「ではこれより────本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
隣にアリスちゃんではなく、橋本くんがいるためテンション下がってしまったけど、一応真嶋先生の話を聞いた。
────先生が語った内容をまとめると以下の通り。
・各クラスに試験専用のポイントが300支給される。
・このポイントを使い、水や食料、テントを含む様々な物資を購入することができる。そして、その時使用するポイントは配布されるマニュアルに記されている。
•試験終了後に残ったポイントは、そのすべてがクラスポイントとして夏休み明けに反映される。
正確に覚えてた訳じゃないけど、大体こんな感じだよね。相違点がある訳じゃない。
だからこそ引っかかった。
「──また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」
リタイアした訳ではなくない?
「これまでで何か質問は···兎月、なんだ?」
「アリs···坂柳さんはそちらが勝手に無理だと判断しただけで、自分からリタイアした訳ではないですよね?それなのに、ポイントを引かれるのはどうなんでしょう?」
アリスちゃんが参加してても、絶対に最後までいることはできなかったけど一応ね。
言っておかないと気が済まない。
「参加できなかった時点でリタイアしてるのと同義だ···それに坂柳からの了承も得ている」
「そうですか、お答えいただきありがとうございます」
なんだ、僕が熱くなる必要性なんて皆無だった。
「···初めて見たわ、お前がちょっと怒ってるとこ」
「そ、意味なかったけどね」
そこからの説明は聞き流した。リーダーを当てると···云々は僕には関係ない。
────────
森の中でも開けている場所で、神室さんが羨ましそうな目で見てきた。
「──神室さんも日傘入る?」
「···絶対あの子に何か言われるからやだ」
「まあ確かに、鬼頭くんは言わないだろうけど、橋本くんが言うもんね」
「おいおい、俺への評価低くないか?」
そんなことはないよ。逆に君への評価は高いんだ。だからこそ、そのあり方は辞めてほしいんだけどね。
「逆、信頼してるってことだよ。君はアリスちゃんに言われたことはするっていう信頼」
「今回は姫様から何も言われてないかもしれないだろ?」
「食堂で一之瀬さんとの会話とか撮ったこと、未だに根にもってるからね」
「あれはお前が悪い」
「私も同じクラスの子に状況聞いたけど、あれはあんたが悪い」
神室さんがそういう顔しながら言うのなら僕が悪いんだろうけど、納得はできない。
「···神室さんがそう言うんなら、そうなんだろうね」
「やっぱ俺の評価低いだろ」
「神室さんの評価が高いの」
「──もうちょっと言い方考えて···あの子に嫉妬されるの私嫌だからね」
心底嫌そうな顔をしてた。なんでかは分からないけど、神室さんにはそういう顔が似合うね。
「これもダメなの?まあいっか────そろそろかな?洞窟に着くの」
「流さないで···まあ、あともう少しなんじゃない?」
原作通り、僕らAクラスは洞窟に向かっていた。
僕のアルビノという体質にも洞窟はありがたい。紫外線遮断できるの嬉しい。葛城くんには感謝したい。
──あとは、龍園くんとの契約にサインしなかったら100点なんだけど···まあ助言は求められなかったらしないから、どっちでもいいんだけどね。
──────
日差しの強い昼間に動き回るのは得策じゃないから、洞窟内で休んでいると、橋本くんが洞窟内に見知らぬ男の人を連れてきた。
結構筋肉質の男前で、紫がかった黒髪で首筋まで伸ばしてる···誰だろ?
「テメェか、女王気取りにくっついてる兎は」
その言い草···龍園くんかな?あー、契約という名の詐欺をしにきたんだよね?がんばれ〜
「どちら様?──あー、君か。龍園くんだよね?はじめまして、兎月白兎です。よろしくね」
「ハッ、今はテメェらに用はねぇ」
「葛城、お客さんだ。何やら話があるみたいだぜ?」
「何の用だ、龍園」
「そんなに警戒すんなよ。ちょっとした交渉をしに来ただけだ」
そう言って、龍園くんは悪魔のような笑みを浮かべた。さて、葛城くんはどうするんだろ?
────────
洞窟の最奥。
周囲の視線を気にしなくていい、密会に最適なその場所。
そこで葛城くんとCクラスのリーダーの龍園くんが向かい合っていた。
「お前らAクラスと取引がしたい」
やっぱり傲慢の擬人化みたいな感じの人だね。王様、暴君って言葉がこれほどまでに似合う人はなかなかいない。
「内容を言ってみろ。話はそれからだ」
「ハッ、随分と上から目線だな」
「それはお前も同じだろう」
この場にいるCクラスの生徒は龍園くん1人。
敵地のど真ん中で、そんな堂々とできるのすごいね。
「なに、テメェらにとっても悪い話じゃねえはずだ」
そうして龍園くんの口から語られた内容は以下の通り。
1、CクラスはAクラスに200ポイント相当の物資を提供をする。
2、CクラスはAクラスにBクラスまたはDクラスのリーダーの情報を与える。
3、1と2の内容が達成された場合AクラスはCクラスに1人あたり2万プライベートポイントを卒業まで毎月支払い続ける。
一見良い契約に見えるけど、ちゃんとダメ。
リスクの塊だし、理想論すぎる。
本来リスクを嫌うはずの葛城くんだけど、今はアリスちゃんに追い詰められてるから、サインしちゃうんだよね···
「坂柳がいない今がチャンスのはずだ。試験で結果を残せばリーダーの地位に近づくぞ、違うか?」
アリスちゃんの存在をちらつかせ、思考を誘導させている。
──こういうのに引っかかったんだね···
「···なるほど、そういうことか···」
ん?なんで僕の方見てるの?
──何か悟ったような顔してるし···
「あ?何に納得してやがる?」
「兎月、お前の言っていた意味が分かった」
「?···どれ?」
結構君には言ったけど、どれの意味が分かったんだろ?
「──龍園すまないな。クラス間交渉の担当は俺ではない。坂柳だ」
「は?」「え?」
あ、まず···マジか、そういう意味ね。
「この場に坂柳がいないため、AクラスはCクラスとの契約はしない──諦めてくれ」
「ハッ!ずいぶんと弱いな。そんなに弱腰なら、リーダー向いてないぞ?」
「ああ、兎月とお前の意見でよく分かった。
────俺はリーダーには向いてない」
おーまいがー、1回の負けでそこまでになるの?何が彼を変えたんだ?
「兎月、お前もそう思うだろ?」
「うん、向いてないと思う──でも、いつから自覚したの?」
「龍園がこれほど早くから、交渉を持ちかけてきた段階で確信した──俺は落とせると思われている。そんな風に舐められている俺がリーダーに向いているわけがない」
「チッ···」
「僕を見て舌打ちしないで···で、葛城くん。もう一度結論言ってあげないと、龍園くん帰れないよ?」
「──
何やら考えてる龍園くんに、葛城くんが改めて告げた。
──成長したね。もうリーダーっていう立場に固執してないんだ。
···ま、これからも戸塚くんなりの面倒は見てあげないと、彼らAクラスだと思えない立ち振る舞いしちゃうからね。中間管理職みたいな感じでがんばって。
流石に船でのアリスちゃんや清隆くんたちへの、戸塚くんらの対応は腹が立つし気分が悪くなったからさ、君には今回沈んでもらいたかったよ。
──まあ、アリスちゃんの下につくって言うんなら、いいか。
葛城くんがそう言うと、龍園くんが苦虫を噛み潰したような顔をして出て行った。
あーこれ、アリスちゃんになんて報告しよ?
──ま、橋本くんがそういうのするからいいか。
「兎月」
「──何?」
「お前が俺の派閥だったとしたら、あの契約は受けた方がいいと思うか?」
前世の記憶の有無に関わらず、この契約を君が結ぶべきではないと思う。君の慎重っていういいところが消えちゃうし···
「思わないね、リスクを取る人じゃないでしょ?」
「なら、坂柳派閥だったら?」
あーそれなら、そうだね···どっちでもいい、かな?
君がアリスちゃんに勝てる未来は一切見えないから。
「好きにしたらいいと思う、どっちに転んでもいいし」
「そうか···坂柳に言っておいてくれ、Aクラスのリーダーは坂柳、お前しかいないと」
「ん、分かった···じゃあ──ま、1回みんな集合しよっか」
「そうだな、あの提案を蹴ったということは、クラスが1つになって行動しなければならない···お前ら坂柳派閥もな」
「僕はまだアリスちゃん派閥じゃないけど、君がリーダー候補から降りたら、全力でアリスを支えるって決めてるんだ···今回の試験は向いてないから力にはなれないけど···」
「それでもお前が俺の指示に従えば、坂柳派閥のやつらも従うだろう···橋本、そうだな?」
「あーまあ、そういうことになるな」
橋本くんが頭をかいて、少し浮かない顔をしながら答えた。
──アリスちゃんは予想してたけど、こうなって欲しくはなかったのかな?
「···橋本くん、アリスちゃんから何か言われてるの?」
「ああ、『葛城君がもしもリーダーを降りる等の発言をした場合、坂柳派閥の皆さんは白兎君の指示に従ってください』だってさ」
···僕の指示?ほんとに?
「そっか···んー、ならまあ、一旦アリスちゃん派閥のみんなで集まってもいい?」
「ああ、そうしてくれ···俺も弥彦たちに説明してくる」
「がんばれ」
戸塚くんたち葛城派閥のみんなは、葛城くんがリーダーから降りたことに驚いてたし、全然状況が飲み込めてそうになかった。
その人たちを相手にして、葛城くんは丁寧に説明した。
うん、やっぱり君はそういう立場が向いてるよ。
「で、どうする白兎?」
葛城くんのことを観察してたら、アリスちゃん派閥筆頭の橋本くんが来た。
···あとの人はいないのかな?
「···そうだね、神室さんや鬼頭くんたちは?」
「外で探索してるからいない···で、俺としては妨害する必要がなくなったと思うが、どうする?」
僕もそう思う。妨害する必要性が皆無になった。Aクラスのプライベートポイントが減らなかったから良しとするか···
「一旦妨害は無しの方向で行こう。葛城くん派閥を貶める必要性がなくなったしね···あとは、まあ葛城くんの指示に従いつつ適当に過ごそう」
「お前はいいのか?···姫様以外の人の指示に従うのは嫌じゃないのか?」
「全然嫌じゃないよ?···別にアリスちゃんの指示だけを聞いていたいだなんて言った覚えないし···
──それに橋本くんもアリスちゃんだから従ってるわけじゃないでしょ?」
君と2人っきりになるときはそんなにないから、今言っておこう。
君はその生き方をやめた方がいいよ、アリスちゃんがそんな精神で従ってる人を放っておく訳がないし···
「は?」
うまく隠せていると思っていたのか、少し呆気に取られていた。
「有能な人に付いていたいと思ってるだけで、坂柳有栖という人に忠誠を誓ってる訳ではないよね」
「···よく分かるな」
前世の記憶を含まなくても、今回の龍園くんのやつとか普段の行動で大体分かる。
「ま、僕はそのスタンスには文句ないし、正しいとさえ思うけど、いつか君はそういう生き方を恨む日が来ると思うよ。そうならないようにがんばってね」
「待て待て、お前の予想はめっちゃ当たりそうで怖いんだが···」
確か、実際に後悔するときが来たはずだ。もう覚えてないけど···
「うん、結構当たるから覚悟しとくか、生き方を改める方がいいよ──幸いなことに、君の大好きな有能な人がいるんだし」
「──考えとく」
「うん···僕としても君を失うのは嫌だから早くに直してね」
僕がそう言うと、橋本くんは驚いたような顔をしていた。
せっかくできた数少ない高校の友だちなんだ、失いたくないに決まってるでしょ。
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