Fate Grand Order 夢境界決戦記〜光の鍵と100の夢〜 作:黄昏の通りすがりの妄想家
ある日の夜、ミユのマイルームでは映画の上映会が行われていた。エンドロールが終わり、部屋が明転する。
「いや〜怖かったけど面白かった!」
ミユはコンをモチーフにしたクッションを抱えながら苦笑いした。
「良い映画でした。満足です。」
モルガンは涼しい顔で平然としていたが顔は満足感に溢れていた。
「アハハッ!ミユの見てる時の顔、中々面白かったわ!」
妖精騎士トリスタンことバー・ヴァンシーは思い出し笑いをしていた。
「次の彫刻のデザインにしようかと検討しました。」
「も〜ガラテアまで〜!」
フフッとガラテアは微笑した。
「そろそろ就寝の時間ですね。バー・ヴァンシーさん、ミユさん、ガラテアさん、モルガンさん、拙も呼んでいただきありがとうございました!」
「楽しめたのなら良かった。一緒に見れて良かったよ、グレイ。」
「また誘っても良いかしら?」
「は、はい!その時は師匠やライネスさんも誘ってよろしいでしょうか…?」
「映画とは大勢で見た方がより楽しめるとミユから教えられましたからね、次見る時はシアタールームを貸し切りましょう。」
「「賛成!」」
その後、一同は互いの部屋に戻り、ミユはベッドに入ると目を閉じた。
「Zzzz…」
するとドアがコンコンとノックされ、ミユの鼻でぷぅぷぅ縮んだり大きくなったりしていた鼻提灯がパチンと割れた。
「ん〜?お客さんかなぁ…」
寝ぼけ眼のミユはドアを開けた。
「はいは〜い…おや?」
思いがけないお客さんにミユはフッと眠気が覚めた。
「こんばんは…ミユ。」
「お休みのところごめんなさい。トナカイさん。」
ドアを開けるとそこにはナーサリー、アビゲイル、ジャック、バニヤン、ジャンヌ・リリィ、九紋龍エリザがいた。
「大丈夫。それより、もしかしてだけど眠れなくなっちゃったのかな?」
ミユはよっこいせとしゃがみ込んで子供たちと目線を合わせて訪ねる。息を合わせて頷く子供たち。
「それじゃあ皆んなで一緒に私の部屋で寝ようか。皆一緒なら怖い夢は見ないからね。」
「わーい!お母さんと一緒に寝れるー!」
「ジャック、静かにしないとダメなのだわ。」
「あたちたち、怒られちゃう…」
ミユの提案に子供たちは大喜びしていた。
「枕を持っておいで。今ベッドの拡張スペースを開けるから。」
ミユはいそいそとベッドの拡張スペースを開けて、シーツを整えると、タイミングよく子供たちが枕を抱えて戻ってきた。
「よし、消灯するよ〜」
「はーい。」
カチッとミユは照明を消した。
「お母さん…もう一つだけお願いがあるんだけど…」
「ん?なんでも良いよ、ジャック。」
ジャックは恥ずかしそうにもじもじしながら呟いた。
「…子守唄を歌ってほしいなぁ…」
「私も…お願い。」
バニヤンも恥ずかしそうに掛け布団を被った。
「よ〜し、じゃあ特別に歌っちゃおうかな。ただし1曲だけだよ。」
ジャックたちは顔をパァ〜っと明るくさせた。
ミユは咳払いをするとゆっくり静かに歌い始めた。
「♪〜」
心地よい歌声に子供たちはたちまちスゥスゥと寝息を立てて眠った。
「おやすみ。」
ミユは一人一人の頭を優しく撫でて、今度こそ眠りについた。
『皆、私には時間がない。取り返しがつかなくなる前に人類最後の希望を、遥か彼方で未来を守る星見の姫君を…呼んできてほしい。』
そう予言のように告げたスーツ姿の男性は闇の中に歩き出した。
『■■■■!』
キャラクター達が手を伸ばすが男性は闇の中に消えた。
不思議な夢を見る中、ヒューヒューと風が吹く音が聞こえ、ミユの身体を涼しげな風が包む。
「ん…」
「フォウ!フォーウ!」
(フォウくんが呼んでる…)
目を開けて身を起こすと、ミユは夜空の上に浮かぶふわふわな綿雲の上に寝ていた。
「え…えええええええええええ⁈」
「フォウ!(これは夢だね!)」
「う〜ん、間違いなく夢だね。でもティルナノーグじゃないなんて…もしかして誰かの夢に迷い込んじゃったのかな?」
ふわふわな綿菓子のような雲に筋斗雲のように乗ったミユは星空を見上げた。
「綺麗な星空…天然のプラネタリウムとはまさにこの事ね。にしても…なんだかピーターパンに出てきそうな風景だなぁ…」
(小さい頃、色々な童話の絵本を読んでいたけど、ピーター・パンは特に大好きだった…)
「もし奇跡が起きるのなら…会ってみたいな。ピーターパンに。」
ミユがちょっとした願いを口にするとキラッと光のようなものがミユの目の前を通った。
「うわっ!」
尻もちをついたミユは尻をさすりながら前を見ると、小さな光の球が幼い子供のような笑い声を上げながら舞い降りた。ミユは慌てて掌を向けると光の球がミユの掌の上に舞い降りると、パァッと弾けて一人の可愛らしい妖精が現れた。
「ウフフッ、ごめんなさい。」
「嘘…まさか君は…ティンカー・ベル⁈」
「フォウ、フォーウ⁈」
名前を当てられたティンカー・ベルは嬉しそうに頷く。
「えぇ!私はティンカー・ベル!ネバーランドに住む妖精よ!貴方は?」
「私はミユ。こっちはフォウくん。」
「フォウ!」
「よろしく、ティンカー・ベル。」
ミユの人差し指をティンカー・ベルは両手で優しく握って上下に振った。
「ティンカー・ベル。」
「あら、フルネームよりティンクって呼んでくれた方が私的には嬉しいけど?」
ちょっと拗ねたように言うティンカー・ベルにミユはティンカー・ベルのもう一つの名前を思い出した。
「フフッ…じゃあティンク。君がここにいるって事はもしかして…」
「ウフッ、貴方が想像している通りよ。ミユ。」
そこへ男の声が聞こえてきた。
「ティンクー!どこだー!」
「ここよ!ピーター!」
「!」
顔を上げると、黄緑色の服と帽子を身につけ、帽子に赤い羽のついた少年がこちらへ飛んできた。
「ティンク!ここにいたのか…心配したんだぞ。」
「ごめんなさい、ピーター。飛び回っていたら危うくこの子にぶつかりそうになってしまったの。」
ティンクはミユの肩に舞い降りた。
「君は…」
「こんばんは。初めまして、ピーター・パン。私はミユ。こっちは友達のフォウくん。」
「フォウフォウ!」
「ミユにフォウか…良い名前だね。僕はピーター・パン。ピーターって呼んでくれ。よろしく。」
「会えて嬉しいよ。よろしく、ピーター。」
ミユとピーターは笑顔で握手を交わした。
「君たちはどこから来たんだ?」
「実は…」
ミユはかくかくしかじかと二人に事情を説明した。
「なるほど、つまりミユ自身は今夢を見ているってことか…」
「そう言う事なんだ。それでフォウくんと夢飛行の最中にティンクと危うくぶつかりそうになったんだよね。」
「そう言う事だったのね。」
ピーターはしばらく考えていたが、やがて顔を上げた。
「よし、折角だしミユ、一緒にネバーランドへ行かないか?」
「わ、私を⁈ネバーランドに⁉︎」
「あぁ!」
「でも…良いの?私…」
「大丈夫さ、僕がいる!」
ピーターはミユに手を差し出した。ミユは恐る恐る彼の手を取り、立ち上がった。
「さぁ行こう!ティンク!粉を頼む!」
「任せて!そーれっ!」
ティンクがミユの周囲を飛び回ると、ティンクは妖精の粉を振り撒いた。
「わぁ…!」
「フォーウ!キャーウ!」
「いっくぞー!ミユ、心の中で楽しい事や幸せなことを思い浮かべてごらん?」
「楽しい事…幸せな事…」
ミユがそう呟くと脳裏に家族やカルデアの仲間たちとの日常が思い浮かんだ。
「なんだか飛べそうな気がしてきた!」
「よし!じゃあ行こう!」
ピーターは先導するように飛び、ミユも続こうと雲の淵に立った。
「信じるんだ!ミユ!君は飛べるって!」
「飛べる…わかった、やってみる!」
ミユは勇気を出して雲から飛び降りた。凄まじい風が包む中でミユは両手を広げた。
「大丈夫、やれる、絶対飛べる!」
すると光の粉がミユを包み込み、ふわっとミユは空中を浮遊した。
「飛べたー!」
「フォウ!トベタフォウ!」
ミユは両手を広げて夜空を舞い踊った。
「ほらな?飛べただろ?」
「うん!ちゃんと飛べたわ!」
ピーターは良かったと笑うと上昇した。ミユも後に続く。
「どこまで上がるの?」
「この雲の先よ!」
雲を突き抜けると見えてきたのは夜空に一際明るく輝く二つの星だった。
「綺麗な星…!」
「ネバーランドへの入り口だ!」
すると右の星の輝きが強くなり、ワープホールのようなものが現れた。
「行っくぞー!」
ピーターが飛び込んだのに続き、ミユは臆する事なくワープホールに突入した。
「わぁ〜!」
ワープホールを抜けると、ミユは明るい光に包まれた。そして視界が安定してくると、そこにはネバーランドやピノキオに登場したプレジャーアイランドなど、数多くの夢の国の要素が詰まった不思議な世界が広がっていた。
「凄い…!こんな素敵な所、初めて見た…ティンク、ここはネバーランドなの?」
「厳密にはちょっと違うのよ。でも見て。」
ティンクの指す方向を見ると、沢山の子供たちがはしゃぎ回り、お菓子を食べたり遊んだりして過ごしていた。
その頃、城では玉座に座った一人の男が水晶玉でネバーランドにやってきたミユを見ていた。
「フッ…」
男は手をかざすとニヤリと笑った。ミユはピーターと共に上空を旋回しながら様子を見ていた。
「子供たちがいっぱい…彼らはロスト・チルドレンなの?」
「それは…」
その時突然ミユに付いていた光の粉の力が弱まり、ミユはバランスを崩し始めた。
「きゃああああっ!」
ミユとフォウは草の上になんとか着地した。
「痛てて…大丈夫?フォウ…」
「フォウフォーウ!」
元気そうなフォウにミユは安堵した。
「大丈夫?」
「平気平気。それよりピーターは?」
「おーい!ティンク!ミユ!大丈夫かー!」
「大丈夫ー!」
ピーターは着地するとミユに手を貸して立ち上がらせた。
「ありがとう、ピーター。それよりもここは…」
「ああ、ここはネバーランドのエリアの森の中だね。ここは複数のエリアで構成されている世界なんだ。ほら、あそこに見えるのはシンデレラ城だよ。」
見上げると、遥か遠くに青と白の城が見えた。
「パークで見たのと同じだ…でも…なんか変だな?」
違和感を感じたその時、ミユの身体が光を放って消え始めた。
「ミユ⁈」
「あちゃ〜、そろそろ起きなきゃならないみたい。ごめんね、折角連れてきてくれたのに…」
ピーターとティンクは顔を合わせるとミユの方を向いた。
「ミユ、実は君をここへ呼んだのは僕たちじゃないんだ。それにここにいる子供たちは、実はロストチルドレンじゃない。」
「え…どういうこと⁈」
「あなたを呼んだのは私たちの生みの親よ。それにこれは忠告ね。」
ティンクは消えかかるミユの耳に囁く。
「…これから貴方は夢にまつわる大いなる戦いに巻き込まれることになる。お願い、私たちの仲間を、生みの親を…助けてほしいの。」
「生みの親…ってそれってまさか!」
次の瞬間、ミユの視界が暗転し、足元が崩れてミユは光の穴へ落ちていった。
「うわあああああ…」
ハッと目を覚ますと、ミユはカルデアのベッドの上に寝ていた。隣では子供たちが眠っている。そして遅れるかのように目覚ましのアラームが鳴った。
「夢…か。」
ミユにもたれかかるようにジャックが眠っている。もぞもぞと動くジャックをミユはそっと撫でた。
「お、起きたか。」
「おはよう、ミニくーちゃん。」
「おう。」
枕を整えながら枕元の守護者の一人であるミニくーちゃんが挨拶する。
「皆、朝だよ〜!そろそろ起きようね〜」
ミユの声にナーサリー達は起きた。
「おはよう、ミユ…」
「ふわぁ…まだ眠い…」
眠たそうに瞼を擦る子供たち。
「おはよう。ナーサリー、ジャック、バニヤン、アビー、ジャンヌ、エリちゃん。」
一人一人の名前を呼び、一日の始まりを迎えるミユ。
「さてさて、エミヤの朝ごはんに遅れないように急いで食堂に向かおっか。」
「「はーい!」」
元気な子供たちと共にミユは食堂へ向かった。道中スタッフやサーヴァント達とすれ違い、互いに挨拶を交わす。
「おはよう!」
「おはよう御座います!」
「おう、おはよう。」
朝の雰囲気に包まれるストーム・ボーダー。ミユは食堂に着くとエミヤにモーニングメニューを頼んだ。
「ふわぁ〜…おはよう、エミヤ。」
「おはよう、ミユ。寝不足か?」
「う〜ん、ちょっと違うかな…でもエミヤの朝ごはん食べたら眠気も吹っ飛ぶかな〜」
待ちきれないと言わんばかりにミユは目を輝かせた。その様子を見てエミヤは苦笑いするとプレートに朝食を載せてミユに渡した。
「そら、お待ちかねだ。」
「ありがとう、エミヤ。」
それからミユが席に着くと、扉が開いてマシュがやってきた。
「おはよう、マシュ。」
「おはよう御座います。先輩。今日も良い朝ですね。」
互いに笑顔で挨拶するマシュとミユ。マシュも朝食を注文するとミユの隣に座って食べ始めた。
「あ、先輩。ダヴィンチちゃんから伝言で朝食を食べ終わったら管制室に来てほしいとのことです。」
「あら、何かあったのかな?」
「詳しくは分かりませんが、新しい発明品でしょうか…」
うーんと二人が考えていると鼻歌を歌いながらゴルドルフ所長がやってきた。
「おはよう御座います、ゴルドルフ所長!」
「おはよう、諸君。朝の挨拶をしっかりできるとは良いことだ。」
ゴルドルフは自分の朝食を持ってくると二人の前に座った。
「わぁ…所長のベーコントースト、美味しそうです。」
「フォウくんが狙いそうですね。」
ミユが悪戯っぽい笑顔を浮かべるとゴルドルフは辺りを警戒した。
「む、フォウに狙われんように気をつけねば…」
警戒するゴルドルフを見てミユはクスッと笑った。
その後、朝食を終えたミユはダヴィンチに会いに管制室へ向かった。
「ダヴィンチちゃ〜ん。来たよ〜。」
「いらっしゃい、ミユちゃん。待ってたよ!」
ミユを迎えたダヴィンチはミユをこっちこっちと案内した。
「何々〜?また新しい発明品?」
「ふふ〜ん、バレちゃったか〜」
ミユはフフッと笑った。
「それでは私の新発明をお見せしよう!おいで!」
パタパタと羽音を立てて一匹の真っ白な伝書鳩が飛んできた。
「わぁ…この子ってもしかして…!」
「そう!今回の私の新発明は、伝書鳩エールさ!因みに前にミユちゃんの家族に会いに行った時、キリカちゃんにお願いされたんだ。『妹が心配だからなにかやり取りできる方法はない?』ってね。そこで私は以前妖精國で使ってたティフォーネの応用で伝書鳩を作ってみようと考えたんだ。」
「それで完成したのが、この子ってわけだね。」
「あぁ、丁度手紙を貰ってきたみたいだから読んでみて?」
「ありがとう。」
ミユはエールの足首にある小さなカプセルから巻物のように巻かれた手紙を取り出した。するとドアがノックされた。
「はいはーい。入ってくれたまえ〜」
のんきにダヴィンチが言うとやって来たのはシャルルマーニュだった。
「よ!ミユ!」
「シャルル!やっほー!」
ハイタッチしたシャルルはミユの肩に止まっている伝書鳩を見て目を輝かせた。
「お!新しい発明品か⁈」
「ダヴィンチちゃんお手製、伝書鳩のエールだよ。エールはフランス語で…」
「知ってる。翼だろ?」
嬉しそうにミユは頷いた。
「電話じゃやり取りできないこともあるから、文通で私とやり取りしたいってキリカ姉さんがダヴィンチちゃんに注文したんだって。でも嬉しいな。私も家族に連絡できないのは嫌だったから…」
「そっか…今まですまなかったね。ミユちゃん。」
謝罪するダヴィンチをミユは優しく嗜めた。
「ダヴィンチちゃんが謝る必要はないよ。それより今は家族からの手紙を見たくてたまらないし。」
「俺も見ていいか?」
「勿論。」
ミユは手紙の便箋を開けて紙を広げた。
「何々…えっ…そんな!」
あまりのショックに倒れそうになるミユを慌ててシャルルが支えた。
「お、おい!大丈夫か⁈」
「一体何が書かれてあったんだい?」
シャルルが手紙を見ると、そこには衝撃の内容が綴られていた。
『ミユへ。こうして貴方と文通できる事を嬉しく思います。突然ですが、アキホが先日の夜から行方不明になってしまいました。一体何が起きていると言うの…?』
「アキホちゃんが行方不明⁈」
「えぇ…キリカ姉さんからの手紙にそう書かれてたの。昨日の夜、自分の部屋のベッドに入ったのを見たのが最後らしくて…朝になって部屋に行ったらいなくなってたって…」
ミユは突然いなくなってしまった妹を思い出して頭を抱えたが、アルトリアやヨハンナが寄り添ってくれていた。
「大丈夫だよミユ、アキホちゃんはきっと無事ですよ。」
「そうそう、手がかりさえ見つけられればきっと…まだ希望はあるわ。」
「ありがとう、アルトリア、ヨハンナ。」
その頃ダヴィンチ達は緊急でミーティングを行っていた。
「近日中のニュースを調べた所、ここ数週間で世界各地で子どもが夜になると行方不明になる事件が相次いでいます。始まりはアメリカ…そこから徐々に近接する国から子ども達が夜な夜な消えたと。」
「まるでハーメルンの笛吹きだな…」
「ダヴィンチちゃん、攫われた子ども達は今どこに?」
マシュの質問にダヴィンチは首を横に振った。
「それが、手がかりが全くと言って良いほどないんだ。痕跡も何一つ残す事もなく、子どもたちを攫うだなんて…」
「ふむ…始まりはアメリカか…」
「アメリカから始まったことにもしかしたら意味があるかもしれません。ただ…」
「ただ?」
「今回の事件はもしかすると、人理を揺るがしかねないかもしれません。下手すれば我々人類の未来が奪われかねない事になるかと。」
その夜、ミユは眠りにつくとティルナノーグの玉座にて目を覚ました。
「おはよう御座います。我が主。」
騎士の一人であるアルタイルが出迎える。
「おはよう、アルタイル。アンリ達は?」
「各地に出向いておいでです。アンリ様はまもなく戻られますよ。」
そこへアンリがやってきた。
「あ!ミユ!良かった、昨日は大丈夫だった?」
「昨日…あ、その事なんだけどちょっと話したいことがあるんだ。」
首を傾げるアンリにミユは昨日見た夢を伝えた。
「という事なんだ。」
「そんな…アキホが⁈」
ミユは悲しみで顔を歪ませた。
「二度と巻き込まないと誓ったのに…」
叶わないミユの願いにアンリは心を痛めた。
「我が主…では貴方はこれから…」
「アルタイルの考え通りだよ。勿論アキホを助けに行く。その為にももっと情報が必要なんだ。それに…私が昨日見た夢にもヒントが隠されてるかもしれない。」
ミユは立ち上がり、王笏をコンッと床に軽く突くと世界各地の映像が流れた。そこには消えた我が子を想い、涙を流す大人たちの姿があった。
「ねぇ、ミユ。」
「ん?なに?」
ミユの肩に舞い降りるアンリ。
「もしもこの世に、すべての願いが叶う、現実になる、そんな場所があったら…この汎人類史から争いや悲しみ、憎しみを無くすことってできるのかな。」
突然の言葉にミユは一瞬黙ったが、首を横に振った。
「それはきっとできないよ。人の願いや願望っていうのは確かに、叶えればより良い明日や未来を創る礎になる。」
ミユの右上にある水晶に映る明るい未来のビジョン。
「でもそれが悪しきもの、歪んだものなら…それは破滅を呼ぶものにもなってしまう。無垢な願いが喜びや楽しみをもたらす時もあれば、無垢ゆえの願いこそが悲しみや憎しみを呼ぶ災いの元にもなる時もある。」
ミユの左上に現れる世界各地で起こる戦争や紛争が流れる水晶。
「汎人類史っていうのは、叶ったり叶わなかったりした夢や願いで出来ているのかもね。」
「誰かの願い….か。そういえばミユの願いって一体何なの?」
「私の願いか…それは…」
ミユが答えようとした矢先、アルタイルが気配を感じて立ち上がった。
「侵入者です!」
「何ですって⁈」
ミユは嫌な予感を察した。
「行ってくる!」
ミユは指笛を吹くとペガサスを呼び、飛び乗って駆け出して行った。
「急いで!」
ミユを乗せたペガサスは急降下した。ミユの目に映ったのは蝶の大群に追われるユーリだった。
「助けてー!」
ミユは剣を顕現させた。
「伏せて!」
ミユはペガサスから飛び降りると蝶の大群に向けて剣を振り下ろした。
「ヴェンタス・ストーム!」
振り下ろされるのと同時に豪風が吹き荒れ、蝶の大群は次々と薙ぎ払われた。
「ふぅ…大丈夫⁈」
ミユは剣を納めるとユーリに駆け寄った。
「ミユ様…大丈夫だよ。」
「一体何があったの?」
「それが…花畑で遊んでたら急に蝶の大群が現れて…何故か私だけ狙われたの。」
(何故…?そういえばこの子は私の家族との思い出から生まれた子…まさか)
「とにかく、早く家族の元へ帰った方が良いかも。今頃心配していると思うから。」
「う、うん!ありがとうミユ様!」
「またね。」
ミユは手を振ってユーリを見送ると紫に妖しく煌めく鱗粉が辺りに降り積もっていることに気づいた。
「何だ?この鱗粉は…」
ミユの身体に鱗粉が触れた次の瞬間、ミユの視界が歪んだ。
(頭が…くらくら…する…)
油断したのか鱗粉を吸ってしまったミユは激しく咳き込み始め、膝をついた。
(ダメだ…呼吸できない…!この鱗粉のせい…なの?)
ミユは段々と意識が遠くなり、その場に倒れてしまった。
『フフ…人理を守った小娘なぞ、所詮はこの程度か。』
「誰…だ…?」
ゼーゼーと呼吸をする倒れたミユの元へ鱗粉から新たに発生した蝶たちが集い始める。
(お願い…誰か…助けて!)
ミユの願いに応じるように両耳に輝く太陽の形のピアスが黄金の光を放った。暖かな黄金の光がミユに取り巻く蝶や鱗粉を跳ね除け、そこへ運良くアンリたちも駆けつけた。
「ミユ!」
「ミユ様!」
ミユは激しく咳き込みながら身を起こした。アンリはミユの元へ羽ばたき、ベガとスピカも駆け寄り慌てて介抱する。
「大丈夫⁈怪我は…」
「大丈夫だよ…まだちょっとフラフラするけど…」
ベガは癒しの音色をハープで奏でるとミユの体を癒した。
「ふぅ…やっと怠さが消えた…ベガのハープ、やっぱり凄いね。」
「お褒めに預かり光栄です。貴女が元気になって良かった。」
ミユは太陽のピアスを外すと見つめた。
「私を守ってくれた…?」
「きっと、そのピアスにはミユ様を御守りする加護が込められているのでしょう。それを作った者の心が感じられます。」
スピカに言われたミユは嬉しそうにピアスを耳に付け直した。
(ありがとう、カルナ。)
ふと一陣のやや強い風が一同を吹き抜けた。見ると空模様が曇ってきている。
「この世界で私をここまで苦しめられるなんて…一体何者なの?」
その後ミユは目覚ましの音で目を覚ますと誰かが自分の頭を優しく撫でているのがわかった。
「起きたか。ミユ。」
目を向けるとマットレスに腰掛け、ミユの頭を撫でているカルナがいた。
「ん…おはよ…カルナ…」
ミユは大きく伸びをするとゆっくりと起き上がった。
「ふぅ…」
「長らくの間魘されていたが…何かあったのか?」
「うん。正直危なかったよ…あのまま貴方がくれたあのピアスが無かったらどうなっていたことか…」
「俺の施しがお前を守ったのなら、それは俺にとって本望というやつだ。でも…ミユ、お前が無事で良かった。」
「カルナには、いつも助けてもらってばかりだからね。お礼を言うのはこっちの方だよ。ありがとう。」
「そうか…そうか…」
口下手だがそこに込められたカルナの優しさにミユはフフッと笑った。
「さてと…とりあえず調査の続きをしなきゃだね。」
それからミユは朝の支度を済ませるとPCに向かい合って事件に関する世界各地のありとあらゆる記事を調べ上げ、ノートにまとめ始めた。
(始まりはアメリカ…そして北米から南米、ヨーロッパ、アフリカ、アジア…いなくなった子どもの総人数は約半分に上るのね…)
予想以上に早く広がる被害にミユは目丸くした。
『しかし…こんな事ができるなんて一体どこのどいつなんだ?』
ミユの手伝いもといからかいに来たタカスギAIが記事をのぞいている。
「こんなこと出来るなんて神様ぐらいだと思うよ。それも夢にまつわる…うーん、候補は絞れるけどキーワードが少なすぎる。」
これまで以上に頭を捻らせるミユ。その時、ドアがノックされた。
「はーい。」
「ミユか?入るぞ。」
やってきたのはプトレマイオスだった。
「プトレマイオス、どうしたの?」
「いやなに、お前が何やらとある事件について調べ物をしていると聞いてな、吾も何か力になれればと思ったんだが…」
プトレマイオスの申し出にミユは目を輝かせた。
「ありがとう、プトレマイオス。丁度貴方の力も借りたいぐらい困窮していたんだ。手伝いに来てくれて嬉しいよ。」
「そうかそうか。ならば吾も自慢の図書館を展開しよう。むっ…!」
そう言うとプトレマイオスは固有結界を展開させ、ミユと共にアレクサンドリア図書館へ移動した。
「いつ見ても凄いなぁ…」
「さて…検索を始めようか。」
プトレマイオスはフフッと笑った。
「よろしくね、プトレマイオス。」
それからミユはプトレマイオスの力を借り、調べ切れていなかった事件のキーワードとなりそうな事柄をノートに書き記した。
「ふぅ…とりあえずこれぐらいかな。」
「書き記せたか?」
「バッチリだよ。ありがとう!」
「お役に立てたのなら何よりだ。それよりもミユ、あまり無茶はするなよ?少し休息を取るべきだ。」
「そうだね…そうするよ。」
プトレマイオスはミユと共にストーム・ボーダーへ戻ると仮眠を取るミユを見届けて退室した。
「アキホ…一体お前はどこに…?」
ミユは妹を想いながらいつの間にか眠ってしまっていた。眠りに落ちたミユは暗い闇の中をふわふわと落ちていた。
「あれ?ここは…」
下を見ると以前の夢の時にピーター達に見せられたネバーランドのような場所が見える。ミユの周囲に紫の蝶たちが舞い踊る。
「キラキラ…綺麗…」
『そう…ここは子どもたちにとっての夢の国。名は…イターナル・ネバーワールド。』
「イターナル…ネバーワールド…」
すると闇の中から手が伸びてきてミユの足首を掴んだ。グッと引っ張られたミユはどんどん引き摺り込まれていく。
「きゃあっ!」
『早くおいでミユ…ここがお前の…』
謎の声が最後に何か呟いたがミユは意識が朦朧としており、聞き取れなかった。その時、ミユのペンダントが輝いてアンリが飛び出した。
「それ以上ミユの心に触れるなー!」
光を纏ったアンリがミユの足首を掴む黒い手にぶつかると手はミユの足首を離した。瞬間、蝶たちが消え去りミユは正気に戻った。
「!私は一体…ってアンリ⁈」
「良かった!間に合った!」
アンリはミユの頬に両手を添えた。
「ミユは無事よ!来て!」
アンリの叫びと共に巌窟王達が現れた。
「岩窟王!アビー!オベロン!」
アビゲイルは一目散にミユの元に駆け寄った。
「大丈夫ミユ⁈アンリに導かれてここまで来たんだけど…」
「アンリが?」
ミユがアンリの方を向くとアンリはVサインをした。
「四対一とはこちらが不利だな…」
「お前は何者だ⁈」
「フフッ、私の正体を知りたくば私の元に来るがいい!カルデアのマスター、ミユよ…次の狙いはお前の家族だ…」
ミユはハッとして青ざめると現実の世界に引き戻される形で飛び起きた。
「ユウタとナツキとミユキが危ない!!」
ミユはマイルームから飛び出し、素早く着替えるとネモに甲板に出る許可を得て、アキレウスを呼び出した。
「アキレウス!お願い!私を妹達のところへ早く!」
「お、おう!事情は分からんが任せろ!」
「先輩!私も行きます!」
「俺も行くぜ!」
マシュとシャルルマーニュも名乗りをあげ、ミユはマシュと共にアキレウスの戦車に飛び乗ると、シャルルは隣を青い翼で並行飛行しながら猛スピードでミユの自宅へ駆けた。
その頃、ミユの自宅ではユキエが窓から外の様子を見ていた。空には満点の星々が輝いている。
「・・・・・・・」
その時、緑色の光がこちらへ向かってくるのが見えた。
「あれは!」
ユキエが外に出ると、アキレウスの戦車に乗ったミユが飛び降りて、ユキエの元へ駆け寄る。
「母さん!」
「ミユ!一体どうしてここに…」
ユウタとナツキとミユキを除いた家族全員が突如やってきたミユに驚いて庭に出てきた。
「話は後!それよりも…っ⁉︎」
突如空に雷鳴が走った。
「なになに⁉︎こんな夜中に雷⁉︎」
「ってミユお姉ちゃん!それにマシュ姉ちゃんも!」
稲妻に驚いたのかユウタとナツキも起きてきた。
「ダメだ!家の中にいなさい!早く!」
『フフフフフフ…ハハハハハハ!』
波動のような笑い声が何処からか聞こえて来る。
「なんだ?この憎悪に満ちた邪悪な笑いは…!」
「この声…さっき夢で聞いたのと同じだ!」
『時を超えて旅せし星見の乙女、ミユよ。先の予告通りお前の兄妹たちは連れて行く。さぁ…行くが良い!我が僕どもよ!』
次の瞬間、空から無数の黒紫の蝶達が襲いかかってきた。
「きゃああああっ!」
怯えるナツキは悲鳴を上げた。
「兄さん達はユウタとナツキを守ってて!行くよ皆!」
(偉大なる神、伊弉諾神と伊弉冊神よ…どうか私に力を!)
ミユの祈りに応じるかのように祭壇に飾られていた三つの家宝がミユの元へ飛んできた。
「私も加勢するわ!」
無数の黒紫の蝶は群を成し、まるで巨大な生き物のようにミユ達に襲いかかって来る。
「吹っ飛べ!」
アキレウスは華麗な槍術で蝶の渦を薙ぎ払って行く。
「はぁっ!」
シャルルマーニュもジュワユーズを駆使しながら蝶の大軍勢を凍らせたり、焼き払う。
「ハイアングル・トランスファー!」
メリュジーヌ直伝の技を使い、押し寄せる蝶の大群を追い払うマシュ。ミユも矛を片手に家族を守りながら戦っていた。
「ちっ…このままじゃ埒があかないわ!」
ミユは弓を構えると空に向け、弦を引いた。
「暗闇を祓え!口寄せ・金鵄!」
すると金色の光が放たれ、日本の伝説の生物である金鵄が現れた。金鵄は羽ばたくと光を放ち、黒い蝶達を祓って行った。
「すごい…!」
「しぶとい…だが!』
その時、ミユは咳き込んでしまった。
「先輩!大丈夫ですか⁉︎」
ミユは蝶達を倒した際に降り注いだ鱗粉を吸ってしまい、幻覚症状に見舞われていた。
「うぅ…っ!」
「先輩!しっかりしてください!先輩!」
『終わりだな。』
声の主はフィンガースナップをすると蝶の軍勢達は従うかのように群れをなし、シャルルマーニュを吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
「シャルル!」
ヤバいと感じたアキレウスは素早く体制を整え、襲いかかってきた蝶達を受け止めたが押し返され、吹き飛ばされると池に落ちた。
「うぉっ!」
「アキレウス!」
マシュは辺りを警戒しながら盾を構えていたが、地面から生えてきた黒い荊に手首を拘束され、身動きが取れなくなってしまった。そこへ蝶達の猛襲を受け、倒れてしまうマシュ。
「っ!しまった!きゃああああっ!」
「マシュ!」
一人残されたミユは空を見上げた。無数の蝶たちが今にも自分を襲おうとしている。
(やらなければやられる…家族を守るのは私の使命!)
ミユは光と共にグランドセイヴァーの一臨姿に変身すると剣を掲げた。稲妻が剣に宿る。
「『霹靂神・麒麟』!!!!」
稲妻と無数の蝶たちがぶつかり合う。
「これ以上…家族に手出しはさせない!」
『本当に?ただの人間であるお前に…神である私を相手に守れるとでも?』
謎の影はミユの背後から両肩に手を置き、耳元でそう囁いた。瞬間、ミユの脳裏に守ることのできなかった人々や見殺しにした人々の映像がフラッシュバックした。
「っ!」
ピキッとミユの心にヒビが入り、グランドセイヴァーの姿から元の姿に戻るミユ。
「ダメ…私は….」
絶望するミユを痛ぶるように無数の蝶たちはミユを突き飛ばした。飛ばされたミユは地面に叩きつけられて転がる。
「ぐあっ!」
「先輩!」
ミユは痛みに耐えながら顔を上げた。すると蝶達は空高く渦を巻きながら舞い上がると絶句しているキリカ達に向けて一斉に降下した。
「やめろ!」
ミユは立ち上がって手を伸ばし、駆け寄ろうとした。しかし蝶の渦は次々と兄妹たちを呑み込んで攫っていった。
「うわぁぁぁぁ!」
「くっ!うわあああああ!」
「レント兄さん!ユウタ!」
キリカもナツキと共に逃げようとしたが渦に呑み込まれた。
「きゃああああっ!」
「キリカ姉さん!」
残ったナツキはミユの元に駆け寄ろうと走り、手を伸ばす。
「ミユお姉ちゃん…!」
「ナツキ…!」
ミユは伸ばされた手を掴もうとしたがそれを阻むように黒い蝶たちに阻まれ、ナツキも黒い蝶たちによって連れ去られていった。
「!」
『これでもう二度と、この悪夢からは目覚められない!ハハハ!』
「待て!兄さん達を返せ!」
ミユは走って追いかけようとしたが、兄たちを攫った無数の黒い蝶達はあっという間に空の彼方へ飛び去っていった。
「…!」
届くことのなかった手を伸ばしたまま膝をつき、絶望するミユ。
「レント…キリカ…ナツキ…ユウタ…なんて事…!」
涙を流し、その場に泣き崩れるユキエ。タケマサは泣く妻の背中をさすった。
「大丈夫かい?マシュちゃん。」
「は、はい…!」
「シャルル殿、アキレウス殿もお怪我はないか?」
「ああ、なんとかな。それよりも…」
ハルヨとリュウガがマシュ達を介抱していると暗い雰囲気を纏うミユが立ち上がった。
「先輩…!」
マシュはミユに駆け寄ったがミユは一言も発さなかった。
「…」
「ミユ…」
ミユは怒りと悲しみで拳を強く握った。
「母さん、父さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、待ってて。兄さん達は…」
そう言ってミユは顔を上げた。
「私が必ず連れ戻す。」
そう言ったミユの瞳は緑と赤が混じった色合いになっていた。
「っ!その目の色は…!」
ふと雲の間から光が差し込んできた。皆んなが夜空を見るとミユが以前夢で見たあの星と同じものが夜空に輝いている。
「あれは…⁈」
一同が空を見上げていると同時にミユも強い光を放ち始めた。
「なんだ…⁈」
あまりの眩しさに目が眩むマシュ達。
「…行かなきゃ。」
するとミユはグランドセイヴァーの姿に変身した。
「せ、先輩⁈」
「あの姿…グランドセイヴァー⁈」
「力の歯止めが効かなくなって、暴走してるのよ!」
ハルヨはミユを止めようとしたが眩い光に近づくことすらできなかった。
(取り戻す…奪われた全てのもの…待ってて、皆!)
一際眩しい光を放った瞬間、それまで迸っていた光が消えてミユは元の姿に戻り、その場に倒れ伏しそうになった。
「ミユ!」
シャルルマーニュが間一髪で受け止めるとミユは意識を失ったまま、眠っていた。
「ミユ!しっかりしろ!ミユ!」
「今のは…一体⁈」
ミユは規則正しい寝息を立てながら眠っている。
「まさか…たった一人でレント達の元に向かったんじゃ…」
アキレウスの言葉に戦慄するマシュ。
「早く追いかけないと!」
「あぁ、ここは一旦ボーダーに戻って態勢を立て直した方が良さそうだな。」
シャルルマーニュの提案に賛成するマシュ達。
「マシュちゃん…娘たちをどうかお願い。」
ユキエの頼みにマシュはユキエの手を取った。
「はい。必ず皆さんを連れ戻します。だからどうか…どうか心配しないでください。」
マシュは力強い瞳をユキエへ向けた。
「マシュちゃん、皆…気をつけてね…」
ストーム・ボーダーへ戻るマシュ達を見送る前に、ユキエはシャルルマーニュに抱えられたまま眠るミユの頬とマシュの頬にキスした。
「はい!」
そしてマシュ達はストーム・ボーダーへ舞い戻った。管制室の扉が開かれ、早歩きで入室する。
「戻りました!」
「おかえ…一体何があったんだ⁈ミユちゃん⁈」
「それが…」
マシュは豊神原市で起きた一連の出来事を話し、ミユが星に呼ばれる形で単独で敵の元に乗り込んだことを伝えた。
「そうか…本当に行くんだね?」
ダヴィンチの言葉にマシュは黙って頷いた。
「マイロード、今回の件で何やら確信を得たようだね。」
「それに関しては吾が代弁しよう。」
やってきたのはプトレマイオスだった。
「プトレマイオスさん!」
「話は聞いた。吾もミユに協力を申し出て、大図書館で調べた。」
マーリンに見抜かれたのかプトレマイオスは目を閉じた。
「マーリンの後察しの通りだ。多分、敵の本拠地は夢の中。彼女が持つ夢を渡り歩く力でしか入ることは出来ぬだろう。それに、ティンクという妖精とある約束をしたとミユは言っていた。」
「ティンク…ティンカー・ベルのことか。アイツが夢で出会ったって事は…」
カドックの推理にプトレマイオスとマーリンは頷く。
「彼女は一度、敵の本拠地に入り込めてたんだよ。ほんの少しだけ覗いたが、あの場には沢山の子供達がいた。恐らく黒幕が攫ってきた世界中の子供たちかもしれない。」
マーリンの証言にダヴィンチはなるほどと頷いた。
「ミユはこう言っていた。私はティンクに『私たちの生みの親を救ってほしい。』って頼まれたんだ。と。この一言と最初に子どもが誘拐された場所がアメリカのカリフォルニア州、そして夢の中で出会ったティンクやピーターパン、これらのキーワードから推理するに、恐らくだけどある人物がサーヴァントとして召喚されてる可能性がある。」
「その人物って…まさか。」
プトレマイオスは該当する人物の名を告げた。
マシュはとんでもないビッグネームに唖然としていた。
「でも待ってください!先程ダヴィンチちゃんが仰っていた神霊サーヴァントは…一体誰なんですか?」
「それについても、もう目星はついているわ。アキレウスの助言のおかげで早くに分かって良かった…」
思いがけない声に振り向くと、エウロペがやってきた。
「エウロペさん!」
「突然お邪魔してしまってごめんなさいね。でも先程ゼウス様から神託を得たのでヒントになるかと…」
「神託…どんな内容だったの?」
ダヴィンチはエウロペに尋ねた。
「ゼウス様曰く、『此度起きている事態は恐らく、タナトスの兄弟ヒュノプスの息子の一人であるモルフェウスの仕業である』と…」
「モルフェウス…確かギリシャ神話で夢の神として書かれてるのを読んだことがあります!」
エウロペの神託の内容とマシュの豆知識によってホームズの中でバラバラだったピースが一つになった。
「恐らく、ミス・キリカ達を攫ったのはモルフェウスだ。夢の世界…あのネバーランドのような場所を築いて子供達を集めているのも、何か企んでいるのかも…」
ホームズが推理する中、マシュはダヴィンチに向き直った。
「ダヴィンチちゃん、私も行かせてください。私も…キリカさん達を助けたいんです。」
マシュの気持ちを汲み取ったダヴィンチはマシュの手を握った。
「勿論だよ。もう準備はできてる。」
「フー!フォウ!」
フォウも一緒に行きたいと言わんばかりにマシュの肩に飛び乗った。
「では、フォウさんも一緒に行きましょう!」
「フォウ!」
その後、マシュと同行するサーヴァント達をダヴィンチは少数精鋭で呼び出した。呼び出されたのは巌窟王、アビゲイル、シャルルマーニュ、アキレウス、アルトリア・キャスターの五名だった。
「今回は、このメンバーで敵地に乗り込む。巌窟王、アビー、シャルルマーニュ、アキレウス、そして本人からの志願を受けてアルトリアを加えたこの編成で事態の解決に向かう。」
「夢とあれば俺が呼ばれるのは必然だな。」
「マスターのお役に立てるように頑張るわ!」
意気込む巌窟王とアビゲイルを他所にアルトリアはやや不安な表情を浮かべていた。
「ミユ…たった一人で夢の世界に飛び込むなんてなんて無茶を…」
選定の杖を握る力を強めるアルトリア。
「マシュ、夢への入り口は私にお任せを。マーリン魔術でチョチョイのチョイですので。それに…早く行かなければ取り返しのつかない事になるでしょう。」
「アルトリアさん…ありがとうございます。」
マシュとアルトリアは互いに微笑んだ。そしてマシュはシャルルマーニュに向き直る。
「シャルルさん。」
「無論、俺も行くぜ。レント達を助けることがミユの救いになるなら、俺は喜んで協力する。それに…このまま何もしないでいるのはカッコ悪いからな!」
シャルルマーニュの言葉にアキレウスはよく言ったと肩に手を置いた。
「相手がギリシャの神っていうのなら、俺も力になれるかもしれねぇ。それに…負けっぱなしっていうのも嫌だしな。というわけで同行させてもらうぜ。」
アキレウスは任せろと言わんばかりにサムズアップした。
そこへ後ろからシオンの声が掛かった。
「マシュさん、お待たせしました!準備完了です!」
「いつもありがとうございます。シオンさん。」
マシュは用意されたベッドの上に座ると、シオンはマシュにヘッドバイザーのようなものを渡した。
「これを装着することにより、マシュさん視点からの『夢』を観測することができるようになります。つまりはマシュさんの視覚範囲を広げて、我々にも見えるようにするすごい機械という事ですね。」
マシュはヘッドバイザーを装着すると目元を隠すように緑色のフィルターがシュンと降りてきた。
「なんかVRっぽいですね。」
「デザインは以前刑部姫さんがご覧になっていた日本のアニメを参考にさせていただきました♪」
マシュの脳裏にはWピースする刑部姫が思い浮かんでいたが頭を横に振って任務に集中した。
「では、私が眠ったのと同時にサーヴァントの皆さんを送り込みます。」
「わかった。」
マシュはヘッドバイザーを装着したまま横になると横で眠るミユの手を握った。
「じゃあ、行ってきます!」
「皆、十分に気をつけて!」
「はい!」
マシュはいつの間にか隣にいたオベロンの方を向いた。
「オベロンさん、私に夢の終わりを。」
「全く…どうなっても知らないからな。」
オベロンはマシュに向かってフィンガースナップをすると白い蝶を放ち、マシュもミユ同様に眠ってしまった。巌窟王達は光に包まれると姿を消した。
「オベロン、行かなくて良かったのかい?」
「いいさ。僕が行ったとしても、何をするかわからないから呼ばれなかったんじゃないのか?」
少し拗ねたように言い放つオベロン。
「それだけミユちゃんが命をかけてキリカちゃん達を救いたいのさ。」
ダヴィンチは眠るミユとマシュに目を向けた。
後編に続く
いかがでしたか?個人的にFGOには絶対出せないけどサーヴァントとしては偉業から座に登録されていそうだなと思った方を出してみました。夢と魔法と言えば...恐らく真名バレバレかもしれないですね。後編では他にも色々な要素やキャラを詰め合わせたいと思っているので、温かい目で見ていただけると幸いです。