仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変 作:大ちゃんネオ
翌朝。
喫茶店でテレビを確認した一同は、驚愕のニュースを目の当たりにする。
『速報です。昨晩、歩行者に対して刃物で斬りかかる不審人物を目撃したという通報が相次ぎました。しかし犯行の形跡はあるものの犯人の痕跡は見つかっておらず、警察は────』
「……まさか……!」
魔縁が動いたのか。
紫乃は視線をロゼと燐、そして美玲に合わせる。
彼らも状況を理解して頷き、もはや猶予はないと見て調査に出る決意をした。
「……でもどうして気づけなかったのかしら」
「どういう意味だ?」
言葉の意味が分からずにいる紫乃に対し、燐が答える。
「ミラーモンスターやライダーが現れる時に、僕らだけが聞こえる音みたいなものがあるんだ」
「じゃあ今回はそれが聞こえなかったというの? 一体どうして……」
「うーん」
考えられるケースは三つ。
ひとつは、魔縁や契約モンスターの特殊能力という説。彼女が所有するカードの中に、そのような能力のものがあるならありえる話だ。
しかしそんなものがあるなら、そもそも燐たちのいる世界で使っているはず。なのでこれは除外される。
第二、彼女を生み出した何者かの力という説。敵の素性は未だに未知の部分が多く、これも可能性自体はあるだろう。
とはいえ、その能力も顔を見せる前の時点で使わない理由がない。
そして最後。
「……僕らも気づかないほど、一瞬で現れて被害者を斬った……とか」
燐が口に出す、もうひとつの可能性。
強引な手法ながらも一番ありえる話で、しかしそれは現状において最悪の想定だ。
「い、いやいや、待って待って。それって一体……どんなレベルの早業なの!?」
「少なくともオレが見た燐の剣技は卓越したものだった。考えられんが、その燐ですら探知できないものとなれば……」
もはや魔縁は、自分たちの手に負える相手ではなくなっているのかも知れない。
口には出さなくとも、燐たちはそれを理解していた。
「ともかく、オレたちも動き出すべきだ。調査するぞ」
「あ、紫乃くん。だったら私と美玲さんは図書館に行ってみるわ」
「なに?」
言うまでもなく、この世界の図書館にはLOTの支部など存在しない。今更立ち寄る意味はないはず。
だがロゼの目には確信めいた輝きが宿っており、紫乃はそれを信じて小さく頷く。
「分かった。そっちは任せる」
「ええ! 紫乃くんたちも気をつけてね!」
こうして、四人は各々で調査のために動き出すのであった。
喫茶店から出た後、ロゼと美玲は話していた通りに図書館へ到着。
そしてロゼはすぐ、神話関連の本棚と国外の武具の歴史、特にヨーロッパのものを中心に、関連の資料を探し始めた。
「何をするの?」
「思ったんです。もしも敵が自分の住処の死体を使ってゾンビ・ギガを生み出しているのだとしたら……あのゾンビたちが身に着けていた鎧や武器から、敵の神の正体が分かるんじゃないかって」
「そんな事が分かるの?」
こくりと頷くと、ロゼは机に並べた資料をひとつ手に取り、美玲に見せながらページを開いていく。
「鎧の形状から見て西洋のものであるのは間違いありません。なので、そこに絞り込んで探します。有名所で言えばギリシアやローマ、ケルトも該当します」
「じゃあ、手分けして探しましょう」
「はい!」
方針が定まり、二人は早速読み進める。
とはいえ一朝一夕で即座に発見できるはずもなく、時間をかけながら地道に続けた。
すると。
「ねぇ」
しばらくの後に、美玲が声を上げる。
ロゼはそれを耳にして、すぐ彼女の方を見た。
「これ、似てると思うんだけど」
そう言って美玲が提示した資料は、古代スカンディナヴィアやヴァイキングの装備。
即ち、該当する神話は『北欧神話』だ。
「……これは……! だとしたら、敵の神の正体は!」
北欧神話において、死者を自在に操る能力を持つ神を、ロゼは一柱しか知らない。
急いでその事実を知らせるべく、彼女らは端末を取り出して連絡を取ろうとする。
しかし、その時だった。
図書館の外から耳をつんざくような悲鳴が聞こえ、二人は驚きながらも急いで飛び出す。
「なっ!?」
「……!」
目にした光景にロゼが声を上げ、美玲は僅かに目を見開く。
そこにいたのは、もはや数えるのが億劫になるほどの、おびただしいゾンビの群れ。
敵が動き出したのだ。それを知って、二人は各々のベルトを装着。そしてロゼはモンストリキッドを、美玲はデッキを装填した。
『変身』
二人の声が重なり合い、同時に姿が変わっていく。
そうして現れた二人の仮面ライダー、アイズとブリューナクは、住民を避難させながらゾンビを蹴散らす。
だが、やはり前回と同様に敵は無数に湧いて出てくる。
「急いで紫乃くんたちに伝えなきゃいけないのに……!」
仮面の奥で歯噛みしながら、槍でゾンビ兵たちの頭部に風穴を開けるブリューナク。
そんな彼女たちの前に、ひとつの小さな影が姿を現し────。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
魔縁が出現したという現場に直接赴いた紫乃と燐は、周囲を見回して状況を探っていた。
ニュースで流れていた通り、犯行の形跡はあるものの犯人である魔縁の足取りに繋がるものは見当たらない。
こっそりとAガジェットで痕跡を探ってみるが、やはりと言うべきかどこを探しても鏡やガラスの前で足跡が途切れてしまう。
「やはりそう簡単には行かないか。相手が鏡の中に逃れたなら、オレでは追跡できない」
「紫乃くん、ちょっとこの辺りに立ってて貰って良い?」
不意に、電話ボックスの前に立つ燐がそう言って、右隣の方を指で差す。
これはつまり、他人に見られないよう紫乃に遮蔽になってくれという意味だ。
「『入る』つもりか?」
「もうそれしかないかなって」
「中で魔縁が出たらどうする。リスクが大きすぎるぞ」
一対一で容易く勝てる相手とは、紫乃には到底思えなかった。それに、無数のゾンビを生み出す敵性の神の存在もある。
紫乃はミラーワールドに移動できない以上、どうにかして魔縁を現実世界に誘き出す方法を考えるしかない。
「ん? いや、ちょっと待って」
しかしそう思っていると、燐が電話ボックスの中を覗き込んで不思議そうに目を細めた。
「なんだ? あれ……?」
何事かと思って、紫乃も隣で同じく鏡面を見つめる。
すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
街の上空に、くすんだような色の白い巨船が浮かんでいるのだ。
「まさかアレは、神の所有物……!?」
敵の神はこの世界にあの船を持ち込み、さらにミラーワールドからこちら側に干渉していた。
ゾンビ・ギガを生み出す巣穴も、恐らく鏡の中の船から生成して現実世界に移しているのだろう。これでは、紫乃では対処できない。
ならばせめて燐と美玲に向かって貰おうかとも考えるが、そもそも相手は空にいる。
一体どうすれば良いのか。悩んでいると、早速とばかりに周囲からゾンビが湧き出して来た。しかも、今回は巣穴ではなくミラーモンスターのように鏡面から現れているようだ。
早々に対処しなければならないが、そんな折にロゼの方から連絡が入る。
「ロゼ!」
『紫乃くん、敵の正体が分かったわ』
どうやら向こうでも被害が出ているらしく、悲鳴や戦闘音が聞こえた。
それでもロゼが通話を寄越したのは、何か重要な手がかりを掴んだためだろう。ひとまず、紫乃はその話を聞き出す事にする。
『ゾンビたちの装備は古い北欧のものだった! つまり相手は北欧神話の黄泉の女神、ヘルよ!』
「ヘル……!? なら、あの船の正体は……」
『船!? そ、それって!?』
「『死霊船ナグルファル』だ……!」
「なぐ?」
歯噛みする紫乃に対し、燐はデッキを手に取りつつ首を傾げた。
「ナグルファルは、ニヴルヘイムの地下にあるニヴルヘルに住む北欧の女神ヘルが所有する、死者の爪でできた船だ。その船には大量の死者と悪霊、さらにヘル自身が許可した者を収容できる。かつて
「でもあの船自体で攻撃できるようには見えないし、乗り込んで落とせば良いんじゃないの?」
「……事はそう単純じゃない」
深刻な面持ちで、紫乃は語る。
「先程言ったが、ナグルファルは死者の肉体や魂を収容するものだ、それはヘル自身が死者を好み支配する能力を持つ事に起因する。そして、同時に……ナグルファルには『ヘル自身が許可しない限り、死者以外は搭乗できない』機能がある……!」
「え」
「お前が言ったように撃ち落としてある程度破損させればその権能を無力化できるだろうが、当然空を飛んでいる以上は地上からの攻撃も届かないし、何より届いたとしても不浄の瘴気がバリアのように攻撃を阻む。つまり……生きている人間にはどうしようもないという事だ!」
レリックライザーでゾンビ・ギガたちを撃ち抜きながら、そう言った。
戦いを続けるには、あまりにも絶望的な状況。
しかし、紫乃の話を聞いてなお、燐に諦めた様子はない。
「紫乃くん、さっき『死者じゃないと乗れない』って言ってたよね?」
そう言った彼の表情を見て、紫乃はハッと目を見開く。
思い出したのだ。昨日、死んだように眠っていた燐の姿。
「まさかお前────」
「これしか方法がないなら、行くよ。僕がやるしかない」
「よせ! お前一人で行ってどうなる、魔縁もいるんだぞ!?」
彼の無謀を止めるべく肩を掴もうとするが、紫乃の手は途中で止まってしまった。
燐に宿る眼の輝き、それは今までに何度か見た、同僚たちや仲間がしたのと同じもの。死地を戦う覚悟を決めた眼だ。
これほどの決意に満ちた戦士を、どうして止める事ができるだろう? 紫乃はそう思って、手を動かせなくなってしまった。
「変身!!」
気付けば、燐は既にVバックルを装着して変身を完了し、ミラーワールドに向かっている。
「オレは……オレは、どうしたら良い……!?」
あまりにも無力な自分の拳を見下ろし、紫乃は一人呟く。
その時だった。
「君らしくないね、紫乃」
背後からそんな聞き覚えのある声がかかり、思わず紫乃は振り返った。
そこにいたのは、白い毛の小さな狐。元の世界で何度も顔を合わせた、自分の育ての親の式神の姿。
「……晴明!? なぜここに!?」
問いかけられると、小狐の姿を借りた晴明はくつくつと笑い声を発する。
彼の尻尾には、二本のモンストリキッドが埋もれていた。
※ ※ ※ ※ ※
「くく、やはり先に動いたかツルギよ」
同じ頃。水晶玉を通して戦況を観測していた冥府の女神、ヘルは、音を立てて自らの唇を舐める。
水晶の中に映る仮面ライダーツルギは、現れるゾンビたちを次々に薙ぎ倒し、ここナグルファルを目指して進んでいく。
ヘルはその姿を、悦んで眺めていた。
「良いぞ、美しい。そして強い……これが
────ニヴルヘルに住まう女神ヘルは、偏執的なまでの死体愛好家だ。
主に老衰や疾病、名誉なき望まぬ死によってその極寒の世界に堕ちるのだが、そんな悲嘆と怨嗟に満ちた世界にも関わらず彼女が引き篭もり続けているのにはそういう理由がある。
特に美少年を好み、生者の世界を稀に観測しては侍らせるために怨霊をけしかけるなど、人間からすれば異常極まる行動が目立つ。
人を無理矢理手籠めにしようとする神自体は然程珍しくはないが、死体にしてから思うがままにするのは彼女くらいのものだろう。
「さぁ、もっと妾を愉しませておくれツルギ。そして誘き出すのだ、ムラサメを!」
死体のように青褪めた左頬を釣り上げ、女神が笑う。