五条悟。
最強。
誰もが認め、誰もが恐れ、誰もが彼に、羨望を抱く。
この世の全ての理不尽をはねのけ、すべてをその一身に宿した。
五条悟は、すべてを持っている。
五条悟は、天上天下唯我独尊。
すべての人間と、生きている次元が数段違う。
彼にとっては、その目に映るすべての人間も、ただ愛でる対象でしかない。
この世において、誰も、いや、ただ一度だけしか、彼の命に指が届いた者はいなかった。
そう思われている。
ただ一人。彼にそれを許さない者がいる。
五条悟には、姉がいた。
×
五条悟は、だだっ広い自分の家の中を歩いていた。何百年前から続くかもわからないくらいの昔から、脈々と受け継がれてきた、「これぞ和風」という風な家。
黒い服に身を包み、黒い目隠しをつけ、手をズボンのポケットに入れながら、五条悟は縁側を歩いていた。
古代日本人の身長に合うように作られたその家は、百九十ほどもある彼にとってはかなり低く、猫背で歩かなければならなかった。それが、なぜだろうか、彼のガラの悪さを演出していた。
五条悟の家の中では、とあるうわさがまことしやかにささやかれている。
五条家には、『入ってはいけない部屋』があるというのだ。誰が話し始めたかもわからない。いつからあるかもわからない。そして噂らしく、その形態も時、場所、言う人によって姿を変える。
その部屋には、悪い噂の絶えない禪院家のように、数多の呪霊を封じ込める地下牢に続く入口がある。
その部屋には、先祖代々受け継がれる、五条家最大の秘宝がある。
その部屋には………
などと言う具合で、五条家のだだっ広い家を管理する使用人たちによってこのようなものが流れている。
しかし、結局のところ、誰一人そんなものを見つけた者はいない。
当の五条家当主五条悟はほとんど家にいないため、そんなことはしったこっちゃない。
火のないところに煙は立たない。
五条悟は、その『入ってはいけない部屋』の正体、原因とでも呼べるものを知っていた。
五条悟は、足を止めた。そこは縁側の端っこで、そこから先は広い庭園が広がっていた。
しかし、奇妙なことに、広い庭園の割には装飾に乏しい。ただ芝生が一面に向こうまで葺かれているだけである。
五条悟は、足を一歩踏み出す。そこには、何もない。縁側の下には芝生だけ。しかし、五条悟の歩みは、段差を降りるようなものでもなく、先ほどと全く同じ一歩を踏み出すかのようなものだった。
五条悟は、空中に片足を置いていた。
視覚では、そこには何もあるはずがない。
しかし五条悟は、足裏に、自分を支える足場があることを、確かに認識していた。
そして五条悟だけは、視覚的にも、そこに『木の床』があることを理解していた。
もう一歩、ためらいもなく足を踏み出す。五条悟は、完全に空中に立っていた。
そのまま、空中で歩を進める。全く奇妙な光景であった。当の本人は当然のように歩いて見せているのだ。
もし彼の術式に理解があるものならば、彼自身の仕業によるものだと認識するかもしれない。しかし、そうではなかった。
五条悟は、少し歩いた所で、足を止めた。
そして右手を上げ、空中を中指の関節でノックする。
空中から、コンコン、と音がする。木材をノックする音だった。
五条悟は口を開いた。
「姉ちゃーん。いる?」
不愛想に、無造作に、五条悟はそれを呼んだ。
親と五条悟本人以外、誰も知らない。
「ひさっびさに帰ってきたんだけど」
五条悟はなおも続ける。
「ねえ。俺ずっとここにいると誰かに見られるんだけど。困るんじゃないの? 姉ちゃん見られたら」
五条悟の一人称は普段は「僕」である。
つまり、見えない何かの向こうにいるその「五条悟の姉ちゃん」なる者は、五条悟にとってそれほどの相手なのだ。
「ねえ! 聞いてる!? もう昼の十一時だぜ!? まさかまだ寝てるとか言わねえよな!?」
怒ってるわけでもなく、いじめようとしているわけでもない。
五条悟は、まるで友達をからかうかのような態度でそれを言った。いつもあることであるかのように、無造作に、不愛想に。
五条悟には見えていた。その透明な壁の向こうにいる、自分の
「お~い。ねえちゃ~ん。ね~え~ちゃ~あ~ん~~~~~~~」
まるで駄々っ子を演じるかのように、五条悟は見えない足場で足踏みし、上半身を揺らし始めた。
「そろそろでできてくれよ~!
「うっさいわね!!!!」
怒号。女性の声だった。
五条悟は、それに反応してのけ反って見せた。あるいは本当に驚いたのかもしれない。
「姉ちゃん。いるんなら最初から返事してよ~」
五条悟は驚きから立ち直って、いつもらしくおどけて見せた。
すると見えない壁の向こうから声が返ってくる。
「うっさいわね! どうせ見えてるんでしょ、その
「そんな冷たいこと言わないでよ~姉ちゃん。早く開けてくんない?」
「ハイハイ分かったわよ」とめんどくさそうな声と共に、見えない壁が消えた。
目の前に出現した長方形の入口。その向こうに、空間が広がっていた。
傍から見ると、何もなかったはずの空中に、ポータルのように向こう側が見える入口がいきなり出現したかのように見える。
しかし、実際にその空間は、そこに最初からあったのだ。
そして五条悟は、それに対して驚きもせず、その足を踏み入れる。
暗い部屋だった。畳の敷かれた、和風の部屋。しかし、内部はひどい。
中心にある四角いちゃぶ台には、いろんな飲み物のカン・ビンが放置され、衣服が散乱し、床にも同じように醜態が広がっている。そこには姉の姿はない。
「電気点けてくんない?」
しかし全く意に介さない五条悟。
「どうせ目隠ししてるんじゃない! いらないでしょ!」
「え~~~~~~」
すると、パッと天井の明かりがつく。
「汚いな~姉ちゃん」
返答はなかったが不機嫌な態度だけが五条悟に伝わる。
「いい年した女でしょ。ブラぐらい片づけなよ」
五条悟はちゃぶ台の近くにしゃがみ、そこに落ちていたブラジャーの端をつまんで持ち上げた。
結構大きめだった。『D』とある。
「もう入らないし。ていうか勝手に触んないで!」
「はいはい」
五条悟はその場に適当にぺっとブラジャーを放った。
「ていうか、用は何なのよ。わざわざばかにするためだったら帰ってよ。高専に部屋あるんでしょ」
立ち上がって、五条悟は答える。
「用はあるよ、姉ちゃん。でも、とりあえず姉ちゃんの部屋の扉開けてくんないかな?」
五条悟は、その和室の一角にある、ふすまを指さした。
「待って。今服着るから」
ドタバタと音がする。
「まだ服着てなかったのかよ」
五条悟は、待機時間に、その和室を見回した。
「汚いな……片づけるか」
ブラ、パンツ、酒瓶、シャツ、缶ビール、缶ビール、シャツ、シャツ、酒瓶、ブラ、パンツ、ブラ、シャツ。
(めちゃめちゃ散乱しまくってるな)
とりあえず近くのブラに手を伸ばし、片づけようとする。
「だから触んなって言ったでしょ!!」
バターンと襖が開け放たれ、五条悟は顔を上げた。
そこには、黒いTシャツとショートパンツ、裸足でピンクの髪はぼさぼさの、五条悟の姉がいた。
「久しぶり、姉ちゃん」
五条悟は腰を上げた。
そして「姉ちゃん」に歩み寄る。
「姉ちゃん」の身長は一八〇後半程度で日本人女性の平均身長的には高めだが、それでも五条悟にはかなわない。
その容姿は整っている。その身長と切れ長で大きい目、はねっけの多い髪は、五条悟の遺伝子をほのかに感じさせる。
「何? 私のブラでも欲しいわけ?」
その「姉ちゃん」は、じとりとした、紫がかった目で、五条悟を見つめた。
「ん? くれるの?」
おどけたような態度で五条悟は返す。
「あげないわよ!」
むきになって言い返す。
すると、今度は自分から五条悟に歩み寄る。
手を伸ばして、彼の黒い目隠しに手をかけた。
「ん?」
不思議そうに五条悟が鼻を鳴らす。
ぐいっと目隠しがはがされる。
五条悟の片方の
「久々なら目ぐらい見せてよ」
「ん? ああ。そういうことね」
目隠しを顔から外し、それを五条に手渡す。
「で、何の用? あんたが私に頼るなんて」
踵を返し、五条悟から背を向ける。そして、空いた襖に歩いて行く。
五条悟もそれに続いた。
「それは後でいいじゃん。茶ぐらいいれてくんない?」
「ねえ……姉の質問にぐらい答えなさいよ。質問を質問で返せって学校で教えてるの?」
襖をまたいだところで、足を止めて五条悟を振り返る。
その目は、しっかりと五条の空色の目をにらんでいた。
しかし、やはり五条は気にも留めない。
「ここじゃ話しにくいんでね。極秘なんだよ」
五条の方もしっかりを目を合わせている。
すると、姉はため息をついて、目を前に戻す。
「はあ……分かったわよ」
五条悟とは、誰もが飽きるほど言うように、誰もが何度言っても足りないと思うほどに、最強である。
ひとたび呪霊がその目に捉えられれば、ほぼ確実に、一〇〇パーセント死ぬ。
人間でさえ、その目と合わせるどころか、本物を目にしたことがある者はほとんどいない。
傍から見れば。
蟻と、象である。
彼女には膨大な力があるようにも見えない。五条悟のような、生まれついての最強としての格の違いも、それゆえの、自然の格の違いからくるふるまいから生まれる、
そんな女が。
五条悟を知るものから見れば、異質過ぎた。
生物として、種として格の違う五条悟が。
その「姉ちゃん」を、自分より上の存在であると認め、あらゆる無礼を許すなんて。
続く
五条姉やこの話に何を求めますか? 参考までに
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姉っぽい感じ
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戦闘
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エッ
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日常のほんわか
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人心無?(シリアス的な)