今回の話、1番時間が進むのが遅いです。
2日目の昼、
オレと堀北の2人はCクラスのベースキャンプ地へとやって来ていた。オレらを嘲笑うような顔をしながら、
『ポイントを切り詰め我慢を強いられる生活が嫌になるような夢の時間を──』
と謳っていたため、それにキレた堀北に連れられた。
···これは、想像以上だな。
「嘘でしょ···こんなことって、あり得る···?馬鹿、なの?」
思わずといった様子で口にした堀北の言葉に、オレも内心で同意する。
その光景は無人島生活と聞いて一般的に想定されるものとは真逆に位置していた。
仮設トイレやシャワー室が設置されているのは当然として、日光対策のターフ、チェアーにパラソル、スナック菓子にドリンク、果てにはバーベキューセットも用意されている。
普通のバカンスとなんら差し支えない。
砂浜に楽しげな悲鳴が響き、沖合には水上バイクが駆け抜けている。
Cクラスの生徒たちは夏の海をこれ以上ないくらいに満喫しているようで、
こいつらだけ別のことをしているようだった。──全てのポイントを使ったのか。
「どういうつもりなのCクラスは。ポイントを節約するつもりがないってこと?」
堀北もオレと同じ結論に至ったらしい。
こいつらは最初から真面目にするつもりがないらしい。
「確かめに行きましょう。Cクラスが何を考えてこんなことをしているのか」
「ああ···いや、少し待ってくれ」
堀北が一歩踏み出したときだ。後ろから聞き慣れた足音がしたため、振り返った。
「···1日ぶりだな、元気か?白兎」
1日ぶりに会うオレの友だちは日傘をさしながら、帽子と長袖長ズボン。そして手には手袋という完璧な対策をしていた。
今回の試験には不向きだな、お前の体質は。
「1日ぶりだね。まあ元気だよー···さすがにこの格好は暑いしからキツイけど···」
「···日傘に帽子、そして長袖長ズボンか。この夏のバカンスには不向きだな」
「知ってる···だから、がんばってアリスちゃんといっしょに休もうとしたんだけどね···中途半端だったらしい」
「そうか···堀北、こいつはオレの友だちの兎月白兎だ。こう見えて男だから間違えないでやってくれよ」
そう言いながら堀北の方を向くと様子がおかしかった。
いつもならオレが話しているところの間に入ってくる堀北が、何故か白兎を見て固まっていた。
···こいつ初見なのか?これだけ噂になっている白兎のことを?色々と遮断しすぎだろう···
「···あなたが、兎月白兎くん?」
「はい、僕が兎月白兎です。えーっと、この綺麗な女性が堀北さんで合ってる?」
···合ってるが、絶対一言余計だぞ。
──堀北の顔が赤くなってるの久しぶりに見たな。
それも羞恥やそういうのではなく、単純に照れているのか?
明日は槍でも降ってくるのだろうか。
「ああ、合ってるぞ」
「やっぱりそうなんだね!堀北さん、はじめまして。Aクラスの兎月白兎です。清隆くんとは仲の良い友だちで、清隆くんからよく『堀北さん』のお話聞いてて気になってました!別のクラスでも仲良くしてくれると嬉しいです!」
いつもより元気でテンション高めな挨拶、こういう白兎もいいな。
···って、いや待て待て、オレはお前に堀北の話をして···いや結構したな。白兎とはDクラスの話かなりするから、堀北の話も確かにした。
だが、その言い方だとお前が堀北に気があるみたいじゃないか?
「綾小路くんにも別クラスに友だちが···って、え?わ、私の?」
「はい!Aクラスに必死に上がろうとしている真面目な努力家。そして、自分の苦手なことから逃げずに克服しようとする、そういう強い精神の持ち主だって聞いたので!その精神の持ち主がこんな綺麗な方だったから驚きました!」
お前ポジティブに捉えすぎた。拡大解釈にも程がある。確かにその類の話はしたが、そんな綺麗な着地点ではない。美化しすぎだ。
──ほら見てみろ、今まで見たことがないほど堀北の顔が赤い。体調不良で精神が少し不安定のせいもあるだろうが、通常時でさえあの白兎の褒めは効く。
それが今体調不良で脆くなっているときに、元気づけられる言葉はその気がなければダメだろう。
──この試験終わったら坂柳に報告しよう。
「···そう、なのね···ありがと···それは、誰から聞いたの?」
あ、
「今までのは全部綾小路清隆くんから聞いたよ〜!」
こいつ確信犯か。
オレをニヤニヤしながら見て、爆弾を投下した。
──ふざけるな、そんな綺麗なことをオレが言うわけがないだろ。
堀北もそう思う···よな?
「その類の話はしたが、そんな綺麗な終わりではなかっただろ?お前は美化しすぎだ。堀北、こいつの言うことは話半分でいいからな···堀北?大丈夫か?」
白兎の発言から顔が赤いまま動かない。──ショートでもしたか?
そう思っていると、数秒後ようやく口をひらいた。
「···そう、なのね···綾小路くんがそのままのことを言うわけがないけど···そういう話はしてたのね···」
「うん。確かに僕の中で美化されてたのかもしれないけど、堀北さんのこと褒めてるのは事実だからね」
白兎、お前は口を開かないでくれ。話がややこしくなる。
まあ確かに、『成長はした』という話はしたが···
──これ以上のこの話をするのは分が悪い。
「──で、白兎ここに何しに来たんだ?」
「えっとね···あっ、清隆くんちょっと待ってね」
そう言い、右手に着けていた手袋を外し···てからもう一度着け、
左手の手袋を外し汗をタオルで拭き取って、堀北の前に出した。
「──堀北さん、握手しよ?友好の証ってことで!」
「え、ええ···大丈夫よ···兎月くん、よろしくね」
「うん、よろしく!···堀北さんってほんとに努力家だね。手が物語ってるよ、すごいね」
「手?···確かに昔からまめはあるし、傷もたくさんあるから···あまり好きじゃないの」
「そう?僕は好きな手だよ?···こうやって努力して何かを目指せる人だって分かるから」
「そ、そうなのね···さっき見た兎月くんの右手も努力の跡がすごかったわ···何か中学時代していたの?」
「あー、テニスしてたよ!体質のせいで、体育館でほとんど練習してたけど···結構真面目に取り組んでたから、そう言ってもらえて嬉しい!堀北さんは何してたの?」
「そうなのね、私は────」
──何かの間違いだろ。
あの堀北が人と握手しながら、表情柔らかに話せている···だと···!?須藤が見れば卒倒するぞ?···本当に明日は槍でも降ってこないとおかしいレベルだ。
···これは坂柳も心配する理由が分か···る···
『白兎君になにかあったら、容赦しませんので』
···え、もしかしてこれも入るのか?···もし、堀北が白兎のことを好きになったら、キレられるのは確実にオレなのか···
──止めよう。さすがにオレの身の危険を感じる。
それに、Cクラスのやつが話し声を聞いてか、来たはいいものの白兎と堀北がずっと話してるからどうしたらいいか戸惑ってるしな。
「──なるほど、お兄さんに憧れてそういうのしてたんだ!」
「ええ、あなたには兄や姉は「白兎、堀北そろそろ行くぞ。白兎をこんな炎天下の場所に居させたくないし、Cクラスのやつが迎えにきたぞ」···確かにこんな暑い場所で長居するのは危険ね」
「確かに、そろそろ日傘置きたいね···あ、Cクラスの人いるじゃん。僕龍園くんに呼ばれたんだけど···どこにいるの?」
「あ、龍園さんのところに案内しますね···」
ふぅ···なんとか重症程度で済んだか?···油断も隙もないな、こいつは。
「うん、ありがと···あ、堀北さんも日傘入る?──そんなに白くて綺麗な肌してるんだから、紫外線はお肌に悪いよ?」
「──兎月くんは私のことを一々褒めないと気がすまないのかしら?──本当に?」
「うん、結構広い日傘だからね、入っ···?清隆くん?」
「早く行くぞ、隣にはオレが入るから堀北は1人で行ってくれ」
「──ええ、そうするわ」
「大丈夫なの?──大分体調悪そうだから、心配だよ」
──あー、本当に鋭いし、坂柳が心配する理由が分かる。
こいつほっとけば、女性の1人や2人簡単に虜にして帰ってきそうだ。
「···なんのこと?」
「だってずっと顔赤くて熱ありそうだよ?···それに手握ったときの体温低かったし、脈も安定してなかったし···」
顔が赤いのは多分お前のせいだが、よく堀北が体調不良なの分かったな。
「堀北、安心しろ···白兎はそういうことを他人に言うようなやつではない」
「···兎月くん、私の体調話さないでもらえるかしら···」
「うん、大丈夫だよ···でも、気をつけてね···」
「ええ、気をつけるわ」
──致命傷で済んだか···?
白兎に会えたのは嬉しいが、堀北とか女子と一緒にいるときは話しかけるのを自重しよう。
ツンは褒めと可愛さで粉砕しましょう。
誤字報告など待ってます。
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