かつて天才だった僕へ 本物の天才が目の前にいます
十で神童 十五で才子 二十過ぎれば只の人
そんな当たり前のことは分かっていた。
それが
遅くなるだけでいずれ自分が只の人になっていくことを。
だけど、目の前には齢15を越えたというのに、天才がいる。
それを間近で見続けた僕の気持ちになって欲しい。
前世で大学受験した記憶を基にして、
テストに挑んだとしても彼女を超えることはできなかった。小中のテスト難易度であったとしても満点を取り続けるのは難しい。
けど僕は努力し続け、満点以外取らなかったが、
そんなものは彼女にとっては当たり前だった。
死ぬほどの努力の結果取れる満点の僕と、
そんなのは当たり前だとして軽々満点を取っていく彼女。
テストの結果的には僕と同等だとしても、
学力というか知力に差がある。
ありすぎてしまう。
でも、そうだとしても、
君と並んでいたかったんだ。
君に失望されたくなかったからね。
「それ何読んでるの?」
その時の僕は本のことしか見ていなかった。
まだ小学生になりたてだというのに、ドストエフスキーを読んでる子どもが気になった。···もしかしたら、この子も僕と同じで前世の記憶を持ってるかもしれないとちょっと思った。
「『罪と罰』ですね」
「あー、ドストエフスキーのやつね」
「!···知ってるんですか?」
「うん、って言っても名前だけだけどね」
「──私あと少しで読み終わるので、読んでみますか?」
「じゃあ貸してもらおうかな···って、自己紹介してなかったね」
「いえ、自己紹介は大丈夫ですよ」
「ん?僕のこと知ってる···の?」
そう言って、初めて彼女を見た。
僕ほどではないけど色白の肌に薄紫のセミロングヘア、どこかのお嬢様かと思うほど可憐だった。
──杖を机の横にかけてるってことは、足が不自由なのかな?とも思った。
「···特徴的すぎますよ?その
それはそう。
僕は産まれたときからアルビノだ。
色素の抜けたくっそ白い髪と肌。
兎を彷彿とさせる赤い目。
身長も全然高くない。
それが僕
──名は体を表すとはよく言ったものだね。
「あー確かにね──でも、ちゃんと自己紹介させて欲しい。僕兎月白兎。気軽に白兎って呼んでよ、君は?」
「ふふふ···兎月君よろしくお願いしますね。私は
「兎月って呼ばれるの新鮮だ──え、アリス?──坂柳有栖??」
アリスって言われると女優か、不思議の国のアリスしか思いつかなかった。
──「アリス」と「白ウサギ」奇妙な縁だともそのときに思った。
けど、それ以上に気になったのは名前だ。
「坂柳有栖」──前世の友達が言ってた、ドSロリの「坂柳有栖」はこの子か。
──ってことは、ここは「よう実」の世界なんだな、とそのとき初めて気づいた。
道を歩く人が変な髪色の人とか、流石にイケメン、美人すぎる人とか多くいたから、何か作品の世界だと思っていた。
それが当たっていたが、「よう実」か。
──名前とキャラと大体の流れしか知らないけど大丈夫か?
「よう実」が好きな友達から「この娘がどうだ」や「綾小路先輩ヤバい」や「一之瀬さんマジ天使」とかくらいしか聞いたことがない。
友達があまりに熱心に言ってきたから、適当に2次創作の作品を軽く読んだことがあるくらいだ。
だから、作品の流れやキャラの名前は分かるが、実際の見た目とかは全然分からない。
──せめて見たことのある作品がよかったと、自分を転生させたであろう神様に愚痴った。
「ええ···自分で言ってはなんですが、私も特徴的な見た目だと思うのですが」
確かに、本の中から出てきたような見た目の女の子を知らないなんておかしいと思うかもしれないが、僕は勉強と運動にしか興味がなかった。
せっかくアドバンテージがあるんだ、それを活用すれば僕は「天才」のままいられると思ってた。
「────そう、なんだね────アリスちゃんって呼んでいい?」
友達はこの子のこと、「坂柳さん」って呼んでたけど、僕には「アリス」の方がしっくりきた。
「──よろしくお願いしますね、
「人を信じない」と友達が言っていた通りだ。──ちょっとずつ距離詰めていこう。
「あーうん、よろしくね、坂柳ちゃん」
ドSロリになんてさせない!と僕は息巻いた。
この時のアリスちゃんは可愛かった。今もバスの隣で座ってる姿も可愛いけど、純粋な可愛さがあった。
──このころのアリスちゃんを返して欲しい。
──いった!!小指死ぬ!!!杖は僕の小指を殺すものじゃないよ!!!
「チェックメイトですね···白兎君、やっぱりよわよわですね」
「僕初めてやったから確証はないけど、大分前から終わってたよね?──アリスちゃん、ほんとに性格いいね」
「あら?私が途中でリザインを認めるほど、優しいと思ってるんですか?···これほど長い付き合いだというのに分かってませんね」
「まだ1年強くらいだけどね──はいはい、僕の負けですよーだ。で、そんなにイライラしながらチェスしても楽しくないでしょ?昨日何があったの?」
「···何もありませんでしたよ···」
「そんなに苦しそうな顔してたら誰でも分かるよ?──アリスちゃん負けず嫌いだから、誰かにチェスでボコボコにされちゃっt···いッ、たッ!!!──足の小指がッ!!」
「ふふっ···そこまで分かってて私の逆鱗に触れるとは···愚かですね♪」
「────ま、これでアリスちゃんの機嫌が治ったんならよかった」
ごめんなさい。過去の、そして未来の僕。
聞いてた通りのドSロリに近づくのを止められませんでした。
今では僕の足の小指を重点に狙ってきます。
「ここが痛いんでしょう?」と言わんばかりに急所をついてきて、僕が悶絶してる声と顔を視認して、恍惚の表情を浮かべてます。
なんて恐ろしい7歳なのでしょうか?
7歳になった僕たち。もうはっきりと上下関係が出来てしまいました。
前世の年齢は覚えていないが、精神年齢20は余裕で越える僕と、普通の7歳の彼女。
上になったのは僕···ではなく彼女のほうでした。
兎がアリスの上になることはないし、アリスが兎を従えてるのが当たり前。
と、自分で自分を納得させてました。
けど、流石に幼少期のころの「天才」なんて続かない。この子ほどの「天才」だとしても油断してたら、「天才」ではなくなる。
いつかは僕が追い抜いてやる!!!
そのために努力できることは死ぬ気でやる!!!
そう決意しました。
それがどんなに愚かなことだと気づくのに時間はそれほどかかりませんでした。
頭を使うもので、僕がアリスちゃんに勝ったものなんて一個もなかったと分からされてしまうとは、
このときは思ってませんでした。
「結局引き分けのままでしたね」
「···ずっと僕らは満点のままだからね。
──よかった、これでアリスちゃんに負けなかったものができた」
「────白兎君、高校どこに行くか決めましたか?」
「んー、いや全然。アリスちゃんは?」
「そうですか、ならよかったです。余計な手間が省けました」
「ん?手間?···で、アリスちゃんは?」
「ふふふ···すぐに分かりますよ」
「???」
悪い笑みを浮かべ、僕の頭をペットみたいに撫でた。
──この子にとって僕は愛玩生物なんだろうなぁ···と確信するほど、中学生になってからの3年間、僕はペットみたいな扱いを受けていた。それが結構嫌だった。
僕はアリスちゃんと友達か、または恋人関係になりたいって思ってる。けど、今の主従関係を続けてたらそのどちらにもなれない。だから、従者であることは否定してる。
僕の人権はギリギリあるんだよ。
その後すぐの進路相談で、僕がアリスちゃんのお父さんが理事長?を務める「高度育成高校」に行くことが確定事項になっていた。
──僕には人権というものがないらしい。
あら?兎さんは
ですから、
と、頭の中のアリスちゃんが言ってきた。
···さすがに現実のアリスちゃんがこんな酷いこと言うとは、思···える···
全ては過去の自分がドSロリになるのを止められなかったせいだ。
アリスちゃんは悪くない。
──そう思うしかなかった。
誰かから肩を揺さぶられ、目が覚める。
「白兎君、起きてください」
「──ぅん?···あ、寝ちゃってたのね···アリスちゃんごめんね」
「いえ、白兎君の寝顔を見ていたので退屈しませんでしたよ」
「···そっか、ならよかったよ」
「ええ···ですが、もう着いてしまいました···降りますよ」
「オッケー。さ、お嬢様。お手を」
「ふふっ──従者精神が根付いてきましたね。いつもありがとうございますね」
「何度も言うけど、僕は君の従者じゃないよ?」
「そう簡単に折れないところもいいですね···白兎君、そろそろ行きますよ」
「分かってるのかなぁ。アリスちゃん、そこ段差あるから気をつけてね」
「ええ、分かってます」
アリスちゃんの手を取ってバスを降り、僕たちの新たな学舎に行った。
アリスちゃんの機嫌が良さそうでよかった。
友達が言っていた「その世界は実力が全て」という言葉が僕を突き動かし、あらゆる面で努力してきた。
だから不良品のDクラスはないし、我が強いらしいCクラスではないだろう。アリスちゃんが待ち構えるAクラスか、大天使一之瀬さんがいるBクラスか。Bがいいなぁ···平和そうだし···
「白兎君、
「────うん、よろしくね」
神は、アリスちゃんのお父さんは許してくれなかったみたいだ。
ジーザス。
これで小学1年生以外、ずっと同じクラスであることが確定してしまった。
──アリスちゃんが隣にいると、他の人が話しかけてきてくれないから困る。
それが高校でも続くのか、と悲観的になった。
「──白兎君気づいていますか?」
カツンカツン、と杖をつく音が響く廊下でアリスちゃんが疑問を投げかけてきた。
「ん?あー監視カメラのこと?···めっちゃあるねー」
「ええ。過剰といえるほど付いてますね──それほど付ける理由は何なんでしょうね?」
「──もう既に分かってそうだね···僕には分かんないなぁ···」
「ふふふ···そうですか、残念です」
「──アリスちゃんが楽しそうでよかったよ」
「ええ、楽しいですよ。『私が退屈しない場所』とは一体どんなところなのか、期待しかありません」
「ま、アリスちゃんのお父さんがそう言うならほんとに退屈しない場所なんだろうね──アリスちゃんが」
「···それに白兎君もいますからね」
「ん?アリスちゃんなんか言った〜?」
「···いえ、何も言ってませんよ。それより白兎君?階段ですね」
「うん、階段だね」
「···白兎君?」
アリスちゃんは僕の名前を呼び、腕を広げた。
いつも通りの光景だ。
「はいはい、お嬢様は欲張りですね」
「ふふっ···しっかり運んでくださいね?」
「分かってますよー、アリスちゃんもしっかり掴んでてね」
僕がしゃがみ、アリスちゃんが腕を僕の首に回した。ちゃんとスカートの中が見えないように配慮し、アリスちゃんを持ち上げた。
階段を使うとき、
小学低学年では手を繋いで手伝った。
小学中高学年ではおんぶした。
中学では、いつのまにかこのようにお姫様抱っこになっていた。
中学で1度お姫様抱っこを強請ったアリスちゃんに、「杖があるから、おんぶとは違って出来ないよ」って言ったあとすぐに、杖を折りたたみしきのものに変えていた。
そこから断る口実がなく、ずっとこのような体勢で運んでいる。
色んな人から好奇な目を向けてくるのはいい。
だけどな、生温かい目で見てこないで!!!
「──昔と比べて、大分逞しい体になりましたね」
おんぶしてくれた小学生時代、今みたいにお姫様抱っこしてくれた中学生と比べ、彼の身体は逞しくなりました。
アルビノという先天的特徴の色素の抜けた白い髪と肌に赤い瞳。
可愛らしい兎を連想する顔。男性にしては少し低めの身長。
本当に可愛いです。
ですが、可愛いだけが彼の取り柄ではありません。私ほどではありませんが、学力が高く知性もある。
「まぁね、昔から女の子乗せてるし、落とさないように鍛えてるから」
運動も全て平均以上もこなし、部活動で頑張っていたテニスでは全国に行くほどの実力を持っています。
ただ、それらのことよりも彼の良いところがあります。
「ふふ···その女の子は幸せものですね」
優しさ、善意の塊というのが彼の1番良いところだと思います。
彼は私を絶対に裏切らない。
そう思えるほどの人が幼少期からいたことは私にとって幸せでした。
本当に感謝しています。
「────そうだったら嬉しいよ────アリスちゃん、そろそろ着くよ」
ああ···もう着いてしまう···
──彼を独り占めできる時間が終わってしまう。
彼は私のことを見ているようで見ていないときがある。「なんで?」とは聞けません。
──私は彼の主人ではありません。
ずっと従者だと言っているのに、普段否定しない彼でもそれだけは否定してきます。
頭も撫でられるのも嫌そうでしたので、
『ペットが喜ぶ方法!』といった本でペットの撫で方を会得したのち、
頭を撫でると目を細め気持ち良さそうにしてました。
···ほんとにペットにしたくなります。
ですが、それも拒絶されます。
そして、恋人なんて甘いものでもありません。
彼が望み、浮気をせず一生を共にする決意があるのなら、私もやぶさかではありませんが、
彼は
しかし、だからといって私に好意がないわけではない。
私たちの関係は一体なんなんでしょうね···?
白兎君、貴方は私のことをどう思ってるんですか?
評価やコメント、誤字報告など待ってます。