1週間書ききれました…ギリギリですけど。
須藤の裁判が始まる2日前、ストーカー店員を殴り倒した後、佐倉がようやく目撃者であることを認めた。
──が、同クラスの証言では効力が弱い、と考えていたときだった。
「···あっ!···私···あの場所で、もう1人。見かけました···!」
「誰だ?」
「あの···白くて赤い目をしてる···男子生徒···!」
···白くて赤い目、それほど特徴的なヤツは1人しかいない。
だが、どういうことだ?
あいつは何故「知らない」と嘘をついたんだ?
「白くて赤い?──兎月くんじゃないかな?」
「櫛田の言う通りだ···そんな特徴なのはアイツしかいない」
「···綾小路くん、確か兎月くんの連絡先持ってたよね?」
「ああ、一度知っているかどうか聞いたが、もう一度聞いてみるか」
一度聞いて誤魔化されているのなら、今普通に聞いても無駄だと思った。しかし、そうではなかったらしい。
─────────
「あ、来た」
「何が来たのですか?」
「面白いこと」
「私もここにいていいですよね?」
「もちろん、今回の主役は僕じゃないからね」
「あら、主役は私と
「うん、僕はあくまでも傍観者くらいかなぁ···ん、送信完了···夜ご飯作りながら待とっか」
「はい♪···今日は何を作るんですか?」
「んーポトフ」
「白兎君、自分で作るポトフ好きですよね」
「なんかね、優しい味が好きなんだよね」
「料理には作った人の性格が出ると言われてますからね」
「?···ありがとう?」
「ふふ···」
─────────
オレがメッセージを送った1分後、
兎月から「親愛なる友人へ これは友人の君1人で見てね」と動画とともに返ってきた。
···櫛田と佐倉には悪いが、1人で見させてもらおう。
「2人ともすまない、少し席を外す」
そう言って席を立ち、個室トイレに入った。
イヤホンを着け、兎月から送られてきた動画を再生する。
「──は?」
そこには、音声はないものの須藤とCクラスの連中が言い争っている様子が映っていた。
しかし、肝心なところは映ってなく3秒間という短い時間の映像だった。
「···何が目的だ?」
餌であることは分かっている、だがそれが何のためかは分からない。
──アイツはオレに何をさせる気だ?
そう考えているときに、兎月からまたメッセージが来た。
「この先が知りたかったら、1人で僕の部屋まで来てね。歓迎するから」とあった。
アイツが何を企んでいるのかは知らないが、オレには行かないなんて選択肢は最初からなかった。
「お前の部屋知らないが···」
メッセージで教えてもらおう。
─────────
ピンポーンとインターホンが鳴った。
──どうやら待ち人が来たらしい。
「アリスちゃん、ちょっと味付けお願いしていい?」
「ええ、といってもあとは個人で黒コショウを振るだけでは?」
「確かに」
そんな会話を交わしながら、僕は扉を開けた。
「おひさ、綾小路くん」「──なるほど···ふふふっ♪」
「久しぶりだな、兎月──で、オレに何を求める?」
「そうだね···僕は何も求めないよ···あとはアリスちゃん任せた。僕はお皿に盛り付けしとくね」
「お願いします──さて、綾小路君お初にお目にかかります···いえ、お久しぶりと言った方がいいですね。8年ほどぶりです」
「は?──見かけたことはあれど、お前とは初めて会ったはずだ。お前と過去に会ったことはない」
「そうですよ。私だけが一方的に知っているんです」
「なら初対面だろう」
「ふふっ。嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるというのは。
ですが、安心してください、誰にも言うつもりはありませんから。偽りの天才を葬る役目は、私にこそふさわしい」
アリスちゃんがいつものドS感満載な笑みを浮かべながらそう言ったが、言い終わると真剣な表情になって、
「ホワイトルーム」
そうアリスちゃんが言った瞬間、ブワッと鳥肌が立った。綾小路の放つ圧倒的なプレッシャーに委縮させられてしまった。
アリスちゃんがその単語を口に出した瞬間、綾小路くんが纏う雰囲気が殺気のような鋭利なものに変わった。
その鋭利な雰囲気が僕に向いたから、困ったような笑いで返しておいた。
綾小路くんが化け物なのは知ってたけど、実際に目の当たりにすると理不尽の塊のような存在だ。
(分かってたけど怖いなぁ)
「ああ、白兎君はそれと何も関係ありませんよ」
「そうか」
(あ、めっちゃ和らいだ···けど、アリスちゃんへの警戒高いね──それを薄笑いするほど、余裕で耐えてるアリスちゃんも大概だね)
綾小路くんの圧倒的な強者感に負けず、一切臆することもなく、薄笑いを浮かべたまま話を続ける。
「···聞こう。要求は何だ」
今のところ敵意がないとわかったのかな?
綾小路くんからの放たれていた殺気が消えた。
···ようやく緊張が解けた。
あとはアリスちゃんに任せよう、と思ったが、アリスちゃんは意外にもここで黙り込み、僕の方を向いて話すように促した。
──確かに引き合わせたのは僕だったね。
「···要求することは1つだけだよ。綾小路くん、この子とチェスしてあげて」
「は?──それだけか?」
「うん、って言っても
「──負けたら?」
「···君が負けるなんてことを考えるんだね···負けたときは──アリスちゃん何にするの?」
「ふふふ···そうですね···私と白兎君から1つずつ、綾小路君に命令できる権利でどうでしょうか?」
「──受けよう」
長い夜になりそうだなぁ。
そう思いながら、ポトフを僕の分だけついだ。
「白兎君、私のもお願いします」
「オレも頼む」
「チェスに合わないけどなぁ···」
─────────
僕には盤上を見て、チェスの優勢なんて分からない。しかも、この天才同士の脳内で行われているのなら尚更だ。
けど、途中からアリスちゃんは長考していて、綾小路くんは1秒ほどで場所を指定していた。それを見て、なんとなく分かった。
「···はくとくん···」
アリスちゃんから出たと思えないほど、無意識に出た言葉だと思うほど弱々しい声だった。
楽しそうに頬を赤らめながら指しているアリスちゃんだけど、自分が追い詰められていて苦しいのかな?
「なに?···いいよ、がんばってね」
アリスちゃんは目を瞑りながら、手をこちらに差し出してきた。僕は絡めていくように握った。
「──お前らはそういう関係なのか?」
僕らの姿を見て疑問に思ってる綾小路くんが少し面白かった。···そうだね、「そういう」が何を指しているのか知らないけど、答えられるのは1つだよ。
「さあ?」
「は?」
とりあえず、君とアリスちゃんの関係を清算してからじゃないと、僕的には分からないし気持ち悪さが残る。
アリスちゃんはもう気にしてなさそうだけど···
ま、そういうこと気にせず戦ってくれ。
─────────
軍配は、先手の綾小路くんに上がった。
「リザインです。ふふふっ···この私が、ですか···」
「強いな···オレが後だったならば分からなかった···今まで戦ったなかで1番強かった」
「ですが、それでも引き分けにもなりませんでしたね。どうやら、あなたと私とでは実力差があるようです。認めなければいけませんね」
チェスは先手有利なゲームらしい。アリスちゃんが先手を譲ったのは、それでも勝てると証明したいんだと思ったし、多分そう思ってたと思う。
どちらにしても負けていたとアリスちゃんが認めるほど、ホワイトルームの最高傑作はすごいらしい。
──そのレベルにいないから分かんないけど。
「そうか」
「──いい勝負でした」
···少し前のアリスちゃんでは考えられないほど、立ち直りが早い。アリスちゃんは「負け」というものを小さいときの1回以外知らないから、もっと落ち込むと思っていた。
けど、今のアリスちゃんはどこかスッキリとした顔をしてる。──アリスちゃんのことなのに分かんないなぁ···
「···お前はすごいな···もう一度すれば結果は分からないな」
「敗者への慰めはいりません···白兎君」
「はいはい」
「···その映像を撮ったのは坂柳、お前の指示か?」
「いえ、白兎君の独断です」
「···そんな悪いことみたいに言わないで?···アリスちゃんも楽しかったでしょ?」
「ええ、本当に···楽しかったです···」
「──そうか、なら兎月」
「何?」
「須藤とDクラスのいざこざを撮ったのも、佐倉に姿を見せたのも、もう後がない日にバレることも···全部わざとか?」
結果的にそうなっただけで、全て「わざと」な訳がない。僕は凡人なんだよ。
「考えすぎだよ、僕は君らみたいにイカれてない···偶々だね」
「偶々、ですか···あれほど私との夕食を断り続けた計画が、偶々なんですね」
「···アリスちゃんはどっちの味方なの?」
「ふふふ···」
「──これは堀北苦労するな···」
「堀北?」
「ああ。Aクラスに上がろうと必死になってるオレのとm···クラスメイトだ」
「そこは友達でいいんじゃないかな?──あ、そうだ綾小路くん」
「なんだ?」
「負けた身で言うのは嫌だろうから僕から言うけど、アリスちゃんと、それと僕とも本当の友達になってほしい」
「──いいのか?」
「お願いしてるのは僕なんだよ?···ま、定期的にアリスちゃんの遊び相手してあげてね···僕じゃ相手になんないから」
「白兎君はよわよわですからね」
「はいはい」
「兎月はこういうの苦手なのか?」
「白兎でいいよ──嫌いだね、今まで負けた記憶しかないよ」
「オレも清隆でいい、そうか···お前ならできると思うが」
「ありがと、で、アリスちゃんの遊び相手になってくれる?」
「ああ、坂柳との勝負は面白かったしな」
「ありがとうございます···綾小路君、よろしくお願いしますね」
「よろしく。坂柳、連絡先交換してくれないか?」
「ええ、かまいませんよ」
─────────
綾小路清隆が友達になりました。
『坂柳、白兎は本当にホワイトルームの関係者じゃないんだよな?』
『ええ、小学生からずっといっしょにいますから。絶対に違います』
『そうか、だが白兎にはおかしなところがあるんじゃないか?』
『どこですか?』
『オレとお前が小さな頃に会ったと言ったのか?』
『ええ、一度
『···そうか、今回の件があまりに綺麗に行きすぎて疑ってしまった。すまない』
(嘘です。私は綾小路清隆という名前は出してません。──それなのに何故彼だと分かったのでしょう?)
「──私としても何故、綾小路君が負けた男の人だと会う前から断定できたのか謎です」
「アリスちゃん?清隆くんはもう帰ったし、そろそろ帰らないとじゃない?」
「もう少しだけこの状態のまま、いさせてください」
「チェス指すときも、お皿洗ってるときも手繋いでたのに、まだ?」
「久しぶりの敗北なんですよ?···ショックでショックで···このまま寝てしまいそうです」
「待って待って、それはほんとに待って??」
「ふふっ♪着替え持ってきますね♪ お風呂沸かしてもらえますか?」
「ほんとに待って!?」
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