白兎とアリスちゃん   作:パッチワーカー

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僕の平穏が崩れた日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は君達に重要な話がある」

 

 今は担任の真嶋先生のLHRの時間だ。

 いつもとは違う先生の雰囲気によって、皆何が起こるのか不安半分期待半分って感じだった。

 

 期待半分は大体アリスちゃんと仲良くしてる人たちだ。その人たちは余裕がありそうな表情してた。

 LHR前の時間にアリスちゃんと意見のすり合わせをしてたから、アリスちゃんは原作通りクラスの支配に回るのだろう。

 

 アリスちゃん派閥になるだろう人は授業中真面目にしてたし、今回の話し合いで、アリスちゃんの支持がより一層固まることになりそうだ。

 

 

 ──さぁ、葛城くん。君は勝てるのかな?

 ──僕が8年間勝てなかったアリスちゃんに。

 

 負けるなら早く負けてね?

 ······あと、くれぐれも龍園くんの誘いには乗らないようにしてね。

 あれは詐欺でしかないからね。

 

 

 

 真嶋先生は黒板にABCDのアルファベットと数字をこう書き連ねていった。

 

 

 

 Aクラス 940

 Bクラス 650

 Cクラス 490

 Dクラス 0

 

 

 

 ──よかった、本当によかった。

 正確な数字を覚えてた訳じゃなかったけど、たぶんそれほど変動はないように思える。

 僕という異物がいても結果は変わらなかったんだね。

 

「これは1ヶ月間、君達1年生の授業態度や成績を各クラス毎に評価し、それをポイント化したものだ」

 

 茶柱先生はそういうのあんまり話さなかった記憶あるけど、真嶋先生は話すんだね。

 減点60だからかな?数える程しか私語してなかったし、居眠りなんて0だ。さすがAクラス。葛城くん派閥もすごいね。

 

「君達は書いてある通り940。見ればわかるが、各クラスの中で最高の評価だ。この高度育成高等学校の歴史の中で見ても、1年生の最初でたった60に抑えたのは偉業に等しい」

 

 真嶋先生が軽く拍手をしながら僕たちを褒めた。けど、大体の人分かってないみたいだから説明足りてないよ?

 

「······いきなりこういうことを言われても掴みづらいだろうが、まぁ簡単に言えば······君達は優秀な生徒ということだ」

 

 

 ま、それが1番分かりやすいね。

 そう真嶋先生が言うと、分かってなさそう人がおお、と驚きと嬉しさが混ざった声を挙げた。

 ──アリスちゃんたちは余裕綽々って感じだったけど。

 

 

「だからこそ、君達には今月94000ものポイントが振り込まれた」

 

「せ、先生!おかしくないですか?!これだけ優秀な生徒なら10万以上のポイントだってくれても······」

 

 それを聞き、真嶋先生は「はぁ」とため息をつき、こう言った。

 

「戸塚、君は何一つ疑問に思わなかったのか?」

 

「何を、ですか」

 

「高校の一生徒に毎月10万。

 そんな大金を学校が無償で与えているとでも?」

 

「それは······」

 

 ······ほんとにそれはそう。高すぎない?

 ──普通にクラスポイントの半分が支給されるとかでも良かったと思うけど?一介の生徒に渡していい金額じゃないよ。

 

 

 

 生徒の価値について説明して戸塚くんを黙らせつつ、

 真嶋先生は()を張り出した。

 

 

 ──よかった、()()()()()だ。

 

 

 そこには小テストの結果が記載されていた。

 神室さんは思ってたより低く、橋本くんは思ってたより高かった。さすがなんでもできる器用貧乏なコウモリ。それに、葛城くんもしっかりと高得点だった。

 

 けど、そうなることが決まっていたかのように、満点は僕ら2人だけだった。

 

 小テストの結果を見て、アリスちゃんの方を見るとただただ微笑んでいた。

 ──さっきまでは悪い顔してたのに、切り替え早いね。

 

 

 

 それから、先生は赤点のことやプライベートポイントの話をして過ぎ去っていった。

 

 そこからクラスの静寂は、僕の平穏は大きく崩れた。

 そして、こちら側というより、アリスちゃんに向かう人が多数いた。

 

 多くの人はアリスちゃんへの感謝を述べたり、葛城くんが注意してたことの正当性に驚いてたりしてた。

 

 

 ──比率的には同じくらいかな?

 ······葛城くんの方が男子主体でアリスちゃんの方は女子主体となっていた。

 

 

 グループ内の情報共有があらかた終わり、クラスの分かれ目がやってきた。

 

 

 減点されるであろう行為を推測できてたアリスちゃんを、葛城くんが攻め立てるという構図ができた。

 

 ──けど、アリスちゃんは「確証がなかったですから」や「言っても信じてはもらえないでしょう」と言い、煙に巻いていた。

 

 まあでも、確かにそんなことを言っても葛城くん派閥やフリーな人たちが納得するわけがない。

 

 彼らからすれば防げるはずのことだから文句が出るのも分かる。

 けど、アリスちゃんの言い分も分かる。まず、減点することすら知らないんだから。忠告の鬱陶しさだけが残ってしまうからね。

 

 だけど、葛城くんという甘々ちゃんな人は黙ってられないよね。

 

「それはそうだが······少しは態度が変わったかもしれない」

 

「ですが、それでも少しです。そうなのであれば、一度大きく減点を受けて、皆さんに危機感を覚えさせる方がいいのではないでしょうか?」

 

 やっぱりこの2人の価値観は真逆だ。

 アリスちゃんは好戦的でリスクを厭わない。

 反対に葛城くんは保守的でリスクを取りたくない。

 

 アリスちゃんは守るだけじゃなく潰しに行って叩きのめす。真正面からも行くし、意識外の背後から行く。

 

 葛城くんは違う。念入りに情報を探し調べ尽くす。そこから対策を練って取り掛かる。リスクを最小限にするにはどうすればいいか考える。

 

 ──話は平行線のまま進んでいくことが明白だ。

 

 

 葛城くんは、「アリスちゃんのことをリスクが大きすぎる。もっと慎重に考えるべきだ」と言った。

 対して、アリスちゃんは「そんなに慎重だと時間がかかる。リスクを負うのが嫌なら自分でもっと考えては?」と言った。

 

 ······今回の話し合いはアリスちゃんに軍配が上がるだろう。流石に読みの精度が高すぎて葛城くんの主張が弱くなってしまう。

 ······けど葛城くんの人望はこんなことで消えるほど脆くない。

 

 結局アリスちゃん派閥と、葛城くん派閥は見事分裂し、原作通りの展開になった。けど、そうじゃないと僕が対策できなくなるからよかった。

 今までもこれからも、1番恐るべきは原作と異なってしまうことだ。僕の知識が役に立たなくなるのだけは避けないといけない。

 

 

 過去を見ている葛城くんと、もう未来を見据えているアリスちゃん。

 ──視点が違えば話がまとまるはずがない。······これ原作ならどうやって止まったんだろ?

 

 そう思ってるときだった。

 

「······兎月、お前はどう思う?小テストで満点を取っている坂柳以外の意見が聞きたい」

 

 は?······まじか。葛城くんが僕に?

 ──どうって何のこと?リーダーの話かな?それなら僕の意見は1つだよ。

 

「······どうとは?······このクラスをまとまるリーダーがどっちがいいかって話?それなら僕がどっちに付くか分かってるでしょ?」

 

 多分アリスちゃん派閥に入ると思われてそうだけど、別に今はどっちにも入る気はない。

 ──葛城くん派閥には絶対に入りたくないけど。

 

「いや、兎月を見ていても坂柳派閥の人と行動を共にすることはほぼないだろう?······お前はまだ決めかねているのではないか?」

 

 あー、ちゃんと見てるね。確かに僕はアリスちゃんか橋本くんくらいだね、友だちって呼べるのは。神室さんは苦労仲間って感じだし。

 

 

 

 ──でも君のとこに入りたくなる要素は1つとしてないんだよね。

 

 

 

「······まぁ確かに、()はアリスちゃん派閥に入る気はないよ」

 

 そう言うと、アリスちゃん派閥の女の子や橋本くんが驚きの声をあげたり、アリスちゃんも少し目を見開いていた。

 

 ──珍しいね、そんな顔するの。

 飼い犬に手を噛まれる気分なのかな?──だとしたら、少し自惚れすぎだね。

 

「けど、葛城くん派閥にも入る気はないよ······これはずっとね」

 

 そう伝えると、仲間が1人できたと思い込んでいた葛城くん派閥の顔が渋いものになった。みんな表情豊かだね。

 

「なぜだ?······お前は坂柳の攻撃的な性格が嫌いなんじゃないのか?」

 

 ──ほう······よく僕を見てる。確かにドSな性格はあんまり好きじゃないけどね。

 けど、これはいわば「戦争」なんだよ?

 

 甘いことを言っている君には、指導者は向いてない。中間管理職がお似合いだよ。

 

 

 

「別に嫌いじゃないよ──正直に言うとクラスをまとめるリーダーがどっちになろうと興味ないよ······けどね、これはクラス同士の戦いなんだよ?それが分かってない君にリーダーは向いてないと思うし、なるべきじゃない」

 

 

 性格的に向いてないんだ、諦めた方がいいよ。

 あと、アリスちゃんのことを悪く言わせるように仕向けないでくれ。機嫌悪くなったら治すのは僕なんだよ?

 

 

 僕がそう言うと戸塚くんがキレてきた···ほんとに君は葛城くんのこと好きだね。

 

 葛城くん派閥の意見も、アリスちゃん派閥の目も全てめんどくさいなぁ······ま、後はアリスちゃんに任せて授業始まるまで、どっか行こ。

 

 

 

 

「白兎くん」

 

 僕を揶揄うときの目ではなく、いつになく真剣な眼差しだった。

 

「なに?」

 

 ···機嫌そんなに悪くなさそうでよかった。

 なんだかんだ、ちょっとは予測できてたみたいだね。

 

()は、ですか?」

 

 ──さすがアリスちゃん。ちょっと強調したところ気づいたね。···そうだね、()はかな。

 

「···うん、()は。アリスちゃんがこのクラスまとめたら全力で支えるよ。この身を捧げてね」

 

「───そうですか······ちゃんと帰ってきてくださいね?」

 

「分かってるよ」

 

 ······やっぱりアリスちゃんとの会話は楽しい。無駄なことを話す必要がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ、僕の平穏を壊してくれたんだ。せめて楽しく過ごさせてくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────高度育成高等学校データベース ────

 

 氏名:兎月白兎(うづきはくと)

 部活動:無所属

 誕生日:8月15日

 身長:160㎝

 体重:52kg

 

 ──評価──

 学力:A

 知性:A

 判断力:B

 身体能力:B -

 協調性:C -

 

 ──面接官からのコメント──

 

 小、中学と坂柳有栖とともに全テスト満点という成績を収めた。部活動でも中学校でテニス部に所属し、全国大会へと出場した。しかし、筋力自体乏しいと言わざるを得ない。

 また、自分から話しかける積極性はないが、教師や同級生、上級生からの評価も高く、クラスメイトとの交流で積極性を身につける事が期待される。

 面接での受け答えも良く、中学生を相手にしているより就活生を相手にしている気持ちになるほど、マナーや理路整然とした話し方が好感が持てる。

 アルビノという特徴を加味しても優秀な生徒だ。

 よってAクラスに配属することが妥当である。

 

 

 

 

 

 

 

 






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