に疲れてないし」

「本当か……?」

 

 さっき、あんな寝かたをしたというのに?

 紫乃は頭の中で疑うが、燐は見たところ確かに疲れた様子はなさそうである。

 しかし、さっき、あんな寝かたをしたのだ。信用してはならない。

 またあんな風になってしまうのだろうか。戦闘中になったらどうするつもりだろうか。

 そもそも、今こうしている燐と戦闘中の燐は本当に同一人物なのかすら疑わしいと思えてしまう。

 なので、紫乃は色々と聴くことにした。

 

「なあ」

「なに?」

「お前は、誰かに剣を習ったのか?」

「え……。ううん、独学というか、実践というか……。剣を握ったのも、ライダーになってからだし、全然だよ。ここ数ヶ月の話」

 

 その言葉に、紫乃は驚きを隠せなかった。

 紫乃は幼い頃、とある組織で人間兵器となるべく厳しい訓練を強要されていた過去がある。

 また、LOTに身を置いてからは封魔司書となるための訓練も。

 剣ならば、いつから握らされていたかなど覚えていない。

 それを、この御剣燐という人間は誰からも指導されることもなく、たったの数ヶ月ぽっちで、あれほどの域に至ったのかと────。

 

 いや、そんなはずはない。

 あの剣には、悠久の時を感じるほどの積み重ねを感じた。

 

「本当にそうなのか? 誰かから仕込まれたとかは……」

「本当だよ。父さんは剣道やってたけど、僕にやらせようとはしなかったし。自主性を尊重するって。……結局習い事は全然やってこなかったなー。今更、何かやってれば良かったって思ってるよ」

 

 その話しぶりは、戦いとは無縁の少年のものだった。

 どこにでもいる普通の少年のもの。

 今の燐と、戦場に立っていた剣士の姿が乖離して、どんどんと遠くなっていく。

 

「紫乃くんはいろんな姿になれるよね」

「あ、ああ……。モンストリキッドを変えて戦況に応じた姿になることが出来る」

「うんうん。デュオルと同じタイプか~。あ、シェリフも確か他の姿あったな」

「……他のライダーのことか?」

「うん。僕がこの世界で出会ったね。紫乃くんは3人目だよ」

 

 ロゼさんが4人目と付け足した燐は指で4と紫乃に見せてニコリと笑った。

  

「他のライダーも、この世界とは違う世界から来たのか?」

「うん。みんなそれぞれバラバラ」

「よくもまあ集まるなこの世界に」

「……ヴァンダル・リーグって奴等がいるんだ」

 

 燐がほんわかとした空気から一転、真剣な声色で紫乃が聞き慣れない単語を述べた。

 この口調から、そのヴァンダル・リーグが敵であろうことを紫乃はすぐに理解した。

 

「何者なんだ」

「まだ全然分からない。ただ、他の世界にも手を出してるみたい。前にガイアメモリって道具を他の世界から持ち込んできてたから。まあ、それは僕と恵理也さんで何とかしたけどねー! 一回死んだけど」

 

 明るく振る舞おうとした燐だったが、余計な一言を呟いてしまった。なので、急いで口を塞いだが時既に遅し。

 

「今、なんて言った」

「な、何とかしたけどねー」

「その後だ」

「な、ナントカシタケドネー」 

「一回死んだとか言わなかったか? いや、言ったよな?」

「シラナイ」

「正直に言……!」

 

 紫乃が燐に詰め寄ろうとした瞬間であった。

 向かいの部屋から突然、ロゼの声が響いた。

 

「えぇぇぇぇ!?!?!?」

「ロゼ!?」

 

 紫乃が慌てて部屋を飛び出て、ロゼ達の部屋の扉を開けた。燐も遅れて部屋の前にやって来たが、美玲が歩み寄ってきて。

 

「燐は、部屋にいて」

「え」

 

 紫乃だけ向こうの部屋に入れられ、燐は廊下に取り残される。

 

「……なんで?」

 

 まあいいかと燐は自分の部屋に戻り、ベッドに腰掛け古びた木目の天井を見上げた。

 一息ついた口から、自然と紫乃への謝罪の言葉が呟かれる。

 

「ごめんね紫乃くん。僕、いっぱい嘘ついてるや」

 

 

 

 

 

 

 

 

「燐が死んでるだと……!?」

「あんまり大きな声出さないで、燐に聞かれるとまずいから」

 

 ロゼが叫んだ理由。それは、美玲から燐が死んだことを聞かされたからであった。

 

「いつ、どこで、なんでだ」

「前に、この世界で、戦って」

「ええっと、じゃあ今生きてる彼は……」

「燐よ」

「死んだんですよね?」

「そうね」

「なんで生きてるんです?」

「……なんでかしらね」

「肝心のことが何も分からないわ!」

「しょうがないでしょ、燐が何も言わないんだから」

 

 そもそも燐はこの事をずっと隠そうとしていたこと、聞き出そうとするとはぐらかすので何にも分かっていないこと。

 ただ、燐が死んだらしいという情報しか美玲にはなかった。

 

「この前も別の世界でタイムスリップまでして敵と戦って……。だから、さっき突然寝たのも、何か関係あるんじゃないかって思えて……」

「それは……」

「ひとまず、注意して様子を見ることにする。同室としてな」

『あと私も見てますし心配いりませんよ~』  

「ああ、そうだな……。いや待て、誰の声だ今の!?」

 

 紫乃とロゼは部屋中見渡し、今の声の主を探すが部屋の中にはやはり紫乃、ロゼ、美玲の三人のみ。

 警戒心を強める紫乃とロゼだったが、美玲はため息をついて呆れた様子。

 

「姿が見えないと思ったら、どこに行ってたの」

『ちょっと私なりに調査ですよ~』

「美玲さん、幽霊と話してる……?」

「そこの姿見」

 

 美玲が指差した部屋の隅に追いやられた姿見。紫乃とロゼは鏡に何がと覗き込むと、鏡には自分達ではなく黒いセーラー服に身を包んだ少女が映っていた。

 

「だ、誰!?」

『こんにちは、異邦のライダーお二方。私はアリス。燐くん達の世界でライダーバトルの運営やってま~す』

「ライダーバトル?」

『それはともかく、お二人は面白いアイテムで変身なさいますね。ちょ~~~っと、貸していただけませんか?』

 

 突然現れ、モンストリキッドを貸せと良い笑顔で宣うアリス。

 しかし、紫乃とロゼは組織からモンストリキッドとベルトという力を預かる身。素性も知らぬ、ましてや鏡の中の存在という魔性に。

 また、世界や人々のために戦う二人の嗅覚がアリスの悪性を感じ取っていた。

 

「断る」

「ええ、なんというか信用ならないわ」

『え~初対面の人にそこまで言います~?』

「二人共、それで正解よ。そいつを信用も信頼もしては駄目」

『流石、正義を掲げる組織の人間は身持ちが固くて力への責任感も人一倍。いつものようにはいきませんね。ひとまず私はこの辺で! 何かあったらお知らせしますね~!』

 

 鏡には、紫乃とロゼが映っていた。

 アリスの気配は消え去っており、本当にどこかへ行ったようだった。

 

「驚いたわ……。鏡の中にいるなんて、プライバシーもあったものじゃないわね……」

「ああやって何時でも何処でも現れるから本当厄介。ま、根は真面目みたいだからプライバシーに関しては心配しなくていいわ」

「はあ……」

「なんなんだ、あいつは」

「なんなんでしょうね。基本敵、今はなんやかんや味方。峰不二子気取り」

 

 美玲は姿見に布を掛けながら、二人にアリスについてざっくり説明する。

 腕を組み、アリスはともかくと美玲は話を戻した。

 

「とにかく、燐のことよろしく頼むわね。戦闘は心配しなくていいと思うけど」

「そのことなんだが、質問いいか?」

「なに?」

「燐は本当に戦い始めたのは最近なのか? 訓練を受けた経験もないのか?」

 

 紫乃は先程、燐と部屋で話したことを美玲にも訊ねた。

 燐は恐らく隠し事をしているだろうと紫乃は勘づいていたのだ。燐と親しい美玲ならばと訊ねた。

 

「……戦い始めたのはここ数ヶ月。燐も私も、私達の世界のライダーはみんなそう。訓練とかはよく分からないけれど……習い事もしてなかったようだし、中学時代はサッカー部、今は新聞部って文化部。荒事とは無縁のはずよ」

「そうか……。すまない、感謝する」

 

 紫乃の望む答えは返ってこなかった。

 仕方ないと一度この事に関しては考えないことにして、紫乃は女子部屋を出た。

 男子部屋の扉を開けると、夕陽に燃えるような部屋の中で燐はベッドに仰向けになり瞳を閉じていた。

 その様は、あたかも────。

 

「死んでいるみたいだ……」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事終わりのサラリーマン……と言いたいところであったが、スマホで通話している内容からして仕事の話のようであった。

 ガラス張りのビルを背にして、電話しながら鞄からメモ帳を取り出しスケジュールを確認している男を、鏡の中から見つめる怪しい影。

 仮面ライダー魔縁。

 水面に浮かぶ獲物を見つけ、水中から浮上してくる捕食者の如く魔縁は男へと近付き……魔剣ダインスレイヴの刃を鏡界から現実世界へと突き出して、徐々に、徐々に、男へ近付く度に刃の速さは増していき────。

 

「ええ、ええ、はい。週明けまでには……あ? あぁぁぁ!!!!!」

 

 斬。

 血飛沫がアスファルトを穿って、男のスマホが地面を滑る。

 電話からは男の名前を呼び続ける声が響く。

 こんなことが、起こっているとは知らずに。

 魔縁はミラーワールドから出て、ダインスレイヴを斬った男に突き刺す。魔剣に血と、色を、飲み込ませる。

 

 その光景を、通りがかりのOLが目撃してしまった。

 鞄を落とし、悲鳴をあげてしまったOLに気付いた魔縁は次の獲物を彼女と決めた。

 男からダインスレイヴを抜いて、魔縁は月夜に凶刃を振りかざした。

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